【幻秋】仮装の森でお茶会を?
コースケ
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シナリオID:3293
オープニング
●憩いの森の異変
リーンエス王国を揺るがした数々の騒動は一端の収束を見せたが、その爪痕は深く、戦場のひとつとなったパンクリアース学園も生徒の数はまばらで、校舎には戦いの痕跡が残っている。
その学園内を駆ける少女と少年の姿があった。
「姉さま、一人で行っては危ないです!」
「だって森の無事を確認しないと!」
「だからって焦り過ぎですよ! クリーパーの生き残りが居たらどうするんですか!?」
「だから余計に心配なの!」
少女の名前はリエル・サンウッド。パンクリアース学園の五年生でガーデニング愛好会(通称:庭愛会)という園芸系の部活の会長をしており、庭愛会が管理する学園内の憩いの森が心配で、学園に着くなり確認のため駆け付けている途中であった。
「その時は姉さまじゃどうしようもないでしょー!?」
そう叫びながら続くのはエリク・サンウッド。現在進行形で姉に振り回される少年である。
「お願い、無事でいて!」
皆で植えた大切な木や草花が被害を受けているのではという不安から爆走するリエルは、憩いの森の見える場所に出て――
「……はぁ!?」
予想外の光景に間の抜けた声を上げた。
●白い精霊(?)
「姉さまどうしたんですか……って何ですかこれ?」
リエルとエリクが目にしたのは、憩いの森のあちこちに丸く白いものが漂っている光景だった。
そして、その白い球体には子供の落書きのような目と口、小さなストライプの帽子が乗り、おとぎ話に出てくるおばけのような姿をしていた。
「わははー。この森はジュールがいただいたー」
「この森をきょてんにイタズラしてやるのだー」
「まわるまわるせかいがまわるーう?」
そのおばけ達は憩いの森にあるベンチを遊具にして遊んだり、水車にしがみついて目を回している。
危険は無いように感じたリエルはエリクを制して、コケモモを口しているお化けに近付いて声をかけた。
「すっぱーい」
「ええと、あなた達は何をしているのかな?」
「? ジュールに用か? 強くなりたきゃイタズラするぞー?」
「強くなりたいとは思わないけど、ここは私達の大事な場所なの。あんまりイタズラはして欲しくはないかな」
ジュールと名乗ったおばけは、ふよふよと漂ってくるとリエルを見下ろして残念そうに呟く。
「そーかー。きょうしゃにしいたげられることをうけいれるんだねー」
「私は強くなくても、周りの人が助けてくれるから。だから私は私に出来ることをするの」
「できること?」
きょとんとするジュールに、リエルは笑顔で答える。
「お花の世話とか、お料理でその人たちを喜ばせたりとか。貴方がすっぱいと言っていたそのコケモモも、甘いお菓子にすれば美味しいのよ?」
「あまいもの! おりょうりー!」
「イタズラじゃないのか?」
「すっぱいを甘いにかえるー?」
見ると複数のジュールがリエルを取り囲んでいた。その反応に手応えを感じたリエルは、ジュール達に提案をする。
「じゃあ、私が甘いものを作ってきてあげるからイタズラはやめて貰えないかな?」
「すっぱくない?」
「イタズラしなきゃー?」
「でもゆうわくにはあらがえないー」
「イタズラ!」
「すっぱいはいやー」
「じゃあこうしようー」
「ないすあいであー」
ジュール達は顔を合わせなにやら相談していたが、ふよふよとリエルを取り囲む。
「……えっと、どうするのかな?」
「ジュールのしたをまんぞくさせたらイタズラはかんべんしてやろうー」
「れんこうするのだー!」
「「「おー!」」」
「キャー!?」
ジュール達はリエルを抱え上げ、えっさほいさと憩いの森の方向へ運んで行く。そこには濃い霧が固まっており、中は何処か別の空間に繋がっているようだった。
「姉さまに何をする気だ!!」
当然エリクが止めに入るが、ジュール達に間に入られてしまう。
「おまえもりょうりするのかー?」
「それともイタズラかー?」
「「強くなりたきゃイタズラするぞー?」」
「どっちも御免だ!」
エリクは剣を振り回すが、ジュールは綿毛の様にふわふわ漂ってまるで攻撃が当たらない。その間にもどんどんリエルとの距離が離れて行く。
「姉さま!! くそっ、僕にもあの人達みたいな力があれば……!!」
思わず口にした言葉に、ジュール達がざわっと反応する。
「強くなりたいって言ったー?」
「でもちょっとちがうー?」
「うーん、ぎりおっけー?」
「そうかー、おっけーかー」
顔を見合わせたジュール達は何やら納得すると、一体がエリクに向かって宣言した。
「強くなりたきゃイタズラするぞー?」
「こいつ姿が変わる? ってええっ!?」
●仮装の森
霧を抜けたリエルは、鬱蒼とした森の中に立っていた。
「そこでりょうりをするのだー!」
「ジュールをまんぞくさせれればかえしてやろうー」
「できなきゃイタズラだー」
「くびをあらってまっているぞー」
リエルを連れてきたジュール達は口々にそう言うと、木々の間へ消えてゆく。
「……行っちゃったにゃん。エリクは大丈夫かにゃあ……。まあ、あの子も授恵者だし大丈夫にゃん」
リエルはここに入る前に聞こえた弟の悲鳴が気になったが、あっさり心配をやめて状況を確認する。
横にはリエルが何十人も手を繋いでやっと一周するほどの大木が生えており、幹に窓や扉、煙突が付いていた。
「あの子達のお家かにゃん?」
扉を開けると、幹をくり貫いて作った幾つかの部屋があり、その中のひとつにかまどや調理台、ナイフやボウル等の器具が揃っていた。戸を開ければ、小麦粉や卵、調味料なども並んでいる。
「凄いにゃ! お砂糖まであるにゃん!」
リエルはウキウキとそれらを確認し、これなら何とかなるとお菓子を作る準備を始める。
「よーしやるにゃ! ……でも、どうしてこんな格好になっちゃたのかにゃ?」
気合いを入れたリエルは、自分の黒猫の仮装(と語尾)に首を傾げた。
リーンエス王国を揺るがした数々の騒動は一端の収束を見せたが、その爪痕は深く、戦場のひとつとなったパンクリアース学園も生徒の数はまばらで、校舎には戦いの痕跡が残っている。
その学園内を駆ける少女と少年の姿があった。
「姉さま、一人で行っては危ないです!」
「だって森の無事を確認しないと!」
「だからって焦り過ぎですよ! クリーパーの生き残りが居たらどうするんですか!?」
「だから余計に心配なの!」
少女の名前はリエル・サンウッド。パンクリアース学園の五年生でガーデニング愛好会(通称:庭愛会)という園芸系の部活の会長をしており、庭愛会が管理する学園内の憩いの森が心配で、学園に着くなり確認のため駆け付けている途中であった。
「その時は姉さまじゃどうしようもないでしょー!?」
そう叫びながら続くのはエリク・サンウッド。現在進行形で姉に振り回される少年である。
「お願い、無事でいて!」
皆で植えた大切な木や草花が被害を受けているのではという不安から爆走するリエルは、憩いの森の見える場所に出て――
「……はぁ!?」
予想外の光景に間の抜けた声を上げた。
●白い精霊(?)
「姉さまどうしたんですか……って何ですかこれ?」
リエルとエリクが目にしたのは、憩いの森のあちこちに丸く白いものが漂っている光景だった。
そして、その白い球体には子供の落書きのような目と口、小さなストライプの帽子が乗り、おとぎ話に出てくるおばけのような姿をしていた。
「わははー。この森はジュールがいただいたー」
「この森をきょてんにイタズラしてやるのだー」
「まわるまわるせかいがまわるーう?」
そのおばけ達は憩いの森にあるベンチを遊具にして遊んだり、水車にしがみついて目を回している。
危険は無いように感じたリエルはエリクを制して、コケモモを口しているお化けに近付いて声をかけた。
「すっぱーい」
「ええと、あなた達は何をしているのかな?」
「? ジュールに用か? 強くなりたきゃイタズラするぞー?」
「強くなりたいとは思わないけど、ここは私達の大事な場所なの。あんまりイタズラはして欲しくはないかな」
ジュールと名乗ったおばけは、ふよふよと漂ってくるとリエルを見下ろして残念そうに呟く。
「そーかー。きょうしゃにしいたげられることをうけいれるんだねー」
「私は強くなくても、周りの人が助けてくれるから。だから私は私に出来ることをするの」
「できること?」
きょとんとするジュールに、リエルは笑顔で答える。
「お花の世話とか、お料理でその人たちを喜ばせたりとか。貴方がすっぱいと言っていたそのコケモモも、甘いお菓子にすれば美味しいのよ?」
「あまいもの! おりょうりー!」
「イタズラじゃないのか?」
「すっぱいを甘いにかえるー?」
見ると複数のジュールがリエルを取り囲んでいた。その反応に手応えを感じたリエルは、ジュール達に提案をする。
「じゃあ、私が甘いものを作ってきてあげるからイタズラはやめて貰えないかな?」
「すっぱくない?」
「イタズラしなきゃー?」
「でもゆうわくにはあらがえないー」
「イタズラ!」
「すっぱいはいやー」
「じゃあこうしようー」
「ないすあいであー」
ジュール達は顔を合わせなにやら相談していたが、ふよふよとリエルを取り囲む。
「……えっと、どうするのかな?」
「ジュールのしたをまんぞくさせたらイタズラはかんべんしてやろうー」
「れんこうするのだー!」
「「「おー!」」」
「キャー!?」
ジュール達はリエルを抱え上げ、えっさほいさと憩いの森の方向へ運んで行く。そこには濃い霧が固まっており、中は何処か別の空間に繋がっているようだった。
「姉さまに何をする気だ!!」
当然エリクが止めに入るが、ジュール達に間に入られてしまう。
「おまえもりょうりするのかー?」
「それともイタズラかー?」
「「強くなりたきゃイタズラするぞー?」」
「どっちも御免だ!」
エリクは剣を振り回すが、ジュールは綿毛の様にふわふわ漂ってまるで攻撃が当たらない。その間にもどんどんリエルとの距離が離れて行く。
「姉さま!! くそっ、僕にもあの人達みたいな力があれば……!!」
思わず口にした言葉に、ジュール達がざわっと反応する。
「強くなりたいって言ったー?」
「でもちょっとちがうー?」
「うーん、ぎりおっけー?」
「そうかー、おっけーかー」
顔を見合わせたジュール達は何やら納得すると、一体がエリクに向かって宣言した。
「強くなりたきゃイタズラするぞー?」
「こいつ姿が変わる? ってええっ!?」
●仮装の森
霧を抜けたリエルは、鬱蒼とした森の中に立っていた。
「そこでりょうりをするのだー!」
「ジュールをまんぞくさせれればかえしてやろうー」
「できなきゃイタズラだー」
「くびをあらってまっているぞー」
リエルを連れてきたジュール達は口々にそう言うと、木々の間へ消えてゆく。
「……行っちゃったにゃん。エリクは大丈夫かにゃあ……。まあ、あの子も授恵者だし大丈夫にゃん」
リエルはここに入る前に聞こえた弟の悲鳴が気になったが、あっさり心配をやめて状況を確認する。
横にはリエルが何十人も手を繋いでやっと一周するほどの大木が生えており、幹に窓や扉、煙突が付いていた。
「あの子達のお家かにゃん?」
扉を開けると、幹をくり貫いて作った幾つかの部屋があり、その中のひとつにかまどや調理台、ナイフやボウル等の器具が揃っていた。戸を開ければ、小麦粉や卵、調味料なども並んでいる。
「凄いにゃ! お砂糖まであるにゃん!」
リエルはウキウキとそれらを確認し、これなら何とかなるとお菓子を作る準備を始める。
「よーしやるにゃ! ……でも、どうしてこんな格好になっちゃたのかにゃ?」
気合いを入れたリエルは、自分の黒猫の仮装(と語尾)に首を傾げた。
解説
目的:リエル・サンウッドの救出
●妖精(?)ジュール
おとぎ話のおばけのような姿をした妖精。
「強くなりたきゃイタズラするぞ?」と声をかけて来て「強くなりたい」と答えると強力なモンスターに化けて襲ってくる(命を取ることはない)
勝っても負けても満足して去っていくが、「強くなりたくない」等と答えると哀れんでくる。
今回はパンクリアース学園憩いの森に出現した無限の霧(後述)から現れリエルを霧に拐って行った。PCが望めば霧に入れてくれ、自分達を満足させればここから出してくれると言う。
数が多いため全てを戦って満足させるのは難しく、別の方法で満足させる必要がある。
リエルに合流して甘いお菓子を作るも良し、音楽やダンスなど各人の得意な事で喜ばせる事が出来れば、満足し学園へ戻してくれる。
●不思議空間「夢幻の霧」
この秋、ロスガリア大陸の各地で頻繁に報告されている怪奇現象。森や草原の一角や、湖沼、遺跡、村など、ある一定の場所がある日突然に不思議な空間と化してしまう。
パンクリアース学園の憩いの森に発生した夢限の霧は、入ると鬱蒼とした森の中に入り込む。
この中では入り込んだものは不思議な力で仮装させられ、場合によっては語尾や言動まで変化してしまう(外に出ると元に戻る)
霧は現時点でいつ消えるかは不明。
PL情報:霧は五日程で消えるが、リエル一人では全てのジュールを満足させる量のお菓子を作れないため、何もしなければリエルは霧が消えるまで帰って来ない。
●NPC
リエル・サンウッド
リーンエス王国南部に領地を持つサンウッド子爵家の長女。パンクリアース学園生5年生の17歳。非授恵者。
ガーデニング愛好会(通称:庭愛会)の会長であり、明るい金髪を動きやすいよう後ろで結んだ快活な少女で、誰にでも親切に接するため男女問わず人気があります。
夢幻の霧の中では黒猫の仮装(キャラクターシート参照)と語尾に『にゃ』が付く。
エリク・サンウッド
今回の依頼人。リエルの弟でパンクリアース学園1年生の13歳。
ジュールと戦い勝利したが、自分一人ではリエルを救出出来ないと判断し苦渋の思いで助けを呼んだ。
クラスはファイターでレベルは20くらい。ジュールとの戦闘でスキルはほぼ使いきり生命力も一桁まで負傷している。
連れて行くかはPC判断だが、夢限の霧の中ではネズミの仮装となる。
語尾は意地でも変えないつもり(油断すると『チュウ』とか言う)
マスターより
《プレイング用テンプレート》
●仮装の内容(必須。おまかせあり)
●語尾・口調の変化(不思議な力に抗って無くても良い)
お世話になっております。コースケです。
前置きは長いですが、要は仮装して得意なことをジュールに見せればオッケーなシナリオです。
俺に皆さんのコスプレを書かせてくれ……!!
こほん。せっかくの夢限の霧の設定ですし、この時期だからこその仮装パーティー的なシナリオを如何でしょうか?
最初は憩いの森に現れたジュールがウィリアム王子に変身して襲ってくるシナリオ(金色に輝いて目からビームとか撃ってくる)を考えていたのに、何故かこういった内容になっていました(
分かり辛いことがありましたら、相談を覗いたジュールが伝えますので、リエルに答えられる事でしたら伝言で回答します。
それでは、よろしければご参加お待ちしております!
リプレイ
●仮装の森へ
「予想外の状況になってるみたいだね」
「リエル……ついに妖精に気に入られて攫われるようにもなったとは」
「すみません。姉さまを助けて下さい……!」
海神 江流とナタリア・フィッツジェラルドは、憩いの森を占拠するジュール達に何とも言えない顔をし、隣では不安そうな顔のエリクが立っていた。
パンクリアース学園の生徒会役員である江流と、庭愛会の会員であるナタリアにとって先の騒動で憩いの森に被害が出ていないのは喜ばしいが、得体の知れない妖精(?)に森を占拠され、知人が拐われたとあっては見過ごせない。
ジュールは『強くなりたい』等と口にしなければ襲ってくることは無いらしいが、うっかりリエルがそういうことを言ってしまう可能性もあるからだ。
「閉じ込められているなんて大変ですわ。助けに参りませんと」
「ああ。会長が心細い思いをしてるかもしれないしな」
江流と同じく生徒会役員であるネーヴェ・グラヌローザは、憩いの森にふよふよとジュールが漂う幻想的な光景に目を奪われるも、本来の目的を思い出して気持ちを切り替え、その隣に立つ黒猫のハーフビースト、アルフィー・リッパーも尻尾を立てて気合いを入れていた。
「ここはジュールのひみつきちだぞー?」
「なに用かー?」
「もしかして強くなりたいのか?」
「強くなりたきゃイタズラするぞー?」
そんな五人の所へジュールが漂って来るが、身構えるエリクを制してナタリアが前に出た。
「強さへの渇望? 大いにあるとも。医者としての本分は一人でも多くの兵士を治せるように、という意味ではどんなに過酷な場所でもついていけるように強くはなりたい」
「じゃあ、強くなりたきゃイタズ――」
何処かで見た金髪の青年に変身しようとしたジュールだったが、ナタリアはそれを制する。
「まあ待て。ただこれは職業柄の話であって、私は同時に好奇心旺盛でな。私の知らない世界を体験して私自身の糧になるというのはとても素晴らしい事だ」
「???」
ジュールが一房だけ生えた金髪を揺らして首を捻るが、ナタリアは言葉を続ける。
「勉強も鍛錬も、出来る事を続けた結果、昨日の自分より前に進めるようになるという意味では強くなるという事に違いはないんじゃないかな?」
「むぅ。つまりあたまを使ったイタズラか?」
「こまったぞ。あたまのいいものにばければいいのか?」
いまいち飲み込めていない様子のジュール達に、江流も口を開く。
「強くなるに越した事はないけども、一人で何でもってのは難しいもんでね。君らはすごい数でただ戦うのも賢くなさそうだし、どうせ話ができるなら、仲間になってみないか?」
「むむむ……」
「強くなりたいのか?」
「なりたくないのか?」
「たまむしいろのかいとう?」
ジュール達が顔を付き合わせるのを見て、見かねたネーヴェが声をかけた。
「つまりですね、私達はジュール様方とお友達になりたいんですの」
「お友だち?」
「はい。よろしければ私達をジュール様のお家にお招き頂けませんでしょうか? 先に招待されたリエル様と一緒なら、よりジュール様にご満足頂けると思いますわ」
にっこり笑いかけるネーヴェの隣でアルフィーもこくこくと頷く。それを見たジュール達はやっと納得いった様子で声を上げた。
「そうかーそれならはやく言ってくれればいいのに」
「ではついて来るがいいー」
「でも、つまらなかったらイタズラするぞー?」
五人はジュール達に手を引かれ、夢幻の霧に足を踏み入れた。
●仮装の森へようこそ
「ええっ! 何これ!?」
霧を抜けると鬱蒼とした森に立っていた一同だが、いつの間にかネズミの着ぐるみ姿になっていたエリクが声を上げる。
「なんだこの姿は?!」
それは冒険者達も同様だった。アルフィーはお伽噺に出てくる不思議の国をさ迷う少女の仮装(流石にスカートでなく水色のサロペットだったが)をしており、それに目を輝かせるネーヴェは、同じお伽噺に出てくるウサギの格好をしている。
「……まぁ、可愛らしいお嬢さん! ふふっ、とっても良くお似合いですわ」
「ネーヴェはウサギか……」
普段着ない明るい色の服に声を上げそうになったアルフィーだったが、ネーヴェの姿に目を奪われていた。頭にウサギ耳を着け、燕尾服に短いスカートが可愛らしくてドキドキして目をそらしてしまう。
そのネーヴェは「時間が来てしまうわ。急がなきゃ!」と言いながら見たこともないような小型で精巧な時計を確認していた。
「夢幻の霧の中では不思議なことが起こると聞いていたけど、我々の衣装が変わっているのがそれみたいだネ?」
「口調も変わっていますね。これがジュールの力なのか、それとも霧によるものなのか興味深い所です」
江流はゆったりとした黒いズボンに胸に大きく刺繍の入った丈の長い上着を着て、釣鐘帽の鍔を斜めに立てた様な帽子を頭に乗せ、額には複雑な模様の書かれた紙の札が貼り付けられている。
「ん? この格好かネ。キョンシーっていう東方で死体を故郷に移送する呪術ダヨ。まあ、東方の事は良く分かっていないから実在するかは分からないけどネ?」
「はあ。死霊術みたいなものですか……?」
「全く違うとは言えないが、死者を安らかに眠らせて家族を安心させる為の術らしいヨ。でも、暴走するかもしれないから気を付けないとネ?」
エリクの視線に気付いた江流が説明し、ニヤリと笑う。その口には鋭い犬歯が伸びていた。
「ヂュッ!?」
「怯えているじゃないの。あまりからかわないであげてね?」
後ろからエリクの肩に手を置き顔を寄せるナタリアは、ローブと先の曲がったとんがり帽子に箒といったいかにもな魔女の姿で口調も柔らかくなっているが、目と口元が微かに笑っていて内面は何時ものひょうきんな彼女であった。
「もう、ナタリアさんまでー!」
抗議するエリクに一同が笑っていると、ジュールが一体近寄って来る。外でイタズラをしようとした個体らしく金の前髪を揺らしたジュールは、青いマントと装飾された剣をベルトで腰(?)に下げていた。
「さあジュールを満足させてもらおうかー?」
●夢幻の森の舞踏会
「得意なことで満足……じゃあ私、踊りますわ! 可愛いお嬢さん、付き合って下さいな」
「えっ?」
ウサギが少女の手を取り、ジュール達の前で一礼するとアルフィーをリードして踊り出した。
アルフィーも戸惑いながらも、ネーヴェの巧みなリードに任せてステップを踏む。
(お上手ですよ。流石アルフィーさんです♪)
(うん。着いてくのがやっとだけど、俺、変じゃないかな)
(周りの事は気にしないで。ダンスはパートナーに集中するものですよ?)
小声で囁く距離、普段と違う口調にドキドキしっぱなしのアルフィーに微笑むと、ネーヴェは歌を歌い出す。
――時計の針が回り お茶会がもうすぐ始まる
――Tick Tack さあ急がなきゃ Tick Tack 遅刻するわ
――Tick Tack 時計の針は Tick Tack 止まってはくれないの
「フム。ここはBGMが必要だネ?」
江流はピョンと前に出ると、ネーヴェの歌に合わせ竹笛を奏でる。そのまま笛を吹きながら、コートの裾を翻し巧みにステップを踏んで札の下からジュール達に目配せする。
軽快に跳ねながらも笛を吹く息に乱れは無い江流の誘いに、ジュール達が色めき立つ。
「それはちょうせんとうけとったー」
「ジュールのかれいなあしさばきを見せてやるー」
「あしは無いがなー?」
青マントを筆頭に、それぞれ何処かしら仮装をしたジュールもダンスに加わり、ふわふわ浮かびながら回ったり上下し、ネーヴェ達も加わってダンスの輪が出来上がる。
「エリクも行ってらっしゃい。ほら、あなた達も」
「ナタリアさんは……?」
ナタリアはエリクの背を押し出すと、連れていた白毛の黒汗馬も一緒に輪に加えてやる。その背には江流の揺満月とネーヴェの愛猫である黒猫のアーテル、頭の上にはアルフィーの栗鼠が登り、それぞれこの光景を興味深そうに眺めていた。
「……さて。私は君達を調べさせて貰いましょうか」
「い、イタズラするのはいいけどされるのは嫌なのだー」
――時計の針が回り 終わりの時間が近付く
――Tick Tack 楽しい時間は Tick Tack 終わってしまうわ
――Tick Tack 時計の針は Tick Tack 止まってはくれないの
――Tick Tack 今日はもうお仕舞い Tick Tack そしていつか何処かで Tick Tack また踊りましょう
ネーヴェとアルフィー、江流がぺこりと一礼し、ジュール達はその小さな手でぺちぺちと拍手を送る。
「ぶらぼー!」
「いい歌とダンスだったのだー」
「あらふぉーのえんそうも見事なりー」
喝采を受けた三人は、顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
●夢幻の森でお茶会を
「あ! 皆さん良く来てくれたにゃぁん!」
舞踏会の後にお腹が減ったと駄々を捏ねるジュールを満足させるため、お菓子を作ろうと案内された一同を出迎えたのは半泣きのリエルだった。
お菓子を作ろうとしたが、ジュール全員を満足させるだけの量を一人で作るには手が足りないと気付き途方にくれていたらしい。
「いっそのこと強くなりたいって言ってみようかと思ってた所だったにゃん」
「……間に合って良かった様だネ?」
江流が嘆息する横で、アルフィーがエプロンを着けてキッチンに立つ。
「よーし、こっからは俺に任せてくれ。ネーヴェも手伝ってくれるか?」
「はい! ジュールさんもお腹を空かせてますからね。急がなきゃ」
「栗と南瓜でパイを作るのですね。では、リエルと私はコケモモで何か作りましょうか」
「ナタリアさん口調が変わってるにゃ? でも、手伝ってくれるのは助かるにゃん!」
「任せて。魔女謹製のスペシャルなスイーツで、ジュールの心も打ち倒して見せるわ」
リエルが準備していた生地をアルフィーが引き継ぎ、リエルはナタリアにプリンを任せ全体の指揮にかかる。
「ネーヴェ、パイ生地にマロンクリームを乗せるから、その上に栗の甘露煮を置いて貰えるか?」
「はい! お手伝いさせて貰います」
ネーヴェは甘露煮を置きながらアルフィーの手元を観察する。急がなきゃ、急がなきゃと口に出しつつも、その手際の良さに見とれてしまい、その手伝いが出来ることが嬉しくて心が温かくなる。
アルフィーもまた、自分に着いて来ようと急ぎながら、でも転がらないよう丁寧に甘露煮を置くネーヴェの白い指に目を取られ、こうやって一緒に過ごす時間が凄く大切だなと改めて感じていた。
(ダンスの時にあの手を握ったんだな)
ドキドキする胸の音も今は悪くないなと思いながら、クリームを塗り終える事を残念に思う。
「終わっちゃいましたね」
そう呟くネーヴェの言葉にも、寂しいものを感じるのは考えすぎだろうか。そこで本来の目的をはっと思い出し、ジュールの喜ぶお菓子を作ろうと意識を切り替えたアルフィーは次の作業に取りかかった。
「じゃあ、生地を包んで焼き上げるぞ!」
ナタリアは水を張ったバットに乗せたプリンをオーブンに入れると、リエルに声をかける。
「そう言えば学園でもプリンを作っていたそうね。これもその経験を活かしてかしら?」
「はいにゃん。沢山作らないといけにゃいから作ったことのあるプリンにしてみたにゃん。……でも、火加減は自信がにゃいから後でアルフィーさんに見てもらわにゃいと」
「ふふふ。学んだことをきちんと活かしてるみたいね。学生はそうでないと」
ナタリアは普段見せない柔らかな笑みを浮かべ、リエルの顎に指を当ててくすぐった。
「っふにゃあ?」
「あら? 子猫ちゃんなら喜んでくれるかと思ったのだけど」
「もう、からかわにゃいで下さいー!」
リエルの抗議の声に、ナタリアの笑い声が響いた。
「ではワタシは何をしようかネ?」
「江流さんにはその鍋に入っているコケモモを潰して濾して貰えたら助かるにゃー」
「了解ダヨー」
江流に指示を出したリエルは、エリクにホイップクリーム作りを押し付ける(猫にネズミは逆らえないのだ)と、全員に声をかける。
「もう少しで完成するからがんばるにゃー!」
「これがコケモモの甘味かー?」
「お砂糖がたくさん使えたから、凄く美味しいにゃん!」
青マントのジュールを筆頭に、森に並べられたテーブルと椅子に座ったジュール達の前に、パンプキンパイとマロンパイ、プリンの皿が並んでいた。プリンにはホイップクリームが添えられ、ナタリア特製コケモモの魔女ソースがかけられている。
飲み物は江流がコケモモを濾して作った赤いジュースだ。
「すっごーい!」
目を輝かせたジュール達は行儀良く席に着き、ちっちゃな手をあわせて声をあげた。
「「「いただきまーす」」」
「あまくてすっぱーい」
「いくらでも食べられるのだー」
「カボチャ好きー」
「マロンパイさくあまー」
「ジュースもあまずっぱーい」
ジュール達の反応は上々の様で、一同も笑顔で席に着いた。
「ウン。このプリン美味しいネ。無料デーに加えてもいいんじゃないカナ?」
「そうですね。でも、今からだと遅刻じゃないかしら?」
江流とネーヴェがプリンを口に運びながら、学園で月に一度行われる癒しの学食プリン無料デーに加えられないか話題にし、リエルがそれ反応する。
「大丈夫ですよ。コケモモは種類によっては十一月の頭頃までは収穫できますし、またエリクに果実を集めさせておきますにゃん!」
「ヂュッ!?」
「コケモモは美容や健康に良い栄養を多く含みますから。一緒にジュースも提供すると尚良いと思うわ」
「「!!」」
医療・薬学に通じたナタリアの言葉に、ネーヴェとリエルの目がキランと光る。
「でも、ジュール達も喜んでくれたみたいで良かったな」
アルフィーの言葉に皆が頷いていると、青マントのジュールがふよふよと漂ってきて一同の前に止まる。
「ジュールはまんぞくしたのだ。イタズラ出来なかったのはこころのこりだが、やくそくだから帰してやろうー」
辺りに霧が立ち込め、ジュールの姿が見えなくなってゆく。
「弱くてもがんばっていきろー」
「美味しかったのだー」
「ばいばいー」
ちょこちょこと手を振る影も見えなくなり、再び霧が晴れれば一同は学園の憩いの森の中に立っていた。
「帰って来たのですわね」
「ああ。あんな格好をさせられたのは恥ずかしかったけど楽しかった」
ネーヴェとアルフィーが寂しそうに呟くと、リエルが急に踞る。
「リエル!?」
ナタリアが声をかけるが、リエルは首を振って呻き声を上げる。
「あんな格好した上に語尾ににゃんって……」
「大丈夫ですわ! 大変似合っていましたから!」
「うあぁ……!!」
ネーヴェのフォローが止めとなって地面に転がるリエルに、江流はため息を着いた。
「ともあれクロードに心配かけないで済む結末になったんだし、良かったんじゃ無いかネ?」
「予想外の状況になってるみたいだね」
「リエル……ついに妖精に気に入られて攫われるようにもなったとは」
「すみません。姉さまを助けて下さい……!」
海神 江流とナタリア・フィッツジェラルドは、憩いの森を占拠するジュール達に何とも言えない顔をし、隣では不安そうな顔のエリクが立っていた。
パンクリアース学園の生徒会役員である江流と、庭愛会の会員であるナタリアにとって先の騒動で憩いの森に被害が出ていないのは喜ばしいが、得体の知れない妖精(?)に森を占拠され、知人が拐われたとあっては見過ごせない。
ジュールは『強くなりたい』等と口にしなければ襲ってくることは無いらしいが、うっかりリエルがそういうことを言ってしまう可能性もあるからだ。
「閉じ込められているなんて大変ですわ。助けに参りませんと」
「ああ。会長が心細い思いをしてるかもしれないしな」
江流と同じく生徒会役員であるネーヴェ・グラヌローザは、憩いの森にふよふよとジュールが漂う幻想的な光景に目を奪われるも、本来の目的を思い出して気持ちを切り替え、その隣に立つ黒猫のハーフビースト、アルフィー・リッパーも尻尾を立てて気合いを入れていた。
「ここはジュールのひみつきちだぞー?」
「なに用かー?」
「もしかして強くなりたいのか?」
「強くなりたきゃイタズラするぞー?」
そんな五人の所へジュールが漂って来るが、身構えるエリクを制してナタリアが前に出た。
「強さへの渇望? 大いにあるとも。医者としての本分は一人でも多くの兵士を治せるように、という意味ではどんなに過酷な場所でもついていけるように強くはなりたい」
「じゃあ、強くなりたきゃイタズ――」
何処かで見た金髪の青年に変身しようとしたジュールだったが、ナタリアはそれを制する。
「まあ待て。ただこれは職業柄の話であって、私は同時に好奇心旺盛でな。私の知らない世界を体験して私自身の糧になるというのはとても素晴らしい事だ」
「???」
ジュールが一房だけ生えた金髪を揺らして首を捻るが、ナタリアは言葉を続ける。
「勉強も鍛錬も、出来る事を続けた結果、昨日の自分より前に進めるようになるという意味では強くなるという事に違いはないんじゃないかな?」
「むぅ。つまりあたまを使ったイタズラか?」
「こまったぞ。あたまのいいものにばければいいのか?」
いまいち飲み込めていない様子のジュール達に、江流も口を開く。
「強くなるに越した事はないけども、一人で何でもってのは難しいもんでね。君らはすごい数でただ戦うのも賢くなさそうだし、どうせ話ができるなら、仲間になってみないか?」
「むむむ……」
「強くなりたいのか?」
「なりたくないのか?」
「たまむしいろのかいとう?」
ジュール達が顔を付き合わせるのを見て、見かねたネーヴェが声をかけた。
「つまりですね、私達はジュール様方とお友達になりたいんですの」
「お友だち?」
「はい。よろしければ私達をジュール様のお家にお招き頂けませんでしょうか? 先に招待されたリエル様と一緒なら、よりジュール様にご満足頂けると思いますわ」
にっこり笑いかけるネーヴェの隣でアルフィーもこくこくと頷く。それを見たジュール達はやっと納得いった様子で声を上げた。
「そうかーそれならはやく言ってくれればいいのに」
「ではついて来るがいいー」
「でも、つまらなかったらイタズラするぞー?」
五人はジュール達に手を引かれ、夢幻の霧に足を踏み入れた。
●仮装の森へようこそ
「ええっ! 何これ!?」
霧を抜けると鬱蒼とした森に立っていた一同だが、いつの間にかネズミの着ぐるみ姿になっていたエリクが声を上げる。
「なんだこの姿は?!」
それは冒険者達も同様だった。アルフィーはお伽噺に出てくる不思議の国をさ迷う少女の仮装(流石にスカートでなく水色のサロペットだったが)をしており、それに目を輝かせるネーヴェは、同じお伽噺に出てくるウサギの格好をしている。
「……まぁ、可愛らしいお嬢さん! ふふっ、とっても良くお似合いですわ」
「ネーヴェはウサギか……」
普段着ない明るい色の服に声を上げそうになったアルフィーだったが、ネーヴェの姿に目を奪われていた。頭にウサギ耳を着け、燕尾服に短いスカートが可愛らしくてドキドキして目をそらしてしまう。
そのネーヴェは「時間が来てしまうわ。急がなきゃ!」と言いながら見たこともないような小型で精巧な時計を確認していた。
「夢幻の霧の中では不思議なことが起こると聞いていたけど、我々の衣装が変わっているのがそれみたいだネ?」
「口調も変わっていますね。これがジュールの力なのか、それとも霧によるものなのか興味深い所です」
江流はゆったりとした黒いズボンに胸に大きく刺繍の入った丈の長い上着を着て、釣鐘帽の鍔を斜めに立てた様な帽子を頭に乗せ、額には複雑な模様の書かれた紙の札が貼り付けられている。
「ん? この格好かネ。キョンシーっていう東方で死体を故郷に移送する呪術ダヨ。まあ、東方の事は良く分かっていないから実在するかは分からないけどネ?」
「はあ。死霊術みたいなものですか……?」
「全く違うとは言えないが、死者を安らかに眠らせて家族を安心させる為の術らしいヨ。でも、暴走するかもしれないから気を付けないとネ?」
エリクの視線に気付いた江流が説明し、ニヤリと笑う。その口には鋭い犬歯が伸びていた。
「ヂュッ!?」
「怯えているじゃないの。あまりからかわないであげてね?」
後ろからエリクの肩に手を置き顔を寄せるナタリアは、ローブと先の曲がったとんがり帽子に箒といったいかにもな魔女の姿で口調も柔らかくなっているが、目と口元が微かに笑っていて内面は何時ものひょうきんな彼女であった。
「もう、ナタリアさんまでー!」
抗議するエリクに一同が笑っていると、ジュールが一体近寄って来る。外でイタズラをしようとした個体らしく金の前髪を揺らしたジュールは、青いマントと装飾された剣をベルトで腰(?)に下げていた。
「さあジュールを満足させてもらおうかー?」
●夢幻の森の舞踏会
「得意なことで満足……じゃあ私、踊りますわ! 可愛いお嬢さん、付き合って下さいな」
「えっ?」
ウサギが少女の手を取り、ジュール達の前で一礼するとアルフィーをリードして踊り出した。
アルフィーも戸惑いながらも、ネーヴェの巧みなリードに任せてステップを踏む。
(お上手ですよ。流石アルフィーさんです♪)
(うん。着いてくのがやっとだけど、俺、変じゃないかな)
(周りの事は気にしないで。ダンスはパートナーに集中するものですよ?)
小声で囁く距離、普段と違う口調にドキドキしっぱなしのアルフィーに微笑むと、ネーヴェは歌を歌い出す。
――時計の針が回り お茶会がもうすぐ始まる
――Tick Tack さあ急がなきゃ Tick Tack 遅刻するわ
――Tick Tack 時計の針は Tick Tack 止まってはくれないの
「フム。ここはBGMが必要だネ?」
江流はピョンと前に出ると、ネーヴェの歌に合わせ竹笛を奏でる。そのまま笛を吹きながら、コートの裾を翻し巧みにステップを踏んで札の下からジュール達に目配せする。
軽快に跳ねながらも笛を吹く息に乱れは無い江流の誘いに、ジュール達が色めき立つ。
「それはちょうせんとうけとったー」
「ジュールのかれいなあしさばきを見せてやるー」
「あしは無いがなー?」
青マントを筆頭に、それぞれ何処かしら仮装をしたジュールもダンスに加わり、ふわふわ浮かびながら回ったり上下し、ネーヴェ達も加わってダンスの輪が出来上がる。
「エリクも行ってらっしゃい。ほら、あなた達も」
「ナタリアさんは……?」
ナタリアはエリクの背を押し出すと、連れていた白毛の黒汗馬も一緒に輪に加えてやる。その背には江流の揺満月とネーヴェの愛猫である黒猫のアーテル、頭の上にはアルフィーの栗鼠が登り、それぞれこの光景を興味深そうに眺めていた。
「……さて。私は君達を調べさせて貰いましょうか」
「い、イタズラするのはいいけどされるのは嫌なのだー」
――時計の針が回り 終わりの時間が近付く
――Tick Tack 楽しい時間は Tick Tack 終わってしまうわ
――Tick Tack 時計の針は Tick Tack 止まってはくれないの
――Tick Tack 今日はもうお仕舞い Tick Tack そしていつか何処かで Tick Tack また踊りましょう
ネーヴェとアルフィー、江流がぺこりと一礼し、ジュール達はその小さな手でぺちぺちと拍手を送る。
「ぶらぼー!」
「いい歌とダンスだったのだー」
「あらふぉーのえんそうも見事なりー」
喝采を受けた三人は、顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
●夢幻の森でお茶会を
「あ! 皆さん良く来てくれたにゃぁん!」
舞踏会の後にお腹が減ったと駄々を捏ねるジュールを満足させるため、お菓子を作ろうと案内された一同を出迎えたのは半泣きのリエルだった。
お菓子を作ろうとしたが、ジュール全員を満足させるだけの量を一人で作るには手が足りないと気付き途方にくれていたらしい。
「いっそのこと強くなりたいって言ってみようかと思ってた所だったにゃん」
「……間に合って良かった様だネ?」
江流が嘆息する横で、アルフィーがエプロンを着けてキッチンに立つ。
「よーし、こっからは俺に任せてくれ。ネーヴェも手伝ってくれるか?」
「はい! ジュールさんもお腹を空かせてますからね。急がなきゃ」
「栗と南瓜でパイを作るのですね。では、リエルと私はコケモモで何か作りましょうか」
「ナタリアさん口調が変わってるにゃ? でも、手伝ってくれるのは助かるにゃん!」
「任せて。魔女謹製のスペシャルなスイーツで、ジュールの心も打ち倒して見せるわ」
リエルが準備していた生地をアルフィーが引き継ぎ、リエルはナタリアにプリンを任せ全体の指揮にかかる。
「ネーヴェ、パイ生地にマロンクリームを乗せるから、その上に栗の甘露煮を置いて貰えるか?」
「はい! お手伝いさせて貰います」
ネーヴェは甘露煮を置きながらアルフィーの手元を観察する。急がなきゃ、急がなきゃと口に出しつつも、その手際の良さに見とれてしまい、その手伝いが出来ることが嬉しくて心が温かくなる。
アルフィーもまた、自分に着いて来ようと急ぎながら、でも転がらないよう丁寧に甘露煮を置くネーヴェの白い指に目を取られ、こうやって一緒に過ごす時間が凄く大切だなと改めて感じていた。
(ダンスの時にあの手を握ったんだな)
ドキドキする胸の音も今は悪くないなと思いながら、クリームを塗り終える事を残念に思う。
「終わっちゃいましたね」
そう呟くネーヴェの言葉にも、寂しいものを感じるのは考えすぎだろうか。そこで本来の目的をはっと思い出し、ジュールの喜ぶお菓子を作ろうと意識を切り替えたアルフィーは次の作業に取りかかった。
「じゃあ、生地を包んで焼き上げるぞ!」
ナタリアは水を張ったバットに乗せたプリンをオーブンに入れると、リエルに声をかける。
「そう言えば学園でもプリンを作っていたそうね。これもその経験を活かしてかしら?」
「はいにゃん。沢山作らないといけにゃいから作ったことのあるプリンにしてみたにゃん。……でも、火加減は自信がにゃいから後でアルフィーさんに見てもらわにゃいと」
「ふふふ。学んだことをきちんと活かしてるみたいね。学生はそうでないと」
ナタリアは普段見せない柔らかな笑みを浮かべ、リエルの顎に指を当ててくすぐった。
「っふにゃあ?」
「あら? 子猫ちゃんなら喜んでくれるかと思ったのだけど」
「もう、からかわにゃいで下さいー!」
リエルの抗議の声に、ナタリアの笑い声が響いた。
「ではワタシは何をしようかネ?」
「江流さんにはその鍋に入っているコケモモを潰して濾して貰えたら助かるにゃー」
「了解ダヨー」
江流に指示を出したリエルは、エリクにホイップクリーム作りを押し付ける(猫にネズミは逆らえないのだ)と、全員に声をかける。
「もう少しで完成するからがんばるにゃー!」
「これがコケモモの甘味かー?」
「お砂糖がたくさん使えたから、凄く美味しいにゃん!」
青マントのジュールを筆頭に、森に並べられたテーブルと椅子に座ったジュール達の前に、パンプキンパイとマロンパイ、プリンの皿が並んでいた。プリンにはホイップクリームが添えられ、ナタリア特製コケモモの魔女ソースがかけられている。
飲み物は江流がコケモモを濾して作った赤いジュースだ。
「すっごーい!」
目を輝かせたジュール達は行儀良く席に着き、ちっちゃな手をあわせて声をあげた。
「「「いただきまーす」」」
「あまくてすっぱーい」
「いくらでも食べられるのだー」
「カボチャ好きー」
「マロンパイさくあまー」
「ジュースもあまずっぱーい」
ジュール達の反応は上々の様で、一同も笑顔で席に着いた。
「ウン。このプリン美味しいネ。無料デーに加えてもいいんじゃないカナ?」
「そうですね。でも、今からだと遅刻じゃないかしら?」
江流とネーヴェがプリンを口に運びながら、学園で月に一度行われる癒しの学食プリン無料デーに加えられないか話題にし、リエルがそれ反応する。
「大丈夫ですよ。コケモモは種類によっては十一月の頭頃までは収穫できますし、またエリクに果実を集めさせておきますにゃん!」
「ヂュッ!?」
「コケモモは美容や健康に良い栄養を多く含みますから。一緒にジュースも提供すると尚良いと思うわ」
「「!!」」
医療・薬学に通じたナタリアの言葉に、ネーヴェとリエルの目がキランと光る。
「でも、ジュール達も喜んでくれたみたいで良かったな」
アルフィーの言葉に皆が頷いていると、青マントのジュールがふよふよと漂ってきて一同の前に止まる。
「ジュールはまんぞくしたのだ。イタズラ出来なかったのはこころのこりだが、やくそくだから帰してやろうー」
辺りに霧が立ち込め、ジュールの姿が見えなくなってゆく。
「弱くてもがんばっていきろー」
「美味しかったのだー」
「ばいばいー」
ちょこちょこと手を振る影も見えなくなり、再び霧が晴れれば一同は学園の憩いの森の中に立っていた。
「帰って来たのですわね」
「ああ。あんな格好をさせられたのは恥ずかしかったけど楽しかった」
ネーヴェとアルフィーが寂しそうに呟くと、リエルが急に踞る。
「リエル!?」
ナタリアが声をかけるが、リエルは首を振って呻き声を上げる。
「あんな格好した上に語尾ににゃんって……」
「大丈夫ですわ! 大変似合っていましたから!」
「うあぁ……!!」
ネーヴェのフォローが止めとなって地面に転がるリエルに、江流はため息を着いた。
「ともあれクロードに心配かけないで済む結末になったんだし、良かったんじゃ無いかネ?」
マスターコメント
お待たせしました。
字数に余裕があると思っていたらつい楽しくて制限間近まで書いてしまいました。
皆さんにも楽しんで頂ければ幸いです。
ご参加ありがとうございました!
ショートシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜8人
2023年11月06日 16時26分53秒 公開
大成功
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