【秋祭】紅の下で踊りましょう

愁

コメント 21

シナリオID:139

オープニング

●
 風は涼しく空高くなり、ロスガリア大陸に収穫期が訪れた。
 農村では収穫作業に追われる日々。日の出から日の入りまで、穂を刈る小気味のいい鎌音や脱穀の音が絶えず響いている。
 村から町をつなぐ道には収穫を積んだ荷馬車が行き交い、町側もまたそわそわと気忙しさに包まれていた。
 収穫が一段落すると何が行なわれるか。そう、――収穫祭である。
 多種多様な風土や宗教が混在するロスガリア大陸でも、この時期になるとそれらの枠を超え、各地で一斉に収穫祭が行われるのだ。
 元々は秋の恵みに感謝する純然たる収穫祭だったが、いつの頃からか魔物除けや鎮魂祭としての側面を持ち始めた。
 実りの季節であると同時に、夜闇が日毎濃く長くなり行く時期でもある。悪しきものに憑かれぬよう魔物や亡者に仮装をしたり、死者の魂を慰める催しをしたりと、祭りの内容は村や町により様々だ。
 かつて魔の樹海であったフィルエス大森林でもまた、収穫の時期を迎えささやかながらも感謝を捧げる祭りが催されているのであった――。


●ハイアルヴへの感謝と祈り
 フィルエス大森林。魔性の気質は今や緩和され、それを成し遂げたエルフたちの住処になっているがその昔は魔の樹海と呼ばれる場所であった。エルフたちの並々ならぬ努力によって暮らしやすいように変容した森林であるが、そこに至るまでには他種族とひと悶着起きている。故に過去共同戦線を張ったリザードマン以外との交流はさしてない。――なかった。
 これが過去を指し示す通り、今は多少ながらも変化の兆しが見えている。リザードマンたちと共闘したからこそ、他種族とも同じように友好を深められるのではないかという声が上がっているのだ。
「ですので、お招きしたいのです。我らが森へ」
 そう告げるのは旅するエルフの一団と共に森の外へ出たエルフだった。理知的な光を湛える女性は元々その一団の仲間という訳ではなく、こうして直々に顔を合わせたいがために途中まで旅路を共にしたに過ぎないそうだ。帰りは招待者たちと森まで行くことになるらしい。
「でも、どうか、ここだけのお話に。……わたくしも、興味があったのです」
 外の世界に。
 そう告げる彼女の瞳にはほんの少し楽し気で、悪戯っ子のような色が浮かんでいた。

 各地で魔除けや鎮魂の祭りがおこなわれる中、招かれる大森林内の集落は収穫祭の色が強いらしい。森から与えられた秋の恵みに感謝し、この後の季節を乗り切れるようにと祈るのだという。
「秋の恵みを美味しく、頂いて。森へ感謝の舞いを踊る。そうしてハイアルヴに感謝と祈りを捧げる。これが、わたくしたちの、収穫祭です」
 それは森の外と比べたら随分と質素で、面白みもないかもしれない。けれど新鮮な森の恵みを受け、穏やかな森の空気を楽しむことはフィルエス大森林に踏み込んだ者の特権だと女性は告げた。
 ちなみにハイアルヴとはエルフの集落で主だって信奉されている霊的存在である。彼女の集落でもやはりハイアルヴが信仰対象であるらしい。
 話を聞く者たちから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。『沢山食べても大丈夫?』『舞いって難しいのかしら?』『森の中歩いてもいい?』……等々。女性は目を丸くして、それから苦笑を浮かべた。
「順番に答えますね。
 勿論、節度はお願いしたいですが、それなりにご用意はありますよ。悪酔いされないのでしたら、蜂蜜や果実を酒にしたものも、ございます。
 舞いは……感謝の舞い、ですね? 難しくなど、ありません。幼い子も踊りますから。森のさざめきに耳を澄ませて、わたくしの同胞が奏でる音楽に身を委ねて、ゆったりと回るようなものです。難しければ、体を揺らすのでも。
 森の中はあまり、深くまでは入りませんよう。集落の近くであればどうぞ、穏やかな森をお楽しみください。
 ああ、でもどうか――森を害する事は、おやめくださいね」
 それだけはと緩く首を振るエルフ。元より森における調和を保ちながら暮らす種族である。招かれた者が調和を乱すことだけはしてくれるな、と彼女は釘を差したのだった。

解説

 時刻は日中、穏やかな日差しが差し込むエルフの集落です。周辺は紅葉に色づいています。 ・食べる  森の恵みに感謝を捧げて頂きましょう。  狩猟で得た肉を調理したものや採れたて野菜のサラダ、木の実などを持ったツマミ、フルーツの盛り合わせ。蜂蜜酒や果実酒、森の美味しいお水なども用意されています。豪勢とは言えませんが、どれも新鮮さを楽しめる事でしょう。  美味しいご飯に舌鼓を打ちながらエルフやPC同士での交友を図っても良いかもしれません。  エルフはドワーフに対して軽蔑心がありますが、例えドワーフがやってきたとしても同じように感謝と祈りを捧げてくれるのであれば、目に見えた嫌悪は表しません。 ・舞う  エルフの音楽団や森の奏でる自然音に合わせてくるくると回るだけです。1人で気が済むまで回っても、誰かと手を繋いで回っても大丈夫です。苦手な方は身体を揺らすだけでも構いません。  大切なのは『森への感謝と楽しむ心』だそうです。  音楽団の奏でる音楽はスローテンポでゆったりとした曲になります。 ・散歩  集落の付近であればフィルエス大森林を散歩して良いそうです。  モンスターなどの心配はなく、森林浴にはうってつけ。けれど内緒話には少し向かないかもしれません。誰かが通りかかってしまうかも。 ●NPC ・スィニエーク  OPで登場したエルフの女性。20代前半ほどに見えますが、実年齢は現状不明です。  ご指名頂ければ皆様のお相手を務めさせていただきます。 ●イベントシナリオ注意  同行者がいる場合、【】タグで共通名称を記載ください。この時、他のグループと被らないようにお気を付けください。(例:【フィルエス大森林探検隊!】)  また、やりたいことを1つに絞って頂いた方が描写は濃くなります。

マスターより

 初めまして。或いは、こちらでもお目にかかれまして幸いです。愁と申します。  今回は皆様をフィルエス大森林へご招待。この森の一角で収穫祭が行われるようです。紅葉と美味しいご飯、優しい音楽をお楽しみください。  それではご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

リプレイ

●紅を吸い込んで
(……素敵ね)
 アンネエルカはすぅ、と息を吸い込む。秋に彩られた森は清浄な空気で満たされており、心まで浄化されてしまうよう。怒りや悲しみなんてものがあったとしても、この場所を訪れたならすっかり鎮まってしまうだろう。そんな穏やかな気持ちでアンネエルカは森の中を散策していた。
「あ、」
 ふと足元へ視線を向けたら、丁度良い具合に色づいて綺麗な落ち葉を見つけたものだから。踏んで台無しにしてしまう前に足を止め、アンネエルカはそぅっと拾い上げた。
「持ち帰らせて貰うことって出来るかしら……?」
 エルフたちが大切にしている森を訪れた、その思い出に。自然への感謝を忘れない証に。
 森はその問いに答えることなく、あくまで佇んでいるだけ。けれど少なくとも、森を飛び出した者を優しく迎え入れる程には寛容だ。
(久々の里帰りだな)
 アルマン・アルスターは紅色に目を細めながら歩く。モテなくて閉鎖的な場所だけれど、それでも『いいところ』ではあるのだ。やっぱりアルマンにとって永住する場所だとは思えないけれど。
 招待された集落は自分の故郷ではないが、こうした収穫祭を見ると故郷も同じことをやっているのだろうかと思いを馳せずにはいられない。
(帰省くらいはいい、かな)
 こうして訪れて、森の空気に触れて。そういうのもまた悪くないだろう。
「さて、と。戻るかな」
 あまりにものんびりしていると、料理もあらかた食べられてしまうかも。その前には戻って、楽しそうな舞いを見ながら軽食をつまむのだ。
 その集落へひと足先に踵を返していたジェラール・デュランは聞こえてきた音楽にほっと息をついた。あまりにも大きな森は故郷とあまりにも違い過ぎて、紅葉を綺麗だと感じるのと同じくらい緊張してしまっていたのだ。人の気配があると少しばかり安心する。
 とはいっても、安堵もなにもが死にがちな表情筋のせいでわかりにくいのだけれど。
(どんな楽器……なのかな)
 その興味関心は専らエルフ楽団の使う楽器とその音楽。踊りも気にはなるけれど、自信がないので今のところ踊るつもりはない。
 優しくて丸い音の粒は少し変わった楽器から紡ぎだされているようで、ジェラールは遠目にそれを眺めていた。
「近くでご覧になりますか?」
 声をかけられて視線を向ければここへ招待したエルフ――スィニエークだったか。彼女がにこりと微笑みかけていた。
 良いのだろうか。不快な思いをさせないよう気を付けないと。そう思いながらも、ジェラールは彼女の誘いに頷いた。


●紅の味覚
 集落では楽団の奏でる音楽に合わせた感謝の踊りを捧げる他、森の恵みを頂くことができる。そんな中で――エフィルミアはむくれていた。
「エフィ、このミードが飲めないとは可哀想に……」
「もう大きくなりましたもんっ」
 憐みの言葉を口にするテス・クラルスだが、エフィルミアに対する扱いは誰がどう見ても子供のそれ。沢山おたべと料理を進めて自身はこれまた美味しそうにミードを飲むものだから。
「悔しい!」
「ごめんごめん」
 笑って謝るテス。反省の色? ありません。
「エフィは来年一緒に飲もう!」
「飲めるようになるまで半年ならあっという間さ。その頃にまた招待とかあると丁度いいけれど」
 そう告げながら香草焼きを口にしたテスは「美味しい」と呟いて隣にいた恋人、ロイ・アウレアへ視線を向ける。それを受けた彼は任せろと言わんばかりに頷いた。
「レシピは聞いたから作るよ」
 並ぶ様々な料理にすぐさま素材と調理法を教わったロイである。しかし頬についたソースがちょっと惜しい。テスはそれを指で拭って口に含んだ。
「テ、テスさん!?」
 自然体の如くやり取りしていた2人だが、それを真っ赤になって見ていた人物がいる。料理をその胃に収めまくっていたエフィルミアだ。
「お酒を飲まなくてもラブラブっぷりに酔いそうです……」
「ん、そうかい?」
「エフィも食べに来いよ……ん? どうした?」
 テスはきょとんとしているし、ロイなどはそもそもエフィルミアがどうして頬を赤くしているか分かっていない。しまいには「楽しいからか!」と自分を納得させた。
 これくらいの神経を持っていないとあのやりとりはできないということか。
(でも、傍にいると幸せパワーがチャージできる気がします)
 エフィルミアが自分の道を突き進めるのも、2人にこうしてパワーを貰っているからかもしれない。
「お招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、リザードマンの方に来て頂けるなんて嬉しいわ」
 スィーリーンへ集落のエルフが相好を崩す。これまでエルフと繋がりを持つ他種族と言えばリザードマンだっただけに、さらなる交流をと考えていてもかの種族がいることはほっとすることなのだろう。
「此度の正体、外部との接触にリザードマンとの関係が関わっているのなら、同胞として嬉しく思いますね」
「ええ。どうぞ今後もよろしくお願いします」
 まずは収穫祭を楽しんで、とスィーリーンは料理が用意され、踊る者たちがいる場所へ案内される。そこでは丁度、同じように案内されたシャロン・ラ・モリエールがフルーツを選んでいるところだった。
「隣、失礼しても?」
「ごきげんよう。ええ、構いませんよ」
 スィーリーンに頷いたシャロンは再び視線をフルーツへ向ける。食べ物のえり好みはしない。此処で悩んでいるのは『選べるなら美容に良いもの』を選ぶためだ。
(やはり、果物が美人の秘訣……?)
 シャロンは辺りを見回してみる。エルフは容姿端麗な者が多い。そしてエルフは森に住んでいる。果物は森の恵み。つまりはそういうことなのではないか? とはいえ目移りするものあって、シャロンは手近なエルフへ声をかけるべく踵を返した。
 一方のスィーリーンは肉や野菜をほどほどに、フルーツをまんべんなく摘まみながら祭りの舞いを眺める。今回はこのひと時を楽しんで――次があるのなら、森を散策しても良いかもしれない。
「……ふぅ」
 その森の空気を感じるように、空冬・シラユキは深呼吸をひとつした。新鮮な空気だ。この空気ならば水も美味しいだろうし、それらで育つ野菜や動物も美味しくなることだろう。
(えーと……森の恵みに感謝しながら飲み食いするんだっけ?)
 それならばまず果実酒を、と手を伸ばした先に別の手が。ちょんと触れてしまって相手――リディリディ・トゥラ・ イェレミースがぱっと手を引っ込める。
「ご、ごめんなさい」
「いや、こちらこそ」
 互いに謝りながら果実酒を注ぎ、空冬はふと彼女へ木の実を進めてみる。きっとこのお酒には良いツマミとなるだろうから。けれども彼女はゆるりと首を振った。
「森に住んでいた頃、沢山食べましたから」
 今回訪れた他種族の者に味わってほしいという事なのだろう。なるほどと頷いた空冬はリディリディと分かれ、自分が食べるための木の実を取りに行った。
 ――最も、その予想は大きく外れている訳なのだが。
(沢山食べても問題ないということでしたし、遠慮なくお肉を頂きましょう)
 リディリディの瞳がきらりと輝いた、ような気がする。スィニエークの『それなりにご用意はあります』を都合よく解釈しているようだが、それはそれとして本当にそれなりの用意がされている。リディリディのようなものが何人も集まればどうなるか分からないが、ひとまずは彼女が食べまくっても大丈夫そうだ。
 短い期間を経ての帰省だというのにどこか懐かしい森を感じながら、リディリディはお肉のある場所へと向かっていった。
 そして先ほど分かれた空冬はと言えば。
「ん、美味しい」
 果実酒と木の実を楽しみつつ、感謝の舞を眺めていた。木の実が美味しくて酒が進む。酒も美味しいのでやっぱり酒が進む。良い酔い加減で気分もいい。
「おれもやってみようかな」
 すっくと徐に立ち上がった空冬は音楽に合わせてくるくると回り始めた。単調が故に簡単な踊り。考案者はきっと誰でも感謝を伝えられるようにしたかったのだろう。
(でも、もうちょっと複雑な踊りもやってみたいなあ)
 酔って少しばかりふわふわな頭で考える。誰もが楽しくなれるような踊りって何があるだろう?
「ダンスなら任せたまえ、孔雀には負けるがそれなりに――」
「回るだけみたいですね」
「えっ」
 レオナルド・ピーフォウルはコルネリウス・アーラの言葉に目を見開く。示された方を見れば成程、確かに舞踏力などいらないくらいに簡単だ。これなら2,3歳程度の子供だってできるだろう。
「しかし郷に入りては郷に従え、エルフ流舞踏会でも問題ない!」
「まあ、心強い。それでは初めはよろしくお願いしますね?」
 くすりと微笑んだコルネリウスと手を握り、レオナルドは感謝の舞を踊り始める。ただくるくると回るだけだけど、コルネリウスは小さい頃の記憶がよみがえってなんだか懐かしい。一区切りがつくまで踊った2人は他の知り合いやそうでない者とも踊るために別れた。
 レオナルドは1人で舞っていたエルフなどに声をかけ、踊っては離れていく。けれど――森への感謝は難しいとレオナルドは辺りを見回した。緑、緑、緑。このような場所に縁がないのだから当然とも言えば当然か。
(いや)
 孔雀は森に住むと言うではないか。ということは森もまた孔雀の一部。そこに思い至ってレオナルドは叫んだ。
「――やっぱ僕、森超好きかもしれない!」

「森への感謝の舞……?」
 ミツキ・アインホルンは不思議そうに呟く。音楽や舞踊にはとんと縁がない生活だ。シャーリー・ブラウンも同じようで、森に『祭りの為だけに』入るという行為自体が新鮮らしい。森とは本来狩場なのだ。
「あれなら、あまり舞うのが上手じゃなくても楽しめそうねぇ」
 リーザヴェールは既に舞っている者たちの踊りを見て呟く。自身は困らない程度に踊れるが、他の者はそうとも限らないだろう。現にミツキはその踊りを見てホッとした表情を浮かべている。
「手を繋いで舞うだけですからね。そろそろ音楽が一区切りつきそうですし、次は私たちも――」
「イズさん!」
 向こうから手を振ってやってきたのはコルネリウス。手を振り返したイズレンディル・パラリムは彼女をまじえた4人を見て、それから誘おうとスィニエークの方を向く。リーザヴェールもそれに気付いたようで、彼女へ向かって声をかけた。
「ねぇね、貴方も一緒に踊ってくださらない?」
「わたくしも?」
 声をかけられたスィニエークは目を瞬かせながらも、嬉しそうに輪の一員へ。音楽が再び奏でられたなら皆で回りだすのだ。
(命を奪うばかりですが、だからこそ私たちは生きることができる)
 シャーリーは森の命に謝罪と感謝を。
(他種族同士がこうして過ごせる時間……いつか、当たり前になりますように)
 コルネリウスはこのひと時に祈りを。
「ふふっ」
 不意にミツキが笑って、笑ったことに更に笑みが零れてしまって。ああ、だって楽しいから!
「こんな無邪気に楽しむの、いいわね!」
「ええ……あ、」
 リーザヴェールは風で舞った紅葉に目を奪われる。それはひらひらふわふわと零れ落ち、やがて一同の頭の上まで辿り着いた。
「ふふ、まるで私たち精霊のようね?」
「まるで森とひとつになれたような気がします」
 イズレンディルは皆の頭に降り注いだそれに目を細め、そして森へ視線を上げる。護ってくれる場所。育ててくれた場所。だからこそ――今度は自分たちが今度は守れるようになるのだ。
「こんな楽しい時間をくれた事にも感謝ね」
「ええ。外の世界との交流はとても喜ばしい事ですしね」
 ミツキとコルネリウスは他の者が踊る様を見て笑みを漏らす。シャーリーは尻尾に当たった感触に振り返り、そこで瞳を輝かせるエルフの子供をみて目を瞬かせた。
「もふもふ!」
「え? あ、はい。もふもふですね?」
 どうやらシャーリーの尻尾をもふもふしたいらしい。断り切れずにもふられるシャーリーを見てくすりと微笑んだリーザヴェールは視線を森へ向けた。
 風の音や葉の擦れる音が音楽と混ざり合う。まるで森と話しているみたいだ。
「……今年もありがとう。貴方がいるから私の世界は彩鮮やかよ」
 リーザヴェールの言葉に応えるように、風がさわりと揺れた。
「故郷を思い出す、いい祭りだねぇ」
 ぽそりとテスが呟く。3人の故郷でも似たような――料理のレシピなどは全く違うし、踊りも異なるだろうが――祭りはあった。どこかそれを思い出させるのは、この集落もまた森の中にあるからかもしれない。
「護ってきた祭りが友好の懸け橋になる……あなた達が引き寄せた奇跡だね」
 集落のエルフたちを見てそう語りかけたテスは、ふと小さく欠伸して。
「……テス?」
 ロイは視線のみを巡らせる。隣の彼がこてん、と頭を寄せてきたのだ。
「んん……」
 小さく目を開けたテスは、けれどもすぐさま瞼を下ろしてしまった。どうやら眠くなってしまったらしい。この森は居心地が良くて――しかも、音楽が優しい子守歌のようだから。
 輪から離れて戻ってきたスィニエークはファルマ・アラーティに声をかけられる。感謝の祈りについての問いかけだ。
「森の作法があるなら知りたいの。決まった作法がないのならいつも通りにしてしまうのだけれど」
「ああ、僕も知りたいな」
 トマス・グレイ・ディズールーもファルマの言葉を聞いて声を上げる。折角だ、心から感謝できるのならばその方が良いだろう。スィニエークは目を瞬かせ、その目元を和らげた。
「そのお心だけでも十分届きましょう。けれど、本来祈りはどのような形でも良いのです」
 大切なのは心と姿勢。それさえ満たされているならば、例え流派の異なる礼とて受け入れてもらえるだろうと。早い話、この場所で感謝の作法は定まっていないという事だ。
 祈りを済ませたならば分け与えられた森の恵みを楽しむ。ファルマは白いものに包まれた黒い粒の酒に興味津々。
「それも果実酒のひとつですよ。お召し上がりになっては如何でしょうか」
「それならありがたく頂こうかしら」
 思えば酒を飲むのは随分久しい。1人では味気ないだろうが、このような席で飲む酒と楽しい話があるなら進むというもの。
「オススメの食べ物はあるかな? 苦手な食べ物は特にないんだけど」
 美味しい森の水を手にトマスが問いかける。味を知る者に教えてもらうのがきっと一番よい。そうでなければ目移りしてしまって、どれから食べればよいかわからなくなってしまいそうだから。
「あ、スィニエークさんだ! 一緒に食べてもいいかな?」
 そこへ通りかかったスフィカはスィニエークに目を輝かせる。エルフとゆっくり食事しながらなんて中々ないことだし、折角なら森の外までやってきた彼女と話したかったようだ。スィニエークが頷いたこともあってスフィカは空いていた席へ座る。森での生活を聞いたり、逆に外の世界での話をしたり。新鮮な食材を使った料理と飲み物はその合間にどんどん減っていってしまう。
「実家の野菜と何が違うんだろう? こっちの方がパリッとしてて癖がないよね」
「そうかも。お水も美味しいわ」
 ファルマの言葉にトマスがうんうんと頷き、スフィカは彼らに倣って水を飲んでみる。これまた森の外とは全く違う味で目を丸くした彼女にスィニエークは微笑んだ。
「わたくしに、外のものとの違いはわかりませんが……水や、土や、空気。森の全てが、美味しくしているのかもしれません」
「水だけじゃないってことだね?」
 この水も、食材も森がそのすべてを用いて美味しくした――まさしく『森の恵み』なのだ。
 スィニエークはふと声をかけられる。振り返れば散策を終えたアンネエルカがこちらへと向かってきていた。何かを大事に抱えている様だ。
「スィニエークさん、この落ち葉を持ち帰ってもいいかしら?」
 アンネエルカが見せたそれに、スィニエークは綺麗ですねと微笑んで頷く。アンネエルカもまたほっと微笑んだ。


●紅にステップ踏んで
(広大で、深くて……でも何処か懐かしい)
 セヴラン・クアルトはヴァイオリンを手に森を見上げる。自身の故郷は小規模な森だったからこことは随分違うはずだが、それでも懐古の念を抱くのは空気のせいだろうか。ふと目を閉じてしまえば、久しぶりに訪れた『エルフの森』の音や匂いがより一層感じられた。
「……さて」
 そう呟いてヴァイオリンを構えるセヴラン。エルフの楽団が奏でる音楽は十分に聴いた。アドリブで音を合わせる事くらいはできるだろう。そしてそれに合わせて揺れたり、回ったりするくらいなら。
「落ちないように頑張って」
 ヴァイオリンを構えたのとは反対の肩に乗っていた栗鼠は、セヴランの声にくりりとした目で彼を見上げた。
(おや……あそこにいるのはアンネさんだ。それにあちらには空冬さんか)
 見知った知り合いを視線で探し、見つけながらもヴァイオリンを奏でるセヴラン。そしてクレア・エクレールが近くを通り過ぎて行こうとしたから思わず口を開く。
「やあ、収穫祭は楽しんでるかい?」
「もちろん。スローテンポの曲も良いね」
 音楽に合わせた装飾品を身に着けたクレアはにっこり笑う。フィルエス大森林は初めて訪れたが、なんと空気の美味しい事か。当然ながら街とは全然違う。
「森への感謝と楽しむ心が大切、だっけ?」
「ああ。森の恵みと、それに縁にも感謝を込めよう」
 ヴァイオリンを奏でるセヴランと手を繋いでくるくる回ることはできないけれど。それでも彼の周りをくるり、くるりと緩やかに舞いながらクレアは尻尾を揺らしつつ笑った。
「まさか伝統的な舞いが、こんなに簡単だなんてねぇ」
 エーデルワイス・エンゲルはしみじみと呟く。決して嫌味で言っているのではない。素直な感嘆だ。伝統のものとはいえ踊れる者がいなくなれば消えてしまうもの。誰でも踊れるようなものを目指したのかもしれない。
(とはいえ、エルフの踊りである事に変わりはない。最高の宝物だね)
 教えられたそれを共に来たテュリン・ヴィングとララベル・サン・ディーベルに見せるとおぉ、と声が上がった。
「そんなに難しいものでもないだろう?」
「そうなんだけれど、でも」
「うん。洗練されてるっていうのかな」
 テュリンの視線に頷くララベル。流石踊り子。ここまでとはいかずともそれなりに見られる踊りをしたいものだ。
「さぁ皆も踊った踊った! 祝の精神を忘れずにね」
「うん。テュリン姉、手を繋ご」
 ララベルに差し出された手をとってくるくる。音楽の良いタイミングでその手は離れて今度はエーデルワイスとララベルが手を繋ぐ。
(なんだかんだ、いい足捌きよね)
 ララベルのステップを見ながらテュリンもそれとなく回って踊る。舞は見るのも初めてなら踊るのも初めて。ぎこちなくなってしまうのは仕方がない。
「あら、エーデル」
「こんどはこっち」
 ララベルとの手を離したエーデルワイスがテュリンへ手を出す。その手を握ったテュリンは小さな悲鳴を聞いた。次いでどん、と衝撃。耐え切れずにエーデルワイスとテュリンの身体が倒された。
「ご、ごめん!」
「もう、やると思った!」
 真っ赤にして体を起こすララベル。下敷きにされたテュリンはどこかあきらめの表情だ。こんなハプニングも後には楽しい思い出となるだろう。
「足がもつれたかい? まあ、慣れればそれもなくなるもんさ」
 エーデルワイスはからりと笑い、立ち上がると再び2人を踊りへと促した。
(なんて心地の良い……)
 耳をくすぐる優しい音にフィーレン・ステオラーズはほぅと息をつく。まるで森そのもののように穏やかで優しくて、包み込まれるような感覚だ。音楽へこうして耳を傾けるのは初めてだったと思うが、これは良い。
「ああ、スィニエーク。もし良かったら一緒に踊って頂いても?」
 そんなフィーレンが見つけた彼女は、他の者との食事も終えて皆でのんびり舞いを眺めているところだった。誘えばまあと視線を上げて、それからふわりと微笑む。
「喜んで」
 優雅なお辞儀と共に出された手を取り、2人は舞いの中に混じる。フィーレンはスィニエークへ小さくウィンクした。
「舞いには合わせるよ。ステップを踏むのには自信があるんだ」
 ちょっとだけだけどね、と告げるフィーレンはスィニエークを頼もしくリードする。食事も落ち着いて舞いに参加する者は増えてきたが、スィニエークは彼のおかげで特段人とぶつかることもなかった。
「お上手ですね」
「ありがとう」
 素直な賛辞にフィーレンは笑みを浮かべる。エルフと、そうでない者がこうして踊るなどこれまではなかったことだろう。けれどもこうして招待してくれたからこそ一緒に踊れる、だから。
「……俺は『外』の者だけど。良い関係が築いていけるといいなあ、って思うよ」
「ふふ……ええ。わたくしも、そう思います」

 森への感謝と――どうか、この縁がこれきりとならないことを祈って。

マスターコメント

 紅色を楽しめましたか?  それではまた、ご縁がありますように。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:無し25 / 4〜25人

2020年11月15日 12時01分59秒 公開

普通

相談掲示板

  1. シャロン・ラ・モリエール

    見知った方も初めての方もごきげんよう。シャロンと申します。 クラスはヒーラーです。 行動はまだ決めておりませんが、一人で散歩するか、お誘いいただけるのであれば何か食べながらお話しできたらと思います。

  2. シャーリー・ブラウン

    シャロンさん、皆さん、こんにちは。 ハーフビーストのシューター、シャーリーです。こちらは狼のグレイ。 私も森の恵みを享受し生きる者。この機に森に感謝を示すべきと思い、参加しました。 森を散歩か、舞に参加しようかと考えています。 よろしくお願いします。

  3. No.3

    フィルエス大森林、少し前まで居ましたが懐かしい感じがします。 あ、その・・・、リディリディといいます。 よ、よろしくお願いします。 私はあの・・・、お肉が出るという事なので料理を頂きに行こうかと思っています。

  4. スィーリーン

    キャスターのスィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 森の恵みを頂くか、散歩するか迷いますね。

  5. イズレンディル・パラリム

    エルフのイズレンディル・パラリムと申します。 今回は里帰りを兼ねておりますね。 >舞う(お誘いです) 私は「舞う」予定でおりますが、もし良ければ複数で集まり輪になって踊りませんか? 手を繋いで一緒に楽しく踊れると良いなと思っております。 森への感謝と楽しむ心を皆さんと一緒に表せられると嬉しいです。 興味を持って頂けましたら是非お声掛け下さい。

  6. セヴラン・クアルト

    挨拶が遅れたね セヴラン・クアルトだよ 楽団に交わらせて貰おうかなと思ったけどそうか楽しむの推奨かぁ どうするかはまだ決めかねてるけど 見知った顔に声掛けしつつ楽しむつもりだよ どうぞ宜しくね

  7. リーザヴェール

    挨拶が遅くなってごめんなさい。 森をめいっぱい楽しめるお祭りって素敵ね素敵。 私はエルフさんたちの踊りを楽しもうかと思ったけれど、イズレンディル様の言うように皆で踊るのも楽しそうね。 ご一緒させてもらっても良いかしら?

  8. コルネリウス・アーラ

    コルネリウスです、よろしくお願いします。 知人にお声掛けしつつ『舞う』で楽しむ予定です。 余裕があればになりますが、輪になって踊るのも参加できればいいな、と思います。

  9. シャーリー・ブラウン

    輪になる、ですか…イズレンディルさん、私も参加してもいいでしょうか?

  10. ロイ・アウレア

    ロイ・アウレラと相棒のルプスです(隣に座る狼を撫で)。よろしくお願いします。 舞う、食べる、散歩、と迷いに迷って、挨拶のタイミングを見逃してたよ。 エルフの皆さんの心づくし(料理)を頂きます。

  11. イズレンディル・パラリム

    リーサヴェールさん、コルネさん、シャーリーさん はい、ぜひともお願い致します!お声掛け頂けて嬉しいです。 コルネさんは余裕があればとのことで、字数も描写も限りがありますからね。 大丈夫そうであればお願い致します! 私自身は舞いと共に森への想いを語りたいと思います。 お話なども一緒に楽しめると嬉しいです。 共通タグは【輪舞】としたいと思います。 折角ですのでNPCのスィニエークさんもお誘いしてみますね。

  12. シャーリー・ブラウン

    イズレンディルさん、ありがとうございます。 とりあえず、私の現在のプレイングを載せておきます。 https://pbwmemo.net/v/xoyqDLds

  13. テス・アウレア

    ご挨拶遅くなりました。 テス・クラルスというよ、よろしくね。 今回は友人たちとゆっくりご飯を頂こうと思う。 舞いも素敵だね、食べながらゆっくり拝見させていただくね。

  14. ミツキ・アインホルン

    挨拶すっかり遅くなってしまったわね。ヒューマンのミツキよ。よろしくね。 >イズレンディルさん 出発の前日のお願いで大変申し訳ないのだけど、私も参加させていただけないかしら。 難しければ別行動するから、気にせず言ってもらっていいわ。

  15. レオナルド・ピーフォウル

    レオナルドだ、よろしく頼むよ。 リーンエス男子として、王国に恥じない渾身の舞踏を披露しようではない……え、回るだけ? ――渾身のくるくるをお見せしようッ!!

  16. エフィルミア

    エフィルミアです!よろしくお願いします! お友達と仲良くご飯を食べますっ。 森の料理は久しぶりなので楽しみです!

  17. イズレンディル・パラリム

    シャーリーさん、ありがとうございます! ミツキさん、こちらこそご返信が遅くなってしまい申し訳ありません。 もちろん歓迎ですので、ぜひともご一緒させて下さい! 私の方では下記の通り共通部分のプレを記載いたします。 何かありましたらご指摘下さい。 皆さんと一緒に舞えるのを楽しみにしております! ****** 【輪舞】 「舞う」参加 同タグ参加者で手を繋ぎ大きな輪となって舞う 森への感謝と楽しむ心を込めてゆっくり舞いながら回る スィニエークさんもお誘いする ******

  18. ミツキ・アインホルン

    イズレンディルさん、ありがとう。 イズレンディルさんも、ご一緒する皆さんも、よろしくお願いします。(一礼)

  19. No.19

    最後までどうしようどうしよう迷うな!ってしてたらこの時間まで挨拶しそびれてたマジごめん。 アルマン・アルスターだ。 よろしく。 結局俺は散歩することにしたよ。 久々に大森林に戻ってきたからなー。思うところもあるさー

  20. リーザヴェール

    イズレンディル様、どうもありがとう。 共通タグは確認させていただいたわ。 シャーリー様もプレの開示ありがとう。 きっと楽しくい素敵なお祭りになるわねぇ。

  21. シャーリー・ブラウン

    みなさん、こちらこそありがとうございます。 いよいよ出発ですね。プレイングは送信しましたか? 素敵な一日になってほしいです。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0