『黄金の腕』に抱かれて

キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年06月10日 14時35分00秒

 冒険者達の街リブラネスタのとある路地奥。
 薄暗い路地の進んでいくと現れる温かな光に吸い寄せられるように、四人はドアをくぐる。

「いらっしゃい! おや、あんたかい」

「お久しぶり、ジルさん。奥の席借りるよ」
 出迎えた隻腕の女主人にセヴラン・クアルトは挨拶を済ませると、勝手知ったる店内を奥へと進んでいく。
「今日は随分と大勢だね。何かお祝い事かい?」
「お祝い……そうだね、お祝いかな。依頼が上手くいった祝勝会をと思って寄らせてもらったんだ」
 ジルの問いに答えつつセヴランは店内を見渡す。
 いつも地元の人達で賑わっている店だが、今日は他に誰もいない。
「へぇ、そうなのかい。それじゃ……」
 と、セヴランの話を聞き、ジルはドアに向かうと看板をひっくり返した。
「いいのかい?」
「ああ、沢山注文してくれるんだろう?」
 問いかけたセヴランにジルは悪戯な笑みを浮かべる。
「はは……まったく、ジルさんには敵わないね」
「冒険者の懐事情を知る奴の店に来る人間が悪い」
 そう不敵に笑いながらカウンターへ戻るジルに、セヴランは肩を竦めた。

「なんだかとっても素敵な雰囲気ね」
 そんな二人のやり取りを見つめていたアンネエルカがうっとりと呟いた。
「へぇ……ジルさんって、セヴランさん相手だとこんな感じなんだね」
「うん? クレアには違うのか?」
 同じくやり取りを眺めていたクレア・エクレールの呟きに、アーシェル・G・クラインが問いかける。
「ボクに対してはもっと優しいお姉さんだよ。料理の事とか冒険の事とかいろいろ話してくれる、頼れる姉貴って感じ」
 クレアは以前に依頼で訪れてから、暇を見てはちょくちょく顔を出していた。
「優しいお姉さんか……確かに綺麗ではあるな」
 クレアの話を聞き、アーシェルはふむとジルを見る。
 鍛え続けているのだろうかその肉体美に衰えは見えない。隻腕になり冒険者は引退したと聞いたが、十分現役でやっていけそうだ。
「アーシェルくん、どこ見てるのかな?」
「優しいに美醜は関係ないと思うわ?」
 と、アーシェルがじっとジルを見ていたら、女性陣二人がぬっと顔を覗き込んでくる。
「……なっ! 別にそういう意味じゃねぇよ!」
「そういう意味? どういう意味?」
 驚くアーシェルに、アンネエルカは首を傾げ。
「きっと、お姉さんに甘えたい年頃なんだよ、アーシェルくんは」
 クレアはにししと悪戯な笑みを浮かべる。
「お姉さんに……私達じゃダメなの?」
 更にアンネエルカがさぁどうぞと両手を広げた。
「お前等な……!」
 アーシェルはからかわれている事がわかったのか、プルプルと拳を震わせている。
「本当に仲がいいね、三人は」
 そんな三人の仲睦まじい様子を、セヴランは少し引いて微笑ましく見つめていた。
「三人じゃないわ、四人よ?」
「そうだぞ、何一人だけ逃げようとしてるんだ」
「セヴランさん、そういうとこだよそういうとこ」
 そうしたら、今度は総攻撃を喰らった。
「……ああ、そうだね。君達の中に居場所がある事を誇りに思うよ」
 セヴランは驚きながらも嬉しそうに微笑む。

「はいよ。ご注文のワインだ。一等高い奴にしといてやったよ」

 そんな話をしていたら、ジルがボトルをテーブルに置いた。
「グラスはどうしようか。飲めない子はいるかい?」
「悪いね、ジルさん。この中で呑めるのは僕だけだよ」
「おや、そうだったのか。それじゃ、これはやりすぎかね」
 と、セヴランの言葉にボトルを下げようとして手を伸ばすジル。
「いや、せっかくなんでこれは貰っておこうかな」
 ボトルを掴んだジルの手を優しく取ったセヴランは、その手からボトルを取り返した。
「……はいはい、まいどあり」
 ジルは呆れたように肩を竦めると、丁重にセヴランの手から自分の手を逃がしカウンターへと戻っていった。

「はぁ……大人。ああいうの憧れる」
 そんなジルの仕草に、クレアはうっとりを見入る。
「ほんと、素敵ね。私もああいう事を自然とできるようになりたいわ」
 同じくアンネエルカも熱い視線でセヴランを見ていた。
「えっ、アンネがする方なの?」
「え? だって、カッコよくない?」
「え?? 普通される方じゃない?」
「え??? なんで?」
 クレアとアンネエルカ。意見の相違に二人して首をかしげる。
「あのね、見世物じゃないんだけど」
 そんな二人にセヴランは苦笑い。
「それより何を飲む? ノンアルコールのサワー系もお勧めだよ」
「俺はワインを貰うぜ」
 と、セヴランが皆に聞く中、アーシェルは何処か得意げにそう答えた。
「うん? アーシェルはまだ十代……ああ、そうだった。今年初めに20になったんだったね」
「そういう訳だ」
「だけど、飲めるのかい?」
 成人したとはいえ日も浅い。セヴランは気を遣いながらアーシェルに問いかけるが。
「ふっ、試してみるか?」
 当のアーシェルは不敵に笑った。
「ふむ……僕と勝負をしようなんて100年早いよ」
 そんな挑発に触発される自分を心の中で自嘲しながらも、セヴランはアーシェルの悪乗りに付き合う。
「なら、飲み比べだな」
 そう言ってアーシェルは慣れた手つきでコルクを抜くとグラスにワインを注いだ。
「受けて立とうじゃないか」
 いつも柔和な表情を崩さないセヴランが不敵に答え、アーシェルに返杯する。

「うちの男連中はやっぱり子供だね」
「さっきはカッコよかったのに、途端に幼く見えてしまうわね。不思議」
 男達のやり取りを見ている女性陣は呆れながら、メニューに視線を落とした。
「クレアは何を飲むの?」
「ボクは炭酸系がいいんだけど……」
「炭酸?」
「あれ、アンネは知らない? シュワシュワする飲み物なんだけどね」
「シュワシュワ? エールみたいな感じかしら?」
「あー、そうそう、そんな感じ。アルコールは入ってないけどね」
「へぇ、私知らないわ」
「そっか、ここにあればいいんだけど……ジルさん」

「はいはい、注文かい?」

 と、クレアが声を掛けたら、ジルが出てきてくれた。
「炭酸の飲み物ってあるかな?」
 そんなジルにクレアが問いかける。
「炭酸か。この辺りには炭酸泉がないから、うちでは扱ってないね」
「ありゃ、そうなんだね。ごめん、アンネ。ないみたい」
「そう、残念だけど……炭酸って泉でとれるのね。一つ賢くなったわ」
 無かったことは残念だが、新たな知識を得られてアンネエルカはまんざらでもない。
「うーん、じゃ、お勧めでいいかな。アンネは?」
「ええ、私もおすすめを頂きたいわ」
「はいよ。ちょっと待っててね」
 二人分の注文を聞き終え、ジルは再びカウンターへと戻っていく。
 程なくして、二人の為にとキンと冷えた氷入りサワードリンクを用意してくれた。

「さて飲み物もそろった事だし、そろそろはじめていいかな?」

 ワインの入ったグラスを持ち上げセヴランが三人を見渡す。
 三人は微笑みながらこくんと頷いた。

「それじゃ――今回の依頼の成功と思わぬ形で巡り合えた幸運(征竜の遺産)に、乾杯っ!」

「「「かんぱいっ!!」」」

 セヴランが掲げたグラスに、三人が合わせる。
 小さな店内にガラスが打ち合わされる甲高い音が響き渡った。

●

「それじゃ、まずはこれからご賞味いただこうかね」

 そう言ってジルが運んできたのは、実に涼し気なゼリー状の前菜だった。
 透明なゼリーの中に色とりどりの野菜が閉じ込められている。
「わわっ、とっても素敵っ!」
 その見た目にまず反応したのはアンネエルカだった。ワイングラスの中に盛られた前菜に目を輝かせている。
「ああ、綺麗だな。まるで宝石みたいだな」
「流石、ジルさん。こんなのよく片手で作れるよね。このサイコロ状の野菜とか、どうやって切ってるんだろう」
 と、アーシェルとクレアが何気に呟くと。
「ああ、それは【殺界】で切った」
 事もなげにジルが答えた。

「「「【殺界】!?」」」
 
「こう、野菜を上に放り投げるだろ。で、落ちてくる間に包丁を拾って【殺界】だ。丁度まな板の上に落ちる頃には、スパパッとね」
 驚く四人を前に、ジルは平然とやり方をジェスチャーで伝える。
「……いやはや、ジルさんの料理法で驚くことはないだろうと思ってたけど、流石に虚を突かれたね」
「すげぇな……やっぱりまだ冒険者でも十分やれるんじゃねぇのか」
 セヴランとアーシェルはその技に驚愕する。
 斬られた野菜のどれもが綺麗な正方形をしている。同クラスに就く者として見ても、その技の冴えは目を見張るものがあった。
「私だって槍なら負けないわ!」
 そんな二人がジルに釘付けになっているのが悔しかったのか、アンネエルカがフンスと腕を組む。
「いや、アンネ。確かにアンネの槍はすごいけど、これ料理だからね?」
「料理……槍で料理できないかしら」
「普通に包丁使おうね……?」
 考え込むアンネエルカにクレアは苦笑い。

「まぁ、そんな細かい事はどうだっていいさ。褒めるなら味を褒めて欲しいね」

 そういうと、ジルは驚く四人に背を向けると、再びカウンターに戻り次の料理の用意を始めた。
「そうだね。皆、いただこう」
 最初に料理に手を出したセヴランに倣い、三人もグラスの中身を匙で掬った。
「――わわっ! とっても不思議な触感……つるんと冷たいゼリーの中にシャキシャキの野菜があってとっても面白いわ……これ、ゼリーに味をつけてソースにしてるのねっ!」
 口に含んだ瞬間広がった触感と味にアンネエルカは驚く。
「ああ、見た目だけじゃなくて味も最高だな。なんだセヴラン、こんないい店知ってるならもっと早く紹介しろよな」
「はは、残念ながらこの店は僕の隠れ家だからね。いくら親友の君だからって、そう易々とは教えないさ」
「もうバレちゃったけどね」
 三人も他愛ない話をしながら、前菜に舌鼓を打った。

「気に入ってくれて嬉しいよ。それじゃ、次はこれだ」

 前菜をぺろりと完食した四人に、ジルが次の料理を運んでくる。
 次の料理は大皿。何やら揚げ物のようなものが大量に乗っていた。
「から揚げかい?」
 見た目はまさにから揚げ。こんがりときつね色に揚がったそれは、熱々の湯気を上げ実に食欲をそそる。
「ただのから揚げじゃないよ。まぁ、食べてみな」
 首を捻るセヴランに悪戯な笑みを浮かべつつ、ジルが取分け皿を用意する。
「何か付けるならどうぞ。ライムか塩が合うよ」
 そう言って、調味料も用意してくれた。
「どういう事かしら……? 普通のから揚げに見えるのだけれど」
 から揚げの大皿をいろんな角度から眺め見るアンネエルカ。
「中にチーズが入ってるとか!」
 好物とのマリアージュに期待するクレア。
「肉なら何でもいいし、こんなにいい匂いがしてんだ。ぜってぇうまいに決まってる!」
 お待ちかねの肉の登場に、テンションの上がるアーシェル。
「普通じゃないってなると、鶏肉じゃない? 何の肉なんだい?」
 一人料理の分析に入るセヴランは、また悪戯な笑みを浮かべているジルを見上げた。

「当てられたら、その大皿、サービスにしてあげるよ」

「ふむ……まぁ、ジルさんの料理なんだ、変なものは出ないって信じてるよ?」
 試す様に見上げるセヴランにジルは無言で笑顔。
「まずはそのままだよな!」
 そんな二人の横ではアーシェルが早速とフォークでから揚げを突き差し、大きな口へと放り込む。
「……アーシェルくん、大丈夫?」
 珍しく長い時間咀嚼するアーシェルに、クレアが恐る恐る問いかけた。

「……う、うまい!」

「なんだこれ、鳥? いやちょっと違うな、どういえばいいんだ?」
 興奮しつつ次々と口に放り込むアーシェルに触発され、三人もから揚げを口にする。
「あ、本当、美味しい。鶏肉よりさっぱりしてるわね。脂身が少なくて淡白だから……ささみかしら?」
「ささみ! それならボクも罪悪感なく食べられちゃうよ!」
 アーシェルの一口を皮切りに、三人もどんどん手を伸ばす。
 熱々のから揚げは、外はパリッと中はさっぱりジューシーな柔らかい。触感は鳥のささ身に似ているが、うま味が随分違う。
「鳥のようだけど……調理法に何か工夫があるのかい?」
「いや、普通の調理法だよ」
 相変わらずニヤニヤしているジルに、セヴランは降参とばかりに両手を上げた。
「降参だよ。これは何だい?」

「はは。それは大蛙(ジャイアントトード)の肉だよ」

 そんなジルの告白に、記憶にも新しいその見た目を脳裏に蘇らせた四人が、一斉に噴き出したのは仕方のない事だった――。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0