【茫夢】幸せのレプリカ
崎田航輝
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シナリオID:134
オープニング
私の人生は、全てが終わったと思っていた。
過ごすのは乾いた日々で。無味な時間で。
妻を最期を看取った時のことは忘れない。
それはきっと安らかな寝顔だったのだろう。でも私は喜べなかった。老い先も長くない、故にこそ私には妻が全てだったのだから。
家で一人で過ごす、妻のいない時間はまるで棘のように痛い。一瞬一瞬が孤独と寂しさと、もう愛した人がいないという事実を刃のように突きつけてくる。
それは穏やかさとは無縁で。
まるで悪い夢。
だから、それが“本当に悪い夢”なんだと教えてもらえた時、私は信じられなかった。
始めは何かに騙されていると思った──けれど、その事実は嬉しくて。
久しぶりに眩しい光を見たような気がして。間違った幻を晴らして、幸せを享受できることを確かめるのに迷いはなかった。
そしてそれは真実だった。
本当に“それ”だけで、視界が綺麗に開けて、胸の奥にあったつかえがなくなったのだ。
確かに自分は悪い夢を見ていたとも、実感できた。
何故なら……前を見れば扉が開いていて。そこに妻が、立っていたのだから。
「どうしたの? そんなに泣きじゃくっちゃって」
抱きしめた妻のその声も、私の知っている妻そのもので。優しい顔も、どこか呆れたように私を見るその瞳も。
「本当におまえなのか」
「何言ってるの、私は私でしょう、貴方の妻。毎日一緒にいるじゃない」
「ああ、そうだな」
私は涙を拭って、晴れやかな気持ちになった。
そうして、妻が美しいドレスを来ていることに気付く。
それは記念日に妻が着るもので、その格好で踊るのが妻は好きだった。
そうだ、確か今日は結婚記念日。
「踊りましょう」
妻が手を差し出す。私はその手を取って庭に出る。一緒に踊ろう。変わらぬ日常の幸せを祝うダンスだ。
●2.
マレアさんにとっても良くないよ。
近所のアンナさんがまたそう言って、帰っていった。
気遣うような視線だった。痛ましいと、そう感じてくれているのだろう。
戻らない息子のためにいつまでも料理の材料を揃えておくことを、嗜める人は他にもいた。
──遠くの国で兵士として戦い、若くして亡くなったこと。残念だけれど、息子さんは立派だったよ。
──いつまでも母親がそんな調子じゃ、息子さんだって浮かばれないよ。
──長閑な場所に引っ越して、ゆっくりとしたら。
皆、私の心を心配して言ってくれていた。
でも、私も私自身と息子のためにやっていた。
灼け焦げたあの顔が息子の顔だったとは思いたくなかった。あの子が本当に死んだなんて、信じたくなかった。
いつか、ひょっこりと息子が家に帰ってきてくれる。だからあの子が好きだったオムレツとサラダは、いつだって作れるように準備しておきたかったのだ。
そして、それが“正解”だったと私は知った。
何らかの原因で精神的に参っていたのだと、真実を教えてくれたその人は言った。すぐに、元の幸せに帰ることができると。
間違いなかった。教えられたまじないの通りにすれば、魔法みたいに心の曇りが取れたのだ。
悲しい気持ちは嘘みたいに消えた。
だって振り返れば、そこに丁度息子が帰ってきたところなのだから。
「やあ、母さん。急に帰ってきてごめん。何だか、お腹が空いちゃって」
「大丈夫よ。いつだって、あなたの好きなものは作れるようにしてあるから」
私は笑って、オムレツを作り始める。
今日はいつもより一層、腕をふるおう。とびきり美味しいものを、息子に食べさせてあげられるように。
●3.
共に刃を磨く相棒を失った。
志をずっと同じに歩んできた、ライバルを。
だから研ぎ澄ます剣もなくなった。目指す場所もなくなった。
引退するにはまだ早すぎるだろうと、仲間には言われた。いつだって先陣を切って駆けていた、疾風の騎士エリクはどこに行ったって。
だが俺が走れたのは相棒がいたからだ。
あいつと競い合って、磨き合って。騎士になる前からずっと高め合っていたから、上を目指すことが出来たんだ。
だから、あいつがいなくなった俺は騎士を続ける事はできなかった。
剣を置いて、過ごすのは闇のように澱んだ時間だった。
……けれど、それが間違いだったと知った。
俺はただ心が弱っていただけだ。言われた通りに心身を“健康”に保てば、おかしな思い違いは消えて世界の正しい姿が見えてきたのだから。
実際、今だってふと視線を上げれば──
「そんな所でサボってんなよ、エリク」
いつもどおりの乱暴な声音で相棒が壁に寄りかかっている。
「次の戦いでも俺がもらうぜ?」
「馬鹿言え。何度も手柄を渡すかよ」
「何なら、今から手合わせするか? どっちが上か」
彼の声に俺はいいだろうと勇んで、置いていた剣を握った。
庭に出て剣を構える。
生き生きと、血が滾るのを感じた。
そうだ、これだ。剣を打ち合う相手がいる感覚、負けるものかと燃える感覚。
「エリク、少し太ったか? なまってないだろうな」
「体なんて、すぐに絞るさ」
彼の軽口に俺は笑いを返す。
慣れたやり取り。
そうだ、死ぬはずなんかない。お前のことは俺が一番良く分かっているんだから。
剣同士がぶつかり、心地良く音を響かせる。
ここからまた始めよう。俺達はまだやれる、一緒に上を目指せる。そうだろう?
●依頼
始めは彼らの“不可解な”行動だったという。
リーンエス王国東部、都市部の外郭に近い、ユイネルという町からその依頼は届いた。
そこは平和で、事件などは長らく起こっていなかったというが……街の住人という共通点を持った少数の人が、“幻覚症状”を見ているというのだ。
「亡くなった家族や友人が、生きていると本人は言っているようです。各々の症状が全く同じと言えないので、同一の何かに起因したものかは不明ですが」
それでも共通項はあると、ギルドの青年は語る。
彼らは一様に、生き返ったように幸せそうに過ごしている。そして同時に──肉体的には強く衰弱していっている。
「本人達は異常はないと言っているようですが……医師の推測では、何かの病か中毒症状の可能性があると」
原因は特定できていないが、この幻覚と衰弱について、一先ずの応急手当ては出来る希望があるという。
王国東部にある森林地帯に生えている薬草がそれだ。
「強い薬草ですが、今はそれしか手がないようです。皆さんには、この薬草の採取と──原因の聞き取り調査をお願いします」
それは手当をした上で、被害者本人から事情を聞くということだ。
「簡単な仕事とは行かないかもしれまんが……よろしくお願いします」
解説
マスターより
リプレイ
深い翠が陽光を暗く塞ぐ。
王国東部。その森林は木々を風にさざめかせ、不穏な気配を漂わせていた。事実、フィニエス・クーガは既に――その視覚で何者かの影を捉えている。
「……クリーパーだ」
木立の合間に見えるのは獣に似た四体。
そしてその奥にあるのが――群生する薬草。
ならば倒す以外に手はなく。フィニエスは切れ長の瞳で狙いを定め、弓弦を引き絞り射撃。鋭い一矢をクリーパーの目元に突き立てた。
烈しく鳴いて、敵がこちらへ意識を向ける。だが迫られる前にドーマ・アザーリは手を翳していた。
「悪ィが、好きにはさせねェぜ」
整えられた赤髪に光を反射させ、魔力に長衣を棚引かせ。稲妻を伴う光球を顕現して澱嵐の壁を作り上げる。
巻き込まれる個体、避ける個体。四体がばらけるだろうと見れば――
「行けるか」
「勿論」
応えてクレア・エクレールが疾駆。ふわりと尻尾を靡かせ、風のように軽やかな踏み込みを見せた。
殺意に囀るクリーパー、だがクレアは怯まずに。
「本気で行くからねっ!」
すらりと抜いた短剣にエーテルを纏わせ、斬撃に光糸を伴わせて一体を縛る。
「今のうちだよ」
「任せてくれッ」
明朗に、金糸の如き髪を揺らして奔るのがレイナ・ハーヴェル。木々を縫い、抵抗をさせる暇も与えず大剣を振り被り。
「行くぞ。戦闘くらいしか、思いっきりうごけないからなッ!」
思いの丈を乗せ、剣閃から不可視の衝撃波を飛ばし――殴打の如き一撃で一体を四散させた。
後方から別の一体が接近を狙ってくる、が。
「させはしないわ」
清楚な声音の中に、芯の強さを窺わせて。
ハオルチア・プラシオライトが細腕にしかと弓を構えていた。
緑玉の如く澄んだ瞳で、狙いを決して外さない。瞬間、放つ矢は重く鋭く一体の躰を穿っていく。
その一体は爪を奔らすが――それを受けるのは、エリザ・A・ミシャールの意に応えて前へ走っていたゴリラだ。
そのまま敵が前方に留まる間に、エリザ自身は既に矢を番えていた。
長尺の弓は常人ならば引くだけでも重い。だが鍛え抜かれたエリザの腕は、揺らぐことなく負荷と反動を支えて――精密射撃。狙い違わず敵の首元を鏃で抉る。
それでも別の一体が咆哮を放ってきた、が。
「頼めるかい」
「ええ。少しだけお待ちを」
応えたシルク・メイプルリーフがそっと手を組む。
ひらりと衣が揺れて、揺蕩う光が瞬いた。それは清廉なる癒やしの輝き。光る風のようになったそれはエリザを撫ぜて癒やしていく。
「攻撃はお任せしますね」
「判りました」
静やかに杖を握るのはエイル・アーティライト。
収束する魔力に、空のような青髪をさらりと遊ばせて。同じ色の瞳で見据える視線は、真っ直ぐに。
刹那、撃つのは鋭利な魔法の矢。緑の森に蒼空を描くよう、光の残滓を燦めかせて弱った一体を撃破した。
残る敵は二体。その先手を、ドーマは既に取っている。
「術式の展開速度と精密性にゃァちっと自信があってな!」
だから譲らねェさ、と。無数の光弾を雨と注がせ二体を巻き込んでいた。
フィニエスも射撃で翼を穿てば――
「あとは仕留めてくれ」
「了解!」
敵が暴れようとも退かず、レイナは寧ろ殴り合いを歓迎するように。飛び込んで敵の腹部を抉り裂く。
「一気に攻めるよ!」
そこへクレアも耀く剣撃。命を蝕む光と衝撃でその個体を霧散させた。
残る一体は咆哮を放つ。だがシルクはエーテルを纏って受け切ると、己へ治癒の魔力を巡らせていた。
「こちらは問題ありません」
「では攻勢に」
と、エイルはどこまでも冷静にエーテル球で敵の移動を阻害。氷の矢も飛ばして足元を撃ち払う。
エリザが同時に首元を矢で貫通させれば――
「やってくれ」
「ええ」
ハオルチアも弓を引いている。
指先の仕草までもが美しく、凛として迷わない。刹那、宙を翔けた苛烈な一矢がクリーパーの命を貫いた。
静寂の中、頷き合う皆は薬草を採取。緑の景色を抜け、街を目指してゆく。
●幻
そこは穏やかな家並みだった。
見た目だけならば平和で美しい街。
けれどそこに、歪みは確かに存在している。
「故人に捕らわれちまった人達、か」
通りを進みながらフィニエスは声を静めていた。この先に居るのは変じてしまった幸せの中で過ごす人々。
「被害に遭う者が増えていく可能性もある。打てる手は早く打つに越した事はないな」
「そうだね」
レイナは頷く。
そこから脱する事を本人が求めているのかは、判らないけれど。
「そういう依頼なんだ。やるしかないわな」
唇を結び、真っ直ぐ歩き出し。冒険者達は三手に分かれてゆく。
老人ゴーシュの邸宅は閑静な一角にある。
窓から垣間見える彼は、部屋で誰かと愉しげに話をしていた。だが、その相手は現実には存在しない。
言葉も笑顔も、全てが虚空に注がれているだけだ。
エリザとクレア、ドーマは視線を合わせ――決めた通りに玄関から訪ねた。
「すみませーん。フーベル商店でーす」
扉を開けたゴーシュに、クレアが名乗ったのは――夫婦の馴染みの店の名だ。
店には事情を説明して専用のエプロンも借りている。“見習い”として、御用聞きに来た訳だ。
「ご入用のものを窺いに」
「ああ……フーベルさんの所の」
ゴーシュは警戒心も抱かずクレアを通した。
「めでたい日に呼んでもらってありがとうよ。今日はアタシからも祝わせておくれよ」
と、続くエリザは自然な素振りでドロテーの古い友人を演じる。
「ありがとうございます……ドロテー、そうなのかい」
ゴーシュは幻に判断を委ねた。そして頷きエリザを上げていく。
(……成程な)
ドーマは観察しながら思う。
起きた出来事を、都合の良い解釈に変える。そうして現実との擦り合せを無理やり行うことで、“幸せ”は作られているようだった。
「ああ、二人は座っときな。こまごましたことは任せておくれ」
エリザはドロテーから許可を得た振りで台所に立つ。同時にクレアはゴーシュと話しつつ、提案した。
「ダンスがお好きなら、最近入った薬草茶は如何です? 滋養強壮に良いって評判で。今試供品があるんでよければ一つ貰ってやって下さい」
「こっちで淹れるよ」
エリザも話を合わせ――医師が調合した薬を茶に混ぜる。
それをゴーシュへ勧めながら、話も途切れさせない。
「しかし、今日は見違えるようだね。何か良いことでもあったのかい?」
「いえ、その……単に妻に惚れ直したというだけで。惚気ですよ」
「でも元気に見えるよ。この茶じゃないけど、何か良い物でも使ってるんじゃないかい」
「別に。変わったことと言えば、花を愛でてるくらいで――」
言いながら、ゴーシュは茶を飲んだ。
すると胸を押さえる。
それから咳き込み、うずくまって。短い時間意識を明滅させていた。
薬は体を蝕む毒性の症状を抑え、強力な気付けをする――いわば劇薬だ。
苦しかったろうが、今は“幻”が緩和されて。ゴーシュは、幻が幻だったと理解している筈で。
ぽたりと、涙が零れる。
それから彼の嗚咽が響き渡った。
ベッドに連れて行かれたゴーシュは、正気に戻っていた。
そして天井を見つめ。現実をただ噛み締めている。
クレアは静かに声をかける。
「ごめんね、ゴーシュさん」
「私は……間違っていたのでしょうか」
言った彼に、ドーマは返した。
「判ってんなら、いいさ」
偽りの幸福による死を肯定していいものではない。例え、本人が望もうとも。
「このクソみてェな現実で、手前の足で歩く。そいつが人生ってやつだ」
どんなに辛かろうが、事実は受け入れて、それでも抗っていくしかないのだと。
ゴーシュはまた涙を一筋零す。
その手をクレアは優しく握り、真摯な顔で見つめた。
「自分の大切な人が自分の夢を見て弱って死んでしまうなんて……奥さんはきっと望んでない。ボクは、そう思う」
「……」
それから彼は、私もそう思います、と静かに言った。
エリザは目を向ける。
「原因を、知りたい。いつ、だれが、どんなふうに接触して……何があったか」
「植物だろ」
ドーマは言った。
部屋にそぐわぬ鉢植えを見つけていた。土はあるのに植物がなくて、不自然だ。
ゴーシュは頷く。そして“花”が幻を齎したと言った。
話の後、ゴーシュは起き上がる。
妻はもうこの世に居ない。それでも今日は記念日だった、と。
「記念日――か。そこまで想われて、ドロテーも幸せだったに違いないさ」
エリザはそう声を伝える。
「良かったら、また来てもいいかい?」
以降も友人として付き合っていけたら、と。
ゴーシュは頷く。けれど心配しないで下さい、とも言った。
「妻を愛していた。幻がなくとも、一番大切なその気持ちは他でもない私自身の中にあるのですから」
青年エリクは、剣の鍛錬をしていた。
相棒と共に磨き合うかのように。けれど現実にはたった一人で、幻を相手にしながら。
その顔は生き生きとしているようでもある。だが同時に体は、痩せ細っているのが明らかだった。
フィニエスは、レイナと視線を交わす。
そしてエリクがよろめいた所で入ってその体を支えた。
「あ……、君達は……」
「近所のもんだよ。あんた、見るからに体調が悪いぜ」
「……それは」
エリクは否定しようとする。だが衰弱は激しく、その全てを幻に忘れることも出来ないようだった。
「少し、熱を入れすぎたかな……」
「訓練にしろ任務にしろ、体調を整えるのも仕事の内だ。相棒にも迷惑がかかるだろ?」
フィニエスの言葉に、エリクはすぐに納得した。
相棒という部分に反応したのだろう。そこへフィニエスは薬を勧める。
「ドナルドから預かって来たんだよ」
「あの医師か……」
エリクは半信半疑だったが、レイナは良い笑顔で力瘤を見せる。
「あたいも元気だろ? その薬のおかげってのもあるんだぜ」
「ま、滋養強壮だ」
フィニエスが言うと、エリクは少し考えて――それでも相棒に借りを作らぬためと、それを飲んだ。
そして強く咳をして、苦しんで。現実を取り戻してゆく。
エリクは始め、立ち尽くしていた。
そうして消え去ったものが幻だと理解して――フィニエスへ力なく詰め寄っている。
「……何故、こんな事をしたんだ」
俺はあのままでも良かったのに、と。
レイナは首を振った。
「本人が幸せ。それだけで終わりってんならいいんだろうけどさ。それで周りの人に心配させちゃ、よくないんじゃねーか?」
「……」
「帝国崩壊。オレは、あそこから無様に逃げ延びたんだ」
フィニエスは目を見たまま、紡ぐ。
「世話になった人の安否も分からない。あのまま留まっても何もできなかったし、逆にあの人に知られたら叱られそうだけどな」
目を逸して、逃げて。
「お前の相棒はそんな醜態を見ても平気な奴だったのか」
「……、アベル」
エリクは相棒の名を呟く。
「前に歩き出して欲しい。ってのは我儘かもしれないけど」
レイナが言うと、エリクは首を振る。
哀しんでいた。けれどそこにあるのは真っ直ぐな瞳だった。
「花だ。見ていると消えてなくなる花。使者と名乗る男が、それが心身を健康にして……本当の幸せをくれると言った」
外目には、ただの一軒家だ。
まるで母が子を温かく迎え入れる幸せの故郷。
けれどその幸福は、幻。偽りの日常を過ごすマレアを、エイルは窓越しに見つけていた。
(やはり病にしては、指向性がありますね)
病気ならば珍しい症例。元より医に携わる者として、詳細を知りたい気持ちはあった。
「参りましょうか」
「ええ」
頷き、訪ねていくのはシルク。
出迎えたマレアへ、まずは礼儀正しく一礼してみせる。
「初めまして、シスターのシルクと申します。お母さまですか? ジョシュさんがこちらにお戻りと聞きまして」
「あら……ジョシュのお友達? シスターさんだなんて」
「他国では本当にお世話になりまして――」
言いながら、彼が居るかのようにまた頭を下げた。
「ジョシュさんお久しぶりです、いつぞやは助かりました」
言葉にマレアは、幻から何かを聞いたように頷いた。“ジョシュ”は彼女の望む通りに行動する――そのシルクの予想が当たったのだろう。
シルクは近所の者に聞いてあった情報も含め、マレアへ話を合わせていく。
「素敵なお母さまですね」
「まあ、そんな……上がって行かれる?」
「いえ、実はマレアさんのご友人という方にそこで会いまして――」
と、シルクはそこでマレアが知る女性を二人ほど連れてくる。
ハオルチアの手配だ。二人は、マレアも行きつけの食料品店で新作の調味料が作られたらしい、と伝えてマレアを誘った。
少しだけ迷ったマレアだが、それがオムレツに合うのだと聞いて興味を抱いたようだ。
「勉強にもなるかしらね」
呟くと同行を承諾。
皆で店に向かうと、そこでハオルチアが出迎えた。
「マレアさん、ようこそ」
ハオルチアは店員の一員に扮し、奥へ連れて行く。
「今日は試供品として料理を用意させて貰っているの」
「まあ、料理を?」
「ええ。調味料は、ハーブを使ったもので――」
その味がよく効いているのだと、ミートオムレツとクッキーを提供。レシピも合わせて、無料だからと勧めた。
マレアはそれに期待を見せる。
新しい料理を息子に作ってあげられる。そんな心があったからだろうか。匙で掬ったそれを口に入れて――そして胸を押さえて。
咳をして、後は意識を失ってゆく。
自宅のベッドで目覚めたマレアは、もう現実を見ていた。
それから少しの間、泣いていたけれど。数刻の後には話も出来るようになっている。
「……夢みたいな、ものだったのね」
「幻を見始めた時期に何か変わったことは」
エイルの言葉に、マレアは頷く。
「花を貰ったわ。まじないをかけて、花を見る。そうすると心が落ち着いて本当の事が判るようになるって」
指された鉢植えに、花はない。
エイルは警戒しながらそれを調べた。
(これは……)
物証はないが、不思議な香りの残滓がある。
中毒であれば継続的に何かを摂取している筈と、エイルは推測していた。おそらく、その通り。
人の呼気か何かに反応し、気化する花。
それが魔法のような効果を齎して人を蝕むのだ。
ハオルチアは目を向ける。
「これは、どこで?」
「人通りの少ない橋があって。そこで使者だという人に声をかけられたわ」
マレアは静かに言った。
その声は自分を責め、多くを悔いているようでもあって。エイルは口を開く。
「私に死者の気持ちは分かりませんが。少なくとも貴女のような方が母親なら幸せだったかと」
マレアは少しだけ唇を震わせる。
けれど目尻に涙を溜めたまま、微笑んだ。
「だとしたら。私もきっと、幸せだったのね」
情報は集まった。
原因も特定に至ったと言っていい。
故にこそ、その先へドーマの怒りは及ぶ。
「ふざけたことしやがる。元凶に――辿り着いてやるさ」
冒険者達は心同じく、頷いて。前へと、歩み出していく。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2020年11月09日 15時38分04秒 公開
参加者
- メイプルリーフ シルク
エリザ・A・ミシャール
エイル・アーティライト
ドーマ・アザーリ
フィニエス・クーガ
- プラシオライト ハオルチア
クレア・エクレール
レイナ・ハーヴェル
相談掲示板
No.1
見習いシスター・シルクと申します。よろしくお願いします。 薬草採取は問題ないとして確かに難しい問題ですね。 お話を聞きながら原因を特定できればいいんですけど
シーフのクレア・エクレールだよ、よろしくね! とりあえず薬草採取に関しては索敵や戦い易い状況作りの為に【捜波】や【探波】でお手伝いできるかなー。 被害者の手当てと聞き取り調査に関してはきっと幻覚を指摘したら話も出来ないし、それを治す薬って言っても飲んでくれないってことだよね? どういうアプローチがいいのかなぁ。 時間があまりないってことで被害者三人はボクたちが2-3人ずつに分かれて手分けしてあたった方が良いみたいだし、被害者ごとにそれぞれ合ったお話の聞き方が出来れば良いんだけど。
あたいはウォーリアーのレイナだよ、よろしくさん とりあえず薬草採取自体は……油断しなきゃ問題なさそうか? クリーパーが4体の特異なやつもいねえってことなら、まぁ後は探すだけか 言ってくれてるし、クレアには期待するぜ。あたいなんて地道に探すくらいしかできねえからさ んで病気?の方か……これで害がねえってんなら本人は幸せなんだろうよ ただ、見たいことだけ見て、周りをきにしないってなるのはよくねえんだろうなー…… ぶっちゃけよくわかんねーけど 現状でわかることは ゴーシュには「本当に悪い夢”なんだと教えてもらえた時」つまり教えた奴がいた マレアには「真実を教えてくれたその人」教えてくれたっていう人がいた エリクには「ただ心が弱っていただけだ。言われた通りに心身を“健康”に保てば」言ってくる人がいた って所じゃないか?つまり、傍から見て”おかしくなった”という状態の前に接触してる人物がいるんじゃねえかな そいつが同一人物なのか、周りに住んでる人が見てたりしないかを聞き込みたいね んで、そいつの知り合いで薬を届けに来たって体なら、怪しまれずに受け取ってくれるんじゃねーか? ってのが今のところ、あたいの意見で思いついたことだよ
シューターのフィニエス・クーガだ。宜しく頼むぜ。 俺も捜波や看破、ホークアイを持ってるから薬草の採取では役に立てると思う。 で、薬草を手に入れた後はレイナの言う流れでいい……と思ったんだが。 >●目的 被害者の応急処置のための薬草採取。 成功の後、被害者の手当をしてから聞き取りを行い幻覚の原因を特定する。 つまり聞き取りができるのは手当ての後でって事だよな…… 俺も、接触者=幻覚の原因だと思うから、その辺が探れるのが この目的の文章の通りだと後回しにしなきゃいけない、って取ったんだが……みんなはどう思う?
エリザだ。よろしく頼む。またこれは……悩ましいな。 クリーパーを退治した上で薬草を採取しなければならないが、比率としては後半がメインか。 前半をいかに無駄なく漏れなく対応するか、後半は満遍なくポイントを抑えた介助や聞き取りがアタシたちに求められてるって訳だねぇ。 >接触者 最終的な目標は、この人物についての情報を得るという点で違いないと思う だが、これは手当を終えて、信頼を得ながら徐々に情報を収集することになる…… うん。難しいな >薬草採取と戦闘 野山でのこの手の活動なら、アタシは得意な方だとは思う クリーパーは……あまり近い距離で戦うのは好きじゃないね ペットを使うこともあるが、基本的には近づかれる前に倒すのが好みだ >聞き取り 今の時点の希望としては、ゴーシュを訪問しようと考えている もちろん、意見が出そろった時点での調整は構わない
あっ、そうか治療してから聞き取りか 失念してたわー。すまん
キャスターのエイル・アーティライト。よろしくお願いします。 術の類ではなく、中毒か病の類ですか。 薬物などによる中毒にしても、病だとしても感染する人物に指向性が見られますが。 決めておく必要があるのは前半のクリーパーとの戦闘方針と体勢、後半の聞き取りの分担とその手段と言ったところですか。 クリーパーとの戦闘は手早く終わらせたいところですが、ここを失敗すれば聞き取りそのものが出来なくなりますので手抜きも出来ませんが。 討伐あるいは撃退して安全を確保してから薬草採取をするのが望ましいと思われますが、確実な薬草入手を優先するなら敵を足止めし少数に薬草採取をして貰って必要量確保後に撤退、という手段も可能かと。 後半はいずれも治療を行ってから聞き取りのようで。 聞き取りの際には幻覚の症状も抑えられているので、聞きたい事を聞く分には問題なくなりそうな。 分担は聞き取りに合わせて手当の方法についても擦り合わせが必要になりそうですか。
No.8
戦闘では主に回復にて支援をさせていただきたいと思います。 手当と聞き取りはマレアさんの所を希望します
遅れてすまねェ。ドーマ・アザーリだ。 見てのとおりのキャスターよ。ヨロシクな。 戦闘じゃ敵の足止めだなんだの手札も多少はあんぜ。 で、ちょいと個人的に気になるのがこの薬草ってやつなんだが。あいにく薬学に掛かる知識がねェもんで、どう強いんだかなが気になる。 流れとしちゃア採取後に聞き取り、そのあとに薬を飲ませるっつー流れなんだろう?
>ドーマ いや、俺が下のログで書いたように、OPの説明通りなら 薬草の採取→患者へ説得と薬投与→原因の聞き取りや特定 って流れになりそうなんだよな。 まあ各患者に順番に訪れていくのは推奨できないってあるし 情報収集する暇もないんだろうな、とは。
あァ、なるほどなァ。となりゃ薬飲ませる手ェまず考えねェと、ってとこか。 デマ吹くならちィと頭使わんと、となるわけだ。 そのあと聞き出したいことは不信感抱かせねェようにいくつか絞らんとだろうし。
なら、あたいはエリクにいこうか とりあえず、幻覚の症状を否定しないうえで薬を飲ませる ってことをまず考えなきゃ話にならないのは、わかったぜ エリクなら剣の鍛錬にからませりゃ、あたいでもなんか思いつくだろ……今から考えるけど 聞きたいことはとりあえず、きっかけになった人物についてでいくつもりだぜ
ほんと。先に情報収集できない分、説得の難易度が上がってるよな。 先にできれば接触者の有無や、いた場合の特徴なんかが分かって説得の言葉に組み込めたんだが。 と、できれば俺は薬の投与・説得はエリクのところに行きたいと思ってる。
んじゃあ俺ァゴーシュんとこに行くか。 年寄り相手に情報収集にゃあんま期待しねェでくれよ?年の功、っつーのが生きてりゃ話は別かもしれんがよ。
うんうん、流れはフィニエスさんと同じ認識ー。 行先はボクもゴーシュさんのとこ行こうかな。 行商人装って、夫婦揃って長くダンスを続けられるような滋養強壮の薬草茶は如何ですかー?みたいな感じで売り込めば薬飲んでくれるかなぁ。 ちょっと詐欺師みたいでアレなんだけど。
No.16
顔出しが遅くなってごめんなさいね。 シューターのハオルチアよ。改めて宜しくお願いするわね。 行動の流れは、私もフィエニスさんの仰るもので認識しているわ。 薬草採取に関しては、詳しい人がいればお任せするけれど、スキル等調整可能な部分やサポートはさせてもらうつもり。 説得は、…そうね、私はマレアさんの所に行ってみるわ。 お薬は、レシピと一緒にお料理に使う調味料として、おすすめしてみようかなと。
〇ゴーシュ エリザ クレア ドーマ 〇マレア ハオルチア シルク 〇エリク レイナ フィニエス こんなところですか。 私はマレアの方に行きます。 飲み薬を飲ませるにあたり料理に絡めて勧めるのは良いかと。 ただ料理は主に息子の為のようなので、マレアに口にして貰えるかは不明。 口にして貰えるように誘導する必要はあるかも知れません。
誰だがどこにいくってのは決まったって感じか? エリクは、あたいとフィニエスだな。よろしくだぜ ”現場で接し方が食い違うことのないよう、ある程度方向性は相談していくと良いかもしれません” ってあるしな。一応どんな感じにするか確認しておくか?
そうだな、俺は一応「顔色や体調が悪そうだから、滋養強壮の薬として渡す」 ってのを考えてた。元騎士で、死んだはずの相棒と訓練してるっていう幻覚を見てるだろ? だから今の自分を現役だと思ってそうだし、体調を整えるのもプロの仕事、相棒にも迷惑がかかるぞ。 みたいな感じで言えば飲んでくれるんじゃないか、ってな。
エイルは取りまとめをありがとうよ 割り振りとしては変に偏り過ぎることもなく、いい感じなんじゃあないか >方向性のすり合わせ 同じ被害者に会いに行く者同士なら残り時間で話し合っておいた方が無難かね >対ゴーシュの行動予定 クレア:行商人装って薬を持っていく。滋養強壮の薬草茶という触れ込み ドーマ:未定? エリザ:ドロテーが生きている体で聞き取り、ドロテーの台所仕事を手伝うという振りで飲み薬を飲ませる予定 幻覚を見ている部分以外は一部正気だって話だからね、ある程度合わせて少しずつ薬を飲ませる方向にしようとアタシは考えてる。それで徐々に幻覚も収まってくるなら、そこで真実に気が付かせてやることもできるかねぇ?
No.21
>マレア説得 いきなり家に訪れて薬草をお勧めするのも不審だろうから、マレアさんが行き着けの食料品店があれば、協力してもらって其処で切欠を作ればと考えているのだけれど、どうかしら? マレアさんに此方で作った料理を試供品的に味見してもらったり、お試しなので無料で使ってみて欲しいと勧めるなどで。 初めて用いる調味料なら、調理中の味見として口にしてくれる可能性もあるかも。本人も息子だけに料理を作って、自分は全く食べないという事はないでしょうし。 お薬の必要な服用量がどれくらいかは分からないけれど、一気に多量を摂取しなければならないものでもなければ、なるだけ不自然なく取り入れてもらえたらいいのではと私は思ってるのだけど… こうした方がいいのじゃないかというご意見あれば、お願いするわ。
全員が違う薬を飲ませるわけじゃなし、俺ァ他の二人に話合わせて説得力に「厚さ」が出るよう立ち回らァ。 どうもこの見てくれじゃ親切も裏目に出やすいみてェでな。 そのぶん観察にゃちょいとウェイトおいて色々見てみんぜ。
>マレア説得 いつも息子のために食品を買い込むなら行きつけの店があっても不思議ではありませんか。 いきなり訪問して販売するよりは切っ掛けとしては十分かと。 適量がどのくらいなのか、料理に混ぜても効果に問題ないのか、味が誤魔化せるのかなど問題はありそうですが。 私は飲み薬を液状あるいは粉末類と仮定していますが、お菓子など適量を混ぜられて一人で食べ切りそうなものにするのも手かと。
>フィエニス 「顔色や体調が悪そうだから、滋養強壮の薬として渡す」だな。了解さん ならあたいは、元気いっぱいに振る舞って”その薬を使ってる”とでも言うか? 演技する必要がなさそうだから、無理せず楽にできそうだしな 薬飲んだ後の聞き込みはどうするんだい? エリク自身に聞き込むってなら任せるけど あたいは、周囲の人に聞くつもりだぜ
>ゴーシュ対応 そうだね、お年を召したご夫婦だし、エリザさんが家の仕事を手伝う風で入り込むのは自然な感じかも。 それだったボクは行商人というより、昔から馴染みの店の新入りとして御用聞きみたいな感じでお邪魔して薬を勧めてみるね。 エリザさんが台所に入り混んでくれてるなら薬飲ませるタイミングはエリザさんにお任せしたいな。 ドーマさんが観察に重きをおいてくれるなら薬飲んで話す内容とか顔つきが変化してきたら気づいてくれそうだし、その頃合いを見て話しかける内容も変えていったらいいかも。 といっても、幸せな夢から覚めてしまうのは本人にとってショックが大きいだろうし、性急にあれこれ聞くより奥さんとの思い出話を聞きながらゆっくりと現実認識させてあげるのが良いかなって考えてるよ。
>レイナ そうだな、じゃあ俺はエリク自身に聞き込むとするよ。 周囲の人達への聞き込みは任せたぜ。
No.27
>マレアさん訪問 とりあえず普通に息子さんのお話を聞いて オムレツの作り方を教わって試食してもらうつもりでしたが やってくれるのでしたら別の事が良いですね んーせっかく薬学を覚えてきたので鼻でも効くようにしてみましょうか
No.28
>マレアさん訪問 うーん再検討してみたのですが 私はイチかバチかジョシュさんを訪ねて来た他国での友人を演じてみたいと思います。 依頼を出された友人や知人の方から特徴やら性格やらを聞ければなおの事ヨシなのですが「お世話になってたジョシュさんがこちらに居ると聞いてお母さまにもご挨拶」として「栄養剤」の1つでも献上しようかと
No.29
ついでにオムレツの作り方が聞ければ! ではなくて最近のお話が聞ければ重畳かなと思います
No.30
そ、そういえばお薬って人数分もらえるんでしょうか・・・・・・ えと、飲ませる役の人はやはり決めた方が良いですね
No.31
>マレア対応 私は先述の方法で調味料のように薬を勧めてみるアプローチだけれど、それで首尾よくいくかは分からないし、シルクさんの息子さんの旧知として接触する事も、並行してやってもらえたら助かるわ。 私は少なくともすぐに家に訪問するのではないし、もし薬を受け取ってもらえたとして、ちゃんと使ってくれてるか確認は必要だから。私の方で手渡せたら、マレアさんと一緒にオムレツを作る過程で薬(調味料)の使用を勧めてくれると確実性が高くなると思う。 私の提案するアプローチで受け取ってもらえなかったら、シルクさんに託して、料理に使うなり栄養剤として渡すなり、何らかの形で服用してもらえればいいかなって。 要は怪しまれずに薬を飲んでもらえて、その後の情報収集に繋げられたらいいのだもの。お互い矛盾しないやり方で色んな方向からのアプローチができたら、たった一つの方法に絞るより成功率はきっと上がるわ。