新任副長を迎えて
キャラクターノベル(グループ)制作 革酎納品 2021年09月19日 12時55分28秒
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ロモズ歩兵団の新拠点カルケルーア・ロモズの、歩兵団専用宿舎。
その一階には定員100名程の大きな食堂がある。涼しい季節になり始めた初秋のある日、この食堂で重兵11番隊の新副長クレア・エクレールの歓迎会が催される運びとなった。
それに先立ち、重兵11番隊長アーシェル・G・クラインは先任副長マイジェロ・フェルーダと共に、諸々の関係各所へクレアを案内することにした。
最初は兵舎。ここは大勢が寝泊まりする場所であり、各隊員の個性がそれぞれの部屋に表れている。
「基本は四人一部屋なんだね」
「まぁな。けど一応カーテンで間仕切りは出来るから、最低限のプライバシーは確保出来る」
クレアに答えながら、アーシェルは隊員達の反応をそれとなく観察していた。いずれも表情は明るく、クレアを歓迎してくれていることがひと目で分かった。
次いで案内したのは執務室。隊長用の他に副長用の執務卓も置かれている。が、どういう訳か異様な散らかり具合だった。アーシェル曰く、歓迎会準備に専念する余り、ろくに掃除もせすにしばらく放置していた、ということらしい。
「ふぅん……あ、あの絵、飾っててくれたんだ」
一瞬生返事を返しかけたクレアだが、先日彼女が描いたアーシェルの似顔絵が額縁入りで壁に掛かっているのを見た時には、嬉しそうに目を輝かせていた。
「隊長、一日三回はその絵を見てニヤついてますよね」
「い、要らんことはいわなくて宜しい」
マイジェロからの想定外の暴露に、アーシェルは頬が真っ赤になっていた。
その反応を受けて、クレアの口元に小さな笑みが浮かぶ。純粋に、嬉しかった。が、その一方で呆れや照れ臭さも顔を覗かせ、幾分複雑な表情ではあったが。
(色々、気を遣ってくれてるんだね)
だがこの直後、もっと大きなサプライズが待ち受けていた。最後に案内されたのはクレアの個室だったが、そこには決して豪奢ではないものの、しっかりと様式美を整えた天蓋付きのベッドが部屋の中央に鎮座していたのである。
「わ……凄い……」
その気合の入り方に、クレアは思わず呆然と佇む。マイジェロがここでも再び、
「このベッド、隊長の手造りですよ。クレアさんの副長祝いってことで、三日ぐらいで仕上げたんです」
と、クレアの耳元で囁いた。
驚きが更に重なるクレアと、余計なことをいうなと目を怒らせるアーシェル。マイジェロはただ可笑しそうに肩を揺するだけであった。
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その夜、歓迎会は予定通り開催された。
美味い料理に旨い酒。そして早くもすっかり馴染んでいるクレアと隊員達。皆、良い笑顔を見せていた。
「クレアでーす。皆、宜しくねー。普段から隊長に無茶ぶりされてない? もし何か困ったことがあったら、遠慮無くボクにいってね。隊長とっちめてあげるから!」
歓迎会冒頭に放ったクレアのこの挨拶で、場が一気に和んだ。直後にアーシェルが演台に立ち、
「11番隊の皆は大切な家族だ、そして今日からはクレアもな」
と語り、クレアの性格や長所などを説明してみせたが、それは寧ろ蛇足だったかも知れない。そんなことをアーシェルが説明するまでもなく、11番隊の面々はクレアをすっかり受け入れていた。
クレアの人気は、アーシェルの想像以上だったといって良い。
特に、ふたりしか居ない女性隊員はクレアに惚れ込んだ模様で、乾杯直後から彼女の傍らを離れようとしなかった。
そんな楽しげな様子を少し離れた席で、アーシェルは穏やかな表情で眺めていた。隣りには同じく、静かに酒と料理を楽しむマイジェロの姿が。
「……なぁマイジェロ、率直なところを教えてくれ。クレアの印象って正直、どうなんだ?」
「どうもこうも、ひと目惚れしちまいましたよ」
思わぬ反応にアーシェルは危うくジョッキの中身を吹き出しそうになった。アーシェルにとって、クレアは彼からの友愛感情の重さに呆れつつも傍らに居てくれる大事な存在だが、決して恋人という訳ではない。だけど絶対に手放したくない。そんな女性だ。
だが流石に、マイジェロの惚れました宣言には動揺を隠せなかった。
「いや、変な風に取らんで下さいよ。隊長にしっかり首輪と鈴をかけることが出来る大した女傑で、人物として惚れ込んだって意味ですからね」
呆れるマイジェロに、アーシェルは自らの不明を恥じて、思わず頭を掻いた。
だが、確かにマイジェロのいう通りだ。クレアに頭が上がらないのは事実だ。そのクレアが、ふたりで酒を楽しんでいるアーシェルとマイジェロの卓へと席を移動してきた。
「何ふたりで意気投合しちゃってんの? ボクも混ぜてよ」
「ははは……ところでクレア。ひとつ教えてくれないか」
アーシェルは改めて訊くのが気恥ずかしかった所為もあり、酒の力を借りて思い切ってこの場で尋ねることにした。何故、副長になってくれたのか、と。
「そりゃアーシェル君が何でもかんでも背負いがちっていうか、ひとりで皆を守ろうとするでしょ。でも隊長がそれじゃ駄目な時ってあるじゃない。だからアーシェル君のことちゃんと叱れるボクが立候補したって訳」
そうだったのか――アーシェルは改めて、心の底からありがたいと思った。そこまで己のことを見抜いてくれているのが、くすぐったくも嬉しい。
「ははっ……お前の尻に敷かれそうだ。けどまぁ、これからも俺が間違った時は叱ってくれ」
「もっちろん!」
どーんと胸を張るクレア。その様子を左右から眺めていた隊員達が、やんやの喝采をあげた。
再びクレアは隊員達の輪の中に戻っていったが、その直後にマイジェロが、ところで隊長、とジョッキを手にしたまま不思議そうに小首を傾げた。
その視線の先には美味そうな料理が幾つもの皿に山盛りとなっているのだが、どういう訳かひと皿だけ、妙に場違いなものがあった。
狐パンである。クレアが他のどの料理よりも嬉しそうに、そして美味そうに頬張っていたのを、マイジェロは見逃してはいなかった。
「あ、いや、まぁ、クレアの好きなもんだとでも思ってくれ」
「ははぁ。この狐パンがねぇ」
心底不思議そうに、狐パンを手に取ってまじまじと眺めるマイジェロ。流石に気恥ずかしくなってきたアーシェルだが、マイジェロはひと口齧ってから、確かに美味いっすと納得の表情を見せていた。
●
翌朝、アーシェルは木窓の隙間から射し込む朝陽に瞼を刺激され、やや重たい頭を抱えながらのっそりとベッドの中で起き上がった。昨晩は少々、飲み過ぎたかも知れない。
アーシェルは部屋着から真紅を基調とした隊長服に着替え終えると、朝の定例会議に必要な書類を取りに執務室へと足を向けた――と、そこで思わず目を見張った。
執務室が、綺麗に掃除されていたのである。部屋の隅々まで見事に整理整頓され、埃ひとつ落ちていないぴっかぴかの状態だった。
「あ、起きたんだ。意外に早かったね」
掃除用の白衣姿で雑巾を手にしたクレアが、隊長用執務卓の向こうでにっこりと微笑んだ。副長用執務卓前では同じような格好のマイジェロが箒と塵取りを携えて手際良くゴミを掻き集めている。
「……もしかして、夜通しやってたのか?」
「いやー、何だか酔った勢いで、マイジェロさんと一緒に掃除しちゃおっかー、ってなっちゃって」
屈託の無い笑みを浮かべるクレアに、アーシェルは驚いて良いのか呆れて良いのか、迷ってしまった。
ロモズ歩兵団の新拠点カルケルーア・ロモズの、歩兵団専用宿舎。
その一階には定員100名程の大きな食堂がある。涼しい季節になり始めた初秋のある日、この食堂で重兵11番隊の新副長クレア・エクレールの歓迎会が催される運びとなった。
それに先立ち、重兵11番隊長アーシェル・G・クラインは先任副長マイジェロ・フェルーダと共に、諸々の関係各所へクレアを案内することにした。
最初は兵舎。ここは大勢が寝泊まりする場所であり、各隊員の個性がそれぞれの部屋に表れている。
「基本は四人一部屋なんだね」
「まぁな。けど一応カーテンで間仕切りは出来るから、最低限のプライバシーは確保出来る」
クレアに答えながら、アーシェルは隊員達の反応をそれとなく観察していた。いずれも表情は明るく、クレアを歓迎してくれていることがひと目で分かった。
次いで案内したのは執務室。隊長用の他に副長用の執務卓も置かれている。が、どういう訳か異様な散らかり具合だった。アーシェル曰く、歓迎会準備に専念する余り、ろくに掃除もせすにしばらく放置していた、ということらしい。
「ふぅん……あ、あの絵、飾っててくれたんだ」
一瞬生返事を返しかけたクレアだが、先日彼女が描いたアーシェルの似顔絵が額縁入りで壁に掛かっているのを見た時には、嬉しそうに目を輝かせていた。
「隊長、一日三回はその絵を見てニヤついてますよね」
「い、要らんことはいわなくて宜しい」
マイジェロからの想定外の暴露に、アーシェルは頬が真っ赤になっていた。
その反応を受けて、クレアの口元に小さな笑みが浮かぶ。純粋に、嬉しかった。が、その一方で呆れや照れ臭さも顔を覗かせ、幾分複雑な表情ではあったが。
(色々、気を遣ってくれてるんだね)
だがこの直後、もっと大きなサプライズが待ち受けていた。最後に案内されたのはクレアの個室だったが、そこには決して豪奢ではないものの、しっかりと様式美を整えた天蓋付きのベッドが部屋の中央に鎮座していたのである。
「わ……凄い……」
その気合の入り方に、クレアは思わず呆然と佇む。マイジェロがここでも再び、
「このベッド、隊長の手造りですよ。クレアさんの副長祝いってことで、三日ぐらいで仕上げたんです」
と、クレアの耳元で囁いた。
驚きが更に重なるクレアと、余計なことをいうなと目を怒らせるアーシェル。マイジェロはただ可笑しそうに肩を揺するだけであった。
●
その夜、歓迎会は予定通り開催された。
美味い料理に旨い酒。そして早くもすっかり馴染んでいるクレアと隊員達。皆、良い笑顔を見せていた。
「クレアでーす。皆、宜しくねー。普段から隊長に無茶ぶりされてない? もし何か困ったことがあったら、遠慮無くボクにいってね。隊長とっちめてあげるから!」
歓迎会冒頭に放ったクレアのこの挨拶で、場が一気に和んだ。直後にアーシェルが演台に立ち、
「11番隊の皆は大切な家族だ、そして今日からはクレアもな」
と語り、クレアの性格や長所などを説明してみせたが、それは寧ろ蛇足だったかも知れない。そんなことをアーシェルが説明するまでもなく、11番隊の面々はクレアをすっかり受け入れていた。
クレアの人気は、アーシェルの想像以上だったといって良い。
特に、ふたりしか居ない女性隊員はクレアに惚れ込んだ模様で、乾杯直後から彼女の傍らを離れようとしなかった。
そんな楽しげな様子を少し離れた席で、アーシェルは穏やかな表情で眺めていた。隣りには同じく、静かに酒と料理を楽しむマイジェロの姿が。
「……なぁマイジェロ、率直なところを教えてくれ。クレアの印象って正直、どうなんだ?」
「どうもこうも、ひと目惚れしちまいましたよ」
思わぬ反応にアーシェルは危うくジョッキの中身を吹き出しそうになった。アーシェルにとって、クレアは彼からの友愛感情の重さに呆れつつも傍らに居てくれる大事な存在だが、決して恋人という訳ではない。だけど絶対に手放したくない。そんな女性だ。
だが流石に、マイジェロの惚れました宣言には動揺を隠せなかった。
「いや、変な風に取らんで下さいよ。隊長にしっかり首輪と鈴をかけることが出来る大した女傑で、人物として惚れ込んだって意味ですからね」
呆れるマイジェロに、アーシェルは自らの不明を恥じて、思わず頭を掻いた。
だが、確かにマイジェロのいう通りだ。クレアに頭が上がらないのは事実だ。そのクレアが、ふたりで酒を楽しんでいるアーシェルとマイジェロの卓へと席を移動してきた。
「何ふたりで意気投合しちゃってんの? ボクも混ぜてよ」
「ははは……ところでクレア。ひとつ教えてくれないか」
アーシェルは改めて訊くのが気恥ずかしかった所為もあり、酒の力を借りて思い切ってこの場で尋ねることにした。何故、副長になってくれたのか、と。
「そりゃアーシェル君が何でもかんでも背負いがちっていうか、ひとりで皆を守ろうとするでしょ。でも隊長がそれじゃ駄目な時ってあるじゃない。だからアーシェル君のことちゃんと叱れるボクが立候補したって訳」
そうだったのか――アーシェルは改めて、心の底からありがたいと思った。そこまで己のことを見抜いてくれているのが、くすぐったくも嬉しい。
「ははっ……お前の尻に敷かれそうだ。けどまぁ、これからも俺が間違った時は叱ってくれ」
「もっちろん!」
どーんと胸を張るクレア。その様子を左右から眺めていた隊員達が、やんやの喝采をあげた。
再びクレアは隊員達の輪の中に戻っていったが、その直後にマイジェロが、ところで隊長、とジョッキを手にしたまま不思議そうに小首を傾げた。
その視線の先には美味そうな料理が幾つもの皿に山盛りとなっているのだが、どういう訳かひと皿だけ、妙に場違いなものがあった。
狐パンである。クレアが他のどの料理よりも嬉しそうに、そして美味そうに頬張っていたのを、マイジェロは見逃してはいなかった。
「あ、いや、まぁ、クレアの好きなもんだとでも思ってくれ」
「ははぁ。この狐パンがねぇ」
心底不思議そうに、狐パンを手に取ってまじまじと眺めるマイジェロ。流石に気恥ずかしくなってきたアーシェルだが、マイジェロはひと口齧ってから、確かに美味いっすと納得の表情を見せていた。
●
翌朝、アーシェルは木窓の隙間から射し込む朝陽に瞼を刺激され、やや重たい頭を抱えながらのっそりとベッドの中で起き上がった。昨晩は少々、飲み過ぎたかも知れない。
アーシェルは部屋着から真紅を基調とした隊長服に着替え終えると、朝の定例会議に必要な書類を取りに執務室へと足を向けた――と、そこで思わず目を見張った。
執務室が、綺麗に掃除されていたのである。部屋の隅々まで見事に整理整頓され、埃ひとつ落ちていないぴっかぴかの状態だった。
「あ、起きたんだ。意外に早かったね」
掃除用の白衣姿で雑巾を手にしたクレアが、隊長用執務卓の向こうでにっこりと微笑んだ。副長用執務卓前では同じような格好のマイジェロが箒と塵取りを携えて手際良くゴミを掻き集めている。
「……もしかして、夜通しやってたのか?」
「いやー、何だか酔った勢いで、マイジェロさんと一緒に掃除しちゃおっかー、ってなっちゃって」
屈託の無い笑みを浮かべるクレアに、アーシェルは驚いて良いのか呆れて良いのか、迷ってしまった。