ナハシュは笑い、ヨルは笑わない
キャラクターノベル(グループ)制作 赤坂納品 2021年09月24日 12時00分08秒
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「変わったよな、お前」
「そうかな。あんまり変わらないと思うけど」
「いいや変わったね。トンビがトンボになるぐらい変わったね」
「そこは鷹になりたかったかなぁ」
ナハシュとヨル・スレイマンは、よく中身のない会話を交わした。この日の二人もリブラネスタの喧騒の中、鉄柵に凭れ掛かりながらあれやこれやと雑談に興じていた。
こういう時、二人は大抵同じ目的を持っていた。理由がなければ連れ立って歩く必要などないからだ。今回も二人には共通の目的があったが、示し合わせてつるんでいるわけではなかった。それぞれが別々にリブラネスタを訪れ、目的地に到着し、そして相手を見つけたのだ。ナハシュとヨルの関係は、概ねそのような形で成立していた。
「そう言う君は変わらないよね」
「そうか? これでも変わったぜ?」
「ムササビとモモンガぐらい変わらないよ」
「全然変わんねえんだなそれは……あれ? ムササビとモモンガの違いって何だ?」
本気で悩み始めたらしいナハシュと、何処を見ているのか分からない(頭骨が邪魔で)ヨルの二人は、内心ではお互いの感想が的を射ている事を理解していた。
ナハシュは変わらず。
ヨルは変わったのだ。
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「聞いたよ。保護対象の脚を切断したんだって?」
「あーそう……だっけな? あれ? どの仕事だ」
「ほら、この前の。エスト・ポーラの地下で、アントマンと一戦交えたっていう」
「あーあーそうそう、あったな! あれ以来、ギルドの受付嬢に怖がられちまってさ」
「元々避けられてたという線もある気はする」
「いやいや、けっこうモテてたと思うぜ。分かんねえけど。でもよ、脚なんてさ、まあ潰すだろ? 相手はシーフだぜ?」
「そうだね。真っ先にやった方がいい」
「証言取りたいって言ってたから、それはつまり、首から上が無事なら良いって意味だと思ったんだよな。ゴールディじゃそうだった」
「実際、問題はなかったみたいだし、リブラネスタでもそうなんじゃないかな」
「やっぱそうだよな! 手足の数が減ったり増えたりしても、結果がついてくりゃ大丈夫だよな」
「減るのは分かるけど、増えるのはどういう理屈なんだい?」
「お、聞きたいか? まずな、人差し指と中指の間にマチェットをな」
「うん、やっぱりやめておくよ。この通り、公衆の面前だし」
「おっといけね。ゴールディならドン引かれずに済むんだけどな」
「君、ゴールディを言い訳にすればやり過ごせると思ってる節があるよね」
「ゴブリンジョークっつー事でひとつ」
「ゴブリンの皆さんからしたら、とてつもない風評被害なんじゃないかな」
「そんな事ねえと思うけどなぁ」
間。
「お前の方はどうなんだよ」
「どう、っていうのは?」
「そっちもアントマンと戦ったわけだろ。なんかねぇのかよ、感想。ツラが良かったとか」
「ツラが良かったとか」
「あとはー……強かった……弱かった……ツラが良かったとか」
「感想の語彙が貧相なのって、興味のなさの表れなんだよ」
「しょーがねーだろ戦ってねぇんだし」
「まあ、そうだね」
間。
「アレクト君はいい女だったよ」
「へぇ、惚れたか?」
「実は来週デートをする予定でね」
「ちゃんと最後までいけよー? あとウチに連れ込むなよ」
「ああ、分かってるよ。でも、そうだね、欲を言うなら十年後に会いたかった」
「何で十年後なんだ?」
「三年前でもいいかもしれないけどさ」
「今じゃねえって事か」
「それに、共感できないわけでもない」
「キョウカン?」
「否応なしに、世間から逸脱した常識の中で生きる事を強いられると、ああなってしまう。或いは、こうなってしまう」
「ふーん。そんなもんかね」
「本人がその事に気付く事さえ出来ない場合が多いのだけれど、アレクト君は違ったな」
「違うって言うと、どう違うんだ? 全然わかんねえ。難しい」
「つまり、彼女は世間一般の常識をも持ち合わせていたというわけだ。それはかえって、苦痛だったかも知れないけれど」
「…………」
「あー……つまり、悪を悪と認識できない環境にいながらも、自分の悪を認識していたから、自責の念に苛まれていたという事だよ」
「な……るほど? なるほど。よし、理解した」
「自分の弱さと必死に向き合い、折り合いをつけ、悲鳴を上げながら生きていたんだ。いい女だよ」
「悲鳴を上げるといい女なのか。お前の女の趣味、終わってんな」
「ヒトを見る目はあるつもりだけどね」
「でもよ、やっぱお前、変わったよ」
「またその話かい」
「最近さ、俺には分かんねえ話をよくするようになった」
「分からない話か」
「ああ。昔は俺が二人いたらこんな感じなんだなって思ってたけど、今は違うわ。お前が全然別の生き物に見える」
「じゃあ、君には俺が何に見えるんだい?」
「お前はお前だろ」
「そうじゃなくてさ。違う生き物と言うのなら、それはどんな生き物かなって」
「…………」
間。
「…………」
間。
「…………」
間。
「…………」
「……難しい質問をして悪かった。これは俺の落ち度だ」
「えーいやなんだ、あー、なんだ? デカいから象か?」
「俺は、君が星に見える事があるよ」
「えっ……は? 星?」
「そう、星だよ」
「星って生き物だったのか?」
「む、しまったな。えーと、生き物縛りは現時点で終了だ」
「きったねー! めちゃくちゃ悩ませといてそれかよ!」
「どんな汚い手段でも、生き残るためなら惜しまない。ゴールディでは常識だった」
「ゴールディで生まれ育ってねぇだろお前は」
「それで、生き物でなくともいいのなら、君の目に俺は何に見える?」
「……そうだな。空だ」
「ふうん、空?」
「どうしてそう思ったんだ?」
「デカいから」
「あー、なるほど」
「俺が星だっつー理由は?」
「さて。何でだろうね」
「うおい!」
ナハシュは語り。
ヨルは沈黙する。
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「しっかし、“悪”ってのは一体、何なんだろうな」
「またえらく哲学的だな」
「テレサ達聖真教は多分正義なんだろ。でもって、アントマンとダグザは悪だ」
「ふむ」
「じゃあ、俺達は聖真教とアントマン、どっち寄りだ?」
「どちらかと言えば、少なくとも君はアントマン寄りだろうな」
「だろー? じゃあ、俺は悪なのか?」
「めちゃくちゃな悪だと思うけど」
「えっ、ひでーな。世のため人のため、粉骨砕身する毎日なんだが」
「複雑骨折を敵に強いるという意味なら、確かにその通りだろうと思う」
「でもよ、俺はこの通り捕まっちゃいねーんだよな。ナハシュ討伐依頼、みたいなのも出ねーし」
「冒険者ギルドが、うまい具合に隠れ蓑になっているのかも知れないな」
「お前だって危ういもんだろ?」
「失礼な。清廉潔白という言葉が服と動物の頭蓋骨を着て歩いている男とは、俺の事だよ」
「動物の頭蓋骨を着て歩く男に名乗られて、清廉潔白もさぞ無念だろうな」
「しかし、そういう意味では俺もアントマン寄りかも知れない」
「だろ? すると、“悪”ってのは一体何なんだろうな」
「聖真教だって、“悪”なのかも知れないし」
「いやいや、正義だろ。あのテの連中は、自分を正義だと信じて疑ってねえ」
「そうかな。テレサ君は、どうかな」
「おっ、アレクトを褒めた舌の根も乾かねえうちに、別の女の話を始めたぞ、コイツ」
「結局、何が正義で悪かなんて話は、酒の手伝いでもなければ語る事は難しい」
「少なくとも、アントマンがよっぽどの悪だってのは、確かみてーだけどな。ほら、見てみろよ」
ナハシュが指を差し。
ヨルが顔を上げた。