別れの宴
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年02月10日 22時25分48秒
「さてこんなものか」
ハタキを片付け、改めて店内を見渡す。
最初に来た時は廃屋同然に荒れ果てていたが、努力の甲斐あって今では露天程度には小綺麗になった。
「なんで俺が努力してるんだろうね」
自らの行為に苦笑しつつ、ヨル・スレイマンは棚の上に手を伸ばす。
姉妹が怖がるのと、掃除に邪魔なので、いつもの骨面は棚の上に置いてあった。
いつもここに置いていたから、商品と勘違いした姉妹に危うく売られそうになったが。
「買う方も買う方だと思うけどね」
そんないわく付きの骨面をかぶり店の奥へ。
「どうだい、終わったかい?」
主人の部屋をせっせと掃除していた姉妹に声をかける。
姉妹はヨルの声を聴くと、たたっと駆け寄ってきた。
「うん、綺麗になったね。随分上達したじゃないか」
ヨルの褒め言葉に、姉妹は嬉しそうに目を輝かせる。この二人に掃除のイロハを教えたのは自分なので、二人の成長は素直に鼻が高い。
「さて、そろそろ彼が帰ってくるかな。悪いけど、店の看板を下げてきてくれるかい?」
ヨルは姉妹の頭を撫でてやると、店の入り口を指さしそう告げた。二人は嬉しそうに頷くとドアへと駆けていく。
「今帰った――うおっ! なんだお前等、そんな所に突っ立ってたらあぶねぇだろう!?」
「おや、帰ってきたようだね」
タイミング悪く姉妹とかち合ったようだが、店主の声からして大事には至らなかったようだ。
「お帰り店長。目的の品は手に入れられたかい?」
ヨルはきっと大荷物を抱えているだろう店主を迎えに、応接室を後にした。
●
「へぇ、これが最近ドワーフ達が製法を公にした『蒸留酒』かい」
閉店させた店内で、ナハシュが自慢げに広げた数々の品。
その中でも特に目玉だったのがこの『蒸留酒』だった。
「手に入れるの結構苦労したんだぜ?」
と、ナハシュがなぜか自慢げに話した。
「はは、それはありがたいね。俺の為にわざわざありがとう」
「は? 誰がお前にやるって言ったよ。これは俺のだ」
ナハシュは机の上にあったとっておきの一本をぎゅっと抱き寄せる。
「ふむふむ、なるほど。今日で出ていく従業員には安酒で十分と」
我ながら大人げないとは思いつつ、ナハシュとのこのやり取りに楽しさを感じているヨルは、皮肉たっぷりに返した。
「うっわ、なんだよそれ、その言い方せこくないか? そんな風に言われたら――」
「お、譲ってくれる気になったかい?」
「……やらね」
一瞬差し出しそうになった酒瓶をナハシュは再びぎゅっと抱いた。
「うーん、残念だ。まぁ、いいか。他の料理やお酒もおいしそうだし。流石にこちらは俺の為に用意してくれたんだろ?」
「チビ共がどうしてもっていうからな。しゃーなしだ、しゃーなし」
「そうか、ありがとう二人とも。店主に代わって礼を言うよ」
「はぁ?! なんで俺に代わってなんだよ!?」
「なんだ、そうだったのか。二人とも、どうやら直接言いたいみたいだ。聞いていあげてくれるかい?」
「お、おまっ!?」
ヨルに言われ、どうしていいのかわからず右往左往する姉妹が助けを求める様にナハシュを見上げる。
「うぐっ……」
それが礼を待つ風に見えたのだろう、ナハシュは思わず言葉を詰まらせた。
「はは、二人とも悪いけど皿を用意してくれるかい? 店長のお礼を待っていたら、せっかく用意してくれた料理が冷めてしまいそうだ」
戸惑う姉妹にヨルは再び声をかける。酒の他にもナハシュが露店で買ってきてくれた料理が湯気を上げて待っていた。
●
「へぇ、俺とやるのかい?」
「いい機会だろ? 一度、お前とはやり合ってみたかったんだ」
宴もたけなわ。料理は4人の胃袋へと消え、空の酒瓶も程よく転がっている。姉妹は寝る時間だと言って、揃って屋根裏の自室に下がってた。
「悪いが手加減はできないよ?」
「ははっ! 誰に言ってんだよ」
ヨルとナハシュはどちからかともなくジョッキを掲げると、空中でガシャッと鈍い音を響かせた。
最初は料理と共に嗜んでいたワインの瓶を空に。
続いて、冷蔵用の紋具でキンキンに冷やしたエールを煽り、口直しにとミードの瓶を空けた。
「どうした? 頭が揺れてるいるよ」
「そっちの目が回ってるだけじゃねぇのかよ」
言いつつ二人はまたジョッキを空にする。
「お前、その骨頭ずるくないか?」
「ずるい? 何故だい」
「顔色が見えねぇ」
「はは、それを言うなら君もだろう。色黒でさっぱりわからないよ」
いいながらも二人は相手の空いたジョッキに酌をする。
ついにはミードの瓶を逆さに振っても一滴の雫も落ちなくなり、いよいよ口にするものが尽きた。
「ふぅ……君が選んだ割にはなかなかの味だったよ」
「相変わらず一言多いんだよ」
「はは、すまないすまない。普段はこんな事はないんだけどね、君が相手だとつい」
「ついなんだよ。本音が出るってか?」
「さぁ、どうだろうね」
「けっ、顔隠してる奴にろくな奴はいねぇな」
「ふむ、それは顔隠し族への挑戦と取っていいんだね?」
「なんだよ、顔隠し族って。そんな種族ロスガリアに居ねぇよ……」
空になったジョッキを手で遊ばせながら、二人は久しぶりの二人だけの時間を満喫する。
「さて、少し飲み足りないがお開きにしようか。明日の朝には出ないといけないから、今日は休ませてもらうよ」
言ってヨルが立ち上がる。
「短い間だったが、君達との時間はそれなりに楽しかったよ。またどこかの依頼、いや戦場であった時には、よろしく頼む――」
――ドンッ
「おいおい、誰が終わりだって言ったよ」
机を片付け始めたヨルの目の前に、あの時の酒瓶がドンと置かれた。
「うん? それは君の秘蔵の一品なんじゃないのかい?」
「ちげぇよ。秘密兵器だ」
「秘密兵器。なるほど、そういう事か。いいだろう、その戦争受けて立とうじゃないか」
ヨルは再び椅子に腰かけ、空だったジョッキを差し出した。
――ポンッ。トクトクトク――。
「うおっ、すげぇ臭いだな……」
「かなりの数の酒精が住んでいそうだね」
ジョッキに注がれた透明な液体を見下ろし、二人が呟いた。
「なんだよ、ヨル。怖気づいたのか?」
「そちらこそ、やめるなら今のうちだよ」
互いに皮肉を言い合いながら、ジョッキを一気に煽った。
「……お、意外と飲みやす――うおぉっ!?」
「……これはすごい。喉が焼けるみたいだ」
涼やかな甘みが抜けたかと思うと、強烈な熱が喉を焼く。
「うえぇ……だんだこれ、きっちぃ……」
「はは、どうやら秘密兵器にやられたのは――って、おい。誰がおかわりを頼んだ!?」
「道連れだ」
「それは秘密兵器って言うのかい!?」
2杯目。
「かぁ!! 息が燃える!! 火を付けたらほんとに燃えるんじゃねぇか、これ!?」
「ドワーフ連中はこれを常飲しているのか……」
5杯目。
「ふへへ……なんかふわふわするな。おれ、とんでんじゃね?」
「ふはは……なはしゅくん、いつのまに、ぶんしんなんておぼえたんだい?」
10杯目。
「「……ういっく」」
――バタンっ!!
「やべぇ……世界が回る」
「は、はは……世の中にはまだまだ知らない事が沢山あるな」
同時に机に突っ伏した二人。
「なぁ、ヨル」
「なんだい?」
ぐるぐると回る視界の中、聞こえるのは相手の声だけ。
「……今まで、ありがとうな」
「……なに、大した事じゃないさ」
それっきり瞳を閉じた二人は、翌朝姉妹が見つけるまで気を失った様に眠り続けたのだった――。