続・征竜の遺産

キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年03月07日 19時18分54秒


「一旦、このフロアを封鎖しよう」
 セヴラン・クアルトが仲間を見渡しそう言った。

 遺跡の罠にかかってしまったアンネエルカを救出した一行は、今だ同じフロアに留まり続けていた。
 上層階へと誘いだしたゴブリンが戻ってくるかもしれない。セヴランはアンネエルカの容態だけではなく、救出に向かったクレア・エクレールの体調も鑑みてそう発言したのだ。

「とにかく、今はこのフロアにゴブリン達が戻ってくることを阻止したい」
 そう言ってアーシェル・G・クラインの腕の中にあるアンネエルカを見下ろしたセヴランに、彼女は心配をかけまいと力なく微笑んだ。
「そんな事よりこいつが先だ。このままにはしておけねぇ。それにクレアだって随分と辛そうなんだぞ」
 アーシェルは腕の中のアンネエルカ、そして、床に座り込んで息を整えているクレアに目を移す。
「その為にもこのフロアを封鎖したいんだ」
「まだ言うのか!」
「落ち着いてくれ、アーシェル」
 語気を強めるアーシェルに、セヴランは殊更静かな声で語り掛けた。
「この遺跡は、昔の住民が住居としても使っていた様なんだ」
「いきなりなんの話だ。そんな事より二人を――」
「住居には欠かせないものがあるだろう?」
 アーシェルの抗議の声を遮るとセヴランは微笑んだ。
「水だよ。この遺跡には多分、水道が走っている」
「水道だと……? そんなもんがここにあるっていうのか?」
「仕組みはわからないけどね。だからゴブリン達も住み着いたんだろう」
 そう言うとセヴランはアンネエルカに話しかける。
「アンネさん。もう少し我慢しててもらえるかな。すぐに水を見つけて、君の可憐な笑顔を取り戻して見せるから」
 セヴランの言葉に弱々しい笑顔で答えたアンネエルカ。
「アーシェル。アンネさんをどこか休めそうな所へ」
「ちっ、わかったよ」
 アーシェルはセヴランの言う通り、アンネエルカを下ろせそうな場所を探す。そして、古い石の台を見つけると埃を払い彼女を寝かせた。
「アンネ、すぐにこのきたねぇのを洗い流してやるからな。だから、少しだけ待って――」
 アーシェルがアンネエルカの元から離れようとした時、不意に袖を引かれる。
「アンネ?」
「……え? あ、あれ? 私、なにを、してるのかし、ら……」
 ぼぉとする思考の中、アンネエルカは無意識にアーシェルの袖を掴んでいた。
「心配するな、少し離れるだけだ。遠くへ行ったりなんかしねぇよ」
「……うん」
 すっと耳元へ顔を寄せて囁きかけるアーシェルに、アンネエルカは小さく頷く。
「辛いだろうが少しだけ待っててくれよ、お姫様」
 アンネエルカの耳元でそう囁くと、アーシェルは顔を離した。

「クレアさん、鼻は利くかい?」
「うん、大丈夫」
 セヴランに声をかけられ、クレアが弱々しくも気丈に答える。
「臭気にやられている所申し訳ない。でも、君の力が必要なんだ」
「大丈夫だって言ったよ。自分の仕事が出来ない程、やられてなんかないから」
 そう言ってクレアは立ち上がろうとするが、すぐに膝の力が抜け倒れそうになる。
「おっと。大丈夫かい」
「はは……ごめん、ちょっと躓いちゃった」
 セヴランに体を支えられながら、舌を出し苦笑いするクレア。
「いつもありがとう。君のその仲間を思う気持ちにいつも助けられている」
「な、何、いきなり……」
「素直な気持ちさ」
「それ、今言う場面じゃないよね?」
「僕らしいだろ?」
「はぁ……ほんと、セヴランさんらしいね」
 にっこりと微笑んだセヴランに、クレアは溜息をつくと、借りていた肩から手を離した。
「支えなくても大丈夫かい?」
「うん、おかげで少し元気出たから。ありがとね、セヴランさん」
「どういたしまして、お嬢様」
 少し元気の戻ってきた笑顔で微笑んだクレアに、セヴランは恭しく頭を垂れた。

●
「さて、崩すか」
「そうだね。階段右側の壁が崩れかけているから、そこを使おう」
 ゴブリンの攪乱から戻ってきていたララを肩に乗せたセヴランが、アーシェルに答えた。
「よし、やるぞ」
「できるだけ音は立てないように頼むよ。ゴブリン達が戻ってきたら厄介だ」
「それは保証できねぇが、やるだけやってみるさ」
 そう言うとアーシェルは自慢の大太刀を抱え、階段を上っていく。崩れかけた壁は丁度階段の中間地点にあり、表面の石レンガが崩れ奥の土が露出していた。
「帰れなくなったらそれこそ大事(おおごと)だしな。復旧が出来る程度に――」
 アーシェルは壁を前に太刀を構えると、刀身にエーテルを満たしていく。

 その頃、クレアは水道を探しフロアを探索していた――。
「……どこかから水の匂いはするのに……ダメだ、この泥のせいで」
 アンネエルカを助ける時に服についてた汚泥を見下ろし、クレアは顔をしかめる。
「いっそ脱いで――だ、だめだめ! あの二人がいるんだから!」
 危うく口に仕掛けた言葉を掻き消す様にぶんぶんと首を振った。
「あ、やば。ちょっと意識飛びそうになった」
 万全でない体調を忘れて頭を振ったものだから、軽く意識が飛びそうになる。
「アンネが待ってるんだから、早く見つけなきゃ――」
 パンパンと頬を両手で叩いて、クレアは再び水道の場所を探し始めた。

 そして、アンネエルカはというと――。
 アーシェルに抱きかかえられていた感触を思い出し、ドキドキと高鳴る心臓の音を聴いていた。
(アーシェルさんの腕……太かったわ)
 天井に向け伸ばした自分の細い腕を見つめる。
(細い……)
 対してアーシェルの腕は決して剛腕という訳でもないのに、しっかりと筋肉の付いた男の人の腕だった。
(これは嫉妬……? それとも、憧れ?)
 アーシェルの逞しい肉体を思い、アンネエルカは一人もの思いにふける。
(私、何を考えてるのかしら……)
 今がそんな状況でないことくらいわかる。アンネエルカは「はぁ……」と深いため息をつき、心を落ち着かせるため瞳を閉じた。

●
「あった、この奥に水音がする」
 不自然に突き出た突起が天井付近に並ぶ部屋で、クレアはようやくそれを見つけた。
 獣を模した水口。その下には水受けの壺が置かれている。
「また何かすれば水が出る仕組みかな」
 この遺跡の事だ、何か仕掛けがあるのだろうと【探波】を使って彫刻の辺りを探る。
 そうしてしばらく探していると、獣の頭の上に明らかに人為的な窪みを見つけた。
「この形って……」
 と、クレアは窪みにナイフを宛がう。
「やっぱり。この遺跡、ナイフがキーになってること多くない? 昔の住民は常にナイフ持ってたの?」
 首をかしげながらも、クレアはナイフを窪みに差し込んだ。
「……あれ、出ない」
 しかし、水口からは何も出てくる気配がない。
「おっかしいなぁ」
 そう言って、クレアが水口を覗き込んだ、その時。

――ザバァァ!

「うわっ!」
 水は獣の口からではなく、天井付近の突起から勢いよく流れ出てくる。
 クレアはその水をもろにかぶり、びしょ濡れになってしまった。
「もぉ、なんでそっちから出てくるの! ……あ、でもこの水綺麗だ」
 びしょ濡れになった服を見下ろし臭いを嗅いでみるが、異臭はしない。
「よかった、これで綺麗に洗い流せそう。早くアンネを連れてこなきゃ」
 濡れた服など気にもせず、クレアは急いでアンネエルカの元へ駆け戻っていった。

●
「封鎖はできた。後はクレアさんが水を見つけてくれれば」
 セヴランとアーシェルはフロアの封鎖を完了し、アンネエルカの元へと戻っていた。
「あいつ一人に任せて大丈夫だったのか?」
「心配ないさ。友達の為に動く時の彼女の腕は、僕達が一番よく知っているじゃないか」
 ちらちらと遺跡の奥に視線をやるアーシェルに、セヴランが微笑む。
「そうだけどよ……もし敵が出たらどうするんだ」
 と、アーシェルが小さく答えた。

「アンネ!」

 そんなアーシェルの心配を吹き飛ばすかのように、クレアが部屋へと駆けこんでくる。
「クレア、よかった無事だったか……ってお前、なんてかっこしてんだ!」
 戻ってきたクレアに駆け寄ったアーシェルは思わず手で目を覆う。
「えっ、かっこ?」
 と、クレアは改めて自分の身体を見下ろした。
 先ほど頭から水をかぶり全身びしょ濡れ、しかもそのまま駆けてきたものだから、服がぴっちりと体に張り付いて――。
「う、うわっ! 見るな、この変態!!」
「うおっ! ちょっ、待て、落ち着け! 石を投げるな!」
 クレアは片手で体を隠しつつ屈むと、その辺にあった石片をアーシェルに投げつける。
「まぁまぁ、彼もわざとじゃないんだ。大目に見てあげて欲しいな」
 威嚇する様に牙を剝いていたクレアに、セヴランがそっとマントをかけた。
「君が濡れ花だという事は、水道を見つけてくれたんだね」
「あ、ありがと。そう、奥の部屋に仕掛けがあったよ」
 差し出されたセヴランの手を取り立ち上がったクレアが頷く。
「案内してくれるかい?」
「こっちだよ。あ、アンネは――」
「任せとけって。すぐに連れてくる」
 と、アンネエルカの方を見た時には、すでにアーシェルが傍まで駆け寄っていた。

●
「いい! ぜぇぇぇったい覗いちゃダメだからねっ!」
 水道のある部屋の壁は幸か不幸か随分崩れており、目隠しになる程の高さがない。
 クレアは男二人にきつく言い聞かせ、アンネエルカと共に流れ出る水の下へとやって来た。
「アンネ、待たせてごめんね。もう大丈夫だから」
 そう言ってアンネエルカの服に手を掛けたクレアが、スルスルと脱がせていく。
「ありがとう、クレア……。やっぱり、私のお友達は頼りになるわ」
 弱々しくも笑顔を見せるアンネエルカはされるがまま裸になった。
「服も一緒に洗っちゃうからね」
 と、クレアは脱がせた服を水の溜まった壺に放り込み、水を浴びるアンネエルカを見る。
「アンネ、尻尾あったんだね」
「え? ええ、あるわ。小さいからいつも隠れているけどちゃんとあるのよ?」
「アンネらしい、可愛い尻尾だね」
「そ、そうかしら。あまり尻尾を褒められたことは無いのだけれど」
 にこりと微笑むクレアに、アンネエルカは戸惑いつつも笑顔になった。
 その間にも流れ落ちてくる水は、アンネエルカの身体を綺麗に洗い流し、本人も随分と元気を取り戻してくる。
 そして、すっかり綺麗になったアンネエルカとクレアは――。
「とりあえず乾くまで、セヴランさんに借りた毛布で体を隠して――」
「アーシェルさん達にも浴びてもらわないと。私呼んでくるわね!」
「って、アンネ!? ちょ、ちょっと待って。そんな恰好で走り回っちゃ――」
 と、クレアが慌てて声をかけるも、アンネエルカはさっさと部屋を出てしまい――。

「うお! アンネ、なんて格好で走り回ってんだ!! 服着ろ服!!」
「今洗ってるわ?」
「アンネさん、そのままだと色々と目の毒だからもう少しちゃんと体に巻こうか」

 廊下からそんな声が聞こえてきた。
「もう、あの子ってば、警戒心なさすぎ!!」
 その後、クレアが廊下まで出てアンネエルカを回収すると共に、男二人に今見た事を忘れるよう、きつく言い渡したのだった。

●
「あー、さっぱりした」
「お帰り、アーシェル」
 濡れた頭をタオルで拭きながら戻ってきたアーシェルに、セヴランが声をかけた。
「上着もついでに洗ってきた。俺のも干してもらえるか?」
「お安い御用さ」
 セヴランはアーシェルから上着を受け取って焚火の傍にかける。
「ったく、えらい目に遭ったな。アンネ、クレア。二人とも大丈夫か?」
 と、アーシェルが女子二人に声をかけるも反応がない。
「クレア? アンネ?」
「えっ!? なに? 呼んだ?」
 慌てて答えるクレア。二人はアーシェルの引き締まった体に見惚れていた。
「アーシェルさんはやっぱり男の人なのね」
「な、なんだ。あんまり見んな」
 流石に二人の視線が気になるのか、アーシェルは背中を向けて焚火にあたるが。
「背中も、これはこれで」
「男の人ってそういう風に筋肉がつくのね」
 結局、それはそれで熱い視線が注がれる事になる。
「はは、アーシェル。因果応報だね」
「それ使い方あってるのかよ……」
 気恥ずかしそうに言うアーシェルに微笑みかけたセヴランは、改めて皆を見渡す。
「さて、なんとか一心地付けたね。それじゃ、この後どうするか、みんなで決めようか」
 それはアンネエルカが見つけた征竜の遺産への道を行くのか、それとも封鎖を破り帰還するのかの二択を三人に求めたものだった――。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0