贖罪人形
キャラクターノベル(グループ)制作 小湊拓也納品 2022年09月19日 12時36分00秒
「やめて! 約束が違う、お願いやめて! やめてぇえええっ!」
「嬢ちゃんよぉ。道端で拾ったオモチャと、約束なんかすると思ってンのかあ?」
泣き叫ぶドミナを押さえつけながら、男が笑う。
他にも大勢、笑っている男がいて、ミゼリアをまさしく玩具として扱っている。
まずは、ドミナが玩具になった。
自分はどう扱ってくれても構わない、ミゼリアだけは助けて欲しい。
そう言って、この男たちに身を捧げたのだ。
男たちは、言葉では承諾した。
そんな約束が守られる事はなくミゼリアも今、ドミナと同じ目に遭っている。
(良かった……)
心から、ミゼリアは思う。
ドミナと、同じようになれた。
ドミナを犠牲にして、自分1人が無事でいる。
そんな地獄には、耐えられない。
そんな地獄と比べれば今、自分がされている事など何でもない。
それを目の当たりにして、しかしドミナは泣き叫んでいる。
自分は今ドミナに、辛い思いをさせている。
自分を守ろうとしてドミナは先程、酷い目に遭った。
全て、自分のせいだ。
「ごめん……ね、ドミナ……」
汚らしいものが、口に入って来た。言葉が潰れた。
ミゼリア・ウォルプタスとドミナ・ウォルプタスは、エルフの森の巫女であった。
大いなるもの『ハイアルヴ』の声を聴き、『ハイアルヴ』の意思を村に伝える。
それが、2人の少女の使命であった。
ハイアルヴの導きに従い、ミゼリアとドミナは巡礼の旅に出た。
そして、森を出たところで、あの男たちに捕われたのだ。
「……ごめんね、ドミナ」
「…………謝らないで……」
すすり泣きながらドミナは、はっきりと会話に応じてくれた。
「ミゼリアは、何も悪くないわ……悪いのは……悪いのは……」
「……! 駄目よドミナ、それは駄目!」
「…………ハイアルヴ……」
あの男たちは、エルフの少女2人を、まさに玩具として遊び尽くした後、売却した。
2人は今こうして鎖に繋がれ、買われるのを待つばかりである。
全ては、自分ミゼリア・ウォルプタスの責任である。
自分は、あの男たちから、ドミナを守る事が出来なかった。
優しいドミナは、そんな場合でも決して、ミゼリアを責めたりはしない。
あろうことか、ハイアルヴを責めようとしている。
「どうしてハイアルヴは……わたしたちを、こんな旅に行かせたの? こんな目に遭わせるため? 絶対に、許せない……」
「ドミナ……それは、違うわ」
ミゼリアは、涙を流していた。
自分のせいで。自分が、ドミナを守れなかったせいで。
心優しいドミナは、ミゼリアを責める事なく、ハイアルヴに憎しみを向けてしまった。
「……ねえドミナ。わたし、この旅には意味があると思っているの。ハイアルヴは間違いなく、わたしたちを導いて下さるわ。苦難の果ての、輝かしい、どこかへ」
ミゼリアは、涙が止まらなくなった。
「だけど……ドミナまで、こんな目に遭うなんて……ごめんなさい……ごめんね、ドミナ……」
「…………涙なんてもの、まだ残ってるのね。ミゼリアったら」
すすり泣いていたドミナが、微笑んでいる。
「わたし、ずっと泣いてるけど……駄目ね。涙なんか、もう一滴も出やしないわ」
「ドミナ……」
「無様なところ、見せちゃったわね。わたしは大丈夫」
涙に沈んだミゼリアの瞳に、その笑顔は、あまりにも眩しかった。
「涙が出ないなら、あとはもう笑うしかないわ。ミゼリアはね、まだ泣いててもいいわよ? わたしが……傍に、いてあげるから。ね」
森で暮らしていた頃。
どちらかと言うと引っ込み思案なミゼリアは、このドミナの笑顔に、ずっと救われてきた。
今も自分は、ドミナに救われるしかないのか。
「…………今更、言う事じゃないけれど……」
ミゼリアは涙を拭い、無理矢理に微笑んでみた。
「……強いのね、ドミナは」
「ふふ……わたし、特別だから」
鎖が、引かれた。
「お買い上げ成立だ。良かったな、そこそこは優しそうな御主人様だぜ」
人買い商人が、そんな事を言いながらミゼリアを引き立てて行く。
売られる。
ドミナとは、別々に。
「嫌…………」
あの男たちに襲われた時をも上回る恐怖が、ミゼリアの心臓を鷲掴みにした。
「お願いです、ドミナと一緒に……」
「今回、買われたのはな、お前さんの方だけなんだよ」
「やめて……やめて、やめてぇええ! わたしも一緒に!」
ドミナの悲鳴が、遠ざかって行く。
「わたしも連れて行きなさいよ! この人でなし!」
「人の心なんてもの持ってたらな、この商売は出来ねえの」
商人は鎖を掴み、ミゼリアを引きずって行く。
ドミナの、叫び声だけが追いすがって来る。
「ああ……わたし……」
自分の涙も、間もなく涸れる。ミゼリアは、そう思った。
「…………結局わたし、ドミナを……悲しませるだけ……」
涙が出なくなったら、あとは笑う。
そんな事は、出来そうになかった。
あれから幾度、売られたか。どれほど、転売を繰り返されたのか。
ミゼリアは、数えてなどいない。
何人目かわからぬ購入者が、目の前で微笑んでいる。
「辛い目に遭ってきたのだね。もう大丈夫、私に全て任せなさい」
優しい笑顔。優しいだけの、笑顔。
こんなものとはまるで違う、心に光を投げかけてくるような輝く笑顔を、自分は知っている。
自分のせいでドミナは、その笑顔を失ってしまった。
「……ごめん……ね……ドミナ……」
「ん? 何を言っているのかね、まあ良い。私は君に、力を与える事が出来る。これまで君に酷い事をしてきた者どもを、復讐の裁きにかける力だ」
どうでも良い話であった。
いや。裁きを受けるのは、自分ミゼリア・ウォルプタスであるべきだ。
「そのために、君は……痛みと憎しみを、思い出す必要がある」
今、ミゼリアの身体は、切り刻まれていた。
四肢の先端から、胴体へと向かって。
まさしく裁きだ、とミゼリアは思った。
ドミナを守れなかった、ドミナに辛い思いをさせた、その罰としては……まだ、軽過ぎる。
自分は、もっと苦しまなければならない。
「ドミナ……ごめんね、ドミナ……」
そこで、声帯を切り裂かれた。
ミゼリア・L・ステュクスは、ゆっくりと目を覚ました。
寝台の上で、身を起こす。自分の身体を、見下ろす。
無数の、傷跡。
戦いで負った傷ではない。ホムンクルスとして物心ついた時から、ミゼリアはこんな有り様だった。
切り刻まれ、縫合された。
自分は、そんなふうに作られたのだろう、と思うだけだ。
ミゼリアは軽く、頭を押さえた。
夢を見た。
内容など、思い出したところで意味はない。
ただ、唇が勝手に動いてしまう。
「…………ごめん……ね……」
夢の中で自分は、ひたすら誰かに謝っていた。
唇が、舌が、声帯が、謝罪の言葉を発する動きを記憶している。
誰かは知らないが、さぞ迷惑であったろう、とミゼリアは思う。
ただひたすら一方的に謝罪の言葉を投げつけられて、良い気分になどなれるはずがない。
「わたし……なら…………ゆるさない…………」
「嬢ちゃんよぉ。道端で拾ったオモチャと、約束なんかすると思ってンのかあ?」
泣き叫ぶドミナを押さえつけながら、男が笑う。
他にも大勢、笑っている男がいて、ミゼリアをまさしく玩具として扱っている。
まずは、ドミナが玩具になった。
自分はどう扱ってくれても構わない、ミゼリアだけは助けて欲しい。
そう言って、この男たちに身を捧げたのだ。
男たちは、言葉では承諾した。
そんな約束が守られる事はなくミゼリアも今、ドミナと同じ目に遭っている。
(良かった……)
心から、ミゼリアは思う。
ドミナと、同じようになれた。
ドミナを犠牲にして、自分1人が無事でいる。
そんな地獄には、耐えられない。
そんな地獄と比べれば今、自分がされている事など何でもない。
それを目の当たりにして、しかしドミナは泣き叫んでいる。
自分は今ドミナに、辛い思いをさせている。
自分を守ろうとしてドミナは先程、酷い目に遭った。
全て、自分のせいだ。
「ごめん……ね、ドミナ……」
汚らしいものが、口に入って来た。言葉が潰れた。
ミゼリア・ウォルプタスとドミナ・ウォルプタスは、エルフの森の巫女であった。
大いなるもの『ハイアルヴ』の声を聴き、『ハイアルヴ』の意思を村に伝える。
それが、2人の少女の使命であった。
ハイアルヴの導きに従い、ミゼリアとドミナは巡礼の旅に出た。
そして、森を出たところで、あの男たちに捕われたのだ。
「……ごめんね、ドミナ」
「…………謝らないで……」
すすり泣きながらドミナは、はっきりと会話に応じてくれた。
「ミゼリアは、何も悪くないわ……悪いのは……悪いのは……」
「……! 駄目よドミナ、それは駄目!」
「…………ハイアルヴ……」
あの男たちは、エルフの少女2人を、まさに玩具として遊び尽くした後、売却した。
2人は今こうして鎖に繋がれ、買われるのを待つばかりである。
全ては、自分ミゼリア・ウォルプタスの責任である。
自分は、あの男たちから、ドミナを守る事が出来なかった。
優しいドミナは、そんな場合でも決して、ミゼリアを責めたりはしない。
あろうことか、ハイアルヴを責めようとしている。
「どうしてハイアルヴは……わたしたちを、こんな旅に行かせたの? こんな目に遭わせるため? 絶対に、許せない……」
「ドミナ……それは、違うわ」
ミゼリアは、涙を流していた。
自分のせいで。自分が、ドミナを守れなかったせいで。
心優しいドミナは、ミゼリアを責める事なく、ハイアルヴに憎しみを向けてしまった。
「……ねえドミナ。わたし、この旅には意味があると思っているの。ハイアルヴは間違いなく、わたしたちを導いて下さるわ。苦難の果ての、輝かしい、どこかへ」
ミゼリアは、涙が止まらなくなった。
「だけど……ドミナまで、こんな目に遭うなんて……ごめんなさい……ごめんね、ドミナ……」
「…………涙なんてもの、まだ残ってるのね。ミゼリアったら」
すすり泣いていたドミナが、微笑んでいる。
「わたし、ずっと泣いてるけど……駄目ね。涙なんか、もう一滴も出やしないわ」
「ドミナ……」
「無様なところ、見せちゃったわね。わたしは大丈夫」
涙に沈んだミゼリアの瞳に、その笑顔は、あまりにも眩しかった。
「涙が出ないなら、あとはもう笑うしかないわ。ミゼリアはね、まだ泣いててもいいわよ? わたしが……傍に、いてあげるから。ね」
森で暮らしていた頃。
どちらかと言うと引っ込み思案なミゼリアは、このドミナの笑顔に、ずっと救われてきた。
今も自分は、ドミナに救われるしかないのか。
「…………今更、言う事じゃないけれど……」
ミゼリアは涙を拭い、無理矢理に微笑んでみた。
「……強いのね、ドミナは」
「ふふ……わたし、特別だから」
鎖が、引かれた。
「お買い上げ成立だ。良かったな、そこそこは優しそうな御主人様だぜ」
人買い商人が、そんな事を言いながらミゼリアを引き立てて行く。
売られる。
ドミナとは、別々に。
「嫌…………」
あの男たちに襲われた時をも上回る恐怖が、ミゼリアの心臓を鷲掴みにした。
「お願いです、ドミナと一緒に……」
「今回、買われたのはな、お前さんの方だけなんだよ」
「やめて……やめて、やめてぇええ! わたしも一緒に!」
ドミナの悲鳴が、遠ざかって行く。
「わたしも連れて行きなさいよ! この人でなし!」
「人の心なんてもの持ってたらな、この商売は出来ねえの」
商人は鎖を掴み、ミゼリアを引きずって行く。
ドミナの、叫び声だけが追いすがって来る。
「ああ……わたし……」
自分の涙も、間もなく涸れる。ミゼリアは、そう思った。
「…………結局わたし、ドミナを……悲しませるだけ……」
涙が出なくなったら、あとは笑う。
そんな事は、出来そうになかった。
あれから幾度、売られたか。どれほど、転売を繰り返されたのか。
ミゼリアは、数えてなどいない。
何人目かわからぬ購入者が、目の前で微笑んでいる。
「辛い目に遭ってきたのだね。もう大丈夫、私に全て任せなさい」
優しい笑顔。優しいだけの、笑顔。
こんなものとはまるで違う、心に光を投げかけてくるような輝く笑顔を、自分は知っている。
自分のせいでドミナは、その笑顔を失ってしまった。
「……ごめん……ね……ドミナ……」
「ん? 何を言っているのかね、まあ良い。私は君に、力を与える事が出来る。これまで君に酷い事をしてきた者どもを、復讐の裁きにかける力だ」
どうでも良い話であった。
いや。裁きを受けるのは、自分ミゼリア・ウォルプタスであるべきだ。
「そのために、君は……痛みと憎しみを、思い出す必要がある」
今、ミゼリアの身体は、切り刻まれていた。
四肢の先端から、胴体へと向かって。
まさしく裁きだ、とミゼリアは思った。
ドミナを守れなかった、ドミナに辛い思いをさせた、その罰としては……まだ、軽過ぎる。
自分は、もっと苦しまなければならない。
「ドミナ……ごめんね、ドミナ……」
そこで、声帯を切り裂かれた。
ミゼリア・L・ステュクスは、ゆっくりと目を覚ました。
寝台の上で、身を起こす。自分の身体を、見下ろす。
無数の、傷跡。
戦いで負った傷ではない。ホムンクルスとして物心ついた時から、ミゼリアはこんな有り様だった。
切り刻まれ、縫合された。
自分は、そんなふうに作られたのだろう、と思うだけだ。
ミゼリアは軽く、頭を押さえた。
夢を見た。
内容など、思い出したところで意味はない。
ただ、唇が勝手に動いてしまう。
「…………ごめん……ね……」
夢の中で自分は、ひたすら誰かに謝っていた。
唇が、舌が、声帯が、謝罪の言葉を発する動きを記憶している。
誰かは知らないが、さぞ迷惑であったろう、とミゼリアは思う。
ただひたすら一方的に謝罪の言葉を投げつけられて、良い気分になどなれるはずがない。
「わたし……なら…………ゆるさない…………」