【聖祭】輝く星と聖夜
からすば
コメント 1
シナリオID:423
オープニング
●
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
行き交う人々の賑やかな声。
準備の日々から実を結んだ本番は、やはり人を活気づける。
水上都市アキュアリスタの冬季とは、1年間で貴重な収入源を手にできるシーズンでもあるからだろうが、ロスガリア大陸の各所、程度に差はあっても本番特有の活気が冬を温めているのは間違いないだろう。
●
「さぁ、今年も残すところはあと僅か! 聖霊節がやってきたぞ! この一日を賑やかに過ごしたい人は是非、一年自慢コンテストに参加してくれ!」
「水上都市に来たからには船を楽しまないのは勿体無い! ロマンチックな夜景と共に、今年は面白い紋具も用意しているよ!」
水上都市のとある広場では催しものの宣伝や、観光客目当ての客引きの活気ある声が響く。
聖霊節で賑わうこの都市で見回りの仕事を終えた貴方達は、折角だからと観光に訪れていた。
「ふう、大した事件も起きなくてよかったね」
「アタシ達が見回っていたのだから当然よ! 悪者達は今頃、ビビってプレゼント箱の中にでも隠れてるわ!」
一緒に見回りをしていた赤髪の冒険者が言うと、騒がしい冒険者はシュッシュと口で言いながら手をブンブン。
「あ、うん……悪者が入ったプレゼントは貰っても嬉しくないかな。っと、それは置いておいて! 皆はもう約束とかはあるのかな?」
マリルーが貴方達に予定を尋ね、「もし良かったら一緒にどうかな?」と誘う。
「あっ! アタシはあの催しに参加したいわ! 一年自慢とかいうやつ! アタシの磨き上げた美貌と肉体で聖霊節の夜を明るく照らすのよ!」
一年自慢コンテストという催しは、『今年の成果を皆に披露して自慢する』といったものらしい。
今年結ばれたカップルが恋人の事を自慢するリア充爆発案件もあれば、身体を鍛えていた者が現れて唐突にボディビル大会が始まったりもする、混沌とした催しだ。
飛び入りでの参加も歓迎な為、ポップスはミスコンさながらな事をしようと考えている様子。
「はいはい、あのツリーに勝てるように頑張ってね」
「フフン、まさか星と美を競い合うことになるとはね……」
マリルーがそう言って視線を向けるのは広場にある立派なツリー。
赤と白の組紐をはじめとした装飾や煌めく紋具で飾り付けられており、その頂点には星の雫という光る石で作られた大きな星が淡い光を放っている。
ポップスは星の雫に指をさして何やら宣戦布告を始めているが、とりあえず放っておけば勝手にコンテストに参加しに行くだろう。
さて、聖霊節が終わるまではあと少し。
――どうやって過ごそうか?
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
行き交う人々の賑やかな声。
準備の日々から実を結んだ本番は、やはり人を活気づける。
水上都市アキュアリスタの冬季とは、1年間で貴重な収入源を手にできるシーズンでもあるからだろうが、ロスガリア大陸の各所、程度に差はあっても本番特有の活気が冬を温めているのは間違いないだろう。
●
「さぁ、今年も残すところはあと僅か! 聖霊節がやってきたぞ! この一日を賑やかに過ごしたい人は是非、一年自慢コンテストに参加してくれ!」
「水上都市に来たからには船を楽しまないのは勿体無い! ロマンチックな夜景と共に、今年は面白い紋具も用意しているよ!」
水上都市のとある広場では催しものの宣伝や、観光客目当ての客引きの活気ある声が響く。
聖霊節で賑わうこの都市で見回りの仕事を終えた貴方達は、折角だからと観光に訪れていた。
「ふう、大した事件も起きなくてよかったね」
「アタシ達が見回っていたのだから当然よ! 悪者達は今頃、ビビってプレゼント箱の中にでも隠れてるわ!」
一緒に見回りをしていた赤髪の冒険者が言うと、騒がしい冒険者はシュッシュと口で言いながら手をブンブン。
「あ、うん……悪者が入ったプレゼントは貰っても嬉しくないかな。っと、それは置いておいて! 皆はもう約束とかはあるのかな?」
マリルーが貴方達に予定を尋ね、「もし良かったら一緒にどうかな?」と誘う。
「あっ! アタシはあの催しに参加したいわ! 一年自慢とかいうやつ! アタシの磨き上げた美貌と肉体で聖霊節の夜を明るく照らすのよ!」
一年自慢コンテストという催しは、『今年の成果を皆に披露して自慢する』といったものらしい。
今年結ばれたカップルが恋人の事を自慢するリア充爆発案件もあれば、身体を鍛えていた者が現れて唐突にボディビル大会が始まったりもする、混沌とした催しだ。
飛び入りでの参加も歓迎な為、ポップスはミスコンさながらな事をしようと考えている様子。
「はいはい、あのツリーに勝てるように頑張ってね」
「フフン、まさか星と美を競い合うことになるとはね……」
マリルーがそう言って視線を向けるのは広場にある立派なツリー。
赤と白の組紐をはじめとした装飾や煌めく紋具で飾り付けられており、その頂点には星の雫という光る石で作られた大きな星が淡い光を放っている。
ポップスは星の雫に指をさして何やら宣戦布告を始めているが、とりあえず放っておけば勝手にコンテストに参加しに行くだろう。
さて、聖霊節が終わるまではあと少し。
――どうやって過ごそうか?
解説
●時間帯
日没後
『からすば』が扱うこのシナリオでは日没後を扱います。
日中を舞台としたものは『伊治』マスターのシナリオでお楽しみください。
●内容
ワイワイ遊んだり、デート等する事ができます。
NPCと共に行動、二人きり等、自由にお過ごしください。
ご一緒する相手はプレイング冒頭に分かりやすくお名前や【】で囲んだ共通のタグ等を記載してください。お一人での行動もその旨を記載お願いします。
出来る事の代表的なものは下記。
その他も可能ですが、どういった事をするのか等を具体的に記載していただけると助かります。
・一年自慢コンテスト
『今年の成果を皆に披露して自慢する』といったモノです。
テンション高めの司会とお客さんが盛り上げてくれるのでスベる事はあまり無いハズです。
恋人自慢、筋肉自慢、美貌自慢、一芸披露……周囲に迷惑になるような行動をしなければ何でもアリな混沌とした催しです。
お客さんとして場を盛り上げるのも歓迎。
・観光
オシャレな船に乗って水路を巡る、装飾品や飲食物が売られている街を巡る等、観光できます。
『感情や想いによって形や色が変わる花火』を打ち上げる紋具を借りる事もできます。
紋具は自分が執筆した『【聖祭】想い花火』というシナリオに登場するモノですが、今回は慰霊などの意味合いはなく自由に使ってください。
・プレゼント交換
用意したプレゼントを仲間に渡す事が可能です。
受け取る際の言葉、受け取った際のリアクションや気持ちを記載してください。
【聖祭】連動内で作ったプレゼントに関しては、シナリオ名を明記してくだされば描写可能です。
他マスターのシナリオで作ったプレゼントについては確認をとれるものに限り、描写致します。
●人物
・ポップス
ハーフリングの女性冒険者、年齢は秘密。
金髪碧眼で可愛らしいが、喋りも身振りも大袈裟で騒々しい。
いわゆるアホの子。人懐っこく、馴れ馴れしい。
一年自慢に参加するようですが、お誘いがあれば喜んで付き合ってくれます。
一緒に参加、ミスコン的なの意外の出場も可能です。
・マリルー
ヒューマンの赤髪の女性冒険者、15歳。
明るく、表情豊なしっかり者。ポップスの面倒を見たり、ツッコんだり。
おかしな事でなければ付き合ってくれるでしょう。
・その他
私が執筆した【聖祭】シナリオに登場したNPCであれば、お誘いがあれば登場します(他マスターのNPCは不可です)
マスターより
オープニングを読んでいただきありがとうございます!
初見の方は初めまして、からすばと申します。
今回は【聖祭】連動の聖霊節本番シナリオとなっております!
そして『伊治』マスターとのリンクシナリオ(舞台や設定の共有)です!
昼間(伊治マスター)、夜間(からすば)と同じ場所で違う時間帯を扱いますので、シナリオの参加制限といったようなものはありません。
昼か夜だけのご参加でも昼夜両方のご参加でも問題なく、判定上の有利不利もないのでご安心下さい。
また、シナリオ間を跨いだプレイングは採用する事はできません。ご了承ください。
皆様のご参加、お待ちしております!
リプレイ
(代筆:伊治)
●
紅白の組紐に彩られたツリーの頂点で淡く光る星の雫は日が沈んだ今は、地上の星のよう。
星が星を見上げてるなどと会話する人々を他所にコハクは――両手に沢山の食べ物を持っていた。
兎肉の串焼きにフライドポテト、チーズと蜂蜜のピッツァ、パネットーネ、etc――広場のベンチまでやってきた彼女は食べ物を前に感謝を捧げた後。
目だけ星のように輝かせ、食べ始めた。
●
日は既に落ちたが、アキュアリスタの聖霊節はまだまだ終わっていない。
ここが稼ぎ時とどの店も声を張り上げていた。
「折角だもの、身に着けられるものがいいかしら?」
「あ、それなら、ボクは装飾品や小物のお店が気になるかも」
アンネエルカとクレア・エクレールが並んで歩く、その少し後ろをセヴラン・クアルトとアーシェル・G・クラインが歩く。
「アキュリスタの夜は街の光を水面が映し揺らして美しいね。その街のお店をはしゃいで覗く女の子が2人……いや、本当に目が幸せというか」
ちょうどその時、アンネエルカとクレアは露天商に声を掛けられ足を止めていた。
露天商と言ってもこの街で店を構えていないだけで、近隣の都市に店を構えているらしい。聖霊節は稼ぎ時だから出張して露店をしていると話す商人達の品は良い。
「あ、アンネ、アンネ!」
「クレアさん、何かいいものが見つかったの?」
何かに気づいた様子のクレアがアンネエルカの服の袖を引く。
アンネエルカがクレアへ顔を向けると、クレアが一点を指し示した。
「あの耳飾りセヴランさんに似合いそうだと思わない?」
透きとおった青い石で彩られている透かし彫りされた耳飾りは過度な自己主張もないが消え入りそうな存在感でもなく、そこにあった。
「透きとおったような青色はなんだか自由を感じてセヴランさんにっぴったりね。この青い石は宝石か何か?」
「いや、これはビーズだよ」
透きとおった美しい海のような青の石はビーズらしく、商会お抱えの職人達の熟練の技によるものらしい。
輸送の問題もあり、この近隣以外だと手に入れるのが難しいとあってはセヴランにはこれしかない気がしてくる。
「こっちこっちー! もー、2人とも迷子になっちゃ駄目だよー」
まだセヴランとアーシェルがこちらへ来ていないと見るやクレアが大きく手を振る。
すぐに歩調を速めてやって来たアーシェルに対し、セヴランは悠然とやってきた。
「うんうん。何か欲しいものはあったかな?」
「そういうこと言うと、本当におねだりしちゃうよ?」
なんてね。
すぐに付け足された言葉にセヴランもお財布が許す限り買ってあげると言ってもおねだりしてくれないと飄々と嘆いてみせる。
「クレアさんが、セヴランさんに似合う耳飾りを見つけたのよ」
「ボクたちから、メリーユールフェスってことで!」
購入を済ませたアンネエルカとクレアは顔を合わせ、プレゼントと差し出す。
しかも、それだけでなく、肩に乗る小さくとも頼れるセヴランの相棒にも。
「仲間外れなんて悲しいわよね~?」
その青を布に落とし込めたような色をしたリボンを見つけたアンネエルカは、お揃いを怠らない。
と、商人が毎度ありと元気に声を響かせるので3人は顔を向ける。
沈黙を守っていたと思われたアーシェルはセヴランのマントを思わせる深い青のケープを買っていた。
「これもどうだ?」
アーシェルは小動物用のケープを被せリボンで彩ってやると、嫌がってないか様子を見つつ、優しく撫でてやる。
「可愛くしてくれてありがとう。お揃いも嬉しいよ」
セヴランはアーシェルに感謝した後、本人を褒めることも忘れない。
どこかご満悦な様子を見るに、ケープとリボンは気に入ったのだろう。
さて、アーシェルの背後ではアンネエルカとクレアがそんなアーシェルの為の小物を物色し始めている。
アーシェルは気づいていないようだし、セヴランもちょうどいい機会と話題をひとつ振ってみた。
「自分では飼わないのかい?」
アーシェルの時が停止したように固まった。
背後の2人が気づくよりも前にアーシェルは喉の奥に詰まった息を吐きだし、停止した時の重みをやり過ごした。
「俺が死んだら独りぼっちにさせちまうだろ。だから、飼えねぇ」
「置いていかないために懸命に生きる選択肢もあると思うよ?」
けれど、アーシェルは首を縦に振らない。
その心が何を失い、何を抱え、何を願っているかはセヴランには判らない。
ただ、ここにいる皆はエルフではない為、いずれはセヴランを置いていく。
「僕だって相棒でいてくれるこの子を何時まで憶えていられるのか。……僕は若いから」
別れた後の時間の方が長い。
アーシェルの目許が僅かに歪んだ。
「憶えていたいね。君や彼女達のことも」
「忘れたら許さねぇぞ」
「努力するよ」
セヴランがくすっと笑うと、既に隣の露店に移ったアンネエルカとクレアが2人を呼んでいる。
「俺もお前に何か見繕ってやる」
アーシェルが歩調を速め、2人へ歩いていく。
2人に見繕われるのが先になりそうとセヴランは笑いつつ、贈ってもらった耳飾りをつけてみる。
「……憶えていたいね」
その言葉は相棒にだけ聞かせ、セヴランはゆったりと歩いていく。
「こっちの金糸刺繍と柘榴みたいな色の石、石だよね? 石でいいよね。石のワンポイントが入った黒い革手袋はアーシェルくん向けじゃないかなー」
「とっても素敵! 革手袋のピシッとした格好よさの中に煌めく金と赤にアーシェルさんのイメージ通りだわ!」
セヴランが合流した時には、アーシェルはしっかり見繕われていた。
クレアとアンネエルカに差し出された黒の革手袋は左右対称の炎が翼を広げたような金糸の刺繍と柘榴のような色合いをした石が手の甲部分を彩っているものだ。剣の柄を連想させるその手袋は、アーシェルの手に合いそうだ。
「サイズが問題ないならどうだい? 男前に着けてもらえるならうちとしてはいい宣伝なんだけど」
商人にも言われ、手袋は贈り物としてアーシェルの手に渡った。
着けてみると、サイズも問題なく、3人からも似合うと声が上がった。
(結構照れるな)
アーシェルは嬉しくて緩む顔を見られないよう、2人にも似合う物を見繕うと歩き出す。
「あ、待って。飴細工のお店寄りたい」
セヴランの声に足を止め、振り返る。
通り過ぎた角にあった店で飴細工が売られており、セヴランがオーダーを伝えているのが見え、アーシェルは引き返した。
●
星の雫と紋具の淡い光が、人々の願いの形を浮かび上がらせている。
この組紐の数だけ願いがある――だからなのか、この催しで作られたツリーはとても綺麗に感じられ、アステルは笑みを浮かべた。
「夜に来て良かった!」
日中は見回りの仕事で通り過ぎるだけだったけど、夜になったらきっと綺麗だろうと思って楽しみにしていた。
「あれ?」
広場の片隅に先ほどまで一緒に仕事をしていた顔を見た気がして、アステルは顔を向ける。
そこには食べ物に囲まれたコハクが、もぐもぐと食べていた。
2人の女性冒険者が新たな食べ物を差し入れに登場すると、マリルーと目が合ったので、アステルは3人に近づいていった。
「すごい量だね」
「露店も多いしね」
2人は、コハクの傍に手際よく食べ物を置いていく。
ローストポークのサンドイッチや塩がまぶされた川魚の串焼き、ミンスパイ、キンダープンシュ……と見ていく内、キンダープンシュが飲みたくなった。
「この飲み物どこで買えるかな」
「広場を出て、2つ目の角のお店!」
アステルは時間が合えばコンテストへ観客として見に行くと参加予定のポップスに約束した後、まだ食べ物をもぐもぐさせているコハクを見た。
「また、後で。特に美味しかったものがあったら教えてね」
アステルはコハクへ手を振ると、駆けていった。
目的のキンダープンシュを売っているお店はすぐに見つかり買うことができたものの、人の流れも激しくなってきたので、アステルは流れに逆らって広場へ戻らず、落ち着くまで周囲の露店を見て回ることにした。
(ブレスレット綺麗……服にもよく合ってるし。ケープも素敵……)
アステルの目は、すれ違った女性を彩るブレスレットやケープを追った。
冒険者稼業や旅暮らしをしている者などはお洒落より機能性の方が大事だ。自身にも当て嵌まるアステルはぐっと我慢。
人の流れに沿って装飾の露店を見ていると、兄の知己の姿が見えた。
けれど、距離がある。
「声をかけるのは難しそう。またの機会だね」
人の流れが凄くてあっという間に雑踏に消えていったが、人が多いので仕方ないことと露店に目を戻と、ちょうど初々しい恋人達が互いのプレゼントを選んでいた。
(私も何時かは恋人ができるのかな)
恋愛に興味がない訳ではないアステルは、彼らの仲睦まじい様を見てそう思う。
今は、兄が一番大好き。
兄を越える素敵な人などいるのだろうか?
(そんな人は存在しないな♪)
アステルは心の中で結論付け、兄と自分のお土産に2種類の赤で編まれた組紐を買った。
人の流れもそろそろ落ち着いてきたし、広場に戻ろう。
コンテストには間に合うかな?
●
セヴランが頼んだ飴細工は羊、狐、栗鼠を模したものだ。
「日持ちするし、後日のお楽しみにね?」
思い出は暫し眺めて口の中で甘く溶かして自身の一部へ。
「食べるのが勿体ないけど、この味も思い出だもんね」
「私沢山味わうわね」
クレアとアンネエルカの言葉にセヴランは「この上もなく可愛いよ」と微笑んだ。
一年自慢コンテストが始まったのか、人の流れが少し変わった。
「花火はまだいいよね」
「まだ慌てるような時間じゃないよ」
クレアへセヴランが慌てなくても大丈夫と笑みを浮かべる。
「私花火は楽しみにしてるの!」
「ボクも! どんな花火だろうって!」
待ち遠しいといった2人をセヴランが微笑ましく見ていると、隣の露店を見ていたアーシェルが手招きしていることに気づいた。
「どうかした?」
「洒落てる上にしっかり指を守ってくれそうだろ?」
アーシェルから差し出されたのは、飾り紐が印象的な革の手袋だ。
丁寧に編まれた飾り紐には鮮やかな緑石が彩られていて、それが良いワンポイントになっている。
「ありがとう」
貰ってばかりの気もするけど、アーシェルの贈り物は嬉しい。
アンネエルカがお世話になっている宿へのお土産を見ている横でクレアがカミツレの香りの香袋を手にしていると、背後から「クレア、ちょっと触んぞ」とアーシェルの声がした。
「ひゃっ!?」
尻尾を触られた感触に思わず変な声が出た。
「悪ぃ」
「べ、別に気になるなら触って良いけど、手荒に扱わないでよね!」
「しねぇよ」
とはいえ、丁寧に撫でられ、なんかむずむずそわそわ落ち着かない。
何か確かめている?
「アーシェルさん……?」
お土産を購入したアンネエルカが加わると、クレアは焦った。
自分はともかく、アンネには!!
「アンネへはお触り禁止ね!」
「動くな」
「禁止!」
「わかったから落ち着けって。上手く着けられねぇ」
アンネエルカを見ると、「少し待って」と微笑まれる。
「お前は本当にアンネエルカが好きだよな。……できた」
クレアが尻尾を動かして見ると、尻尾にラリエットが飾られてあった。
右、左と振ってみると、ラリエットにある黄色の花のチャームが綺麗に揺らめく。
「わ! 綺麗! これボクに? ありがとう!」
クレアの尻尾に触れていたのはこの為だった。
アーシェルは、アンネエルカへはどうしようかとクレアの横ではしゃぐ彼女を見る。
アンネエルカもアーシェルのその視線に気づき、どうしたのだろうと顔を向けた。
彼の色違いの瞳は、背丈の差もあってじっくり見る機会は実はそんなにない。
「きれい……」
すると、アーシェルの目に明らかな動揺が走った。
アンネエルカが同意を求めるようにクレアを見ると、「ボクもアーシェルくんの目好きだよー。綺麗だもんね?」と事も無げに笑う。
「お前達の目の方が澄んでてキラキラしてて綺麗だろ」
「綺麗なのは事実だし……」
それにね、とアンネエルカは言葉を続けた。
皆よりも、もううひとつだけ世界が鮮やかに見えるんじゃないかしらって思うのよ。
きっと、鮮やかに見えるのはいいことばかりじゃなくて。だから、かもしれないけど。
「もし、もしもね。アーシェルさんがあんまり好きじゃなくっても、私は好きだなって思うわ」
「お前には敵わねぇわ。……ありがとな」
少し苦そうに微笑んだアーシェルが首につけてくれたのは、薔薇と星のネックレス。
贈り物は許したクレアもこれには満足。
セヴランと2人で似合うと褒め称えた。
●
紋具を借りて水辺に向かうと、少し人通りが少なくなった。
感情や想いによって色や形が変わるから、打ち上げてのお楽しみ。
「どんな色と形になるかしら……!」
「ドキドキワクワクだよね」
クレアはアンネエルカに自分も同じと笑うと、紋具に想いを込めた。
(今ね、皆と一緒に過ごせてすっごく楽しくて、これから先皆とどんな冒険が出来るのかなってドキドキしてる)
打ち上げられた花火は、冬の澄んだ空にガーベラを描いた。
その横でセヴランの花火が打ち上がる。
「セヴランさんのキレー!」
夜空のカンパニュラにクレアがはしゃぐ。
続くアンネエルカの花火は、夜空にクローバーを描いた。
「アンネの花火もキレイ!」
「クレアさんの花火はワクワクしたわ!」
少し寂しく思える夜空だからこそキラキラ綺麗に輝くように。
そうして明るい気持ちにさせてくれるような気がする。
アンネエルカの言葉はセヴランが願う光のように響く。
(皆には感謝してるんだよ)
セヴランはそっと呟いた。
自称チャラいお兄さんは道行く女の子に声をかける暇もない。
少しでも長く曇らないと願うこの笑顔を、ずっと憶えていられるように。
……ありがとう。
アーシェルは最後に紋具を手にした。
星のように煌めく花が夜空を描く。
(青、翠、赤……)
3人の色だ。
白を食い潰した血の色はどこにもない。
本当は、打ち上げないつもりだった。
怖かった。
でも、3人の花火が綺麗で、皆楽しそうに笑っていたから。
だから――
「……綺麗だな」
「本当! 沢山のお星さまみたい!」
アンネエルカが嬉しそうに笑うと、クレアが「ホント!」とアーシェルの花火を見上げる。
今だけは贖罪も後悔も忘れていたい。
夜空の花火が姿を消すと、クレアが楽しかったと笑った。
「皆と一緒なら、きっと新しい年も良い年になりそう!!」
「そうね、きっといい年になるわ! だから、また来ましょうね」
「うん、また来ようね」
約束を交わすその頭上で姿を消したと思っている彼らは星のように煌めく花が白いアネモネに変じたことには気づかない。
希望は、等しく降り注ぐのみ。
聖夜の星は、空も地上も優しく輝いていた。
●
紅白の組紐に彩られたツリーの頂点で淡く光る星の雫は日が沈んだ今は、地上の星のよう。
星が星を見上げてるなどと会話する人々を他所にコハクは――両手に沢山の食べ物を持っていた。
兎肉の串焼きにフライドポテト、チーズと蜂蜜のピッツァ、パネットーネ、etc――広場のベンチまでやってきた彼女は食べ物を前に感謝を捧げた後。
目だけ星のように輝かせ、食べ始めた。
●
日は既に落ちたが、アキュアリスタの聖霊節はまだまだ終わっていない。
ここが稼ぎ時とどの店も声を張り上げていた。
「折角だもの、身に着けられるものがいいかしら?」
「あ、それなら、ボクは装飾品や小物のお店が気になるかも」
アンネエルカとクレア・エクレールが並んで歩く、その少し後ろをセヴラン・クアルトとアーシェル・G・クラインが歩く。
「アキュリスタの夜は街の光を水面が映し揺らして美しいね。その街のお店をはしゃいで覗く女の子が2人……いや、本当に目が幸せというか」
ちょうどその時、アンネエルカとクレアは露天商に声を掛けられ足を止めていた。
露天商と言ってもこの街で店を構えていないだけで、近隣の都市に店を構えているらしい。聖霊節は稼ぎ時だから出張して露店をしていると話す商人達の品は良い。
「あ、アンネ、アンネ!」
「クレアさん、何かいいものが見つかったの?」
何かに気づいた様子のクレアがアンネエルカの服の袖を引く。
アンネエルカがクレアへ顔を向けると、クレアが一点を指し示した。
「あの耳飾りセヴランさんに似合いそうだと思わない?」
透きとおった青い石で彩られている透かし彫りされた耳飾りは過度な自己主張もないが消え入りそうな存在感でもなく、そこにあった。
「透きとおったような青色はなんだか自由を感じてセヴランさんにっぴったりね。この青い石は宝石か何か?」
「いや、これはビーズだよ」
透きとおった美しい海のような青の石はビーズらしく、商会お抱えの職人達の熟練の技によるものらしい。
輸送の問題もあり、この近隣以外だと手に入れるのが難しいとあってはセヴランにはこれしかない気がしてくる。
「こっちこっちー! もー、2人とも迷子になっちゃ駄目だよー」
まだセヴランとアーシェルがこちらへ来ていないと見るやクレアが大きく手を振る。
すぐに歩調を速めてやって来たアーシェルに対し、セヴランは悠然とやってきた。
「うんうん。何か欲しいものはあったかな?」
「そういうこと言うと、本当におねだりしちゃうよ?」
なんてね。
すぐに付け足された言葉にセヴランもお財布が許す限り買ってあげると言ってもおねだりしてくれないと飄々と嘆いてみせる。
「クレアさんが、セヴランさんに似合う耳飾りを見つけたのよ」
「ボクたちから、メリーユールフェスってことで!」
購入を済ませたアンネエルカとクレアは顔を合わせ、プレゼントと差し出す。
しかも、それだけでなく、肩に乗る小さくとも頼れるセヴランの相棒にも。
「仲間外れなんて悲しいわよね~?」
その青を布に落とし込めたような色をしたリボンを見つけたアンネエルカは、お揃いを怠らない。
と、商人が毎度ありと元気に声を響かせるので3人は顔を向ける。
沈黙を守っていたと思われたアーシェルはセヴランのマントを思わせる深い青のケープを買っていた。
「これもどうだ?」
アーシェルは小動物用のケープを被せリボンで彩ってやると、嫌がってないか様子を見つつ、優しく撫でてやる。
「可愛くしてくれてありがとう。お揃いも嬉しいよ」
セヴランはアーシェルに感謝した後、本人を褒めることも忘れない。
どこかご満悦な様子を見るに、ケープとリボンは気に入ったのだろう。
さて、アーシェルの背後ではアンネエルカとクレアがそんなアーシェルの為の小物を物色し始めている。
アーシェルは気づいていないようだし、セヴランもちょうどいい機会と話題をひとつ振ってみた。
「自分では飼わないのかい?」
アーシェルの時が停止したように固まった。
背後の2人が気づくよりも前にアーシェルは喉の奥に詰まった息を吐きだし、停止した時の重みをやり過ごした。
「俺が死んだら独りぼっちにさせちまうだろ。だから、飼えねぇ」
「置いていかないために懸命に生きる選択肢もあると思うよ?」
けれど、アーシェルは首を縦に振らない。
その心が何を失い、何を抱え、何を願っているかはセヴランには判らない。
ただ、ここにいる皆はエルフではない為、いずれはセヴランを置いていく。
「僕だって相棒でいてくれるこの子を何時まで憶えていられるのか。……僕は若いから」
別れた後の時間の方が長い。
アーシェルの目許が僅かに歪んだ。
「憶えていたいね。君や彼女達のことも」
「忘れたら許さねぇぞ」
「努力するよ」
セヴランがくすっと笑うと、既に隣の露店に移ったアンネエルカとクレアが2人を呼んでいる。
「俺もお前に何か見繕ってやる」
アーシェルが歩調を速め、2人へ歩いていく。
2人に見繕われるのが先になりそうとセヴランは笑いつつ、贈ってもらった耳飾りをつけてみる。
「……憶えていたいね」
その言葉は相棒にだけ聞かせ、セヴランはゆったりと歩いていく。
「こっちの金糸刺繍と柘榴みたいな色の石、石だよね? 石でいいよね。石のワンポイントが入った黒い革手袋はアーシェルくん向けじゃないかなー」
「とっても素敵! 革手袋のピシッとした格好よさの中に煌めく金と赤にアーシェルさんのイメージ通りだわ!」
セヴランが合流した時には、アーシェルはしっかり見繕われていた。
クレアとアンネエルカに差し出された黒の革手袋は左右対称の炎が翼を広げたような金糸の刺繍と柘榴のような色合いをした石が手の甲部分を彩っているものだ。剣の柄を連想させるその手袋は、アーシェルの手に合いそうだ。
「サイズが問題ないならどうだい? 男前に着けてもらえるならうちとしてはいい宣伝なんだけど」
商人にも言われ、手袋は贈り物としてアーシェルの手に渡った。
着けてみると、サイズも問題なく、3人からも似合うと声が上がった。
(結構照れるな)
アーシェルは嬉しくて緩む顔を見られないよう、2人にも似合う物を見繕うと歩き出す。
「あ、待って。飴細工のお店寄りたい」
セヴランの声に足を止め、振り返る。
通り過ぎた角にあった店で飴細工が売られており、セヴランがオーダーを伝えているのが見え、アーシェルは引き返した。
●
星の雫と紋具の淡い光が、人々の願いの形を浮かび上がらせている。
この組紐の数だけ願いがある――だからなのか、この催しで作られたツリーはとても綺麗に感じられ、アステルは笑みを浮かべた。
「夜に来て良かった!」
日中は見回りの仕事で通り過ぎるだけだったけど、夜になったらきっと綺麗だろうと思って楽しみにしていた。
「あれ?」
広場の片隅に先ほどまで一緒に仕事をしていた顔を見た気がして、アステルは顔を向ける。
そこには食べ物に囲まれたコハクが、もぐもぐと食べていた。
2人の女性冒険者が新たな食べ物を差し入れに登場すると、マリルーと目が合ったので、アステルは3人に近づいていった。
「すごい量だね」
「露店も多いしね」
2人は、コハクの傍に手際よく食べ物を置いていく。
ローストポークのサンドイッチや塩がまぶされた川魚の串焼き、ミンスパイ、キンダープンシュ……と見ていく内、キンダープンシュが飲みたくなった。
「この飲み物どこで買えるかな」
「広場を出て、2つ目の角のお店!」
アステルは時間が合えばコンテストへ観客として見に行くと参加予定のポップスに約束した後、まだ食べ物をもぐもぐさせているコハクを見た。
「また、後で。特に美味しかったものがあったら教えてね」
アステルはコハクへ手を振ると、駆けていった。
目的のキンダープンシュを売っているお店はすぐに見つかり買うことができたものの、人の流れも激しくなってきたので、アステルは流れに逆らって広場へ戻らず、落ち着くまで周囲の露店を見て回ることにした。
(ブレスレット綺麗……服にもよく合ってるし。ケープも素敵……)
アステルの目は、すれ違った女性を彩るブレスレットやケープを追った。
冒険者稼業や旅暮らしをしている者などはお洒落より機能性の方が大事だ。自身にも当て嵌まるアステルはぐっと我慢。
人の流れに沿って装飾の露店を見ていると、兄の知己の姿が見えた。
けれど、距離がある。
「声をかけるのは難しそう。またの機会だね」
人の流れが凄くてあっという間に雑踏に消えていったが、人が多いので仕方ないことと露店に目を戻と、ちょうど初々しい恋人達が互いのプレゼントを選んでいた。
(私も何時かは恋人ができるのかな)
恋愛に興味がない訳ではないアステルは、彼らの仲睦まじい様を見てそう思う。
今は、兄が一番大好き。
兄を越える素敵な人などいるのだろうか?
(そんな人は存在しないな♪)
アステルは心の中で結論付け、兄と自分のお土産に2種類の赤で編まれた組紐を買った。
人の流れもそろそろ落ち着いてきたし、広場に戻ろう。
コンテストには間に合うかな?
●
セヴランが頼んだ飴細工は羊、狐、栗鼠を模したものだ。
「日持ちするし、後日のお楽しみにね?」
思い出は暫し眺めて口の中で甘く溶かして自身の一部へ。
「食べるのが勿体ないけど、この味も思い出だもんね」
「私沢山味わうわね」
クレアとアンネエルカの言葉にセヴランは「この上もなく可愛いよ」と微笑んだ。
一年自慢コンテストが始まったのか、人の流れが少し変わった。
「花火はまだいいよね」
「まだ慌てるような時間じゃないよ」
クレアへセヴランが慌てなくても大丈夫と笑みを浮かべる。
「私花火は楽しみにしてるの!」
「ボクも! どんな花火だろうって!」
待ち遠しいといった2人をセヴランが微笑ましく見ていると、隣の露店を見ていたアーシェルが手招きしていることに気づいた。
「どうかした?」
「洒落てる上にしっかり指を守ってくれそうだろ?」
アーシェルから差し出されたのは、飾り紐が印象的な革の手袋だ。
丁寧に編まれた飾り紐には鮮やかな緑石が彩られていて、それが良いワンポイントになっている。
「ありがとう」
貰ってばかりの気もするけど、アーシェルの贈り物は嬉しい。
アンネエルカがお世話になっている宿へのお土産を見ている横でクレアがカミツレの香りの香袋を手にしていると、背後から「クレア、ちょっと触んぞ」とアーシェルの声がした。
「ひゃっ!?」
尻尾を触られた感触に思わず変な声が出た。
「悪ぃ」
「べ、別に気になるなら触って良いけど、手荒に扱わないでよね!」
「しねぇよ」
とはいえ、丁寧に撫でられ、なんかむずむずそわそわ落ち着かない。
何か確かめている?
「アーシェルさん……?」
お土産を購入したアンネエルカが加わると、クレアは焦った。
自分はともかく、アンネには!!
「アンネへはお触り禁止ね!」
「動くな」
「禁止!」
「わかったから落ち着けって。上手く着けられねぇ」
アンネエルカを見ると、「少し待って」と微笑まれる。
「お前は本当にアンネエルカが好きだよな。……できた」
クレアが尻尾を動かして見ると、尻尾にラリエットが飾られてあった。
右、左と振ってみると、ラリエットにある黄色の花のチャームが綺麗に揺らめく。
「わ! 綺麗! これボクに? ありがとう!」
クレアの尻尾に触れていたのはこの為だった。
アーシェルは、アンネエルカへはどうしようかとクレアの横ではしゃぐ彼女を見る。
アンネエルカもアーシェルのその視線に気づき、どうしたのだろうと顔を向けた。
彼の色違いの瞳は、背丈の差もあってじっくり見る機会は実はそんなにない。
「きれい……」
すると、アーシェルの目に明らかな動揺が走った。
アンネエルカが同意を求めるようにクレアを見ると、「ボクもアーシェルくんの目好きだよー。綺麗だもんね?」と事も無げに笑う。
「お前達の目の方が澄んでてキラキラしてて綺麗だろ」
「綺麗なのは事実だし……」
それにね、とアンネエルカは言葉を続けた。
皆よりも、もううひとつだけ世界が鮮やかに見えるんじゃないかしらって思うのよ。
きっと、鮮やかに見えるのはいいことばかりじゃなくて。だから、かもしれないけど。
「もし、もしもね。アーシェルさんがあんまり好きじゃなくっても、私は好きだなって思うわ」
「お前には敵わねぇわ。……ありがとな」
少し苦そうに微笑んだアーシェルが首につけてくれたのは、薔薇と星のネックレス。
贈り物は許したクレアもこれには満足。
セヴランと2人で似合うと褒め称えた。
●
紋具を借りて水辺に向かうと、少し人通りが少なくなった。
感情や想いによって色や形が変わるから、打ち上げてのお楽しみ。
「どんな色と形になるかしら……!」
「ドキドキワクワクだよね」
クレアはアンネエルカに自分も同じと笑うと、紋具に想いを込めた。
(今ね、皆と一緒に過ごせてすっごく楽しくて、これから先皆とどんな冒険が出来るのかなってドキドキしてる)
打ち上げられた花火は、冬の澄んだ空にガーベラを描いた。
その横でセヴランの花火が打ち上がる。
「セヴランさんのキレー!」
夜空のカンパニュラにクレアがはしゃぐ。
続くアンネエルカの花火は、夜空にクローバーを描いた。
「アンネの花火もキレイ!」
「クレアさんの花火はワクワクしたわ!」
少し寂しく思える夜空だからこそキラキラ綺麗に輝くように。
そうして明るい気持ちにさせてくれるような気がする。
アンネエルカの言葉はセヴランが願う光のように響く。
(皆には感謝してるんだよ)
セヴランはそっと呟いた。
自称チャラいお兄さんは道行く女の子に声をかける暇もない。
少しでも長く曇らないと願うこの笑顔を、ずっと憶えていられるように。
……ありがとう。
アーシェルは最後に紋具を手にした。
星のように煌めく花が夜空を描く。
(青、翠、赤……)
3人の色だ。
白を食い潰した血の色はどこにもない。
本当は、打ち上げないつもりだった。
怖かった。
でも、3人の花火が綺麗で、皆楽しそうに笑っていたから。
だから――
「……綺麗だな」
「本当! 沢山のお星さまみたい!」
アンネエルカが嬉しそうに笑うと、クレアが「ホント!」とアーシェルの花火を見上げる。
今だけは贖罪も後悔も忘れていたい。
夜空の花火が姿を消すと、クレアが楽しかったと笑った。
「皆と一緒なら、きっと新しい年も良い年になりそう!!」
「そうね、きっといい年になるわ! だから、また来ましょうね」
「うん、また来ようね」
約束を交わすその頭上で姿を消したと思っている彼らは星のように煌めく花が白いアネモネに変じたことには気づかない。
希望は、等しく降り注ぐのみ。
聖夜の星は、空も地上も優しく輝いていた。
マスターコメント
(運営より)
代筆対応にて納品させていただきました。
大変長らくお待たせいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない6 / 4〜6人
2021年02月14日 10時27分25秒 公開
成功
相談掲示板
ギリギリの挨拶で悪りぃ。 アーシェルだ。よろしく頼む。 楽しい一日が過ごせるといいな。