黒き足音

夜団子

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シナリオID:395

オープニング

●死を運ぶ黒い影
「あんた、もう返信は書いたのかい?」
 山もりの洗濯物を両手で抱えたふくよかな女が、先に洗濯を始めていた若い女へそう声をかけた。若い女——シーラは、照れくさそうにはにかみながら、首を横へ振る。その首元には青水晶のペンダントが光っていた。
「あれこれ書こうと思ったら、まとまらなくなってしまって……まだ書きかけなの。明日、商人が出立するぎりぎりになっちゃいそう」
「うふふふお熱いねぇ! もう三年目だったかい? 来年には、帰ってくるんだろ?」
 シーラは微笑んでうなずき、恋人とお揃いのペンダントを指先で揺らした。恋人が都市へ出稼ぎに出て三年。触れ合うこともできず、手紙だけのやりとりになってしまっていたが、愛は確かに育っていた。来年には、恋人から夫婦へと関係も変わる。そのあと村に残るか、彼について街へ出るかはまだ決まっていないが——どちらにせよ、彼と一緒に暮らせるのならば、幸せであることに変わりはないだろう。
「そっ、そういえば旦那さんはまだ狩りから帰ってこないの? 今日は子どもたちに美味い肉を食わせるぞーってはりきってたじゃない?」
「張り切りすぎてまだ音沙汰ないよ。まったく、どこまで獲物を追いかけてるんだか……」
 隣の奥さんの愚痴を聞いて、共に家事を終わらせて。農作業を手伝い、慎ましやかな食事をとって神に祈りを捧げる。そんないつも通りの日々が今日も訪れると、村の人間たちは誰一人疑ってもいなかった。
 “それ”は、いつだって隣にいるものだというのに。
「たっ、たいへん、だッ!!」
 息も絶え絶えに村へ転がり込んできた男に、行き交っていた村人たちが何事だと集まり始める。シーラもその例に漏れず、洗濯仲間の奥さんと一緒に彼の元へ駆けよった。
 土で汚れ、ところどころべったりと赤黒いものを付けたその姿に、ただ事ではないぞと村人たちはざわめき始める。
「はや、くッにげない、と! ばけもの、ばけものがでたッ!」
「魔獣が出たのか!? 他のみんなは!」
「魔獣なんてものじゃねぇッ! あれは、あれは……」
 男の絶叫のような声に、家にいた村人たちも顔を出し始めた。狩人はうわごとのように逃げろ、殺される、街に知らせないと、と繰り返している。
「ま、待ってくれ! あんた、今朝ウチの旦那と狩りに出たヤツだね!? ウチのはどうしたんだい!?」
 男——今朝狩り仲間たちと出かけた村の狩人の一人——は、シーラの隣の奥さんを見て顔を歪ませた。そして震える唇から、どうにか言葉を紡ぎ出す。
「俺以外、みんな……食われちまった……っ! あの化け物……クリーパーにッ!」
 ズシン、ズシン、と。
 死の足音は確かに、村へ迫っていた。

●便り来たりて
「お願いします……どうか、どうか……」
 手紙を握りしめた青年、ルーサーは擦り切れた様子で冒険者たちへ頭を下げた。その声はかすれ、目元は赤く腫れあがっている。何度も読み返したであろう手紙は皺になってしまっていた。
「村の場所はここからさらに北部、街道から少しだけ離れた場所です。クリーパーは南下をしているらしいので、より人の多いこの街を目指しているのかもしれません」
 リーンエス王国の北部に当たるこの街は比較的内陸に当たり、領主が穏健派なこともあって争いとは基本無縁だ。クリーパーが襲来したとなれば守りを固めていたとしても被害が出る危険がある。
 それを避けるためにもできればクリーパーがまだ郊外を闊歩しているうちに撃退したい。そんな事情もあり、冒険者ギルドもこの知らせを優先的に冒険者たちへ下ろした。
 早馬で単身知らせを届けた商人もひどい怪我を負っており、情報と手紙をなじみのルーサーに渡して意識を失ってしまった。そのため、クリーパーの情報は伝聞されたもののみになる。不確かな情報での依頼になるがしっかり報酬は出すと、ギルド職員はルーサーの背を擦りつつ冒険者たちへ提示した。
「商人が言っていたことによれば、化け物は人の二倍以上の大きさで、巨大な手と口を持っているそうです。……その口で、人間を……」
 巨大な手で建物を壊して人間を捕縛し、口の中へ放り込んで咀嚼する。そうすることで恐らくはエーテルを取り込もうとしているのだろう。一体、今までにどれだけの人間がその腹に収められてしまったのだろうか。
「街道を南下してくるのなら、他の村も心配です……! 僕らの村も、戦えるのは狩人くらいで、とてもクリーパーに対抗できる武力など……」
 ルーサーは言いよどみ、きつく下唇を噛みしめた。故郷には化け物へ抵抗する力などなかった。それはつまり、襲われた彼の故郷は既に、壊滅してしまっているであろうことを示す。現に——彼の恋人からの手紙も赤黒いなにかで汚れていた。
「この街のため、他の村のため……そして僕の故郷のかたき討ちを、どうか、お願いします……!」
 胸元の青水晶のペンダントを握りしめて、ルーサーはついに嗚咽を漏らした。幸せな未来について綴った書きかけの手紙に、ペンダント。恋人の温もりを少しでも思い出そうと二つに縋りつく。
「もし、もし……! 生きているのなら、どうかシーラを……! シーラの家には、地下の物置があったはずなんだ! そこに逃げ込めていれば……!」
 巨大なクリーパー相手に、家へ逃げ込めた人間がどれほどいるのだろうか。よしんば逃げ込めたとしても、建物ごと崩されてしまえば下敷きになるだけだ。地下室が瓦礫に埋まってしまっている可能性も高い——。
 それでも、ありえないと思っていても。一縷の望みを託してしまうことは止められないのだろう。ルーサーの願いを背に、冒険者たちは件の村に向かって出立した。

解説

●目的  村を襲った『中型クリーパー』の討伐。 ●戦場  平地にある小さな村です。そこそこの数の家があったはずですがほとんどがクリーパーによって倒壊させられています。瓦礫は遮蔽として使用可。  残念ながら、生きている村人は見当たりません。住民は全てヒューマンだったようです。 ●敵  中型クリーパー1体。全長5mほど。  両手が異常に大きく、指の先端が鋭い刃となっています。  また、頭部には巨大な口のみがあり、鋭い牙と臼状の歯が生えています。  想定される攻撃は両手による打撃・捕縛、爪による刺突、口による食らいつきです。  近接攻撃以外は行いません。が、腕が長いため攻撃範囲がとても広いです。  PC到着時点でクリーパーはまだ『食事』を行っています。が、敵対する存在がやってくればすぐに意識をそちらに向けるでしょう。

マスターより

 初めまして、夜団子と申します。一歩遅れてしまいましたが、皆様の冒険を彩る力となれればと思います。初シナリオでめっちゃドキドキしています、どうかよろしくお願いいたします。  初シナリオということで今回の依頼はとても単純なものとなっています。  目的はクリーパー1体の討伐。物理攻撃力・攻撃可能範囲が共に高く、攻撃的な敵ではありますが、思考能力がほぼないため単純な動きをします。  侮れませんが、難しい相手ではないでしょう。  それではみなさまのプレイングをお待ちしております。

リプレイ

●
 ぐちゅり、ぐちゅり。
 肉を引きつぶす音が、響く。家は瓦礫に、人々は物言わぬ肉塊に変わり果てたこの場所で、巨大な影が肉を咀嚼し続けていた。
「クリーパーはやはり許せませんとわかりましたわ」
 黒い頭巾を身に纏った白肌のゴブリナ、バンビはそうポツリと呟いた。惨劇の爪痕が強く残る村の惨状。それを目の当たりにして何も感じない者はいなかった。クリーパーだって生きている、だとしても今はそんなこと関係ない。村人たちがこんな風に死んでいい訳がないのだから。
「クリーパー被害ってのは、相変わらず悲惨ねっ」
 レシュノルティア・ピオジェレラの先導によって、冒険者たちは風上の瓦礫に身を隠していた。『食事』に夢中になっているクリーパーは、彼らに気が付く素振りもない。その顔に、大きな口しかないからかもしれないが。
「こんな危ない存在、放置しておけないよ……!」
「まさに食事中って感じだな」
 怒りに震えるバクル・バスリーの横で、ケン・Z・ブラッドリーはそう吐き捨てた。脳裏に浮かび上がるのは依頼主であるルーサーの姿。彼のためにも一刻も早く……そうはやる気持ちを抑えながら、油断なくクリーパーの様子を伺う。
「早馬が到着するまでの時間と、俺らがここに来るまでの時間を考えると……生存者は厳しいか? だが可能性がゼロじゃない以上、さっさと片づけにゃならんな」
 バーネット・フォーサイスの言葉に一同はうなずき、そのうち二人がエーテルを紡ぎ始めた。ガンシャルアは遠距離から攻撃を行う者たちの武具を、アルマ・ヴァレンタインは盾役となるバクルの防具を、淡い光で包み込む。そして最後にその杖を振るえば、守護の力を込めた光が周囲に降り注いだ。
「敵がこちらを捜索する様子もなし。……もし誰か生き残っている人がいるのなら救わなければなりません。討伐を急ぎましょう」
 エーテルの乱れに集中していたノックス・マグナの合図で、冒険者たちはそれぞれ武器を構える。そして身を隠していた瓦礫から一斉に、戦場へと躍り出た。

●
「スタティックフィールド!」
 咀嚼音だけが支配していた戦場を、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクの声が切り裂いた。彼女の声に呼応して球状のエーテルの塊がクリーパーに纏わりつく。そして追い打ちをかけるようにその周囲を霧状のエーテルが取り囲んだ。
「俺の目の黒いうちは自由行動など許しませんわよ」
 『食事』が明確に邪魔されたことを感じ取った黒い化物は苛立たしそうにのっそりと立ち上がった。しかし、敵が臨戦態勢になるのを待っている冒険者たちではない。
 クリーパーが振り向くより早く間合いへと肉薄。勢いのまま、ケンの刃がその身を斬りつけた!
「さっさと片づけて捜索しないとなんでな!」
「クリーパーめ……絶対に倒す!!」
 反撃の隙を与えず、ケンと入れ替わるようにしてアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが大太刀を振り上げた。その刃は一瞬燃え上がるように輝き、研ぎ澄まされた一撃がクリーパーの腹を引き裂く! アルベルトの戦士としての経験を持って繰り出された会心の一撃は化物を慄かせるのに十分な威力で。その確実な隙を、狙撃を準備していた仲間たちは見逃さなかった。
「お食事中、失礼。それ以上食べさせるわけにはいかないのよっ」
「これでも喰らえ!」
 レシュノルティアの光球とバーネットの氷の刃が、クリーパーの胴体を貫く。動くこともままならないクリーパーはその大口から意味不明な絶叫を放ち、苦しむように見悶えていた。化物たるクリーパーに痛みがあるのかはわからない。だがあるのであれば、それはある意味で好都合だ。
「喰われた側の怨み、思い知って逝くといいわ!!」
「奪った分だけお前を焼く。差し引きゼロ、それが清算よ……!」
 召喚された稲光に纏わりつかれ癇癪のように暴れ出したクリーパーの腕へ、容赦なく魔矢が突き刺さった。攻撃を遮るようにして撃ち込んだそれを再度構えながら、アウレーリアは憎しみの視線をクリーパーへと向ける。
「お前には……きっと分からないでしょう。家族を奪われる悲しみも、故郷を追われる苦しみも、幸福を壊される無力感も。だってお前は、何も持ち合わせていない。お前はがらんどうだわ」
 杖を振り上げながらアウレーリアは一瞬、放られた肉塊たちを見やった。今となっては影も形もないそれらは、確かに生きていたのだ。一人、二人、三人。犠牲者の数を脳裏に刻み込んでいく。
「幾ら詰め込んだって満たされる筈もない……お前は、無に還るの」
 クリーパーに人の言葉はわからない。だが、なにかを感じ取ることはできたらしい。クリーパーの怒りが、アウレーリアへと向いて————
 ————その間に、白き竜人が立ちはだかった。
「ぼくが相手だ! こっち向け!」
 燃え上がるような怒りがバクルへと移る。咆哮をあげながら振りかぶったクリーパーの一撃を、バクルは盾で受け止めた。ズズズッ、と地が抉れその体が後ろへと押しやられる。だが見事、バクルはその一撃を受け止めて見せた。
「みんな! 今だよ!」
 バクルの声に応えるように、ケンとアルベルトは一斉に剣を叩き込み、アウレーリアとバーネットの魔法が殺到する。まだどこかに生存者がいるかもしれないという状況である以上、決戦は急がねばならない。冒険者たちは持ちうる手札を惜しむことなく切り続けた。
「皆に攻撃は当てさせませんよ……!」
 周囲の冒険者たちを一掃しようとクリーパーが爪を剥いた瞬間、ノックスの矢が仲間の合間を縫ってその身へ突き刺さった。高濃度のエーテルを纏わせたその矢じりは内側からクリーパーを侵し、その動きを鈍らせていく。
 攻撃を一瞬でも躊躇えば、その巨体はただの的だ。背の肉をレシュノルティアの魔弾が、バンビの爆炎と氷嵐が、抉り焼き焦がしていく。自分よりもずっと小さな存在から一方的に痛めつけられ続けたクリーパーは、ついに怒髪冠を衝いた。
 —————ァ゛ッッ!!
 ビリビリと肌に伝わる怒りの咆哮。鋭い牙がギラギラと光って見えるのは怒りのためか、興奮で垂れた唾液のせいか。少なくとも、目の前の巨敵が本気になったことだけは誰の目にも明らかだった。
「あら、そんなに大口開けて大丈夫?」
 そんな状態でも、いやだからこそ、バンビは不敵に笑った。
 光の巨球をクリーパーの口へと撃ち込み、パチンと指を鳴らす。その瞬間黒い肌の内部から爆炎が弾け、クリーパーは体内の痛みに口から血を噴き出した。
「デカイだけに厄介だが……その分支えるところへの負荷がでかいだろう」
 口に意識が集中した隙を突き、ケンは剣でクリーパーの脚を斬り払った。振り下ろされた刃がクリーパーの脚を抉り、その巨体がぐらりと傾く。しかしその傾いた勢いのまま、クリーパーはケン目がけてその口を大きく開いた!
 だがそれも、ケンの狙い通り。
「てめぇのえさになる気はねぇんだよ」
 振り下ろされた剣を今度は下から全力で振り上げる。ケンへ牙が届く前に刃がその顎を縦に割った。クリーパーのべたつく血が、前衛の三人を濡らす。
「ケンさん、アルベルトさん! 無茶はしないでー! バクルさんも、今治すからね!」
 アルマの放つ温かな光が、ケン、アルベルト、バクルへと降り注いだ。傷口を埋め、痛みを取り除くそれによって、三人の疲労も癒されていくようだ。鋭さを取り戻したアルベルトの一撃が、クリーパーの脇腹を抉った。
「もう、終わらせよう。飛び切りのを頼むぞ」
「ええ、ええ。それはもう、徹底的に」
 ガンシャルアの支援を受けて、アウレーリアがその杖に炎を抱く。それは翠玉の双眸に揺らめくものとどこかよく似ていた。
「灰になりなさい……!」
 轟く爆音、吹き抜ける爆風。黒い巨体を真っ赤な炎が取り巻いて、その肌をみるみる焦がしていく。炎を切り裂き襲来するバーネットとノックスの追い打ちに、黒き怪物はたまらず悲鳴をあげた。
 そしてついに、自分が狩られる側になっていることを自覚する。
「どこにも行かせないよ」
 足を引きずり逃げ出そうとしたクリーパーへ、少年の冷ややかな響きを含んだ声が投げかけられた。
「このままきみはぼく達に倒されるんだ」
 たくさんの人を殺しておいて、自分は逃げるなど許さない。自身の体とエーテルを用いて壁となったバクルは、絶対の意思を胸にクリーパーへ立ちはだかる。
「そうだ、逃がしはしない……見逃すと思ったか?」
 無様に逃げ延びることも許されなかったその背へ、煌めく刃が振り下ろされた。深々と突き刺された刃はがらんどうの巨体にじわじわと沈み込み、致命傷を与える。それでもアルベルトは攻撃の手を緩めなかった。ぐじゅ、ぐじゅりと音を立てて、その刀身を捻る。
「ええそうね。贖いなさい、その命を持って」
 バンビの体内を巡るエネルギーが、瞬間的に魔力へ変換される。一時的に膨大となった魔力を持って、バンビは光の矢を生み出した。その矛先が、クリーパーの胴体へと向けられる……!
 ガ、ガガ、ァ、アァ゛———ッッ!!!
 放たれた光の矢はクリーパーの口から胴体を串刺し、地面へと縫い付けた。動こうと足掻けば痛みが全身を貫き、叫ぼうにも出るのは潰れた悲鳴だけ。その自慢の口を閉じることももう叶わない。
「欲しくはねぇが、被害者たちのためにもその首狩らせてもらうぜ」
 一閃。
 研ぎ澄まされたその刃が、クリーパーの首を、まるで撫でるように、刈り取った。一拍ののち、ゴトリ、と重いものが地へ転がる音が響く。
 残された胴はビクンと脈打ち、その巨大な手足をぴくぴく痙攣させた後……ついに、だらりと力を失った。
 命を———エーテルを失ったクリーパーの体が空気に溶けて、崩壊していく。
「……終わった、か」
 早いところ、このタイプの手合いとも単身で戦えるようになりたいものだ————ガンシャルアがそんなことを呟いて。
 冒険者たちはようやく、その強張った体の力を抜くのだった。

●
「さて、ある意味ここからが本番か?」
 まだ間に合えばいいが、と瓦礫となっている家屋を見渡しながらバーネットは表情を引き締める。そう、まだ彼らの仕事は終わっていない。元凶たるクリーパーは滅したがゆっくりもしていられない。一縷の望みでもあるのならば、それに賭けて生存者を探さなくては。
「ダメだ。一応息を確認したが、外にいるのはもう……」
 目につく人々の様子を確かめていたアルベルトは悲痛な表情で顔を横に振る。ケンも瓦礫を覗き込み生存者へ声をかけているようだが未だに反応はない。
「私たちは村全体の生存者を捜索します。反応を見つけ次第声をかけますので、そちらはシーラさんの捜索に当たってください」
「わかったよ。シーラさんの家はルーサーさんから聞いてあるからそっちに向かっているね。他にも見つかったら声をかけて!」
 ノックスはアルマの言葉にうなずき、またエーテルへと意識を集中し始める。その横ではレシュノルティアがその聴覚を研ぎ澄まし、生存者の息遣いを拾おうと目を閉ざしていた。バンビもまた、ひとつひとつ瓦礫に耳を当てて生存者を捜索している。残念ながら二人ともまだ、それらしい音は見つけられていないようだ。
「シーラさんの家には地下の物置があったんだよね?」
「つっても、地下への入り口自体が瓦礫の下か……わかった、俺が魂だけになって探してみる」
 ガシガシと頭を掻きながらバーネットは地面に座りこむ。幽体離脱。肉体から魂を解き放ち自由に移動することができるスキルだ。瓦礫をすり抜け探索することができるが、当然代償として生命力を幾分か持っていかれてしまう。
「無理はしないでね……?」
「お前の体は俺たちが護る。……頼んだぞ」
 気遣うアルマとガンシャルアに「あいよ」と笑ってバーネットは魂を解放した。物体の制約を受けなくなったバーネットはすいすいと瓦礫を通り抜けて進み、地面さえもすり抜ける。地下室にあたる空間を探し地中を進めば、それはすぐにみつけることができた。
 地中にぽっかりと空いた空間。そう大きくないそこに、数人の人間が倒れている。全員が傷を負い血を流しているため生死はわからない。だがその中に、青水晶のペンダントをしている女性も倒れていた。
「っ、みつけた……!」
 体に戻って来たバーネットはガンシャルアに支えられふらつきながらも、瓦礫の一角を指さした。すぐさまバクルとアルマ、そしてアウレーリアがその一角へ向かう。アルマの工具を手に、バクルとアルマは協力して瓦礫をどけていった。
 アウレーリアは二人と共に瓦礫を退けながら、ただただ祈る。どうか諦めないで、絶対に助けるから……と。届くわけじゃないとわかっていても、そう祈ることは止められなかった。
「たす、かるの……?」
 すぐ横から聞こえた声に、アウレーリアはハッと振り返る。そこには目を見開いたレシュノルティアが立っていた。ゆっくりとなぞるように、その唇が動く。
「そう、確かに聞こえたのっ! 生きてる、シーラは、生きてるわっ!」

●
「冒険者です! 聞こえたら返事して! 助けに来ました!」
「化物は倒した、もう大丈夫だぜ」
 声を張り上げながら瓦礫を掘り返し、まだ息のある生存者たちを運び出す。残念ながらそのほとんどはもう息絶えてしまっていたが、それでも数人の命が助かった。
 運び出された者たちは水袋とチョコレートなどを渡されて、アルマからまとめて治療を受けている。一方で傷が深く意識が持たない者たちは、ガンシャルアが一人ひとり根気強くヒールを施していた。
「……」
 その様子を呆然と眺めている若い女がいた。その胸には青水晶のペンダント。初めにみつかり治療を受けたシーラは動くことはできないものの、その瞳にしっかりと救助の情景を刻み付けていた。
「あなたがシーラね!」
 突如声をかけられシーラの肩がビクリと揺れる。ごめんごめん、と笑いながらレシュノルティアはシーラの背を擦った。
「もう大丈夫。私たちがちゃんと、ルーサーのところに連れて行くわねっ」
 ルーサー、と恋人の名前を聞いてシーラの頬を涙が伝った。やっと、自分たちは助かったのだと実感して、ただただ涙があふれる。そんなシーラをレシュノルティアは優しく宥めるのだった。

 一方、救助された人々が集められた場所とは少し離れた村の一角。こちらにもう動かない人たちを運びながら、彼らをバクルは悲しげに見つめていた。
「ごめんよ……」
 どうか彼らが次の生で、望んだ生を送れますように。間に合わなかった人たちにはそう祈ることしかできない。
「いつだって、遅過ぎて、何にもできない……私は、まだ無力なままね……」
 ぐっと涙を堪えてアウレーリアはつぶやく。助けられずともせめて、弔いを。彼らがきちんとマトリクス界へ至れますように。そう願いながら、冒険者たちは遺体を埋めていった。

マスターコメント

 お疲れ様でした。中型クリーパーは無事倒され、シーラを筆頭とした数名の命が救われました。  犠牲者は少なくなく、村は崩壊されてしまいましたが、生存者は街へ身を寄せ犠牲となった者たちの分も生き抜くことが出来ることでしょう。目指すことのできる最善の結果です。  改めて、本当にお疲れ様でした。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準10 / 5〜10人

2021年01月05日 14時10分01秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウオーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 とにかく前線で、中級クリーパーに斬りかかるつもりだぜ

  2. ノックス・マグナ

    シューターのノックスです。よろしくお願いします。 今回は相手が高火力広範囲とのことなのでペットは無しで遠距離から攻撃しようと思います。

  3. レシュノルティア・ピオジェレラ

    キャスターのレシュノルティアよー 近接だけだけど、リーチの長さから攻撃が遠くまで届くっていうのは注意ねー。 けど、こいつ、頭部に巨大な口しかないってことよね。 なにで感知してるのかしら……。皮膚で匂いを、粘膜で音をってのは考えられるけど、視覚はなさそうが気がするのよね。 開幕でいきなり気付くってわけじゃなさそうだし、音を立てないように風上から近寄ったら、先手を取れるかもしれないわね

  4. ガンシャルア

    ……ヒーラー、ガンシャルア。よろしく頼む。 「攻撃範囲が広い」というと、複数人巻き込まれる可能性もあるのか。 まぁ敵は一体だし、全員が全員散り散りになる陣形とかは逆に難しそうだが、 ある程度以上に負傷したら距離を離す位の安全確保はある……か? 頭には口以外にないというと、確かに接近方法次第では大丈夫そうだな。 元々むこうは「食事」に気を取られてるところから始まるというし、 少なくとも射撃が届く距離は行ける気は確かにする。

  5. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    アウレーリア。キャスターよ、宜しく。 思考能力がないのなら、囮を使った誘引がある程度有効そうね。 一人を追わせて集まりから離し、範囲攻撃としての効率を落とすのが良いと思う。 負担軽減のために、途中で交代するのがいいかしら。 遠距離攻撃が使える人は、大丈夫だと思うけれど。 こういうのは往々にして、不思議な第六感で相手を捉えていたりするわよね。 バックスタブとかはどれくらい有効なのかしら。楽観は禁物ね。

  6. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしく。 攻撃可能範囲が高いというのは攻撃範囲が広いのか射程が長いのかー…? 近接さんも遠距離さんもいるし、ボクはどっちにも支援が届くよう中間に位置取るかなあ… あとはー…敵のサイズがピッタリ5mなのは1ヘクスに収まるのかどーか 収まるなら光縛封で囲ってる間に交代とか仕切り直しとかもできそうだけどねー… 締切までにLv20になったら特性も変わると思うのでセッティングはとりあえず未定 いちおう見当たる範囲に生存者はいないらしいけど、 例の地下室?にはいるかも(いてほしい)なので捜索用にサーマルアイでも付けてこうかな? ダメだったら遺品のペンダントでも探して届けてあげよう…

  7. ケン・Z・ブラッドリー

    ウォーリアーのケンだ よろしく 見当たらないということは見えないところにいる可能性もゼロじゃないってことだろう? だったらさっさとかたずけて救助に向かいたいな 敵が巨大なら四方八方からの包囲もできそうだな 近接組は多方からかわるがわる攻撃を仕掛けて遠距離組はその合間を縫って攻撃していく感じになるか? 敵の思考能力がほぼないってことは逆に言えば本能的ってことになるか・・・・そうなると追い詰めたときに無茶苦茶に暴れて逃げようとしそうだな ま・・・俺近づいて首を狩りに行くだけだけどね

  8. バーネット・フォーサイス

    キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 >方針 『食事』中ってことだから、上手く近づけば不意打ちする事ぐらいはできると思うが、 問題なのは『食事』の中に生存者が混ざってる場合だな。 気づかれない事を重視してゆっくり近づくと、それだけ被害者も増える可能性がある。 いっその事ある程度村まで近づいたら、音とかでこっちの存在を知らせて 早い段階で誘き出すのも有りだと思う。 >個人行動 基本的にはフリーズボルトで足止めしながら、火力投射していく形になると思う。

  9. バンビ

    ハイスピードキャスターのバンビですわ。 アーケインなどで足止めはかけるとしても射程の長さから意味は薄いかもしれませんわね。 いつものスピードメインよりも火力底揚げが必要になりそうですわね。

  10. バクル・バスリー

    遅くなったけど、ウォーリアのバクルだよ。よろしくね。 シーザーロアでの攻撃の引き付けと殺界での足止めを考えてるよ。 >方針 「生きている村人は見当たりません」って部分、おそらく食事の対象もさしてだと思うから、すぐに被害者が増えるということはないと思うよ。勿論、あまり時間をかけるのはリスクだけどね。 そして今いる位置から動かすのは、その通り道にもし生存者が隠れていたら危険に巻き込むという事だから、できれば今いる場から動かさずに戦う方が良いと思うけど、どうかな?

  11. バーネット・フォーサイス

    >生きている村人 あー、それ込みの「見当たりません」か。 それならまぁ、忍び寄っての不意打ちでも問題無いか。 >方針 場所を移すかどうかは、それこそ生存者の有無次第だな。 もし生存者が付近に居るなら、そこから引き離すか、生存者が退避するまでの足止めが必要だ。

  12. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    >方針 周囲の状況からすると、地上に生存者はいなさそうな気がするわ。 いるとすれば地下?討伐後の捜索は行う心算よ。 小さな村だけれど、あまりそこらじゅうを引き回すのも時間の無駄ね。 周囲の瓦礫を遮蔽物に使って、前だ後ろだとグルグルさせるくらいでいいと思う。 もし私達そっちのけで食事に気を散らすようなら、痛いの叩き込んであげましょ。

  13. アルマ・ヴァレンタイン

    >方針 生存者がいないか探して退避させるか巻き込まれないようしてから戦闘をする? (包囲とか遮蔽を活かす等して)手早く倒してから生存者を探す? をどっちにするか固めたいかなー、と >捜索 討伐の前になるか後になるかは不明だけど、ボクは前にかいたサーマルアイと看破でやるよ 捜波だっけ?探波だっけ?のスキル持ちさんもいると心強いかもしれないー… 事前にルーサーさんにシーラさんのお家の場所を聞いて、とりあえずそこを最優先でチェック というのができたら楽だったんだけど、OPで出立した。って〆られちゃってるからねー…

  14. レシュノルティア・ピオジェレラ

    >方針 私は、手早く倒してから探す方を推すわ。 その場にはとりあえずいないってされてる生存者を探して、かつ安全に退避させられる相手とは思わないもの。 それに、もしも、瓦礫に押しつぶされていたら、時間をかける方が生存の目を潰す。 時間って言うことも含めて、連れまわすのも反対ね。理由はバクルと同じく、こっちも、生存者が居たとしても逆に殺すからよ >戦闘 私もバンビと同じく火力重視で行くかしらね。

  15. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    >方針 俺もピオジェレラさんの意見に賛成だな 中級クリーパーは速く討伐して、生存者(シーラさん)の救出にあたった方がいいと思うぜ。

  16. バーネット・フォーサイス

    >方針 案をまとめるとこんな感じか? ・村に到着したら物音等を目安にクリーパーを捜索 ・クリーパーを発見したら気づかれない様に接近 ・射程に収め次第奇襲を仕掛ける

  17. アルマ・ヴァレンタイン

    出発まで一日切ったし方針に反対もなさそうだから、合わせる感じでプレイング出してきたよー

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0