白猫とお茶を
STANZA
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シナリオID:41
オープニング
僕の名前は旅猫、白猫型のハーフビーストだ。
気軽に「タビ」って呼んでもらえると嬉しいな。
あ、アクセントは「タ」の方を強くね。
名前の通り、僕はロスガリア大陸のあちこちを気ままに旅して回ってる……って言いたいとこなんだけど。
実は、覚えてないんだ。
今はとある冒険者の世話になってるんだけど――そこ、飼い猫とかゆーな!
……えー、まあ、それ以前にどこで何をしていたのか、全然思い出せなくて。
旅猫って名前も、その冒険者が「なんかそれっぽいから」って付けてくれたもので、本当の名前はわからない。
手がかりになりそうなものとしては、今も背中に背負ってる弦の切れたリュートくらいだけど、僕はそれがリュートって楽器であることも思い出せなかった。
多分、僕はこれを弾くことが出来たんだろうな。
リュートと言えば吟遊詩人だってそいつが言うから、きっと僕もそうだったんだろう。
で、吟遊詩人と言えば酒場でネタを仕入れたり、作った歌を披露したりするものらしい。
だから僕も、ここ――冒険者御用達の『踊る小熊亭』で、日がな一日みんなの話を聞いて回ってるってわけ。
今はまだ、吟遊詩猫らしいことは何も出来ないけど、みんなの話を聞いてるうちに何か思い出せるかもしれないし。
ってことで、今日も話を聞かせてくれないかな?
みんなはどこから来たの?
夢とか、やりたいことはある?
昔話なんかも大歓迎だよ。
お礼に僕の好物、マタタビ茶を奢るからさ――
解説
マスターより
リプレイ
シニング・W・テュパラは楽しそうに語らう冒険者達を物色するように、賑やかな店内を眺め回す。
この機会に出来れば友人を増やしたい所ではあるが、殆どは自分のような路地裏生活とは縁がなさそうな、どこか身綺麗な者達だ。
(まあ身なりはそんな関係ないけどな……あんま期待せんどくかぁ)
一応、いい感じにピンと来る者がいたら、後で軽く声をかけておこう。
(変に警戒されんのも嫌だし、まずは顔見知り程度になれれば良いか)
ところでこの匂いは例のマタタビ茶だろうか。
嫌な予感がする。
(アタシに効くかわかんないけどさ)
いや、猫科だから多分効く。
折角耳や尻尾を隠してるのに、獣人だとバレては元も子もない。
(下手に匂いとかも嗅がねぇ方が良いかもな)
適当に肉料理でも齧りつつ皆の話を聞いて――え、サービスでマタタビ茶も付ける?
「いやぁ……なんか変なにおいしね? アタシはムリムリ、遠慮しとく」
隅の方に座って――さて、観察開始といこうか。
その日踊る小熊亭には大勢の冒険者達が集まっていた。しかし。
(まさかのゴブリン一人のみです!?)
ショコラは腹を括った。ここはマイナー種族代表として自分が頑張らねばと。
「ボクはショコラ13世なのです」
フンスと気合を入れて、ニコニコとタビに話しかける。
「ボクは遠い昔にゴブリン達が故郷の森から出てきてから、ずっと冒険を続けてきた少女の13人目なのです」
生まれ変わりとか、そういうことではない。
「昔は別の名前で呼ばれていましたが、今はボクがショコラなのです」
混ざり物と呼ばれた初代から始まり、代々その死と共に名前と志を受け継いできたのだ。
「ゴールディで暮らしていた時には見られなかった世界を見たいのです」
「ギャギャ、ショコラはゴールディに住んでたギャ!?」
突然話しかけてきたのはローブを着込んだ小柄なリザードマン。
「シファーの名前はシファー・アルムグニーだギャー!」
無料でご飯が食べられると聞いて来たシファーは目下、ゴブリンの歴史に興味津々だった。
「だから基本的にゴールディを1歩進んで2歩下がる感じで散策してるギャ!」
「なんで下がるのです?」
「……だってあそこめっちゃこあいギャ」
ぷるぷる震えだしたシファーに、今度は別の声がかかる。
「そうかなぁ〜、別に怖くはないと思うよ?」
アルテ・ルナフィニスは山盛りのごはんを手に、タビ達のテーブルにやってきた。
「ボクはゴールディのスラムから出てきたんだー。あそこはひどくてねー、ご飯がろくに食べられない!」
ゴールディでも場所によって違うのかもしれないが、アルテはスラムしか知らない。
あそこでは恐怖よりも空腹の方が酷かった。
「おかげで、こんなちっちゃいまま! あ、ここ笑うとこだよ!!」
「ちっちゃいことならボクも負けないです、勝っても嬉しくないですけど!」
「小さい自慢ならシファーが一番だギャ!」
「僕も結構いけるかな」
タビも小柄な方だし、このテーブルはちっちゃいものコーナーか。
ひとしきり笑って、話は続く。
「それから、まぁ、いろいろ……傭兵団に拾われて多少……あぁ、あそこの青髪のエルフとはちょっと縁があるかな」
アルテがちらりと視線を投げると、向こうのテーブルで誰かが手を振った。
「まぁ、いろいろあってご飯は食べられるようになったし、いろいろおしゃれできるようになったけど……うん」
急に声のトーンが変わる。
「ある子に出会ったんだ。ボクがヒトとして生きたくなった、してくれた子」
「じゃあ、こっちにはその子と一緒に?」
タビの問いに、アルテは首を振った。
「いまははぐれちゃってるけど、大事なんだ。見つけたら、絶対に逃がさない」
「きっと見付かるのです」
ショコラはにこりと笑って、自分の夢を語る。
「ボクはまだ冒険者として未熟なのです、けれどいつかご先祖様に誇れるショコラになるのです」
その先の世界を目指せという遺言に従い、広い世界に出て来た。
「ゴブリンには無理だなんて、だれにも言わせないのです」
ただまっすぐに、前だけを見つめて。
「二人ともカッコいいギャ! シファーは魂の友とはなんぞやとか、魂を磨くってなんぞやとか、考えなかったり考えなかったりするギャ~」
リザードマンらしいギャ?
「あとはあとは~……好きなものは美味しいご飯、嫌いなものは苦いのとネバネバ。お菓子大好き、お魚も食べられるギャ。偉い?」
「偉いのです」
ショコラに撫でられて気を良くしたシファーは、隣のテーブルにも首を突っ込んでみた。
「みんなはどんな感じの冒険者なんだギャ?」
「私はアンネエルカ、アンネって呼んでくれても大丈夫!」
アンネはふわふわの羊耳を揺らしながら、ぺこりと頭を下げた。
折角の機会だし、ここで友達が作れたら良いなとドキドキしながら、アンネは自分の夢を語る。
「私ね、故郷で自分の宿を開くことが夢なの! ヴェルクリエっていう辺境の学術都市なんだけど、職人さんとか芸術家さんとかがいっぱいいるのよ」
とは言え、アンネ自身は何かを作ることはそれほど得意ではない。
「それでもね。そこで好きなことを追及している皆と、街が大好き!」
だから、その大好きな街にいっぱい人が来てくれるように、来てくれた人が楽しんで帰れるように。
「大好きな皆の思いの結晶、作品たちで彩った宿を開きたいなって思ったの」
「それ、素敵な夢だね!」
赤毛の狐耳を持つ少女がふさふさの尻尾を振りながら声をかける。
「ありがとう、嬉しいわ。……あなたは?」
「ボクはクレア・エクレール!」
クレアはリーンエス王国生まれのあちこち育ち。色々な土地を転々としながら育ったせいか、見知らぬ誰かに声をかけることに躊躇いはなかった。
寧ろ自分から声をかけずにどうやって交友を広げるのかという勢いで、男女年齢種族関係なくフレンドリーに話しかける。
ついでに訊かれなくても答えちゃう。
「旅をしながら何でも屋をやってる冒険者で、依頼者様がお望みなら荷運びから汚れ仕事まで、何処へでも駆けつけ解決致しまーす♪」
取り柄はフットワークの軽さと元気とこの笑顔かな?
「好きなものはキラキラしたものと香りのよいもの。あとこうやって誰かとお喋りするのも大好きだよー」
と、その目が吸い寄せられるように、一人のリザードマンに留まる。
「キミ、その飾りキラキラで素敵だね、よく似合ってる。もしかして手作り?」
「これのこと……でしょうか」
その彼女は、身に付けた装飾品にそっと触れてみせた。
「ありがとうございます。ええ、こうした細工物を作るのが趣味ですので」
「そうなんだ!」
「とても綺麗ね。そうだわ、今度ヴェルクリエに来てみない? きっと気に入ると思うわ!」
クレアとアンネが食い気味に迫るが、そう言えばまだ名前を聞いていなかった。
「ねぇねぇ、キミはどこから来て、何して生計立ててるの?」
「私、夢を追うことも夢を追う人たちのことも大好きよ! だからいっぱい皆のお話し聞きたいな」
「私はスィーリーンと申します。リザードマンのキャスターです」
スィーリーンはわざわざ立ち上がると、丁寧に頭を下げた。
「タビ様も他の皆様もよろしくお願いします」
「うん、よろしくね。でも様はいらないよ、なんだか恥ずかしいや」
タビに言われて頷いたスィーリーンは話を続ける。
「私はディズル大湿地帯より参りました。夢は、キャスターとしての実力や手細工の腕を磨き人の役に立つ事ですね」
「へぇ、それは素敵だね!」
クレアの言葉に嬉しそうに微笑むと、スィーリーンは夢見るような視線を遠くに投げた。
「『語らずの智者』エフレム様、あの方のような偉大なキャスターになるのが目標です。二つ名を戴ける程の実力、徒に弁を弄さず必要な事だけを口にする姿勢、主への忠誠……素晴らしいお方です」
実はほぼ噂でしか知らないのだけれど。
大部分は思い込みとドリーム成分で出来ているのだけれど。
けれど、憧れってきっとそういうものだ。
「他の皆さんはどうでしょう。お話を聞かせていただけませんか?」
興味もあるし、参考にもなると思うし――
白羽の矢が立ったのは、物静かな眼帯の少女だった。
「私はカメリア……カメリア・ローレンスよ」
寡黙に見えるが話すこと自体は好きだ。ただあまり慣れていないため、仲間内ならともかくこういった場で自分から誰かに話しかけることはまずない。
今日もどちらかといえば他人の話を聞きに来た口だが、話しかけられればきちんと応えるし、寧ろ話すきっかけを作ってもらえるのは有難いとさえ思う。
「王国出身ね。今はエルナさんのアトリエに住まわせて貰っているわ」
家主のエルナ・クルプファルツもこの場に来ているし、他にも何人か顔見知りがいるようだ。
「夢、と呼べるほどのものではないけれども」
遠慮がちな前置きをしてから、カメリアは想いを一気に吐き出した。
「色々な場所や色々なもの……本の中に書いてあるような憧れのものから、書いていないような思いがけないものまで。沢山のものを見てみたいと思っているわ」
多くの冒険者達と接することが出来るこうした場も、彼女の好奇心をくすぐるのだろう。
「自分にはない考えや、想像もしなかった体験……そんな話を色々と聞いてみたいわね」
こんな感じで良いのだろうかと、カメリアはエルナを見る。
エルナはそれを、自分へのバトンと受け取った。
「はじめましてタビさん! エルナです!」
元気だ。めっちゃ元気だ。
「見ての通りエルフですよ!」
そう言って、エルナは「ほらほら〜」と金色の髪から飛び出た長い耳を引っ張ってみせる。
「と言っても私はリブラネスタ育ちで、これまで殆ど遠出したこともないので森のエルフさんの事は知らなかったり……なので一度は大森林に行ってみたいですね!」
「エルフの人って森に住んでるの?」
タビの記憶は自分の事だけではなく、色々と広範囲に抜け落ちているようだ。
「僕も大森林ではないけれど、生まれは森だね」
何だかチャラそ……いや、人当たりの良さそうなお兄さんが声をかけて来た。
「初めまして、タビ。僕はセヴラン・クアルト、旅の辻楽師さ。今日の小熊亭はとても華やかだね」
良いタイミングで来られたものだと、手にしたヴァイオリンをちらりと見せる。
「おっ、アンタも同業か!」
今度はノリの良さそうな少女が話に入ってくる。いや、少年にも見えるが……まあどっちでもいい。
「タダ飯がもらえると聞いて俺参上! っていうのは半分冗談だけど」
自称吟遊詩人のギド・フェルミは、自分もリュートを取り出して軽く爪弾いてみせた。
「そっちのアンタはタビって言ったっけ。記憶がないらしいが詩人の同業者サンと話してみたくてね、少しばかり付き合ってくれたら嬉しいな」
おまけに正真正銘の楽師までいるなんて、ラッキー!
「記憶喪失ね……弦は直さないのかい?」
タビの背中にあるリュートに気付いたセヴランが尋ねる。
「うん、何か大事な手がかりがなくなってしまう気がして」
「だったら音楽を聞いてみたらどうだろう」
「俺もそう思ってた! でもさ、聞くより自分で弾いてみたら何か思い出したりしないか? ほら、俺の貸すからさ!」
ギドはタビに自分のリュートを差し出した。
「そうだね、身体が覚えている事もあるし……じゃあ、いくよ」
店に許可は貰ってあると、セヴランは静かにヴァイオリンを奏で始めた。
初めは喧騒に紛れて気付かないほど密やかに、次第に強さを増していく音は自然に周囲のざわめきと混ざり合い、気付いた時には最初からずっとメロディが流れていたように感じられる。
「すごいな……」
タビも真似してみようと思ったけれど、楽器を手にしても弾き方は思い出せなかった。
「そんなガッカリするなよ!」
落ち込むタビの肩をギドが軽く叩く。
「そう急には思い出せないよな、でも手拍子くらいは出来るだろ?」
リュートを受け取ったギドは、セヴランのヴァイオリンに合わせて弦をかき鳴らす。
「上手くやろうとか思わなくてもさ、こういうのは上手い奴の方が合わせてくれるから! な!」
期待の眼差しを向けられたセヴランは、リュートに合わせて演奏を変えた。
思わず踊り出したくなるリズムが酒場に溢れる。
「あ、良い音楽が流れてきた」
クレアがアンネに手を差し出す。
「折角だから一緒に踊らない?」
「はい、喜んで!」
空いたスペースに躍り出た二人は、音楽に合わせて楽しげにくるくると舞う。
体が動くままに任せて自由気ままに、型とか作法とかそんなの関係ない。
「楽しそうだね! 私も踊る!」
飲みかけのぶどうジュースをテーブルに置いて、エルナが勢いよく立ち上がった。
「ほらカメリアも一緒に!」
「え、ちょっと、私ダンスなんて……」
「いいからいいから!」
カメリアを巻き込んで、エルナは適当にステップを踏んだ。
最初は見ているだけのつもりだったけれど、もうじっとしていられない。
セヴランの肩でもリスが楽しそうに踊っている。
「この子はララと言うんだ、宜しくね」
やがて演奏が終わると、エルナは皆に拍手喝采。
「楽しかった! じゃあさっきの続き、いきますね!」
タビを隣に座らせて――
「世界には他にも不思議なものやキレイな場所が沢山あると聞いています! 世界中を巡ること! これが私の夢の一つなんですよ!」
「俺は帝国のほうの出身でね、あっちにいた頃や帝国がなくなっちまった時には色々あったけど」
反対側の隣にはギドが座った。
「今はこーして自由に歌って過ごせるようになったのはラッキーだったかなって前向きに考えてる」
「初めましてっ! わたしはリサと言います」
次に指名を受けたリサ・ベイカーは勢い良く手を挙げた。
「エスト・ポーラから来ました。ちょっと訳あって、絶賛家出中なので……家名はヒミツなのですけど、商人の家の人間です」
なので、そっち方面は少しは詳しいかな?
「それで、何を話せば良いんでしたっけ……あ、夢ですか?」
夢とは違うかもしれないが、やりたい事はある。
「この世界を色々見てみたいです。あとは、困ってる人を助けたいです。せっかくの力……あ、わたし、ヒーラーなんです!」
見た目ウォーリアっぽいって思われるかもしれないけど、ヒーラーです!
「その力を助けるために使いたいなって」
晴れやかな笑顔を見せたリサは直後、何か嫌なことを思い出したらしく眉間にシワを寄せる。
「損得を考えて行動しろって親は言うけど、弱い立場の人こそ助けてあげるべきだって思うんですよね。ほんと、あのわからず屋ときたら……あ、ごめんなさい。父と、喧嘩中なんです。あは……」
苦笑しながら頬を掻く。
「えっと、うん、そんな感じで、色々頑張ります! よろしくお願いしますね」
はい、じゃあ次の人!
(話を、聞かせる……話を、か)
緊張で固まっていたアンジェラは、突然の指名に飛び上がるほど驚いた。
実際に飛び上がりはしなかったけれど、心臓はまだバクバクしている。
「……私の話を、か? うむ、うむむむむむむむ」
(ヒトに聞かせられる話は無いのだが、弱ったな)
しかし求められた以上何かを話さなければならない。恐らくこれが「ヒト」の営みなのだろうから。
「私は砂漠から来た」
それ以上は言えないが、詳しく語る必要もないだろう。
「街での暮らしはこれが初めてになる。これ程大勢のヒトと接するのも初めてだ。だから、うむ、その、なんだ……恐らく私は緊張している」
恐らくどころではなく緊張している。
「私は表情に出にくいから気付かれ難いが、今足がガクガクしている、うむ」
こんな話で良いだろうかと、アンジェラは周囲を見る。
ヒトの会話は良く分からないが、タビの役に少しでも立てばと思って話してみた。
「記憶がないというのは不安だろう。お前の記憶が早く戻るのを願っている」
「ありがとう、これお礼のマタタビ茶だよ」
これはお肉と合うだろうか。
(……緊張した、肉を食べよう、うむ)
あつあつのシチューを頬張っていた空冬・シラユキは、突然の指名に顔を上げる。
「あ、おれの番?」
困ったな、何を話そうか。自分のこと話すのそんなに得意じゃないんだけど。
「みんなすごいよね、ちゃんと自分の夢とか目標とか持ってて。しっかりしてるなーって感心してたとこ」
でも自分には、そんな野望とか目標とかは特にない。
「夢語りは難しいね。でも……んー、しいて言うなら現状維持かな?」
現状に満足しているわけでもないけれど、今はまだモラトリアムといったところか。
「好きなものは、そうだなあ……」
空冬は自分を見つめる者達を見返す。その頭にぴょこんと突き出た獣耳や尻尾に視線が吸い寄せられた。
「うん、もふもふしてて、あたたかいもの。まるっこいとなおよいけど、もふもふしてればいいや……」
いいなあ、もふもふ。羨ましい。
「ねぇ、触ってもいい?」
「あ、僕のでよければ……」
「……なんてね。冗談だよ冗談――えっ!?」
タビがおずおずと申し出る。
「あんまりもふもふでもないし、丸くもないけど」
「ありがとう!」
ついでに丸いほっぺも……いいの? やったー!
「へへ、食い物でるのはありがてぇな」
レオネベルは「本日のおすすめ」と書かれたお肉たっぷりポットパイを手に、タビのいるテーブルにやってきた。
「よっ、タビってのはアンタか?」
「そうだけど、君は?」
「レオだ。同じハーフビースト同士、よろしくな」
気さくに話しかけたレオは、普段はフードで隠しているライオンの耳をピコピコと動かしてみせる。
「タビは記憶を探してるんだろ? オレも探してんだ。記憶ではないけど兄貴をね」
「お兄さん?」
「ああ、今はチビたちの面倒見るので手一杯だけどいつか探しに行けたらなって」
「他にも弟や妹がいるの? 大家族なんだね」
「まあな」
孤児院の子供達だとは、まだ言わない。親近感はあるけれど、初対面でそこまで話すほど気を許してもいないようだ。
「お互い探すの大変かもだけどさ、頑張ろうぜ」
そう言って笑いかけ、レオはポットパイの蓋をスプーンで崩し始める。
もし縁があれば、もっと色々と話せるような間柄になれるかもしれない。
「お酒は要りません。バゲットと、今日のおすすめを」
シャロン・ラ・モリエールはここの常連だった。
辺境都市群の寒村から出てきたばかりの頃、シャロンは都会に出たら白いパンを思いっきり食べてみたいと思っていた。
そんな夢がかなう、そう! 踊る子熊亭ならね!
今やすっかりここのバゲットのファンとなった彼女は、以来毎日ここに通い詰めているのだ。
そんな彼女に声をかけてくる者がいた。
「やぁこんにちは お茶を一杯ご一緒しても?」
セヴランである。
「口説くつもりは無いから安心して まずは君の名前を教えて欲しいな」
だが返事はない。
無視でも拒否でもないが、食事中の会話はお行儀が悪い。
食べ終わったら答えようと思っていたのだが、セヴランは「また何処かで縁があるといいね」と肩を落として行ってしまった。あら残念。
「今は細々と内職をしながら、依頼の争奪戦に一喜一憂する日々を送っています」
話を振られれば、近況などを少し。
「稼いだお金は故郷の教会に送っています。孤児院や施療院の運営費の足しになれば、と……」
あ、ここのバゲットは美味しいですよ、ご一緒にいかがですか?
少し離れたテーブルでは、レシュノルティア・ピオジェレラとヒロ・テスタロッサが楽しげなお喋りに興じていた。
「あたしの町は一応王国領だけど、何もない町だよー」
ヒロが料理をつつきながら苦笑いする。
どうやら今は、互いの出身地について話が弾んでいるようだ。
「だから色々なこと……バルバロイと取引とか……して何とかやってる。まぁゴールディに比べたら全然だけど。んで帝国崩壊したら、空気だった領主サマが授恵者を探し始めてさー。面倒事になる前に町を出たってわけ」
そういえばレシュノルティアはゴールディの出身だと言っていたっけ。
「レシュさんはゴールディのどの辺り? あたし噂でしか聴いたことないんだけど、ほんとにそんな怖いとこなの?」
ヒロに訊かれ、レシュノルティアは脳裏に刻まれた光景を思い浮かべる。
「そうねぇ、ゴールディの……スラムよりはマシだけど、まぁ、荒くれものの多い所ね。そこか高級街、あとはスラムって感じよ。あの国」
「へぇー」
「私はそこの……ガロファノ傭兵団、元団長の娘ね。妹にごりっとおしつけてきちゃったわ、まぁ、妹もエルフだし、なんとかなるでしょ」
「押し付けたんだ? それ帰ったら怒られない?」
「大丈夫、何かあれば戻って手伝ってるし……ねえ、バルバロイとの取引ってどんな?」
「んー、町が砂漠に近いもんだから奴らの襲撃が多くてねー。ただ、話の通じる連中もいるから、彼らとちょっとした取引をしてる。物資を融通したり多少の事は目をつぶる代わりに、町に危害を加えないと約束させるって感じ」
「なるほどね」
言いながら、レシュノルティアはどこかに向けて手を振る。
「知り合い?」
「うん、そんなとこね。そうそう。ウチ、スラムに手は出さないけど、逃げてきた子を保護くらいはするの。そういう子が結構いたわぁ。ま、私は大抵見送る側だったから……それに飽きて外にでてきたってわけ。あそこは命が軽いから」
「そうなんだ……ねえ、あたし、一度ゴールディ行ってみたいんだ! 良かったら案内してよ、レシュさんと一緒なら安全そうだし♪」
「私の行く範囲でよかったら、いいわよー」
話はそこから、具体的な計画へと雪崩れ込んでいったようだ。
テュリン・ヴィングとララベル・サン・ディーベルは、小さな頃からずっと一緒だった幼馴染――いや、姉弟のような関係だ。
「考えてみたらさ、僕達こうやってゆっくり話すことってあんまりなかったよね」
「そうね、ずっと一緒だったのに……ううん、一緒だったから、かも」
「うん、改めて言葉にする必要もないかな、みたいな」
けれどこうして故郷を離れてみると、話したいことは次から次へと湧いてくる。
「こうして一緒にご飯食べてると昔を思い出すわね。みんな、今も元気にしてると良いんだけど」
「お爺ちゃんもお婆ちゃんも元気でやってると思うよ……元気過ぎる位で、良く2人でお爺ちゃんに怒られたよね。テュリン姉の師匠も元気かな」
「そうね……」
一呼吸置いて、テュリンは小さく笑みを漏らした。
「なんだかすごく昔のことみたいに話してるけど、私達がこっちに出て来たのってついこの間よね?」
「そう言えばそうだった!」
二人で声を合わせて笑い、テュリンが続ける。
「それにしても、私は魔術師としての修業も兼ねて、冒険者になるつもりだったけど。ベルが冒険者になるって言いだした時は正直驚いたわよ」
「うん、自分でもちょっとビックリだった。港に入って出ていく船を見てたら、冒険者になって僕の知らない色んな世界を見たくなって……いつかほんとの両親にも会えるといいな」
「きっと会えるわ」
「ありがとうテュリン姉」
嬉しそうに笑う弟分を見て、テュリンは眩しそうに目を細めた。
「まぁでも、幼馴染のお姉ちゃんとしては、可愛い弟が心配だったからね。ある意味ではホッとしてるのよ。冒険者として一緒に旅も出来るからね」
もちろんどこでも一緒というわけではないけれど、もし危険な場所に行こうとするなら何が何でも付いて行く、くらいはするかもしれない。
「それに、英雄を目指すって言ってたベルがどんな風に成長していくのか、見てみたいからね」
悪戯っぽく笑みを浮かべるテュリンに、ララベルは穏やかに微笑んで見せた。
「素晴らしい冒険者に絶対なって見せるよ……それなら、一生僕の側でその活躍、見届けてね」
ん? もしや今のはプロポーズ?
ラセリ=リエ―ブルとマリア・C・クロードもまた幼馴染。
今日はその第一歩目として、共にここを訪れてみた。
周囲は同じく新米らしい冒険者達で賑わっているが、その喧騒も耳に入らない様子で二人の世界を作っている。
「とうとう本当に冒険者になったねぇ、マリアっ」
「そろって冒険者になれたわね。ふふ、よろしく、ラセリ」
マリアの両親は共に冒険者。幼い頃からその冒険譚を聞かされ、間近に見て育った娘が自分もそうなりたいと願うのは自然なことだろう。
ラセリはシスターなのに野を一緒に駈けて遊ぶようなお転婆娘の彼女から冒険者の話を聞くうちに、その夢を叶えてあげたいと思うようになった。
そして共に念願叶い、今ここにいる。
(尊敬する両親の歩んだ道をなぞる様に私もそのスタートラインに立つ事ができました)
マリアはそれを感慨深く思うと同時に、自分は恵まれているとも思う。
両親と同じ道を歩めること。
その道程の最初の一歩目から隣を歩いてくれる人がいること。
両親は仕事のさなかに出会い、関係を育てていったのだと聞いた。そこまでの道程ではきっと、心細かったり不安になったりする時もあっただろう。
でも自分にはラセリがいてくれる。
「頼りにしてるからね。ラセリ」
「うん、任せてよっ」
そう言うと、ラセリは自分の目の前に置かれた皿をマリアの前にどんどん押し出し始めた。
「これとこれは美味しいよ、でもこれはちょっとマリアの口には合わないかな……大丈夫、全部僕が味見したからっ」
優しいマリアが遠慮しないようにとの気遣いだ。
(頼りにしてるって、そういう意味じゃないんだけどな……)
けれどいつもの人懐っこいゆるふわスマイルで見つめられると、もう全部「そうだね」となってしまう、恐るべしゆるふわパワー。
けれどマリアの想いはちゃんと通じていたようだ。
食事の最後、急に真面目な顔――と言っても相変わらずのゆるふわスマイルで、ラセリはマリアに向き直った。
いつかきっと、大好きな冒険物で読んだ勇者たちみたいに強くなる。そして。
「いつかマリアをお姫様にしてあげるからねっ!」
「わわ、ラセリっ! お姫様なんて……恥ずかしい……」
大胆かつストレートな物言いに赤面しながらも、マリアは心の中で「楽しみにしてるね」と返すのだった。
(たまには『踊る小熊亭』の一角で飲み食いするのも有りよね)
百鬼 朱羅は新たな出会いに期待しながら店内を見渡してみる。
テーブルは殆ど埋まっていたが、いくつか空きがある。朱羅は人懐こそうな白マントの少女がいるテーブルに近付いてみた。
「それおいしそー! 一口ちょーだいっ」
「おい、誰もやるなんて言ってな――」
「もう遅いよ、ごちそーさま!」
そんなやりとりをしているのは、シェアハウス仲間のフリューリングスルフト=ティエラとエイル・ビュセファスだ。
本当はもう一人いるのだが、今回は都合で来られなかったようだ。
朱羅は会話の合間を見て話しかけてみる。
「此処、相席宜しい?」
「いいよ、座って座って!」
フリューの言葉に甘えた朱羅は、その隣に東洋風の食事を盛ったトレイとエールを置いた。
「初めましてよね、百鬼 朱羅よ」
簡単に自己紹介を済ませ、食事をしながら少しずつ話題を広げていく。
「んー、うちは憧れの話をしようかな~」
フリューは肩に羽織ったマントを自慢げに見せながら言った。
「故郷を飛び出したんはね、命の恩人である『白い風』に憧れたんだ。名前も顔も分からんけど、いつか会えたらお礼を言うのが夢なんよ♪ エイル何か手がかり知らない?」
「白い風? 心当たりはないな。それにしても命の恩人だとか穏やかじゃねぇのな。死ぬような目にあったってことだろ」
「それはそうだけど、今こうやって生きてんだから結果オーライよ♪」
その人は風みたいに速くて、あっという間に全てを奪って行った――息も心も。
「シーフなのかなって思ったから。えへへうちもシーフ選んだんだ♪ あとはもっと世界を見てみたくて! エイルは?」
「俺の話など面白くねぇぞ」
そう言いながらも、実家が貧乏であることや、食料を手に入れるための盗み等もしていたこと、儲けるために街に出たことなどを淡々と語る。
「わりとハードモードなんね。朱羅ちゃんはどう? 夢とかある?」
聞き役に徹していた朱羅は、エールを一口飲んで答えた。
「夢ねぇ……特に今はないかしら? 強いて言えば……、歌で有名になれたら良いわね」
「歌が得意なの? 聞いてみたいな!」
あ、でもその前に――
「エイル、エイルちょっと」
「なんだよ……リュートの修理だ? フリューそんなの持ってたか?」
「うちのじゃなくて、あの子」
視線の先にはタビの姿があった。
「専門の業者に頼めよ……つかさっき直す気ねぇみたいなこと言ってたぜ?」
「え、そうなん?」
二人のひそひそ話が気になった朱羅はタビに話しかけてみる。
「……記憶喪失なの? そう、このリュートが手掛かりに……それじゃ直すわけにいかないわね」
それにどうやら弾き方もわからないらしい。
「なにか歌を聞けば思い出すかもしれないわね」
さっきは音楽だけだったけど、歌が付けばまた違うかも?
「それでは1曲歌わせて貰うわね」
酔いに任せて東洋風の曲をアカペラで歌い出す朱羅。
そこにいつの間にかヴァイオリンとリュートの伴奏が付いて、フリューの踊りも加わった。
(俺、今日は歌わなくて正解だったかも)
そんなことを思いながら、ギドはリュートを鳴らす。
レオの尻尾がリズムに合わせてゆらゆら揺れて――
「それじゃみんなで踊っちゃおう!」
フリューの声で、うずうずしていた者達が踊り出した。
「レオもどう? 踊りってよくわからないけど」
タビの誘いに、レオも「俺もだ」と笑って立ち上がる。
看板の子熊までもが、釣られて踊り出したように見えた。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:無し25 / 10〜25人
2020年10月22日 21時59分01秒 公開
参加者
相談掲示板
一番乗りですね!マタタビ茶が気になるエルフのエルナです! 皆様よろしくお願いしますね!
リザードマンのスィーリーンと申します。 よろしくお願いします。
シャロンともうします。シスターをしております。 よろしくお願いしますね。
ぐぬぬ! 1番取られた! リザードマンのシファーだギャー! まだ何しようか決まってないギャ。 よろしくギャ~!
みなさん、初めまして! リサですっ よろしくお願いしますっ
皆様、初めまして。 私の名は朱羅よ。 よろしくお願いするわね。 私の方もまだ何をするか決まってないわね。 もしも何かするようなら誘ってくれるとありがたいわ。 特に何も無ければ歌でも歌ってみるつもりよ。
初めましての人もそうでない人もいるかしら、カメリアよ。よろしくお願いするわ。 私は自分語りしようと思っているところね。
クレア・エクレールだよー! 今回はボク、なんだかとっても誰かと色々お喋りしたい気分なんだー♪ はじめての人もそうじゃない人もよろしくよろしくー。
セヴラン・クアルトだよ や〜華やかなお嬢さんが沢山いて眼福だね 気ままに演奏するか 話を聞こうかな〜ってところかな 縁があったらよろしくね
アンネエルカよ。アンネって呼んでくれても大丈夫! 私、こんなにたくさんの人たちとお喋り出来る賑やかな場所って初めだわ。 いっぱいお話しして……お友達とか、出来たら嬉しいな。 そうそう、あとはお食事も!何を頼むか迷ってしまうわ……
No.11
レオという。よろしく頼む。 オレもまだこれと言って何をするかは決めてないがタビとも話はしてぇなと思いつつこんなに人と話す機会もないしで色々喋れたりするといいな。 メシかぁ…肉食いたいな。いいのあるかな。
ボクの名前はショコラなのです。 沢山の人と話せる機会は初めてなので楽しみなのです。 まだやる事は決まって無いけれど、お話しできる時にはよろしくお願いするのです。
空冬・シラユキ。好きに呼んで。 話すの上手くないけど、嫌いじゃないから。 ……うん、えーと、よろしく?
フリューリングスルフト=ティエラです 長いからティエラって呼んでください♪ うちはご飯食べて、そうだなぁ…夢みたいなこと話そうかなっ あ、演奏や歌うかたおるん? 踊るの好きだから混ざっちゃおうかなっ よろしくねっ
>ティエラ様 >演奏や歌うかたおるん? そういうことでしたら、私が1曲歌う気でおります。 ついでに相席して御飯でも食べながらお話しを一緒にしませんか?
アンジェラだ。 …………他に何を伝えれば良いのか分からない。 兎角よろしく頼む。
ラセリ、初めてのお仕事…お仕事? お邪魔します、宜しくお願いします、だねっ(ぺこり
テュリン・ヴィングよ。 一先ずゆっくりお茶飲んだりして過ごそうかなって思ってるかな。 そんな訳で、今回はよろしくね
>百鬼さん わっ、うんうん!お話もご飯も一緒に食べよ! そういう感じでぷれいんぐ?書いておくね♪ 歌もおしゃべりも楽しみにしてるね♪ あ、他のみんなにも声かけたり行くかもです(キランッと悪戯っ子っぽく微笑み) 絡み歓迎って感じで!
僕は、ララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね!
挨拶が遅れたな!ご一緒させてもらうギドってもんだ。よろしくなー。 タビと色々話してみたいなーって思ってるけどみんな歌と演奏してくれるのか? 俺も演奏で混ざっても大丈夫かね、皆がどんな歌歌うのか気になるし。
おっと、アタシはテュパラ、シニング・W・テュパラだ。今回はよろしくなー
(シファーさんの視線に気づき) ふっふっふ〜、とってしまいましたよ一番!(イタズラっぽく笑って) あっと言う間の出発日ですね! お歌や演奏や踊り!楽しみにしていますね! 私はぶどうジュース片手にそれらを聞きつつタビさんとお話したりしようかなと言う感じです! 絡みも歓迎ですので!
悪い、顔出しが遅くなってしまった。 エイルだ。飯食ってるだけだが、よろしくな。