【聖祭】月桂樹の約束

おおくまねこ

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シナリオID:3396

オープニング

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 カペル侯爵領、領都の広場にて。壇上に上がった幼い少女は月桂樹(ローリエ)で作った冠を、跪(ひざま)いた騎士の頭の上に被せた。すると、騎士は少女の白い首に、月桂樹で作ったネックレスをかけた。

「どうか、騎士達に勝利と栄光を」
「我らが剣は万民の幸福の為に。勇敢なる同胞達が、この地に勝利と栄誉を持ち帰ることを願って」

 少女とカイゼル髭を蓄えた壮年の騎士が観客達に向かって一礼すると、人々は盛大な拍手を送った。別荘のベランダから儀式を見ていた祭りの主催者――イザベラ・カペルも慈母のような微笑みを浮かべ、手を叩いている。

 今、カペル領では聖霊節(ユールフェス)を兼ねた、戦勝祈願祭『ラウルス・ノビリス』が開催されている。世界全体の自粛ムードを受け、例年よりも祭りの派手さは自体は抑えめではあったが、それでも人々は穏やかで楽しい時間を過ごしていた。

「ママ! ねえ、見てみて、ジド・ルウだ! ジド・ルウがいる!」
「やあ、こんにちは。今年はいい子にしていたかい? なら、この風船をあげよう」
「お集まりの紳士淑女の皆様、ご静粛に。これより私が語りますは、王国に伝わる、一人の英雄騎士の物語……」
「ねえ、あそこにシチューの屋台があるわ。一緒に食べない?」
「いいわね! ローリエ、ちゃんと入ってるやつよね」
「もちろん!」

 街は吟遊詩人やジド・ルウの扮装をした商人がいたりと、聖霊節らしい賑わうを見せているが、なんといっても、『ラウルス・ノビリス』の主役は、月桂樹だ。この祭りでは月桂樹の葉や、葉を使った小物(ハーブティや精油、石鹸、外用薬など)を贈り合ったり、ローリエが使われた料理を食べたりして『約束を交わす』という伝統がある。そのため、領都の至るところに、月桂樹を使った商品を扱う屋台が出ていた。イザベラは月桂樹の葉を手に連れ立って歩く人々を見て、自然と口元を緩めている。

「そういえば、夜にはまた、あそこも賑わうのかしら?」
 イザベラは、丘の上にある大きな月桂樹(でんせつのき)に目をやり、ぽつりと呟いた。

解説

目標: 戦勝祈願祭『ラウルス・ノビリス』に参加して楽しむ 依頼人:イザベラ・カペル侯爵夫人 舞台:リーンエス王国/カペル侯爵領領都 状況:帝国の決戦にカペル家も出陣した為、カペル侯爵領では戦勝祈願を兼ねた聖霊節の祭り『ラウルス・ノビリス』が行われています。冒険者ギルドにも領都への招待状が届いています。参加客として楽しむこともできますが、芸人枠での参加も歓迎されます。ちなみに報酬は交通費・経費程度の寸志(貴族基準)です。 ●主な登場NPC イザベラ・カペル 64才 今回の依頼人にして、イベントのホスト。始まりの百家の一つであるカペル侯爵家の実質的最高権力者。老齢とは思えぬ若々しい外見を持つ貴婦人。イベントを監督しつつ、来客や領民と歓談している。 その他、招待客たち プレイングで招待があった場合、クラブ顧問や学園生などの学園関係者NPC(担当はおおくまねこに限る)もお祭りに参加します。 ※現在解決中の別シナリオとの兼ね合いにより、現生徒会長パーシアは登場できません。 ●『ラウルス・ノビリス』(Laurus nobilis)について カペル領都で行われる戦勝祈願祭。領民全体に向けたイベントの為、マナーはそこまでとやかく言われない。商隊の屋台が出たり、吟遊詩人が来ていたり、街のあちこちで立食パーティが開かれたりしている。 この祭りでは月桂樹(ローリエ)の葉や、葉を使った小物(ハーブティや精油、石鹸、外用薬など)を贈り合ったり、ローリエが使われた料理を食べたりして『約束を交わす』という風習がある。約束する相手は大切な誰かでも自分自身でも、別の何かでも良い。 なお、月桂樹そのものには「栄光」「勝利」「栄誉」、葉には「私は死ぬまで変わりません」という花言葉がある。 伝説の木 領都の丘の上には生えている、一際大きな月桂樹。丘の上から見える景色が良いため、若者に人気のデートスポットとなっている。また、「この木の下で聖霊節の夜に贈り物を交換すると将来必ず結ばれる」という領内では有名な伝説がある。ちなみにイザベラも子供の頃から伝説の木の噂話は耳にしていたらしい。 ※月桂樹の葉の実際の効果、効能には個人差があります。

マスターより

こんにちは。おおくまねこです。今回は聖霊節の日常シナリオです。 伝説の木。自由恋愛原則禁止の貴族の間でも盛り上がりそうな噂ですね。思わず生命力200、とか書きそうになりましたが、真に受けて攻撃する人が出ると困るので自重しました。ラウルス・ノビリスを楽しみましょう! ※月桂樹の葉はギリシャ神話のイメージイラスト等でよく草の冠として被られているものです。

リプレイ

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「イザベラ様、ご機嫌麗しゅう。このような楽しい催しにお招きいただき、ありがとうございます」
「こんにちは。いつも孫娘が世話になっているわね。今日は楽しんでいきなさい」

 海神(ウミガミ) 江流(エル)は領都の視察をしていたイザベラ・カペル侯爵夫人に孫娘・シルヴィア・A・カペルの友人として挨拶をすると、イザベラは柔和に微笑んだ。今日はシルヴィアとは別行動だが、イザベラはちゃんと江流の顔を覚えてくれていたようだ。ちなみに今日は非公式な再会だったが、江流はきちんと貴族の礼に則った挨拶をしたつもりである。
(いずれ貴族社会の中でまたお目にかかる機会があるやもだしね)

「お待たせ、ルーンス君」
「うん、行こう、江流さん」
 江流は友人のルーンス・ラグネルと二人連れだ。江流もルーンスも共に恋人がいる身ではあるが、今日は友人同士で気楽に祭りを楽しむつもりだ。

「江流さん、このポトフ、ローリエが入ってるよ。こっちの紅茶にも。甘味に月桂樹(ローリエ)の単花蜜が使えるって言うのもいいな」
「へえ、色んな使い道があるんだな」
 領都では至る所に月桂樹が顔を出していた。その用途の広さに、江流は感心する。隣で屋台を物色していたルーンスは、ローリエモチーフの髪留めやリボンを選んだようだ。

「江流さんは製油なんてどうだい?」
「精油……香料に使うんだっけ?」
「免疫を高める効果もあるよ」
「免疫を高める……? へぇ、物事にはいろんな側面があるもんだね。大量生産できる物じゃないし、なるほど、商人の扱う商材としては価値がありそうだ」
 江流は納得し、製油を一つ手に取った。
(彼女はどうだったか、香水は自分で考えて選べる知識と教養がある人だから。石鹸や薬の方が土産には向いてるかな?)
 江流は数々の商品を見比べながら、恋人へのお土産は何がいいかを吟味している。

「ルーンス君は何にするつもり?」
「僕はローリエの石鹸かな。妊娠中にローリエは口にするの避けた方がいいハーブだしね」
「妊娠?」
 江流は聞き慣れない言葉に目を丸くする。
「うん、まだまだ油断はできないけど、安定期に入ったから……報告ね。実は、婚約者が妊娠してるので、春頃父親になるよ」
 ルーンスははにかみながら言った。
「おぉ、それはおめでとうだね。じゃあこれから大変だ」
「そうだね。シャルガネで言う、仮祝言っていうのは身内だけで済ませたんだけど」

 ルーンスは今まで黙っていたことを詫びると、家庭のごたごたが落ち着いたことや情勢の変化を受けて何があってもいいように子作りを先にしたことや、安定期に入るまでは商会の人しか教えていなかったことを説明した。

「そうかぁ~」
 江流は感慨深そうに呟く。
「江流さんは人生、冒険者どっちも先輩だけど、父親だけは僕が先輩かな」
 ルーンスはニッコリと笑う
(ルーンス君なら大丈夫だろうけど、産後の恨みは一生とか言うからね。俺もその時になったら気を付けないとな……)

●
「伝説の木…かぁ」
 江流は領都で聞いた丘の上の伝説の木を遠巻きに眺めていた。だが、残念ながら贈り物を渡す相手此処には居ない(相手自体がいるのは幸福なことだが)。

「月桂樹にも花言葉ってあるのかな」
 江流は手元の花言葉辞典を捲ってみた。
「……栄光、勝利、栄誉か。戦勝祈願として相応しいモチーフだな。ん……? これは……」
 江流は辞典をめくっているうちに、あるページに目を惹かれた。

『私は死ぬまで変わりません』

(成る程。此処には居ない彼女へは、これを誓いとするのが良いか)
 江流は口元で笑い、静かに辞典を閉じた。

「僕は彼女には約束しないよ。だって僕はにいさまと一緒に必ず帰る……これは約束ではなく宣言だから。だから……」
 ルーンスはそう前置きし、江流に向かってウインクする。
「江流さんの婚約者様が婚前未亡人にならないよう最後の戦いでしっかり頑張ると約束しようかな。僕は商人だからね、江流さんに大損させないよ?」
 すると、江流はフッと笑った。
「ルーンス君を嘘つきにする訳にはいかないからね。必ず勝って戻る。あわよくば、ウィリアム王子の前で武功を挙げてお土産まで持っていければ尚良しだが」
 江流は口元に笑みを浮かべたまま、誓うようにそう口にした。
「それじゃあ、今回も宜しく頼むよ、戦友」
「ああ」

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「さむーい! この間までこんなに寒くなかったのに!」
 エフィルミアはぷるぷると震えながら言った。今は真冬。厚着していても、肌に刺すような痛みが走る季節である。そんな中、わざわざ遊びに出てきたのは、今日はナキルとのデートだからである。ちなみに誘ったのはナキルの方だ。

「にしても、なんか急に冷え込んできたよな。慌てて防寒具を引っ張り出したぜ」
 もこもこに着込んだナキルは白い息を吐きながら笑うと、ポケットから予備のマフラーを取り出し、エフィルミアの首に巻いた。
「ほら、寒いだろ。コレ巻いとけよ」
「ありがと!」
「なんか、前は逆に巻いてもらった気がするな」
 笑っているナキルにマフラーを巻かれながら、エフィルミアは照れ笑いを浮かべた。彼氏の暖かさと優しさに、心まで温かくなる。だが、その時、ひんやりとしたナキルの手がエフィルミアの首に触れた。
「ん? ナキルくん手が冷たくなってるじゃない!」
「ほんとだ、冷てえな」
「首がひやっとしたんだけど! もーこんなに赤くして! 防寒の詰めが甘い! 私の手袋片方貸してあげる!」
 エフィルミアは自分の手袋を片方外すと、ナキルの手に被せる。そして、もう片方の手をそっと取ると、しっかりと握った。
「もう片方の手は……と、特別に私が暖めてあげるから!」
「はは、ミアとこうしてると冬越えも苦にならねぇな」

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 一緒にビーフシチューを食べたり、ハーブティーを飲んだりと祭りを満喫した二人(ナキルはいつエフィルミアの必殺技(やくそうりょうり)が出るかと身構えていたが、幸いにも杞憂に終わった)は、日が落ちた後、吸い込まれるように丘へと向かっていく。そこには、カップルに噂の伝説の木がある。ここでプレゼントを交換すると、将来必ず結ばれるという。

「伝説の木かぁ…」
 ナキルは大きな月桂樹を見上げた。
(昔のオレだったら、強い木を想像してただろうなぁ。ってのは黙っておこう)

「はい、ナキルくんに勝利と栄光を」
 エフィルミアははにかみながら、ナキルに月桂樹をあしらったブレスレットを手渡した。
「お。サンキュ」
「ブレスレットにしたのはね、剣を振るう時に目に入るかなって思ったから。ナキルくんは後先考えずに突っ込みがちだし! 危険な目にだって何度もあってるし! だからね、このブレスレットが目に入った時に、私が待ってるから帰ってこなきゃなって諦めない力になったり。あと一歩足りない時に気持ちを奮い立たせるような、負けないぞ! って頑張れる力になればいいなって」
「……ありがとうな、ミア。これは尚更負けられねェな」
 ナキルがさっそくブレスレットを付けると、力がじんわりと湧いてくるような感じがした。
「私と将来結ばれなきゃいけないんだから! ちゃんとかっこよく勝ってきてよね!」
 エフィルミアの言葉に、ナキルは「ああ」と笑った。

「にしても奇遇だな」
 笑いながら、ナキルはエフィルミアにプレゼントを手渡した。ナキルが選んだのも、月桂樹が彫金されたブレスレットだ。小さい宝石はエフィルミアの瞳と同じ色だ。

「オレも勝って来るし、ミアもちゃんと勝って来いよな」
「あと、その時にはこのリップも似合うと思うぜ」
 ナキルは雷にでも打たれたように固まっていたエフィルミアへと、プレゼントを手渡す。すると、エフィルミアは再び動き出した。

「似合う、かな?」
「ああ」
 ナキルは頷いた。
「今なら何にだって勝てちゃいそうな気がするよ!」

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「……」
 仲間達が祭りを楽しんでいる中、カイン・ステラは人知れず、カペル領の丘の上で膝を抱えて座っていた。ここからは祭りの風景がよく見える。そして、カップルに人気があるという伝説の木も。今頃、シルヴィアやルーンスはそれぞれ、祭りを楽しんでいるだろう。だが、先日の依頼で受けた心の傷がまだ癒えていないカインは、今夜は祭りを楽しむ気分にはなれなかった。そんなわけで、カインは静かな場所で、一人で夜景を眺めていた。

「いい景色でしょう。ここは昔とあまり変わっていないの」
 ふいに、後ろから声が聞こえた。カインが振り向くと、そこには上品な雰囲気のマダムが立っていた。マダムは平民のような恰好をしていたが、カインには一目で彼女の正体が分かった。カインは慌てて立ち上がり、女性に一礼する。

「シルヴィアの、おばあ様、ですよね。失礼しました。こんばんは、楽しませてもらっています」
「ええ、いつもシルヴィアがお世話になっているようね」
 マダム――イザベラ・カペルは上品に笑った。

「あの月桂樹も見事で、枯れずに約束の象徴としてあることが、土の神(イアース)様の御心を感じられます」
「ありがとう。ええ、あの木は今も昔もずっと同じ姿。あそこから、私達をずっと見守ってくれているの。あの木の、約束の話は知っているかしら?」
 イザベラが微笑んだ時、カインは答えようとしたが、言葉に詰まってしまった。

『だれに、やくそくしていいか、わかんなくて……だって、かぞくは、もういないから』
 カインはなんとか、たどたどしい言葉を書き記した。イザベラは驚いたように、目を見開く。
『こんなはなし、ごめんなさい』
 カインは自己嫌悪に駆られながら、頭を勢いよく下げた。その瞳には、涙が滲んでいる。すると、イザベラは穏やかな声で言った。

「そう、あなたはとても辛い目にあったのね」
 イザベラの手が一瞬だけカインの頭に触れる。数秒経ってから、カインは自分が頭をぽん、と撫でられたのだと気づいた。

「私には想像もつかないほど、苦労をしたのでしょう。あなたが立派に育って、きっとご両親も喜んでいるわ」
 呆けているカインへと、イザベラは優しく諭す。その時、カインは少し前に、死んだ家族が自分を責める幻影を見せられたことを思い出した。
「ア、 あ、あり、がトう、ごザいま、す」
 カインは涙を乱暴に拭うと、必死に声を出してお礼を言った。
「イザベラ様、こちらにおられましたか。どうか、お屋敷にお戻りください。御身体が冷えますよ」
 その時、カペル家の侍女と思しき女性達が丘にやってきた。どうやらイザベラを探していたそうだ。
「あら、もう見つかってしまいましたか。……ええ、そろそろ戻ります」
 イザベラは肩を竦め、カインから離れていく。

「……イザベラ様、その少年が、何か?」
 家臣が、目を赤くしたまま立ち尽くしているカインにちらりと目をやると、イザベラは首を横に振った。
「いいえ、何も。私は、孫のお友達とお話していただけよ」
 イザベラは家来と共に、屋敷へと引き返していった。

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「……綺麗な景色だね、ノイアン」
 シルヴィアは伝説の木の丘から見える領都の景色に感嘆していた。丘からは領都の夜景が一望できる。月に照らされてランタンの灯りや月桂樹の飾り、冬薔薇がぼんやりと浮かび上がるのは、この季節(聖霊節)ならではだろう。

(視界の端に身の覚えのある二人(平民に化けているお祖母様となぜか号泣しているカイン)が映った気がするが、気のせいだと言うことにしておこう)
 今は月夜のデート中だ。時には俗世のことなど忘れてしまうのも許されるだろう。幸い、恋人(ノイアン)は気づいていないようだし。

「ああ、そうだな」
 エル=バ=ノイアンはしみじみと頷いた。ちょうど二年前、カペル領都の聖霊節(ユールフェス)で二人は恋仲になった。
(時が経つのはずいぶんはやいものだ。あれから2年、シルヴィアは23になった。俺はといえばもう少しで三十路というわけで……侯爵家も俺のようなごろつきをよくここまで受容したものだ)
 もちろんノイアン自身にも焦りはある。自分は果たして、彼女の隣に相応しい人間になれているのかどうか。その悩みはいつも心から離れようとしなかった。

「最近、君はとても格好良くなったね。勿論、元々格好良かったけれど」
 シルヴィアはノイアンの目元に手を伸ばし、彼を意識した切欠(きっかけ)である、青い瞳……そして、その奥にある強い意志に見入っている。

「アーカネラに、身繕いの仕方を教えてもらった」
 少しくすぐったいと感じながら、ノイアンは答えた。ノイアンがアーカネラから指導を受けたのは笑い方、言葉遣い等、所作のすみずみまでだ。
(多少粗野な部分はましになっただろうか)
「髪は艶やかになったし、目元の隈が消えただろう?」
 ノイアンはそこはかとなく自信ありげに、自身の目元を示した。

「アーカネラが……」
(ノイアンが私と一緒にいる為に努力してくれているのが伝わってくる。それがとても嬉しい)

 ――私が欲しいということは、カペルと運命を共にするということだ。
 ――俺が共にしたいのはお前の運命だ。そこだけは譲れない。

 シルヴィアはノイアンに告白された時の言葉を思い出し、頬が熱くなった。
(私も彼の為に出来る事は何でもしたい)
 ……。
「シルヴィア。今は誰もいないようだ。行こう」
「ああ、そのために今日は来たんだからね」
 二人は人がいなくなったタイミングを見計らい、伝説の木の元に足を運んだ。

「私からはこれを君に」
 シルヴィアはノイアンに月桂樹(ローリエ)入りのハンドクリームを贈った。
「使ってみる?」
 シルヴィアが瓶の蓋を開けると清涼感のある甘い香りが広がった。シルヴィアはノイアンの手を取り、甲にクリームを塗っていく。

(私の手とは随分違う大きな手だ。恋人になる前、手を繋ぐ時に何故か緊張したのを覚えている。あの時から無自覚に好きだったのかも)
(最近気を遣っているとはいえ、やはり武器を握る者の手だ。それに、お前は嫌な顔ひとつせずに触れてくれる)

「決戦が終わったら、お父様が君に会いたいと仰っていたよ」
「……閣下にご挨拶か。背筋が伸びるな」
 ノイアンは偽りのない気持ちを口にしつつ、つやつやと光る自分の手の甲に視線を落とした。しばらくそうしていたノイアンが視線を感じて顔を上げると、そこには赤面したシルヴィアの顔があった。

「今度は君からとか……どうかな?」
 じー、とノイアンを見つめるシルヴィア。
(……気後れしていたことを、隠し通すことはできなかったらしい)
「悪かった。甲斐性無しとは言われたくないからな」
 ノイアンは茶化しつつ、シルヴィアに軽く口付けた。
「返礼はこれとは別に、希望の場所があれば応えるが?」
 それはノイアンにとって、一世一代の問いだったのだが――

「シチューを食べに行こう。お勧めの屋台があるんだ」
 シルヴィアはノイアンの真意に気付かず、にっこりと笑った。
「……そういう意味ではなかったんだが」
 ぼそりと呟くノイアン。
(まあ、今日はそれでもいいだろう)

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 祭りの夜は更けていく。こうして、冒険者達は最後の戦いの前に、ひとときの安らぎの時を過ごしたのであった。

マスターコメント

お疲れ様でした。皆様最終決戦前のひとときの安らぎの時間を過ごせたかと思います。プレイングの優劣はつけがたい内容のシナリオなので、MVPの選出はなしとしております。
ショートシナリオR

ショートシナリオR易しい 報酬:少ない7 / 4〜8人

2023年12月30日 22時20分43秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シルヴィア・A・カペル

    リクエスト主のシルヴィアだ。 依頼が成立して嬉しいよ。参加してくれた皆にも、引き受けて下さったおおくまねこMSにも心より感謝を。 ラウルス・ノビリスを楽しんで欲しい。思い出に残る一日になりますように。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0