世界に一つだけの笑顔
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年06月06日 12時31分19秒
学術都市ヴェルクリエ。
昨日は馴染みのお宿に泊まって一夜を過ごした。美味しい夕食と清潔なベッド。ふかふかの肌触りは流石の寝心地だった。おかげで朝までぐっすり。それに部屋に漂っていたリンゴのような甘い香りは何の香だったのかな。今度会ったら聞いてみよう。
そんな事を考えながら精緻に彫られた手摺を伝い一階に降りる。
「おはようございますっ!」
カウンターの奥へ向け朝の挨拶を。
奥の工房で作業の音が止まると同時に、おはようと声が返ってきた。
そのまま、窓際へ。あの子が一番お気に入りだと言っていた席に座り、ガラス窓から街の様子を眺める。
長く降り続いていた雨も昨夜には止んだらしい。地面の石畳が少し濡れているけど、天気は快晴。雲一つ無い、抜けるような青空が広がっていた。
――コトンっ。
じっと外を眺めていたら、おじさんがティーポットとカップを用意してくれた。
ガラスでできたティーポットには茶葉と一緒にドライフラワーが浮かんでいる。
「おじさん、ありがとう」
用事だけ済ませてさっさと工房へと引き上げていくおじさんの背中に礼を言ってティーポットを持ち上げた。
すっかり色の出た茶の中にドライフラワーの花が咲く。
そんな様子を楽しみながらカップへと注ぎ、湯気に鼻を近づけた。
ふわりと香る花の香りは、部屋で嗅いだあの甘い香り。
「あれはカモミールの香りだったのか。流石、女子力高いなぁ、あの子」
ガラスのポットの中に揺れるカモミールの白い花びらを見ながら、クレア・エクレールはこの仕掛けの主の顔を思い浮かべた。
きっと、今度会った時に「どうだった?」とワクワクドキドキしながらふわふわの笑顔を向けてくるだろうな。
甘い香りの香茶を楽しみながら、もう一度窓の外を見る。
カップに口を付けつつ、ちらりと柱にかかっている古い時計を見た。
「もうすぐ時間だ」
今日はこの夢見の宿『ガーデニア』に、迎えが来る予定になっている。
準備は万端……どころか、ちょっと気合入れて見た。
――気付くかな? 気付かないかな?
見た目にはほとんどわからない変化。さてさて、気障なくせにちょっと抜けてるあの子はこの変化を見破れるかな?
まるで怪盗の気分。見破れるものなら見破ってみなさいと、予告状でも用意した方がよかったかなと、そんな事を考えていたら――。
――カラン。
ドアベルが軽やかに鳴った。
ドアをくぐり入ってきたのは長身黒髪の青年。トレードマークの軍服は、今日はお留守番らしい。
青年は店内をきょろきょろと見渡し、窓際にクレアを見つけると軽く手を上げ近づいてきた。
一方、クレアは気付かないふりをして窓の外をずっと眺めている。
「待たせたな」
声をかけ、当たり前のように目の前に座る青年に、思わず苦笑い。
「別に待ってないよ」
窓から視線を戻し青年を見る。
凛とした佇まい。髪さえ長ければ女性かと思わせるような容姿。左右色の違う瞳には、長い睫毛が生えそろい色気もむんむん。俺様な性格と少年のような心を持った大切な友人が、彼アーシェル・G・クライン。
「なんだよ、まじまじと見て」
そんな流麗な瞳が歪む。
「何でもないよ~。ささ、行こうよ。今日はたーっぷりと付き合ってもらうんだから」
「ああ、どこでも、何時まででも付き合うぜ」
「あー、言ったなぁ? 容赦しないからね?」
「男に二言はねぇよっ」
そう言ってウィンクする姿は本当に絵になるなと思ってしまう。
もちろんそんな事は顔にも言葉にも出さずに席を立つ。向かいの彼も合わせる様に席を立つと、まだ少し中身の残っていたポットとカップを取り上げた。
「あっ」
「うん? まだ飲む予定だったか?」
「……ううん、ありがと」
「どういたしまして」
このさりげなさ。一体どこで練習してきてるんだか。
カウンターへ食器を下げていく彼の背を見つめながら、そんな事を思い溜息をつく。
食器を戻した彼はそのまま玄関のドアへ。
ドアを半開きにして、ボクの到着を待っている。
「はぁ、ほんとに」
意識的にやってるのか、それとも無意識か。いや、無意識でやってたらそれこそ……。
うん、考えるのはよしておこう。
クレアはゆっくりと玄関に向かい、アーシェルの開けたドアをくぐって外に出た。
●
「さて、どこに行こうか」
「なんだよ、考えてなかったのか?」
「うーん、行きたい所は沢山あるんだけど……こう、改まって向かうとなると考えちゃうよね」
「そんなの気にすんなよ。普段通り買い物を楽しんでくれればいいんだ。俺の事はナンパ避けか荷物持ちと思ってくれていいからよ」
「……無自覚にそう言っちゃうところが、なんともだねぇ」
「うん? どういう意味だ?」
「何でもございませーん」
二人は露店を眺めながら通りを歩く。
学術都市というだけあって、この街に並べられる商品はどれも珍しいものばかりで興味をそそられる。
「わ、画材屋さんだって」
「画材? なんだ、絵でも描くのか? それとも染めものか?」
「流石に染め物はできないかなぁ」
「じゃ、絵か」
「そうだね。久しぶりに描いてみようかな。ちょっと寄っていい?」
「ああ、もちろん」
彼を連れて露店を覗いた。
基本の原色から見た事のない不思議な色まで、様々な絵の具が並ぶ。
「キミはどんな色が好き?」
「俺か? 俺は黒だな」
「もー……男の人ってそういう人多いよね」
「なんでだよ、黒はかっこいいじゃねぇか」
「真っ黒いキャンバス貰ってもつまらないでしょ?」
「真っ黒いキャンバスって……うん? 俺を描く気か?」
「あ……。ふふ、ひ・み・つ♪」
危ない危ない。
とりあえず、ちらちらと相手の顔を見上げながら、いくつかの絵具と筆を購入っと。
「次は、どうしよっか」
「どこでもいいぜ。クレアの好きな所で」
「そう? それじゃちょっと歩くけど付き合ってね」
そう言って買った画材を彼に預けて一歩先へ。
後ろからついてくる気配を感じながら、運河を渡り角を折れ隣の区へ。
「ここは服屋か」
「そそ、ボク一押しのお店」
辿り着いたのは馴染みのお店。
中に入ると知り合いの店員が笑顔と驚きと好奇で出迎えてくれた。
勘違いしないでよと釘を刺しつつ、夏服をいくつか見繕ってもらう。どれも涼し気な色を基調とした今年の流行りのお洋服たち。
「ねぇ、どれがいいと思う?」
と、入り口付近で「これもいいな」「いや、こっちか?」と女性ものの服を物色している彼に声をかける。まったく、誰を想像して選んでいるのやら。
「そうだな……やっぱりクレアには赤が似合う」
「夏なのに?」
「お前みたいなに情熱的な奴には、やっぱり赤だ。季節なんて関係ない」
「そ、そっか」
目が本気だからドキッとしてしまう。とりあえず、選んでくれた赤のワンピースを試着させてもらおう。
「覗いちゃダメだからね」
「の、覗かねぇよ!」
お約束のやり取りを交わしていざ試着。流石、お気に入りのお店だけあって生地の質感がボクの肌によく合う。ハフビでも着やすい様に背中が大胆に開いてるのもいいね。
「どうかな?」
着替え終わって彼の前で一回転。少し見上げるようにはにかんでみた。
「やっぱり思った通り似合ってるな。綺麗だぜ、クレア」
「っ! も、もう。真面目に評価してよね!」
あー、お顔が熱い熱い。まったく、あれを無自覚にやるんだから、厄介だよね。
そんな事より次次。今度は全く違う青のワンピースも試してみよう。
昨日は馴染みのお宿に泊まって一夜を過ごした。美味しい夕食と清潔なベッド。ふかふかの肌触りは流石の寝心地だった。おかげで朝までぐっすり。それに部屋に漂っていたリンゴのような甘い香りは何の香だったのかな。今度会ったら聞いてみよう。
そんな事を考えながら精緻に彫られた手摺を伝い一階に降りる。
「おはようございますっ!」
カウンターの奥へ向け朝の挨拶を。
奥の工房で作業の音が止まると同時に、おはようと声が返ってきた。
そのまま、窓際へ。あの子が一番お気に入りだと言っていた席に座り、ガラス窓から街の様子を眺める。
長く降り続いていた雨も昨夜には止んだらしい。地面の石畳が少し濡れているけど、天気は快晴。雲一つ無い、抜けるような青空が広がっていた。
――コトンっ。
じっと外を眺めていたら、おじさんがティーポットとカップを用意してくれた。
ガラスでできたティーポットには茶葉と一緒にドライフラワーが浮かんでいる。
「おじさん、ありがとう」
用事だけ済ませてさっさと工房へと引き上げていくおじさんの背中に礼を言ってティーポットを持ち上げた。
すっかり色の出た茶の中にドライフラワーの花が咲く。
そんな様子を楽しみながらカップへと注ぎ、湯気に鼻を近づけた。
ふわりと香る花の香りは、部屋で嗅いだあの甘い香り。
「あれはカモミールの香りだったのか。流石、女子力高いなぁ、あの子」
ガラスのポットの中に揺れるカモミールの白い花びらを見ながら、クレア・エクレールはこの仕掛けの主の顔を思い浮かべた。
きっと、今度会った時に「どうだった?」とワクワクドキドキしながらふわふわの笑顔を向けてくるだろうな。
甘い香りの香茶を楽しみながら、もう一度窓の外を見る。
カップに口を付けつつ、ちらりと柱にかかっている古い時計を見た。
「もうすぐ時間だ」
今日はこの夢見の宿『ガーデニア』に、迎えが来る予定になっている。
準備は万端……どころか、ちょっと気合入れて見た。
――気付くかな? 気付かないかな?
見た目にはほとんどわからない変化。さてさて、気障なくせにちょっと抜けてるあの子はこの変化を見破れるかな?
まるで怪盗の気分。見破れるものなら見破ってみなさいと、予告状でも用意した方がよかったかなと、そんな事を考えていたら――。
――カラン。
ドアベルが軽やかに鳴った。
ドアをくぐり入ってきたのは長身黒髪の青年。トレードマークの軍服は、今日はお留守番らしい。
青年は店内をきょろきょろと見渡し、窓際にクレアを見つけると軽く手を上げ近づいてきた。
一方、クレアは気付かないふりをして窓の外をずっと眺めている。
「待たせたな」
声をかけ、当たり前のように目の前に座る青年に、思わず苦笑い。
「別に待ってないよ」
窓から視線を戻し青年を見る。
凛とした佇まい。髪さえ長ければ女性かと思わせるような容姿。左右色の違う瞳には、長い睫毛が生えそろい色気もむんむん。俺様な性格と少年のような心を持った大切な友人が、彼アーシェル・G・クライン。
「なんだよ、まじまじと見て」
そんな流麗な瞳が歪む。
「何でもないよ~。ささ、行こうよ。今日はたーっぷりと付き合ってもらうんだから」
「ああ、どこでも、何時まででも付き合うぜ」
「あー、言ったなぁ? 容赦しないからね?」
「男に二言はねぇよっ」
そう言ってウィンクする姿は本当に絵になるなと思ってしまう。
もちろんそんな事は顔にも言葉にも出さずに席を立つ。向かいの彼も合わせる様に席を立つと、まだ少し中身の残っていたポットとカップを取り上げた。
「あっ」
「うん? まだ飲む予定だったか?」
「……ううん、ありがと」
「どういたしまして」
このさりげなさ。一体どこで練習してきてるんだか。
カウンターへ食器を下げていく彼の背を見つめながら、そんな事を思い溜息をつく。
食器を戻した彼はそのまま玄関のドアへ。
ドアを半開きにして、ボクの到着を待っている。
「はぁ、ほんとに」
意識的にやってるのか、それとも無意識か。いや、無意識でやってたらそれこそ……。
うん、考えるのはよしておこう。
クレアはゆっくりと玄関に向かい、アーシェルの開けたドアをくぐって外に出た。
●
「さて、どこに行こうか」
「なんだよ、考えてなかったのか?」
「うーん、行きたい所は沢山あるんだけど……こう、改まって向かうとなると考えちゃうよね」
「そんなの気にすんなよ。普段通り買い物を楽しんでくれればいいんだ。俺の事はナンパ避けか荷物持ちと思ってくれていいからよ」
「……無自覚にそう言っちゃうところが、なんともだねぇ」
「うん? どういう意味だ?」
「何でもございませーん」
二人は露店を眺めながら通りを歩く。
学術都市というだけあって、この街に並べられる商品はどれも珍しいものばかりで興味をそそられる。
「わ、画材屋さんだって」
「画材? なんだ、絵でも描くのか? それとも染めものか?」
「流石に染め物はできないかなぁ」
「じゃ、絵か」
「そうだね。久しぶりに描いてみようかな。ちょっと寄っていい?」
「ああ、もちろん」
彼を連れて露店を覗いた。
基本の原色から見た事のない不思議な色まで、様々な絵の具が並ぶ。
「キミはどんな色が好き?」
「俺か? 俺は黒だな」
「もー……男の人ってそういう人多いよね」
「なんでだよ、黒はかっこいいじゃねぇか」
「真っ黒いキャンバス貰ってもつまらないでしょ?」
「真っ黒いキャンバスって……うん? 俺を描く気か?」
「あ……。ふふ、ひ・み・つ♪」
危ない危ない。
とりあえず、ちらちらと相手の顔を見上げながら、いくつかの絵具と筆を購入っと。
「次は、どうしよっか」
「どこでもいいぜ。クレアの好きな所で」
「そう? それじゃちょっと歩くけど付き合ってね」
そう言って買った画材を彼に預けて一歩先へ。
後ろからついてくる気配を感じながら、運河を渡り角を折れ隣の区へ。
「ここは服屋か」
「そそ、ボク一押しのお店」
辿り着いたのは馴染みのお店。
中に入ると知り合いの店員が笑顔と驚きと好奇で出迎えてくれた。
勘違いしないでよと釘を刺しつつ、夏服をいくつか見繕ってもらう。どれも涼し気な色を基調とした今年の流行りのお洋服たち。
「ねぇ、どれがいいと思う?」
と、入り口付近で「これもいいな」「いや、こっちか?」と女性ものの服を物色している彼に声をかける。まったく、誰を想像して選んでいるのやら。
「そうだな……やっぱりクレアには赤が似合う」
「夏なのに?」
「お前みたいなに情熱的な奴には、やっぱり赤だ。季節なんて関係ない」
「そ、そっか」
目が本気だからドキッとしてしまう。とりあえず、選んでくれた赤のワンピースを試着させてもらおう。
「覗いちゃダメだからね」
「の、覗かねぇよ!」
お約束のやり取りを交わしていざ試着。流石、お気に入りのお店だけあって生地の質感がボクの肌によく合う。ハフビでも着やすい様に背中が大胆に開いてるのもいいね。
「どうかな?」
着替え終わって彼の前で一回転。少し見上げるようにはにかんでみた。
「やっぱり思った通り似合ってるな。綺麗だぜ、クレア」
「っ! も、もう。真面目に評価してよね!」
あー、お顔が熱い熱い。まったく、あれを無自覚にやるんだから、厄介だよね。
そんな事より次次。今度は全く違う青のワンピースも試してみよう。