これが”俺等の誕生日”
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年11月28日 10時01分31秒
建付けのよろしくないドアが開き、ダルそうに入ってきた店主様は、三人揃っての『お帰りなさい』に面食らっていた。
「やぁ遅かったね。依頼かい?」
装飾した机の対面から、ヨル・スレイマンがにこりと微笑みかける。
「お、おう、ちょっとな……ってか、なんだこれ」
対する店主様は、ドアを閉めるのも忘れ訝しげに俺達を見ていた。
その挙動不審っぷりに思わず吹きそうになるが、今日の趣旨はそっちではない。
「前に教えてくれただろう? 11月11日だって」
「……は? なんだそれ。何の日だよ。ってか今日じゃねえか」
「そう、今日だよ。だから、こうして二人と一緒に待っていたんだ」
そう言って左右にお行儀よく座る姉妹を見る。
妹のノーノは店主様を見ながらも机のご馳走が気になって仕方が無いようだし、姉のナーレは机の下に隠している例のアレを出すタイミングを計っているのか、緊張でガチガチだ。
「そんな所に突っ立ってないで、こっちにおいでよ。別に獲って食おうって訳じゃないんだしさ。ほら、ナハシュの好物も用意したんだから」
そう言って、閉じてあった鍋の蓋を開けと、溢れる湯気と共に、スープの薫りが部屋中に広がった。
「おっ……! もしかしてそれって」
「ああ、そうだよ。ナハシュの好きなテールスープだ。もちろん、これに合う酒も用意している。辛口の蒸留酒をね」
「おおっ!」
酒の話が決め手になったのか、店主様の警戒心は一気に霧散した。
どれどれと、机に近寄ってきて早速酒瓶を掴もうとするから、上から手で押さえてやる。
「む……なんだよ。邪魔すんな」
「ものには順番ってものがあるんだよ。さぁ、まずは座って」
折角霧散した警戒心が不信感へと早変わり。
そんな店主様に苦笑しつつ席を勧めると、彼は渋々椅子を引いた。
「で、なんだこれ」
「何なんだって、11月11日を祝うための用意だよ」
「は? なんで、今日を祝うんだよ」
「だから、11月11日だからだよ」
「……お前、おちょくってんのか?」
「まさか」
いつか気付いてくれるかなと日付をアピールしてみたけど、どうやら駄目なようだ。
左右の姉妹もはらはらとこちらと店主様を見ている。
仕方がない、ネタバレと行くか。
「ナハシュ、誕生日おめでとう」
「お、おめでとうございます、ごしゅじんさま!」
「おめでとう、ごしゅじんさま!」
俺がネタばらしをするのを待っていたのだろう、姉妹もすぐに声を上げる。
ナーレ君は少し恥ずかしそうに、ノーノ君は嬉しそうに、店主様に向けておめでとうを言った。
「…………は?」
そして、三人の祝辞を受けた主役はというと、これだ。
うん、わからなくはない。俺も当事者ならきっと同じ反応をしたと思うから――。
●
なんだ、どういうことだ。さっぱり訳が分からねぇ。妙ににやにやしやがって、気持ちわりぃ。
誕生日だ? そんなもん、貰った覚えはねえよ。
このご馳走はなんだ。罠か? いや、こいつらが俺をはめる理由が思いつかねえ……。
「そんなに驚かなくてもいいだろ?」
ヨルが苦笑しながら見てきやがる。それにチビ達もだ。
「なんでそんなこと知ってんだ」
誕生日なんて俺自身も知らないのに、なんでこいつらが知ってる。
「なんでって、見せてくれただろう。冒険者登録証」
「……は?」
冒険者登録証? それが誕生日とどう関係があるんだ。
ヨルは相変わらず苦笑を浮かべてるし、チビ達はどんどん不安な顔になってきやがる。
「冒険者に登録する時、書いただろう? 自分の名前と誕生日を」
「は、そんなもん書いた覚えは……」
と、そこまで言って思い出した。
確か、ギルドの女が登録に必要だから書けって言ってたか。字を書くのが面倒くさくて棒をいっぱい書いた記憶がある。
「あ、あれか!」
「思い出してくれたかい?」
「いや、確かに書いたけどよ。あれは別にそう言うつもりで書いたわけじゃねえぞ」
「そう言うつもりじゃないって事は……まさか適当に書いたのか?」
問われて頷くと、ヨルは驚いたような納得がいったような複雑な顔をしていた。
「そうか、君もか」
「うん?」
「いや、なんでもない。こっちの話だ。でもそうか、誕生日じゃないなら、この料理はどうしようか」
とか言いながらチラチラとこちらを見てくる。答えなんてわかってるだろうが……。
「食う」
「そうか、ありがとう」
わざとらしい笑みを浮かべたヨル。思惑に乗せられた気がしないでもないが、こんなご馳走を目の前にお預け食らってられるか。
「ごしゅじんさま、どうぞ」
席を立ったノーノが酒瓶を持ってやってきて、グラスに酒を注いだ。
「なんでそんなに不機嫌なんだ?」
「別に不機嫌じゃねえし」
「不機嫌じゃないか」
また苦笑してくるヨルから顔を背け、グラスを一気に煽る。
「……うまっ」
「だろ? 誕生日だからね。とっておきの一本だ」
口の中に広がったうま味と辛み。度数は強いのに喉越しが良すぎるせいで、いくらでも入るぞこれ……。
空になったグラスを見つめていたら、ノーノがお代わりを注いでくれた。
「お、おう……ありがとな」
「ようやく素直になった。高い酒を用意しておいてよかったよ」
「うるせぇよ。飯だ飯」
「は、はい!」
そう言うと、ナーレが鍋を大匙でぐるぐると混ぜる。そして、一番大きな肉を掬い上げると皿に盛りつけた。
●
「うおぉ……うまそ……」
ごしゅじんさまが目の前に置かれたお皿を、今にも涎を垂らしそうにじっと見ている。美味いご飯を前にすると、本当に子供みたいに目を輝かせるのが、少し可愛いと思ってしまうのはダメな事だろうか。
「うん? 匙はねえのか。素手で食えってか?」
そんな事を考えていたら、ごしゅじんさまが机の上をきょろきょろと探し始めた。
「あああ、あります! ひあっ!?」
突然言われたので、机の下に隠していたあのプレゼントを思わず落としそうになった。
あ、危ない……。
ナーレは取り出した『銀の匙』を、恐る恐るナハシュへと差し出す。
「なんだあるんじゃねえか。あんがとよ」
ごしゅじんさまはちょっと乱暴に銀の匙を受け取ると、そのまま皿へとダイブ。大きな肉の塊を丸ごと掬い上げて、そのまま口へ運んだ。
「あちっ!? はふっ! やばっ!」
アツアツのスープに入っていた肉だから、熱いのは当然だと思う。なのに、めげずに口に頬張っている姿は、やっぱりちょっと――可愛いかもしれない。
「ん!」
そんな事を思っていたら、ごしゅじんさまがグラスを突き出してきた。おかわりを注げという事だろう。
ナーレはノーノに目で合図する。
「ごしゅじんさま、こっち」
「ん? ん!」
お口の中でもぐもぐするのに忙しいごしゅじんさまは、ノーノの方も見ずにグラスを向けた。
無心で肉を頬張り、酒で流し込むごしゅじんさま。
それをどこか嬉しそうに見つめる骨の人。
なんだか、『家族』みたい――。
「――ん? なんだよ、お前等食わねえのか?」
「もちろん、いただくよ。まずは主役から食べてもらうのが、誕生日って奴のマナーらしいからね」
「なんだそれ、めんどくせえな」
「そう言うものも楽しめるようになっていかないとね」
そう言って、骨の人は私達を見た。
「とはいえ、俺達も食べようか。折角の料理が冷めてしまってはもったいないしね」
「やった」
「やぁ遅かったね。依頼かい?」
装飾した机の対面から、ヨル・スレイマンがにこりと微笑みかける。
「お、おう、ちょっとな……ってか、なんだこれ」
対する店主様は、ドアを閉めるのも忘れ訝しげに俺達を見ていた。
その挙動不審っぷりに思わず吹きそうになるが、今日の趣旨はそっちではない。
「前に教えてくれただろう? 11月11日だって」
「……は? なんだそれ。何の日だよ。ってか今日じゃねえか」
「そう、今日だよ。だから、こうして二人と一緒に待っていたんだ」
そう言って左右にお行儀よく座る姉妹を見る。
妹のノーノは店主様を見ながらも机のご馳走が気になって仕方が無いようだし、姉のナーレは机の下に隠している例のアレを出すタイミングを計っているのか、緊張でガチガチだ。
「そんな所に突っ立ってないで、こっちにおいでよ。別に獲って食おうって訳じゃないんだしさ。ほら、ナハシュの好物も用意したんだから」
そう言って、閉じてあった鍋の蓋を開けと、溢れる湯気と共に、スープの薫りが部屋中に広がった。
「おっ……! もしかしてそれって」
「ああ、そうだよ。ナハシュの好きなテールスープだ。もちろん、これに合う酒も用意している。辛口の蒸留酒をね」
「おおっ!」
酒の話が決め手になったのか、店主様の警戒心は一気に霧散した。
どれどれと、机に近寄ってきて早速酒瓶を掴もうとするから、上から手で押さえてやる。
「む……なんだよ。邪魔すんな」
「ものには順番ってものがあるんだよ。さぁ、まずは座って」
折角霧散した警戒心が不信感へと早変わり。
そんな店主様に苦笑しつつ席を勧めると、彼は渋々椅子を引いた。
「で、なんだこれ」
「何なんだって、11月11日を祝うための用意だよ」
「は? なんで、今日を祝うんだよ」
「だから、11月11日だからだよ」
「……お前、おちょくってんのか?」
「まさか」
いつか気付いてくれるかなと日付をアピールしてみたけど、どうやら駄目なようだ。
左右の姉妹もはらはらとこちらと店主様を見ている。
仕方がない、ネタバレと行くか。
「ナハシュ、誕生日おめでとう」
「お、おめでとうございます、ごしゅじんさま!」
「おめでとう、ごしゅじんさま!」
俺がネタばらしをするのを待っていたのだろう、姉妹もすぐに声を上げる。
ナーレ君は少し恥ずかしそうに、ノーノ君は嬉しそうに、店主様に向けておめでとうを言った。
「…………は?」
そして、三人の祝辞を受けた主役はというと、これだ。
うん、わからなくはない。俺も当事者ならきっと同じ反応をしたと思うから――。
●
なんだ、どういうことだ。さっぱり訳が分からねぇ。妙ににやにやしやがって、気持ちわりぃ。
誕生日だ? そんなもん、貰った覚えはねえよ。
このご馳走はなんだ。罠か? いや、こいつらが俺をはめる理由が思いつかねえ……。
「そんなに驚かなくてもいいだろ?」
ヨルが苦笑しながら見てきやがる。それにチビ達もだ。
「なんでそんなこと知ってんだ」
誕生日なんて俺自身も知らないのに、なんでこいつらが知ってる。
「なんでって、見せてくれただろう。冒険者登録証」
「……は?」
冒険者登録証? それが誕生日とどう関係があるんだ。
ヨルは相変わらず苦笑を浮かべてるし、チビ達はどんどん不安な顔になってきやがる。
「冒険者に登録する時、書いただろう? 自分の名前と誕生日を」
「は、そんなもん書いた覚えは……」
と、そこまで言って思い出した。
確か、ギルドの女が登録に必要だから書けって言ってたか。字を書くのが面倒くさくて棒をいっぱい書いた記憶がある。
「あ、あれか!」
「思い出してくれたかい?」
「いや、確かに書いたけどよ。あれは別にそう言うつもりで書いたわけじゃねえぞ」
「そう言うつもりじゃないって事は……まさか適当に書いたのか?」
問われて頷くと、ヨルは驚いたような納得がいったような複雑な顔をしていた。
「そうか、君もか」
「うん?」
「いや、なんでもない。こっちの話だ。でもそうか、誕生日じゃないなら、この料理はどうしようか」
とか言いながらチラチラとこちらを見てくる。答えなんてわかってるだろうが……。
「食う」
「そうか、ありがとう」
わざとらしい笑みを浮かべたヨル。思惑に乗せられた気がしないでもないが、こんなご馳走を目の前にお預け食らってられるか。
「ごしゅじんさま、どうぞ」
席を立ったノーノが酒瓶を持ってやってきて、グラスに酒を注いだ。
「なんでそんなに不機嫌なんだ?」
「別に不機嫌じゃねえし」
「不機嫌じゃないか」
また苦笑してくるヨルから顔を背け、グラスを一気に煽る。
「……うまっ」
「だろ? 誕生日だからね。とっておきの一本だ」
口の中に広がったうま味と辛み。度数は強いのに喉越しが良すぎるせいで、いくらでも入るぞこれ……。
空になったグラスを見つめていたら、ノーノがお代わりを注いでくれた。
「お、おう……ありがとな」
「ようやく素直になった。高い酒を用意しておいてよかったよ」
「うるせぇよ。飯だ飯」
「は、はい!」
そう言うと、ナーレが鍋を大匙でぐるぐると混ぜる。そして、一番大きな肉を掬い上げると皿に盛りつけた。
●
「うおぉ……うまそ……」
ごしゅじんさまが目の前に置かれたお皿を、今にも涎を垂らしそうにじっと見ている。美味いご飯を前にすると、本当に子供みたいに目を輝かせるのが、少し可愛いと思ってしまうのはダメな事だろうか。
「うん? 匙はねえのか。素手で食えってか?」
そんな事を考えていたら、ごしゅじんさまが机の上をきょろきょろと探し始めた。
「あああ、あります! ひあっ!?」
突然言われたので、机の下に隠していたあのプレゼントを思わず落としそうになった。
あ、危ない……。
ナーレは取り出した『銀の匙』を、恐る恐るナハシュへと差し出す。
「なんだあるんじゃねえか。あんがとよ」
ごしゅじんさまはちょっと乱暴に銀の匙を受け取ると、そのまま皿へとダイブ。大きな肉の塊を丸ごと掬い上げて、そのまま口へ運んだ。
「あちっ!? はふっ! やばっ!」
アツアツのスープに入っていた肉だから、熱いのは当然だと思う。なのに、めげずに口に頬張っている姿は、やっぱりちょっと――可愛いかもしれない。
「ん!」
そんな事を思っていたら、ごしゅじんさまがグラスを突き出してきた。おかわりを注げという事だろう。
ナーレはノーノに目で合図する。
「ごしゅじんさま、こっち」
「ん? ん!」
お口の中でもぐもぐするのに忙しいごしゅじんさまは、ノーノの方も見ずにグラスを向けた。
無心で肉を頬張り、酒で流し込むごしゅじんさま。
それをどこか嬉しそうに見つめる骨の人。
なんだか、『家族』みたい――。
「――ん? なんだよ、お前等食わねえのか?」
「もちろん、いただくよ。まずは主役から食べてもらうのが、誕生日って奴のマナーらしいからね」
「なんだそれ、めんどくせえな」
「そう言うものも楽しめるようになっていかないとね」
そう言って、骨の人は私達を見た。
「とはいえ、俺達も食べようか。折角の料理が冷めてしまってはもったいないしね」
「やった」