【幻旅】七色の幻雨
白葉うづき
コメント 6
シナリオID:3065
オープニング
●七色の幻雨
『月が出ていた。美しくも狂おしい真円のその光が、荒れ果てた廃墟に降りそそぐ。
頭上にはまばらな暗雲。流れ出る雨が廃墟を濡らし、淡く照らされるその姿はどこか妖しくも見える。
その雨は虹色に輝いていた。
直感的に感じるか、それとも視界がそれを捉えるのが早かったか。
まるで降りゆく雨に虹を投影したかのように、さまざまな色彩を持った雨が天上から落ちてくる。
神の奇跡、御業ともいえるほど、その光景に私は魅せられた。
この雨がそうなのか。
折りしも、今宵は満月。私はしばらく眺めた後、周りを注意深く見回す。
降りしきる雨は水溜まりを作り、虹を地面に描いていた。
そうして私は見つける。
雨の向こうに、人影があった。
あれは確かに、死に別れた私の父だった。
――冒険家、イレストの日記より』
●神秘へ飛び込もう
「やあやあ! 依頼受けてくれてありがとー! 今回も不思議なとこを冒険しようっていう依頼! っていっても、今日は未知の場所を探したいとかじゃないんだ」
エラトゥーン都市同盟のはずれ、とある冒険者ギルド。元気よく冒険者たちを迎えたヴィンツ・ラッテはそう言って説明を始める。彼は紋具職人として界隈で名を馳せる技術者だ。ただそれはひとつの側面であり、大陸中を旅して不可思議を探し回ったり、研究したりするのも生業としている。研究を行う青年は、普段の姿とはまた異なる知恵者の顔をしていた。
「一昨年くらいに『七色の幻雨』を見つけてね。オレの研究の結果、地下にあるエーテル溜まりが影響しているみたいなんだ。長く留まったりは止めた方がいいけど、少しの間見るくらいなら問題はない。そこにまた行こうと思って! 今回はキミたちもどう? ってお誘い!」
そう言って楽しそうに、左右色の違う瞳をきらきらと輝かせる。けれど今回は依頼という形だ。どうして、と問えばなんとなく! と快活な答えが返ってきた。
「『七色の幻雨』はイグノ砂漠のはずれ、北側にある廃墟だけで見られる不思議な現象だよ。片道半日、近くで一泊野宿して帰るって感じかな。朝くらいに出て夕方に着く予定! 砂漠は通らないから特別に必要な物もないかな。『七色の幻雨』を綺麗に見るには月夜が必要だ。暗すぎると七色に見えないし、逆に明るすぎると色が飛んでしまう。一応、当日は満月だよ。月の巡りもちゃーんとわかってるから任せて!」
必要事項をつらつらと並べ、ヴィンツは身軽な格好でギルドの外へと出る。彼は大抵荷物を異空間に預けるスタイルだ。楽しそうに笑ってから、ふと、瞳を細める。
「『七色の幻雨』はとっても綺麗で見惚れちゃうくらい! 七色の花も見つけた人が居るんだって、気になるよね! けど気を付けて。旅人や周辺に住む人に聞いたんだけど、雨の向こう側に『自分の肉親』が見えることがあるらしいんだ。親の顔を知らない人もそう思い込んじゃうんだって。――その廃墟からはいくつも白骨死体が見つかっていてね。元々何人も人が亡くなった場所みたい。この地と、濃度の高いエーテルが合わさっての作用かもしれない。もちろん幻覚だけど、油断はしないで。決してついて行っちゃいけないよ」
声を潜め、内緒話のように青年は囁く。もしかして、それこそが今回彼の調査対象なのではないか。そんな気がするほど、ヴィンツの瞳はどこか輝いて見えた。
『月が出ていた。美しくも狂おしい真円のその光が、荒れ果てた廃墟に降りそそぐ。
頭上にはまばらな暗雲。流れ出る雨が廃墟を濡らし、淡く照らされるその姿はどこか妖しくも見える。
その雨は虹色に輝いていた。
直感的に感じるか、それとも視界がそれを捉えるのが早かったか。
まるで降りゆく雨に虹を投影したかのように、さまざまな色彩を持った雨が天上から落ちてくる。
神の奇跡、御業ともいえるほど、その光景に私は魅せられた。
この雨がそうなのか。
折りしも、今宵は満月。私はしばらく眺めた後、周りを注意深く見回す。
降りしきる雨は水溜まりを作り、虹を地面に描いていた。
そうして私は見つける。
雨の向こうに、人影があった。
あれは確かに、死に別れた私の父だった。
――冒険家、イレストの日記より』
●神秘へ飛び込もう
「やあやあ! 依頼受けてくれてありがとー! 今回も不思議なとこを冒険しようっていう依頼! っていっても、今日は未知の場所を探したいとかじゃないんだ」
エラトゥーン都市同盟のはずれ、とある冒険者ギルド。元気よく冒険者たちを迎えたヴィンツ・ラッテはそう言って説明を始める。彼は紋具職人として界隈で名を馳せる技術者だ。ただそれはひとつの側面であり、大陸中を旅して不可思議を探し回ったり、研究したりするのも生業としている。研究を行う青年は、普段の姿とはまた異なる知恵者の顔をしていた。
「一昨年くらいに『七色の幻雨』を見つけてね。オレの研究の結果、地下にあるエーテル溜まりが影響しているみたいなんだ。長く留まったりは止めた方がいいけど、少しの間見るくらいなら問題はない。そこにまた行こうと思って! 今回はキミたちもどう? ってお誘い!」
そう言って楽しそうに、左右色の違う瞳をきらきらと輝かせる。けれど今回は依頼という形だ。どうして、と問えばなんとなく! と快活な答えが返ってきた。
「『七色の幻雨』はイグノ砂漠のはずれ、北側にある廃墟だけで見られる不思議な現象だよ。片道半日、近くで一泊野宿して帰るって感じかな。朝くらいに出て夕方に着く予定! 砂漠は通らないから特別に必要な物もないかな。『七色の幻雨』を綺麗に見るには月夜が必要だ。暗すぎると七色に見えないし、逆に明るすぎると色が飛んでしまう。一応、当日は満月だよ。月の巡りもちゃーんとわかってるから任せて!」
必要事項をつらつらと並べ、ヴィンツは身軽な格好でギルドの外へと出る。彼は大抵荷物を異空間に預けるスタイルだ。楽しそうに笑ってから、ふと、瞳を細める。
「『七色の幻雨』はとっても綺麗で見惚れちゃうくらい! 七色の花も見つけた人が居るんだって、気になるよね! けど気を付けて。旅人や周辺に住む人に聞いたんだけど、雨の向こう側に『自分の肉親』が見えることがあるらしいんだ。親の顔を知らない人もそう思い込んじゃうんだって。――その廃墟からはいくつも白骨死体が見つかっていてね。元々何人も人が亡くなった場所みたい。この地と、濃度の高いエーテルが合わさっての作用かもしれない。もちろん幻覚だけど、油断はしないで。決してついて行っちゃいけないよ」
声を潜め、内緒話のように青年は囁く。もしかして、それこそが今回彼の調査対象なのではないか。そんな気がするほど、ヴィンツの瞳はどこか輝いて見えた。
解説
●目標
『七色の幻雨』の発見、見物
●『七色の幻雨』
イグノ砂漠はずれの北、とある廃墟で月夜にだけ降る、美しい七色を持つ雨。降っているところや水たまりを見ると虹が映ったかのように七色に見える。ひとしずくだけではほぼ無色。一帯に生えている木々や草も僅かに七色に染まっている。七色の花があるらしいがヴィンツも未発見。不思議なことに、雨の向こう側に『自分の肉親の姿』の幻が見えることがある。
少量なら飲んでも無害だが、多く体内に摂取したり、長く留まっていても危険とのこと。足元にさえ注意すれば、廃墟で雨宿りしながら眺めることも出来る。
ヴィンツ・ラッテが一昨年見つけ、採取して研究を重ねていた。彼の書いた論文集に載っており、それを読んだ者が何人か訪れているらしい。
●NPC
・ヴィンツ・ラッテ
ヴェルクリエの技術者で授恵者。今回も気まぐれで皆さんを連れてきた模様です。放っておけば基本的には無害です。自分の興味が勝ると危険でも飛び込みます。
戦闘が発生した場合、何も指示がないと参戦するかは気まぐれになります。
●備考
七色の幻雨を観に行くシナリオの予定です。戦いも方針次第で発生するかもしれませんが、メインではありません。
『七色の幻雨』については道中でヴィンツが教えてくれますが、知っていても構いません。
ヴィンツは放っておいて構いませんが、一緒に花探しや見えた影について話すと喜びます。
マスターより
お世話になっております。白葉うづきです。
素敵な景色を見に行こうシリーズ【幻旅】第二弾です!
シリーズとは銘打っていますが、続き物とはならずそれぞれ一シナリオで完結していきます。
不思議な雨を見に行きませんか。
今回の旅は、ヴィンツのギャラリーにあるピンナップ(ID:22858)がイメージとなっております。そちらをご覧いただくと、イメージが掴みやすいかもしれません。
何かご質問・雑談があればヴィンツが掲示板にてお答えします
(出発間際だとお返事が間に合わない可能性があります)。
皆さんのアニエピカライフが素敵なものになりますように!
ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。
リプレイ
●
「ヴィンツさん、お久しぶりです。今回も素敵な冒険の予感がしますね!」
のし、のし。荷物を載せて歩くミニビヒモーを従え、レイヤ・ダライ=カホールは瞳を輝かせていた。以前ヴィンツ・ラッテが案内した冒険もそうだった。今回もそんなわくわくとした旅が出来るに違いない。以前と同じようにエクレアさんの真似をしながら歩くヴィンツも嬉しげに笑う。
「楽しみにしてくれてる? やったー! エクレアさんもやる気満々!」
「久しぶりの遠出ですからね! 元気もりもりです!」
「七色の幻雨か……それはまた不思議なものをよく見つけてくるね」
天気は晴天。砂漠の近くということもあり暑さが襲い掛かる時期時刻ではあるが、不思議と日差しが厳しいものでない。それは空全体に薄い雲がかかっているからだろう。しばらく眺めていたヴィナスは視線を下げ、進行する方向を見つめる。先に脅威はないようだ。
「面白いところばっかり探してるからね!」
「それは気になるな。後でよければ話してくれ。今はその七色の雨だかを知りたい」
ふくらんだバックパックを背負ったレピド・クロサイトは、出来るだけ詳しくと冷静に促す。何しろ不可思議な場所だ、少しでも情報が多いほど危険も避けられるだろう。ただ。
(一体どんな光景なんだろうか。以前見た森もなかなかだったが、それとは違うものが見られそうだ)
内心は未知への冒険にわくわくが止まっていなかった。
道すがら、ギルドで話した内容をおさらいするようヴィンツは話し、アステルも頷きながら聞く。先ほどとほぼ同じ内容だ。
「変わった雨ですよね。七色だなんて」
「すごく綺麗なんだろうな、って思うよ。絶対にこの目で見てみたいな」
肩にカカポを乗せたヴィルへルミナが思案する傍で、背後方面の警戒を引き受けていたララベル・サン・ディーベルもまた瞳を輝かせる。想像しながら、静かな決意も宿していた。
「ですよね! ぜひ見ねば、です! 聞くだけでもなんて幻想的なんでしょう!」
「七色の花も気になるし!」
「それです! ヴィンツさんも見つけてないんですよね?」
「見つけてなーい!」
「見つかるでしょうか……! それも含めてわくわくしますね!」
レイヤも、ヴィンツも同じように期待に胸を膨らませている。レピドはふむ、と考えた。安定して見つからないとなれば、よほど予想外の場所にあるのか。
「七色の花も雨の時にしか見られないのだろうか。……いや、そうでなければ商人が採り尽してるか」
「希少価値のあるものは見逃さないからね」
「あるいは見間違いとも考えられますが……世界にはまだまだ不思議が多いものです。それにしても、ヴィナスさんやララベルさんは軽装ですね」
ヴィナスが商人の顔になる傍ら、他の可能性を模索していたヴィルへルミナの問いに、ララベルは楽しそうに答える。
「荷物はマジカルポケットに預けてあるから! 折角の光景、手ぶらの方が見物もしやすいよね」
「ねー!」
バックパックに荷を詰め込む者もいたが、ララベルとヴィナス、ヴィンツはほぼ荷物を持っていない。ヴィンツの出した手にハイタッチしてから、ふとララベルは視線を遠くした。七色の幻雨。名前の通り、幻が雨の向こうに見えるらしい。
(僕の両親、どんな人なんだろう)
その姿を知らないララベルは、想いを馳せながら道を行く。
道中はさしたる危険な個所も無く、冒険の旅は順調に進んでいった。ヴィナス、ララベル、レピドも技能を用いながら周囲の警戒を怠らなかったため、魔獣やクリーパーの類を見つけても隠れたり道を遠回りするなどやり過ごすことが出来た。目的地まで半分以上道程を進んだところで、休憩を挟む。
「エクレアさんもお疲れ様です、さて」
優しくその身体を撫でてから、レイヤはごそごそと何かを取り出す。
「それでは、皆でケーキを食べましょうか!」
「ケーキですか」
「パウンドケーキです! ケーキを食べれば疲れも吹き飛びますからね! ケーキのご加護をいただくことで七色の花も見つかるかもしれませんよ」
「ケーキにそんな力が……」
まじまじと見つめるヴィルへルミナをはじめ、仲間たちに配りながらレイヤは胸を張って話す。ララベルも興味深く聞きながら、貰ったケーキに齧り付いた。
「ありがとう! んー、おいしい!」
「ありがとう。飲み物も入ったから、遠慮なくどうぞ」
「いい香りだな」
ヴィナスから渡されたカップの中を覗き込み、レピドは匂いをかいでみる。爽やかで甘い香りがした。
「水で割ったアップルミントのコーディアルだよ。歩いたから少し身体が火照ったろうからね、さっぱり出来ればと思って」
「ありがとうございますヴィナスさん、ケーキにもばっちり合います!」
「なんだか優雅な茶会みたいだな……」
「贅沢ですね。悪くはないですが」
幸せそうにケーキを頬張るレイヤの傍ら、レピドとヴィルへルミナものんびりとした時間を送る。食べ終わったララベルはふと皆を見回し、楽しそうに笑った。
「冒険っていうより、目的のある旅みたいだね。皆でわいわいしながら綺麗な景色を見に行くって」
「ツアー的な?」
「ツアー的な!」
「ヴィンツと一緒に秘境を巡るツアーか……上手くやればビジネスになりそうだね」
「色んな場所に行けるのは楽しいですね!」
「同じ場所だと俺が楽しくなーい!」
ケーキとコーディアルをお共に、賑やかに休憩を取った後、一行は旅を続ける。
遠くに砂漠が、その手前に小さな林が見えてきた。頭上は相変わらず灰色の空が広がっていたが、徐々に空気が湿り気を帯びてくる。旅の目的地も近い。
「待って」
ララベルが皆を制止する。クリーパーが索敵に引っかかった。静かに進めばやり過ごせるだろう。
「さぁ、こっちに集まって……面倒事はなるべく避けたいよね」
「弟も言ったと思うけど、働かざる者食うべからず、もしもの時はヴィンツも戦ってね」
「弟?」
にっこりと笑うヴィナスの言葉にああ、とヴィンツは頷き、笑った。
「気が向いたらね!」
そのまま走って去っていった彼は、奔放という言葉がよく似合う。弟の時も、もしかしたら気まぐれだったのかもしれないと感じた。
●
辺りは徐々に暗くなっていく。石造りの廃墟にて、レピドのランタンが揺らめていた。冒険者たちは僅かな音に顔を上げる。地面や木々、建物に当たる静かな音。ヴィナスが外に出て見上げてみると、月が出ていた。大きな大きな月は、淡い光を孕んで世界を照らす。月明かりに照らされた雨は――きらきら、きらきら。降るたびに色が変わる。七色が空から降ってくる。
「わぁ、すごく綺麗!」
「本当に、夢の中みたいですね……」
ララベルとレイヤは、廃墟の中から感嘆の声をあげた。本当に七色だ。月虹を孕む雨粒、輝く月に照らされた飛沫。
(息をのむ美しさがありますね……)
瞬きの合間にも雨は降り、雨音が世界を包んでいく。魅入られてもおかしくないほど神秘的な光景だ。
「なるほど、確かに七色に見える」
「世の中には不思議なこともありますね……」
「どういう原理だろうね。ただ、身体にはよくなさそうだ」
「それは同感です。水、飲まないようにしてくださいね」
ヴィナスと話しながら、ヴィルへルミナはカカポに呼びかける。
「見てみろ」
レピドの手には小瓶が握られていた。その中に液体が溜まっている。
「虹色だ」
よくよく見てみると、液体はきらめきながら七色を保っていた。ただ降っている時よりも濃い色だろうか。月にかざすとさらによく見える。
「これまた不思議ですね……! 混ざりません!」
「面白いよねー! 絵の具に使うとほんのり七色になるんだ」
「ほんのりか……使いどころに迷いそうだが、面白いな」
レピドは一度瓶を振ってみる。混ざらないそれは七色に揺れていて、そのままバックパックに収めた。ここに来た記念だ。
「それにしても」
ヴィルへルミナが雨の中を見回す。
「七色の花、というものは近くにはないようですね」
「雨降る前から探してるけど全然なんだ、花は幾つか見つけたんだけどさ」
ララベルも周辺を回り、水たまりが出来そうなくぼみも重点的に探してみたが収穫はなかったようだ。ヴィルへルミナがさらに思考を重ねる。
「やっぱり、雨が降っていないと見られないんでしょうか」
光の加減によって見え方が異なるのならば、花もそうなのかもしれない。
「ララベルさんが見つけた花の中にあったかも……」
「もっかい探してくる!」
「私も探します! けど本当に楽しみですね……“砂上の花”みたいなものなんでしょうか」
「それってシラー砂漠の?」
「はい!」
普段は花の咲くことのない砂漠で見ることが出来る、淡い光を帯びた白や薄紅の花畑。そんな奇跡みたいな花がここにもあるのだろうか。まだまだ、胸の奥がわくわくと騒いでいた。
(ただの白骨死体かな)
ヴィナスは廃墟を歩いていた。廃墟はところどころに穴が開いていて、かろうじて雨宿りできるほどの天井のみ。ひょっとしたら砂漠を抜けた人々が日差しから身を守ることにも使ったのかもしれない。そんな人々がこの雨に遭遇したら――恵みの雨だと考えるだろう。
(この雨を飲んでしまい、中毒性や幻覚効果、依存性に捕まったのかもしれないね)
不可思議な自然現象、それを世界が見せるのは多くがエーテルの影響だ。確証はないが、死体にこの雨が関係している可能性は高かった。
穴の開いた天井から雨が降っている。不意に人影が見えた気がして、立ち止まった。向こう側に見えるのは、恐らく。
(母さん)
想像通りの姿に、ヴィナスは微笑む。アレが見えなかったのは当然だ。
(もはや肉親とすら思っていないから)
現れたのは一人だけ。弟はきっとあんな可愛い姿をかたどることを雨の方が諦めたのだろう、きっとそうだ。出来てたら金取る。
(母さんが見えるのは、戒めだろうね)
ヴィナスは幻影に頷いてみせる。
「商売にならないからこそこの景色は成り立つ。手を出す気はないよ」
雨の中の優しげな姿は、ヴィナスに似た姿で頷いたように見えた。
(――!!)
駆け寄りかけた身体を理性が抑える、落ち着け、と冷静な自分がストップを掛けたことで、レピドは雨の中に身を投げ出さなかった。深呼吸をした後、じっと二つの人影を見つめてみる。赤毛のそれは雨の向こうでぼんやりとした輪郭を持っていた。幾ら雨が降っているとはいえ、この距離でぼやけるのはおかしい。
(事前に話を聞いていて良かったな)
でなければ、きっと自分は幻に踊らされ、追いかけていた。
「レピドさん、大丈夫ですか?」
「少し顔色が悪いですよ」
「ああ……平気だ。人影が見えた気がしてな」
「え、本当!」
先を行くララベルを追いかけるよう、レイヤ、ヴィルへルミナ、ヴィンツと花の探索を続けていたレピドは軽く頭を振る。
(それにしても……)
どこか見たことがあった気がした。以前、不思議な森の泡の中でみたような、赤毛の『両親』の姿をレピドは思い出す。もしかしたら、自分の知らない記憶の奥底に刻み込まれた姿がまた、こうして。
「……あれ、父様?」
ぱち、ぱちと瞬きをしてからレイヤは人影があった場所を見つめ、首を傾げる。
「家族がいたのか?」
「居た気がしたんですが、わからないですね。居てもおかしくないですし」
レイヤの父親は冒険家だったということもある。最近また旅に出ているらしいし、と考えたところで、また別の人影も見えた。今度は、母親。けれど彼女が大湿地帯から出ることは滅多にない。幻だ。
「わかってはいるんですが……存命の人の幻影が出てくると、ほんとに居そうで困っちゃいますね」
「……私にも見えますね」
ヴィルへルミナに面影のあるような人影。それを見据えながら、彼女は冷静に熱源を探した。――何もない。そこには虚空しかない。
「顔すらほとんど覚えてませんし、大分昔に失くなっているのでありえないことですから」
「ドキッとはしてしまうよな、……ああでも、もしかして」
レピドが口を開こうとすると、前の方で声が聞こえた。
三人が幻を見る、ほんの少し前。先行していたララベルは宗波を用いながら花を探していく。時折、月の光に照らされる雨の美しさに立ち止まりながら。
「うちの仲間達にも見せてあげたかったな」
どんなに綺麗だったか、帰ったらうんと話してあげよう。そう思って目に焼き付けていると――それは突然現れた。
「誰!?」
武器を構え、警戒の中ぼんやりとした姿を注視する。けれどそれもすぐに解いた。ララベルに、あれは見たこともない自分の両親だという気持ちが膨れ上がってくる。ずっとずっと会いたかった人たち。気持ちが、抑えきれない。
「父さん、母さん!!」
「待て、ララベル」
「離して、離してよ! やっと会えたんだ!」
駆けつけたレピドとヴィルへルミナが肩を掴んで抑える。
「あれは幻です、向こうには何もありませんよ」
「いるよ! 行かなきゃ行っちゃう! ……わっ」
不意に、頭上にたくさんの光が現れた。鳥の形を模したそれは、七色の雨と遊ぶように飛びながら、きらきらと空へ昇っていく。
「わあ……! 思った通り、素敵な見た目になりましたね……!」
光を打ち上げたレイヤはほうっと昇った先を見ていた。ララベルは人影のあった方を見る。もう、何も居ない。
「……何で『肉親』の幻が見えるんだろうな、と思ったんだ」
先ほど口にしかけた言葉をレピドは話す。ここで命を終えたものの中に、家族の元に帰りたかった人が居たのかもしれない。
「どう思う、ヴィンツ」
思考をこねるよう、ヴィンツはくるくる指を回す。
「例えばよほど強い残留思念がエーテルの濃いここに留まったことで何らかの作用が起こり幻を見せるようになった。自分の会えなかった家族に、他の人も会えるように……とか!」
「それは……切ないですね」
「不思議なことが起きる場所ですからね」
「……そっか。……でも、嬉しかったな」
ララベルは肩を落とす。けれどほんの少しでも、夢を味わえた気がした。
「少し気になることがあるんだが」
レピドが提案する。
「人影の見えた向こう側、行ってみないか?」
「わ! わーっ!」
そこには花があった。月光に照らされ、雨に濡れた美しい花々。どこか七色に見えるのは、雨だけが理由ではない。その花自体も淡い七色に輝いていた。レイヤとララベルが目を輝かせ、ヴィルへルミナも目を見張る。
「綺麗ですねー!」
「本当、きらきらしてるよ!」
「これが七色の花、ですか。綺麗なものですね」
「濃いエーテルに感化されて、というところか」
「人影が出てたところは特に濃かったってことだね!」
「いいものが見れたな。採取してくのか?」
「してくー!」
合流したヴィナスが頷くのに、ヴィンツも同意。レピドも見惚れたように花を見つめていた。
一行はしばしその花畑で時間を過ごす。雨を弾きながら揺れる花々は、静かにそこに咲いていた。
「ヴィンツさん、お久しぶりです。今回も素敵な冒険の予感がしますね!」
のし、のし。荷物を載せて歩くミニビヒモーを従え、レイヤ・ダライ=カホールは瞳を輝かせていた。以前ヴィンツ・ラッテが案内した冒険もそうだった。今回もそんなわくわくとした旅が出来るに違いない。以前と同じようにエクレアさんの真似をしながら歩くヴィンツも嬉しげに笑う。
「楽しみにしてくれてる? やったー! エクレアさんもやる気満々!」
「久しぶりの遠出ですからね! 元気もりもりです!」
「七色の幻雨か……それはまた不思議なものをよく見つけてくるね」
天気は晴天。砂漠の近くということもあり暑さが襲い掛かる時期時刻ではあるが、不思議と日差しが厳しいものでない。それは空全体に薄い雲がかかっているからだろう。しばらく眺めていたヴィナスは視線を下げ、進行する方向を見つめる。先に脅威はないようだ。
「面白いところばっかり探してるからね!」
「それは気になるな。後でよければ話してくれ。今はその七色の雨だかを知りたい」
ふくらんだバックパックを背負ったレピド・クロサイトは、出来るだけ詳しくと冷静に促す。何しろ不可思議な場所だ、少しでも情報が多いほど危険も避けられるだろう。ただ。
(一体どんな光景なんだろうか。以前見た森もなかなかだったが、それとは違うものが見られそうだ)
内心は未知への冒険にわくわくが止まっていなかった。
道すがら、ギルドで話した内容をおさらいするようヴィンツは話し、アステルも頷きながら聞く。先ほどとほぼ同じ内容だ。
「変わった雨ですよね。七色だなんて」
「すごく綺麗なんだろうな、って思うよ。絶対にこの目で見てみたいな」
肩にカカポを乗せたヴィルへルミナが思案する傍で、背後方面の警戒を引き受けていたララベル・サン・ディーベルもまた瞳を輝かせる。想像しながら、静かな決意も宿していた。
「ですよね! ぜひ見ねば、です! 聞くだけでもなんて幻想的なんでしょう!」
「七色の花も気になるし!」
「それです! ヴィンツさんも見つけてないんですよね?」
「見つけてなーい!」
「見つかるでしょうか……! それも含めてわくわくしますね!」
レイヤも、ヴィンツも同じように期待に胸を膨らませている。レピドはふむ、と考えた。安定して見つからないとなれば、よほど予想外の場所にあるのか。
「七色の花も雨の時にしか見られないのだろうか。……いや、そうでなければ商人が採り尽してるか」
「希少価値のあるものは見逃さないからね」
「あるいは見間違いとも考えられますが……世界にはまだまだ不思議が多いものです。それにしても、ヴィナスさんやララベルさんは軽装ですね」
ヴィナスが商人の顔になる傍ら、他の可能性を模索していたヴィルへルミナの問いに、ララベルは楽しそうに答える。
「荷物はマジカルポケットに預けてあるから! 折角の光景、手ぶらの方が見物もしやすいよね」
「ねー!」
バックパックに荷を詰め込む者もいたが、ララベルとヴィナス、ヴィンツはほぼ荷物を持っていない。ヴィンツの出した手にハイタッチしてから、ふとララベルは視線を遠くした。七色の幻雨。名前の通り、幻が雨の向こうに見えるらしい。
(僕の両親、どんな人なんだろう)
その姿を知らないララベルは、想いを馳せながら道を行く。
道中はさしたる危険な個所も無く、冒険の旅は順調に進んでいった。ヴィナス、ララベル、レピドも技能を用いながら周囲の警戒を怠らなかったため、魔獣やクリーパーの類を見つけても隠れたり道を遠回りするなどやり過ごすことが出来た。目的地まで半分以上道程を進んだところで、休憩を挟む。
「エクレアさんもお疲れ様です、さて」
優しくその身体を撫でてから、レイヤはごそごそと何かを取り出す。
「それでは、皆でケーキを食べましょうか!」
「ケーキですか」
「パウンドケーキです! ケーキを食べれば疲れも吹き飛びますからね! ケーキのご加護をいただくことで七色の花も見つかるかもしれませんよ」
「ケーキにそんな力が……」
まじまじと見つめるヴィルへルミナをはじめ、仲間たちに配りながらレイヤは胸を張って話す。ララベルも興味深く聞きながら、貰ったケーキに齧り付いた。
「ありがとう! んー、おいしい!」
「ありがとう。飲み物も入ったから、遠慮なくどうぞ」
「いい香りだな」
ヴィナスから渡されたカップの中を覗き込み、レピドは匂いをかいでみる。爽やかで甘い香りがした。
「水で割ったアップルミントのコーディアルだよ。歩いたから少し身体が火照ったろうからね、さっぱり出来ればと思って」
「ありがとうございますヴィナスさん、ケーキにもばっちり合います!」
「なんだか優雅な茶会みたいだな……」
「贅沢ですね。悪くはないですが」
幸せそうにケーキを頬張るレイヤの傍ら、レピドとヴィルへルミナものんびりとした時間を送る。食べ終わったララベルはふと皆を見回し、楽しそうに笑った。
「冒険っていうより、目的のある旅みたいだね。皆でわいわいしながら綺麗な景色を見に行くって」
「ツアー的な?」
「ツアー的な!」
「ヴィンツと一緒に秘境を巡るツアーか……上手くやればビジネスになりそうだね」
「色んな場所に行けるのは楽しいですね!」
「同じ場所だと俺が楽しくなーい!」
ケーキとコーディアルをお共に、賑やかに休憩を取った後、一行は旅を続ける。
遠くに砂漠が、その手前に小さな林が見えてきた。頭上は相変わらず灰色の空が広がっていたが、徐々に空気が湿り気を帯びてくる。旅の目的地も近い。
「待って」
ララベルが皆を制止する。クリーパーが索敵に引っかかった。静かに進めばやり過ごせるだろう。
「さぁ、こっちに集まって……面倒事はなるべく避けたいよね」
「弟も言ったと思うけど、働かざる者食うべからず、もしもの時はヴィンツも戦ってね」
「弟?」
にっこりと笑うヴィナスの言葉にああ、とヴィンツは頷き、笑った。
「気が向いたらね!」
そのまま走って去っていった彼は、奔放という言葉がよく似合う。弟の時も、もしかしたら気まぐれだったのかもしれないと感じた。
●
辺りは徐々に暗くなっていく。石造りの廃墟にて、レピドのランタンが揺らめていた。冒険者たちは僅かな音に顔を上げる。地面や木々、建物に当たる静かな音。ヴィナスが外に出て見上げてみると、月が出ていた。大きな大きな月は、淡い光を孕んで世界を照らす。月明かりに照らされた雨は――きらきら、きらきら。降るたびに色が変わる。七色が空から降ってくる。
「わぁ、すごく綺麗!」
「本当に、夢の中みたいですね……」
ララベルとレイヤは、廃墟の中から感嘆の声をあげた。本当に七色だ。月虹を孕む雨粒、輝く月に照らされた飛沫。
(息をのむ美しさがありますね……)
瞬きの合間にも雨は降り、雨音が世界を包んでいく。魅入られてもおかしくないほど神秘的な光景だ。
「なるほど、確かに七色に見える」
「世の中には不思議なこともありますね……」
「どういう原理だろうね。ただ、身体にはよくなさそうだ」
「それは同感です。水、飲まないようにしてくださいね」
ヴィナスと話しながら、ヴィルへルミナはカカポに呼びかける。
「見てみろ」
レピドの手には小瓶が握られていた。その中に液体が溜まっている。
「虹色だ」
よくよく見てみると、液体はきらめきながら七色を保っていた。ただ降っている時よりも濃い色だろうか。月にかざすとさらによく見える。
「これまた不思議ですね……! 混ざりません!」
「面白いよねー! 絵の具に使うとほんのり七色になるんだ」
「ほんのりか……使いどころに迷いそうだが、面白いな」
レピドは一度瓶を振ってみる。混ざらないそれは七色に揺れていて、そのままバックパックに収めた。ここに来た記念だ。
「それにしても」
ヴィルへルミナが雨の中を見回す。
「七色の花、というものは近くにはないようですね」
「雨降る前から探してるけど全然なんだ、花は幾つか見つけたんだけどさ」
ララベルも周辺を回り、水たまりが出来そうなくぼみも重点的に探してみたが収穫はなかったようだ。ヴィルへルミナがさらに思考を重ねる。
「やっぱり、雨が降っていないと見られないんでしょうか」
光の加減によって見え方が異なるのならば、花もそうなのかもしれない。
「ララベルさんが見つけた花の中にあったかも……」
「もっかい探してくる!」
「私も探します! けど本当に楽しみですね……“砂上の花”みたいなものなんでしょうか」
「それってシラー砂漠の?」
「はい!」
普段は花の咲くことのない砂漠で見ることが出来る、淡い光を帯びた白や薄紅の花畑。そんな奇跡みたいな花がここにもあるのだろうか。まだまだ、胸の奥がわくわくと騒いでいた。
(ただの白骨死体かな)
ヴィナスは廃墟を歩いていた。廃墟はところどころに穴が開いていて、かろうじて雨宿りできるほどの天井のみ。ひょっとしたら砂漠を抜けた人々が日差しから身を守ることにも使ったのかもしれない。そんな人々がこの雨に遭遇したら――恵みの雨だと考えるだろう。
(この雨を飲んでしまい、中毒性や幻覚効果、依存性に捕まったのかもしれないね)
不可思議な自然現象、それを世界が見せるのは多くがエーテルの影響だ。確証はないが、死体にこの雨が関係している可能性は高かった。
穴の開いた天井から雨が降っている。不意に人影が見えた気がして、立ち止まった。向こう側に見えるのは、恐らく。
(母さん)
想像通りの姿に、ヴィナスは微笑む。アレが見えなかったのは当然だ。
(もはや肉親とすら思っていないから)
現れたのは一人だけ。弟はきっとあんな可愛い姿をかたどることを雨の方が諦めたのだろう、きっとそうだ。出来てたら金取る。
(母さんが見えるのは、戒めだろうね)
ヴィナスは幻影に頷いてみせる。
「商売にならないからこそこの景色は成り立つ。手を出す気はないよ」
雨の中の優しげな姿は、ヴィナスに似た姿で頷いたように見えた。
(――!!)
駆け寄りかけた身体を理性が抑える、落ち着け、と冷静な自分がストップを掛けたことで、レピドは雨の中に身を投げ出さなかった。深呼吸をした後、じっと二つの人影を見つめてみる。赤毛のそれは雨の向こうでぼんやりとした輪郭を持っていた。幾ら雨が降っているとはいえ、この距離でぼやけるのはおかしい。
(事前に話を聞いていて良かったな)
でなければ、きっと自分は幻に踊らされ、追いかけていた。
「レピドさん、大丈夫ですか?」
「少し顔色が悪いですよ」
「ああ……平気だ。人影が見えた気がしてな」
「え、本当!」
先を行くララベルを追いかけるよう、レイヤ、ヴィルへルミナ、ヴィンツと花の探索を続けていたレピドは軽く頭を振る。
(それにしても……)
どこか見たことがあった気がした。以前、不思議な森の泡の中でみたような、赤毛の『両親』の姿をレピドは思い出す。もしかしたら、自分の知らない記憶の奥底に刻み込まれた姿がまた、こうして。
「……あれ、父様?」
ぱち、ぱちと瞬きをしてからレイヤは人影があった場所を見つめ、首を傾げる。
「家族がいたのか?」
「居た気がしたんですが、わからないですね。居てもおかしくないですし」
レイヤの父親は冒険家だったということもある。最近また旅に出ているらしいし、と考えたところで、また別の人影も見えた。今度は、母親。けれど彼女が大湿地帯から出ることは滅多にない。幻だ。
「わかってはいるんですが……存命の人の幻影が出てくると、ほんとに居そうで困っちゃいますね」
「……私にも見えますね」
ヴィルへルミナに面影のあるような人影。それを見据えながら、彼女は冷静に熱源を探した。――何もない。そこには虚空しかない。
「顔すらほとんど覚えてませんし、大分昔に失くなっているのでありえないことですから」
「ドキッとはしてしまうよな、……ああでも、もしかして」
レピドが口を開こうとすると、前の方で声が聞こえた。
三人が幻を見る、ほんの少し前。先行していたララベルは宗波を用いながら花を探していく。時折、月の光に照らされる雨の美しさに立ち止まりながら。
「うちの仲間達にも見せてあげたかったな」
どんなに綺麗だったか、帰ったらうんと話してあげよう。そう思って目に焼き付けていると――それは突然現れた。
「誰!?」
武器を構え、警戒の中ぼんやりとした姿を注視する。けれどそれもすぐに解いた。ララベルに、あれは見たこともない自分の両親だという気持ちが膨れ上がってくる。ずっとずっと会いたかった人たち。気持ちが、抑えきれない。
「父さん、母さん!!」
「待て、ララベル」
「離して、離してよ! やっと会えたんだ!」
駆けつけたレピドとヴィルへルミナが肩を掴んで抑える。
「あれは幻です、向こうには何もありませんよ」
「いるよ! 行かなきゃ行っちゃう! ……わっ」
不意に、頭上にたくさんの光が現れた。鳥の形を模したそれは、七色の雨と遊ぶように飛びながら、きらきらと空へ昇っていく。
「わあ……! 思った通り、素敵な見た目になりましたね……!」
光を打ち上げたレイヤはほうっと昇った先を見ていた。ララベルは人影のあった方を見る。もう、何も居ない。
「……何で『肉親』の幻が見えるんだろうな、と思ったんだ」
先ほど口にしかけた言葉をレピドは話す。ここで命を終えたものの中に、家族の元に帰りたかった人が居たのかもしれない。
「どう思う、ヴィンツ」
思考をこねるよう、ヴィンツはくるくる指を回す。
「例えばよほど強い残留思念がエーテルの濃いここに留まったことで何らかの作用が起こり幻を見せるようになった。自分の会えなかった家族に、他の人も会えるように……とか!」
「それは……切ないですね」
「不思議なことが起きる場所ですからね」
「……そっか。……でも、嬉しかったな」
ララベルは肩を落とす。けれどほんの少しでも、夢を味わえた気がした。
「少し気になることがあるんだが」
レピドが提案する。
「人影の見えた向こう側、行ってみないか?」
「わ! わーっ!」
そこには花があった。月光に照らされ、雨に濡れた美しい花々。どこか七色に見えるのは、雨だけが理由ではない。その花自体も淡い七色に輝いていた。レイヤとララベルが目を輝かせ、ヴィルへルミナも目を見張る。
「綺麗ですねー!」
「本当、きらきらしてるよ!」
「これが七色の花、ですか。綺麗なものですね」
「濃いエーテルに感化されて、というところか」
「人影が出てたところは特に濃かったってことだね!」
「いいものが見れたな。採取してくのか?」
「してくー!」
合流したヴィナスが頷くのに、ヴィンツも同意。レピドも見惚れたように花を見つめていた。
一行はしばしその花畑で時間を過ごす。雨を弾きながら揺れる花々は、静かにそこに咲いていた。
マスターコメント
お疲れ様でした!
七色の雨と花、楽しんでいただけたでしょうか。
花は一輪くらいなら持ち帰っても構わないようです。扱いは普通の花と同じです。
この先もまた、不思議な旅に皆さまを案内出来ればと思います。
MVPは記録には残りませんが、楽しんでくださった皆さまへ。
ご参加いただきありがとうございました!
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜10人
2023年07月09日 16時32分39秒 公開
大成功
相談掲示板
レイヤです、よろしくお願いしますね! 虹色の雨…!話に聞くだけでなんて素敵! 頑張って見に行きたいですね! ちょっと遠出になるみたいなのでミニビヒモーの【エクレア】さんを連れていきます。 荷物はエクレアさんに運んでもらいましょう。わたしの荷物だけだとまだまだ余裕があるので 何か重たいものとかあったら一緒に積めますよ!
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 雨にも色々あるのだな。まさか虹色の雨があるとは。 月夜にだけ降る、とあるから一応照明や防寒は用意しておいた方が良さそう……か?
やあやあ! ヴィンツだよ、今日は来てくれてありがとう! キミたちの好奇心をくすぐることが出来たかな? 期待を裏切らない光景だからすーっごく楽しみにしていていいよ! オレもまたあの不可思議な空間に行けるの楽しみ! 色んなアイディアがどんどん湧いてきちゃう! あ、エクレアさんだ! やほやほー! 皆も久しぶりさんが多いかな? ヴィンツだよー! 元気ー?(手ぶんぶん)
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。 虹色の雨ですか。不思議な雨もあるものなのですね。 少し対策しておかないと危ないようなので、そこだけ注意ですか。
僕は、ララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね! 虹色の雨、楽しみ♪
(本当の両親に会うのが夢の子なので、雨の向こうにまだ見ぬ親の幻覚を見たら、反射的に駆けだして行こうとすると思うので、もし宜しければ何方か止めて下さると助かります・平伏)