美味しいデザートって何かしら
あかつき
コメント 6
シナリオID:3158
オープニング
「出来た……出来た、けども……っ!!」
プリンを片手に持ち、彼女――ニナは呻く。
ニナはここ、王都グランスパーダの片隅にひっそりと佇む喫茶店の店主だった。個人経営の喫茶店で、従業員も友人三人で賄っている。珈琲と自家製ハーブティーが人気で、サンドウィッチなどの軽食なども提供している。
だからまぁ、そのまま経営してればそれでも良かった。お客さんもそこそこいて、常連さんも来てくれる。しかし。
「ここ、美味しいけどデザートが微妙よね」
「学園のプリンの方が、私は好きかなぁ」
偶々来ていたパンクリアース学園の学生達の会話に、愕然とした。いや、確かに目玉が飛び出る程美味しい料理が提供出来ているとは、端から思ってはいない。一流店に引けを取らないだけのもの、などは無理だ。しかし。しかし、である。
『学園のプリンの方が美味しい』
その一言は、彼女の心に火をつけた。学園にあるという、学食というところが提供しているらしいプリン。それを友人達に言えば、確かにあの学園は良家の子女の通う学園だから、学食なる場所で働く料理人達も一流なのかもしれないと言われた。確かにそれは、一理ある。
だけど、許せなかった。自分自身の、向上心の無さが。その、なんだかよくわからないが美味しいというプリン。そのよくわからないが美味しいものの存在すら知らず、今の立場に甘んじていた自分自身の怠慢が。
きっと、パンクリアース学園とはいえ、喫茶店のデザートと比べるくらいなのだから、割とフランクに食べられるようなものなのだろう。いくらなんでも貴族が中心に通う学園の学生達と言えど、喫茶店と一流店の差は心得ていよう。その上で比べられるものなのだ。きっと、ここの店でも提供できるだろうという予想の元の、感想なのだ。
だとすれば、それに気付きつつ尚、努力しないのはそれこそ怠慢だ。ニナはそう思った。
そこから彼女は試行錯誤や暗躍をして、遂に先日学生に無理を言って学園のプリンを持ってきてもらい、同じような味のものを作成する事に成功した。が、よく考えれば別に同じものを作りたかった訳ではないのだ。もっと美味しい何かを。いや、美味しくなくても良い。もっと真新しい何か。うちの店の自慢になるようなデザートを。
ちなみに友人には呆れられ、デザート開発は手伝ってくれなくなった。無理するなとか、そんな頑張らなくてもとか、気にする事ないのに、とか。故に、このデザート開発は一人でなさねばならないのである、が。
「うわぁん…………もうわかんないよぉ……」
たくさん出来上がってしまったプリンをもりもりと食べながら、ニナは一人涙する。色々考えすぎて、もうわからなくなってしまった。
美味しいデザートとは? プリンとは? いやもうプリンじゃなくても良いんだけど……でもここまで試行錯誤して完成したこの山のようなプリン、勿体無いなぁ……。
「誰かぁ……」
その時、ニナは閃いた。プリンの存在を教えてくれた学生。いや、同じ学園に通う誰か……学生じゃなくても良い。例えば、さまざまな場所で色々なものを食べてきたであろう冒険者とか、試食してくれたり、相談に乗ってくれたりしないだろうか。
そう思えば、喫茶店に来るお客さんの中にもそう言った人たちはたくさんいたし、街中だってよく歩いている。
あの人達に手伝ってもらおう。
今日は喫茶店は定休日だから、喫茶店の店内も使える。机だってキッチンだって使いたい放題だ。
誰かそれっぽい人に声を掛けて、手伝ってもらおう!
そう決めたニナは昼下がりの街へと飛び出していくのだった。
解説
マスターより
リプレイ
つい昨日の話だろうか。たまたま入ったこの店で、プリンの話をしたのが事の始まりだった。ロゼットは現実逃避気味にやや遠い目で昨日の事に思いを馳せてから、並ぶプリンへと視線を向ける。
明日お休みなんです! もしお時間がありましたら……いや、その、あれです。何でも無いです。
ニナがそう言って気まずげに歪めた顔が気になって、結局来てしまったのが運の尽きだ。
「……なるほど」
大きな器に作られたたくさんのプリン。それがこんなに並んでいる。努力はきっと、凄まじいものだっただろう。それだけは確かだ。だが。
「これで正解かもわからず、ここからどうすべきかもわからずで……」
プリンを作る、を目的に猛スピードで駆け抜けた数日。その後どうするか……あまり考えてなかった。勿論そのままメニューに載せるということも、選択肢の一つではある。
「元々はきっと、店の自慢になるようなデザートを……と思っていたんじゃないかしら?」
問いかけるロゼットに、ニナは頷く。
「そうだった筈なんです、多分そうだったんです……」
そんなニナの様子に、外で声を掛けられたトーラ、ストレガ・L・リベルガストラと、Alexandra・Hexe・Claudia、ナタリア・フィッツジェラルドの4人は互いに顔を見合わせ、あぁ……とそれぞれに納得の声を上げる。
「まずはまぁ……プリンのお話をしましょうか」
こほん、と一つ咳払いをして、話し始めたのはトーラ。冷たくしてある話もすべきかと当初は思っていたが、ここのプリンも冷たくなっているので冷蔵紋具は用意があるのだろう。だとすれば、説明すべきは学園の生徒会が催している、プリンを身近にしているイベントの事、だろうか。
「学園のプリンの話、どこまでご存知ですか? 週に一回、学園には月に一回、『癒しの学食プリン無料デー』というものがあります。このプリンは卵が多めで固く作って、それを切り分けてカラメルやフルーツのソース、ホイップクリーム等をかけてあります」
「無料?!」
その情報は、ニナにとって初耳だった。なんせ常に味ばかり気にしていたので。その味に近づける為に、無理を言って調理機器担当の友人に冷蔵紋具も用意してもらったのだ。多少背伸びした器具にはなるがどうしても、と言って。彼女が元々魔法が得意でそういった紋具に詳しくツテがあったから入手してもらえたが、思えばかなり無理を言ったものだと、最近になって若干冷静になったニナは思った。
「ふるえる程に柔らかいプリンなら、学園のプリンと差別化が出来るかもですけど」
「さべつか……」
考えてもいなかった方向性に、ニナが呆然と呟く。そもそも、ニナはムキになって『学園のプリンの味』を目指して試行錯誤を繰り返していたのだ。ここから差別化をする必要があるなんて。しかし、考えれば当然の話ではある。なんせ相手は無料で美味しいのだ。
「でも、そうですね……プリンを作っても……もしかしたら、学園生からすれば『学園で無料で食べれるからいいや』となる人が多い、いや……その、いる……かも……」
聞いた話からすると、ニナはかなり突っ走ってしまっていたように思えた。故に、気付いていないかもしれない部分、知らないかもしれない部分は、痛い目を見る前に教えてあげるのが優しさかもしれない。そう思ってアドバイスをしていたトーラだが、途中から席に座って机に両肘を置き、顔を覆って微動だにしなくなってしまったニナに、一緒に頭を抱えていたい気分になってきた。
「その、すいません……」
「いやこちらこそ……友人だけでなく、通りがかりの方やお客さんまで巻き込んで……私……」
問題点を改めて理解したニナは、顔を覆ったまま深く深い溜息を吐いた。涙が見えないだけまだ良いといえば良いが、それだってかなり落ち込んでいる事は理解できる。
「味を比べてしまうのは人のサガなので仕方ない事であるし、来てくれたお客さんがそう言っていたのを聞いて仕舞えば気になるのは仕方がないのだ」
ニナの肩をぽんぽんと軽く叩き、ストレガが元気付けるよう声を掛ける。しかし、ニナの落ち込んだ姿勢はそのままだった。
「料理人の沽券にかけて必死に足掻くという事自体は感心出来るぞ」
料理に携わる者として扱ってくれるナタリアの励ましに、漸くニナが顔から手を外し、その裏側の悲壮感漂う顔が見えた。
「例えそれが気休めだとしても……ありがとう。そう言ってもらって、少し救われた気がするわ……」
はぁぁ……と、まるでそのまま空気が抜けてしまうのではないかという程大きな溜息と共に肩を落とし、ニナはプリンを見つめる。
「しかし、良いプリンの存在を知っている学生の舌を変えるのは不可能。そして学園とは施設と人材と素材を維持する資金力が違う。巨人に挑むものなのだ。並ぼうとすれば破産するのだ」
現実を冷静に言い表すストレガ。
ニナの眉間に深く深く皺が刻まれたが、少し立ち直ったのか、落ち込んでばかりもいられないと思ったのか、さっきのように現実から逃げるような仕草はない。ないが、だからと言って奮起する、といった様子でも無かった。
「そうなの……ましてや相手は無料な訳でしょ? まぁ、毎日ではないにしろ……無料は無理よ……」
額を抑えるニナの肩を、慌てたロゼットが軽く揺する。
「さっきも言ったけれど、学園のプリンを目指している訳じゃなくて、店の自慢になるようなデザートを作りたかった……のよね?」
ロゼットのその言葉に、ニナははっと目を見開く。
「そうでした!! あぶない……!!」
それに、今日集まった彼らとて、現実を突きつけて、諦めろと言う為にここに来た訳ではない。
「要は、大規模かつ多様な人材を要する学園と、一個人と友人数名による喫茶店の経営を比較しても詮無き事なのだ。ならば、ニナの営む、この喫茶店ならではの強みを活かす……というので、どうだ?」
ともすれば学園のプリンに執着しがちなニナの為、ナタリアが一つ、視野を広げるべく提案を口にする。元より集中力と執念とが人一倍あるのだろう。それが今回偶々悪い方に出てしまっただけに違いない。
「そうね。私はね……これ。ここのお店のメニューにある……珈琲とハーブティー、すごく美味しいと思うの」
お店のメニューにある2品を上げて、ロゼットが微笑む。昨日頼んで美味しかったハーブティーと、香りの良い珈琲を思い出しながらそう言えば、ニナは目を瞬き、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「このメニューを活かしてみるっていうのは、一つの手だと思うわ」
そう穏やかに語るロゼットに、ストレガも大きく頷く。
「そも軽食については良いと聞くし他にもそれほど悪い噂も聞かないのだから、プリンに執着せずデザート全般を研鑽していけば良いのだ。勿論、プリンという一つの成果を手にしたのであるから、それを軸に活かすのも良いと思うのだ」
ふん、と胸を張り、他のメニューを見やりつつそう言うと、いつの間にかニナの表情は明るく、やる気に満ちたものとへと変わっていた。
「私……なんか、ちょっと頭がすっきりしてきたかも!!」
本来であれば友人達が手伝ってあげよう、と思えるだけの人柄と能力があるに違いないのだ。そして、熱意に関しては出来上がったプリンがその証拠と言える。きっと、ゴールさえしっかり見据える事が出来れば、いい結果が出るに違いない。
そう思いながら、コーヒーとハーブティーを活かしたデザートメニューを提案しようとしたロゼットだが、はっと思い出して、ぽんと手を打つ。
「そうそう、それからもう一つ」
首を傾げるニナに、ロゼットは微笑む。
「これからアイディアを出し合って、それから試作品を作ってみるとして……そうしたら、お店の友達も呼んで味見してみましょう。3人のお店なんだから私たちだけで決めない方が良いわよ」
え、でも。と、表情を曇らせるニナ。もう既に呆れられて、この件に関しては見捨てられているも同然、とニナ自身が思っている友人だ。それでも、二人は普通に喫茶店の仕事はしてくれるし、冷蔵紋具も手配してくれたのだ。その二人が、ニナの言ったような気持ちでいるとは、ちょっと思えない。
「お友達も、熱を入れすぎなニナを心配してくれたのだから、ちゃんと目標を決めて相談すれば、話に乗ってくれるわ」
そう言って笑えば、ニナは少し考えてから、やっぱり心配そうな顔をしつつも、小さく頷くのだった。
●
ニナと共に一同が数時間かけて作った、机の上に並んだ数々のデザート。
新しく作ったプリンがまず並ぶ。ストレガ考案のココア味、カボチャ味、蜂蜜味。ロゼット考案の珈琲味と、ハーブティー味。トーラ考案の柔らかめに作ったプリンは、残念ながら途中で崩れてしまった。次いで、ナタリアのアイディアで作ったのは、出来上がっていたプリンを使ったパフェ。それから、ロゼットがプリンを崩してパンに塗って焼いたものと、ストレガがプリンとクリームチーズを使って作ったケーキ。残りのプリン用トッピングとして、ベリーソース、チョコソース、ヨーグルトソースとクリーム、フルーツを用意。他にプリン以外の冷蔵紋具を活かせるもの、としてコーヒーゼリーを。
それから、デザートを引き立てるさっぱりとした夏に良い飲み物として、ナタリアのアイディアでミントティーも用意した。
「急に呼ばれるから、何かと思ったら……」
ニナの友人の店員二人が、机に所狭しと並んだデザートの試作品を前に目を瞬く。
「休みの日なのにごめんね……」
頭の冷えたニナは、逆に落ち込みが激しく、申し訳なさそうに頭を下げる。とはいえ。
「いや、私達もニナがそんな必死になってプリンばっかり作るから心配で休めなかったから……だから、近くにいたんだけど……」
彼女の言う通り、2人は喫茶店からすぐ近くの広場にいたのだ。見えない程度の距離ながら、2人なりに心配して。
「特に今日はなんだか知らない人が沢山店に入って行くのが見えたから、心配で」
顔を見合わせる友人2人に、ロゼットが肩を竦める。
「ごめんなさい、心配させてしまって……」
そう言うロゼットに、2人は首を横に振る。
「いいえ、気にしないでください。元はと言えば、私達がニナをちゃんと説得出来なかった事と……それから」
一度言葉を区切り、2人は大きく息を吐く。
「ニナの気持ちを、汲んであげられなかった事にあるから」
マイナス思考が過ぎて、てっきり呆れられて怒られるか、見捨てられるかすると思っていたニナが、目を瞬く。そんなニナの肩を、ストレガがぽんと軽く叩いた。
「良い友人を持ったのだ。彼女達に感謝するのだ」
そして背中を押してくれたストレガに、ニナは頷き、2人の元へと足を踏み出す。それから、口を開き……しかし、感極まったニナは溢れる涙に言葉を紡ぐ事が出来なかった。そんなニナを、2人の友人が抱きしめる。
「まぁ、良かったですね」
トーラの声に、冒険者達はそれぞれに安堵の表情を浮かべ、頷く。そして、ニナの気持ちが落ち着いた頃。
「では試食と行こうか。私のおすすめはミントティーと、パフェかな」
全員の元に、小さなコップにミントティーを淹れて持って行くナタリア。
「私としては、この落ち着いた雰囲気の喫茶店は良いと思っている。この喫茶店の雰囲気を活かす形の出し物を用意すれば、きっと良い結果が出ると思うぞ」
そう言うナタリアに、ストレガも頷く。
「そうなのだ。内装や照明といったものも影響するのだ。学園のプリンは、学園だからこそ人気のあるプリンだとも言えよう」
2人の意見を真剣に聞きながら、ニナは全員分、ひとまずプリンを小皿に分けて行く。
「じゃあ、みんなで試食会!! 今度は私だけじゃなくて、みんなで決められるように……!!
涙を拭いて、笑顔でそういうニナに、友人2人と冒険者達はほっと胸を撫で下ろしつつ、プリンの小皿を受け取った。
そして、喫茶店のメンバー3人と、デザート作りを手伝いに来た5人とで、夜になるまでああでもないこうでもないと試食会と意見交換を繰り返して行く。
それから数日後、王都の片隅の喫茶店では季節のデザートとしてシーズン毎に別の味のプリンやゼリー、パフェがメニューに並ぶ様になる。
それから暫く後、ニナ達の喫茶店は、季節のデザートの種類が多く、そのどれもが個性的で美味しいと、市井の人々や学園の学生達の間で話題になるような評判の店となったのだった。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない5 / 4〜8人
2023年08月23日 10時16分36秒 公開
相談掲示板
ロゼットよ。よろしくね。 まあパンクリアース学園は色々と規格外だと思うけど、 学校の食堂の方が~なんて聞こえちゃったら気になるわね。 プリンを味付けや盛り付けでレベルアップさせるのも良いし、 プリンを使って別のデザートにクラスチェンジさせるも良し。 プリンを使わなくても、一般的なものなら調達もできると。 喫茶店の、店主のニナが扱える範囲でデザートの考案かな。
パンクリアース学園一年生のトーラです。 生徒としてお役に立てるかと思って参加させていただきました! 実際に学食のプリンがどういうものかの説明と、それを知った上でプリンを作るか、別のものを作るかを決めたらどうでしょうか? ただ、冷やすための冷蔵紋具がないと学園のプリンと張り合うのは難しいかもですね……。
クラウディアです。よしなに。 ─デザートの考案については、既に真剣に触れている方がいますのでさておいて。 …なんといいますか、迷走に次いでの爆走ですね? 勢いの功を否定したいとは思わないのですが、正直危なっかしく感じます。 一度息を整えて落ち着いた方が、後々濁るような話も避けられそうだな…と。 ということで、今回私はメンタルケアを中心に立ち回ることにします。 大方は初手で、おたがい飲み物を片手にやりたいことを纏め直すくらいとなりそうですが。
成立したわね。 難易度もそんなにじゃないし、楽しくやりましょう。 私はデザート開発の方でまとめてみるわ。 プリンは作れているのだから、紋具かどうかは ともかく、調理できる道具はあるんでしょう。 なるべく簡単なのを考えてみるわ。 上手くいったら、お店の友達の子らも呼んで、 味見してもらおうと思うわ。
成立したのだな。ストレガなのだ。よろしくなのだ。 比べられるのは仕方ないとして、相手と真っ向勝負するのが間違っているのではなど。 学園とは施設の充実度がまず違うのだし、ではなぜ喫茶店に来るのか、というところを詰めるのもいいかもなのだ。 とまれ私はプリンを使うレシピを考えてみるのだ。
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 私としてもクラウディアと同様にメンタルケアを主体に来た次第だが。 リベルガストラの言うように学園と喫茶店とは規模も人的資源も違うのだからいちいち比べても詮無き事。 それよりは喫茶店の雰囲気を、どうメニューに活かすのかというのも考えたい所だ。 プリンを使ったメニュー以外にも、デザート系のサブメニューの充実化もだな。