若葉の舞踏会Ⅱ

キャラクターノベル(グループ)制作 おおくまねこ納品 2024年12月26日 15時09分58秒

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 若葉の舞踏会。それはリーンエス王国カペル領にて、伝統的に行われている社交パーティだ。社交パーティと言っても、正確には数年後に社交界デビューを控える貴族社会の若き子女向けに開催されているイベントで、これから貴族社会に入らんとする若者たちの練習として用意された場である。カペル家は王国の未来を担う若葉を育てるべく、例年この舞踏会を催しているのだ。
 そして、若葉たりえるのは何も十代の少年少女だけではない。ついこの間、カペル家の当主を継いだ新当主もまた、蒼玉領の至宝たる「若葉」だった。

「シルヴィア、お友達と楽しむのもいいけれど、当主としての本分は忘れないようにね」
「はい、お祖母様。心得ております」
 祖母であるイザベラ・カペルが厳しい眼差しでそう口にすると、シルヴィア・A・カペルは力強く頷いた。今日は若葉の舞踏会当日。シルヴィアにとっても、今日は新米当主としての手腕が試される場なのだ。
 しかし、シルヴィアの学友や知人も何人か応援にきてくれるので、シルヴィアは少し浮足立っていた。イザベラはその類まれな眼力でシルヴィアの心中を見抜いていたのだろう。
(いけないいけない。一番大変な女主人役はお祖母様がやってくれるけれど、当主としてしっかりお役目は果たさないと。でもやっぱり、久しぶりにみんなに会えるのは楽しみだな)

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「緊張してる? ジミナ」
 ルベア・ベルニは後輩のジミナへと尋ねた。ルベアは以前も冒険者として若葉の舞踏会に参加したが、今回は学園交流部のメンバーとして舞踏会に招かれたため、妹分のジミナも一緒だ。

(今日はジミナの社交界デビューの日だし、私もしっかりしないと)
「えっと……はい。とても。でもいいんでしょうか? 私みたいなのがこんな立派なパーティにお呼ばれして」
 ジミナは招待状を手にし、カントリーハウスの入り口から50メートルほどの距離を保ったまま遠目に会場を眺めている。カントリーハウスとは、貴族が権威を示すために建てられた豪邸だ。田園地帯に建てられた邸宅はカペル領都の本邸ほどではないが、庶民出身のジミナはその立派さにすっかり圧倒されているようだった。

「気にしたら負けよ。学園生なら堂々としていなさい。招待客が俯(うつむ)いていたら、それはシルヴィアの恥にもなるし」
「は、はい! わかりました! ルベアお姉様!」
(その気持ちはよく分かるわ。私も、一年前はそうだった)

 ルベアは以前にこのカントリーハウスに来た時のことを思い出す。カペル家は王国貴族の中でも特に異種族にも理解がある貴族だとはいえ、来客全員がフレンドリーなわけではなかった。
 ダンス相手のアテが外れたルベア(男に捨てられたとかではない)は壁の花でもやっていようかと思っていたのだが、なんと自分に声をかけてくる紳士が現れたのだ。少々幼かったが。
 そんなことを思い返しつつ、ルベアはジミナと共にカントリーハウスの門をくぐった。

「ようこそ、若葉の舞踏会へ。ルベア・ベルニ様。ジミナ・ロウ様。カペル家は貴方がたを歓迎いたします」
 入り口では品のいい執事と侍女(ついでに見目麗しくもあった)が出迎えてくれ、二人はクロークルームへと通された後、喫茶室に案内してもらった。ここで顔なじみと歓談しながらイザベラへの挨拶の順番を待て、ということだろう。
 サービス用の長いテーブルにはビスケットやケーキなどのスイーツや、飲食物が並んでおり、紅茶や珈琲だけでなく、年少者に好まれそうなオレンジジュースやレモネードなども用意してあった。
 さらに、カペル領内でも有名な各種ワインも取り揃えてあり、現当主の肝入りのワインである『大森林の琥珀』と『花領の薔薇』なども置いてあった。

「あら? あの人……」
「どうしました? ルベアお姉様」
 ルベアは10才ぐらいの男の子と一緒に喫茶室に入ってきたダークグリーンのフロックコートを着こなしている青年に目を留めた。知り合いにそっくりだったからだ。

「……いや、違うか。目が赤いし。ううん、ジミナ。なんでもないわ」
「やあ、ルベアにジミナ、久しぶり。うん、とても彼に似ているよね」
「ルーンス」
 席についた二人に気さくに話しかけてきたのは、金髪の青年、ルーンス・ラグネルだ。今日は薄紫色のスーツをばっちり着こなしている。彼は貴族どころか王国人ですらないが、商会の跡取りだけあり、場に呑まれている雰囲気は全くない。ちなみに彼も学園交流部の平部員である。

「ルーンス、商売の方はどう? あと子育ても」
「やあ、ルベア。どっちも順調だよ。冒険者時代より忙しいくらいさ。あなたの方こそうまく行ってる?」
「ええ、もちろん。勉強はやっぱり大変だけど」

 ルベアと朗らかに近況を報告し合うルーンス。ルーンスは今日は交流部メンバーというよりは、一歩引いた立場でいるつもりだ、と話した。
(王国の人達からすれば、同盟の商人が王国貴族の社交に首を突っ込むのかと面白くない気持ちになることはありえるしね)

「フェクダ様はドゥーベ伯爵家の嫡男だけど、やっぱり彼の親戚らしいよ。地元じゃドゥーベ顔っていうんだって」
「へえ。でもなんでそんな偉い人がここでお手伝いを?」
 ジミナは首を捻る。
「彼は交流会の参加者でもあるそうです。冒険者ギルドクラブにも縁があって、それで今日はわざわざ手伝いにきてくれたそうですよ」
 そこでにゅっと顔を出し、口を挟んだのはイズレンディル・パラリムだった。

「やあ、イズレンディル。これで冒険者組は全員集合かな?」
「お久しぶりです。皆さん。そうですね。学園生はすでにホールに移動している子もいるようですし、頃合いを見てホールに移動しましょうか」

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 飲み物とスイーツを満喫しつつ、歓談しているうちに挨拶の順番が回ってきたので、ルベアとジミナはホールの階段の上に立っていたイザベラに挨拶をしにいった。

「そう緊張しなくていいわ。先輩のおばあちゃんに挨拶するだけだと思いなさい」
「はい、すみません」
 ルベアは傍らのジミナへと微笑む。ジミナはイザベラから漂う貴族オーラに気圧されているようだ。

「ご機嫌よう。ようこそ、若葉の舞踏会へ」
「ご機嫌麗しゅう、イザベラ様」
「初めまして。イザベラ様。このような素敵な催しにお招きいただいてありがとうございます」
 二人が挨拶すると、イザベラは静かに頷く。
「今日は社交界デビュー前の子供達のための練習用の舞踏会です。気負わずに楽しんで下さいね」
 イザベラがたおやかな微笑みを向けると、
「はい、ありがとうございます!」
 ジミナは元気に返事をしたのだった。

「イザベラ様。いかがでしょうか? 今年の参加者達の様子は」
 ルーンスはイザベラが暇そうなタイミングで、会場に集まった若者達の印象を聞いてみた。
「そうね。昨年よりも元気のいい子が多いかしら。商家出身の参加者も少し増えた気がします。幽界樹が消えて平和になったことと、ここ数年の学園の方針転換の影響かもしれませんね」
「なるほど。ありがとうございます」
 ルーンスは丁重に礼を述べ、その場を離れた。

(今更だけど、気品のあるおばあ様だな。食べ物や調度品のセンスもいい)
 舞踏会の仕切りは女主人であるイザベラの仕事である。今代の当主であるシルヴィアの意見ももちろん反映されているだろうが、調度品なんかのほとんどはイザベラのセンスであると見るべきだろう。ルーンスは気になった品はしっかりとチェックし、メモを取った。

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「エリザ姉さん、ちゃんとダンスの練習はしてきた? こないだの交流会での姉さんのダンスはかなり微妙だったよ。パートナーの人が引きずられてるみたいだった」
「失礼ね、ケイ! ちゃんと練習してきたわよ! 今日は華麗なステップでホールの話題を独り占めするんだから!」

 すみっこで騒いでいる幼い学園生二人の片割れが、学園交流部部長のケイ・ブラックモアだ。彼は幼いながらもその器と家柄(伯爵家)を見込まれ、一年生にして学園交流部の部長にも抜擢されたのだが、従姉のエリザ・バロメッツには少し厳しい。エリザの方はいわゆるおてんば娘で貴族の子女にしてはちょっと「こちら寄り」な感じである。
(話しやすい子なんだけどね。ただ、彼女の将来については交流部の先輩として私も不安に思うことがある……)
 ルベアは遠い目でケイとエリザを見ている。

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「お嬢さん、一曲踊っていただけますか?」
 ルベアがジミナと共にしばらくホールで待機していると、ジミナがダンスに誘われた。少し離れた場所で様子を伺っていたルベアは、「行ってきなさい」と微笑み、穏やかにジミナを送り出した。誘った男の子の方はハーフリングであるジミナと同じぐらいの体格なので、10才前後だろう。

「さて、ここからが本番ですね。若葉たちのお手並み拝見と行きましょう」
 イズレンディルの目が細まる。イズレンディルは部員達の会場での様子を事細かに観察・記憶し、課題と助言を与えるつもりだった。

(ふむ、ブラックモアさんは流石にそつがないですね。素晴らしい。……バロメッツさんはちょっと動きがアグレッシブ過ぎるのでダンスの練習は宿題ですね。オクトーバさんはちょっとシャイ過ぎますね。微笑みながら視線を送るだけでは女性も困ってしまいます)

「オクトーバ、もっと積極的にいきなさい」
 ルベアは見ていられなかったのか、問題児にアドバイスをしていた。イズレンディルはこの場は彼女に任そうと、また別の場所へと移動する。すると、ホールの入り口のあたりで、フェクダが熱心な様子で年少の子息をサポートしている姿が見えた。

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(慣れない内は失敗しやすいものですし、フォローしましょう。俺も社交はまだ勉強中の身ですが、付添は良い経験になります)
 フェクダは10才ぐらいの少年につき、あれこれとアドバイスを送っていた。

「服装は完璧です。自信を持って下さい。次はドアを開けるところから、飲み物を頼むところまで通しで練習してみましょうか」
 少年はフェクダの丁寧なアドバイスを受け、多少ぎこちないながらも、作法通りの手順で飲み物をもらうところまでをやって見せた。

「うん、その調子です」
「ありがとうございます。ドゥーベ様は社交界デビューの際は緊張しましたか?」
 少年がフェクダに尋ねると、フェクダはきょとんとした。

「俺ですか? 緊張はしたと思いますが……無難だったと思います。可もなく不可もなく。デビュー後は家同士交流がある家のお茶会や夜会で経験を積みました。規模は小さかったですけどね」
「そうなんですか。僕も上手にできるようになりますかね?」
「ええ、心配はいりません。誰だって初めての時は緊張しますが、回数を重ねれば上達しますよ」
 フェクダが笑顔で送り出すと、少年も笑顔で手を振り返し、ホールへと向かっていった。少年がしっかりとイザベラに挨拶し、ちゃんと女性をダンスに誘うところまでやり遂げる姿を見た姿を見届けた後、フェクダはまた別の若葉をフォローするためにホールの入り口へと移動した。
「安心して臨んでください」

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「やあ、EA(エグゼクティブアドバイザー)殿。どうですかな、我がクラブの者達は」
「これはこれは、シルバルド先生」

 イズレンディルに話しかけてきたのは、学園交流部の顧問のシルバルドだった。生真面目だが少し野心家のきらいがあるシルバルドだが、今日は部員が問題を起こすとコネを作るどころか面目丸つぶれなので、年若い部員達に目を光らせるので精一杯の様子だ。

「ええ、みなさん紳士淑女ばかりで安心していますよ。まだまだ課題はありますが」
「そうでしょうな。ぜひ、部員達にアドバイスしてやってください」
「承知いたしました。監査役として一歩引いた立場からではありますが、彼らの成長に協力は惜しみませんよ」
「ありがとうございます」

 その言葉通り、イズレンディルはダンスが終わって休憩している部員達に積極的に声をかけ、改善点をアドバイスした。その傍らで、パラリム葡萄農園からカペル領に卸している酒、『大森林の琥珀』についても、評判を探ってみた。

「シルヴィアさん。ところでワインの評判はどうです?」
「ああ、花領の薔薇(ロゼワイン)も大森林の琥珀(アンバーワイン)もなかなか好評だよ。味はもちろん、色合いが美しいのが貴族の間でも受けているみたいだ。知名度が高まるにはまだ時間がかかるだろうけど、気長に待ってほしい」
「それは良かった。ええ、気長に待つことにかけては、エルフの得意分野ですから」
「なるほど、それはそうだ」
 そう言って、二人は穏やかに笑い合った。

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「お久しぶりです、イザベラ様。相変わらずお美しい。まるで何十年も貴方の周りだけ時が止まっているかのようだ」
「ありがとうございます、ロッドウェル伯爵。ですが、時間はちゃんと流れていますよ。私も代替わりしたことですし」
「おお、そうでしたな。かくいう私も、今日は孫の付き添いで来たのでした」
 イザベラは昔馴染みと談笑している。挨拶も一通り終わったので、シルヴィアは自分もイザベラに断り、会場を歩き回ることにした。
「うん、みんな上手に踊れているね」
 シルヴィアは後輩達の姿に目を細める。

『公式の場での共通ルールが決まっていれば、異なる国や文化を持つ人々とも円滑に交流出来る。礼儀作法は交流のための合言葉なんだ。時には身を護る盾にもなる』

 学園交流部の部員達には学園の先輩として立派な姿を年少の参加者達に見せられるよう、今日までみっちりと王国式の礼儀作法や歴史、ダンス等を叩きこんできた。その甲斐あり、明らかに浮いているような者は一人もいなかった。 
 ただ、ジミナのようにとても緊張している者や、エリザのように暴走気味の者がいないわけではないので、その辺りはイズレンディルやルーンス、クラブ顧問とも相談しつつ、今後のさらなる努力に期待するつもりだ。

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「みんな、舞踏会は楽しめているかな。ここで少し、パンクリアース学園への入学を控えている子達の為に、学園の話をしておこうと思う」
 頃合いを見てシルヴィアがそう切り出すと、参加者達の視線が集まった。
「学園には様々な施設、授業があり、色々な立場の者達がいる。それらは時に、君達に困難となって襲い掛かってくるかもしれない」
 
 ……。
 シルヴィアは学園であった、外部の者にとって興味深いであろうエピソード……学園祭や、クラブ活動等について語る。聴衆は静かにシルヴィアの演説に聞き入っている。シルヴィアはさりげなくルベアとジミナの出会いのエピソードにも触れたので、二人は気恥ずかしそうにしていた。

「願わくば、君達には今後も仲良くしてほしい。今日ここで出会った縁もまた一つの縁だからね」
 シルヴィアはそう締めくくり、演説を終えた。

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「学園交流部ってどんなクラブなんですか?」
「それはですね、様々な立場の方がいる学園生の同士の交流を促進するために……」

 ルーンスは商人の子息に問われ、学園交流部について詳細に解説をしていた。シルヴィアの演説の後、入学前の貴族の子女たちの中には俄かに学園交流部に興味を持つ者が増えている。シルヴィアは演説では交流部の兄姉制度の仕組みにまでは踏み込まなかったが、参加者同士で情報交換をしたり、会場にいる交流部員を捕まえて直接聞いたりしたのだろう。

「入学後はぜひ学園交流部の門を叩くことをお勧めいたします。無論人脈という財産は目に見えない分注意を払うべきことは多くございますが、卒業後の自身を構築する良い財産ともなるでしょう」

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「今日はみんなありがとう。後輩達にとってはいい経験になったと思う」
 午後になり、舞踏会を解散した後、シルヴィアは学園交流部の面々を集めて反省会を開いていた。

「フェクダ君も今日はわざわざありがとう。丁寧にデビュー前の若葉たちをフォローしてくれて。お祖母様からもよく礼を言っておくように言われたよ」
「ありがとうございます。カペル様。私もお役に立てて嬉しいです」
 シルヴィアが感謝の言葉を口にすると、フェクダは恭しく頭を垂れた。

「振る舞い作法のパターンは限られますから、まずは暗記。何度も繰り返して慣れてしまえばもう大丈夫ですよ。良ければ作法が生まれた理由も調べてみて下さい。何事も歴史がありますから。分かれば臨機応変に対応できますよ」
 部員達の様子をつぶさに観察していたイズレンディルからは各自課題を与えられ、今後の研鑽にと積めるようにと、顧問やシルヴィアがまとめた。

「ワインの評判の方はどうだった?」
 ルーンスが尋ねると、イズレンディルは満足そうに頷いた。
「ええ、概ね好評のようで何よりでした。風味や容器についても興味深い意見もありましたし、今後の醸造にも生かせそうです」

 反省会の最後に、ルベアはジミナへ今日の感想を尋ねた。

「ジミナ、社交界デビューは楽しめた?」
 ルベアは穏やかにジミナへと問いかける。
「はい、大変でしたけど、とても!」
 ジミナがにっこりと笑うと、ルベアも微笑みを返した。

 こうして、新当主主催の若葉の舞踏会はつつがなくその役目を果たした。カペル家とリーンエス王国がある限り、ここで育った若葉たちは王国の次代を担う木々となり、ずっと受け継がれていくことだろう。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0