温泉宿で大騒ぎ!
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オープニング
「大変大変大変よー!」
冒険者達の元へ、騒がしいハーフリングの女性冒険者がやってくる。
何事か、と問いかければ。
「素晴らしく充実した秋を過ごしすぎたのよ……」
――は?
思考を停止しかけた冒険者に彼女は話を続ける。
「食欲の秋とか色々言うじゃない? えと……そういう事よ」
何を言っているのか分からないが、お腹周りをさする彼女の様子を見て気づく者は気づくだろう。
「えと、太ったって事?」
話を聞いていた赤髪の女性冒険者が直球で聞いてみる。
「ぐぬぬぬ」
恥ずかしいのか、大袈裟に唸るハーフリングの冒険者。
「それで、何の用なの? そんな事を言いにきただけって訳じゃなさそうだよね」
「そ、そんな事……? まぁ、そうよ。乙女の悩みを解決できそうな依頼を見つけたから一緒にどう? ってお誘いね!」
いや、私はそんなに……と赤髪の冒険者は思ったが、内容くらいは聞いて損はないだろう。
「シグモル火山帯の温泉宿からの依頼よ! 冒険者達から宿の使用感とか意見を聞いて取り入れたいみたいね!」
「温泉宿に泊まるだけ……? 随分簡単な依頼だね。こんなので報酬までもらっちゃっていいのかな?」
「くれるって言うんだからいいのよ! 申し訳ないって感じるなら泊まるついでにお手伝いとかすれば汗をかくでしょ? それを温泉で流す、そしたら痩せる! 完璧よ!」
改めて依頼内容を確認しても、間違いは無さそうだ。
「まぁ、これならご一緒させてもらおうかな」
「ふふ、決まりね! 紹介したんだからダイエットにも協力してちょうだいね!」
「ええ……まぁいいよ……」
赤髪の冒険者は嫌そうな顔をしつつも承諾する。
「沢山募集してるみたいだし、アナタ達も如何かしら!」
ハーフリングの冒険者は周囲で話を聞いていた貴方達を誘う。
まぁ、悪い話ではないだろう。貴方達が承諾すると、ニッコリと笑みを浮かべるのだった。
解説
マスターより
リプレイ
冒険者達は依頼主であるシグモル火山帯の温泉宿へやってきていた。
降雨も降灰もなく、野外での活動を行うにも絶好の日和だ。
「温泉も入れてお金も貰えるなんていい仕事だな! マリルーサンも元気そうで。親父さんの怪我はもう大丈夫?」
「おかげさまでね! 皆も元気そうで良かったー!」
ギド・フェルミがマリルーに声をかけると、マリルーは嬉しそうに答える。
以前、マリルーは冒険者達に依頼をして力を貸してもらったことがあり、その時の仲間がこの場にも何名か来ている。ギドもその内の一人だ。
いくら楽な仕事と言えど、信頼している者達が共に居れば駆け出しの冒険者であるマリルーにとっては心強いだろう。
「フフーン、良いお仕事よね! よね!」
「あ、ポップス様。 ダイエットをなさるのでしたらご一緒にいかがですか?」
二人の会話を聞きつけ、紹介しただけなのにやたら恩着せがましくするポップスをシャロン・ラ・モリエールが自らが行うトレーニングへ誘う。
(お肉ってこんなに簡単についちゃうのね……油断したわ)
シャロンもポップスと同じで自らの体型が気になっていた。
貧乏孤児院育ちの過去を持つ彼女。冒険者になったのを契機に美味しい物を食べる依頼を受けまくった結果……二の腕や太ももがプニプニに。
元がガリガリと言っていいほどに痩せていただけに余計気になる。
「ふわぁぁ! 勿論、ご一緒させてもらうわ! 神様、シスター様、シャロン様ってやつだわね!」
「温泉というご褒美がありますから、頑張りましょうね!」
シャロンからの誘いに目を輝かせながら大袈裟に喜ぶポップス。
――そんなポップスはまだ知らない。シスターの姿をしたシャロンが実は武闘派だという事を。
「いやはや、すっかり温泉に魅了されてしまったねぇ」
「温泉は楽しみだけれど、無料は何か悪い気がするわ……お客さんが来てくれるようにしっかり案を出して恩返しをしなくてはね」
ロベリアは温泉を前にノリノリだが、ノノアは無料だと少し悪い気がすると言う。
「そうだねぇ……では、ボクも前からやってみたかった温泉案を提案してみるとしよう」
ロベリアも温泉宿を手伝ってあげたいとは思っていたところだ。
ついでにポップスのダイエットも手伝ってあげよう、そう思いながら自らの荷物に手を添える。
「ふむ、大きさは申し分ないですね」
温泉宿を分析するのは『温泉宿はある種娯楽施設という戦場』と見立てるキーゼ。
シグモル火山帯には沢山の温泉が湧いているが、クリーパーの出現も多い地域である。
安全が確保された場所に人々は集まり、そこで起こる宿同士の熾烈なお客さん争奪戦はたしかに戦場と言えるかもしれない。
「そうだねぇ……他の宿に客がとられるって事は何かしら理由があるものだよ」
とりあえず、一通り宿を体験後に意見交換会を実施しようと考えるのはベゴニア。
「ふふ、まずは堪能しなければ何が良くて何がダメなのか……意見は出せませんものね」
スィーリーンもまずは温泉を楽しむつもりのようだ。
「それじゃ、ボクも……って、ボクはアレか」
ニール・ロブラリアも温泉を楽しみたい所ではあったが、ニールの性別はニール。
周りに気を遣ったニールはとりあえず温泉は保留とし、宿を利用して『あったらいいな』をメモしていく事にする。
「折角のリラックスできる宿という事ですし、私は新しい曲を考えるとしましょう」
演奏の心得があるノックス・マグナはリュートを片手に温泉の雰囲気作りの一環として一曲作ろうと考えているようだ。
「さて、私はどうしましょうか……」
セロンガード・シュタインドルフが過ごし方を考えていると、彼の背中をちょんちょんと突く者がいた。
「ねぇ……温泉に入った後、ぼくと勝負して。負けたら、なんでもしてあげる」
ティトはセロンガードにお願いしたい事があった。
その為ならば、と彼女が賭けるものは大きい。
「ほう、罰ゲーム付きですか……面白そうですね。その勝負、受けましょう」
期待していた通りのセロンガードの返事に、ティトは雪の様な白い毛並みの尻尾をふわりと少し動かす。
「負けない、から」
「私もやるからには負けません」
そう言って二人は宿の中へと向かっていく。
「温泉……そこには男の浪漫がある……! 今日は満喫させてもらおーか♪」
「のんびり温泉も悪くないが、冒険の一つもしたくなるのが冒険者の性でな」
彼が言う『温泉』の後には(女湯)と付くのが正しい。良からぬ事を考えるのはハヤト=ガラン=ヴォルファング。
そんな彼と共に、やけに真剣な面持ちで冒険心を燃え上がらせるのはロウトフェダー。彼女の冒険心も変な方向に向けられていた。
(温泉での冒険といえば覗き……この冒険、簡単にはいかなさそうだぜ……!)
ハヤトの目論見に感づいたロウトフェダーは親指を立てて彼の健闘を祈り、ハヤトも応援されている事が伝わったのか親指を立てて応じる。
そんな二人を少し離れた所から見ている者達が居た。
「あぁ……ハヤトなら絶対やる気はしてたよ」
「はー、呆れた奴であるな。まぁ良い、あのダンジョン馬鹿も役には立つであろう」
二人が覗きをする、と様子を見て確信したのはヴィナスとポコ・アルデバラッド。
宿の防犯対策の役にも立つであろうと、早速対抗策を練り始めるのだった。
●
皆がそれぞれ宿の設備の確認等を行う中、温泉には宿の者に案内されて五人の冒険者がやってきていた。
「いやー、いつもの顔ぶれだけど場所が違うと新鮮に感じるわね~」
「こういう機会は親睦を深めるにはぴったりだね」
「さーて、日頃の依頼や先の決戦で結構疲れがたまってるからね。目一杯くつろぐわよ」
アルラ・ニグラスを先頭に、ルーシカとテュリン・ヴィングが脱衣所で服を脱ぎ、浴場へと進んでいく。
彼女達は人の少ない時間に顔の知れた者同士で温泉を楽しもうと考えていた。
「さ、ベルとアリエッタも早くいらっしゃいよ」
テュリンは脱衣所から中々出て来ずにこちらを見ている二人へと声をかける。
「め……目のやり場に困るというか、何というか……」
「皆、隠さないの……!?」
声をかけられた『ベル』ことララベル・サン・ディーベルはれっきとした『男』である。
彼はその小柄で整った顔立ちによって、よく少女と間違われる。今回も他の四人が女性だった事もあり、宿の者が女性だと勘違いして一緒に案内してしまったようだ。
ララベルが見ている中、堂々と身体を隠さずにいる三人に驚くのはアリエッタ。
この五人のグループと行動するようになって日が浅いアリエッタは、友人同士の関係にはそこまで詳しくない。
流石に恥ずかしいので宿から借りたタオルで身体を隠す。
「まぁ、こういうのは……ままある事よ」
ララベル自身は女湯に間違って案内された事に気づいていないようだが、何となく察したアルラが言う。
ルーシカにいたってはそもそも、気心の知れた相手に肌を見られる事に特に抵抗は無い様だ。
「もう……目のやり場に困るっていうけど、一緒にお風呂入ったりしてるんだから今更でしょ?」
テュリンはララベルと幼馴染。普段から一緒に入っているのだから、とララベルを急かしながら近寄って彼の腕を掴む。
「わわっ、急に引っ張ったら……!」
倒れ込むララベルに押し倒される形となるテュリン。
ララベルの手は彼女の豊満な胸をがっしりと掴んでいる。
「はわわ……ごっ、ごめん。テュリン姉……!」
「まぁ、これも何時もの事ね……」
顔を真っ赤にして謝りながら身体を退けるララベルと、全く気にする素振りを見せないどころかむしろ物足りなさそうにするテュリン。
(押し倒すなら組み伏せるくらいは……って何考えてるのかしら)
はぁ……と考えながらテュリンが溜息を吐いていると、今度はアルラが彼女の背後から抱き着く。
「楽しそうにしてるね~、私も混ぜてよ~!」
「であれば、背中を流しあうなんてどうかな?」
アルラがテュリンに絡む姿を見て、ルーシカが提案する。
「そうね。それじゃ折角だし流してあげるわよ」
「楽しそうだし、私も構わないわよ」
テュリンとアルラが返事をすると、あれよあれよと言う間にララベルとアリエッタも座らせられ、仲間同士での背中の流し合いっこが始まる。
「えへへ、大勢で来ると賑やかで楽しいね♪」
「あはは……ドキドキしっぱなしだけど、僕も楽しいよ」
仲間に背中を洗ってもらいながら、アリエッタとララベルが話す。
「ところで……ララベルってホントに男の子なのね!」
「いや、僕は男だよ!? 今まで信じてなかったの!? ……あっ」
アリエッタの突然の言葉に驚いてツッコミを入れるララベル。今まで出来る限り逸らしていた視線をついアリエッタへと向けてしまう。
借りたタオルで身体を隠していたアリエッタであったが、仲間達と話しながら楽しく過ごす内に油断しており、その瞬間の防御力は0。
「「……」」
二人の間に走る沈黙に、背中を流す仲間達の手も思わず止まる。
「キャアア!」
――パシーン。
沈黙を破ったアリエッタの平手打ちがララベルに炸裂。
ハッと我に返ったアリエッタはわざと見たわけではないララベルに謝って仲直りすると、五人は揃って温泉を堪能する。
「ふう。色々あったけど、良い湯だったね……ん?」
湯から上がり、服を着て脱衣所を出たララベルがふと辺りが気になって見回す。
(あっちが男湯で、こっちが女湯……? アレ、僕が出てきたのって……)
そうだね、女湯だね! と、やっと事態に気づいたララベル。
「僕、男! 男!!」
と、宿の案内人に詰め寄るも中々信じて貰えず。
その懸命に説明をする姿を横目に仲間達は……
「一体どういった料理が出るのやら……楽しみだね」
「あれ、この中でお酒飲めないの何人いたっけ?」
「あたし、枕投げしたい! しよー、枕投げー!」
ルーシカはこの後食べる料理に想いを馳せ、アルラは皆の飲み物を購入するも抱えているのは大半がお酒。
アリエッタは枕の代わりにタオルをぶんぶんと振って元気一杯。
「もう、皆! 僕が男だって言ってよー!」
ララベルの助けを求める声に答えたテュリンの説明により、やっと男だと信じてもらえるララベルであった。
●
「ぜぇ、ぜぇ……シャロン……アナタ、一体どれ程の鍛錬を日頃から……」
「え、まだそんなに時間も経っていませんよね……?」
今にも倒れる寸前といった大袈裟な様子のポップスの前を、平然としたシャロンが行く。
現在の状況を説明すると、武術の心得があるシャロンはポップスと共に型のおさらい等の日課のトレーニングをこなした後、宿の近辺を走っている最中だ。
「ポップス様、ついてこられそうです?」
「わ、悪いけど……少しだけ休んでもいいかしら……」
降り積もった灰や山道等の悪条件によってかかる負担を考慮して軽めに……と考えていたシャロン。
ポップスは想像以上に運動が出来ない様子だが、めげずにシャロンについてくる。
――ちなみに型のおさらいではヘンテコなポーズをしていた為、しっかりとした型を取らせようとシャロンが補助をすると身体がバキバキと変な音を立てて悲鳴をあげていた。
(あんまり無理をさせるのは良くないけど……こうも頑張られるとね)
シャロンはそう考えつつ、休憩中のポップスを待つ間も体操や腕立て伏せをして身体を冷やさない様に気を配る。
「ぐぬぬぬ……シャロンと一緒にないすばでぃに……!」
唸り声と共にヨレヨレと立ち上がるポップス。
「そうですよ! きっとこの依頼を終えれば美しくなっているはずです!」
がんばりましょう! というシャロンにおー! と答えるポップス。
二人はまた走り出す。そして宿の近くに戻って来ると、来た時と様子が少し変わっていた。
「あれ……お宿の裏側にこんな壁ありましたっけ? ……ポップス様?」
シャロンが宿の温泉の方に建てられた即席の防御壁を目にして困惑し、ポップスに問うも返事は無い。
振り返ると、宿まで戻ってきた達成感と安堵で力尽きたのだろう。真っ白に燃え尽きて地べたに良い表情で横たわるポップスの姿があった。
「ポップス様!? 温泉は目の前ですよ、起きてくださいー!」
一向に動こうとしないポップスを仕方なく背負ったシャロンは、先程の防御壁を不思議に思いながらも温泉へと向かうのであった。
「少し見ない内に厄介な物が出来上がってるな」
即席の防御壁を見て、ロウトフェダーが思わず口に出す。
彼女は宿から少し離れた所に隠れるのにちょうど良い茂みを見つけて身を隠し、エーテルリンクしたペットの栗鼠を操って男湯近辺の偵察を行っていた。
「覗けそうな隙間は無さそうか……でもまだ見つかってないし、このまま登って行けるか?」
意外にあっさりと覗けてしまいそうだ。そう思った瞬間に防御壁の陰から顔を覗かせたのはポコのペットであるゴリラの『うー君』。
まるで迷路の様に作られた即席の防御壁達は、ポコがロウトフェダーへの対策として建てた物。
ロウトフェダー同様にエーテルリンクし、土木作業を担当した『うー君』の凛々しい瞳がしっかりと栗鼠を捉えている。
「こんな火山地帯の温泉に栗鼠が何用であるのだ?」
ポコは栗鼠がロウトフェダーのペットであるとすぐに見抜くと、『うー君』で追い立てつつ、自らはロウトフェダーが隠れていると思われる場所へ捜波を走らせる。
火山地帯の宿の周囲だ、隠れる場所はそう多くない。
ポコの捜波にかかった事をロウトフェダーは感波で気付くと、隠れていた茂みを飛び出して近くの高台を目指す。
捜波によるマークで見つかりはしたが、自身がマインドセットしている『暗視』『超視覚』を活かして男湯を覗く為だ。
「フフフ、栗鼠は囮! この冒険、俺の勝ちだ!」
自作した防御壁の迷路に追い込もうと考えていたポコはロウトフェダーを止める事はできない。
彼女は高台へ辿り着くと、湯煙の中へ視線を向ける。
湯煙が邪魔でハッキリとは見えないが、そこでは筋骨隆々の美丈夫達が身体を洗い合っている。
「お、おぉ……! って、ん?」
よく考えたら今回の依頼、あのような仲間は居ただろうか。
それに何だか、湯煙でよく見えないとはいえ、やけにおぼろげな気がする……ロウトフェダーが疑問に思うのも無理はない。
それらはポコが念写で空間に映し出したモノだからだ。
「ふふ、これで満足しとくが良いぞ」
実際にはまだ男湯には誰も来ておらず。ロウトフェダーは覗く事には成功したが、誰の裸を拝む事もできなかった。
それに気づいたロウトフェダーの元へポコがやってくる。
「うーん、覗けたと思ったんだがなぁ……」
「まさか近づいて来ないとは驚きである。視覚さえよければ覗けてしまうのは問題であるから、何か対策を練らねばであるな」
少し悔しそうなロウトフェダーは自らの冒険の結果を、覗き防止の対策に役立てる為にポコと共有。
ポコはそれを聞いて記録し、今は即席で作った防御壁等に最終改良を施すつもりだ。
「これにより、完璧なセキュリティが完成するのだ。ぬっふっふ」
独特な笑い方で完成図を頭の中に描いていくポコ。
この宿で覗きが撲滅される日は近い――のかもしれない。
「まぁ、今は一緒に温泉にでも行こうぜ!」
「そうであるな。突貫工事をして疲れたのである……」
ロウトフェダーがポコを温泉に誘う。
火山帯で隠れる場所を探す為に奔走したり、防御壁の迷路を作ったりと二人ともクタクタだ。
あとはのんびりとこの疲れを癒そう。二人はそう考えるのだった。
●
温泉への入り口付近には宿の設備を見終えた冒険者達が集まってきていた。
そんな中、ヴィナスはマリルーへと声をかける。
「やぁ、マリルー。この前ぶりだね。ポップス共々個人的に頼みたい事があるんだけどいいかな?」
「ヴィナスさん! ポップスさんは無理そうだけど私は大丈夫だよ! 何をすればいいかな?」
ヴィナスの呼びかけに明るく応じるマリルー。ポップスはシャロンとのトレーニングによって未だに地べたと仲良くしていた。
「これを使って――」
「……!! わかったよ!」
マリルーに何かを手渡しながら説明するヴィナス。
説明を受けたマリルーは他の女性冒険者の元へと走っていく。
(上手くいくといいんだけど……ハヤトは逆に燃えちゃうかな)
彼がマリルーに託したのは対ハヤトへの対抗策。
上手く行く事を祈りつつ、彼も温泉へと向かっていった。
(女子達が温泉に入ってきたみたいだな…♪)
自身のスキルと身体能力を存分に活かし、誰にも気づかれる事なく自らが見つけた絶好のポイントに身を潜めるハヤト。
それは浴場を降灰等から守る屋根の上。壁歩きとエアーライドを駆使しつつ着地も慎重に行う彼から発せられる音や衝撃は最小限。
足元から聞こえる女子達の声ににやけながら、屋根の端から顔を出して覗こうと前へ出る。
(ムヒョヒョ♪ 絶景かな、絶景かな……って、ん?)
顔を出したハヤトの視界にまず飛び込んできたのは湯煙の向こう側、足だけを湯に入れる女子達。
そして宿から借りたタオル一枚を雑に身体の上にのっけられて安らかな表情で大の字のまま浮かんでいるポップス。
「いや、どういう状況だ!? 何でほとんど全員服着たままでポップスだけ浮いてるんだ!?」
見た目だけは可愛いポップスを見てまぁ、ありがたいが! と思いつつ、思わずツッコむハヤト。
別に見られても平気と考えているノノアはタオルで身体を隠しつつ頭をわしゃわしゃと洗っているが、他の者は服を脱いでいない。
「情報提供があってね! ハヤトなら絶対に覗きに来るって!」
思わずツッコんだハヤトの声に気づいたマリルーがハヤトを見つけ、律義に説明する。
続いて「覗きはダメだよ、覚悟ーッ!」と言うと、情報と共にヴィナスから託された対抗策――ヴィナス特製覗き迎撃スリングの試作品に土の弾を装填して発射する。
「うおっ、危なッ! 当たったら結構痛そうだぞ、ソレ!」
「痛くないとお仕置きにならないでしょ!」
機敏なハヤトは飛んでくる弾をひょいひょいと見事に避ける。
逃げずに彼が覗きを続けるのは唯一タオルだけしか巻いていないノノアが『粘れば身体も洗い始めるかもしれない』と期待しての事だ。
「うーん、私じゃ上手く当てられないなぁ……」
「であれば、私に任せて頂けますか? 覗きなどを働く輩は排除しませんと、安心して入浴できませんからね」
マリルーがハヤトとの実力差にがっくりしていると、スィーリーンがスリングを受け取る。
いつもの様に穏やかな様子で排除と口にしたスィーリーンにマリルーは『私は怒らせない様に気をつけよう』とひっそりと心の中で誓うが、そんな事を知らないスィーリーンはしっかりと狙いを定めると、見事にハヤトに命中させる。
「痛ッ! って、うおぉ!?」
覗く為に無理な態勢をしていたハヤトは土の弾を浴びて態勢を崩し、よろめく。
そこへマリルーがノノアが予め用意していた硬めの風呂桶を投げつけて追撃し、落下。
まだ覗きを続けていたかったが、ここらが潮時と考えたハヤトは逃走を開始する。
「こんなところで捕まるわけにゃいかねーぜ!」
スキルを全力で使い、姿を消してまで逃走を図るハヤト。
とはいえ、温泉の裏手はポコの即席防御壁の迷路となっており……
「……」
「あっ」
目の前に現れたポコがエーテルリンクしたペットの『うー君』に看破され、お縄となった。
捕まったハヤトはヴィナスに引き渡され、今日の所は覗きを諦めた様子だが。
「……男はな。浪漫を前に、止まる事はできないんだぜ」
と、明らかに再犯の意志を見せる台詞を残してどなどなされていく。
「これでも自慢の団長だからね……とりあえず、今日は簀巻きにしておくから皆は温泉でのんびりして」
「ヴィナス!? 俺も温泉入っちゃダメか!?」
ヴィナスの対応にハヤトは異を唱えるも「はいはい、皆が上がるまでは待ってね」と取り合ってもらえないのであった。
そういった騒動があったものの、今度は皆も安心して服を脱いで温泉を堪能する。
「ハッ、アタシは一体……あ、温泉気持ちいい……」
ポップスも気が付いた様子だ。
「ふわぁ……温泉は良いモノだねぇ」
「気持ちいいですねえ……」
ベゴニアとスィーリーンがのんびりとくつろぐ。
そんな中、ノノアはせっせと分厚い布や簡単な建材を作って何かを準備中。
「おやおや、ノノア君。何をしているのかな?」
「何作ってるの? アタシも混ぜてほしいわ!」
興味を持ったロベリアとポップスがノノアへと近づいてくる。
「温泉の蒸気を利用したサウナ風呂を試してみようかなと思ったのよ。今は代用だけれど……将来は木造にするのがいいわね」
そう言って完成した簡易サウナ風呂に興味津々な二人に「一緒にどう?」とノノアは誘う。
「おー、これは……独特だが、悪くない感じだね」
「ふふん、誰が一番長く入っていられるか勝負よ!」
「あら、望むところだわ」
ロベリアが感想を言い、ポップスは突発的に勝負の提案。
二人は勝負に乗るも提案者のポップスがすぐさまバテて即座に決着となった。
「ぐぬぬぬ……一生分の汗を流した気がするわ……」
「いや、ポップス君。それだと普段、汗かかなさすぎじゃないかい? ……まぁ、ダイエットに良い事は間違いないだろうね」
ノノアの用意した水風呂に浸かりながらブルブルしているポップスの姿を見て笑いながら、ロベリアは「そうだ!」と何かを思い出す。
「ボクもとっておきの湯を準備していたのだった。薬草を使った薬湯というのだけど、美肌効果や血行促進等の効果が得られるように調合したからダイエットにも良いと思うよ」
医療や薬学の知識を持つロベリアはそれを活かしたモノを準備していた。
「皆もどうだい?」
というと、美肌効果やダイエットと聞いて仲間達の多くが「試してみたい!」と声をあげる。
大きな樽に温泉とロベリアの用意した薬湯の素を入れたら準備完了。
「フフフ、名付けて魔女の湯! 湯加減はいかがかなぁ~?」
「おぉ……今、痩せていってる感じがするわ」
ロベリアが我先にと飛び込んだポップスに湯加減を尋ねると、本当に魔女の釜にでも飛び込んで魔法にでもかかったかのような事を言い始めるポップス。
「というかポップス君……キミ、痩せてない?」
「え゛っ、やっぱり効果出始めちゃってた!?」
元々太ってないよね? という意味だが、わるい魔女はさもダイエットが上手くいったかのような口ぶりで言う。
無邪気に喜ぶポップスに「喜んでるしいいか」と誰もツッコむ事はせず、温泉を堪能しながら時間は過ぎていくのだった。
●
日が沈み、温泉を十分堪能した冒険者達は思い思いに過ごしていた。
施設の良い所と不満点を従業員に聞き込んでいたキーゼも、人が居なくなったのを確認して温泉へと足を運ぶ。
(不満点は少なかったですし、やはり広さを活かした案で調整していきましょうか)
夜中に一人で温泉に浸かるキーゼ。今は静かに身体を休める。
「え、ボクも入っていいの?」
今は誰も居ない為、女湯でよければ……と、宿の者が仲間と温泉に入らなかったニールに声をかける。
使用中は立札を立てておいてくれるとの事。宿の為にと仲間達が入浴中の間も様々な事をメモするニールの姿を見て、何かしら仲間と入らない事情があるのだろうと宿の者が察した様だ。
「それならお言葉に甘えようかな」
宿の者の厚意を受け取り、貸し切り状態の広い浴場へと向かうニール。
賑やかさは無いが、その分広い温泉で思い切り身体を伸ばしながら湯に浸かるのだった。
「さて、軽く運動でもしよう。ポップスサン達もよければ一緒にどう?」
ギドがマリルーとポップスに声をかける。
「ん、いいよ! もう外は暗いけど、何するの?」
「よし、ちょーっと待ってね」
マリルーとポップスが乗り気な事を確認したギドは宿の者に貰った木の板を削り、布を巻いて持ち手を作る。
大き目の卓を借り、丁度半分の所で布を固定して張って舞台を整えると、コルクを取り出した。
「卓を挟んでコルクを球として打ち合う……名付けて卓球!」
「面白そうだわ!」
ギドが準備したラケットを受け取り、ポップスが早速挑戦する。
――スカッ。スカッ。
「あー、ポップスサン……?」
「ち、小さすぎるのが悪いのよ!」
コルクを打とうとするも、運動センスが皆無で当てる事ができないポップス。
「じゃ、俺から打つから打ち返してみて」
ギドがサーブを代わり、ポップスへ向けてコルクを打つ。
ギドの打ったサーブは見事にポップスの手元へと飛んでいき……何故か横にステップした彼女の額に命中。
流石に恥ずかしくなってマリルーに代わったポップスは「ぐぬぬぬ」と唸りながら二人の対戦を観察する。
「あー……気を取り直して、やってみましょう!」
「ポップスサンには悪いけど、よろしく頼んだ! マリルーサン!」
対戦の結果はギドの勝利。持ち前のバランス感覚の良さで、危なげもなく点差を広げていった。
「負けちゃったけど、コレは楽しいね!」
「我ながら、良い思い付きをしたかもな!」
卓球を楽しむ二人を見て、どうセロンガードとの勝負をしようか考えていたティトは尻尾をゆらゆら。
隙を見てギドに話しかける。
「ねぇ、ソレ……ぼくとセロンガードさんもやりたい。混ぜてもらっても、いい?」
「実は罰ゲーム付きの勝負を挑まれておりまして……楽しそうですし、私からもお願いします」
ティトとセロンガードがギドに頼む。
「ああ、構わないよ。そいじゃ、どーぞ!」
ギドとマリルーからラケットを受け取ったティトとセロンガード。
二人はギドから卓球のルールを説明を受けると、真剣な表情で卓を挟んで向かい合う。
(ティトさんは女性ですからね……色んな意味で気を付けねばなりませんね)
(なんでもしてあげるって言ってしまった、から。負けない……)
セロンガードはティトの恰好を見て、激しい運動で衣服がはだけてしまわないかと心配し、ティトは自分がした条件を考えてやる気を漲らせる。
「じゃあ……いく、よ」
ティトのサーブから始まった試合は接戦となるも、ティトが見事に勝利を収めた。
「私の負け、ですか。そういえば私が負けた場合の事は聞いていませんでしたね……激辛のなんか凄いのでも食べましょうか」
失礼。とティトの衣服の乱れをササっとさり気なく直しつつ、セロンガードがティトに問いかける。
「違う。ぼくが勝ったから、セロンガードさんには、今度の依頼で、一緒に来てもらう……」
全力で戦ったティトは少し息を切らしながらも、自分がお願いしたかった事をセロンガードへと伝える。
「ふむ……」
と、考えるセロンガード。無事に約束が果たされるかどうかは別のお話。
●
食事を終え、一日を宿で過ごした冒険者達。
翌日、その体験を踏まえた意見交換会が実施された。
「やっぱり、特色が無いから客が来ないんだと思うよ。馬鹿馬鹿しくともインパクト重視のサービスとかどうかな!」
ベゴニアが提案するのは冒険者向けの風呂の改造案。
「冒険者は頑丈だからね、簡単に死にはしないさ」
それは『崖から飛び降りて入浴する高跳び湯』『高温の源泉に浸かれるチャレンジ湯』『沢山のワニと一緒に浸かれるワニワニ湯』といったモノだ。
あまりの危険さに宿の者は身震いしていたが、笑いながら説明する彼女を見て「あ、冒険者ってこういうの平気なんだ」と常識を破壊される。
既に温泉で体験した者もいるロベリアの薬湯やノノアのサウナ風呂の他。ララベルが提案した混浴の浴場や複数の者が提案した足湯も合わせて、前向きに検討する様だ。
「ここを湯のテーマパークにしよう!」
と言うベゴニア。たしかにこれなら目を引くだろう。
「複数の宿泊プランの用意や、宿の大きさを活かしたギルドや地域自治体などへの場所提供。それに伴った設備増設も如何でしょうか」
社会的組織に定期的に利用してもらえることになれば、安定した収入とそこから発生する口コミも期待できるだろう。
また、その日気分の闇鍋プランを用意すれば怖い物見たさの利用客を誘致できる上に、新しい事を試していけるのではないかとキーゼは提案する。
設備の増設についてはニールも『冒険者向けに入口に汚れを軽く落とせる場所があるといいかも』と提案。
また、『ペットと共に過ごせると嬉しい』という旨も伝える。
「料金面も安くなればいいのですけど……」
「なら、拠点として数日間使う場合は割安にするとかどうだろう?」
スィーリーンがただ料金を安くするのは……と、悩んでいるとギドが提案する。
それならば少し安くしても数日間の収益が見込めるし、問題なさそうだ。
「料理は名物となるものが欲しいよね……温泉卵を作って、一つ食べると寿命が延びるとか」
ルーシカは料理面での提案。
可もなく不可もなく、といった料理をすぐに改善するには腕の良い料理人を雇うか、長い時間をかけて研鑽を積むほかない。
しかし、一つでも名物となる物があれば客を呼び込むことは出来るだろう。
その後、防犯面等も話し合い。意見交換会も終わりが近づく。
「一体どんな宿になっていくんでしょうね。楽しみです……と、私も曲が出来たので聞いて頂けますか?」
ノックスが言うと、皆が静まり返る。
それを返事と受け取ったノックスはリュートで穏やかな、優しい曲調の演奏を始める。
「また、皆で遊びに来ようか!」
演奏が終わった後、この宿で過ごした時間を思い出して名残惜しくなったのだろう。
どんな風になったのか様子も見に来たいしね! とマリルーが言うと、冒険者達も頷く。
こうして、ポップスの頼みから始まった休暇を兼ねた依頼は幕を閉じるのだった。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない20 / 4〜20人
2020年12月29日 09時59分37秒 公開
参加者
相談掲示板
ノノアよ。よろしくね。 今は何をするか悩んでいますわ。(特に決まってない為) 宿の改造や改善をするのでしたら、手先は器用なのでその辺りは手伝えるわね。後は日出ずる国のような「和風」にするのか、今の定番である「洋風」にするかで印象などが変わりますね。料理は得意では無いので私は意見を出せませんが、それ以外は出来るかもしれないわ。 ポップスさんとマリルーさんに関しては素材は良いので、宿の看板として育てるのも良さそうね。運動を手伝うならわたしでしたら体幹訓練を教える事ぐらいね。 後は温泉には普通に入れますのと、わたしが遊ぶ場合は枕投げは枕投げ(物理)になる可能性がある為に危険ね。泊まりにいった先でサスペンス劇場なんてなりましたらあれなので、安全に遊べる物とかはご一緒できるわ。 絡みについては歓迎しますが、あなたの時間(プレイング)を頂くことになるわね。その分わたしも時間を使うので同じかしら。人手が足りないとかで、手伝ってなどは歓迎よ。それと尻尾をモフっても良いですが、お菓子など何か頂きますわ。
おーっす! ゴブリンのシーフ、ハヤト=ヴォルファングだ! みんなよろしくな!! 俺はどっちかっつーと温泉を『満喫』させてもらおーかと思ってんぜ♪ まずは楽しんでみねーことには改善案もクソもねぇと思うしよ! 温泉♪温泉♪ムフフフ♪( *´艸`) (温泉…それは男にとって覗きのロマンがある桃源郷…)←×よからぬ事を企んでいる顔
シーフのヴィナス。 よろしくね。 俺も団長と同じで温泉を楽しむ予定。 たまにはのんびりしたいし。 (ハヤトは多分ろくなこと考えてないのだろうなーという顔) 様々なケース(含み)があって出せる意見もあるしね。
迷宮専門の冒険者、ロウトフェダーだ!よろしくな! 俺ものんびり温泉を楽しむつもりだぜ。 まぁでもやっぱり冒険の一つもしたくなるのが冒険者の性でな。 ここは一つ男湯を覗きに……じゃなかった、偵察に……あいや、散歩に……(もごもご) …………ちょっと夜風に当たりに散歩をしようかと思ってるぜ! (ハヤトと同じような顔をしている!)
シャロンと申します。よろしくお願いしますね。 美味しいものを食べる日常依頼ばかり受けていた結果、いろんなところにお肉が…… ということで、ポップス様をお誘いして走り込みなどを考えております。
ベゴニアだ。 皆、今回はよろしくお願いするよ。 さて、温泉宿かぁ。 普通に温泉に入るのも良いのだけれど、私は基本的には意見出しの方をやってみようかな。 まだ具体策は考え付いていないけれど、料理は美味しくないとダメなのは基本だよね。
(ノノアはハヤトさんとロウトさんを見て何かを察知してみている) 防犯で金盥でも用意して置いておこうかしら。
ニール・ロブラリア。よろしくね。 ボクは温泉には入れないような気もしてるので(性別不明設定)、 お宿のあちこち見て、改善できそうな点がないか探してみる、方向で。
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 使用感や意見を聞きたい、という事でしたら まずは宿や温泉を堪能しなければいけませんよね。 楽しみです。
我はポコ・アルデバラッドである。よき日であるな! よろしく頼もうぞ。 (ちらちらロウトの方を見つつ) ふむ、しからば我はその冒険を記録し宿に活かしてもらうとしよう。 だが、容易く達成できるとはおもわぬことだな。ぬっふっふ!
この冒険、そう簡単にはいかねぇみたいだな………!!! (望外の可能性を予感してロウトはとても燃えている!) あ、普通に温泉つかってる人らには迷惑はかけねぇようには気を付けるな。
直前の挨拶になったけど、ギドだよよろしくなー! 宿の意見出しつつ温泉を満喫させてもらう予定。 なんだか冒険の気配も感じるが…陰ながら応援してるぜ!