硝子の花弁に透ける想いは
コースケ
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シナリオID:3166
オープニング
●それは七月のこと
パンクリアース学園内の憩いの森。その中にある果樹の植えられた一角で、ガーデニング愛好会(通称:庭愛会)の会長、リエル・サンウッドと、弟のエリクの声が響いていた。
「姉様の馬鹿! そのままお嫁に行って、そこの家の人に意地悪されても知らないから!」
「何よ! クロードの家族をそんな風に言うなんて!」
「「……ふん!!」」
姉弟はプイ、と顔を背けると、そのまま背を向けて別方向に歩き去った。
●そして八月
「……なるほど。だからリエルは浮かない顔をしているのか」
「だって、貴方だって家族を悪く言われると嫌でしょう?」
リエルは夏休みを利用して、婚約者であるクロード・レイルの実家であるレイル男爵家に結婚前の挨拶のため訪れていた。
そのまま親族や寄り親との顔合わせもあるため、この夏はレイル男爵家で過ごすことになっているのだが、その事をエリクに伝えた途端、『どうして帰らないの!?』と駄々を捏ねられ喧嘩別れしてしまったのだ。
「エリク君の気持ちも分かるけどね。君は卒業したら僕のところに来て、会うことが難しくなる訳だから」
「……残りの休みをサンウッド子爵家で過ごすために、この夏で挨拶を済ませるって手紙を置いて来たんだけどね」
誤解が解けぬままここに来る事となり、ため息を付くリエルを元気付けようとクロードが口を開く。
「夏休みが終わって顔を会わせればきっと話を聞いてくれるよ。その時に良い報告が出来るよう、今は気持ちを切り替えていこう?」
「……そうね」
「そうだ! 気分転換に良い所に連れて行くよ! 近くにオアシスがあるんだけど、そこにもうすぐグラスカクタスという珍しい花が咲くんだ。何年かに一度しか咲かない花だし、興味はない?」
「……ある」
ガーデニング愛好会の会長らしく、植物に興味のあるリエルを上手く釣れた事に満足したクロードが頷く。花は夜に咲くため、昼間はオアシスで水遊びなどしても良いだろう。
オアシスには魔獣が居着く事もあるが、定期的に冒険者を雇って排除しているので問題もない筈だ。
――だが、クロードはまだ知らない。依頼を受けた冒険者に、冒険者登録をしたエリクが加わっている事に。
「どんな奴か見極めてやる……!」
パンクリアース学園内の憩いの森。その中にある果樹の植えられた一角で、ガーデニング愛好会(通称:庭愛会)の会長、リエル・サンウッドと、弟のエリクの声が響いていた。
「姉様の馬鹿! そのままお嫁に行って、そこの家の人に意地悪されても知らないから!」
「何よ! クロードの家族をそんな風に言うなんて!」
「「……ふん!!」」
姉弟はプイ、と顔を背けると、そのまま背を向けて別方向に歩き去った。
●そして八月
「……なるほど。だからリエルは浮かない顔をしているのか」
「だって、貴方だって家族を悪く言われると嫌でしょう?」
リエルは夏休みを利用して、婚約者であるクロード・レイルの実家であるレイル男爵家に結婚前の挨拶のため訪れていた。
そのまま親族や寄り親との顔合わせもあるため、この夏はレイル男爵家で過ごすことになっているのだが、その事をエリクに伝えた途端、『どうして帰らないの!?』と駄々を捏ねられ喧嘩別れしてしまったのだ。
「エリク君の気持ちも分かるけどね。君は卒業したら僕のところに来て、会うことが難しくなる訳だから」
「……残りの休みをサンウッド子爵家で過ごすために、この夏で挨拶を済ませるって手紙を置いて来たんだけどね」
誤解が解けぬままここに来る事となり、ため息を付くリエルを元気付けようとクロードが口を開く。
「夏休みが終わって顔を会わせればきっと話を聞いてくれるよ。その時に良い報告が出来るよう、今は気持ちを切り替えていこう?」
「……そうね」
「そうだ! 気分転換に良い所に連れて行くよ! 近くにオアシスがあるんだけど、そこにもうすぐグラスカクタスという珍しい花が咲くんだ。何年かに一度しか咲かない花だし、興味はない?」
「……ある」
ガーデニング愛好会の会長らしく、植物に興味のあるリエルを上手く釣れた事に満足したクロードが頷く。花は夜に咲くため、昼間はオアシスで水遊びなどしても良いだろう。
オアシスには魔獣が居着く事もあるが、定期的に冒険者を雇って排除しているので問題もない筈だ。
――だが、クロードはまだ知らない。依頼を受けた冒険者に、冒険者登録をしたエリクが加わっている事に。
「どんな奴か見極めてやる……!」
解説
オアシスに居着いた魔獣の排除。
排除が終わればオアシスで遊んだり、グラスカクタスの花を鑑賞しても良い。
●魔獣
・ハシリトカゲ……体長1.5m程の蜥蜴。雑食性だが臆病で、相手が自分より強いと判断すると後ろ足で立ち上がって全力疾走(メインとサブアクションで1ラウンドに18ヘクス移動)して逃げ出す習性がある。
逃げ出すと暫くは寄り付かなくなるので仕止める必要はない。身は淡白で食用可。
・シラーオオコウモリ……体長1m程の肉食性の蝙蝠。昼間はオアシスの木陰で寝ているが、夜間に飛び回り3~4匹の群で自分より大きな獲物でも襲う。
●オアシス
そこそこ大きな泉と周辺に生えた緑が木陰を作っている砂漠の休憩所。
泉の深さは腰ほどまでだが澄んでおり、釣りや遊泳も可能。
緑の外周にグラスカクタスという透明な花を咲かせるサボテンが生えており、夜間に咲く様子を鑑賞出来る(陽が昇ると花は萎れてしまう)
●NPC
リエル・サンウッド
リーンエス王国南部に領地を持つサンウッド子爵家の長女。パンクリアース学園生5年生の17歳。非授恵者。
ガーデニング愛好会(通称:庭愛会)の会長であり、明るい金髪を動きやすいよう後ろで結んだ快活な少女で、誰にでも親切に接するため男女問わず人気があります。
心配の種は付きませんが、とりあえずグラスカクタス鑑賞と水遊びをする模様。
クロード・レイル
リーンエス王国西部に領地を持つレイル男爵家の長男で、パンクリアース学園をこの春卒業した18歳。非授恵者。
特殊作物研究部(通称:特作研)の前部長です。
また、実家が大規模な農業を行う関係で小作人に異種族も多く、異種族への偏見もありません。
リエルの緊張を解こうとオアシスに連れ出しましたがエリクの事は想定外です。
エリク・サンウッド
リエルの弟でパンクリアース学園1年生の13歳だが、帝国崩壊後に授恵者となったため、レイル男爵家からの依頼があると知り冒険者登録して依頼を受けた。
クラスはファイターだがレベルは一桁。
クロードと会えば敵視はするが手を出す程ではない。
●リエルとクロードの婚姻について
サンウッド家は貴族派貴族、レイル家は王党派貴族の為、リエルがレイル家に嫁げばリエルは社交の場で表に出ることもなく、実家に顔を出すことも難しくなります。
本人は納得していますが、エリク等はそれを心配して、クロードを見極めようとしている様です。
マスターより
お世話になっております。コースケです。
NPCがわちゃわちゃやっていますが、砂漠のオアシスで泳いだりキャンプしたり珍しい花を鑑賞したりするシナリオと考えて頂いて大丈夫です。
夏のバカンス的なひとときをいかがでしょうか?
魔獣の排除がリプレイでどれだけ描写されるかは皆さんのプレイング次第ですが、誰もプレイングに書かれていなかったとしても、行間で完了したことになりますので!
エリク一人でも達成できるくらいの戦闘難易度ですし、プレイングの字数はやりたいことを優先して頂けたらと思います。
何か不明なことがあれば、質問していただければリエルが答えます。
それでは、よろしければご参加お待ちしております!
リプレイ
●再会
「やぁ、久し振り。そっちは周囲は兎も角、当人同士は順調みたいだね。何よりだ」
「はい。これも海神さん達のお陰です。海神さんもやりましたね!」
パンクリアース学園の在学中から何かと気にかけてくれていた海神 江流の言葉に、クロードは笑顔で言葉を返す。
だが、江流としてはこちらの進展まで把握されていたことに内心驚いていた。
「おや、顔に出てたかな?」
「(あの方の左手の薬指に)指輪が填まっていたと聞きました」
「……ああ」
クロードの視線の先のリエルを見て、江流は経緯を察する。実家が貴族派子爵である上に学園の在校生であるのだからそういった情報も入って来るのだろうが、やはり貴族社会というものは侮れない。
とは言え、クロードの祝福に礼を言うと、江流はここに来た本題を伝える。
「ありがとう。俺も王国貴族社会に縁を繋げられそうな伝手をどうにか用意できそう。で、一応”彼女”にも受け入れてもらえたと思っても大丈夫そうなトコまではこれたからご報告に」
「はい。おめでとうございます!」
程度に差はあれど、困難な思慕を成就させた二人は、拳をぶつけて互いの健闘を称えあった。
そしてそのリエルは、冒険者と共に現れたエリクに目を丸くしていた。
「依頼を受けて来たって大丈夫なの? 危なくない!?」
「僕だって授恵者なんです。余計な心配は不要です。それに、ギルドの人が『依頼を引き受けたからには一人前の冒険者だ』って言ってました。子供扱いしないで下さい!」
「でも……」
声をかけるが強く拒絶され、それでも心配な様子のリエルに、共にガーデニング愛好会の会員であるコルネリウス・アーラとナタリア・フィッツジェラルドの二人が声をかける。
「心配なのは分かりますけれど、ここは認めてあげるべきではないでしょうか」
「そうだな。正式に依頼を受けたのだから、その責務を身内がどうこう言うのは感心出来んな」
「! コルネリウスさんとナタリアさんもいらしてたんですね。お二人がそう言うのなら……」
引き下がるリエルにエリクは『勝った!』という顔でいるが、リエルが引いたのはコルネリウスとナタリアの実力を知っているからである。
「貴方が姉様の相手ですか。自領の魔獣も対処出来ない人に、姉様を守れるとは思えませんね」
「エリク!」
勢い付いたエリクがクロードを挑発し、リエルが声をあげるがエリクに引く様子はない。
それを止めようとするコルネリウスの肩をナタリアが掴む。
「ナタリアさん?」
「様子を見よう。こういう場合、当事者同士とことんぶつかり合えば丸く収まるものだ。タイマン張ったら家族、ってね」
「ですが……」
心配そうなコルネリウスと対照的に、ナタリアは見守る構えである。江流も当人達の問題として下がり、一同が見守る中、クロードは驚きはした様子だったがエリクに話しかける。
「初めましてだね。俺はクロード・レイル。リエルの婚約者だ。しかし、依頼を浮けてくるなんて驚いたな……」
「ええ。僕は貴方と違って授恵者ですから。魔獣くらい簡単に退治して見せますよ!」
「エリク! いい加減にしなさい!?」
「……う」
据わった目でリエルに睨まれエリクが怯む。だが、それをクロードが制し、身を屈めてエリクに視線を合わせた。
「君達家族からリエルを奪うことになるのは申し訳なく思ってる。確かに俺は授恵者には敵わないけれど、俺に出来る事でリエルを守るよ。それだけは分かって欲しい」
「こ…………子供扱いするな!」
「ちょっと!」
落ち着いた対応のクロードに、動揺した様子のエリクが踵を返す。
追おうとするリエルをクロードが制し、エリクはそのまま他の冒険者の方へ去って行った。
「今はそっとしておいた方が良いだろうな」
「……そうですね」
ナタリアとコルネリウスが見守る背中は、年齢以上に小さく見えた。
●木陰の蜥蜴
「あつぅい……早くトカゲとコウモリ退治してオアシスで涼みたいね……」
「暑いのは分かりますけれど、もっとしゃんとして下さいね」
溶けたようにだらりともたれ掛かってくるサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブに注意しつつも、コルネリウスはサフィラの上にマントを翳して陽を遮ってやる。
「ありがとコルネぇ~」
「見えて来ましたよ。あれがハシリトカゲさんでは無いでしょうか」
サフィラを引き摺るコルネリウスの指す先にオアシスがあり、その木の下に白っぽいものが複数転がっていた。遠目には枯木の様にも見えるが良く見れば動いており、サイズ的にもハシリトカゲで間違いは無いようだ。
「そんじゃあ軽く片付けてオアシスで涼むか。久々にデートを楽しめそうだぜ♪」
サフィラの恋人であるハヤト=ガラン=ヴォルファングは、もう排除後のことに思考が飛んでいるが、その頭の中は正確に彼我の位置を把握し、最適な戦術を構築し終えていた。
(そんじゃやっちゃおうかなっ?)
サフィラは一人でハシリトカゲに近付いていた。エーテルによる無音の結界によりトカゲ達はサフィラに気付くことなく、まだ遠方のハヤト達を警戒している。
「まずは一匹っと!」
サフィラがリンクスガントレットを一閃すると、ハシリトカゲの首がぱっくり裂ける。そこから噴き出す血を浴びないようバックステップで避けるサフィラに、ようやく気付いたトカゲ達が慌てて反応する。
「遅ぇんだよ!」
だが、そこへ残像を残すような速度で飛び込んできたハヤトが左右の手に持つ双神刀 紅狗璃を繰り出してサフィラが傷付けたトカゲに止めを差し、天狼の蹴甲で別のトカゲに蹴りを入れその反動でサフィラの隣に着地する。
「相変わらず派手だねー?」
「多少大袈裟にやった方が相手を揺さぶれるんだぜ?」
ハヤトの言葉通り、ハシリトカゲは文字通り浮き足立って逃走に出る様子だった。完全に殲滅するなら別だが、クロードによればこのトカゲ達がオアシスの植物を食害する虫を食べることでその発生が抑制されるため、何体かは逃がしてやる方が良いらしい。
「そっちにも行った! しっかり食い止めてくれよ!」
だが、ハシリトカゲ達はバラバラな方向に走り出したため、コルネリウス達の方向へ二体のトカゲが走り出してしまう。
「エリクさん、一体お願い出来ますか!?」
「心配するな。後ろには私も控えているし、リエルの所には海神もいる」
「は、はいっ!」
トカゲ達はコルネリウス達をわずかに避けて後方へ逃げようとしているが、その方向の先にはクロードとリエルが居るため抜けさせる訳にはいかない。
後方のナタリアの声を背に、コルネリウスとエリクは瞬間的に加速してトカゲ前に立ち塞がり盾を構える。
「……来ます!」
ハシリトカゲは進路を変えず、真っ直ぐ二人に向かって来る。トカゲが二本足で立ち、ガニ股で走って来るのはユーモラスな光景ではあるが、直立すれば人の身長程もあり、それが軽装の授恵者の全力疾走並の速度でぶつかって来るのは驚異でもある。
「くっ!? しまった……!?」
衝突した瞬間、エリクは不思議と痛みを感じなかった。だが、その衝撃までは殺しきれずバランスを崩し、大きく身体を泳がせてしまう。
倒れそうになるのを必死に堪えるが、ぶつかったトカゲは四つん這いになりエリクの脇を抜けて行く。
「エリクさん!」
「任せろ」
コルネリウスはぶつかって来たハシリトカゲを白翼の聖盾で上手く受け止め、衝撃を巧みに逃がし確りと立っていたが、エリクの所へ応援に走る余裕はない。
そこへ、スケープセイントでエリクの傷を肩代わりしていたナタリアが、六角形の柱を召喚してトカゲを閉じ込めた!
「助かります! ……さて。ここを通す訳にはいきませんが、暫くオアシスから離れるなら見逃してあげましょう」
その言葉を理解した訳ではないだろうが、先程の体当たりの感触からコルネリウスの実力を察したハシリトカゲは90度向きを変え、再び立ち上がるとバタバタと走り去って行った。
「封を解く。逃がすなよ」
「はいっ!」
ナタリアは光縛封を解除し、解放されたトカゲへ悪精の掌と呼ばれる手甲型の魔具を向ける。
「悪いが間引かせて貰おう」
その掌に光球が浮かべると、トカゲへ向け射ち出した! ナタリアの光球を受けたハシリトカゲはその胴をごっそりと抉られ、エリクの剣によって止めを刺されるのだった。
●頭上の蝙蝠
「コウモリ見ーっけ!」
血の臭いに反応してか、木からぶら下がりながらも身動ぎしていたシラーオオコウモリを目敏く発見したサフィラは、助走を付けて駆け出すと褐色の脚にエーテルを込め、思い切り跳躍して蝙蝠に迫る!
「ちぇすとぉー!」
飛燕の様に飛び上がったサフィラは、脛当付きの鉄靴による渾身の蹴りで蝙蝠をぶち抜いて着地する。だが、残りの蝙蝠が木を離れ、一部が無防備なサフィラの背中に迫った!
「サフィラに手は出させねーぜ!」
「同意ですが、サフィラさん無防備過ぎですよ!」
そこへハヤトが駆け抜けすれ違いざまに三体の蝙蝠を粉砕し、一匹だけ残った蝙蝠もコルネリウスの聖盾によって攻撃を防がれ、雪割草の誓いの名を持つ剣で切り払われる。
「あのくらいは躱せるんだけどなー。でも、二人ともありがとね♪」
賑やかながらも危なげなく蝙蝠を倒していく三人に苦笑しつつ、ナタリアは無数の光球を周囲に浮かべていた。
「緊張感が無い気もするが、この程度の魔獣では無理もないか。だが、飛び立った事で木々を傷付ける心配がなくなったのは有難い」
ナタリアが悪精の掌を握り締めると光球が蝙蝠に殺到し、群で飛ぶ蝙蝠達を撃ち抜いてゆく!
然程時間をかけずに蝙蝠は退治され、一行はその処理にかかるのだった。
「思ったより全然呆気なかったな」
「いいじゃ無いですか。誰も危険な目に合わなかったのですから」
ハヤトが魔獣の手応えのなさに物足りなさをぼやきつつ、手際よくハシリトカゲの皮を剥ぎ、コルネリウスはそんな弟分の様子に苦笑いしていた。
「コウモリは……食べれなさそう……」
「蝙蝠は病気を持っていたり寄生虫などが多いから素手で触らぬ方がいいぞ」
「うわっ、洗ってこよ!」
蝙蝠をつついていたサフィラは、ナタリアに衛生面の問題を指摘され慌てて泉へ走ってゆく。
(これが冒険者……ふざけているかと思っていたのに、こんなに強いなんて……)
その様子を見ながら、エリクは先程の戦いでの自身の動きを思い返し、未熟さを痛感していた。
●オアシスでバカンスを
残った魔獣の死骸を埋めて片付けた一行は、日が暮れるまでオアシスで思い思いの時間を過ごしていた。
「先に行っちゃうよーっ?」
「俺を置いて行けると思――ぶわっ!?」
水着に着替え泉に駆け出すサフィラを追ったハヤトだったが、捕まえようとした瞬間振り返ったサフィラに水をかけられ、驚いた隙に逃げられてしまう。
「にゃははは! 隙ありー! あ、コルネも早くおいでー?」
「頼むコルネ! サフィラを捕まえるの手伝ってくれ!」
熟練のシーフとしてハイレベルな攻防を繰り広げるサフィラとハヤトに手を振り返し、コルネリウスはそっと足を泉に浸ける。
陽光に温められた泉は温かったが、木陰の部分はそうでも無いようだ。少し水に入って、木陰で涼むのも良いかもしれない。そう考えるコルネリウスの髪を、泉からの風がふわりと撫でた。
(こんな時でも植生に目が行くのは職業病だな)
ナタリアはオアシスの植物に目をやりながら苦笑していた。日頃から主や上司の過労を注意をしていながら、こういう機会があれば自分も有用な野草等が無いかつい探してしまうのだ。
とは言え、自身の嗜好でもあるので気にせず数点のサンプルを採取するのだった。
●硝子の花弁に透ける想いは
陽が沈みオアシスの気温が下がってゆく。
トカゲの肉とリエルが用意したスープで食事を済ませた一行は、焚き火で暖を取り、毛布で身体を包んでグラスカクタスの花が咲くのを待っていた。
「江流さんもおめでとうございます!」
「ありがとう。二人とも出来れば今後も仲良くしてやってくれると嬉しいよ」
花が咲くのを待つ間、江流の内情を聞いたリエルが祝いの言葉を伝え、クロードは江流への助力を約束する。
「とんでもないですよ! 海神さん達は俺達の恩人なんですから。下級貴族ですが俺に出来る事は何でもやりますよ!」
「それは心強いね。正直、王国に味方が居るってだけで有難いし」
リーンエス王国は現在、大きな変革が起ころうとしている。その流れは王国の貴族の基盤を揺るがすものだが、そんな中でも根無し草である自分を気にかけこう言ってくれる二人に、江流は感謝を伝えるのだった。
「あっ、花が開くよ! でも、聞いてたのと違って透明じゃ無い?」
サフィラの目前で、仙人掌に付いた蕾がゆっくり開いてゆく。月光に照らされた花弁は白く、透けそうな薄さではあるが透明と言う程ではない。
「大袈裟に話が伝わったのかもな。……いや、透けてきたぞ!?」
サフィラと同じ毛布を羽織り、身体を寄せて開花を眺めていたハヤトは、端から次第に透けてゆく現象に気付く。やがて花弁全体が透き通り、裏側の泉に映る月まで透けて見える。
「……綺麗だね」
「……ああ」
二人は短く言葉を交わし、毛布の下で互いの手をぎゅっと握り締めた。
「これは……、夜露に濡れて透けているのか」
ナタリアは花弁が透明化していく様子を興味深く観察していた。
「砂漠かつ、オアシスの様な水源があるこういった場所でしか見られない現象の様だな。まさに数年に一度の奇跡と言う訳だ。持ち帰っても萎れてしまうし、話の種にするしかあるまい」
詳細な話が出来るよう、ナタリアはつぶさにグラスカクタスを観察し、目に焼き付けるのだった。
「リエルさんの所へ行くのは気まずいですか?」
「……っ!?」
江流と話すリエルとクロードを眺めていたエリクに、コルネリウスが声をかける。内心を悟られ動揺した様子だったが、相手がコルネリウスであることを見て、観念したように俯いてぽつりと呟いた。
「……僕は、子供なんでしょうか」
その言葉からリエルへの態度を悔やんでいることを察し、コルネリウスは口を開いた。
「家族が離れていってしまうのは、寂しいですよね……」
その言葉に、コルネリウス自身の体験――それもより重いもの――を感じ、エリクは顔を上げる。
「貴女も、誰かと別れたんですか?」
その問いに曖昧な笑みを浮かべ、コルネリウスはエリクへ言葉を続けた。
「これから先、気軽に会う事も出来なくなってしまう……だからこそ、今は傍に居たい気持ちもあると思います。それを、素直に伝えてみませんか?」
「はい。でも――」
リエルの隣に立つクロードへ目をやり、逡巡する様子のエリクへ、コルネリウスはそっと背を押す。
「ガーデニング愛好会に入って見てきましたけれど、クロードさんは素敵な方だと思います。大好きなお姉さんが大切にしている人を、エリクさんも大事にできたら、きっとリエルさんはもっと幸せになれますよ」
「大切な人……姉様の幸せ……」
一歩をその言葉を反芻するエリクは、一歩踏み出すと振り返り、コルネリウスへ頭を下げる。
「ありがとうございます。僕、姉様と婚約者……、クロードさんの所へ行ってきます!」
「はい。頑張ってください!」
駆け出した先でクロードへ頭を下げ、リエルに抱き締められるエリクの様子に、コルネリウスは顔を綻ばせた。
「やぁ、久し振り。そっちは周囲は兎も角、当人同士は順調みたいだね。何よりだ」
「はい。これも海神さん達のお陰です。海神さんもやりましたね!」
パンクリアース学園の在学中から何かと気にかけてくれていた海神 江流の言葉に、クロードは笑顔で言葉を返す。
だが、江流としてはこちらの進展まで把握されていたことに内心驚いていた。
「おや、顔に出てたかな?」
「(あの方の左手の薬指に)指輪が填まっていたと聞きました」
「……ああ」
クロードの視線の先のリエルを見て、江流は経緯を察する。実家が貴族派子爵である上に学園の在校生であるのだからそういった情報も入って来るのだろうが、やはり貴族社会というものは侮れない。
とは言え、クロードの祝福に礼を言うと、江流はここに来た本題を伝える。
「ありがとう。俺も王国貴族社会に縁を繋げられそうな伝手をどうにか用意できそう。で、一応”彼女”にも受け入れてもらえたと思っても大丈夫そうなトコまではこれたからご報告に」
「はい。おめでとうございます!」
程度に差はあれど、困難な思慕を成就させた二人は、拳をぶつけて互いの健闘を称えあった。
そしてそのリエルは、冒険者と共に現れたエリクに目を丸くしていた。
「依頼を受けて来たって大丈夫なの? 危なくない!?」
「僕だって授恵者なんです。余計な心配は不要です。それに、ギルドの人が『依頼を引き受けたからには一人前の冒険者だ』って言ってました。子供扱いしないで下さい!」
「でも……」
声をかけるが強く拒絶され、それでも心配な様子のリエルに、共にガーデニング愛好会の会員であるコルネリウス・アーラとナタリア・フィッツジェラルドの二人が声をかける。
「心配なのは分かりますけれど、ここは認めてあげるべきではないでしょうか」
「そうだな。正式に依頼を受けたのだから、その責務を身内がどうこう言うのは感心出来んな」
「! コルネリウスさんとナタリアさんもいらしてたんですね。お二人がそう言うのなら……」
引き下がるリエルにエリクは『勝った!』という顔でいるが、リエルが引いたのはコルネリウスとナタリアの実力を知っているからである。
「貴方が姉様の相手ですか。自領の魔獣も対処出来ない人に、姉様を守れるとは思えませんね」
「エリク!」
勢い付いたエリクがクロードを挑発し、リエルが声をあげるがエリクに引く様子はない。
それを止めようとするコルネリウスの肩をナタリアが掴む。
「ナタリアさん?」
「様子を見よう。こういう場合、当事者同士とことんぶつかり合えば丸く収まるものだ。タイマン張ったら家族、ってね」
「ですが……」
心配そうなコルネリウスと対照的に、ナタリアは見守る構えである。江流も当人達の問題として下がり、一同が見守る中、クロードは驚きはした様子だったがエリクに話しかける。
「初めましてだね。俺はクロード・レイル。リエルの婚約者だ。しかし、依頼を浮けてくるなんて驚いたな……」
「ええ。僕は貴方と違って授恵者ですから。魔獣くらい簡単に退治して見せますよ!」
「エリク! いい加減にしなさい!?」
「……う」
据わった目でリエルに睨まれエリクが怯む。だが、それをクロードが制し、身を屈めてエリクに視線を合わせた。
「君達家族からリエルを奪うことになるのは申し訳なく思ってる。確かに俺は授恵者には敵わないけれど、俺に出来る事でリエルを守るよ。それだけは分かって欲しい」
「こ…………子供扱いするな!」
「ちょっと!」
落ち着いた対応のクロードに、動揺した様子のエリクが踵を返す。
追おうとするリエルをクロードが制し、エリクはそのまま他の冒険者の方へ去って行った。
「今はそっとしておいた方が良いだろうな」
「……そうですね」
ナタリアとコルネリウスが見守る背中は、年齢以上に小さく見えた。
●木陰の蜥蜴
「あつぅい……早くトカゲとコウモリ退治してオアシスで涼みたいね……」
「暑いのは分かりますけれど、もっとしゃんとして下さいね」
溶けたようにだらりともたれ掛かってくるサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブに注意しつつも、コルネリウスはサフィラの上にマントを翳して陽を遮ってやる。
「ありがとコルネぇ~」
「見えて来ましたよ。あれがハシリトカゲさんでは無いでしょうか」
サフィラを引き摺るコルネリウスの指す先にオアシスがあり、その木の下に白っぽいものが複数転がっていた。遠目には枯木の様にも見えるが良く見れば動いており、サイズ的にもハシリトカゲで間違いは無いようだ。
「そんじゃあ軽く片付けてオアシスで涼むか。久々にデートを楽しめそうだぜ♪」
サフィラの恋人であるハヤト=ガラン=ヴォルファングは、もう排除後のことに思考が飛んでいるが、その頭の中は正確に彼我の位置を把握し、最適な戦術を構築し終えていた。
(そんじゃやっちゃおうかなっ?)
サフィラは一人でハシリトカゲに近付いていた。エーテルによる無音の結界によりトカゲ達はサフィラに気付くことなく、まだ遠方のハヤト達を警戒している。
「まずは一匹っと!」
サフィラがリンクスガントレットを一閃すると、ハシリトカゲの首がぱっくり裂ける。そこから噴き出す血を浴びないようバックステップで避けるサフィラに、ようやく気付いたトカゲ達が慌てて反応する。
「遅ぇんだよ!」
だが、そこへ残像を残すような速度で飛び込んできたハヤトが左右の手に持つ双神刀 紅狗璃を繰り出してサフィラが傷付けたトカゲに止めを差し、天狼の蹴甲で別のトカゲに蹴りを入れその反動でサフィラの隣に着地する。
「相変わらず派手だねー?」
「多少大袈裟にやった方が相手を揺さぶれるんだぜ?」
ハヤトの言葉通り、ハシリトカゲは文字通り浮き足立って逃走に出る様子だった。完全に殲滅するなら別だが、クロードによればこのトカゲ達がオアシスの植物を食害する虫を食べることでその発生が抑制されるため、何体かは逃がしてやる方が良いらしい。
「そっちにも行った! しっかり食い止めてくれよ!」
だが、ハシリトカゲ達はバラバラな方向に走り出したため、コルネリウス達の方向へ二体のトカゲが走り出してしまう。
「エリクさん、一体お願い出来ますか!?」
「心配するな。後ろには私も控えているし、リエルの所には海神もいる」
「は、はいっ!」
トカゲ達はコルネリウス達をわずかに避けて後方へ逃げようとしているが、その方向の先にはクロードとリエルが居るため抜けさせる訳にはいかない。
後方のナタリアの声を背に、コルネリウスとエリクは瞬間的に加速してトカゲ前に立ち塞がり盾を構える。
「……来ます!」
ハシリトカゲは進路を変えず、真っ直ぐ二人に向かって来る。トカゲが二本足で立ち、ガニ股で走って来るのはユーモラスな光景ではあるが、直立すれば人の身長程もあり、それが軽装の授恵者の全力疾走並の速度でぶつかって来るのは驚異でもある。
「くっ!? しまった……!?」
衝突した瞬間、エリクは不思議と痛みを感じなかった。だが、その衝撃までは殺しきれずバランスを崩し、大きく身体を泳がせてしまう。
倒れそうになるのを必死に堪えるが、ぶつかったトカゲは四つん這いになりエリクの脇を抜けて行く。
「エリクさん!」
「任せろ」
コルネリウスはぶつかって来たハシリトカゲを白翼の聖盾で上手く受け止め、衝撃を巧みに逃がし確りと立っていたが、エリクの所へ応援に走る余裕はない。
そこへ、スケープセイントでエリクの傷を肩代わりしていたナタリアが、六角形の柱を召喚してトカゲを閉じ込めた!
「助かります! ……さて。ここを通す訳にはいきませんが、暫くオアシスから離れるなら見逃してあげましょう」
その言葉を理解した訳ではないだろうが、先程の体当たりの感触からコルネリウスの実力を察したハシリトカゲは90度向きを変え、再び立ち上がるとバタバタと走り去って行った。
「封を解く。逃がすなよ」
「はいっ!」
ナタリアは光縛封を解除し、解放されたトカゲへ悪精の掌と呼ばれる手甲型の魔具を向ける。
「悪いが間引かせて貰おう」
その掌に光球が浮かべると、トカゲへ向け射ち出した! ナタリアの光球を受けたハシリトカゲはその胴をごっそりと抉られ、エリクの剣によって止めを刺されるのだった。
●頭上の蝙蝠
「コウモリ見ーっけ!」
血の臭いに反応してか、木からぶら下がりながらも身動ぎしていたシラーオオコウモリを目敏く発見したサフィラは、助走を付けて駆け出すと褐色の脚にエーテルを込め、思い切り跳躍して蝙蝠に迫る!
「ちぇすとぉー!」
飛燕の様に飛び上がったサフィラは、脛当付きの鉄靴による渾身の蹴りで蝙蝠をぶち抜いて着地する。だが、残りの蝙蝠が木を離れ、一部が無防備なサフィラの背中に迫った!
「サフィラに手は出させねーぜ!」
「同意ですが、サフィラさん無防備過ぎですよ!」
そこへハヤトが駆け抜けすれ違いざまに三体の蝙蝠を粉砕し、一匹だけ残った蝙蝠もコルネリウスの聖盾によって攻撃を防がれ、雪割草の誓いの名を持つ剣で切り払われる。
「あのくらいは躱せるんだけどなー。でも、二人ともありがとね♪」
賑やかながらも危なげなく蝙蝠を倒していく三人に苦笑しつつ、ナタリアは無数の光球を周囲に浮かべていた。
「緊張感が無い気もするが、この程度の魔獣では無理もないか。だが、飛び立った事で木々を傷付ける心配がなくなったのは有難い」
ナタリアが悪精の掌を握り締めると光球が蝙蝠に殺到し、群で飛ぶ蝙蝠達を撃ち抜いてゆく!
然程時間をかけずに蝙蝠は退治され、一行はその処理にかかるのだった。
「思ったより全然呆気なかったな」
「いいじゃ無いですか。誰も危険な目に合わなかったのですから」
ハヤトが魔獣の手応えのなさに物足りなさをぼやきつつ、手際よくハシリトカゲの皮を剥ぎ、コルネリウスはそんな弟分の様子に苦笑いしていた。
「コウモリは……食べれなさそう……」
「蝙蝠は病気を持っていたり寄生虫などが多いから素手で触らぬ方がいいぞ」
「うわっ、洗ってこよ!」
蝙蝠をつついていたサフィラは、ナタリアに衛生面の問題を指摘され慌てて泉へ走ってゆく。
(これが冒険者……ふざけているかと思っていたのに、こんなに強いなんて……)
その様子を見ながら、エリクは先程の戦いでの自身の動きを思い返し、未熟さを痛感していた。
●オアシスでバカンスを
残った魔獣の死骸を埋めて片付けた一行は、日が暮れるまでオアシスで思い思いの時間を過ごしていた。
「先に行っちゃうよーっ?」
「俺を置いて行けると思――ぶわっ!?」
水着に着替え泉に駆け出すサフィラを追ったハヤトだったが、捕まえようとした瞬間振り返ったサフィラに水をかけられ、驚いた隙に逃げられてしまう。
「にゃははは! 隙ありー! あ、コルネも早くおいでー?」
「頼むコルネ! サフィラを捕まえるの手伝ってくれ!」
熟練のシーフとしてハイレベルな攻防を繰り広げるサフィラとハヤトに手を振り返し、コルネリウスはそっと足を泉に浸ける。
陽光に温められた泉は温かったが、木陰の部分はそうでも無いようだ。少し水に入って、木陰で涼むのも良いかもしれない。そう考えるコルネリウスの髪を、泉からの風がふわりと撫でた。
(こんな時でも植生に目が行くのは職業病だな)
ナタリアはオアシスの植物に目をやりながら苦笑していた。日頃から主や上司の過労を注意をしていながら、こういう機会があれば自分も有用な野草等が無いかつい探してしまうのだ。
とは言え、自身の嗜好でもあるので気にせず数点のサンプルを採取するのだった。
●硝子の花弁に透ける想いは
陽が沈みオアシスの気温が下がってゆく。
トカゲの肉とリエルが用意したスープで食事を済ませた一行は、焚き火で暖を取り、毛布で身体を包んでグラスカクタスの花が咲くのを待っていた。
「江流さんもおめでとうございます!」
「ありがとう。二人とも出来れば今後も仲良くしてやってくれると嬉しいよ」
花が咲くのを待つ間、江流の内情を聞いたリエルが祝いの言葉を伝え、クロードは江流への助力を約束する。
「とんでもないですよ! 海神さん達は俺達の恩人なんですから。下級貴族ですが俺に出来る事は何でもやりますよ!」
「それは心強いね。正直、王国に味方が居るってだけで有難いし」
リーンエス王国は現在、大きな変革が起ころうとしている。その流れは王国の貴族の基盤を揺るがすものだが、そんな中でも根無し草である自分を気にかけこう言ってくれる二人に、江流は感謝を伝えるのだった。
「あっ、花が開くよ! でも、聞いてたのと違って透明じゃ無い?」
サフィラの目前で、仙人掌に付いた蕾がゆっくり開いてゆく。月光に照らされた花弁は白く、透けそうな薄さではあるが透明と言う程ではない。
「大袈裟に話が伝わったのかもな。……いや、透けてきたぞ!?」
サフィラと同じ毛布を羽織り、身体を寄せて開花を眺めていたハヤトは、端から次第に透けてゆく現象に気付く。やがて花弁全体が透き通り、裏側の泉に映る月まで透けて見える。
「……綺麗だね」
「……ああ」
二人は短く言葉を交わし、毛布の下で互いの手をぎゅっと握り締めた。
「これは……、夜露に濡れて透けているのか」
ナタリアは花弁が透明化していく様子を興味深く観察していた。
「砂漠かつ、オアシスの様な水源があるこういった場所でしか見られない現象の様だな。まさに数年に一度の奇跡と言う訳だ。持ち帰っても萎れてしまうし、話の種にするしかあるまい」
詳細な話が出来るよう、ナタリアはつぶさにグラスカクタスを観察し、目に焼き付けるのだった。
「リエルさんの所へ行くのは気まずいですか?」
「……っ!?」
江流と話すリエルとクロードを眺めていたエリクに、コルネリウスが声をかける。内心を悟られ動揺した様子だったが、相手がコルネリウスであることを見て、観念したように俯いてぽつりと呟いた。
「……僕は、子供なんでしょうか」
その言葉からリエルへの態度を悔やんでいることを察し、コルネリウスは口を開いた。
「家族が離れていってしまうのは、寂しいですよね……」
その言葉に、コルネリウス自身の体験――それもより重いもの――を感じ、エリクは顔を上げる。
「貴女も、誰かと別れたんですか?」
その問いに曖昧な笑みを浮かべ、コルネリウスはエリクへ言葉を続けた。
「これから先、気軽に会う事も出来なくなってしまう……だからこそ、今は傍に居たい気持ちもあると思います。それを、素直に伝えてみませんか?」
「はい。でも――」
リエルの隣に立つクロードへ目をやり、逡巡する様子のエリクへ、コルネリウスはそっと背を押す。
「ガーデニング愛好会に入って見てきましたけれど、クロードさんは素敵な方だと思います。大好きなお姉さんが大切にしている人を、エリクさんも大事にできたら、きっとリエルさんはもっと幸せになれますよ」
「大切な人……姉様の幸せ……」
一歩をその言葉を反芻するエリクは、一歩踏み出すと振り返り、コルネリウスへ頭を下げる。
「ありがとうございます。僕、姉様と婚約者……、クロードさんの所へ行ってきます!」
「はい。頑張ってください!」
駆け出した先でクロードへ頭を下げ、リエルに抱き締められるエリクの様子に、コルネリウスは顔を綻ばせた。
マスターコメント
お待たせしました。
そしてお待たせしている間にリーンエス王国に不穏な空気が漂っていますが、リプレイはその前の話ということでお願いします。
とは言え、リエル達パンクリアース学園の生徒達にも影響がある可能性もありますし、ひょっとしたらその件でシナリオがリリースされることになるかも……?
魔獣との戦闘とオアシスのバカンス、楽しんでいただければ幸いです。
ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ易しい 報酬:標準5 / 4〜25人
2023年08月27日 17時54分36秒 公開
大成功
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