【聖祭】深緑の輪を作ろう
屋守保英
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シナリオID:280
オープニング
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることだけでなく想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。ジド・ルウが好んでいたという、赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――実りの秋、収穫祭を終えた人々は、深まる冬の気配を感じながら、慰霊祭の準備を進めていた。
●いよいよ聖霊節の時期です
「もうすぐ聖霊節がやってきますよ、皆さん」
「踊る小熊亭」の受付嬢、ハーフビーストのクサンドラ・ファンフリートは、大きな耳をぴこんと揺らしながら明るい笑顔を見せた。
12月、聖霊節。ロスガリア大陸でも特に重要な、冬の時代の到来を告げる祭りである。
英雄ジド・ルウの功績を讃え、神々に祈りを捧げ、ごちそうを食して催しを楽しんで。そんな、一年でも大いに盛り上がる時期が、この時期だ。
今年は授恵者が多く表れたこともあって、各地で大いに盛り上がりを見せているらしい。既に、「踊る小熊亭」にも多数の精霊節がらみの依頼が舞い込んでいた。
「水上都市アキュアリスタで、聖霊節の飾りつけに使うリースを作る仕事の依頼が来ているんです。なんでも、今年は規模が大きいせいで、例年の人手だと間に合わないということで……それで、皆さんにもお手伝いいただきたい、というわけなんです」
そう話しながら、クサンドラはカウンターの内側から一つのリースを取り出した。
緑色、赤色、白色に銀色、枝をまとめて丸く作った土台に、植物の葉や木の実、花などを用いて飾り付けて作るリースは、聖霊節にとって欠かせないものだ。
材料は現場にたくさん用意されているから、各々が思い思いの材料を使って自分だけのリースを作り上げることが出来る。様々なリースがあれば、さぞ聖霊節の当日も華やかになることだろう。
「出来上がったリースは、アキュアリスタの街中に飾られることになるそうです。危ないものを使ってしまうと、町の人に迷惑が掛かるのでよくないですけれど……皆さんのオリジナルのリースを作るのも、楽しいと思いますよ」
そう話して、クサンドラはもう一度にっこりと笑う。彼女も彼女で、聖霊節が待ち遠しいのだろう。様々なごちそうも出るから、楽しみなのは当然のことだ。
「そんな感じですね。じゃあこの依頼、掲示板に貼り出しておきますので、詳しい内容はそっちを見てくださいねー」
そう話して、クサンドラが依頼の内容を書いた紙を持ってカウンターを出ていく。その手にはまだ、鮮やかな緑色をしたリースが握られていた。
解説
マスターより
リプレイ
水上都市アキュアリスタは、今年の聖霊節に向けて大いに盛り上がっていた。
街を飾り付けるリース作りを行う工房の中で、ゲルダ・クラインはうっとりと、水位の下がった湖が見える窓の外を見やる。
「聖霊節……ハーフリングの英雄、ジド・ルウ様の活躍は、よくお父様からお話を伺っています」
「やっぱり、お父様が赤白の衣装を身につけてプレゼントをお持ちになったり?」
彼女に同行する友人のリサ・ベイカーが、悪戯っぽく笑って見せると、ゲルダは恥ずかしそうに頬を赤らめ、こくりと頷いた。
それなりに裕福な、真っ当な家庭に育った者なら、お決まりのイベントだ。両親のどちらかが赤白の服装に身を包み、子どもにプレゼントを贈るのも。
二人の話を聞いていたレヴァーレ・クアルムは、そういう家庭ではなかったが故に。なんとも新鮮なものを見る目で工房の中と、リースのお手本を見つめていた。
「聖霊節、話には聞いたことがあるけど実際触れるのは初めてだ」
複雑な出自の者は他にもいる。ザザ=ステルヴィナはその出自故に家族との団欒を得られなかったタイプだ。レヴァーレよりはこの催しに触れてきたが、どれも苦い思い出が付きまとう。
「聖霊節、かぁ~……実は私、毎年この時期になると孤独が身に染みるのよね……家族からは浮いてたし、子供の頃から良い想い出が無くって……うぅ」
「え、えっと、ほら、大丈夫だよ! 今年は楽しいよ、きっと!」
彼のボヤキと嘆きを傍で聞いていたトマス・グレイ・ディズールーが、慌てた様子で慰める。ディズル大湿地帯のある部族出身の彼も、あまりこの手のイベントには馴染みがなかった。
とはいえ、口調通りの暢気で自由な性格。イベントごとは楽しまねば損だ。
「しかし、リース作り! いいねぇ、僕はこう言った細工ものとか、工芸品とかを見るの、結構好きなんだよ」
「リース? これがそうなのか。歴代主が皆こういった行事が好きで毎年のように作っていたが」
ベルク・オスマットがお手本のリースを手に取りながら、それを物珍しそうに眺めつつ言った。彼女も少数部族の生まれだが、色々と複雑で込み入った事情も絡み、ロスガリア大陸の季節行事には何度か触れてきたタイプだ。
これまたお手本のリースを手に取っていたシャロン・ラ・モリエールが、自信満々に胸を叩く。
「内職は任せてください! こういう細々したお仕事は得意ですよ!」
「ああ、俺もこうした細々としたものを作る作業は好きだ」
ブルーテ・ビシアも他参加者を見守るようにしながら、ほっとした様子で微笑む。そうした作業は好きだし、得意でもある。腕の見せ所だ。
その隣でキオルティスがうっとりした様子で、歌うように言葉を転がす。
「どうせならパッと目を惹くような、艶やかなリースを作ろうか。皆が見惚れるような、美しい、華やかなリースを……」
「んー? リース……リースですか」
と、皆の話を静かに、しかしいまいち要領を得ない表情で聞いていたザンカ・クジンが、ポンと手を打った。
「……いまいち分かりませんが、お祭りに使う飾りのような物を作ればいいのですね!」
「え……えぇと。まぁ、間違いではないです、けれど」
彼女の発言を聞いたファイサル・アル=ファルドが、引き攣った笑みを浮かべながら言葉を返す。間違いではない、ないけれど、なんだろうこの何かがズレているような感覚。
そのほんのり不穏な空気を振り払うように、ダリア・レプシウスが両手を組む。
「ともあれ、私にできる事でしたらお手伝いいたしますわ。他でもない聖霊節ですものね」
その言葉に全員が頷いて、工房内に設置された作業台へとそれぞれ向かう。これから始まるのは、楽しい工作の時間だ。
●ポインセチア
レヴァーレとシャロンが、二人並んで作業をする作業台で。
何となく近い想いを抱いていた二人は、ぽつりぽつりと会話を交わしながら土台となるリース台に装飾を施していた。
「街で自分が作ったリースが飾られているのを見かけたら、きっと嬉しい気分になるでしょうね」
「色とりどり、十人十色のリースが街を飾る……うん、その一部になれるってのは、案外悪くない気分かもしれない」
そう言葉を交わし合いながら、二人は思い思いのモチーフを想像しながらリースを作っていく。
シャロンは緑色でまとめた土台に、リボンを結んだ松ぼっくりを。レヴァーレはベースの枝の中に赤い紐やナンテンの実を差し込み、華美にならない程度にヒイラギの葉、そして白い綿と青い綿を差し色として。
二人とも一般的な、緑、赤、白を取り入れながら、その方向性はそれぞれ異なる。シャロンのものがカントリー調とすれば、レヴァーレのものはシティ調だ。
「折角の機会ですから、色々なリースを作りたいですね」
一つのリースを作り上げた後、シャロンが小さく呟く。折角材料がこれだけあるのだから、いろんな物を作りたい。
と、彼女の視線が、ちょうどリースを作り終えたレヴァーレへと向けられる。
「……あ、そうです。ねえ貴方」
「ん? どうしました」
呼びかけに答えるレヴァーレ。彼の手の中のリースへと、シャロンが熱い視線を向ける。
「そのリース、すっごく綺麗です! デザインのポイントとか、教えてもらえますか?」
「これですか? そうですね……」
問いかけられて、少し悩む表情のレヴァーレ。少しの間を置いて、彼は自分の形作ったものを表す言葉を述べ始める。
「冷静・落ち着きを持って、しかし心に紅の芯を一本据えて……俺が、そうありたいと思う姿を形にしました」
「むむむ……いまいちピンと来ないですね」
彼の答えに、シャロンが難しい表情になる。確かに非常に抽象的で、分かりにくい回答だ。その表情に苦笑を浮かべながら、レヴァーレが補足する。
「これが、今の自分か目指す物かはわからないけど……賑わいに少しでも華を添えられれば、なんて」
「良い心意気ですね! ありがとうございます!」
レヴァーレの想いを聞いて、彼女は何かを得た様子で。再びリース作りに取り掛かる。土台のリース台に金と銀のテープを巻き、白を基調としたレースと赤白の服装のモチーフで飾りつけ。先程とは一転、非常に華やかな仕上がりだ。
「完成ー! うん、綺麗でかっこいいです! いっそここで、あっちに贈る分も作っちゃおうかな」
自慢げにリースを掲げ、嬉々として再び作業を始めるシャロン。これは、しばらくリース作りに没頭しそうだ。
「そうか……俺も、これと同じものをいくつか作って持ち帰ろうか」
彼女の手の動きを見て、レヴァーレも自分の手を動かし始める。賑わいと、想いを持ち帰られるように。
●ヤツデ
別の作業台では、リサがゲルダに声をかけていた。
「ゲルダさん、一緒に作りましょう!」
「はい、もちろんです!」
リサの申し出に、喜んで頷くゲルダ。そうして二人は一緒に並んで、リース作りを開始した。
作業台の上に並べられた様々な飾り、モチーフを手に取り、見つめながら、リサが眉間を静かに寄せる。
「うーん、あんまり色々付けるのではなく、シンプルなのがいいかなぁ……細かい作業は得意ではないので、ごてごてしすぎると失敗しそうです。ゲルダさんはどんなのにしますか?」
ヒイラギの葉を手に持ちながらリサが問いかけると、彼女よりもいくらか年若いゲルダはシルバーブルニアの、白銀色の花がたくさんついた枝を持ちながら笑う。
「わたしは……綺麗で幻想的、かつ、かわいらしくを目指してみようと思います」
「うぅっ、手先が器用なばかりかモチーフのイメージもしっかりしている。羨ましいです」
自分と違って、作りたいものが明確に定まっているゲルダを、リサは羨望が入り混じった眼差しで見つめた。
ともあれ、作りたいもののイメージが湧いたところでリース作りである。とは言ったものの、何となくぼんやりとしたイメージしか出来ていないリサは、ちらちらと視線がゲルダの手元、順調に組み上がっていくリースへと向いていた。
「綺麗で、幻想的、かつかわいらしく……あ、なるほど」
(リ、リサ様、手元が止まっていますが大丈夫でしょうか……)
あまり進捗のよろしくないリサに、ゲルダは心配そうな目を向けた。目は向けるけれど、基本的には見守る姿勢。あまりあれこれと口を出したら、きっと友人のためにはならないと思うから。
とはいえ、全く何も力を貸さないのでは一緒に作ったことにはならない。髪に結んだものと同じ青色のリボン、赤色のリボン、金色のリボンの三本をリース台に巻き付けたはいいものの、そこからどうするべきか悩んで手が止まっているリサに、ゲルダが指を伸ばす。
「あ、あのリサ様。ここに飾りをつけたら、きっと可愛くなると思います」
「な、なるほど! ありがとうございます!」
彼女のアドバイスを受けて、リサが作業を再開する。どうやらいい具合にハマったらしい。
リボンに結び目を作って、余った部分はカットして。しかし金色のリボンが、思ったよりも長く余ってしまった。
「あら、リボンが余ってしまったわ。ゲルダさん、使いますか?」
「あ、ありがとうございます」
それをゲルダに差し出すと、彼女はにこやかにそれを受け取り蝶結びにした。ワイヤーで結び目を固定し、リースに括りつける。
そうして、程なくした頃。
「完成~!」
二人分の歓声が、作業台から上がった。
「わあ、ゲルダさんの可愛い! 素敵ですね」
「ありがとうございます! リサ様のもとても素敵です」
お互いのリースを見せ合いながら、ゲルダがそっと目を細める。
自分で頑張って作った分、ちょっとぐらい不格好でも特別に可愛く見えるはずだから。
それはきっと、何物にも代えがたい大事な感情なのだ。
●ピラサンカ
さて、他方。ベルクとトマスが一緒の作業台を使って作業を始めていた。
様々な大きさのリース台を手に取って見ながら、トマスがベルクへと笑いかける。
「手先の器用さにはあまり自信がないけれど、折角の催しだもの。ゆっくりペースでも楽しく作ろう!」
「ゆっくり、楽しく、か。確かに、不慣れなうちから急いでもしょうがない。さて、一般向けにはどういったデザインがいいのやら?」
ゆったりのんびりとしたトマスの言葉に、ベルクも小さく頷く。しかし彼女には、「一般的なデザイン」の引き出しはあまりなかった。
少し悩ましい表情の彼女に、トマスが指を立てつつアドバイスする。
「そうだねー、せっかく子どもも大人も楽しむお祭りなのだから、子どもも大人も楽しめるリース……っていうのはどうだろう?」
「なるほど、参考にさせてもらおう」
その言葉に、もう一度ベルクが頷き。工房から用意してもらった踏み台に足を乗せ、彼女はリースに飾りつけを施し始める。
それを見てホッとした様子のトマスも、自分のイメージする形にリース台を飾り付けていく。まずは華美になりすぎない程度にシンプルに、スタンダードな素材を使って。
そうしてモミの葉とヒイラギの葉、ナンテンの実にリボンが結ばれたデザインのリースが出来上がった。それを、大きいリース台と小さいリース台で、二個作る。
「よし、まずはこんな感じかな。後はこれを土台にして……」
ひとまず、いい出来栄えになったことに安堵するトマス。そして彼が手に取るのは松ぼっくり、稲穂に麦の穂、様々な貝殻だ。
他の人の作るリースとは一味違った、皆が楽しめるものを。そんなリースを作る彼に、これまた水色と黄緑色を基調にした、一風変わった色合いのリースを作るベルクが声をかける。
「そういえば、このアキュアリスタに象徴のような紋、などはあるのだろうか?」
「んー? どうだったろう……象徴と言えばここの広大な湖と、その只中に沈む遺跡だろうけど……紋とかになっていたっけなぁ」
彼女の問いかけに、トマスが首を傾げる。アキュアリスタほどの街なら、町章などあってもよさそうなものだが、見かけた記憶は無かった。いや、どこかで見かけたのかもしれないが。
少し悩んだ後、ベルクが絵筆を手に取る。水色と白で湖面と遺跡を図案化した、町のどこかで見かけた記憶のある紋を板材に描く。
「……ふむ。紋にするとしたらこのような感じか。あとは……」
その板材を丸くカットして、リースにはめ込めば完成だ。ちょうどその辺りでトマスも、自分のリースが完成したようだ。
「よし、かんせーい!」
「出来上がった」
二人が同時に声を上げ、互いに互いを見やり合う。そうして視線は、それぞれの手の中にあるリースへと向けられる。
「おぉー、かっこいいー。水色や黄緑を基調にするのは新しいなぁ」
「貴様のものは、穂に貝か。豊かな実りに感謝する品のようだ」
互いに感想を言い合うと、二人はまた作業を始める。折角の機会なのだ。たくさん作らなければ勿体ないではないか。
●シクラメン
一方、ブルーテとファイサルの使用している作業台。真面目な男性二人ということもあってか、ここは実に堅実で、着実な空気が満ちていた。
「シンプルで飾り気のないものでも、たくさん作れば見栄えはするだろ」
「同感です。冒険はやめて普通に作ります」
ブルーテの言葉にファイサルも頷く。無理に冒険する必要は無いのだ。自分の出来る範囲で、出来ることをやればいいのだ。
慣れた手つきでリース台にコニファーの枝を差し込んでいくブルーテに、ファイサルが困った様子でヒバの葉を巻き付け始めたリース台を差し出す。
「ビシアさん、この葉を巻き付ける時に、コツとか何かありませんか?」
「ん? そうだな……隙間が出来ないよう、気持ちみっちりと巻くといい。こうして……」
そう言いながら、ブルーテは手早く、しっかりとヒバの葉をリース台に固定していく。ワイヤーを強めに巻いて、外れないように。そして隙間を作らないよう詰めて巻いて。そうすれば、かなり見栄えのするリースになる。
「ま、飾り気なくシンプルにやるのもいいと思うぞ。こんな感じに、こう……木の実を飾り、リボンを結ぶだけでも十分にリースだ」
「なるほど……! その発想は逆にありませんでした!」
リース台の枝が殆ど見えた状態で、上部にナンテンの枝とリボンを飾ったリースを見せながらブルーテが言えば、彼の言葉を聞いたファイサルが手を打つ。
何も、ごてごて飾り付けなくてもいいのだ。シンプルなものはそれはそれで、味わいがあるものである。
ともあれ、華美になりすぎない程度の飾りを探しながら、ファイサルが呟く。
「リボン……そういえば魔除けの意味があるんだっけ。木の実も豊穣の象徴だし……」
そう言いながら、リボンを巻いて、リンゴやブドウの実を象ったオーナメント、どんぐりや松ぼっくりを固定して。
一度距離を取ってそれを見てみる。いい出来栄えだ。
「出来た!」
「お、お前のも出来上がったのか」
声を上げたファイサル。と、ちょうど隣でもブルーテが声を上げる。
嬉々として彼の方を向いたファイサルは目を見開いた。彼の前には既に、五つものリースが出来上がっていたのだ。
「たくさん作りましたね!?」
「ま、このくらいシンプルにすりゃな……少しは変わり種もあった方がいいか?」
肩をすくめながらそう言って、ブルーテが新しいリース台を手に取る。手早く様々な色のリボンを巻いて、蝶結びを作っていく、が。なんだか微妙に、とっ散らかった仕上がりになってしまって。
「……えーと」
「……やりすぎたな。やはり奇抜なのは向かん」
小さく頭を振りながら、結んだリボンを解いていくブルーテだ。
「俺のリースはどこに飾られるのかな。当日を楽しみにしていますよ!」
ファイサルが嬉々としながら、完成品のリースを収める箱に自分の作品を持っていく。その背中は、実に嬉しそうだった。
●マルバノキ
さて、作業に慣れている者もいれば、そうでない者もいる。ザンカとダリアの二名は正しく、慣れていない方の人間だった。
初心者二人ということもあり、この作業台の周囲にはそわそわした様子の工房スタッフが傍についている。
自分たちの周囲がそんなことになっているとはまったく気づかない様子で、ザンカは作業台の上のリース台と飾りを見つつ言った。
「どんなのがいいですかね……♪ 断頭台みたいなのも可愛いし……死神の鎌みたいなのも素敵ですよね!」
彼女の言葉に、一斉に工房スタッフがそっぽを向いた。明らかに笑いをこらえている。
断頭台に死神の鎌、ユールフェスのモチーフとして、これほどそぐわないものもあるまい。困惑した様子でダリアが声をかける。
「あ、あの、クジンさん? リースのモチーフに、そういうのは……」
「え?」
声をかけられ、キョトンとするザンカ。仕方がない、三度の飯より戦闘が好き、というくらいに浮世離れした彼女だ。一般常識なにそれ美味しいの。
ともあれ、ダリアから丁寧にユールフェスの、果てはリースの説明をされて、その発想はなかったとばかりに声を上げる彼女である。
「あー! そういうお決まりの形みたいなのがあるんですね! 完全に理解しましたよぅ!」
彼女の言葉に、ダリアだけではない、周囲の工房スタッフも口をぽかんと開いていた。恥ずかしがりながら、ザンカが頭を掻く。
「ふふ……修行ばかりしていたもので、少々世間知らずで申し訳ありません♪」
「お、お分かりいただけたのなら何より……」
少し引き攣った笑みを浮かべるダリアが頷くと。
ザンカがぐ、とその右手を握って言い放った。
「ならば、伝統的なリースを参考に魔除けが大いに期待できるものに仕上げてみせましょう!」
「……お分かり、いただけたのかしら、本当に……」
彼女の言葉に、小さく、気持ち茫然としながら零されたダリアの言葉に、工房スタッフが再びそっぽを向いた。確かにリースは魔除けのために飾るものだけれど。幸運を呼び込むためのものであるけれど。
秘かに隣を心配しながら、ダリアが周囲に視線を巡らせる。正直、自分の技量では一人でやるには不安がある。汚れてもいいように、服装は整えてきたけれども。
「どなたか、工房の職人の方などはいらっしゃるかしら……」
「おや、どうなさいました?」
と、ダリアの視線を受けて初老の男性ヒューマンが寄ってくる。エプロンをかけた工房のスタッフへと、ダリアは小さく頭を下げる。
「実は私、このような作業は初めてでして……手ほどきをお願いできますかしら」
「なるほど。そういうことでしたら、大いに――」
「出来ました!」
協力しよう、と男性スタッフが言うより早く、ザンカが快哉を上げる。
が、彼女の作り上げて掲げたものを見て、その場の全員が変な声を出した。
「んっ」
「んんっ」
「えっ?」
明らかに異常な反応に、さすがのザンカも戸惑いを隠せない。
だが、仕方ない。なにしろ彼女が作り上げたリースには、武骨な大剣やら大鎌やら、やたらと物々しいオブジェがたくさん飾られていたからだ。大剣などリースに背負われるように飾られ、何か別の飾りのようにも見える。
す、と男性スタッフの目元に影が落ちた。
「……お二方。今この時から、私の指示に意見することは認めません。私の指示に、きっちり、従っていただきます。いいですね?」
「はいっ、よろしくお願いいたしますわ! はりきって作りますわよ!」
重々しい男性スタッフの声に、ダリアが背筋を伸ばしてすぐさま答える。一方ザンカはというと、未だ状況が飲み込めていないようだ。大いに困惑している。
「えっえっ、なんで!? これもかっこよくて――」
「返事は『はい』!!」
「はいっっ!!」
強い口調で言われて、反射的に背筋が伸びる。その拍子に大きく返事を返した彼女に、スタッフが大きく頷いた。
「よろしい。まずはリースの基本形となる、ヒイラギの葉にナンテンの実を使ったものを……」
そこから、初老の男性スタッフによる鬼指導が始まった。結果的にザンカもダリアも、安全で華やかな、ちゃんとしたリースが作れたという。
●クリスマスローズ
スタッフによる指導が始まる中、別の意味で工房スタッフの注目を集めている作業台があった。ザザとキオルティスが作業している場所である。
何をしているのかと言うと、キオルティスが非常に薄い板と松ぼっくりを鍋で赤く染色しているのだ。色を塗るための絵の具は多数用意されているが、煮込んでの染色とは手が込んでいる。
「るる~、る~……♪」
「歌いながらの作業だなんて、さすがは吟遊詩人、というところかしら?」
ご機嫌で歌いながら、染色を終えて乾かした材料を確認していくキオルティス。彼の様子に目を奪われつつ、ザザがスケッチブックに鉛筆を走らせる。
彼女も彼女で、精細なデザイン案を描き溜めてから作業を開始する心づもりらしい。その細かで、緻密に計算されたデザインに、スタッフは目を奪われていた。
手元で小刀を操りながら、キオルティスが笑う。
「そうだろう? だって自分だけの、世界に一つだけのリースを作り上げるんだ。楽しくて歌い出しちゃうというものさ」
「なるほどね……それにしても、凄いわね、それ」
そう言って嘆息しながら、ザザがキオルティスの手元に視線を向ける。彼の手の中には、薄板を組み合わせて作り上げた深紅の薔薇が咲き誇っていた。
「ふふ~♪ 木製の板を曲げて作った薔薇の花さ。綺麗だろう?」
「すごいわ。それに松ぼっくりも赤く染めて……」
キオルティスの手の込みように、ザザは畏敬の念を禁じ得ない。薔薇を飾りたいならザザがしたようにミニバラの生花を使ってもいいし、シダーローズを使う手もある。それを、彼は一から自分の手で作り上げてしまったのだ。恐ろしい拘りようである。
ともあれ、二人の作業は着実に開始される。粛々と、とはいかなかった。なにせザザの隣で、キオルティスはずっと歌い続けているのだ。
「赤~♪ 埋め尽くさんばかりの赤~♪ だけどそこに緑がなくちゃ~♪」
「うっ……私も見劣りしないようにしないと」
普通の茶色いリース台を、どんどん真っ赤に染め上げて、申し訳程度の苔とヒバで緑を足していくキオルティス。その淀みない、迷いのない作業に冷や汗を垂らしながら、ザザも自分のリースを作っていった。
赤いアマリリスと白いミニバラ、そこに金のリボンを結ぶリース。そして青や白に色づいた花々と、銀に染めた松ぼっくりを付け加えたリース。
「んー……こっちのリースはグリーンネックレスで緑を足すと綺麗だわ。この辺に足していきましょう。こっちのは、人工物を……このビーズなんか綺麗ね」
そうしてそれぞれのリースに、デザイン画に従って必要なアイテムを足していくザザ。もうそろそろリースの完成も見えるだろう、というところで、キオルティスも最後の仕上げにかかっていた。
「最後に銀の糸をくるくるり~♪ ふぅ~!」
「あら、完成したのね……私のも、一つ出来たわ」
真っ赤なリースを掲げた彼の横で、ザザもふっと息を吐く。その手の中には金と赤、白に彩られた鮮やかなリースがあった。
「ふっふぅ! いいね、華麗だね!」
「ありがとう。こっちのも、ここに銀のベルを……よしっ! どうかしら?」
もう一つのリースにも最後の仕上げ。銀色の大きなベルを飾り付け、作業台の上に置いた。周囲のスタッフから感嘆の声が漏れる。
「おぉ~……!」
その声に、キオルティスもザザも満足そうに微笑む。こうして形になったリースは、いずれの日にアキュアリスタの街に飾られ、人々の目を楽しませるのだ。
「いいわね……このリースが、アキュアリスタの街を彩るのが楽しみだわ」
うっすらと目を細めながらザザが言葉を零す。今日という日に作られたリースが、町の各所に飾られる日が、今から待ち遠しくて仕方ない。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準12 / 4〜12人
2020年12月08日 12時54分32秒 公開
参加者
相談掲示板
ダリア・レプシウスです。 よろしくお願いいたします。
ヒーラーのシャロンです。 よろしくお願いします。 どんなデザインにしようか迷いますね……!
キオルティスと言うよ。 自分で創るデザインもさることながら、皆のリースも楽しみだよ! 今回は宜しくね。
リサです!よろしくおねがいします!
レヴァーレ・クアルムです、よろしくお願いします。 さてさてどうしますか……。
ファイサル・アル=ファルド。 どなたさんもどうぞよろしくお願いします。 リースを作るのは初めてだが、いいやつ作れるよう頑張る!
ゲルダです。よろしくお願いします。 えへへ、リース作り、楽しみです。可愛くできるように、頑張りますね。
はっ…ゲルダさんっ ご一緒させて頂いてもいいでしょうかっ? こう、あまり手先は器用で無いもので…ご迷惑でなければ、一緒にお願いしたいです…
ブルーテ・ビシアだ。よろしくな。 こういう作業自体は結構好きなんだが、問題はデザインの方だな。 まあ見劣りしないものを作れるよう努めるとしよう。
ザザ=ステルヴィナよ。今回はヨロシクねん♪ ――さて、どんなリースにしようかしら…。彩りも重要よね。 (おもむろにデザイン画を描き始める)
ご挨拶が遅くなってしまいました♪ ザンカ・クジンです♪ どうぞよろしくね!
>リサ様 わわ、すみません、お返事遅れました……! はい、……はい!もちろん、よろこんで! えへへ、わたしも特別に器用なわけではないので、大丈夫です。 一緒に、可愛いリース作り、頑張りましょう。
おや、こないだご挨拶したつもりがうまくいっていなかったようだ。 ご機嫌よう、リザードマンのトマスだよ。手先はあんまり器用じゃあないけれど、楽しく作りたいねー。