少し未来の話をしよう ~前~
キャラクターノベル(グループ)制作 弓月 蒼納品 2023年08月07日 23時28分21秒
●今からの続きと少し未来の話
「やっと着いた……」
エルゼリオ・レイノーラの、何処と無く力無い声が響いたのは初夏を仰ぐ月初めの事。
より端的に表するなら――――王国北境で開催されたつある武術の大祭が恙無く幕を下ろした。
その凡そ直後辺り。と言い換えても良いだろうか。偶々、階段を降りて来ていた彼の実兄。
王国社交界では『氷の貴公子』とも称されるシグルド・レイノーラが片手を挙げ。
そうして、その様相をまじまじと見定めて唖然の相で続く言葉を失ったのも、已む無き事と言えた。
彼とて、弟が冒険者という身分を得て方々を旅して歩いている事は知っている。
それが決して順風満帆な道程ばかりではなく、苦難や挫折を含む物であろう事は想像に容易い。
だが、"治療師"である筈のエルゼリオがここまで目に見えて疲弊しているのは流石に珍しい。
昨今、当面最大の問題を抱え込んでいた『帝国』方面はまるで嵐の前の静けさの如く静かであり。
王国内も南部でちょっとした内乱が起きたと聞く程度。平和な物だと思っていたら――――コレである。
「あ、兄上……ただいまー……」
「ああ、どうしたんだエルゼリオ。随分とその……草臥れている様だが」
「うん、ちょっと……――――あれ。もしかして父上居る?」
「間が良いというべきか、悪いというべきか……今朝出征から帰って来て、今は寝ている筈だが」
尚、実父『王家の番犬』等とも称されるハスラム・レイノーラが帰宅し、即沈没して以降。
戦後処理に財務整理に兵站の補充に至るまで、書類仕事にシグルドが忙殺されていた事は言うまでもない。
奇しくも、丁度一段落付いたところで後追いの様に帰省を果たしたエルゼリオは。
文字通り運が良いのか、悪いのか。共に忙殺されていた秘書官は入れ違いの様に机に伏した所。
今し方薄手の掛毛布をかけて部屋を出たタイミングと言う事も有り。
常に明るく見える弟が、旅路で疲弊していると言うなら。話を聞くのも長男の役割の内だろう。
「もし気力が残っているなら、序でだ。茶の一つでも付き合ってくれるか」
そんな事を言っているから、父も妹もが彼に仕事を振るのだと。
何故か、彼当人だけが気付けていないのは――――これもまた、果たして運が良いのか、悪いのか。
■
「そうか。あの『迅雷』が……な」
「あれ、兄上も知ってる相手?」
「武門で『迅雷』を知らない王国貴族が居るものか。南方では代表的な高位貴族だろう」
「へえ……そうなんだ……」
正直、あまり良く知らなかった……と言う風にエルゼリオが瞬くと。シグルドが静かに視線を逸らす。
確かに。よくよく考えてみればそういう事をあの父が逐一教える訳がない。
正規の貴族らしい教育は何処までもシグルドで止まっているのだから、これは自らの不徳の為す所だ。
反省を胸に刻み、自ら淹れた――――至って丁寧に淹れた結果相当な腕前の――――紅茶で唇を湿らせる。
「それじゃあ兄上は"紅百合"って――――」
「エルゼリオ」
――――しかし。続いた言葉はシグルドの。普段以上に静かな一言で封ぜられる。
勿論、博識である彼の『氷の貴公子』とて。その家が何を為したのか、までは流石に知る由もない。
けれど『紅』と言う家名の公爵家がかつて存在し、没落していること。
その名を家名に持つ事が、貴族の禁忌として暗黙の了解を得ている事ならば知っている。
「あ――――ごめん」
「いや……王国の闇、か。どんな国であれ、千年も続けば光もあれば闇も」
「さては俺に隠れて何か美味い物を喰っているな―――――ッ!!」
ある。だが問題は自分がどう振る舞うかであると――――そんな通り一遍等の説法を割く様に響く轟音。
食堂の扉が大仰に開かれ、桃色の髪の精悍な男が姿を表すや、開口一番がこれである。
どんな大義も色を失うという物。と言うか、貴族の棟梁なのだから茶菓子くらい好きに喰えば良いのだ。
「そう言えば、父上ってこう……血とか濃そうだよね」
「はっはっは、そりゃあ俺様の先祖は稀人だとか言われてる位だしな!」
「…… う ん ?」
聞いた事の無い単語に、エルゼリオが眉を寄せる。それはまた、シグルドも同様の様相で。
机の上から勝手に茶菓子を見繕っていたハスラムが、幾つか口に詰め込みながら怪訝の相でそれを見遣る。
稀人。或いは客人か。古くはシャルガネの人々がその様に呼ばれていた気がするが。
如何せんレイノーラの家にシャルガネの血が混ざっていることは寡聞にして聞き覚えがない。
■
(……あー、そーか。誰から聞いたかと思えばこりゃ"あいつ"からか……やっべぇな)
息子2人からの疑念の眼差しを受け。そう言えば"これ"はあまり表沙汰になっていない話だったかと。
すっかり忘れていた記憶の残滓に思い至ったハスラムの動揺を、エルゼリオとシグルドは見逃さない。
「父上、今何か聞き捨てならないことを口走ろうとしていなかったか?」
「ちょ、ちょっとちょっと何、誰? 稀人? 初耳なんだけどえ、うち何の血が混ざってるの!?」
「あー、あー、あー、何でもねえ何でもねえ、ああそうだそうだ武器の手入れが未だだったなあ急いでやらねえと」
その撤収は素早く、取り付く島も無いとはこの事である。呆気に取られた2人は、顔を見合わせる他はない。
「……それで、何か悩みがある様だが」
「シグルド兄は今のそのままで良いの!?」
お茶を淹れ直すシグルドへの、エルゼリオによる至って当たり前のツッコミは。
最早何かに疲れたような実兄の座った眼差しで以て封殺された。あの父の破天荒さは今に始まった話ではなく。
何より、ああして誤魔化し出したとなると口を割らせるのも一手間では済まないだろう。
家を割っての戦争まで覚悟するならともかくも。流石のシグルドも家を維持しながらでは、そうも暇ではない。
「良くは、ない。が……あの父上だぞ」
「そんな事言ったら一事が万事全部あの父上だよ……」
ぐったり伏せるエルゼリオ。こぽこぽと茶器に継ぎ足される茶の音だけが虚しく響く。
その上で続いた呻くような声こそが、最近エルゼリオを悩ませてる王国の貴族事情を指していた。
「……まあ、その。『迅雷』の一件もそうなんだけど。
王室が婚約発表して、これから皇室と王室が直接繋がるって言ってる訳でさ?」
「ああ、そうだな。父上もそこは流石に少し気にしていた」
「うん。実際問題『帝国』はもう当分復興に専念するしか無くて、外的脅威は蛮族に限られる。
となると、ここからは『王国』がヒト族にとっての最大国家を担って行く……事になるんだよね」
「……ある種、望む所。ではあるが……もしそうだとして、何がそれほど心配なんだ」
「『白薔薇』と『黒鋼龍』が、今のまま黙っているかなあ……って」
■
王党派の『白』と貴族派の『黒』。王家と王国を支える二本の柱。即ち、二大公爵家。
貴族の最上位と言える両家は、帝都崩壊以降の国家運営に対しいずれも静観を決め込んでいる。
実際はそればかりでもないが、少なくともエルゼリオから観測出来る範囲ではいずれも静かだ。
これまではそれで良かった。『王国』の秩序を維持する為には何でも"変化"して行けば良いという物でもない。
二大公爵家は"不動"であることで他の貴族家に対する模範で在った訳で、それは強ち間違いでもない。
しかし一方。度重なる"過激派貴族の乱"などを見るだに。その統制が完璧に機能しているかと言えば"否"だ。
何気ないエルゼリオの問に。シグルドは未だ嘗て無く難しい表情で口元を隠す。
それは、一概にどう。と言える程――――容易に解答出来る類の、問では無かったからだ。
冒険者であるエルゼリオとは異なり。シグルド・レイノーラは貴族家の当代としての視点で国を見る。
望む望まざると、細々とした数字と向き合うことを断固拒否するハスラムに代わり。
レイノーラの家の屋台骨を地道に支え続けているのが、このシグルドであるからだ。
その在り様は、エルゼリオが一度合わせてみたい等と謳う黒槍の騎士より、北方辺境伯により近い。
そんな彼の目線で言えば、『王国』という国はその内情の複雑さ、混乱に火種の多さに反し。
現状、比較理想的な情勢を辿っている。何せ、『帝国』と言う最大の仮想敵国が労せずして倒れたのだ。
"幽界樹"なる脅威に晒され王国北方にも一定の被害は出たものの、その影響は極めて限定的。
加えてその後の混乱に乗じて、国内で火種になり得る高位貴族が断続的に蜂起しては潰されている。
『帝都』の奪還を前にして、この流れは悪くない。権力とは常に細い方から太い方へ流れる物だ。
"王家"がここまで優位な趨勢で、これと"皇家"が交わるならば。両家は当分の安泰を得たと言える。
まさか此処に来て――――二大侯爵家が蜂起するなどあり得ない話だ。幾ら何でも機が悪過ぎる。
「率直に言って、黙らざるを得ないだろうな」
「? どうして? 今の所、目立った動きもない『白』と『黒』は揃って無傷でしょう?」
「だからこそ――――だ。王家は今、度重なる貴族の失態で"物が言える"立場に在る」
一方で、『黒鋼竜』は、"乱を起こした貴族を抑えられなかった派閥の長である"が故。
『白薔薇』は、"あくまで王家を主君と奉じる派閥の長である"が故に、王家に対し強く出られない。
"貴族全体"から権力削ぐ、と言う。予てから王家が望む動きを選ぶのに、これほど好都合な情勢もない。
おまけに、メアリー姫が嫁ぐとなれば。隣国の長たる皇家もまた、この動きを支持せざるを得ない。
何せ―――― 皇家は『帝国』復興に当たり是が非でも、"王家の支援を受けたい筈"なのだから。
そうと告げたシグルドは、話を切って冷めてしまったお茶を紋具の茶器で温め直す。
無自覚にせよ成長著しいエルゼリオへと、何処と無く笑いの混じった眼差しを向けながら。
「やっと着いた……」
エルゼリオ・レイノーラの、何処と無く力無い声が響いたのは初夏を仰ぐ月初めの事。
より端的に表するなら――――王国北境で開催されたつある武術の大祭が恙無く幕を下ろした。
その凡そ直後辺り。と言い換えても良いだろうか。偶々、階段を降りて来ていた彼の実兄。
王国社交界では『氷の貴公子』とも称されるシグルド・レイノーラが片手を挙げ。
そうして、その様相をまじまじと見定めて唖然の相で続く言葉を失ったのも、已む無き事と言えた。
彼とて、弟が冒険者という身分を得て方々を旅して歩いている事は知っている。
それが決して順風満帆な道程ばかりではなく、苦難や挫折を含む物であろう事は想像に容易い。
だが、"治療師"である筈のエルゼリオがここまで目に見えて疲弊しているのは流石に珍しい。
昨今、当面最大の問題を抱え込んでいた『帝国』方面はまるで嵐の前の静けさの如く静かであり。
王国内も南部でちょっとした内乱が起きたと聞く程度。平和な物だと思っていたら――――コレである。
「あ、兄上……ただいまー……」
「ああ、どうしたんだエルゼリオ。随分とその……草臥れている様だが」
「うん、ちょっと……――――あれ。もしかして父上居る?」
「間が良いというべきか、悪いというべきか……今朝出征から帰って来て、今は寝ている筈だが」
尚、実父『王家の番犬』等とも称されるハスラム・レイノーラが帰宅し、即沈没して以降。
戦後処理に財務整理に兵站の補充に至るまで、書類仕事にシグルドが忙殺されていた事は言うまでもない。
奇しくも、丁度一段落付いたところで後追いの様に帰省を果たしたエルゼリオは。
文字通り運が良いのか、悪いのか。共に忙殺されていた秘書官は入れ違いの様に机に伏した所。
今し方薄手の掛毛布をかけて部屋を出たタイミングと言う事も有り。
常に明るく見える弟が、旅路で疲弊していると言うなら。話を聞くのも長男の役割の内だろう。
「もし気力が残っているなら、序でだ。茶の一つでも付き合ってくれるか」
そんな事を言っているから、父も妹もが彼に仕事を振るのだと。
何故か、彼当人だけが気付けていないのは――――これもまた、果たして運が良いのか、悪いのか。
■
「そうか。あの『迅雷』が……な」
「あれ、兄上も知ってる相手?」
「武門で『迅雷』を知らない王国貴族が居るものか。南方では代表的な高位貴族だろう」
「へえ……そうなんだ……」
正直、あまり良く知らなかった……と言う風にエルゼリオが瞬くと。シグルドが静かに視線を逸らす。
確かに。よくよく考えてみればそういう事をあの父が逐一教える訳がない。
正規の貴族らしい教育は何処までもシグルドで止まっているのだから、これは自らの不徳の為す所だ。
反省を胸に刻み、自ら淹れた――――至って丁寧に淹れた結果相当な腕前の――――紅茶で唇を湿らせる。
「それじゃあ兄上は"紅百合"って――――」
「エルゼリオ」
――――しかし。続いた言葉はシグルドの。普段以上に静かな一言で封ぜられる。
勿論、博識である彼の『氷の貴公子』とて。その家が何を為したのか、までは流石に知る由もない。
けれど『紅』と言う家名の公爵家がかつて存在し、没落していること。
その名を家名に持つ事が、貴族の禁忌として暗黙の了解を得ている事ならば知っている。
「あ――――ごめん」
「いや……王国の闇、か。どんな国であれ、千年も続けば光もあれば闇も」
「さては俺に隠れて何か美味い物を喰っているな―――――ッ!!」
ある。だが問題は自分がどう振る舞うかであると――――そんな通り一遍等の説法を割く様に響く轟音。
食堂の扉が大仰に開かれ、桃色の髪の精悍な男が姿を表すや、開口一番がこれである。
どんな大義も色を失うという物。と言うか、貴族の棟梁なのだから茶菓子くらい好きに喰えば良いのだ。
「そう言えば、父上ってこう……血とか濃そうだよね」
「はっはっは、そりゃあ俺様の先祖は稀人だとか言われてる位だしな!」
「…… う ん ?」
聞いた事の無い単語に、エルゼリオが眉を寄せる。それはまた、シグルドも同様の様相で。
机の上から勝手に茶菓子を見繕っていたハスラムが、幾つか口に詰め込みながら怪訝の相でそれを見遣る。
稀人。或いは客人か。古くはシャルガネの人々がその様に呼ばれていた気がするが。
如何せんレイノーラの家にシャルガネの血が混ざっていることは寡聞にして聞き覚えがない。
■
(……あー、そーか。誰から聞いたかと思えばこりゃ"あいつ"からか……やっべぇな)
息子2人からの疑念の眼差しを受け。そう言えば"これ"はあまり表沙汰になっていない話だったかと。
すっかり忘れていた記憶の残滓に思い至ったハスラムの動揺を、エルゼリオとシグルドは見逃さない。
「父上、今何か聞き捨てならないことを口走ろうとしていなかったか?」
「ちょ、ちょっとちょっと何、誰? 稀人? 初耳なんだけどえ、うち何の血が混ざってるの!?」
「あー、あー、あー、何でもねえ何でもねえ、ああそうだそうだ武器の手入れが未だだったなあ急いでやらねえと」
その撤収は素早く、取り付く島も無いとはこの事である。呆気に取られた2人は、顔を見合わせる他はない。
「……それで、何か悩みがある様だが」
「シグルド兄は今のそのままで良いの!?」
お茶を淹れ直すシグルドへの、エルゼリオによる至って当たり前のツッコミは。
最早何かに疲れたような実兄の座った眼差しで以て封殺された。あの父の破天荒さは今に始まった話ではなく。
何より、ああして誤魔化し出したとなると口を割らせるのも一手間では済まないだろう。
家を割っての戦争まで覚悟するならともかくも。流石のシグルドも家を維持しながらでは、そうも暇ではない。
「良くは、ない。が……あの父上だぞ」
「そんな事言ったら一事が万事全部あの父上だよ……」
ぐったり伏せるエルゼリオ。こぽこぽと茶器に継ぎ足される茶の音だけが虚しく響く。
その上で続いた呻くような声こそが、最近エルゼリオを悩ませてる王国の貴族事情を指していた。
「……まあ、その。『迅雷』の一件もそうなんだけど。
王室が婚約発表して、これから皇室と王室が直接繋がるって言ってる訳でさ?」
「ああ、そうだな。父上もそこは流石に少し気にしていた」
「うん。実際問題『帝国』はもう当分復興に専念するしか無くて、外的脅威は蛮族に限られる。
となると、ここからは『王国』がヒト族にとっての最大国家を担って行く……事になるんだよね」
「……ある種、望む所。ではあるが……もしそうだとして、何がそれほど心配なんだ」
「『白薔薇』と『黒鋼龍』が、今のまま黙っているかなあ……って」
■
王党派の『白』と貴族派の『黒』。王家と王国を支える二本の柱。即ち、二大公爵家。
貴族の最上位と言える両家は、帝都崩壊以降の国家運営に対しいずれも静観を決め込んでいる。
実際はそればかりでもないが、少なくともエルゼリオから観測出来る範囲ではいずれも静かだ。
これまではそれで良かった。『王国』の秩序を維持する為には何でも"変化"して行けば良いという物でもない。
二大公爵家は"不動"であることで他の貴族家に対する模範で在った訳で、それは強ち間違いでもない。
しかし一方。度重なる"過激派貴族の乱"などを見るだに。その統制が完璧に機能しているかと言えば"否"だ。
何気ないエルゼリオの問に。シグルドは未だ嘗て無く難しい表情で口元を隠す。
それは、一概にどう。と言える程――――容易に解答出来る類の、問では無かったからだ。
冒険者であるエルゼリオとは異なり。シグルド・レイノーラは貴族家の当代としての視点で国を見る。
望む望まざると、細々とした数字と向き合うことを断固拒否するハスラムに代わり。
レイノーラの家の屋台骨を地道に支え続けているのが、このシグルドであるからだ。
その在り様は、エルゼリオが一度合わせてみたい等と謳う黒槍の騎士より、北方辺境伯により近い。
そんな彼の目線で言えば、『王国』という国はその内情の複雑さ、混乱に火種の多さに反し。
現状、比較理想的な情勢を辿っている。何せ、『帝国』と言う最大の仮想敵国が労せずして倒れたのだ。
"幽界樹"なる脅威に晒され王国北方にも一定の被害は出たものの、その影響は極めて限定的。
加えてその後の混乱に乗じて、国内で火種になり得る高位貴族が断続的に蜂起しては潰されている。
『帝都』の奪還を前にして、この流れは悪くない。権力とは常に細い方から太い方へ流れる物だ。
"王家"がここまで優位な趨勢で、これと"皇家"が交わるならば。両家は当分の安泰を得たと言える。
まさか此処に来て――――二大侯爵家が蜂起するなどあり得ない話だ。幾ら何でも機が悪過ぎる。
「率直に言って、黙らざるを得ないだろうな」
「? どうして? 今の所、目立った動きもない『白』と『黒』は揃って無傷でしょう?」
「だからこそ――――だ。王家は今、度重なる貴族の失態で"物が言える"立場に在る」
一方で、『黒鋼竜』は、"乱を起こした貴族を抑えられなかった派閥の長である"が故。
『白薔薇』は、"あくまで王家を主君と奉じる派閥の長である"が故に、王家に対し強く出られない。
"貴族全体"から権力削ぐ、と言う。予てから王家が望む動きを選ぶのに、これほど好都合な情勢もない。
おまけに、メアリー姫が嫁ぐとなれば。隣国の長たる皇家もまた、この動きを支持せざるを得ない。
何せ―――― 皇家は『帝国』復興に当たり是が非でも、"王家の支援を受けたい筈"なのだから。
そうと告げたシグルドは、話を切って冷めてしまったお茶を紋具の茶器で温め直す。
無自覚にせよ成長著しいエルゼリオへと、何処と無く笑いの混じった眼差しを向けながら。