絵物語の作者を捜索せよ

九蓮宝燈

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シナリオID:161

オープニング

●不審な小包
 冒険者ギルド・カンパリ市支部。リブラネスタから北へ進路を取って数日の、街道沿いの街にある地方支部。
 その朝出勤してきた受付嬢・アルミレア・A・アンダーソンは、ギルドの玄関に見慣れない小包が置いてあるのを発見した。
「なにこれ?」
 通常の郵便物であれば、裏口に専用のポストがあるので、そこに投かんされているはずだ。その場で【探波】にてサーチしたところ、何らかの罠を仕掛けられている気配はない。
(紙の束みたいだけどなんだろう? とりあえず持って入ってみるか)

 ギルド内では事務員のブリジット・L(ルイザ)・イングリスが始業前の掃除を終わらせているところだった。彼女は名前被りのため、B.L.とイニシャルで呼ばれている。今日はB.L.が掃除当番だったため、アルミレアよりも少し早く出勤していたのだ。
「B.L.姉さん。これ、何か置いてあったんだけど……」
 郵便物はB.L.たち事務員の担当だ。アルミレアは引き継ぎに際してさっきあったことを説明する。
「ふーん? 変ね……って、あら?」
 B.L.はその小包の中に入っていた二つの封筒の大きな方の宛名を見て手を止めた。
「なにこれ。ウィリアム王子とレイウェスト皇子宛てじゃない。なんでこんなところに?」
 怪訝に思いながらもう一つの小さな封筒を確認。こちらはカンパリ支部宛てだった。

 アルミレアとB.L.が確認したところ、曰く「自分はウィリアム王子とレイウェスト皇子のファンである。二人の姿絵を描いたので本人に届けたい。彼らは冒険者だからギルドなら連絡がつくはず。どうにかして転送してほしい」とのこと。

「なるほど、荷物を送りたくてこの支部に置いたのね。確かにお二人は冒険者だけど……」
「届くかってのが疑問なのもあるけど、はいそうですかって送っていいもの? ファンレターってほら……色々あるって言うし」
「信書の開封は判断しづらい問題ね。支部長に相談してみる」
 劇団などでは、俳優に偏執的な恋愛感情を綴った手紙や、意味不明な脅迫状など、貰ってありがたくないものが来ることもある。なので本人に届ける前に付き人が確認するケースは珍しくない。だがウィリアムやレイウェストの場合は、そのあたりのルールについて、少なくとも二人は何か聞いていたわけではない。
「アルミレア。また【探波】が必要になるかもしれない。休憩中も外に出ないようにしておいて」
「りょうかーい。じゃあお昼は酒場で食べようかな」
 そして二人は日常の業務に戻っていった。

●本人バレして宗派潰す気か
 アルミレアがギルド付属の酒場で塩麴ローストビーフ丼をほおばっていた時のこと。
「アルミレア! あれ! 超危険物だったわ!」
 鼻息荒くB.L.が駆け込んできた。
「マジ?! 支部長は無事?」
 無事だけど、とりあえずお客さんがいるところではまずい。アルミレアは事務所に呼ばれた。

 大きな封筒から出てきたモノはただの姿絵ではなく、『ドゥジンシ』であった。
 ドゥジンシとは絵画神・ドゥジンの信徒の間で、信仰の一環としてしたためられる絵物語である。偉大な英雄の業績を後世に残すため、紙や石にその姿を刻むのが彼らの祈り。だが、往々にしてやたらと可憐なディフォルメがされていたり、ありもしない恋物語(しかも同性愛)を妄想されたりすることもあるという。
「これは存命中の実在人物を題材とした(ナマモノ)ドゥジンシよ! ウィリアム×レイウェストの!」
 ギルド職員・B.L.。そのプライベートの姿は熱心なドゥジン信徒だった。

 B.L.が言うところには、存命中、あるいは死後間もない実在人物を取り扱うドゥジンシの場合、本人や近しい関係者の目に触れると不快な思いをさせかねないため、密かに活動するのがしきたりだという。
 もし中傷だ、脚色だという声が本人から上がれば、信徒は謝罪して信仰を捨てる他ない。なぜならドゥジンシを描くほど好きな相手の気持ちは、自分の信仰より優先されるから。
 もし本人にバレそうなことをしている者を見つけた場合、注意しあうのがその宗派を長続きさせるコツなのだ。

「ここで握りつぶせばいい話なんだけど、ちゃんと注意してあげなきゃ。それに私にはこんなに熱い祈りが込められたものを捨てるなんてできない。こんな好みの絵……礼拝(イベント)で見かけたら絶対覚えてるはずなのに」
 ぶつぶつと駄々漏らすB.L.。
「アルミレア、依頼出して。このドゥジンシを描いた人物を探し出して返してあげて。……ついでにこれを」
 二冊のスケッチブックを取り出すB.L.。
「こっちは私が描いたウィリアム(冒険者ウィルver.)が一ページ目にある。これをこのドゥジンシの作者に渡して。もう一つは何も描いてない。これの一ページ目に、その人にレイウェスト皇子を描いてもらってきて。できればでいいから」
「はぁ……名刺交換みたいなもの?」
「そんな感じよ。あーでもウィリアム×レイウェスト派かぁ。私はレイウェスト×ウィリアム萌えなのよね。この子、リバ(受け攻め逆転)はイケるかなぁ……」
 アルミレアにはさっぱりわからないが、ドゥジンの信徒同士の友情が生まれる瞬間に立ち会っているのかもしれない。
 なんだかへんなニオイがするけれど、きっとこれは美しいこと……と考えながら、アルミレアは依頼書を発行した。
 

解説

●目標  ドゥジンシの作者を発見し冊子を返却する ●ドゥジンシの作者  ???  ドゥジンの信徒は|礼拝《イベント》で自身の創作物を見せ合い、信仰を共有しあうことが多いらしい。  また、信仰対象の情報交換をするためにも礼拝は欠かせないものであるとのこと。  が、B.L.曰く『それらしい人を見たことはない』。 ●手がかり ・ドゥジンシ  30ページほどの冊子。  製本は紙を紐で綴っただけの手作り感のある雰囲気。  紙のサイズは現実でいうところのB5ほどで、全部同じ。 ・手紙  封筒も便せんも可愛くて女の子らしいもの。  封蝋で封印されていた。  蝋に押されたスタンプは家紋などオーダーメイドっぽいものではなく、既製品。猫ちゃんの意匠。 ・小包  封筒状に折り、糊付けされた紙に冊子と手紙が入っていた。  包みが解けないようリボンで留められていた。 ・小包が届いた時間  朝の8時にアルミレアが出勤してきたとき、ギルドの玄関のドアの前に置かれていた。 ●NPC  アルミレア・A・アンダーソン  ギルド職員(受付嬢)。ドゥジンのことは全然わからない。  ブリジット・L・イングリス  ギルド職員(事務員)。愛称『B.L.』。今回の依頼者。  若いころからドゥジンの信徒。歴史に埋もれてしまうような英雄の何気ない日常ネタに至上の尊みを感じる性癖であり、自然と存命中の人物を題材とした宗派に傾倒していくようになった。  現在レイウェスト×ウィリアム(ヘタレ攻め×誘い受け)に夢中。礼拝の仲間たちの間に張り巡らされた美男子情報ネットワークから得られる彼らのなんでもないようなゴシップを吸って生きている。 ●やること  前半:調査パート。  手がかりに対して適切な調査を行うことで、PC達は捜査対象者を絞り込むことができる。  ふんわりしたアクションだった場合は一般行為判定を用いる。  情報を手に入れるたび対象が狭まっていき、最終的に一人にいきつくことができれば成功。  後半:説得パート。  ドゥジンシ作者に題材本人にドゥジンシを描いていることをバラしてはいけないことを伝える。  他、B.L.からのついでのお願いを伝言したり、みんなで萌えを共有したり、新しい沼に引きずり込んだり、必要と思われる動きorしたい動き。  プレイング配分等の影響で各パート描写量の調整あり。

マスターより

 九蓮です。  帝国崩壊ノベルが性癖に刺さりまくった結果、勢いでこういうシナリオを書いてしまいました。えっちすぎる。  調査パートはそう難しくないと思います。  皆さまのウィリアム王子とレイウェストきゅんへの萌え、お待ちしております。  質問があれば、相談卓にて冒頭に【質問】と書いて投稿してください。  世界観、判定にかかわらない範囲でアルミレアがお答えします。

リプレイ

●黒曜の君の艶姿
 冒険者ギルドカンパリ支部。一風変わった依頼を受けた冒険者達。
 渦中の黒曜子は今頃、帝国難民キャンプを訪れ、民の不遇に心を痛めているのだろう。その裏側でこのような椿事が繰り広げられているなどと、露にも思うまい。

 それはさておき。
「謎の小包とただならぬ雰囲気のドゥジンシ。これは事件のにおいがプンプンするねっ!」
 鹿追帽とインバネスコートを着たサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが虫眼鏡で件の冊子を観察。絵画神ドゥジンの信徒の祈りの書、ドゥジンシである。

「レイウェスト殿に送るとしてこれを見るのはまずエフレム殿なのだ。きっと困惑しながら最後まで読んで自分の書棚に隠すと思うのだ」
 ストレガ・L・リベルガストラが、作者の希望通りにした場合の影響について考察。
 エフレムとレイウェストの主従関係推しのナハト・シュライバーが、ついうっかりそれを別の方向に解釈。
「そこはまだいい。ウィリアム殿に送ると面白半分興味本位で諸侯に教えまくると思うのだ。」
 放浪王子(ウィリアム)であれば、面白いモノを面白く使うだけであろう。たとえそれが自分を性的に描いたシロモノであっても。何の根拠もないが妙な説得力のある意見だ。
「B.L.さんが礼拝でそれらしい人を見たことがないってのと、ナマモノのドゥジンシを本人に転送しようとする無謀さから察するに、まだドゥジン信徒としては日が浅い子なのかな? 手紙の可愛らしさから若い女の子かなって思うけど、男の人って可能性もなくはないんだっけ……」
 空冬・シラユキが作者について分析。ギルドに宛てられた手紙はとても女性らしいものだった。だがドゥジン信徒が皆女性とは限らないし、女性的な文具が好きな男性だっている。
「うん。対象者がしぼれるまで先入観は持たないほうがいいだろうね」
 ニール・ロブラリアが同意を示す。
「でも、手紙の作法を知ってるひとかな」
 読み書きができない人間も多い。字が書け、手紙の作法を知っているのならば、上流階級の人間である可能性は高い。
「ドゥジン、私は寡聞にして知らなかったが、信仰に於いて、相応の仕来りがあるのは良く分かる。急ぎ、伝えねばな」
 と、サマエラ=フォリウム。内容がいかな物であろうと、信仰には作法がある。そして往々にしてその作法とは、何らかのそうあるべき理由があるものだ。
「ボクの保護者、神話の研究者だから、ドゥジンのこと聞いたこと、あるよ。今ならドゥジンシが、隠すように仕舞われていた理由もわかる。ボク自身は信徒ではないとはいえ、皆が信仰を続けていけるように尽力するね」
 ドゥジン信徒のために頑張ろうと誓うニール。

 まずは中身を見てみなければ話は始まらない。
 希望者がパラパラと、あるいはじっくりページをめくる。
「……うん。描かれた二人の密着率、高いね」
 ニールが感想をこぼす。どこかに連絡先が書かれていないかと、最初から通して読んでいたのだが……。
 紙面には薄着のウィリアムとレイウェストが、おへそをくっつけあうように体を擦り寄せ、切なげにお互いを求める様子がありありと描かれている。
 画力が高いだけに淫靡で、日が高いうちから読むのは後ろめたい気がしてしまうものだった。
「これ結構きわどい感じだけど大丈夫かな……?」
 サフィラが見ているのはラストのシーンだ。天蓋付きの王国風のベッドが据えられた、大理石の寝室。大きなガラス窓ごしに朝日に照らされた庭園の木が葉陰を床に落としている。シーツにはつややかな黒髪が墨を流したように広がり、それを愛おしげに撫でる上半身裸のウィリアムが……!
 赤面する二人がテーブルに置いたドゥジンシをマリア・C・クロードが手に取る。
「神よ……強い想いの声を聞かせ給え……」
 残留思念感応(サイコメトリー)。物体や場所に残されたヒトの思念を読み取ることができる能力だ。
「残念ながら、時間が経ちすぎているので原始的な感情しか読み取れませんでした」
 マリアが読み取った、冊子に残された感情は『尊い』であった。
「邪念しかありませんが、悪意は一切ないようでした」
 手紙の通り、作者はこの二人のファンであるということは真であるらしい。
 次にイオ・ラヴバロックが冊子に手を伸ばす。
「是非、私にも読ませてください」
(面白くなりそうですが、当人達にお見せするつもりはないのでしょう? ならば喪失してしまう前に目を通さなくては)
 冊子の内容に興味があるイオはじっくりと中身を確認。そして、匂いを確認。意外な行動に驚く一同。
「……何も? ふざけてもいなければ高度な趣味でもありません。私は少々鼻が利くので残り香から必要な情報を得ています」
 彼のスキル・超嗅覚。イオは犬並みの嗅覚を持っている。残り香によって作者の職業や直近の行動を推察できるのではと考えたのだ。冊子に残された匂いは、彼の経歴からして決して間違うはずのない匂いだった。
「……血。そして薬の匂いですね」
 これは重要な手がかりだ。

●いざ探偵
「送り名のない荷物であり、そしてとても大事なものであるならば、ちゃんと届けてくれたか気になってくるはずなのだ」
 まずはストレガのアイデアにより、ポスト他ギルド内のわかりやすいところに貼紙がされることになった。
『探し人:〇日△時、王子宛に荷物を送りたいと小包を投函した方。心当たりある方は事務所まで』
 これで今日作者が見つからずとも、いずれ名乗り出てくれるかもしれない。

 空冬は紙を手がかりに画材店へ。
 目的の画材店は案外すぐに特定できた。紙のサイズが皆同じだったのは、同じ工房の同じ型で成形されたものだったからだ。冊子に使われた紙は全て同じ店で購入されていた。
 紙を買う客に声をかけていた空冬に店主が事情をたずね、最近売った客を教えてくれた。
 絵を描くための紙を買う客はそう多くなく、覚えていたらしい。

 ナハトも紙から画材店と客の情報を入手。
 それに加え、文具店で手紙に使われたものを買った客について調査。
 例の便せんやスタンプは高級住宅街に住む十代後半の女の子達の間で流行っているらしい。

 イオは仕立て屋に調査に来ていた。
(作家は汚れがつかぬよう袖や肘に厚地の布を縫い付ける事がありますからね)
 熱心に筆を動かせば袖が破れたり汚れたりする可能性は高い。そうなれば、保護したり修繕したりしているはず。
 その方向性の調査は手作業をする人や事務員の情報に紛れてしまっていたが、小包を留めていたリボンと同じものを売っている店を発見。
 また、インクの匂いから画材店を特定していた。

 マリアは製本所に問い合わせてみたが、この冊子を手がけたところは見つからなかった。
 紙を綴ったのは作者本人であるらしい。

●聞き込み調査
 その夜、ギルドの酒場。
 B.L.の仲間がボックス席に集まっていた。サフィラの要請を受けて昼間のうちに声をかけておいたのだ。
 アナンディーン推し(ケモナー)の嬢とドン・ゴーフル(甘党ワルギャップ)萌えの嬢だ。
「この絵柄の作者に見覚えはないかな?」
 絵柄がよく分かる一枚を見せながらサフィラが尋ねる。
「あら、上手いわね。とくに体が上手い」
「これだけ上手ければ目立つはずなんだけどね」
 二人とも絵柄から作者を特定はできない様子。
「でもこれ、お手本なしで描ける絵じゃないわね。モデルにポーズをとってもらったんじゃないかしら」
「でもモデル使ったんならここのミスはしないわ。人の体を普段から見慣れてる人が記憶だよりに描いたんじゃないかな」
 サフィラは、イオの超嗅覚で得られた冊子から血と薬の匂いがついているという情報を思い出した。
(医療に関わる人なら人の体を見慣れてるはずだよね!)
 線がつながる。
「じゃあ! 王子(ウィル)×皇子(レイ)派に最近入信した子は?」
「今一番勢いがある派閥ね。私も出入りしてるけど、いなかったと思うわ」
 B.L.の人脈から得られる情報はここまでのようだ。
「ところで、みなさんの性癖って~……」
 虎穴に入ったサフィラはこの後閉店まで、お姉さま方のおごりで萌え語りを聞かされることになった……。

 同日同所、別のテーブルでは、サマエラとニールは客相手に聞き取り。
 ほとんどがストレガの貼紙を見ていたため事情はスムーズに理解された。
 前日十八時半から当日八時までの目撃情報について調べようとしたが「当日私が出勤してきた時にはなかったわ。時間は七時半ね」と、B.L.から助言。
 開店準備を行っていた付近の店主や、朝一番に依頼を見に来た冒険者を狙っていくことに。
 荷物を置いた瞬間は見た者はいなかったが、通りかかったのを目撃された人物が何人か浮上。
 ちなみに、ニールがチラ見せした『王子(ウィル)×皇子(レイ)』という文字列に強い感情を抱いた者が何人かいたことを、マリアの残留思念感応(サイコメトリー)が明らかにしていたが、その中に作者はいなかった。

 ここで一旦情報整理。
 手がかりになる物品を購入した店から作者の行動範囲を絞り込む。ナハトが郵便を使わなかったことから推理したように、ギルドに近い高級住宅街だった。これはニールが手紙の作法から推理した事と一致している。
 手紙の様子と、文具店で得られた『十代後半の女の子の間で流行している品』という情報。聞き取りで得られた目撃情報と、画材店・文具店・仕立屋の顧客の情報を照会し、重複する人物をピックアップ。
 さらに裏付けに、作者の行動範囲内にある、十代後半の女の子がいる医療施設――神殿、診療所、薬局の類――について、酒場の客に聞き込み。
 その娘はこんな容姿かと、当日朝の目撃情報と照会していった結果、一人の少女が浮かび上がった。

●おいでよドゥジンの沼
 冒険者ギルド・カンパリ支部近くの高級住宅街にある診療所。そこの一人娘・フラン。御年十八歳。
 冊子とスケブを携えて訪問した冒険者達を迎えたのは、大人しくて真面目そうな少女だった。
「その前に、お前はドゥジン信徒という認識で、問題ないだろうか?」
 切り出したサマエラ。なぜ小包を送ろうとしたのか、それを肯定も否定もせず、事情だけを尋ねる。中立的なスタンスはフランに警戒心を抱かせなかったため、すんなり答えを聞くことができた。
「えぇと……そうですね。まだ洗礼を受けたり神殿を訪れたりしたことはありません。この絵は、レイウェスト様のお姿を見た瞬間、描きたい思いが止められなくて……。正式な入信より先に描いてしまったものです」
 冒険者たちの多くがそう予想したように、ドゥジンシを描いたのは初めてで、他の信徒とのつながりを持っていなかった。
 礼拝に参加したことがなかったのは、信徒ではなかったこともあるが、家業が診療所でよく伝染する病気をもらっていたため、人の集まるところに出るのをためらっていたという理由もあったそうだ。
 元々絵を描くことが好きで、ドゥジン信徒の祈りの方法を風の噂程度に知っていた。ドゥジンシの存在は知っていたが具体的な作法は知らなかったのだ。

「まずは最初から教えてあげるのだ。これは本人に知らせず仲間内でこっそりやるものなのだ」
「本人にみせてどうしたかったのかな。例えば、おれがこういうことされたら……。おれは別になんとも思わないか。でも、レイウェストさんたちはそうとは限らない。本人たちの目に触れて、不快に思われたりしたら、これを描いたキミも悲しくならない?」
 大原則を端的に教えるストレガと、意図を聞く空冬。
「そうだったんですね。私、レイウェスト様が本当に好きで。帝国が大変でお辛い思いをされていると思って、応援したかったんです。でも、自分の思いを押し付ける行為だったのですね」
 しょんぼりするフラン。しかし素直に反省しているようだ。
「うーん…あたしはドゥジンシ詳しくないしマナーとかもよく知らないけど、本人に意中の人との恋愛を描いた絵を送ったら、恥ずかしいと思うし立場のある人だったらスキャンダルのタネになると思うんだよねっ」
「えっ!? 本当にお二人は思いあってるんですか!?」
 サフィラにくいつくフラン。だがすぐ頭を振ってそうじゃないと自分で打ち消す。
「私、他の信徒の方にご迷惑をかけるところだったのですね。もう描くのは止めた方が……」
 フランの言葉をイオが遮る。
「貴方の作品は素晴らしかった、本当です」
 顔を上げるフラン。
「男同士……大いに結構。私は己の信ずるものを追い求める者を評価します。何であれ、どうであれ、人間が、矜持を抱いたその姿は美しい」
「そうなのだ。描くなとは言ってない。むしろ描け。表現は自由でなければならないのだ」
 ストレガも描くことを促す。
「神の信徒である私が言うのも何ではありますが、信仰の形は自由です。けれど自由であるからと言って何でもしていいというわけではないのは当然です。こうした依頼が出される以上、誰かの信仰にぶつかってしまっているのではないでしょうか」
 厳しいマリアの言葉に眉を下げるフラン。マリアはですが! と言葉を続ける。
「ぶつかるという事はその想いは形は違えど似た信仰を持つ方がいる証だからです。信仰とは愛です。同じ愛を抱くのであればきっと仲良くなれます――ぶつかり不幸な想いを双方抱くより、仲良くして互いに語り合えたらよくないですか?」
「ごめんなさい。ありがとうございます……。私、また描きます。今度はちゃんとマナーを勉強して」
 フランは納得し、行動を改めることを約束した。

 残る問題は、どうやって仕来りを学ぶかどうか。
「信仰に属するならば、やはり他の信徒とも繋がりはあった方が良い」
「このドゥジンシを待ってる人、たぶんいっぱいいると思う。然るべき場所に持っていくべきだよ」
「これからも描き続けるんなら、やっぱり先達の教えには従った方が良いと思います。というか、俺も描き続けて欲しいですし」
 冒険者達は仲間を作ることを提案。
 サマエラが二冊のスケブを取り出す。
「B.L.という者が、お前のことをとても気に掛けていた……良ければ、知り合ってみてはどうだろう」
「B.L.姉さんと合同であついドゥジンシの制作もいいと思う。姉さんは左右逆みたいだけど」
 ウィリアムが描かれたほうのスケブにはサフィラの勧めでB.L.の連絡先が書かれている。
「なんて色っぽいウィル! ギルドの事務員さん……この方もドゥジンの信徒なのですね。左右逆……?」
 ニールが説明を補足。フランは「えぇ!? でもこのウィリアム様解釈ならアリかも……」と逡巡。
 そこに追加される二冊のスケブ。
「……ところで、よろしければ私のことも描いていただけませんか?」
「あの、俺もレイウェスト様描いてもらっていいですか……?」
 自分の絵が必要とされた嬉しさで、フランは快く受け取った。

 かくして奇妙な騒動は、ウィリアムとレイウェストに知られぬうちに無事解決。カンパリ市に新しい友情が芽生えた。

マスターコメント

 ご参加ありがとうございました。  調査系シナリオは敬遠されがちなので不安でしたが、満員御礼と的確なプレイングをいただき、無事成功と相成りました。皆様のおかげです。  MVP該当者多数につき大成功判定とさせていただきました。  帝国をめぐる状況はシリアスで重たい展開が続いておりますが、楽しんでいただけたら幸いです。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2020年11月14日 09時22分00秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. サマエラ=フォリウム

    ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。 絵画神・ドゥジン……芸術に類する神か。 そちらにはあまり明るくないが、信仰に於いて、それぞれの仕来りが大切なのは、分かる。 信徒を探し、それを伝えるに尽力しよう。よろしく頼む。

  2. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ! あたしもドゥジンシはよく分からないけど、マナー違反を注意すればいいんだよねっ? 調査パートは謎解きみたいで面白そうだから頑張るねっ! (PLはウィリアム×レイウェストのリバ有り派です(何))

  3. ナハト・シュライバー

    シューターのナハト・シュライバーです。 僕もドゥジンって良くわからないんですけど、レイウェスト様の絵はちょっと気になります。 素晴らしい絵師なら筆折るようなことになったら残念ですし、説得頑張りたいですね。 調査の方も少しでもお役に立てたら嬉しいです。 そんなわけで、駆け出しですがよろしくお願いします。

  4. 空冬・シラユキ

    シーフの空冬・シラユキ。 おれもドゥジンシのことはよくわからないけど、えーと……ナマモノ?は危ないって気はする。うん。 説得がんばりたい。

  5. ストレガ・L・リベルガストラ

    ん、ストレガなのだ。よろしくなのだ。 ドゥジンシはまあわかるのだ。マナーは学ばねばならんのだ

  6. ニール・ロブラリア

    ニール・ロブラリア。ハーフリングのシューターだよ。よろしくね。 ボク自身は信徒ではないけれど、ドゥジンシ、わかるよ。 ボクの保護者が神話の研究者だったから、そのなかにドゥジンに関するものがあったんだ。 まずは作者を見つけないとね。 そうだ。今回ドゥジンシに描かれた二人のお名前の順番……左右、ともいうんだっけ……は、 とても重要な意味を持つから、調査や説得にあたるときは注意した方がいい、かな。

  7. ナハト・シュライバー

    調査なんですけど、朝の八時ならギルド周辺の商店は開店準備してたり、職種によっては既に仕事始めてたり、夜の仕事なら帰宅する時間帯ですよね? だから目撃者も探せばいるんじゃないかって思いました。 時間帯と直接の持ち込みなら意外と近所に住んでる可能性もありそうです。 あとは……ドゥジンシを作る為の画材とか紙類、併せて手紙や封蝋を購入した画材屋や文具店などを当たれば情報を集められそうでしょうか。 手分けして話を聞いて情報を集められると良いですね。

  8. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    うーん…解説を見る限りだと 「通常の郵便で届いたものでは無い」 「朝8時にはあった」 「蝋のスタンプは既製品」 「BLはそれらしい人を見たことがない」 ってのがヒントだよねー 通常の郵便を使ってなくて、カンパリ支部の場所が分かるくらい土地勘があるのならナハトが言うようにご近所さんかもね!

  9. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    あ、そうだ!アルミレアに質問があるんだけどっ! 【質問】冒険者ギルドのカンパリ支部は何時に閉まる?24時間営業の場合、アルミレアは何時に帰った?

  10. アルミレア・A・アンダーソン

    みんな参加ありがとうね。 【回答】 支部の業務は一応18時までね。 あたしは宿直はなかったから18時半には帰ったわ。 併設の酒場のほうはもっと遅くまでやっていて、昨夜は0時くらいまでは営業してたみたい。

  11. ナハト・シュライバー

    アルミレアさん、僕からもいくつか質問を。 【質問】 ①カンパリ市内に画材や紙を扱う専門店は存在しますか? ②近々礼拝が行われる予定があるなら、その日時や場所を教えて頂いて良いですか? ③今回のドゥジンシは全年齢対象ですか、それとも年齢制限がありそうな内容ですか? ③は、その……調べてみたらドゥジンシはものによっては過激な表現があって、読む者の年齢に制限がかけられてる場合があるって聞いたので。 僕の年齢(14)でも今回の本の内容を確認しても大丈夫ですか?って意図です。

  12. サマエラ=フォリウム

    各質問や、アルミレアは回答対応を、ありがとう。 調査パートでの仕事がなくならない程度に、諸々確認を取れたら、良いな。 ……名の順番や年齢制限等、あるのか。 知らぬことも多い、私も気を付けねばな……。 意外に近所の可能性は確かに、あると思う。 であれば、目撃者が見付かれば、割合すぐに本人まで辿り着くやもしれないな。 私もひとまず、近場での聞き込みから始めてみようか。

  13. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    アルミレア!回答ありがとー!! うーん、ってことは玄関に小包が置かれたのは少なくとも18時半から翌朝8時までの間、人目を避けて置いたなら0時から翌朝8時の間って事だねっ! この時間にしぼって目撃情報調べると手がかりが見つかりそうかもっ!

  14. アルミレア・A・アンダーソン

    相談お疲れ様。 サマエラさんは何度かお世話になってるわね、いつもありがとう。 判定にかかわらない範囲でしかお答えできないのがルールだから、ダメなときはダメっていうわね。 【回答】 ①ええ、あるわ。複数ね。 ②年末に大きい礼拝があるらしい……とB.L.姉さんが言ってたわ。場所や日程とか、具体的なことはわからないけど。 ③いわゆる『パカ倫』に触れない程度の内容ね。性行為そのものや、性行為を想起させるような脱衣描写はないけど、若干のお色気やハグやキスのような軽度の描写はあったわ。同性愛が苦手じゃなければだけど、一般的に14歳が読んでも問題ないと思われるわ。 (メタだけど、プレイングで1人数ページ分くらいなら『こういう描写があった』としてロールプレイしてもらっても構わないわ)

  15. ニール・ロブラリア

    調査、説得ともに、手分けして行う感じでいいのかな? >小包が届いた時間 B.L.姉さんが先に出勤していたのなら、ギルドの玄関見てるかも。 確認して、もし姉さん出勤時になかったのなら、朝の時間帯でかなりしぼれるね。 聞き込みの他だと、内容物の精査、かな。 何らかのヒントがないか改めてドゥジンシや手紙、あたってみる。 ボク自身はこの確認と、聞き込みはギルド内がメインの予定だよ。 もし行動分けた方がいいなら、聞き込み優先にするつもり。 説得の方はあまり得手ではないし、フォロー程度になりそう。

  16. イオ・ラヴバロック

    ご挨拶が遅くなってしまいました。 キャスターの……と言っても今回は戦闘ではありませんが。イオ・ラヴバロックです、皆様、よろしくお願いします。 はてさて、絵物語の作者……どのような方か、興味をそそられますね。 私は主に、洞察と、匂いで、目星をつけて当たってみましょう。説明文の通り、うまく対象を狭めていきたいですね。 是非とも、お会いして色々と話を聞いてみたいものですが……

  17. 空冬・シラユキ

    あんまり相談に顔だせてなくてごめんね。 おれは調査はほどほどに、説得のほう注力してみるよ。 ドゥジンのことはよくわからないし、話が得意かっていうとそうでもないんだけど。どういう人がかいてるのか興味ある。 B.L.さんの言う「宗派を長続きさせるコツ」をよく知らないみたいだし、最近信仰するようになった人なのかな? そこら辺であたりつけて聞き込み調査もしてみるよ。

  18. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    いよいよ明日の19時締切だねっ! ここでみんなの行動をまとめてみたよっ! シラユキ→調査ほどほど、説得に注力 イオ→ドゥジンシを読んで目星 ニール→ドゥジンシと手紙を精査&ギルドで聴き込み サマエラ→近場で聴き込み ナハト→画材屋、文具店で聴き込み? ストレガ→説得? あたしはブリジットから礼拝仲間に聴き込みしてみようかなっ!もしかしたらブリジットが見落としてる何かがみえるかもっ!

  19. ストレガ・L・リベルガストラ

    説得重点で現場近くの人に聞き込みもしてみるのだ 残留思念感応がとれたらよかったのだがないので地道にやるのだ

  20. ナハト・シュライバー

    アルミレアさんは回答ありがとうございます。 サフィラさんが纏めて下さったように僕は市内の画材店、文具店を中心に聞き込みしてみますね。 他の方の情報とすり合わせれば作者もある程度絞り込めそうですし。

  21. サマエラ=フォリウム

    ああ、アルミレアは、こちらこそいつも世話になる。 改めて、回答対応もありがとう。情報、とても助かる。 サフィラは、行動まとめに感謝を。 こちらも聞き込みで分かったことは、皆と共有し易いように、メモにでもまとめておこう。 調査を手分けして行うならば、情報の擦り合わせに関しては、 適当な時間で区切ってギルドに再度集まり行う感じで、良いだろうか? 説得部分については、主に仕来りの大切さについて説くつもりでいるが…… 上手いことドゥジン信仰に即した言い方で伝えられるよう、もうしばし考えてみる。

  22. 空冬・シラユキ

    サフィラさんは、まとめありがとう。 サマエラさんの言うように、情報共有はギルドに集まってでいいと思う。分かりやすいし。 みんなの情報があれば、かなり絞り込めそうだよね。

  23. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    あたしも残留思念感応買おうと思ったけど、SP4は高いよね…(しょんもり) それはさておき! あたしも聴き込み終わったらカンパリ支部に戻って情報のすり合わせするよ! あ、そうだ!ブリジットがセンパイとしていろいろと教育できるように、お互いのスケッチブックに連絡先を書いてもらうように頼んでみよっかな!

  24. マリア・C・クロード

    遅くなってしまいまして・・・ 私は取れましたので本などから残留思念を読み取ってみようと思います。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0