【聖祭】ユールフェスに、仄かな祈りを【帝国】

菊華 伴

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シナリオID:3390

オープニング

●例えどんな状況になろうとも、時は巡る物である
 寒さも徐々に深まり、12月を迎えたロスガリア。
 今年は帝都での戦いもあり、ユールフェスも華やかさが控えめとなり、代わりに戦時下にある人々の心に寄り添い温めるような雰囲気となっていた。
 そして、古砦都市シャルトでも……。

●戦場へ齎された、家族からの手紙(祈り)
「こんな時こそメリーユールフェス! なのである!!」
 と、言い放ったのは商人のヒューマン、ナバルジャである。彼は兵士の家族からの手紙やユールフェスにちなんだ贈り物を預かり、シャルトへと持ってきてくれたのだ。そして、その護衛として冒険者達が付き添い、手伝っていた。
「沢山の手紙を預かって来ました。リストもあります」
 ナバルジャの秘書を務めるハーフリングのアズルノが冒険者達へと書類を手渡す。どうやらこのシャルトへ向かっている兵士の名簿らしい。
 遠い戦地の家族を想い書かれた手紙やカードはとても大事なものだ。確実に届けたい。
「でなければ手紙に込められた思いが魔法を生み出す……なんて事になったら大変ですものね? そんな有り得ない事を想像してしまうほど、この手紙を渡したいってことです」
 アズルノが茶目っ気交じりにそういうも、眼差しは真剣だ。ナバルジャは冒険者達一人ひとりの目をみて、丁寧に頭を下げる。

●戦場から、大切な家族へ
「あの~……ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
 そこに現れたのは、ロバ耳が特徴的なレビジュ・バトー。そして、王国から援軍として来た子爵令息、ラルジャン・ジキタリスだった。
「実は、兵士達から家族への手紙を送ってほしいという相談を受けていた。私達はそれぞれの上官からナバルジャ・ロア殿へ話を持っていくように言われたのだ」
 死と隣り合わせの日々を送っている兵士たちの中には、本当はユールフェスには家族と過ごしたい者も多いだろう。それが叶わぬのなら、せめて手紙で……と考えたようだ。
 ナバルジャは目を見開くと
「もとより、その心算である。ロア商会が責任をもって手紙を届けるのである!」
 と、頼もしい声で頷き了承した。

●せめて、想いだけでも
 一方、シャルトの一角ではユールフェスも近いという事で祈りの場が作られていた。戦場で散った仲間に祈る者、故郷で待つ家族に祈る者、今を生きる仲間に祈る者などなど、その思いは様々だ。
 蝋燭に火をつけ、台に置いて祈る。ただそれだけのスペースではあれど、多くの兵士たちが祈りの為に訪れていた。
「祈り、か……」
 その光景を見たのは、狼のハーフビーストの若者・バラクだった。彼は理由がありホムンクルスのユィットを連れ、記憶を探す旅をしていた。その最中に戦の話を聞き後方支援の手伝いとしてここに来ていた。
 胸が痛む。バラクの胸にこみあげるのは、『祈りが届かなかった』というおぼろげな記憶。僅かに眉をひそめる彼を見上げ、ユィットは心配そうに見つめる。それに気づいたのか、バラクは苦笑し、少年の頭を撫でた。
(気休めでしかない、かもしれない。でも、そうする事で前を向けることも俺は知っている)
 今は、祈る人々の為に蝋燭を渡し、寄り添おうっと考えた。

 ユールフェスは近い。
 人々の想いを大切にするために、冒険者達は手を差し伸べる。

解説

メリーユールフェス。 という事で、今回はシャルトを舞台に思いを贈り合う手助けのお話です。 <ご案内> オープニングにてアズルノが言った「手紙に込められた思いが魔法を生み出す」事は、アニエピカの世界線では起こりませんのでご安心ください。 次の選択肢から1つ選び自由にプレイングを書いてください(複数選ぶと極端に出番が減る可能性がありますのでご注意ください)。 1:戦場へ齎された手紙を、兵士に渡す ナバルジャは己の商会の人員を使い、戦場に行った人の家族から手紙やユールフェスのカードや贈り物を預かりました。配達員となりメッセージを届けましょう! 2:戦場からの手紙をナバルジャに託す 一方、兵士たちも故郷の家族や仲間に手紙を送りたいと考えていました。受付にて兵士たちからどこに届けるのか聞いたり、荷物の重さをはかったり、おおまかな仕分けをしたりしましょう。 3祈りの場に行く シャルトの一角に祈りの場ができました。蝋燭をくばったり、短くなった蝋燭を台から外して集めたり、時には懺悔を聞いたりして心の安寧につなげましょう。 登場NPC ナバルジャ アズルノ 『ロア商会』の会長とその秘書。今回は戦場への手紙を運んできた。 レビジュ・バトー ラルジャン・ジキタリス 『エクス』の子ども達 今回はレビジュが配達、ラルジャンが受付に立ちます。『エクス』の子ども達は三組に分かれ手伝います。 バラク ユィット 旅する狼系ハーフビーストとホムンクルス。二人は祈りの場を自主的に掃除したり、木の実で作ったモニュメントで飾ったりしています。

マスターより

今回はほっとするようなイベシナになる……予定です。 想いの籠った手紙を届けに行きませんか? レビジュ「やっぱり、想いを伝えるのは大事だね」 ラルジャン「たとえ戦場にあっても、家族の想いがあると少しは違うと信じています」

リプレイ


●シャルトにて
 ――古砦都市シャルト。
 家族からの手紙を運んできてくれた商人、ナバルジャは集まった冒険者達を見て「感謝するのである!」と頭を下げた。
「まず、こっちの班の皆さんには兵士たちへの手紙や荷物を届けてもらうのである。名簿はこちらにある。各自、確認してほしいのである」
 ナバルジャがそう言って資料を緊張気味のアリア・ティーダに渡すと、彼女は「結構多いね!」と目を丸くする。
「配達は任せて! 風より速くどこへでも届けに行くさぁ!」
 気合十分なフリューリングスルフト=ティエラ(以下、フリューと表記)。その一方、エイル・ビュセファスは冷静な顔でナバルジャと何か交渉をしている。
「どんな配達も送り先で対価は変わる。……離島への配達が高額になるようにな」
「それは十分承知しているのであるが、いろいろ事情がある。お金とは別の支払いの仕方となるが……」
 エイルの話に力強く頷いたナバルジャは、資料を彼に見せる。
 アリアに名簿を見せてもらったシャルロット・エクレールは、何度か頷きながら
「配達地域の地図もあるのね。これをつかって、大まかでもブロック分けをしましょう!」
 と提案すればアリアが「それはいいアイデアだね!」と賛成する。
 ナバルジャとエイルは交渉が終わったらしい。ナバルジャが楽し気にカカッ、と笑うのを見たエイルは、静かに言った。
「交渉成立だな。代わりに何でも届けてやる。行方の分からない奴の手紙も寄越せ。調査する」
「心より感謝するのである、エイル殿。よろしく頼む」
 ナバルジャが深々一礼するのを見、エイルも静かに頷いた。

「では、私は受付を担当しましょう。受け取った時点で大まかに分けておけば負担が軽くなるかと」
 レティシア・レインフィールが進み出れば、イズル・M・ヴォルゴールとラーナフも歩み寄る。
「子ども達(『エクス』のメンバー)にも手伝ってもらうんだろ? フォローしよう」
「そうだな、誰かの手紙や贈り物を届ける為のお手伝いもしたいな。例えば代筆とか」
 イズルは集まった『エクス』の子ども達を見て頷き、ラーナフは考えながら提案する。ナバルジャはその話を聞きながら、何度も頷いて了承した。
「冒険者殿たちのことは信頼しているのである!」
 ナバルジャは、冒険者と『エクス』の子ども達に「手紙を頼む」と深々と頭を下げた。

●配達しよう
「まずは、区分分けから!」
 シャルロットは早速『エクス』の子ども達と共に手紙や荷物に向き合う。
 配達区分の地図は預かっている。それを元にまず大まかなブロック分けを行った。地図にはブロックごとに赤、青、黄の色を割り振った。それを地図に書き入れ、仕分けの際荷物にインクとリボンで色別の印をつける事で分かりやすくした。
 その上で配達ルート順に配達物を纏めておく事も忘れない。
(効率よいルートの選定も必要ね)
 シャルロットは地図としばしにらめっこし、ルートを地図に書き込んだ。それを配達担当組で共有するのだ。

 一方、その頃エイルは軍の作戦資料を閲覧できないかレビジュ・バトーに聞いてみた。
「うーん、ちょっと難しいかもねぇ」
「そうか……」
 レビジュの言葉にエイルは眉根を寄せる。彼は帝国所属であるレビジュに頼み兵士の配属先などを代わりに調べてもらうことにした。
 しばらくして、レビジュが戻ってくる。
「とりあえず、纏めてきたよ」
「……ありがとう。それじゃあ、はじめるとするか」
 エイルはレビジュが渡した調査結果からシャルト周辺の兵配置等を確認すると、『届け先の兵士』とその『配属先』をリストアップする。
(万が一(戦死など)も想定して、交戦記録も確認しておくか)
 戦場を特定する資料もここにはある。シャルト以外にも砦などがある。生きていればそこに配達すればよい事。亡くなっていたならば……遺品などと共に家族の元へ返送するしかない。
「もし、資料で把握できない人がいた場合はどうする?」
 ふと浮かんだ疑問をレビジュが口にすると、エイルは少し考える。
「そうだな、そこは兵士たちに聞くしかないだろう。……時間はあるか?」
 彼の問いにレビジュは少し考え「多分」と頷く。二人は資料を片っ端から照らし合わせ、それでも分からない部分はシャルトにいる兵士達に聞いた。
 情報を集められるだけ集めたおかげで、宛先不明の物も大半は配達先が判明。わからない分は一旦ナバルジャ達に預ける事にし、判明した分だけでも居場所のメモを付ける。
「これをシャルロットの色分けと、そうでない物に分けよう」
「僕も手伝うよ!」
 エイルとレビジュはてきぱきと仕分けをするのであった。

「それにしても、寒いし……。ユールフェスらしさも欲しいよね」
 という事でアリアが用意したのは、ユールフェスっぽい色合いをした、あったかなケープや帽子である。それに雪道でも運びやすいように橇や台車の準備もしていた。こっちにもユールフェスらしい装飾がされているが、これは用意を手伝ってくれた帝国兵の遊び心らしい。
 『エクス』の子ども達は用意された暖かい装備にとても喜んでいる。そこに持参したマフラーと手袋を装備すれば防寒的にばっちりである。
「これ暖かいさぁ!」
「動きも阻害しないし、なかなかいいな」
「でしょでしょ?」
 フリューと様子を見に来たエイルも装備し、準備万端だ。
 フリューは配達に専念するため体力を温存させていた。彼女は配達をする予定の子ども達と共にウォーミングアップをして待っていたらしい。
(リストとかはシャルロットとエイルが準備してくれる。その分うちが頑張るさぁ!)
 彼女が気合十分な様子に、エイルは少し苦笑する。だがアリアは「やる気満々だね!」とニコニコ顔だ。
「こっちは配達先が分からなかった人たちの分。どうにか解った分だけでも共有しておきたくてな」
 エイルがそういってフリューたちに渡す。一部は別の砦に配達されるため帝国兵が請け負ってくれるらしい事も情報共有しておく。
「こっちが赤の区域で、この分が黄色の区域、だね。それから青はこれとこれ……」
 アリアはエイルから共有してもらった情報を元に配達用の台車や橇に手紙や荷物が入った袋を置く。
 その間にシャルロットと仕分けを頑張った子ども達が声をかける。フリューはぱっ、と目を輝かせ早速荷物を受け取りに行った。
「シャルロット君達も、これどうぞ!」
 アリアがシャルロットたちにもケープと帽子を渡せば、配達組全員が素敵なユールフェスらしい姿に。これで準備は整った。
「それじゃ、さっそく配達しましょう!」
 シャルロットの言葉に、みんな笑顔で声を上げた。

●ようこそ、受付窓口へ!
 一方その頃。
 砦に作られた窓口には、ちらほらと兵士たちが集まっていた。
「落ち着いて並んでください!」
「手紙と荷物はこちらで受け付けます!」
 『エクス』の子ども達が、声をかけ誘導する。窓口で手紙を受け取った子ども達は、冒険者のアイデアで用意された、国ごとの仕分け籠へと手紙を入れていく。そこから、イズルは更に地域別に仕分けていく。彼は〈戦術眼〉も使い、子ども達を気遣う。
「わからないことあったら聞くんだぞ。それから、適度に休憩も取っていこう」
 イズルは子ども達の様子を見、時折暖かい飲み物を与える。張り切りすぎている子には落ち着くように穏やかに声をかけた。
(こうしてみると、だいぶ動きが機敏になったな……)
 共に動きながら、イズルは『エクス』の子ども達が益々成長してきたことに気付いた。元は子どもとは言えどテロ集団の一員(メドゥの指先構成員)であったし、今では兵士としての訓練も受けている。
(そう言えば、セディが言っていたな。皆、知識をどん欲に吸収していると)
 イズルは表情を引き締める。子ども達は確かに前を向いている。
「俺も、頑張らないとな」
 彼はカバンに忍ばせた資料を思い、ぽん、とそれに触れて頷いた。

 窓口カウンターでは、レティシアが代筆の為に情報を聞いていた。
 贈る相手も読み書きが難しい場合は、ナバルジャなど配達する者に『手紙を読んで欲しい』というメモを添付した。
 中には怪我で手が上手く動かなくても自分で書きたいという者がおり、レティシアは考える。
(こういう方もいらっしゃるのですね……)
 レティシアは代筆で手いっぱいになっていると、ラーナフが目に入った。彼はちょうど代筆を終えた所だった。
「こちらの代筆をお願いします。私はこちらの方のフォローに……」
「わかったよ。では、こちらの方に……」
 レティシアに頼まれたラーナフは頷き、兵士から聞き取りを行う。レティシア自身は、怪我をした兵士のフォローに入り、手を添えて筆をとらせた。
「ありがとう。どうしても、家族には自分で書きたかったんだ」
 兵士の言葉に、レティシアは静かに微笑んだ。

 ラーナフは力仕事を主に行っていた。だが、時間がたつとそれよりも代筆の方が多くなった。
 代筆を依頼した人の中にはうまく言葉を紡げず黙る者や、途中で泣き出してしまう者もいた。ラーナフは、そっと寄り添うように声をかけ、相棒たる兎(モネ)を撫でてもらう事で落ち着かせ、少しずつ紡いでいった。
 兵士たちの大半は手紙の配達を希望する。荷物の大半は小さめで、『戦死者の遺品を家族に送って欲しい』という依頼だった。ラーナフはそれに兵士の似顔絵を付ける事を提案した。
「何かしら形に遺すのは、きっと力になるから。……俺がそうだったんだ」
 彼は、今は見る回数が減ったスケッチブック(亡き妻の似顔絵)を優しく抱きしめながら語る。兵士は静かに頷き、生前の仲間について話し始める。
 ラーナフは、何度もうなずき、優しいタッチで描いていった。

●ユールフェスの雰囲気を纏って……
「お届け物さぁ!」
「お届け物です!」
 地図で赤の区分となった場所を、フリューが子ども達と共に行く。配達を行う彼女たちの声が響き、兵士達の顔が明るくなる。
 フリューは天地、壁も自由に駆け(様々なスキルを駆使して)、風の様に素早く進む。そして花咲く笑顔で手紙を手渡すのだ。
「お届け物さぁ。名前、合ってる?」
「あぁ、それは俺だ。ありがとう。サインをすればいいのかい?」
「そうさぁ! これにお願いするよ!」
 フリューは、出立前に子ども達にも『受領印を貰う』ように指導していた。それが行き渡り、子ども達もちゃんと受領印をもらっているようだ。
 アリアの提案で用意されたユールフェスらしい色合いのケープを纏ったことで、兵士達は「今年もユールフェスの季節か」と少しほっこりした顔になっていた。
 フリューのにこやかな笑顔に釣られ、緊張していた子ども達も徐々に笑顔になっていく。
「皆、いい調子さね!」
「ねぇちゃん、めっちゃかっこいい!」
 エルフの少年が、フリューの駆ける姿を見てはしゃぐ。彼女は、褒められてうれしくなり、くすぐったそうに笑った。
 フリューが先行し、子供たちが後からついていく。その賑やかな姿に兵士達の中にはちょっと懐かしさを覚える者もいたようだ。
「お返事がある人は、ここで受け取るさぁ!」
 途中で彼女がそう言えば、手紙の返事を持ってくる人もちらほらといた。その様子にフリューと子ども達は呼びかけてみてよかった、と頷いた。

 黄色の区分となった場所では、アリアが子ども達と配達を行っていた。
「こっちだよ! みんな笑顔で対応しようね!」
 アリアの言葉に子ども達も元気に頷く。
 この辺りは手紙の他に手袋を贈ったりマフラーを贈ったりする人が多かった。受け取った兵士たちは家族からの贈り物を喜び、早速身につけたりしていた。
 その途中、祈りの場へも向かう。そこにいる狼のハーフビースト、バラクに手紙を届けるのだ。アリアが名前を確認すると、バラクは僅かに首を傾げる。
「え? 俺にかい?」
「そうだよ。サイン貰える?」
 バラクは不思議そうにサインをし、手紙を受け取る。と……、その相手が意外な人物だったのか、目を丸くしていた。
「どうしたの?」
「いや、その……。前にお世話になった里の人が送ってくれたみたいで。よくここに居るのがわかったなぁってさ」
 バラクが嬉しそうにしている顔を見て、傍らのホムンクルス、ユィットも嬉しそうにしている。だが、若干寒そうに見えたアリアは予備のケープと帽子を手渡す。
「これ、使って」
「え? いや、その……悪いよ」
 遠慮するユィットに、アリアは悪戯っぽい笑みを見せると「えいや!」と着せてしまった。
「いいんだよ。余っちゃった奴だから」
 アリアはそう言うと別の所へ配達に向かった子ども達と共にその場を去る。その背中を見送ったバラクとユィットは、「あったかいな」「うん」と言い顔を見合わせ微笑むのだった。

「私達はこっちに行きますよ」
 シャルロットと子ども達は青の区分となった場所へ向かっていた。
 この辺りは王国の貴族たちが多いようで、『エクス』の子ども達は聊か緊張気味であった。しかしシャルロットが〈礼儀作法〉の知識を紐解き、スマートに対応しているのを見ると、それを真似しつつ頑張っていた。
 手紙を受け取った兵士達はみな嬉しそうで……。見ている側も心がほっとする。
 その一方、戦死した事を知らずに送られてきた手紙もある。
(悲しいですよね……)
 シャルロットはどんな相手だったか話を聞き、記録する。そして、遺品と仲間からの手紙を添えた物を受け取った。
「必ず、届けるように伝えます」
 シャルロットの言葉に、とある貴族は深々と頭を下げた。
 彼女は、その相手から戦死した人の似顔絵を描いてもらうとそれらをひとまとめにした。
(配達するとき、〈幻影〉を使って生前の笑顔とか見せられないでしょうか?)
 提案はしてみようと思う彼女であった。
 シャルロットと子ども達は礼儀正しく対応していく。そうしているうちに、子ども達の表情も頼もしくなったような気がした。
「あと少しです。頑張りましょう」
 シャルロットの言葉に、子供たちは力強く頷いた。

「場所は割った。後はお前らの仕事だ」
 任せる、とフリュー達を見送ったエイルは、別の砦に配達する手紙を纏めていた。帝国兵に手伝ってもらいながら、砦別に仕分けしたのだ。
(そうか、戦況によって移動する事もあるからか……)
 比較的近い砦には、半日ほどで到着するらしい。「頼んだぞ」とエイルは帝国兵に荷物を預けると、門を出て行くまで見送った。
 彼の手元に残ったのは、戦死した者宛の手紙である。これらは遺品と共に送り主へ返送される事になっている。
(……)
 しばし封筒を見つめていたが、ややあってナバルジャの元に向かう。ナバルジャはそれを受け取り、静かに頷いた。
「遺品と共に返送してくれ」
「任されたのである」
 ナバルジャは、静かに頷いた。

 エイルがナバルジャの元を去ると、フリューたちの声が聞こえてくる。
(早いな)
 まぁ、予想していた通りだな、とも内心で呟きながら彼はフリュー達を出迎えるべく出発地点へと足を向けた。

●それぞれの想いと
 アリア達が外で配達業務に勤しんでいる頃。
 レティシアとラルジャン・ジキタリスは手紙の受け取りを続けていた。
 ひと段落着いた所で、彼女はそっとラルジャンに問いかける。
「ラルジャン様、レビジュ様とはお話しされているのですか?」
「そう、だね。彼も忙しいけれども時間があるときには話すようにしているよ」
 互いに、互いを知る必要があるから、と可能な限りレビジュもラルジャンと話す時間を作っているようだ。
 それを聞き安心するレティシアであったが、全てが終わったらまた離れてしまう。
「この戦いが終わっても、手紙のやり取りを続けては?」
「あぁ、そうしようかな」
 レティシアとラルジャンは頷き笑い合う。
 そうしていると、二人は休憩の時間となった。
「よかったら、ラルジャン様も学園の『保健同好会』の皆様に書かれては? 心配されているでしょうし」
 レティシアの誘いに、ラルジャンは「それはいいな」と穏やかに頷く。彼曰く、『保健同好会』のメンバーの中にはラルジャン同様にここへきている者も2,3人いるらしい。彼らにも声をかけ、出してみようと語った。
「レティシアさんは、手紙を書かないのか?」
 それとなくラルジャンが問えば、レティシアはほんのり苦笑交じりに口を開く。
「そうですね……。私も、家族に、書いてみようかと。実は、帝国の戦いに無断で参加してしまったので……」
「だったら、尚更書かないといけないな」
 そんな彼女に、ラルジャンもまた内心で苦笑した。

 レティシアは用事がある為、途中でラルジャンと別れる。
 ラルジャンが先に一人で休憩用にあてがわれた部屋に向かうと、既にイズルがそこにいた。彼は持っていた資料をカバンに仕舞い、「お疲れ様」と手を振った。
 ラルジャンの後ろから数名の子ども達がやってくる。彼と同じタイミングで休憩に入った子どもたちだ。
「俺と交代だな。ゆっくり休んで」
「手紙をお願いします、イズル殿」
 部屋を後にするイズルの言葉に、ラルジャンは会釈で返す。
 他の子ども達は既に用意された軽食を食べ始めていた。美味しそうに食べる姿を見ているうちに、ラルジャンも空腹を覚え食事を取る。
 ほのぼのと話しているうちに、子ども達がレビジュの事を話してくれた。メドゥの指先で似た境遇の子ども達を集めてチームを作った事、そのチームでは面倒見の良い兄的存在であった事などを知る。
(そうか……)
 ラルジャンは、『メドゥの指先』に行った以後のレビジュを知らない。本人もざっくりとしか話していなかったからだ。だが、子ども達の話から、少なくとも寂しい思いをしていない事を知り少しだけ安堵した。
 ラルジャンは微笑みと共に礼を述べ、子ども達は無邪気に笑う。
 実は、イズルが『エクス』の子ども達に「レビジュのいいところ、このお兄さんに教えてあげよう」と言っていたのだ。
 仕事に戻ったイズルは、配達の際受け取った手紙を預けに来たレビジュと出くわした。軽い挨拶もそこそこに仕分けしようとしたイズルだったが、レビジュはカバンから覗いた本の表題に、少しだけ目を細める。
「それ……」
 レビジュの問いに、イズルは静かに頷いて微笑んだ。その本……【代像】(おもかげうつし)は、かつての仲間が残した研究資料を本にしたものだ。
 レビジュは何か言おうとして小さく首を振り、微笑み返すことでイズルの意志を尊重した。
「最近は、『読む』というより、文字ばっかり(彼が生きた証を)見ているかな」
「忘れないでいてくれることは嬉しいよ。でもね、確かに今を生きているみんなのことも、忘れちゃいけないよ。イズルさんの事だから、解っているとは思うけど」
 どこか寂し気なイズルに、レビジュはそっと「死者に惹かれすぎないでね?」と告げる。
 レビジュの祈るような声に、イズルは「大丈夫だよ」と小さく頷いた。

 部屋の中。
 ラーナフは、兵士達から戦死した者の特徴を聞き似顔絵を描いていた。
 途中まではレティシアと共に代筆に当たっていたが、戦死者の家族宛の手紙等がある程度集まった為似顔絵の作業に専念する事にしたのだ。
 顔の特徴、笑った時の癖、生前の様子……。それらを聞き、丁寧に描き上げる。
 戦死者宛の手紙も、遺品と共に家族へと返送される。その分の似顔絵もラーナフが担当していた。
「さっきからずっと書いてない?」
 『エクス』の一人が心配そうに声をかけてきた。リスのハーフビーストだろう少女はラーナフと相棒の兎に水を持ってきてくれたようだ。
「ありがと。そこに置いてて」
「ラーナフさんも、適度に休憩してね。根詰めすぎはだめだよ」
 少女の言葉に、ラーナフは笑顔で頷いた。
(えーっと……)
 前に休憩したのはいつだろうか? ラーナフは思い出せないことに気付いた。彼は少女が持ってきてくれた水などを口にすると、少しホッとする。
 そういえば、まだ妻も一緒だった頃。何かに夢中になっていて窘められた事があったかもしれない。僅かな懐かしさと寂しさを覚えた彼は、そっとスケッチブックを開く。そこに描かれた妻の顔に小さく微笑みかけた。
 しばし見つめ、再び閉ざしたラーナフは「俺もちょっと休憩してくるかな」と先ほど貰った軽食と水を持ち休憩用の部屋へと向かった。

●すべてを終えて
 配達が無事に終わり、アリアは『エクス』の子ども達に暖かい料理を食べさせようと食堂へ連れていく。
「みんなお疲れ様! 寒かったよね?」
 みんなが食堂に入ったところで、手紙の受付等をやっていた子ども達や祈りの場と手伝いに行っていた子ども達も読んでくる予定だ。
 最初、ナバルジャやレビジュ達に迷惑をかけられないから、と費用を用意しようとしたアリア。だが、ナバルジャは「気持ちだけ受け取っておくのである」と固辞したのだ。
「我々ロア商会は、この子ども達の為にもちょっとした食事を用意している。勿論、冒険者の皆様にも。気を使ってくれたことは大変嬉しい。だが、我々(ロア商会)として、この子ども達を、冒険者様方を労いたいのである」
 ナバルジャの言葉に、アリアは「ありがとう」と心からお礼を言った。

「配達、無事に終わったさぁ! みんな喜んでくれたさぁ!」
 フリューがニコニコ顔でそう言えば、シャルロットがふとこんなことを呟く。
「そういえば、手紙随分書いてないな。戦場から貰えば嬉しいよね」
 贈りたい人がいるって素敵! と彼女は優しく笑う。そして、フリューと、彼女達を出迎えたエイルに
「二人はお手紙出したい? 私が出したらお返事くれる?」
 と問いかけた。真っ先に答えたのはフリューだ。
「シャルからのお手紙? もちろん! 狸印でお届けするさぁ♪」
 はじける笑顔で答えるフリューの横で、エイルは「考えておこう」と静かに言う。
 そんな仲の良い三人の様子をラーナフは優しい目で見つめていた。
「手紙を書くのならば、ここに必要な物はそろっているよ。どうだい?」
「それなら、丁度いいさね! 書きに行こう!」
 フリューが楽し気に窓口へ向かう。その背中をシャルロットとエイルは顔を見合わせ苦笑しつつもその背中を追った。
 あとからシャルロットから二人に渡された手紙は、野の花が添えられた愛らしい物で。エイルとフリューの心が和んだのは言うまでもない。
 フリュー達が窓口へ行くと、ラルジャンとレティシアがすでに手紙を書いていた。その様子をイズルが優しい笑みで見つめている。フリュー達に気付いたイズルは、にこやかに手を上げた。
「ラルジャン様は、字が綺麗ですね」
「レティシアさんの方が綺麗な字を書いているよ」
 向かい合って書いていた二人は、思わず笑い合う。
「書き終わったら、預かるよ。仕分けにはなれたよ」
 イズルが手紙を書いている面々にそういえば、柔らかな返事が返ってくる。その声の中にアリアの声も……。
(うーん、何を書こう?)
 いざ書くとして……相変わらず好意をそのまま伝えるのは恥ずかしい。結局日頃の感謝を書いた。
「それは?」
 ラルジャンが不思議に思って問えば、アリアは「自分で届けてくる!」と外へ出て行った。
(どんな顔で受け取ってくれるかな?)
 アリアは、少しドキドキしながら、今食堂にいるだろうレビジュの元へ駆けて行った。

 こうして、シャルトに届けられた手紙は配達され、冒険者によって兵士達からの手紙を受け取った。時間はかかるが、家族の元に届けられるだろう。そして、戦死者の家族へはラーナフが描いた似顔絵つきで。
 冒険者達は、大切な人たちの想いの重さをこの依頼で改めて実感した。
「手紙で願いが……叶うと良いのにねぇ」
「そうですね……」
 アリアがぽつりと呟けば、シャルロットが相槌を打つ。
「でも、それだけだと叶わないんだよな」
 イズルが寂し気に呟けばフリューがそんな彼の肩をぽん、と叩いた。
「その願いを叶える手助けなら、できると思うさぁ」
「できると、いいよね」
 ラーナフが静かに頷き、エイルとレティシアも同じ気持ちで頷く。
「できる事を、やっていきましょう」
「その力が、俺たちにはあるんだからな」
 二人の言葉に、冒険者達は頷いた。
 まだ戦いは続く。そんな中、少しでも兵士達とその家族の心を繋ぐことが出来れば。冒険者達は祈るように彼らの事を思うのだった。

(終)

マスターコメント

おまたせしました。菊華です。 皆様のおかげでお手紙は無事届けられました。心より御礼申し上げます。 今回はユールフェス成分薄めだったかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。 また縁がありましたら宜しくお願いします。
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準7 / 6〜25人

2024年01月05日 18時40分02秒 公開

成功

相談掲示板

  1. フリューリングスルフト=ティエラ

    ワァ───ヽ(*゚∀゚*)ノ───イ 揃ったね! シーフのフリューさぁ、よろしく! うちは友人達と【赤翼】タグで兵士たちへの配達に行く予定さぁ。 その際、兵士たちから家族宛に預かったらそれも届けるか、担当のとこに持っていこうかと考えてるさぁ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0