【秋祭】収穫祭2020 1

 近頃、町や村々が賑やかな喧騒に包まれている。人々はどこか気忙しくも皆笑顔で、極北から出てきたばかりのヒルルクにも活気が肌で感じ取れるほど。
 通りには穀物を満載した馬車が行き交い、店には採れたての野菜が所狭しと並ぶ。
 秋の収穫期が訪れたのだ。
「秋にみんなが笑顔なのはいいことね。豊作の証だもん」
 《征竜の巫女》として、おのぼりさんと小馬鹿にされてなるものかと何食わぬ顔で過ぎようとするものの、物珍しさからつい店々を横目で眺めてしまう。きょろきょろと落ち着きなく歩いていた彼女は、衣料品店の前で足を止めた。
「んー?」
 店頭に飾られた木製の人型が纏っているのは、おどろおどろしい血糊飛び散る黒マント。蝙蝠の羽を模しているのか、裾がギザギザにカットされている。その隣の人型は、蜘蛛の巣模様のヴェールを頭からすっぽりと被っていた。
「……こっちではこういうのが流行ってるの? これ着た人に夜道で会ったら、びっくりして思わずぶん殴っちゃいそうなんだけど」
 そこまで呟き、ヒルルクはハッとなってかぶりを振る。
「って、違うちがーう! わたしは征竜さまの使命を果たしに来たの! 観光しにきたんじゃないんだからっ」
 決意新たにのしのしと歩き始めた彼女の足は、わずか数件先の雑貨屋前で再び止まることになる。
「ちょっ、なにこれ……気持ちわるー……」
 目玉商品とばかりに陳列されていたのは、ニヤリ笑いを張りつかせた不気味な藁人形。見慣れない野菜に凶悪そうな顔を彫った置物まである。
「好みは人それぞれだって百も承知だけど、流石にこっちの人達の感性どうなってんのよ?」
 ヒルルクが藁人形を摘み上げていると、奥から女店主が笑いながら声をかけてきた。
「それはねぇ、この辺りで収穫祭の時に飾る『魔除け』なんだよ」
「魔除け? むしろこれが魔ってかんじなんだけど」
「魔をもって魔を祓うってワケさ」
 ピンときたヒルルクは、先程の衣料品店の方を指した。
「じゃあ、さっき見た蝙蝠や蜘蛛モチーフの服って……」
「ああ。収穫祭で仮装するための衣装さね」
 魔をもって魔を祓う、その理屈は理解できる。けれど、収穫祭なのに魔除けとはどういうことかとヒルルクが首捻っていると、彼女の尖り耳を見た店主は察したように頷いた。
「お姉さん、最近森から出てきたんだろう? 森のエルフや湿地帯のリザードマンたちは、なにせお硬い……いや昔気質だから、古き良き収穫祭をしているんだろうけどさ。そこいらを除いた地域じゃ今は、秋の収穫祭は魔除けや鎮魂の意味合いをもって行われてるんだよ」
「ええ!? なにそれ、どうしてそんなことに?」
 収穫祭とは。目を白黒させるヒルルクに、店主は肩を竦める。
「さてねぇ、由来って言われてる昔話や伝承は色々あるみたいだけど……まあ、今は日毎陽が落ちるのが早くなる時分だろ? 昔の人達は、長く濃くなっていく夜に、魔物や悪霊が悪さをするって考えたのかもしれないねぇ」
「ふーん……?」
 ヒルルクは藁人形の顔をツンとつついた。なんだか腹の立つニヤリ顔でも、魔を祓いたいという人々の祈りが篭められたものだと知ると、不思議と可愛く見えて……くるようなこないような。
「まあ、この辺りじゃ祭りの間その魔除け飾りを戸口へ置くけど、他所に行けば祭りの内容も風習も色々さね。興味あるなら、あちこちの祭りを見て回ってきたらどうだい?」
「へ? ああいや、わたしには使命がっ……!」
 ヒルルクは言いかけて口を噤む。つっつき回しているうちに、このニヤリ顔の藁人形に妙な愛着が湧いてきてしまった。店主に礼を言って人形を購入すると、胸に抱えて店を後にする。人形の歪んだ口の端をつつき、
「……まあ、ちょっとくらいならいいわよね? 巫女として(なーんか)、見聞を広げる(楽しそう)ためにっ(なんだもん)!」

執筆:鮎川 渓

【秋祭】収穫祭20201/2
連動シナリオは冒険者ギルドにて
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0