【CP】道行き照らす光を、子どもたちへ

棟方ろか

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シナリオID:316

オープニング

●エクラン・ド・リュミエール
 凋落の秋が手を振って去り、向こうから冷たい風が吹きつける。粗末な天幕がひしめく帝国難民キャンプにも吹くそれは、民へ冬の到来を痛感させた。例年であれば蓄えに奔走し、しっかり準備を整えて迎える頃だろう。けれど今年は帝国の崩壊という災厄に見舞われ、備えるどころか日々を生きるのに精一杯だった。
 それでも冒険者たちの働きにより、難民たちの生活は想像していた状況よりも遥かに安定している。無駄遣いはできないが、飢え死にする心配が無くなったのは非常に大きい。
「我こそは英雄ジド・ルウ! あの大穴をふさいでみせよーぞ!」
 年端もゆかぬ子が、難民キャンプを貫く大通りで、粗末なスコップと勇ましい声を高々と掲げた。各天幕から微笑ましそうに眺める大人たちもいれば、作業に集中して一切眼を向けない者もいる。
 肝心の幼子たちは襤褸を外套(マント)に、スコップを武器に見立て、寒さにも負けず頬を上気させるばかりだ。
「英雄ジド・ルウ! 我らも共にまいります!」
「うむ、みな私に続くがよい!」
 おおお、と幼い掛け声を重ねて、かれらは一斉に駆け出した。子どもたちが突き進んだ先は、整備の行き届いていない通り。悪路に空いた気付きにくい穴や窪みを、砂利や土で埋めていくのがかれらの使命だ。
「……もう、そんな時期なのですね」
 青の漲る空を仰いで、荷物を運んでいたリュシエンヌ・テタールは呟く。
 英雄ジド・ルウ――ロスガリア大陸において、この時期に聞かぬことはない名だろう。その身命をエーテルと成し、世界にぽっかり空いた大穴を塞いだ彼の逸話は、子どもたちにとって憧れの英雄譚だ。彼と彼に続いた神々へ祈りを捧げることから始まった『聖霊節』は、基本的には『慰霊』などの『想い』を大事にする時期――亡き誰かへの、生きる誰かへの自分の想いを考え直して、未来へ繋げるための。
「お兄様……お姉様……」
 幼い子どもたちもきっと、こうして誰かを思い出しては、何気なく夜空へと呟くのだろう。
 そう考えたら、かじかむ指の感触が心にまで滲みてしまいそうだった。

●光の衝立
「キャンプの子どもたちへ、温かな光を贈りませんか?」
 募金のフレーズを思わせる挨拶で、リュシエンヌはキャンプを訪れていた冒険者たちへ声をかける。
 聖霊節に纏わる依頼だと冒険者もすぐ察した。今の時期、この手の依頼は後を絶たず、冒険者からすると稼ぎ時だ。
 人手も散開する時期なのはリュシエンヌも想定していたらしく、勿論ご多忙でなければ、と前置きをして。
「冒険者の皆さんから、手作りの灯りをプレゼントして頂くのはどうでしょう?」
「灯り?」
 リュシエンヌからの依頼に首傾ぐ者もあれば、なるほどと唸る者もいた。
「冬は日が暮れるのも早く、長い夜の寒さに寝付けない子をよく見かけるようになりました」
 暗さを恐れ、松明や星明かりが望める天幕の外へ出たがる子。それが増え始めていると彼女は言う。彼女だけが目撃したのではない。夜に飲んだくれていた男性や、焚火の傍で話していた大人たちも、うろうろする子どもの姿を目にしていた。
「今年はいろいろありましたもの。すぐに落ち着くとは言えません」
 親や友だちと逸れてしまった子。帝国崩壊時のショックから眠れない子もいる。
 慌ただしいキャンプ生活が安定し始めた今だからこそ、誰かを、何かを思い出す時間が増したのかもしれない。
 また、そうでなくても離れたお手洗いへ向かう子や、ぐずった赤子を居住区画から連れ出す女性など――松明を掲げた台は通りに点在し、見回りの目も一応あるとはいえ――かれらにとって長い夜は危険と隣り合わせだ。
 しかしキャンプにもっと灯りが増えれば。各天幕へ松明と異なる明るさが点れば。もう少し暖かく、そして安心して過ごせるはず。そう考えたリュシエンヌの捻り出した案こそが『灯りのプレゼント』で。
「獣脂の蝋燭ならたくさんあります。皆さんには、燭台にお手製の『光の衝立』(エクラン・ド・リュミエール)を付けて頂きたいのです」
 エクラン・ド・リュミエール。
 小都市テタール・ロバンではそんな異名で呼ばれている『光の衝立』だ。風除けにもなれば、火から持ち主の顔を守ることもでき、蝋燭が倒れた際の延焼をある程度防ぐためのもの。衝立と一口に言っても、傘のようにかぶせる物もあれば、燭台をすっぽり中へ入れてしまうカンテラ型まで、形状も様々で。
「金属などは乏しいですけど、石とか木の実とか獣皮とか、使えるものは使ってくださって構いません」
 そこまで話したリュシエンヌは、静かに瞼を伏せる。
「皆さんの存在が、皆さんから頂く光が、希望になると思っていますから……」
 これまでの冒険者の働きもあり、子どもたちは大喜びで冒険者を出迎えてくれる。自分も冒険者になりたいと言い出す子も出るほどだ。だからこそ、考え事ばかりしてしまう寒くて暗い夜を過ごす子らへ、また夢を運び届けてほしい。そうリュシエンヌは付け加える。
 もうじき襲いくる本格的な冬を前に、あたたかな光が満ちるのを期待した彼女は、そこでふと思い出す。
「それと、獣脂の蝋燭は蜜蝋と違う臭いがしますけど……慣れてない方は耐えてくださいね!」
 ちょっとだけ不穏な注意事項が、最後の最後に付け足された。

解説

●成功条件  光の衝立を作り、子どもたちへ贈る ※依頼主リュシエンヌの願いは『冒険者から子どもたちへ光を贈る』こと。  この願いから逸れない限り、今回、皆様の思いつきを重視します。  ここで起きたことは、これからの難民キャンプに、そして子どもたちに影響していくでしょう。  お心が向きましたなら、限りある時間の中、行動して頂ければ幸いです。 ●光の衝立について  ランプシェードや、提灯、カンテラをご想像頂くとわかりやすいでしょう。  『火を守り、火から人を守る』ための部分を作って頂きます。  難民キャンプにある素材は、木や石といった自然のものから、獣皮、古布、陶器の破片など。  町や村ほど材料も道具も揃っていませんので、必要なものはご持参ください。  完成した『光の衝立』を燭台にセットしたら、子どもたちへ届けましょう。 ●NPC 難民の子どもたち  赤子から年端もいかない子まで。元気に駆け回る子もいれば、天幕に閉じこもってばかりの子も。  働ける子は、昼間は大人に混ざって労働しています。  天幕は世帯ごとだったり、知人同士で固まっていたり、同じ村の子どもが集まっていたりとバラバラ。 リュシエンヌ・テタール  帝国難民キャンプに常駐している、伯爵貴族の末娘。いわゆる箱入り娘です。

マスターより

 どうか、冒険者の皆様から子どもたちへ『光』を届けてあげてください。  よろしくお願いいたします。

リプレイ

●
 歩を運ぶ度、擦り切れた裾がどこか懐かしそうになびく。アウレーリア・フォン・ネーベルベルクが訪れた帝国難民キャンプは、大勢の避難民が身を寄せ合う広大な敷地だ。居住区では火も焚かれ、白湯を片手に肩をくっつけて話す若者や、走り回る子どもたちも見かける。
 温かい所だ。しかしアウレーリアは一層の『冬』を痛感した――ここは帝国ではない。故郷のにおいも、絨毯(カーペット)の踏み心地も、窓から眺めた空の色も、ここには何ひとつ。
(冬とは、こんなにも寒いものだったのね)
 ローブを掻き寄せて彼女は急ぎ天幕へ入る。今回の仕事場でもある、工房代わりの天幕へ。
 すると冒険者だけだと彼女が思っていた天幕には、多くの子の姿もあった。これは、と予想外の賑わいに戸惑う彼女へ、リオネル・パストラルが声をかける。
「灯り作りに誘ったら、俺も俺もって集まってきたんだ」
「私の方でも、お声がけしたらついて来てくださいましたのよ」
 いずれも彼とフィリスティア・リュナ・ブルーメルティスが誘った、このキャンプの子どもたちだ。
「それでこの人数に……素敵ですよね」
 微笑ましそうにスィーリーンが言う隣で、大口を開けて笑ったのはジョン・ベアーだ。
「ええのぉ、楽しさ増し増しじゃけぇ。えくらん……なんじゃったか」
「エクラン・ド・リュミエール……」
 アウレーリアがこそっと正解を挟む。
「それじゃそれ、美味そうな名前じゃのぉ」
 腹の虫がジョンを急き立てて止まないらしい。
 冒険者への関心が先走った子もいるだろうが、もしかしたら――静けさに浸る暗夜を「恐ろしい」と感じた子が多いことの証左なのかもしれない。この光景を前にサマエラ=フォリウムはそう悟る。
 夜は心身を休め、眠りへ誘う優しい時間だ。しかし恐怖を連れて来る存在でもある。心穏やかにいられない暗闇に、寒さが加わればその恐怖はより濃くなる。侭ならないな、とサマエラは呟いた。誰にも掬われぬ程のあえかさで。
「塗料とかいろいろ買い付けてきたよ」
 突然現れたアリア・ティーダの姿にぎょっとする子もいた。何せ彼女は両腕いっぱいの荷物に加え、大きな袋も労せず引きずっている。やはり冒険者はすごい、という熱視線も厭わず、アリアは作業台へ材料を広げた。
「作り方、参考にさせてねっ。代わりにこれとかこれ、使ってほしいな」
 工具だけでなく、塗料や筆といった着色や装飾に用いる道具もアリアは買い揃えてきた。
「こんなにたくさん、ありがとうございます。色とりどりですね」
 覗き込んだスィーリーンが嬉しそうに微笑む。これだけあれば、自由な発想で光の衝立が作れそうだ。
 彼女たちの後ろでは、キキが少年と将来の夢について話していた。少年は獣脂で出来た蝋燭と獣皮を手にして。
「こういうの。獣狩って、皮とかでなんか作る」
「なーるほど、それがきみの夢なんだねー」
 嬉しそうに体を揺らしてキキが言うと、少年は心の底から不思議そうな顔をした。
「夢じゃないよ。お金になるからやりたいだけ。だから今日ここ来たんだし」
 淡々と話す少年の声色は不変だ。そこまで聞いて察したキキは、考えの差に気付いて頬をふくりと上げる。
「やってみたーい、っていうのは夢だと思うよ!」
 ふうん、と素っ気ない反応ながらも、少年はキキから教えてもらったものを噛み締めていく。

●
「さて、衝立の見た目……どのようにしたものか」
 サマエラはいつもより僅かに眉間を寄せて、考える。
 そうだねぇ、とアリアのまなこもくるくると宙を彷徨う。
「猫とか犬だったら、好きな子も多いよね?」
 絵筆を濡らすアリアに尋ねられ、リュシエンヌが頷く。
「はいっ、飼ってらした方も多いみたいですし」
「なら決まり」
 単なる灯りとしての印象しか抱かないよりも、見て楽しい方が良いはず。そう信じてアリアは記憶の引き出しから、犬猫の輪郭を探し出す。いざ形にしようとすると意外と難しい。
 作業の音が響く中、フィリスティアは持参した香草をすり潰し、獣脂の匂いを和らげようとしていた。何気なく見渡せば、冒険者も子どもたちも夢中で衝立作りに励んでいる。
 一方で、錐や小刀を器用に指間へ運び、適度な力ですらすらと飾り立てるリオネルの様子は、子どもたちにとって魔法のようで。
「どうしてそんなに上手なの?」
 無邪気としか言えない質問に、リオネルは喉奥だけで笑う。
「ジド・ルウに憧れていたからかもね」
 聖霊節(このじき)に合わせた冗句も子どもたちは額面どおりに受け止めて、感嘆の声をあげ出す。特に撤回もしないまま、リオネルは安価な宝石の欠片たちを台へ転がした。
「さ、好きなところに飾り付けしてみてくれ」
 一驚した子どもたちの視線が彼を射抜く。衝立にできた星の型は、今か今かと色彩を待っている。やがて笑顔たちは花開き、宝石へ手を伸ばし始めた。
 同じ頃、アウレーリアは手を動かし続けていた。集中していれば、悴んだ指先から溢れてしまいそうな、もどかしい感覚も忘れていられるから。
「お姉ちゃん寒い? お湯もってこよっか?」
 気付いたときには、難民の少女の顔がすぐ傍にあった。僅かに喉奥で痞えた言葉を、アウレーリアはどうにか絞り出す。大丈夫よと。繕った微笑みを浮かべて。
 次にアウレーリアは不思議に感じた。自分の指先は震えていない。双肩だって縮こまっていない。そうしていられるほど、世界は優しくないと知っているから。
(子どもだからこそ敏感なのかも。……これも、暗いだけではダメね)
 外で迎える初めての冬、胸裡に不安が染みるのを感じつつ、アウレーリアは古布へ小刀を差し入れた。噴き出しそうな炎(おもい)を篭めて。弾け飛びそうな光(ちから)を封じて。そうして手の届く空飾りたちを、衝立に編み上げる。
 独り黙々と励む彼女の後方から、キキたちの声が弾んできた。
「そうそう、ちょっとずつずらすの!」
 キキが皆と作っているのは、回転すると絵が動いて見える装置だ。キキによると『生命の輪』というもので、絵にはひとつの物語があり、浪漫がある。しかも、きみたちがいないと完成しないんだ、と頼りにされた当事者(こども)たちは浮き立ってばかりだ。
「お姉ちゃんの、きれいだね!」
 言いながら子どもがスィーリーンの手元を覗き込むと、カンテラから漏れる光に顔色が明るくなった。スィーリーンは小さく笑って、こういうこともできるのだと張られた幕の近くへ移る。カンテラの形をしているため持ち運びが楽なのもあるが、一番の見所は。
「どうぞご覧くださいな」
 四辺に模った枠を蝋燭が照らし、光の蔦が浮かび上がる。同時に天幕へ鮮明な影絵となって映った。
「あ! おうちの壁にあったやつ!」
「おれんとこも!」
 形に覚えがあるらしい子どもたちが、景色を共有し始める。建物や塀に伸びる植物は様々だが、かれらは同じものを見て、知っているのだ。なんだかその事実が嬉しくてスィーリーンは笑みを零す。
 一方でジョンは、近くにいた子にカンテラ型の衝立で遊んで貰っていた。積木遊びの要領に近しい、使い手の想像力に委ねる灯りにした。だからどんな形でも出来上がり次第、ジョンがすぐに拍手で褒めちぎる。
「お、そうするか。センスええの~」
「へへーん、やったね!」
「えーっ、私もやりたーい」
 見物していた周りの子たちも「やってみたい」と次々言い出す。
「わっはっは、順番じゃ順番!」
 子が笑えばジョンも笑い、ジョンが褒めれば子も笑う。正しくフィリスティアの祈った光景が、ここにはあって。
「一番の光は、あなた達の笑顔ですわ」
 どんな明るさよりも眩しくて、どんなに綺麗な色よりもきれいな光。
 少しばかり寂しげなまま作業していた子らへ、フィリスティアは言葉を紡ぐ。
「けれど悲しい時や辛い時は、我慢して笑わなくていいのですよ」
 難民としての生活が長引き、子どもたちは今までと異なる『脅威』に晒され、これまでと違う『我慢』を植え付けられていた。誰が強要したわけでもない。難民キャンプで過ごす上で《当たり前だから》気付かれ難い。
 だからこそフィリスティアは、少年少女を『子ども』へと引き戻す。
「ママ、パパ……」
「いつ迎えに来てくれるの……ぼくずっと、いい子で……」
「おがあざぁぁん……っぅえぇ、ッ」
 普段は決して泣かない子も、今宵ばかりは大切な誰かの名を口にして、言葉にならない悲鳴を漏らす。それぞれが声をあげて以降、フィリスティアは黙したまま子どもたちを抱きしめた。
 心ごと寄り添う彼女の在り方を目の当たりにして、アリアの胸中でガラガラと何か崩れる音がした。
「授恵者(レシーバー)の仕事となると、ついつい狩りとか戦いを想像しちゃうんだよね」
「私も、同じようなものだ」
 アリアの呟きを聞き、隣で衝立を作っていたサマエラが灯りに見守られた光景を前に顎を引く。
「今は彼らを照らし、温める光が肝要。そう理解したのは、ここへ来てからだ」
 似た感覚を知っているとサマエラが告げたため、アリアの心持ちも幾許か楽になる。それでも彼女の眼差しは天幕の外、地上の灯りを吸い上げて滲む、天と地の境界を望む。
「大きな戦いが続くと、強くなれるし報酬もたくさん貰えるけど、なんか……」
 ダメだね、とまでは言えない。ただ忘れてはならない心があると、アリアは苦い欠片を噛み締める。
(……こういうお仕事、もっとこなしてかなきゃなぁ)

●
「「リュシエンヌお姉ちゃん、ありがとう!」」
 子どもたちの朗々とした声音が弾けた。同時にリュシエンヌへ差し出されたのは、かれらが作っていた衝立付きの灯り。立ち尽くすリュシエンヌに、フィリスティアが瑠璃と翠が溶け合う双眸を揺らす。
「リュシエンヌさん、貴女はこの難民キャンプを照らす温かな光ですわ」
 告げた音は優しさを湛える。まるで幼子と接するかのように。
「……どうか、貴女の想いも届きますように」
 多くを語らぬ彼女の一言が、リュシエンヌの内に築かれていた堰にまで響く。
「っ、ありがとうございます……」
 一拍、呼吸を整えるために間を置いて、リュシエンヌは堪えるように微笑み、濡れる睫毛を伏せた。
「こっちもあるよー、皆で順番に見よう!」
 そう手招くキキたちが作成した回転式の衝立を覗き込めば、子どもたちと大樹を照らし出す。
 キキがゆっくり回していくと、絵の中の子たちは降り注ぐ陽光と青々と茂る大樹の下、皆一様に全力疾走していた。大樹が色付く頃になると駆け足へ変わり、やがて銀世界に埋もれて歩みは鈍り出す。けれど足を止めなかったその先まで回転させれば、雪解けの時期ならではの煌めきと、咲き誇る花風景が広がって。
「季節ってね、誰のところにも等しく巡り来るんだ」
 酷寒に骨が軋もうとも。風雪に進めなくなっても。
「だからこのキャンプにも来るよ、春!」
 生きた絵が告げた四季の移り変わりは、冬の到来に苛まれる子たちへ、希望をもたらした。
「きゃー! 明るーい!」
「これぞキャンプファイヤーじゃー!」
 子どもの輪に混ざるジョンは、もう一つ『キャンプファイヤー』なる灯りを披露していた。衝立部分は丸太に似せて、隙間からは火がどんどん腕を伸ばしていく。燃え盛る様は最初に作ったカンテラより一段と眩しく、焚火に似た挙動を示す。気まぐれとも予測がつかないとも言える、枝によって滾る在り方を。
「火はええぞ。危のうもあるが、明るい所にゃあ人が集まる、人が集まれば歌と踊りが生まれる」
 村も街も、地方だろうと異国だろうと変わらない。山を下りてからジョンが目にしてきた光景だ。言い終えるや、ジョンは本日何度目かもわからない腹の虫に急かされる。
「そんで一番大事なのが美味い飯じゃな! がっははは!!」
「うまいめし!」
「めし!」
 はしゃぐ姿に、スィーリーンは寒さに負けない力強さを垣間見た気がしていた。
 ――灯りを持つ方を、温かな光で照らしてくれます様に。
 ――灯りを持つ方が、穏やかで優しい気持ちになれます様に。
 それでも、子らの道行きが穏やかであるようにと、願わずにいられなかった。
 徐にアウレーリアが席を立ち、仲間たちへ囁く。
「……他の子へ届けにいってくるわ」
「あ、一緒にいく?」
 アリアが尋ねるも、彼女はかぶりを振って。
「分散した方が早く渡せると思うの」
「そっか、そうだね」
 理由を素直に受け入れたアリアに見送られて、アウレーリアは外へ出た。
 ここには大勢の民がいるから。人の目が多すぎるから。夜空だけがアウレーリアの泣きたい顔を知るなら良いのに、今夜は。だから冷たい夜の到来に、アウレーリアは竦む足でどうにか歩きだした。
 この灯火を届ける先に――彼女はもう、願いを寄せられない。
 人数が減ったのに気づきつつ、リオネルも子どもたちから目を逸らさずにいた。
(皆に寄り添えるなら、アンタも本望だろ)
 素知らぬ顔で佇む、世界でひとつだけの星空衝立を彼は指先で弾く。
 視線を流した先では、アリアが使わなかった材料を寄贈分としてリュシエンヌへ渡していて。
「ゆくゆくは光の衝立作りが、ここの風物詩になったりしてね」
 そう唇を震わせたアリアへ、とても夢のあるお話です、とリュシエンヌは嬉しそうに頬を色付かせた。

 サマエラはある少女の元を訪れていた。
 膝を抱えたまま動かない少女の足元へ、サマエラは作った灯りを置く。陶器の欠片を繋いだ屋根が白雪を被り、煙突から熱が昇るこれが何なのかを、サマエラは口にしない。
「目を背ける時間は、悪いことでは、ない」
 代わりに繋いでいく。破片を組み合わせて、屋根を作ったときのように。
「……ただし、自分を追い詰めないこと」
 しんしんと降る雪に似た静かな語り口で、サマエラが連ねる。
「それだけ忘れず、行えることを、関わることを、少しずつ始めてゆけばよいと、私は、思う」
 多すぎる言の葉は贈らず、サマエラは離れていった。
 残されたエマは揺らめく灯りを見る。暖かそうな家だ。ぎゅっと拳に力を篭め、少女は小さな小さな家を見つめ続けた。そして霜の衣を纏った家は火を点し続けた。彼女が眠りに就くまで、ずっと。

マスターコメント

 お疲れ様でした。子どもたちに夢を、光を、色彩を、ありがとうございます。  まだまだ寒さも寂しさも募る一方でしょうけれど、きっとかれらは歩き続けられるでしょう。  その方法を、歩き方を、他でもない皆様が教えてくださったのですから。  ご参加いただき、ありがとうございました。  またご縁が繋がりましたら、よろしくお願いいたします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2020年12月16日 10時46分55秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. リュシエンヌ・テタール

    改めまして、リュシエンヌです。 引き受けてくださって、ありがとうございます! よろしくお願いいたしますね。

  2. フィリスティア・リュナ・ブルーメルティス

    フィリスティアと申します。 よろしくお願い致しますわ。 リュシエンヌさん、こちらこそ素敵なご依頼をありがとうございますわ。 子供達の心を温められるような、子供達の希望になるような光をお届け出来るように頑張らせて頂きますね。 色のついた石があれば、それらを組み合わせて綺麗な色合いを表現できそうですわ。 ない場合は染料で塗ってしまう手もありでしょうか。 木の実も彩りに使えそうですわね。

  3. スィーリーン

    スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 『灯りのプレゼント』、素敵ですね。 どんなデザインにしましょうか。

  4. No.4

    リオネルだ。リュシエンヌや他の皆もよろしくな。 まだどんな感じのを作るかは決めていないが喜んでくれるものを作れたらいいなと思う。

  5. アリア・ティーダ

    ボクはレシーバーのアリア。 折角だし人、特に子供に夢を与える仕事は大好きさっ よろしくお願いだよっ

  6. キキ

    はじめまして! 私、キャスターのキキです。よろしくね! ランプの灯りって、見てると不思議と落ち着くもんね。 私は影を利用してなにかできないか考えてみようかな。

  7. サマエラ=フォリウム

    ゴブリン、サマエラだ。 よろしく頼む。 光の衝立、か。 心の安寧のために温もりは、確かに……重要だ。 子が安らぐ一助となれるよう、尽力する。

  8. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    ……アウレーリア。宜しく。 できる事をするわ。何ができるか、判らないけれど。 今夜は冷えるのね……。

  9. リュシエンヌ・テタール

    だいぶ冷え込んできましたから、お風邪など召されませんよう、暖かくしてお過ごしくださいね。

  10. ジョン・ベアー

    挨拶が遅れたのう。ジョン・ベアーじゃ! ふむ、衝立か。どういったものを作るか……確かに冷えるな、暖かく感じるものが作れればよい!がはは!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0