【遺言】舞い降りる鴉

影絵 企鵝

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シナリオID:3257

オープニング

⚫︎鴉の会議
「……とりあえずまとめると、帝国南東の森にグノーシスの故郷があって、今はその愛弟子のホムンクルスが恵まれない婦女子と暮らしている、ってことですね」
 リブラネスタのとある旅籠。隅っこの小さなテーブルを挟み、ミネルヴァ・フィーギルと家来のカトリーヌ・ロミューラが早口で話し合っていた。
「ええ。そしてその地下にはグノーシスが作ったアンデッドが封じられ、外敵に襲われた時の備えとなっているようですが……彼女の実力では完全な使役が難しいらしく、実際には無防備と言って差し支えない状況かと」
 カトリーヌはタラのムニエルを細かく切りながら口へと運ぶ。嘴を模した特徴的な兜は脇に置き、今は目から鼻まで覆う黒い仮面だけをつけていた。
「その状況を見た冒険者の中にはそんな事情を憂慮している者もおります。貴女の知己もその一人」
「……なるほど。でもカトリーヌ、なんでそれを私に?」
 ミーナがにっこり笑って首を傾げると、カトリーヌは仮面の奥の瞳で彼女を真剣に見据え、落ち着き払って応えた。
「貴女も興味を持たれることと考えた故、です」
「まあ、そうね」
 ミーナは笑みをかき消すと、腕組みしながら椅子にもたれる。
「そこの領主には何か動きがあるんですか?」
「いえ、特に。検討し対応するとは言ったものの、以降ギルドへ新たな依頼が投げ込まれた様子はなさそうです」
「変ですねえ。最初のアンデッド討伐はともかく、その後の調査まで冒険者任せにするってことは、そこの戦力は大したもんじゃないはず。それなのに山賊討伐は自分でやると?」
 顎を撫でながらぶつぶつ呟くミーナ。カトリーヌは身を乗り出して声を潜める。
「そこまで余所者任せにしたら威信に傷が付く、ということでは?」
「……まあそれもあるでしょうけど。隠れ里の住人に対してみんなが否定的な態度を示さなかったということも勘定に入れると……」
 首をふらふらと揺らして考え込むミーナだったが、やがて彼女は膝を打ち、残った食事を掻き込み始める。
「ちょっと、ギルドに行って、人を集めてきます。もしかしたら、事態は一刻を争うかも」
「いったいどんな理由で行くのです? 場合によっては内政干渉と取られかねませんよ」
「簡単ですよ」
 ナイフを置いたミーナは、カトリーヌの目の前で小さな指を振ってみせる。
「私は『鴉の弓』を探して東奔西走、悪徳商人を気まぐれに破滅させた阿呆ですよ。その動機に陰謀を探すだけ無駄ってもんじゃないですか? それじゃ」

 ミーナはフォークを置くと、風のように旅籠を飛び出して行った。それを見送ったカトリーヌは肩を竦める。

「……ま、それもそうね」

⚫︎ひたひたと迫る陰謀
 その森には、有象無象のならず者達が隠れ潜んでいた。特に名が知れていたのはゴート山賊団。帝国滅亡に乗じて寄り集まった彼らは、無秩序の中を揚々と練り歩き、窮地にある者達から奪えるものを奪えるだけ奪っていた。しかし、数年かけて旧帝国の誇りを抱く者達が秩序を取り戻し始めると、彼らの縄張りも瞬く間に縮んでいった。授恵者の構成員も多かっただけに壊滅には至らなかったが、森の中に隠れ棲み、同じ穴の貉や迷い込んだ旅人に襲い掛かるのが関の山になりつつあった。
 より彼らの肩身を狭くしたのは、突然森の中を駆け回るようになった一体のアンデッドの存在だった。それはまさに神出鬼没で、突然頭上から矢を浴びせて来ては、逃げ散る彼らを眺めて去っていく。それのせいで、彼らは自分の縄張りの中でさえ怯えて暮らす毎日となっていた。

 だが、彼らもただの間抜けではない。時間が経って異変に気が付き始めていた。狩りの為に隠れ家の外を出歩いても、樹上を飛び回る悍ましい葉擦れ音が聞こえなくなったのである。
「……最近は何だか静かになったよな」
「だよな。いつもだったら、そろそろ頭の上から鬱陶しいのが……」
 山賊二人がそう言って頭上を見上げると、枝の上にはフードを目深に被った黒ずくめの男が立っていた。男達は悲鳴をあげて飛び退く。
「うわぁっ!」
「簡単な事だ。あのアンデッドは排除された」
 黒ずくめの男は山賊達の目の前に飛び降りると、フードの向こう側から彼らをぐるりと見渡す。山賊は武器をだらしなく下げたまま、喉を震わす。
「は、排除された?」
「そうだ。冒険者の手によってな」
 山賊達は顔を見合わせる。髭面の頬は明らかに緩んでいた。もう影から飛んでくる矢に怯える必要はないのだ。男は剣に手を掛けたまま続ける。
「知っているか。あのアンデッドはこの森に隠されている古い財宝を守るために動いていたそうだ。……俺は今、その財宝を探している。どこにあるかわかるか」
「しらねえよ、そんなもん」
 彼らが首を振ると、男は溜め息を吐いて再び樹によじ登り、そのまま枝を飛び渡っていった。残された山賊達は色めき立つ。
「聞いたか?」
 財宝と聞いては居ても立っても居られない。今まで満足に活動できなかった分の埋め合わせも必要だ。
「行こうぜ、先を越されちまう前に!」

⚫︎急転直下
 四方から射かけられる矢。イヴは掘っ立て小屋の前に立ち、魔弾を放って必死に山賊の群れを牽制する。しかし最早多勢に無勢、山賊の一人が彼女へ迫り、鋭く斧を振り下ろした。
「はっ! あのアンデッドがいなけりゃ、後はたったの雑魚一人か!」
「くっ……」
 山賊はイヴの腹に蹴りを入れる。イヴは後ろへ吹っ飛ばされ、もんどりうって掘っ立て小屋の中に倒れ込む。身を寄せ合って引き籠っていた里の人々は、倒れた彼女を前に悲鳴を上げた。イヴは歯を食いしばって立ち上がると、掘っ立て小屋を取り囲む山賊達を見渡した。下卑た笑みを浮かべる悪漢。自分が倒れれば、残された者達の行く末は見え透いている。
――“彼女”を起こして君が扱いこなすには、まだ君自身が未熟過ぎる。
 それでも、今まさに最後の手段を使う時が近づいている。未熟でも何でも、やらなければならない。
「……シルヴィア、どうか――」

 刹那、彼女の祈りの言葉を遮り、眩い雷が一つ、隠れ里のど真ん中に炸裂した。咄嗟にイヴはその身を伏せ、山賊達も慌てて後退する。
「……アンデッドが何やら黒い弓を持っていたという噂を聞いて来てみれば……その弓は見当たらず、挙句このように見苦しい光景を前にすることになるとは」
 雷の残滓が掻き消えた時、そこには二人の女が立っていた。一人は鴉羽を挿した帽子を被り、色鮮やかな青い外套に身を包んだ女。もう一人は、黒い鎧とドレスに身を包み、その顔を鴉の兜で隠した女。
「貴様らに因縁は無いが、少女一人に群がる不埒者を放置する事は断じて出来ぬ。覚悟召されよ」
 黒ずくめの女は稲妻の走る剣を構える。彼女の放つ歴戦の気迫に一瞬気圧された山賊だったが、二人が妙齢の女であると気付くなり、途端に態度を変えた。
「ふん、女二人が来たところで何が出来る? 俺達を満足させてくれるのか?」
「おめでたい! 貴方達のような雑魚ども、私達だけでもほんの一捻りです! しかし今日ここにいるのは私達だけではない!」
 鴉羽の女が細身の剣を抜くと、武器を構えた冒険者達が山賊を取り囲むように姿を見せた。女は彼らを見渡すと、剣を高々と掲げた。
「恐れ慄け! 一切情け容赦なく、貴様達を叩き潰す者の名は!」

「ミネルヴァ・フィーギル!」

解説

メイン 隠れ里を救援する NPC ☆ミネルヴァ&カトリーヌ  フィーギル家の御令嬢と懐刀。『鴉の弓』を探すという名目で冒険者を連れ隠れ里へと乗り込んだ。 ⚫︎クラス  シーフLv35 & キャスターLv45 ⚫︎作戦方針  速攻(スキルをぶん回して制圧する) ⚫︎スキル  ダメージ系中心 ☆イヴ  ミレナリアの隠れ里のある意味リーダー的な存在。グノーシスから学んだ死霊術を扱うキャスターでもある。 ⚫︎クラス  キャスターLv20 ⚫︎状況  戦闘不能寸前 ☆里の人々  掘っ立て小屋に籠っている人々。山賊の強襲により怪我を負っている者も複数。 ENEMY ☆ゴート山賊団(授恵者)×6  山賊団の授恵者の方。鎧も武器もそれなりのものを使っているが、手入れが行き届いていない。 ●クラス  ウォーリア×3、シューター×3 ●スキル  範囲系攻撃が中心 ☆ゴート山賊団(一般)×12  授恵者じゃない方。弓で武装してぺちぺち射撃してくる。一捻り。 FIELD ☆ミレナリアの隠れ里 ・昼間。空から日光が届き視界は良好。 ・平地。戦闘領域はおよそ半径5Hex。 ・掘っ立て小屋の壁を遮蔽として一応使うことが出来る。 TIPS ・敵は放っておいてもいずれミーナとカトリーヌが駆逐する程度の実力。イヴや里の人々のカバーに回ってもいいかもしれない。 ・村を襲った動機は尋問すれば確認することが出来るだろう。

マスターより

影絵企鵝です。 無防備になった里に山賊が襲いかかりましたが、何とか救援が間に合いました。皆さんの実力ならばさして苦戦もしないはずなので、存分に捻り倒してください。 ではよろしくお願いします。

リプレイ

●波濤の如く
「さあ、覚悟しなさい!」
 ミネルヴァとカトリーヌが肩を並べ、山賊の群れへと襲い掛かる。彼女達の気勢に戸惑い、山賊達は咄嗟に四方へ散らばる。彼女達の脇を抜けるように跳んだ数人は、そのままイヴに狙いを定めて小屋へと走り出す。それを見たコルネリウス・アーラは、盾を構えて一気に身を低くする。
「させません、よ!」
 全身に溜め込んだバネを解き放ち、一息に間合いを詰めて横合いから体当たりを浴びせる。山賊がよろめいた隙に、コルネは小屋の入口へ立ちはだかり、後ろに縮こまる人々へちらりと振り返った。
「大丈夫です。イヴさんのことも皆さんの事も、私達が必ず護りますから」
 そっと口角を上げてみせたコルネは、すぐに顔を険しくして山賊へ向き直る。
「ということです。覚悟してください」
「今度はエルフかよ。一体どうなってやがる」
 山賊が唸ったところへ、小さな光弾の束が雨霰となって降り注ぐ。簡素な盾を掲げて咄嗟に身を守ると、ルアンナ・ミュラーが揚々と飛び出してきた。
「ここに手出しはさせません! 絶対に!」
 長柄の杖を大きく振るって威嚇する。成り行きとはいえ、この地を守るアンデッドを打ち倒してしまったのは他ならぬルアンナ達自身。この事態に至った責任の一端は少なくないと、彼女は奮い立っていた。
「キャスターだ! 先にやれ!」
 射手が次々に弓を引いてルアンナへと狙いを定める。ルアンナは杖を振り抜いて逆巻く風を引き起こすと、飛んだ矢を纏めて撥ね退け、そのまま光の礫を大量に擲つ。散り散りになる射手。今度は目の前の山賊が斧を構えて突っ込んできた。
「そんなんじゃ私に当てられませんよっ」
 ルアンナは鋭く杖を向け、眩い光を放つ。山賊が思わず足を止めると、ルアンナは悠々飛び退き杖を真一文字に振り抜く。エーテルの光が煌き、次々と蝶へ変わって山賊へと纏わりつく。山賊は踏ん張ろうとするが、蝶の数は次々に増し、その身を支えきれずに倒れ込む。
「くそっ! 何だ……!」
 突然現れた冒険者。しかも只者ではない。それに気づいた山賊達は身を縮める。そこへ更に駆けこんできたのは、白銀の杖を掲げたレティシア・レインフィール。杖の石突を地面へ突き立て、黄金色のエーテル波を放った。
「ご安心ください。ここにいるのは山賊よりももっと恐るべき存在と相対し、打ち克ってきた人ばかりです」
 レティシアは背後に縮こまる里の人々へ向き直ると、その頭上へ向かって杖を振る。刻まれた月の意匠からエーテルの輝きが降り注ぎ、イヴが受けた傷を癒していく。イヴは手をついて起き上がると、レティシアの顔を見上げた。
「貴方は……」
「今は休んでください。私達が必ず皆様をお守りします」
 レティシアも山賊へ対峙する。これで山賊に立つのは五人の女。山賊は歯噛みした。
「女ばっかりじゃねえか、バカにしやがって」
 彼が斧を握り直した瞬間、背後にふと黒い風が吹いた。
「そうか。なら俺が相手してやる」
 レピド・クロサイトが暗器を両手に握り、眼にも止まらぬ速さの三連撃を見舞う。背中に二薙ぎ、喉笛へ一薙ぎ。急所を狙った容赦のない止めの一撃は、あっという間に山賊を一人屠ってしまった。立ち竦む他の山賊を見渡し、レピドは吐き捨てる。
「どうした。女しかろくに襲えない臆病者の集まりか」
 単純な荒くれ者には単純な挑発がよく効く。皆がレピドへ狙いを定めた。
「舐めやがって!」
 襲い来る刃に矢をレピドは躱す。その内心には手を打たない領主への苛立ちが募っていた。何としてもこの場を守らなければ、という使命感も。レピドはその身を捻って山賊の攻撃を躱しながら、敵を一手に固めていく。彼はそのまま身を縮めると、一気に敵の間をすり抜けてその場を離れた。後に残されたのは、一塊になった山賊達。その間抜けな群れは、リディリディ・トゥラ・イェレミースのいい的だ。
(……これにあまり時間をかけるのも無駄ですね)
 リディは杖を掲げて天地のエーテルを掻き集め、それをそのまま不可視の波紋へ変えて山賊の群れへと投射する。リディの存在に気付いた時には既に遅く、彼らのど真ん中で収縮したエーテルが一気に弾けた。山賊達はもんどりうって吹っ飛び、地面に投げ出される。血まみれで呻く彼らを苦い顔で眺め、彼女は小さく溜め息を吐く。彼女もまた、この里を危機に晒してしまったのは不本意だった。
(彼女自身は戦いの中で散りたかったとのことですし、本望ではあったのでしょうが)
 二発目の狙いを定めながら、リディは倒れる山賊へと慎重ににじり寄る。
「こ、ここはかなり貧しい里です。食糧もお金も殆どありません。……それなのに、わざわざこの里を襲おうと思ったのは、どうしてですか?」
 尋ねてみるが、山賊達は口に溜まった血を吐き唸った。
「くたばりやがれ」
「……埒があきません」
 リディはもう一発入れて黙らせようとするが、射手達が次々と彼女へ狙いを定めた。気付いたコルネが盾を構えて割って入ると、リディはその隙に掘っ立て小屋の影へとその身を引っ込めた。
「授恵者そのものは少なそうですが、こうも射手が多いと……」
 彼女の目の前で、射手が次々に矢を放つ。授恵者でない者の攻撃とはいえ、無視できるわけではない。リディが物陰から動けずにいると、ロッカード=キリヤが動き出した。全身にエーテルを巡らせ、木陰から一足飛びに射手へと詰め寄る。
(まずは、こいつとこいつだ!)
 キリヤは短剣を二振り手に取ると、素早く切りかかる。山賊は振り返ったが、既にキリヤは急所に刃を突き立てていた。
「遅いな」
 血を噴き出して膝から崩れる山賊。それを蹴倒し、彼は次の標的を探す。
(足は止めない!)
 弓を引く山賊。キリヤは右に左に軽やかな身のこなしで矢を躱しながら、山賊に足払いを掛けて転ばせる。ひっくり返った山賊はナイフへ手を伸ばすが、キリヤはその腕に刃を突き立てた。山賊は呻き、キリヤを睨みつける。
「俺達の縄張りを荒らしやがって……正義の味方のつもりかよ」
「いいや。俺はあくまで依頼を受けたから戦っている。それだけだ」
 キリヤはそのまま山賊に止めを差す。震える亡骸を見下ろし、キリヤは刃を握りしめた。
(料理を教えた相手が殺されるのを、黙って見過ごすつもりはないけどな)
 心の奥に熱意を秘めて、彼は新たな標的を目指して走った。射手達の眼が彼に引かれているうちに、キリアン・フィッツジェラルドは小屋の影から狙いを定める。
(隠れ里の存在は秘匿されてもおかしくないでしょうに、なぜ情報が漏れたのでしょう)
 敵の一人の肩を撃ち抜きつつ、キリアンは思案を巡らせる。そんな彼に一人の射手が鏃を向けた。キリアンは咄嗟に小屋の影に身を隠して防ぐ。
(……後で捕まえて直接聞いてみればいい話ですか)
 キリアンは気を引き締めると、遮蔽の陰から一瞬敵の立ち位置を確かめ、天にめがけて矢を放つ。山なりの軌道を描いて飛んだ矢は、射手の頭上から襲い掛かり、その肩を撃ち抜いた。山賊は呻いて矢を取り落とす。
「弓というのは磨き続ければ僕みたいな公僕でも凶器たり得るんですよ」
「くそっ……! アンデッドの化け物がいなくなったと思ったら、今度は冒険者かよ!」
 喚く山賊。リディがそこへ巨大な炎弾を撃ちこむと、射手は断末魔の叫びと共に吹っ飛んだ。

 一方、小屋の中ではグレイブ・ヤードが山賊の襲撃で怪我を負った里の人々の治療に当たっていた。里の井戸で汲んでおいた水で傷を洗い、包帯を巻いていく。少年が一人、そんな彼の様子をじっと見ていた。グレイブは彼を一瞥する。
「気になりますか?」
 少年が頷くと、グレイブは水の入った桶を差し出した。
「水を少しずつ流して傷を洗ってください。傷口が膿むと別の病気になってしまうので」
 少年は頷くと、桶を取って近くの少女の傷を洗い流し始める。レティシアの治癒を受けたイヴは、その姿を見ながらその身を起こす。
「回復しました。私も――」
「無理をせず、貴方はここで守りに徹してください」
 イヴを手で制しつつ、グレイブは外の様子を窺う。だが、山賊は既に一掃され、生き残りが縛られているところだった。彼は肩を竦める。
「まあ、その必要もなかったようですね」
 剣を下ろしたコルネが振り返ると、掘っ立て小屋の中まで歩み寄り、身を寄せ合う里の人々へと手を差し伸べた。
「そこにいては落ち着かないと思います。……まずは陽の当たるところへ行きましょう」

●誰の仕業か
 冒険者達の迅速な攻勢によって守り抜かれた隠れ里。里の人々は真ん中の広場に集まり、山賊の生き残りは各々縛り上げられ里の隅へと押しやられた。リディは自らが繰り出した光の縄の強度を確かめながら、倒れた山賊達を見下ろす。
「……さて。改めて、お尋ねしたいと思います。この里を襲った理由……」
「それを話したら解放してくれるのか?」
 男の態度はふてぶてしい。レピドは一人の男の手を取り、暗器の先を爪の間に押し付ける。
「直ぐ話せ。さもなくばどうなるかわかるだろう?」
 蒼くなった男は急に素直になった。
「こ、ここに財宝があるって話を聞いたんだ。ずっとここを守ってるアンデッドに俺達は締め上げられてたんだ。その分の埋め合わせを貰おうってな」
「貴方達の理屈は知りません。そもそもここに貴方達の言う宝はありませんよ」
 コルネは冷淡な口調で言い放つ。
「おいおい……俺達は騙されたってのか?」
「騙されたかどうかはさておき、僕達が知りたいのは誰が貴方達に噂を吹き込んだかです」
 キリアンは山賊達の身なりを見渡す。装備の手入れが行き届いていない。山賊を装った雇われ、の線は薄そうだ。
「十全に答えられれば、荒んだ心もすっぱり忘れられて衣食足りる生活を約束しましょう」
 言うと、山賊は眼の色を変えた。一人が身を乗り出して早口でまくし立てる。
「顔は黒いフードを被ってたからわからなかった。……だ、だが、声は若い雰囲気だったし、持ってる剣も着てる服も綺麗だったぞ。ありゃあ山賊でも、いっそ旅人でもねえ」
 聞いたキリアンは周囲に目配せし、笑みを浮かべた。
「なるほど。それなりに参考になりそうです」
「そうか、じゃあ約束通りに――」
「ええ、約束は果たします。あなた方がこれまでに犯した罪を償ってからですが。……吊るされないといいですね」
 彼が言い放つと、再び山賊は血相を変えた。
「くそっ! お前も俺達を騙すのか!」
 芋虫のように身を捩らせて呻く山賊達。呆れた顔でそんな彼らを見下ろしてから、コルネはミーナ達へと向き直った。
「お二人が来てくださって安心しました。事情はもう聞いていらっしゃいますよね?」
「もちろん。こうなるとはさすがに思わなかったですけどね」
 ミーナは悪戯っぽく笑う。コルネも彼女につられて相好を崩した。
「ひとまず落ち着きましたし、イヴさんにご挨拶してはいかがでしょう?」
「そうですね。今日はそのために来たようなものですし。案内を頼めますか」

 一方、広場では、キリヤが広場の火と鍋を借りて簡素なスープを作っていた。器にスープを注いで差し出すと、少女はおずおずとそれを受け取った。
「……た、助けてくれて、その……」
 口ごもる少女。キリヤは首を振った。
「いいや。俺は同じ授恵者を相手にするのを、他に押し付けて楽しただけさ。別に手練れの冒険者ってわけじゃないからな」
「……でも、とても強かった」
「アレは授恵者じゃなかったからな。そもそも力の差が歴然なんだよ。そんな奴相手に暴れてみせても自慢にはならないさ」
 露払いは自ら買って出た役回りだったが、授恵者と非授恵者の差は余りに歴然。今もあまりいい気分にはなれなかった。
「自慢にはならないにしても大切な戦果ですよ。ご苦労様です」
 そこへミーナがコルネと一緒にやってきた。ミーナはさらりと言ってのけると、イヴと正対して深々と礼をする。
「リーンエス王国はティロール子爵の妹、ミネルヴァです。お見知りおきを」
「……よろしくお願いします」
 イヴも合わせて礼をする。二人の挨拶を一頻り眺め、グレイブは周囲の仲間を見渡す。
「我々でも探すのに協力を得る必要があったこの場所について、何故あの山賊達は簡単にこれたのでしょうね。もちろん、優秀な護衛がいなくなったということもありますが……誰かから入れ知恵でもされたでしょうか」
 グレイブの言葉を聞き、レティシアは空を見上げて顔を曇らせる。
「……確かに、私達以外にも、この里についての情報を入手している方がおります。私達自身の報告によって」
「ええと、ということはつまり……」
 レティシアの言葉を横で聞いたルアンナは眉を顰めた。
「ここに山賊を手引きしたのは領主様ということですか?」
 グレイブは肩を竦めてみせる。
「やはりそう考えるのが自然でしょうね」
「でもどうしてですか。この人達は成り行きでここに住んでいるだけです」
「ここの領主にとっては受け入れ難かったのです。王国の罪人の関係者には違いありませんから。……なので、領主様の御判断は完全に間違っていると言えません。私には受け入れ難いものですが……」
 レティシアは嘆息すると、ミネルヴァへと目を向けた。
「ミネルヴァ様、この方達を新たな領民として受け入れてもらうことは出来るでしょうか」
 ミーナはすぐに首を振った。
「我らが受け入れるのは難しいですね。一応この方々は帝国民。帝国の人間を王国に連れてくるとなると、厄介なことが多すぎます」

 広場に戻ったレピドは、そんなミーナ達の話を黙々と聞いていた。聞きたいことは既にレティシア達が話している。そうなると気がかりは、ここに山賊を手引きしたという男だった。
(あれが山賊をここにけしかけた理由……それが本当にここの『宝』だとしたら……)
 山賊は囮かもしれない。レピドは周囲をざっと見渡すと、地下祭壇へと風のように駆けた。

 息せき切って祭壇に飛び込むと、そこには相変わらず女狼の亡骸が立ち尽くしていた。誰かが立ち入ったような跡も無い。レピドがほっと息を吐くと、不意に背後で足音がした。
「なるほど。……これが彼の宝ですか」
 咄嗟に暗器を構えて振り向くと、そこにはミーナが立っていた。
「何だ、アンタか。あんまり驚かせないでくれ」
「いなくなる貴方を見て、そういえばこれも見ておかないとな、と」
「興味か?」
 レピドが尋ねると、ミーナは淡々と首を振る。
「……いえ。ここを空にする以上、これも当然持ち出す事になろうと思いましてね」
「空にする? だがミーナ、さっきあんたは自分の領地に受け入れるのは難しいと……」
 ミーナは口角を僅かに上向け、レピドに目配せする。
「我らは、と言っただけです」
 気付けば、レピド達を追って他の冒険者達も祭壇へと集まっていた。ミーナは彼女達を見渡すと、揚々と言い放った。



「さて、このミネルヴァに妙案があります」

 つづく

マスターコメント

シナリオご参加ありがとうございました。 前回の働きかけによりミネルヴァがこの里を知る事になり、結果的に里の人々も救われることになりました。じつは、前回この里の行く末に無関心だった場合、山賊の襲撃に関与できず大変なことになっていたり…… さて、次回は彼女の妙案により事態は大きく動きます。 ではまた、機会があればよろしくお願いします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2023年10月20日 09時57分26秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. レピド・クロサイト

    レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 ざっくり分けるとミーナ達と共に戦うか、イヴ達のフォローに回るか、か? 俺はどちらかと言うと戦闘を希望する。

  2. グレイブ・ヤード

    ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 一応フォローを前提で考えております

  3. ロッカード=キリヤ

    シーフのロッカードだ。 足を活かして、授恵者じゃない方の山賊に斬り込んで頭数を確実に減らそうかと。

  4. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 大まかに二手に分かれる形で良いでしょう。 山賊を取り囲んでいるところから動けると思いますので 戦闘に回る方は同時に山賊の引きつけ速攻で叩くイメージでいます。 尋問のために捕縛もしておきたいですね。 カバーに回る側は、まずはイヴさんを回復することが最優先かと思います。 次に怪我をされている里の方々の治療と安全確保ですね。 あとは小屋が巻き込まれないように護ること、彼らの心理的なフォローをすることでしょうか。 私はどちらでも問題ありませんが、イヴさんたちのフォローに回れたらと考えています。

  5. キリアン・フィッツジェラルド

    どうも、シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 大まかに2手に分かれるというなら、孤高者の双波を持参して索敵とルート探索を同時に担おうと思います。 隠れ里ともなれば、建物などでそれなりに入り組んでいる事が予想されますので。 その他には曲射で遮蔽の問題をある程度カバーしたり、炸光矢あたりで一般兵の殲滅でも致しましょう。 なので索敵兼任ですので僕もどちらでも構いませんが、どちらかといえばミーナさんとの共闘寄りですかね。

  6. No.6

    キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします・・・。 では私は戦闘へと参加します。 開幕に空間爆砕を放つなどをしてみます。 半径が5ヘクスなので戦闘領域すべてを覆えるものではありませんが・・・。 範囲攻撃魔法を中心に準備しておきます。

  7. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 私は戦闘側を希望しておきます。敵自体は簡単に捻っちゃえる強さみたいですし、すぐ終わっちゃいそうですけど。

  8. レティシア・R・クラティアス

    ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 担当は悩ましいのですけれど、一先ずフォロー側を希望させて頂きます。 あとは少なくとも戦闘班との別行動前に 『ウェイブ・オブ・インフィニティロア』の付与を予定しております。 イヴ様の回復については『リヴァーオブヴァイタル』か 『治療強化4+ヒール』となりそうなのですけれど 里の皆様の治療に範囲回復も有効ですし その点についてはスキル枠の都合もございますので グレイブ様と分担させて頂く形となりますでしょうか。

  9. グレイブ・ヤード

    あぁ、私は「隠れ里での回復に専念」しようかとは思っておりますよ。 攻める分には十分な人出と腕でしょうからね、もちろん抜けてきたものの対処程度は想定しますが。 賊の動機にはさして興味はありませんし。 >回復 アクションでヒール3,4と回復強化、一応状態異常(毒想定)解除も見るべきですかねえ。 鏃が清潔と思えませんしねぇ。

  10. レピド・クロサイト

    ロッカードが非授恵者達の相手をしてくれるのなら、俺は授恵者の方を相手にしよう。 装備を回避に片寄らせて回避盾みたいに立ち回れれば。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0