骨兜と黒鬼のゆるゆる秋キャンプ
キャラクターノベル(グループ)制作 紀藤トキ納品 2021年10月19日 16時47分13秒
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「それじゃ、魚は任せた。いや、マジでそろそろ寒いから釣ってくれると助かる」
「うん。今回は釣り具も用意してきたからね。任せてよ」
夏に同じ場所に来たときは、ヨル・スレイマンが水泳を教わるためだった。今日はまあ、秋の味覚を楽しむためだ。あの頃は禁酒していたが今は違うのでその意味でも楽しみだ、とヨルは思う。
「おう、まあ。任せるけど……、本当に大丈夫だよな?」
「大丈夫だって」
石の下から虫を見つけ、慣れた様子で針に差し、竿を振るう様子を見届けてからナハシュは森へと消えた。随分野外での生活力を疑われている気がするが、それも仕方があるまい。前回のキャンプでは、魚を獲る所も調理する所もナハシュ任せだった。と思ううちに魚が竿を引く。
「……お、入れ食いだね。これは」
人があまり訪れないせいか、魚の反応が良い。とはいえ、良く釣れる時刻は日の入り前の短い間だけだろう。腕をまくって気合を入れて、できれば食べ飽きる位に釣りたいものだと思う。後を任せて薪と森の幸を探しにいったナハシュは、地面を見ればキノコ、見上げれば木の実、幹に這うツタにムカゴを見つければ辿って山芋と手慣れた様子で探していく。
「今でも現役で行けるんじゃね? 山菜ハンター」
手つかずの森は刻を待たず両手で抱えきれぬ幸を恵んでくれた。ここよりも街近くの森では、昔の自分のような子供が今も山菜を採っては売って暮らしているだろうか。あるいは業突く張りの誰かに縄張りを主張されているかもしれないが、目端の利く子は見張りの目を潜り抜けてこっそり採っては売っているのだろう。そんな根回し手筈を面倒に思う辺り、やっぱり現役で山菜採り家業をやるのはナハシュには無理そうだ。荒事にならぬよう、こうして自家用に採るのがせいぜいだろう。
「あー、なんか、食事のバランスがどうとか言ってたっけな。緑色の奴も探すか?」
そういえば、と市場に買い物に付き合ったときのヨルの言葉を思い出す。旨い物を好きなように食えば良いと思っていたナハシュには栄養バランスと言うのは耳慣れない考えだったが、色々つまみの種類が増えるのはそれはそれで良い。『バランスよく食べないと長生きできないよ』と真剣な口調で言われた時に感じた違和感も、一緒に思い出した。
「んー……。なんか、ヨルの言う事は分からなくなったな」
初めてあった頃のヨルは、きっとそんな事を言わなかった。それは確かだと思うのだが、今になってそう言うようになったのが何故か分からない。分からないことに拘るほど細かくないナハシュはすぐにこの疑念も忘れてしまうのだが、また時折思い出すのだろう。思い出した時はその時だ。引っかかっても忘れられる程度なら、今は山菜の方が大事なのだろう。野生の芋を折らずに掘るのは意外と難しく、思っていた通りすぐに難しい事は忘れた。薪も拾って、程なくして戻る。
「どうだー。魚ァ、釣れたか?」
「まあ、本気を出せばこんなものだよ」
「おお……、すげぇな。薪はこんなもんで足りるか?」
小さめの魚は内臓を落として串を打ち、大きめの魚は開いて切り身に。ヨルは余った時間で火の準備まで進めてドヤ顔でナハシュを迎えた。なるほど、言うだけあってヨルもなかなか手際が良い。
「朝まで考えたら薪、少し足りないかもしれない。先に焼き始めているから、もう少し拾ってきてくれる?」
「分かっ……おっと待て、それは今日は捨てんなよ」
不要な魚の内臓を穴へ捨てに行こうとしていたヨルを、ナハシュは呼び止めて悪戯っぽく笑う。
「前に食ってみてえっつってたろ。内臓団子」
「作ってくれるの?」
骨と違って、焼くのに時間は要らないから薪拾いのあとでも間に合う筈だ。旨い物でもないぞ、ともう一度念を押すも、ヨルは楽しそうに笑った。
●
「これよく食べようと思ったなぁ……!」
内臓団子を食べたヨルは、目を丸くして咀嚼する。苦いだけで味わうようなものでもない筈だがゆっくり噛み締め、ごくりと飲み込んでから、堪えきれないように笑いだした。
「ははは、これは酷い。ははははっ」
「だぁーーーっはっはっはっは!!!!」
その様子を指さしながらナハシュも大笑いした。苦い団子も口直しに酒を含めばまあ、イケない訳でもない。しかし旨い物でもないので何口か食べてから、残りは魚の餌にした。
「いやあ、でも。嬉しかったんだ」
「何がだよ」
珍味を流し込む為にずいぶん酒が進んでしまったヨルがいつものように管を巻きだすと、ナハシュもいつものように聞きに回る。こうなってからのヨルは潰れそうでなかなか潰れず、他愛もない話に妙な蘊蓄があったりして聞き手としても面白いものだ。取り留めない会話の中に、妙な引っ掛かりがあったり、かと思えばくだらない話だったり。自分に合うまでもたいがいハプニングだらけの人生を歩んできたのだろうな、とナハシュは思う。
「君が、夏の事を覚えていてくれたこと。また誘ってくれたことも。嬉しかったなあ。うん、嬉しかったんだ」
「あん? そんなしげしげ思い出すほど前の話かよ。さすがにボケるには早いだろ」
悪態をつくナハシュは、少し前までの自分と同じだとヨルは思う。刹那的に目の前の事に反応して動く。未来の事を気にもせず、過去の事もあまり思い出さない。聞けば答えてくれるのだから、過去を覚えている事は覚えているのだろうが、あまり思い返しているようには見えなかった。焚火の揺れる火を見ながら、適当に木切れを放り込む。
「君が、わざわざ思い出してしてくれたことだ。嬉しくない訳がないだろう?」
「そういうんならお前の釣りもだろ。しっかり根に持ってるんじゃねぇか」
「そりゃあね。ちゃんとできる所も見せておかないと」
前回の食事は、道具があれば魚釣り位できると言うヨルをしり目に、ナハシュが素潜りで捕まえて来た魚だった。今回はさすがに文明の利器を用いただけあり、掛かった時間は短いのに釣果は倍以上。分かっていた事ではあるが、道具や準備さえあれば2人の生活能力は容易に逆転するのだ。
(お互い、やれることやってりゃあ、どっちがすげぇってもんでもないだろうに)
ヨルとナハシュは守備分野が違う。そう思っておけば得意と不得意があるのは当然なのだが、ヨルは自己評価が低い。あるいは貸し借りだと借りばかり大きく見える性格なのか。飲めば普段は抑えているだろう本音が出てくるのも面白いと、ナハシュは思う。
「この間は泳ぐのを教えてもらったから、俺も君に何か教えたいなあ。何かない?」
「なんだよ、いきなりだな」
「そうだ、歌でも歌う? 楽しそうじゃないか、歌」
何の脈絡もないように思えるが、きっとヨルの中では意味があるのだ。
「あん? 得意なのかよ」
「いや、そうでもないけど」
けらけらと笑って押してみれば、案外良い声で聞いたことのない歌を歌う。習う気にはならないが、異郷の歌をつまみにするのも悪くない。ヨルは乗ってこないナハシュを不満げに見ているが。
「てめーがやれる事、俺がやる必要はないだろ。めんどくせぇ」
「ああ。そうか。そうだよねえ。泳ぎとはわけが違うかあ」
ほにゃほにゃと笑い、また杯を煽った。今宵は空が高く、星が綺麗だ。酔っ払いは当てにならないし、忘れないうちに毛布を出しておこうと思った。
「それじゃ、魚は任せた。いや、マジでそろそろ寒いから釣ってくれると助かる」
「うん。今回は釣り具も用意してきたからね。任せてよ」
夏に同じ場所に来たときは、ヨル・スレイマンが水泳を教わるためだった。今日はまあ、秋の味覚を楽しむためだ。あの頃は禁酒していたが今は違うのでその意味でも楽しみだ、とヨルは思う。
「おう、まあ。任せるけど……、本当に大丈夫だよな?」
「大丈夫だって」
石の下から虫を見つけ、慣れた様子で針に差し、竿を振るう様子を見届けてからナハシュは森へと消えた。随分野外での生活力を疑われている気がするが、それも仕方があるまい。前回のキャンプでは、魚を獲る所も調理する所もナハシュ任せだった。と思ううちに魚が竿を引く。
「……お、入れ食いだね。これは」
人があまり訪れないせいか、魚の反応が良い。とはいえ、良く釣れる時刻は日の入り前の短い間だけだろう。腕をまくって気合を入れて、できれば食べ飽きる位に釣りたいものだと思う。後を任せて薪と森の幸を探しにいったナハシュは、地面を見ればキノコ、見上げれば木の実、幹に這うツタにムカゴを見つければ辿って山芋と手慣れた様子で探していく。
「今でも現役で行けるんじゃね? 山菜ハンター」
手つかずの森は刻を待たず両手で抱えきれぬ幸を恵んでくれた。ここよりも街近くの森では、昔の自分のような子供が今も山菜を採っては売って暮らしているだろうか。あるいは業突く張りの誰かに縄張りを主張されているかもしれないが、目端の利く子は見張りの目を潜り抜けてこっそり採っては売っているのだろう。そんな根回し手筈を面倒に思う辺り、やっぱり現役で山菜採り家業をやるのはナハシュには無理そうだ。荒事にならぬよう、こうして自家用に採るのがせいぜいだろう。
「あー、なんか、食事のバランスがどうとか言ってたっけな。緑色の奴も探すか?」
そういえば、と市場に買い物に付き合ったときのヨルの言葉を思い出す。旨い物を好きなように食えば良いと思っていたナハシュには栄養バランスと言うのは耳慣れない考えだったが、色々つまみの種類が増えるのはそれはそれで良い。『バランスよく食べないと長生きできないよ』と真剣な口調で言われた時に感じた違和感も、一緒に思い出した。
「んー……。なんか、ヨルの言う事は分からなくなったな」
初めてあった頃のヨルは、きっとそんな事を言わなかった。それは確かだと思うのだが、今になってそう言うようになったのが何故か分からない。分からないことに拘るほど細かくないナハシュはすぐにこの疑念も忘れてしまうのだが、また時折思い出すのだろう。思い出した時はその時だ。引っかかっても忘れられる程度なら、今は山菜の方が大事なのだろう。野生の芋を折らずに掘るのは意外と難しく、思っていた通りすぐに難しい事は忘れた。薪も拾って、程なくして戻る。
「どうだー。魚ァ、釣れたか?」
「まあ、本気を出せばこんなものだよ」
「おお……、すげぇな。薪はこんなもんで足りるか?」
小さめの魚は内臓を落として串を打ち、大きめの魚は開いて切り身に。ヨルは余った時間で火の準備まで進めてドヤ顔でナハシュを迎えた。なるほど、言うだけあってヨルもなかなか手際が良い。
「朝まで考えたら薪、少し足りないかもしれない。先に焼き始めているから、もう少し拾ってきてくれる?」
「分かっ……おっと待て、それは今日は捨てんなよ」
不要な魚の内臓を穴へ捨てに行こうとしていたヨルを、ナハシュは呼び止めて悪戯っぽく笑う。
「前に食ってみてえっつってたろ。内臓団子」
「作ってくれるの?」
骨と違って、焼くのに時間は要らないから薪拾いのあとでも間に合う筈だ。旨い物でもないぞ、ともう一度念を押すも、ヨルは楽しそうに笑った。
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「これよく食べようと思ったなぁ……!」
内臓団子を食べたヨルは、目を丸くして咀嚼する。苦いだけで味わうようなものでもない筈だがゆっくり噛み締め、ごくりと飲み込んでから、堪えきれないように笑いだした。
「ははは、これは酷い。ははははっ」
「だぁーーーっはっはっはっは!!!!」
その様子を指さしながらナハシュも大笑いした。苦い団子も口直しに酒を含めばまあ、イケない訳でもない。しかし旨い物でもないので何口か食べてから、残りは魚の餌にした。
「いやあ、でも。嬉しかったんだ」
「何がだよ」
珍味を流し込む為にずいぶん酒が進んでしまったヨルがいつものように管を巻きだすと、ナハシュもいつものように聞きに回る。こうなってからのヨルは潰れそうでなかなか潰れず、他愛もない話に妙な蘊蓄があったりして聞き手としても面白いものだ。取り留めない会話の中に、妙な引っ掛かりがあったり、かと思えばくだらない話だったり。自分に合うまでもたいがいハプニングだらけの人生を歩んできたのだろうな、とナハシュは思う。
「君が、夏の事を覚えていてくれたこと。また誘ってくれたことも。嬉しかったなあ。うん、嬉しかったんだ」
「あん? そんなしげしげ思い出すほど前の話かよ。さすがにボケるには早いだろ」
悪態をつくナハシュは、少し前までの自分と同じだとヨルは思う。刹那的に目の前の事に反応して動く。未来の事を気にもせず、過去の事もあまり思い出さない。聞けば答えてくれるのだから、過去を覚えている事は覚えているのだろうが、あまり思い返しているようには見えなかった。焚火の揺れる火を見ながら、適当に木切れを放り込む。
「君が、わざわざ思い出してしてくれたことだ。嬉しくない訳がないだろう?」
「そういうんならお前の釣りもだろ。しっかり根に持ってるんじゃねぇか」
「そりゃあね。ちゃんとできる所も見せておかないと」
前回の食事は、道具があれば魚釣り位できると言うヨルをしり目に、ナハシュが素潜りで捕まえて来た魚だった。今回はさすがに文明の利器を用いただけあり、掛かった時間は短いのに釣果は倍以上。分かっていた事ではあるが、道具や準備さえあれば2人の生活能力は容易に逆転するのだ。
(お互い、やれることやってりゃあ、どっちがすげぇってもんでもないだろうに)
ヨルとナハシュは守備分野が違う。そう思っておけば得意と不得意があるのは当然なのだが、ヨルは自己評価が低い。あるいは貸し借りだと借りばかり大きく見える性格なのか。飲めば普段は抑えているだろう本音が出てくるのも面白いと、ナハシュは思う。
「この間は泳ぐのを教えてもらったから、俺も君に何か教えたいなあ。何かない?」
「なんだよ、いきなりだな」
「そうだ、歌でも歌う? 楽しそうじゃないか、歌」
何の脈絡もないように思えるが、きっとヨルの中では意味があるのだ。
「あん? 得意なのかよ」
「いや、そうでもないけど」
けらけらと笑って押してみれば、案外良い声で聞いたことのない歌を歌う。習う気にはならないが、異郷の歌をつまみにするのも悪くない。ヨルは乗ってこないナハシュを不満げに見ているが。
「てめーがやれる事、俺がやる必要はないだろ。めんどくせぇ」
「ああ。そうか。そうだよねえ。泳ぎとはわけが違うかあ」
ほにゃほにゃと笑い、また杯を煽った。今宵は空が高く、星が綺麗だ。酔っ払いは当てにならないし、忘れないうちに毛布を出しておこうと思った。