戦勝を祝う彼らの宴 その二
キャラクターノベル(グループ)制作 紀藤トキ納品 2022年08月14日 09時39分44秒
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元々店主の気分次第ではあるが『トカゲの尻尾亭』の営業時間が終わり、台所からはナハシュの好物、ヨル・スレイマン特製テールスープの匂いが漂い始めた。今日の厨房には普段から食事当番を買って出るヨルだけでなく、杖を突くロウトフェダーの姿もある。
「なるほど。これは確かに生粋の旅料理だね」
「ま、ダンジョン探索は俺の人生で、人生とは長い旅のような物だからな!」
などと陽気に笑うロウトフェダーの姿は痛々しい。先の決戦で受けた名誉の負傷だ。
「怪我を押して作らなくてもいいのに」
「いや、ダンジョンでは怪我するのも日常茶飯事だ! 片手でも全然問題ないって所を見せてやるよ!」
実際にロウトフェダーの手際は良く、レパートリーもヨルの知る物とは異なっていて面白い。品数も豊富で、途中までお手伝いをしていた姉妹は、今日は味見だけでお腹が一杯のようだ。
「もう腹は一杯か? 小さいうちはたらふく食わないと、良い探索者に成れないぞ!」
「たんさくしゃ……?」
「ナハシュに聞いてみないと、お返事できません」
よく分かっていない様子の妹と、きっぱり首を振る姉。ナハシュなら好きにしろと言うだろうが、そう言われてしまうのも少し寂しかった。そんな心中を察してか、ロウトフェダーはにんまりと笑う。
「よしよし、そのうちナハシュもまとめて口説き落とすから、しっかり食べて待っているんだぞ!」
ナハシュがお祝いに招くようなヒトがそう言うのなら、自分達が探索者とやらになることもあるのだろうか? などと真面目に考え出した姉を見て、ヨルが声を掛ける。
「そうやって隙あらば勧誘する……。君達も、眠いならもう休んで良いから」
今日は「誕生日ではないお祝いの日」なので、子供の夕食には少し遅い時間がスタートだ。片付けまで待っていては眠れない。明日の朝食に何か残しておくと伝えれば、妹は嬉しそうに、姉は少し申し訳なさそうに屋根裏へあがっていく。
「おー、今日は色々あるじゃねぇか。その丸っこいのはなんだ?」
「それはロウト君が作ってくれた奴だね。ええと……」
「名前は気にした事が無いな。肉を捏ねて一度焼いてからその辺の野菜と煮た奴だ。まあ肉団子でいいだろ!」
迷宮飯は思い通りの食材が手に入るとも限らぬ一期一会。レシピ通りの料理などはない、と胸を張られればそういうものかとヨルも思う。その日暮らしを知るのはナハシュも同じで、その頃は料理の名前など気にもしなかったと思いだした。もちろん、今の方が格段に良い。
「これはいつもの。そろそろ飽きてこなければいいんだけど」
「いや、これはマジうめぇ。テールスープだろ? 名前も覚えてる」
「確かに、何か一味違う気がしたな。何か面白い素材とか使ってる?」
「そうかな? 特に複雑な事はしていないんだけど」
でかい肉を、地道に愚直に煮込んでこそ独特の味が出るのはヨルの剣技にも通じる。つまりは彼がそう言う人間であるという証左なのかもしれない。この家の厨房を預かって2年、焼いた肉、焙った肉、叩いた肉と様々な料理を今日は用意していた。
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「早く始めようぜ! 今回もお疲れさーん!」
「ああ、お疲れ。ロウト君も、今回はありがとう」
「いやいや、こちらこそだ。ちょっと俺はしくじったけど、まあ上出来だぜ!」
一応持ってきた古木の勲章をロウトフェダーが机におく。そういえば、とナハシュも世界樹勲章へ目をやった。前に貰った勲章と同じく、ヨルがきれいに磨いて棚の上に飾ってある。
「そんなにいいもんか? 金ぴかでもないし、なんかしょぼくれてねえ?」
「エルフにとってはきっととても価値があるものだ。君達への感謝の印だよ」
「だって木だぞ、燃えたら終わりじゃねえか。余計に金貰ったからいいけど」
ぼやくナハシュをヨルが宥める。口先だけではなく、彼はゴブリンであるナハシュが人々の感謝を受けて評価されている事がとても嬉しい。棚の前に向かったロウトフェダーは、ナハシュの勲章をじっくり眺めていた。
「なあ、俺のは古樹だけど、そいつは本当に樹なのか? ダンジョンを体の中に生やしてる樹なんて、普通ないだろ!」
「そういやそうだ。普通に燃えるのか、試してみないとわかんねぇな」
「試さないようにね、ナハシュ」
自由人が2人揃うと何を言いだすか分からない。一杯目はあっという間に干し、二杯目以降は手酌か、気が向いたら注いで注がれて。祝いの日の常で野菜控えめ肉多めだが、ロウトフェダーが作った分だけ、普段の祝宴よりはバランスが良い。
「肉と野菜を一緒に食うのってなんか変じゃねぇ? 何喰ってるのか分からなくなる」
「そうか? でも野菜で干し肉巻くと旨いぜ! 作ってやるから食べてみろ?」
「お酒にも合うしね。うん、パンに載せるだけでも一品増えた気分だ」
「だろ? パサパサ感もマシになるし。草の系統は迷宮でも採取しやすいからな!」
ロウトフェダーは、火の無い時や水の無い時のアレコレも心得ていた。冒険者なら見飽きた干し肉と小麦を練って焼いたパンだが、美味しく食べるコツはあるものらしい。ヨルの丹精込めた料理とロウトフェダーの迷宮飯を気ままにつまみ、ナハシュが大量に並べた酒瓶も皆で空けていく。
「そういや3人でってなぁ初めてか? まあだいぶやりやすかったな。何より死霊術師共の慌てた顔は見ものだったぜ!」
「3人だから取れる手段は確かにあったね。今回はロウト君に感謝だ」
「へへっ、照れるぜ。まあ、借金半額にするくらいには働いてただろ?」
「まだ半分も残ってるけどな」
もともと2人組で動いていた彼らにとって、単純に言って戦力5割増しだ。戦闘だけではなく、出来ることは格段に増える。ついでに祝宴の食事のメニューも増えた。
「今回も気持ちよく暴れて飯が旨い。いやあ、冒険者ってのもなかなかいい商売だな」
「ナハシュもお疲れ様。俺は君が楽しそうに戦っているところが好きだよ」
「2人とも戦い足りないなら、ダンジョン行くのはどうだ? 人型、樹木型、虫や動物もより取り見取りで案内するぞ!」
「気が向いたらね」
ロウトフェダーはあしらわれても懲りずにホームグラウンドへ誘っている。酒の酔いに任せてというわけではなく、ヨルには2年前から目をつけていた。迷宮探索キャンペーンで上位入賞したことをしっかり覚えていたらしい。
「ああ、そんなこともあったね。随分昔に思えるけれど」
「どさくさでこの店をかっぱらった頃か? そりゃ、あいつらもでかくなるわけだ」
成長の早いゴブリンにとって2年は長い。正確な年齢は分からないものの、姉の方はそろそろ大人の仲間入りかもしれなかった。いつ死んでもおかしくない日々を送っていた頃は、こんな風に時間の経過に何かを思う事も無い。などと飲みながらあれこれ考えるのは、ヨルと飲むときのお決まりのような物だった。お決まりと言えば、今日はヨルが潰れていない。
「……ヨルが水飲んでる。おい、一発どっかに喰らってたのか? 頭か?」
「いやいや、そうじゃない。今日はロウト君もいるからね。あまり醜態をさらす訳にもいかないだろう?」
「まあ、飲みたいように飲めばいいんじゃない? ちょっと酒に弱い位の方が長生きできるしな!」
見張りの最中に暖を取ると言って飲んで寝てた馬鹿の話、聞く? などと何事もダンジョン基準で語るロウトフェダーも楽しく酔っていた。
「というか、何か足りないと思ったら魚がないな! なあ、今度は魚獲りに行こうぜ!」
「魚って言うと、ヴィントのダンジョンかい?」
はしゃぐロウトフェダーにおされつつ、会話を返すヨル。ナハシュはそう言う社交性はなく、興味が無ければ見向きもしない。まあ、興味が無いというよりは今は酒と肴で手一杯と言う事だろう。
「魚介尽くしでいくならヴィントだね。あそこはまだ開拓されてないから、未知の枝が見つかる可能性も高い! エドゥノーグでも海産物は獲れなくはないけどな」
「考えてみれば、どっちも内陸なのに新鮮な魚が獲れるって凄い事だよねえ」
「だろう? ダンジョンに行けば何でも手に入る! とまでは言わないけどな。夢と希望は売るほどあるぜ?」
ダンジョンで見つからないのは友情だけである。なにせ、ロウトフェダーのカカポの保全センターはいまだに人数不足だ。カカポ愛は分かち合えなくとも、ダンジョンの良さは是非とも分かち合いたいと、彼女は熱弁をふるう。
「なあ、ダンジョンって何でもあるって言うけど、酒は採れねぇのか?」
「……俺は見た事はないんだが、あるっていう話を聞いたような、聞いてないような……?」
ふわふわした頭で記憶を探るロウトフェダー。迷宮産銘酒なんて物があったなら知らない筈はないが、手に入れた連中が現地で消費していれば売りには出ない。
「……普通に考えれば酒は落ちてないだろうけど、ダンジョンだと何があるかわからないからねえ」
「ああ、そういう所もダンジョンの魅力なんだぜ?」
「へえ。肉や魚が獲れる上に酒もあるってなら、金が無くて暇な時は行ってもいいかもな」
ヨルの言葉をダンジョンへの誉め言葉と取ったのか、ロウトフェダーはうんうんと頷いている。ここまであまり食い付きの良くなかったナハシュだが、数時間のプレゼンも少しは耳に入っていたらしい。
「ま、金に困ったら借金を取り立てる方が先か。ちょうど貸してる奴がいるしなあ」
「くっ! すぐに耳を揃えて返してやらあ! そうしたら皆でダンジョンだからな!」
「いや、さっきナハシュはお金が無くなったらって……。まあ楽しそうだからいいか」
騒ぐ2人を肴に、ヨルもちびちびと飲みを再開する。決戦の後の宴会や誕生日の『約束』をするようになって、地に足がついて来た気がした。これが人間らしい生き方とやらなら、悪くはない。とはいえ、考えにふけるのはもう少し後でも良いだろう。まだ夜は始まったばかりで、酒もつまみもまだまだ残っているのだから。
元々店主の気分次第ではあるが『トカゲの尻尾亭』の営業時間が終わり、台所からはナハシュの好物、ヨル・スレイマン特製テールスープの匂いが漂い始めた。今日の厨房には普段から食事当番を買って出るヨルだけでなく、杖を突くロウトフェダーの姿もある。
「なるほど。これは確かに生粋の旅料理だね」
「ま、ダンジョン探索は俺の人生で、人生とは長い旅のような物だからな!」
などと陽気に笑うロウトフェダーの姿は痛々しい。先の決戦で受けた名誉の負傷だ。
「怪我を押して作らなくてもいいのに」
「いや、ダンジョンでは怪我するのも日常茶飯事だ! 片手でも全然問題ないって所を見せてやるよ!」
実際にロウトフェダーの手際は良く、レパートリーもヨルの知る物とは異なっていて面白い。品数も豊富で、途中までお手伝いをしていた姉妹は、今日は味見だけでお腹が一杯のようだ。
「もう腹は一杯か? 小さいうちはたらふく食わないと、良い探索者に成れないぞ!」
「たんさくしゃ……?」
「ナハシュに聞いてみないと、お返事できません」
よく分かっていない様子の妹と、きっぱり首を振る姉。ナハシュなら好きにしろと言うだろうが、そう言われてしまうのも少し寂しかった。そんな心中を察してか、ロウトフェダーはにんまりと笑う。
「よしよし、そのうちナハシュもまとめて口説き落とすから、しっかり食べて待っているんだぞ!」
ナハシュがお祝いに招くようなヒトがそう言うのなら、自分達が探索者とやらになることもあるのだろうか? などと真面目に考え出した姉を見て、ヨルが声を掛ける。
「そうやって隙あらば勧誘する……。君達も、眠いならもう休んで良いから」
今日は「誕生日ではないお祝いの日」なので、子供の夕食には少し遅い時間がスタートだ。片付けまで待っていては眠れない。明日の朝食に何か残しておくと伝えれば、妹は嬉しそうに、姉は少し申し訳なさそうに屋根裏へあがっていく。
「おー、今日は色々あるじゃねぇか。その丸っこいのはなんだ?」
「それはロウト君が作ってくれた奴だね。ええと……」
「名前は気にした事が無いな。肉を捏ねて一度焼いてからその辺の野菜と煮た奴だ。まあ肉団子でいいだろ!」
迷宮飯は思い通りの食材が手に入るとも限らぬ一期一会。レシピ通りの料理などはない、と胸を張られればそういうものかとヨルも思う。その日暮らしを知るのはナハシュも同じで、その頃は料理の名前など気にもしなかったと思いだした。もちろん、今の方が格段に良い。
「これはいつもの。そろそろ飽きてこなければいいんだけど」
「いや、これはマジうめぇ。テールスープだろ? 名前も覚えてる」
「確かに、何か一味違う気がしたな。何か面白い素材とか使ってる?」
「そうかな? 特に複雑な事はしていないんだけど」
でかい肉を、地道に愚直に煮込んでこそ独特の味が出るのはヨルの剣技にも通じる。つまりは彼がそう言う人間であるという証左なのかもしれない。この家の厨房を預かって2年、焼いた肉、焙った肉、叩いた肉と様々な料理を今日は用意していた。
●
「早く始めようぜ! 今回もお疲れさーん!」
「ああ、お疲れ。ロウト君も、今回はありがとう」
「いやいや、こちらこそだ。ちょっと俺はしくじったけど、まあ上出来だぜ!」
一応持ってきた古木の勲章をロウトフェダーが机におく。そういえば、とナハシュも世界樹勲章へ目をやった。前に貰った勲章と同じく、ヨルがきれいに磨いて棚の上に飾ってある。
「そんなにいいもんか? 金ぴかでもないし、なんかしょぼくれてねえ?」
「エルフにとってはきっととても価値があるものだ。君達への感謝の印だよ」
「だって木だぞ、燃えたら終わりじゃねえか。余計に金貰ったからいいけど」
ぼやくナハシュをヨルが宥める。口先だけではなく、彼はゴブリンであるナハシュが人々の感謝を受けて評価されている事がとても嬉しい。棚の前に向かったロウトフェダーは、ナハシュの勲章をじっくり眺めていた。
「なあ、俺のは古樹だけど、そいつは本当に樹なのか? ダンジョンを体の中に生やしてる樹なんて、普通ないだろ!」
「そういやそうだ。普通に燃えるのか、試してみないとわかんねぇな」
「試さないようにね、ナハシュ」
自由人が2人揃うと何を言いだすか分からない。一杯目はあっという間に干し、二杯目以降は手酌か、気が向いたら注いで注がれて。祝いの日の常で野菜控えめ肉多めだが、ロウトフェダーが作った分だけ、普段の祝宴よりはバランスが良い。
「肉と野菜を一緒に食うのってなんか変じゃねぇ? 何喰ってるのか分からなくなる」
「そうか? でも野菜で干し肉巻くと旨いぜ! 作ってやるから食べてみろ?」
「お酒にも合うしね。うん、パンに載せるだけでも一品増えた気分だ」
「だろ? パサパサ感もマシになるし。草の系統は迷宮でも採取しやすいからな!」
ロウトフェダーは、火の無い時や水の無い時のアレコレも心得ていた。冒険者なら見飽きた干し肉と小麦を練って焼いたパンだが、美味しく食べるコツはあるものらしい。ヨルの丹精込めた料理とロウトフェダーの迷宮飯を気ままにつまみ、ナハシュが大量に並べた酒瓶も皆で空けていく。
「そういや3人でってなぁ初めてか? まあだいぶやりやすかったな。何より死霊術師共の慌てた顔は見ものだったぜ!」
「3人だから取れる手段は確かにあったね。今回はロウト君に感謝だ」
「へへっ、照れるぜ。まあ、借金半額にするくらいには働いてただろ?」
「まだ半分も残ってるけどな」
もともと2人組で動いていた彼らにとって、単純に言って戦力5割増しだ。戦闘だけではなく、出来ることは格段に増える。ついでに祝宴の食事のメニューも増えた。
「今回も気持ちよく暴れて飯が旨い。いやあ、冒険者ってのもなかなかいい商売だな」
「ナハシュもお疲れ様。俺は君が楽しそうに戦っているところが好きだよ」
「2人とも戦い足りないなら、ダンジョン行くのはどうだ? 人型、樹木型、虫や動物もより取り見取りで案内するぞ!」
「気が向いたらね」
ロウトフェダーはあしらわれても懲りずにホームグラウンドへ誘っている。酒の酔いに任せてというわけではなく、ヨルには2年前から目をつけていた。迷宮探索キャンペーンで上位入賞したことをしっかり覚えていたらしい。
「ああ、そんなこともあったね。随分昔に思えるけれど」
「どさくさでこの店をかっぱらった頃か? そりゃ、あいつらもでかくなるわけだ」
成長の早いゴブリンにとって2年は長い。正確な年齢は分からないものの、姉の方はそろそろ大人の仲間入りかもしれなかった。いつ死んでもおかしくない日々を送っていた頃は、こんな風に時間の経過に何かを思う事も無い。などと飲みながらあれこれ考えるのは、ヨルと飲むときのお決まりのような物だった。お決まりと言えば、今日はヨルが潰れていない。
「……ヨルが水飲んでる。おい、一発どっかに喰らってたのか? 頭か?」
「いやいや、そうじゃない。今日はロウト君もいるからね。あまり醜態をさらす訳にもいかないだろう?」
「まあ、飲みたいように飲めばいいんじゃない? ちょっと酒に弱い位の方が長生きできるしな!」
見張りの最中に暖を取ると言って飲んで寝てた馬鹿の話、聞く? などと何事もダンジョン基準で語るロウトフェダーも楽しく酔っていた。
「というか、何か足りないと思ったら魚がないな! なあ、今度は魚獲りに行こうぜ!」
「魚って言うと、ヴィントのダンジョンかい?」
はしゃぐロウトフェダーにおされつつ、会話を返すヨル。ナハシュはそう言う社交性はなく、興味が無ければ見向きもしない。まあ、興味が無いというよりは今は酒と肴で手一杯と言う事だろう。
「魚介尽くしでいくならヴィントだね。あそこはまだ開拓されてないから、未知の枝が見つかる可能性も高い! エドゥノーグでも海産物は獲れなくはないけどな」
「考えてみれば、どっちも内陸なのに新鮮な魚が獲れるって凄い事だよねえ」
「だろう? ダンジョンに行けば何でも手に入る! とまでは言わないけどな。夢と希望は売るほどあるぜ?」
ダンジョンで見つからないのは友情だけである。なにせ、ロウトフェダーのカカポの保全センターはいまだに人数不足だ。カカポ愛は分かち合えなくとも、ダンジョンの良さは是非とも分かち合いたいと、彼女は熱弁をふるう。
「なあ、ダンジョンって何でもあるって言うけど、酒は採れねぇのか?」
「……俺は見た事はないんだが、あるっていう話を聞いたような、聞いてないような……?」
ふわふわした頭で記憶を探るロウトフェダー。迷宮産銘酒なんて物があったなら知らない筈はないが、手に入れた連中が現地で消費していれば売りには出ない。
「……普通に考えれば酒は落ちてないだろうけど、ダンジョンだと何があるかわからないからねえ」
「ああ、そういう所もダンジョンの魅力なんだぜ?」
「へえ。肉や魚が獲れる上に酒もあるってなら、金が無くて暇な時は行ってもいいかもな」
ヨルの言葉をダンジョンへの誉め言葉と取ったのか、ロウトフェダーはうんうんと頷いている。ここまであまり食い付きの良くなかったナハシュだが、数時間のプレゼンも少しは耳に入っていたらしい。
「ま、金に困ったら借金を取り立てる方が先か。ちょうど貸してる奴がいるしなあ」
「くっ! すぐに耳を揃えて返してやらあ! そうしたら皆でダンジョンだからな!」
「いや、さっきナハシュはお金が無くなったらって……。まあ楽しそうだからいいか」
騒ぐ2人を肴に、ヨルもちびちびと飲みを再開する。決戦の後の宴会や誕生日の『約束』をするようになって、地に足がついて来た気がした。これが人間らしい生き方とやらなら、悪くはない。とはいえ、考えにふけるのはもう少し後でも良いだろう。まだ夜は始まったばかりで、酒もつまみもまだまだ残っているのだから。