征竜の遺産 ~輝きの片鱗~
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年05月15日 15時22分38秒
「確かに見たんだな?」
焚火に廃材を放り込みながら、アーシェル・G・クラインが問いかけた。
「ええ、見たわ。――こんな感じの模様が彫ってあったの」
問われたアンネエルカが地面に模様を書き込む。
「……確かに竜に見えなくもないね。でも、何故これが征竜だと思ったんだい?」
それは線で構成された簡単な模様。見方次第で竜に見えない事もないが、確信を持てる程でもない。セヴラン・クアルトがアンネエルカに問いかけた。
「前にアーシェルさんが教えてくれたでしょ。征竜の巫女さんの手の甲に彫られた紋章があったって」
「ああ、確かに言ったな。そうか、あれか。そう言われればそう見えるな。しっかし、よく覚えてたな」
「えへへ、記憶力にはちょっと自信があるのよ」
わしわしと頭を撫でてくるアーシェルに、アンネエルカははにかんだ。
「それじゃ、もう一度あの中を探さないといけないって事だよね」
そんな二人を眩しそうに見つめてから、クレア・エクレールは開いたままの隠し扉へ視線を移す。
「さっき見て来たけど、あのドロドロは引いてた。多分、重さを感知して作動する罠だと思う。アンネ、その紋章があったのは底の壁面なんだよね?」
「ええ、そうよ。丁度クレアの胸位の位置だったわ」
「へぇ、クレアの胸か」
「そう、ボクの胸……って、アーシェルくん、何処見てるんだよ!?」
「ち、ちがっ!? そういう意味じゃねぇ!?」
胸元を腕で隠しつつ、クレアはアーシェルに牙を剥く。
「ふふ、二人とも仲がいいのね。ちょっと妬けてしまうわ」
「僕から見れば、アンネさんとの仲もなかなかなものだと思うんだけどね」
「そうかしら?」
そんな二人のやり取りをほっこり見つめるアンネエルカとセヴラン。
「そうだとも――さて、皆方針を纏めようか」
と、アンネエルカに答えたセヴランは改めて三人に問いかけた。
「穴へ下るとしてやって行くんだい? 不用意に降りていけば、またあの罠が作動するかもしれない。それに、その紋章がどこかへ続く道だという確証もないんじゃないのかい?」
セヴランはあえて問題を提議し憎まれ役を買って出る。そして他の三人がそれに答えながら解決策を見出していく。それがこの四人のいつものパターンだった。
「まず、紋章をじっくり調べる。アンネも罠のせいでちゃんと調べられてないだろうし、そういうのはボクの役目だよ」
「そうだね。なら方法だ。あの粘液がまだ壁一面に付着している。【壁歩き】は多分使えないよ?」
「そんなもん簡単だ。俺とアンネが支えればいい」
「ええ、クレアには大変な役目を押し付けちゃうけど、絶対落としたりしないわ!」
再びの問題定義に、アーシェルとアンネエルカが答える。
「それにセヴランさんのララもいるしね」
そして、クレアがセヴランの肩で休む栗鼠のララに微笑みかけた。
「そうだね。ララに一緒に行ってもらおうか。ララの目を通して僕にも何か見つけられかもしれない」
三人の熱い決意にセヴランは嬉しそうに頷く。
「善は急げだ。崩した階段を掘り返してゴブリン達が戻ってきてはいけないからね」
「ああ、とっととお宝ゲットして地上へ戻ろうぜ!」
立ち上がった二人に続き、クレアとアンネエルカも立ち上がる。
「と、その前に。アンネ! 服乾いたと思うからちゃんと着てからね!」
「そうね。流石に寒くなってきたわ!」
「そうじゃなくて!」
どこかちぐはぐな会話を挟みつつ、二人は干してあった服の元へと駆けて行った。
●
「アンネ、壁に触れないようにゆっくり下ろしていくぞ」
「ええ、任せて! クレアは軽いから、私一人でも十分よ!」
クレアの身体に結ばれたロープをアンネエルカが支え、そのアンネエルカをアーシェルが支える。
粘液がどのようなデバフ効果があるかはっきりしない以上、接触は避けるべきだというセヴランの提案に沿い、アンネエルカとアーシェル二人がかりでクレアを慎重に穴の底へと下していく。
「クレアさん、臭いは大丈夫?」
アンネエルカの横で穴を覗き込むセヴランが声をかけると、クレアはぐっと親指を上げて答えた。
「よし、それじゃ僕もララと感覚共有するから、あとは任せたよ」
「ああ、クレアをサポートしてやってくれ」
「任された」
セヴランはアーシェルとこつんと拳をぶつけ合うとすっと目を閉じる。
意識が遠のき感覚が研ぎ澄まされる。
「クレアさん、繋がったよ。よろしくお願いするね」
瞼の裏に映るのはクレアと同じ視界。クレアの肩に乗るララの目を借りたセヴランが穴の下へ声をかけた。
「こちらこそ、よろしくララ」
答えたクレアは肩に乗るララの頭を指で撫でる。
そうしている内に、クレアの身体は床付近まで降りてきた。
「アンネ! ストップ! そのままちょっと維持してて!」
「わかったわ! クレアも気を付けてね!」
ピンと張るロープに頼もしさを感じつつ、クレアは壁に目を凝らす。壁は粘液で汚れていたが、紋章は案外すぐに見つかった。
「紋章があった。うん、確かにアンネさんが言った通りの紋章だね」
瞳を閉じたまま上の二人に報告するセヴラン。
「よかった、見間違いじゃなかったのね」
セヴランの言葉にアンネエルカはほっと胸をなでおろす。
一方、クレアは【探波】を使い、紋章の周りを入念に調べ始めた。
「……あった。隠し通路だ」
そして程なく、紋章の裏に奥へと続く隠し通路を見つける。
「開け方はわかりそうかい?」
視界を共有するセヴランが穴の上から声をかけた。
「ちょっと待って。多分、上の隠し扉と同じ仕組みだと思うんだけど……」
そう言いつつナイフを取り出したクレアは、不安定な体勢の中、器用に石壁の隙間にナイフを差し込んでいく。
「ララ、何でもいいから気付いたことがあったら教えてね」
肩に乗るララに声をかけながらも、クレアは何度も石壁を叩き、【探波】で中の構造を探る。上の隠し扉と同様、ナイフを差し込む起動スイッチがどこかにある、そう思いつつ作業を進めるが――。
「……おかしいな、全然ない」
クレアの声に焦りが滲む。
「アンネごめん! もうちょっとかかりそう!」
思いのほか時間がかかっている事に、クレアはロープを支えてくれるアンネエルカに向かって声をかけた。
「こっちは大丈夫よ! 伊達に鍛えていないんだから!」
返ってきたのは頼もしい返事に、クレアは気を取り直し石壁へと向かう。が……。
「どうしよう。ほんとに何もない……」
結局『鍵』らしきものは見当たらない。
「クレアさん、一度上がろう。アンネさんがいくら頼もしいからといっても、いつまでも支えられるわけじゃない」
焦るクレアに穴の上からセヴランが声をかけた。
「うん……わかった」
クレアは口惜しそうに答えセヴランの指示に従った。
●
「ごめん、みんな。見つけられなかった」
「何言ってんだ、お前のせいじゃねぇよ」
「そうよ! 隠し通路があるのを見つけてくれただけですごいんだから!」
意気消沈するクレアに、アーシェルとアンネエルカは励ましの声をかける。
「しかし、クレアさんでも見つけられないなんて……『鍵』は何処にあるんだろうね」
ララとのリンクを解いたセヴランが口元を手で押さえ考え込んだ。
「もしかして別の方法で空くのかもしれない。それこそ、征竜の巫女が触れないと開かないとか」
「それじゃ私達には開けられないって事?」
「わからないけど……」
行き詰った状況に、皆の声の調子も下がってくる。
「案外、この辺にあったりしねぇか?」
そんな重くなりかけた空気を吹き飛ばす様に、アーシェルが軽く笑いながらペタペタと石壁を触り始めた。
「ちょ、アーシェルくん!? そんな不用心に触ったら――」
――ガコっ。
「え?」
――ヒュン!
「……あ、あぶねぇ」
飛び出した槍がアーシェルの鼻先を掠め、反対側の石壁に突き刺さった。
「大丈夫!? 怪我はな……さそうだね。よかった。――もう、勝手に触ったら危ないでしょ! この遺跡はまだ生きてるんだから。ちょっと【探波】使うから下がっ――」
あまりに不用心なアーシェルを注意しつつ、クレアが再び【探波】を使った瞬間、天井を見上げ動きを止めた。
「クレア、どうしたの?」
じっと天井を見つめるクレアに、アンネエルカが声をかける。
「……あった」
「え?」
「スイッチ。あそこ」
と、指さしたのは穴の上、天井部分だった。
アンネエルカは、クレアの指を追い天井を見つめるが暗くてよく見えない。
「照らしてみよう」
そう言うとセヴランが照明用紋具の光を絞り、天井に照射した。
「……うーん、少し窪みがあるアレ?」
「そう、あれ。あそこにナイフを差し込めば、下の隠し扉が開くと思う」
アンネエルカの問いかけにクレアが頷く。
「なんであんな所にスイッチがあるんだ? 普通に届かねぇじゃねぇか。この遺跡作ったやつはジャイアントか何かか?」
「うん、なんでだろうね。でも、あんなとこにあれば、クレアさんも気付かなくて当然だ」
「ごめん……」
「責めてるわけじゃないよ。いや、責めているね。この遺跡を作った設計者を」
しゅんと耳を垂れるクレアにセヴランはにこりと微笑む。
「そうよ! そんな意地悪な設計者さんの残した謎を見つけたクレアは、とってもすごいと思うわ!」
同じくアンネエルカがぐっと拳を握ってクレアの功績をたたえた。
「しかしどうするかだね。天井までちょっと距離あるし、壁はぬるぬるだ」
いつもなら【壁歩き】を使えば簡単にたどり着ける位置だが、今はそうもいかない。セヴランが「長い棒でも使って――」と呟いていると。
「よし、じゃ、とっとと開けちまおうぜ!」
「――ひあっ!?」
突然身体を持ち上げられたクレアの口から変な声が出た。
「ちょ、ちょっとアーシェルくん!?」
「こうしたら届くだろ。ほら開けてくれよ、クレア」
「う、動かないでって! ひぁ!?」
突然アーシェルに肩車されたクレアは、いきなりの事にどうしていいのかわからず身をよじる。
「アーシェル……いきなりそれはどうかと思うんだよ」
「ええ、いきなりだとびっくりするわ。ちゃんと一声かけてからじゃないと」
「うん、そうか? 聖霊節の時もやったし、平気だろ? あ、高いとこ怖かったか?」
「あのね、アーシェル。そうじゃないんだ……君のその純粋さは愛すべき長所だけど、そうじゃないんだよ、アーシェル」
「ちょっとぉぉ!!」
眼下で繰り広げられる問答に、クレアが大きな声を上げた。
「もういいから! このまま開錠するから! あんまり動かないでよ! アーシェルくん!」
「お、おう……なんで怒ってんだ?」
「怒ってない!」
ぷんとそっぽを向かれた気配を感じ、アーシェルは隣の二人に助けを求めるが、セヴランとアンネエルカはそれぞれ呆れるように肩を竦めていた。
●
クレアの読みは見事に当たり、天井にあったスイッチを起動すると紋章の隠し通路が鈍い音を立てて開いた。四人はロープで底へと降り、横穴へ入っていく。
「明るいな。なんだこれ」
「こういう壁、以前依頼で見た事あるよ。壁自体が光ってるんだ」
「しかも、僕達が歩いている所だけ明るくなっているね」
「不思議ね。でもとっても幻想的だわ!」
四人は隊列を組み慎重に奥を目指して歩いていく。そして――。
「出口だ」
先頭のアーシェルが呟いた。
「……大丈夫、罠とかはなさそう」
すぐ後ろのクレアが【探波】を放ち安全を確認する。
「出るぞ」
短くそう言ったアーシェルに続き、三人も通路を抜けた。
「地底湖……?」
アンネエルカが呟くように声を上げた。
それはまさに地底湖だった。巨大な空洞、そして湛えられた地下水。
「ここも明るいね、僕達が踏み入ったからかな」
「一体どんな仕掛けなのか全然わかんないね」
セヴランとクレアも辺りを伺う。
「階段があるな。下へ降りられそうだぞ」
と、アーシェルが前方には明らかな人工物である階段を発見した。
「下か……もしかしたらとんでもない困難が待っているかもしれない。だから、一応聞いておくけど、引き返す気は――」
「「ない(わ)!!」」
「だよね」
即答の前衛二人にセヴランは苦笑しつつ、再びクレアに向き直る。
「クレアさん、また負担をかけるけど、偵察お願いするよ。もちろん、ララも手伝うからさ」
「ララが居てくれるなら百人力! それじゃ、行ってくるね」
セヴランから飛び移ってきたララに頬ずりしたクレアは階段へと向かった。
焚火に廃材を放り込みながら、アーシェル・G・クラインが問いかけた。
「ええ、見たわ。――こんな感じの模様が彫ってあったの」
問われたアンネエルカが地面に模様を書き込む。
「……確かに竜に見えなくもないね。でも、何故これが征竜だと思ったんだい?」
それは線で構成された簡単な模様。見方次第で竜に見えない事もないが、確信を持てる程でもない。セヴラン・クアルトがアンネエルカに問いかけた。
「前にアーシェルさんが教えてくれたでしょ。征竜の巫女さんの手の甲に彫られた紋章があったって」
「ああ、確かに言ったな。そうか、あれか。そう言われればそう見えるな。しっかし、よく覚えてたな」
「えへへ、記憶力にはちょっと自信があるのよ」
わしわしと頭を撫でてくるアーシェルに、アンネエルカははにかんだ。
「それじゃ、もう一度あの中を探さないといけないって事だよね」
そんな二人を眩しそうに見つめてから、クレア・エクレールは開いたままの隠し扉へ視線を移す。
「さっき見て来たけど、あのドロドロは引いてた。多分、重さを感知して作動する罠だと思う。アンネ、その紋章があったのは底の壁面なんだよね?」
「ええ、そうよ。丁度クレアの胸位の位置だったわ」
「へぇ、クレアの胸か」
「そう、ボクの胸……って、アーシェルくん、何処見てるんだよ!?」
「ち、ちがっ!? そういう意味じゃねぇ!?」
胸元を腕で隠しつつ、クレアはアーシェルに牙を剥く。
「ふふ、二人とも仲がいいのね。ちょっと妬けてしまうわ」
「僕から見れば、アンネさんとの仲もなかなかなものだと思うんだけどね」
「そうかしら?」
そんな二人のやり取りをほっこり見つめるアンネエルカとセヴラン。
「そうだとも――さて、皆方針を纏めようか」
と、アンネエルカに答えたセヴランは改めて三人に問いかけた。
「穴へ下るとしてやって行くんだい? 不用意に降りていけば、またあの罠が作動するかもしれない。それに、その紋章がどこかへ続く道だという確証もないんじゃないのかい?」
セヴランはあえて問題を提議し憎まれ役を買って出る。そして他の三人がそれに答えながら解決策を見出していく。それがこの四人のいつものパターンだった。
「まず、紋章をじっくり調べる。アンネも罠のせいでちゃんと調べられてないだろうし、そういうのはボクの役目だよ」
「そうだね。なら方法だ。あの粘液がまだ壁一面に付着している。【壁歩き】は多分使えないよ?」
「そんなもん簡単だ。俺とアンネが支えればいい」
「ええ、クレアには大変な役目を押し付けちゃうけど、絶対落としたりしないわ!」
再びの問題定義に、アーシェルとアンネエルカが答える。
「それにセヴランさんのララもいるしね」
そして、クレアがセヴランの肩で休む栗鼠のララに微笑みかけた。
「そうだね。ララに一緒に行ってもらおうか。ララの目を通して僕にも何か見つけられかもしれない」
三人の熱い決意にセヴランは嬉しそうに頷く。
「善は急げだ。崩した階段を掘り返してゴブリン達が戻ってきてはいけないからね」
「ああ、とっととお宝ゲットして地上へ戻ろうぜ!」
立ち上がった二人に続き、クレアとアンネエルカも立ち上がる。
「と、その前に。アンネ! 服乾いたと思うからちゃんと着てからね!」
「そうね。流石に寒くなってきたわ!」
「そうじゃなくて!」
どこかちぐはぐな会話を挟みつつ、二人は干してあった服の元へと駆けて行った。
●
「アンネ、壁に触れないようにゆっくり下ろしていくぞ」
「ええ、任せて! クレアは軽いから、私一人でも十分よ!」
クレアの身体に結ばれたロープをアンネエルカが支え、そのアンネエルカをアーシェルが支える。
粘液がどのようなデバフ効果があるかはっきりしない以上、接触は避けるべきだというセヴランの提案に沿い、アンネエルカとアーシェル二人がかりでクレアを慎重に穴の底へと下していく。
「クレアさん、臭いは大丈夫?」
アンネエルカの横で穴を覗き込むセヴランが声をかけると、クレアはぐっと親指を上げて答えた。
「よし、それじゃ僕もララと感覚共有するから、あとは任せたよ」
「ああ、クレアをサポートしてやってくれ」
「任された」
セヴランはアーシェルとこつんと拳をぶつけ合うとすっと目を閉じる。
意識が遠のき感覚が研ぎ澄まされる。
「クレアさん、繋がったよ。よろしくお願いするね」
瞼の裏に映るのはクレアと同じ視界。クレアの肩に乗るララの目を借りたセヴランが穴の下へ声をかけた。
「こちらこそ、よろしくララ」
答えたクレアは肩に乗るララの頭を指で撫でる。
そうしている内に、クレアの身体は床付近まで降りてきた。
「アンネ! ストップ! そのままちょっと維持してて!」
「わかったわ! クレアも気を付けてね!」
ピンと張るロープに頼もしさを感じつつ、クレアは壁に目を凝らす。壁は粘液で汚れていたが、紋章は案外すぐに見つかった。
「紋章があった。うん、確かにアンネさんが言った通りの紋章だね」
瞳を閉じたまま上の二人に報告するセヴラン。
「よかった、見間違いじゃなかったのね」
セヴランの言葉にアンネエルカはほっと胸をなでおろす。
一方、クレアは【探波】を使い、紋章の周りを入念に調べ始めた。
「……あった。隠し通路だ」
そして程なく、紋章の裏に奥へと続く隠し通路を見つける。
「開け方はわかりそうかい?」
視界を共有するセヴランが穴の上から声をかけた。
「ちょっと待って。多分、上の隠し扉と同じ仕組みだと思うんだけど……」
そう言いつつナイフを取り出したクレアは、不安定な体勢の中、器用に石壁の隙間にナイフを差し込んでいく。
「ララ、何でもいいから気付いたことがあったら教えてね」
肩に乗るララに声をかけながらも、クレアは何度も石壁を叩き、【探波】で中の構造を探る。上の隠し扉と同様、ナイフを差し込む起動スイッチがどこかにある、そう思いつつ作業を進めるが――。
「……おかしいな、全然ない」
クレアの声に焦りが滲む。
「アンネごめん! もうちょっとかかりそう!」
思いのほか時間がかかっている事に、クレアはロープを支えてくれるアンネエルカに向かって声をかけた。
「こっちは大丈夫よ! 伊達に鍛えていないんだから!」
返ってきたのは頼もしい返事に、クレアは気を取り直し石壁へと向かう。が……。
「どうしよう。ほんとに何もない……」
結局『鍵』らしきものは見当たらない。
「クレアさん、一度上がろう。アンネさんがいくら頼もしいからといっても、いつまでも支えられるわけじゃない」
焦るクレアに穴の上からセヴランが声をかけた。
「うん……わかった」
クレアは口惜しそうに答えセヴランの指示に従った。
●
「ごめん、みんな。見つけられなかった」
「何言ってんだ、お前のせいじゃねぇよ」
「そうよ! 隠し通路があるのを見つけてくれただけですごいんだから!」
意気消沈するクレアに、アーシェルとアンネエルカは励ましの声をかける。
「しかし、クレアさんでも見つけられないなんて……『鍵』は何処にあるんだろうね」
ララとのリンクを解いたセヴランが口元を手で押さえ考え込んだ。
「もしかして別の方法で空くのかもしれない。それこそ、征竜の巫女が触れないと開かないとか」
「それじゃ私達には開けられないって事?」
「わからないけど……」
行き詰った状況に、皆の声の調子も下がってくる。
「案外、この辺にあったりしねぇか?」
そんな重くなりかけた空気を吹き飛ばす様に、アーシェルが軽く笑いながらペタペタと石壁を触り始めた。
「ちょ、アーシェルくん!? そんな不用心に触ったら――」
――ガコっ。
「え?」
――ヒュン!
「……あ、あぶねぇ」
飛び出した槍がアーシェルの鼻先を掠め、反対側の石壁に突き刺さった。
「大丈夫!? 怪我はな……さそうだね。よかった。――もう、勝手に触ったら危ないでしょ! この遺跡はまだ生きてるんだから。ちょっと【探波】使うから下がっ――」
あまりに不用心なアーシェルを注意しつつ、クレアが再び【探波】を使った瞬間、天井を見上げ動きを止めた。
「クレア、どうしたの?」
じっと天井を見つめるクレアに、アンネエルカが声をかける。
「……あった」
「え?」
「スイッチ。あそこ」
と、指さしたのは穴の上、天井部分だった。
アンネエルカは、クレアの指を追い天井を見つめるが暗くてよく見えない。
「照らしてみよう」
そう言うとセヴランが照明用紋具の光を絞り、天井に照射した。
「……うーん、少し窪みがあるアレ?」
「そう、あれ。あそこにナイフを差し込めば、下の隠し扉が開くと思う」
アンネエルカの問いかけにクレアが頷く。
「なんであんな所にスイッチがあるんだ? 普通に届かねぇじゃねぇか。この遺跡作ったやつはジャイアントか何かか?」
「うん、なんでだろうね。でも、あんなとこにあれば、クレアさんも気付かなくて当然だ」
「ごめん……」
「責めてるわけじゃないよ。いや、責めているね。この遺跡を作った設計者を」
しゅんと耳を垂れるクレアにセヴランはにこりと微笑む。
「そうよ! そんな意地悪な設計者さんの残した謎を見つけたクレアは、とってもすごいと思うわ!」
同じくアンネエルカがぐっと拳を握ってクレアの功績をたたえた。
「しかしどうするかだね。天井までちょっと距離あるし、壁はぬるぬるだ」
いつもなら【壁歩き】を使えば簡単にたどり着ける位置だが、今はそうもいかない。セヴランが「長い棒でも使って――」と呟いていると。
「よし、じゃ、とっとと開けちまおうぜ!」
「――ひあっ!?」
突然身体を持ち上げられたクレアの口から変な声が出た。
「ちょ、ちょっとアーシェルくん!?」
「こうしたら届くだろ。ほら開けてくれよ、クレア」
「う、動かないでって! ひぁ!?」
突然アーシェルに肩車されたクレアは、いきなりの事にどうしていいのかわからず身をよじる。
「アーシェル……いきなりそれはどうかと思うんだよ」
「ええ、いきなりだとびっくりするわ。ちゃんと一声かけてからじゃないと」
「うん、そうか? 聖霊節の時もやったし、平気だろ? あ、高いとこ怖かったか?」
「あのね、アーシェル。そうじゃないんだ……君のその純粋さは愛すべき長所だけど、そうじゃないんだよ、アーシェル」
「ちょっとぉぉ!!」
眼下で繰り広げられる問答に、クレアが大きな声を上げた。
「もういいから! このまま開錠するから! あんまり動かないでよ! アーシェルくん!」
「お、おう……なんで怒ってんだ?」
「怒ってない!」
ぷんとそっぽを向かれた気配を感じ、アーシェルは隣の二人に助けを求めるが、セヴランとアンネエルカはそれぞれ呆れるように肩を竦めていた。
●
クレアの読みは見事に当たり、天井にあったスイッチを起動すると紋章の隠し通路が鈍い音を立てて開いた。四人はロープで底へと降り、横穴へ入っていく。
「明るいな。なんだこれ」
「こういう壁、以前依頼で見た事あるよ。壁自体が光ってるんだ」
「しかも、僕達が歩いている所だけ明るくなっているね」
「不思議ね。でもとっても幻想的だわ!」
四人は隊列を組み慎重に奥を目指して歩いていく。そして――。
「出口だ」
先頭のアーシェルが呟いた。
「……大丈夫、罠とかはなさそう」
すぐ後ろのクレアが【探波】を放ち安全を確認する。
「出るぞ」
短くそう言ったアーシェルに続き、三人も通路を抜けた。
「地底湖……?」
アンネエルカが呟くように声を上げた。
それはまさに地底湖だった。巨大な空洞、そして湛えられた地下水。
「ここも明るいね、僕達が踏み入ったからかな」
「一体どんな仕掛けなのか全然わかんないね」
セヴランとクレアも辺りを伺う。
「階段があるな。下へ降りられそうだぞ」
と、アーシェルが前方には明らかな人工物である階段を発見した。
「下か……もしかしたらとんでもない困難が待っているかもしれない。だから、一応聞いておくけど、引き返す気は――」
「「ない(わ)!!」」
「だよね」
即答の前衛二人にセヴランは苦笑しつつ、再びクレアに向き直る。
「クレアさん、また負担をかけるけど、偵察お願いするよ。もちろん、ララも手伝うからさ」
「ララが居てくれるなら百人力! それじゃ、行ってくるね」
セヴランから飛び移ってきたララに頬ずりしたクレアは階段へと向かった。