【泥乱】雲霞鳥の巣を探れ
七海真砂
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シナリオID:2986
オープニング
リザードマンたちが暮らすこの土地には、大小さまざまな部族が暮らしている。その一つであるカホール族は、ディズル大湿地帯の西部、海沿いの一角に暮らし、水運を生業としている部族であった。
そんなカホール族に、かつて一人の女戦士がいた。
しなやかな四肢を駆使して繰り出される一撃は部族一と誉れ高く、一族に迫る災いを幾度となく叩き潰したという。
およそ二十年ほど前に彼女が大切な家族を得て、戦士としての一線を退いてもなお数々の逸話が残り続け、今でも同じ部族の者がちょびっとだけ彼女を恐れてしまうほどに。
そんな元女戦士こと、シャレム・ダライ=カホールは、その日、一通の書簡を受け取っていた。
「差出人は……アシムベート・グリオウ……まあ、大酋長さん!?」
何の御用かしら、と急いで中身を確認する。そこには、海岸沿いにある雲霞鳥の巣の調査を頼みたい、という旨の内容が書かれていた。
雲霞鳥。それはディズル大湿地帯にのみ生息する魔獣の名だ。
そしてシャレム達リザードマンが数々の戦いを繰り広げてきた相手でもある。
一定数以上に集まった雲霞鳥は集団で狩りを行い、大湿地帯を傍若無人に食い荒らす。だからリザードマン達は、雲霞鳥が集団を形成する前に狩り、対抗する――。
「そういえば、去年はあまり雲霞鳥を見かけていませんわね……」
長年の経験から、そういう年の翌年は『危険』だということをシャレムは知っている。雲霞鳥はそういう年があると、翌年は大量に発生したり、特異個体が目撃されることが多いのだ。
アシムベートもそれが解っているから、調査を依頼してきたのだろう。
この地域に長年住んでいて土地勘があり、雲霞鳥と戦った経験も豊富にあるシャレムならば、雲霞鳥の巣がありそうな場所は大体見当がつく。それに、例年との発生の仕方の違いや、特異個体の見極めなどもできるはずだ。
「護衛の冒険者を遣わすので、協力して調査に当たって欲しい……ええ、それなら安心ですわね」
どのような方がいらっしゃるのかしら、おもてなしにケーキでも焼いておきましょうか……などと呟きつつ、シャレムはすぐさま快諾の返事を出すのだった。
解説
マスターより
リプレイ
「まあ。誰が来るかと思ったら……!」
家に飛び込んで来た愛娘、レイヤ・ダライ=カホールを見たシャレム・ダライ=カホールは、思わず目を細めていた。少し久しぶりの再会に、積もる話は色々あるけれど、まずはお仕事ですねとレイヤは皆を紹介する。
「お初にお目にかかる。ライナ・フレイヴァルツだ。此度は貴女を護衛するためにやってきた次第。慣れない土地柄で至らないところもあるかと思うが、よろしく頼む」
「とんでもない! 大変頼もしいですわ。こちらこそよろしくお願いいたします」
「フロマーシュ・ダイヤドロップと申しますっ。皆様をお守りしながら調査のお手伝いをして参りますっ。ライナ様共々、よろしくお願いいたしますっ!」
「まあ、こちらも頼もしい騎士さんね。どうぞよろしくお願いいたします」
「トーラです! ええっと……」
「……トーラさん? もしかしてクリスタルの洞窟の……?」
「あ、はい。バトバヤルさんとご一緒させていただきました!」
名乗るライナとフロマーシュにニコニコと笑いかけたシャレムは、次いで名乗ったトーラの反応に「やっぱり」と頷く。どうやら先日、旦那様であるバトバヤル・ダライ=カホールと冒険したことを聞いていたらしい。
「ありがとうございます。私もお世話になりますわ」
そう礼をしながら皆を迎え入れて、シャレムは「よろしければ」とケーキとお茶を配る。
「腹が減っては何とやら。しっかり食べて出発いたしましょう」
「わっ、美味しそうです! では食べながら現地の詳細をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
フロマーシュはライナと一緒に頷き合いつつ、現地の詳しい地形などについて尋ねていく。
高低差のある地形となるため、下から上を見上げる際は岸壁を確認しやすいものの、崖の上が分かりにくいというネックがある。反対に、上から下を眺める際は崖下の様子を確認しやすいものの、岸壁の出っ張りの影などは見えにくくなる。
「できるだけ雲霞鳥から姿を隠して調査したいが……」
「そうですわね……雲霞鳥が低所に見えるようであれば崖の上を、反対に高所を飛んでいるようであれば岸壁の影や下を移動していくのが良いかと思いますわ」
ライナから相談されたシャレムだったが、なにせ相手は空を飛ぶ。雲霞鳥の様子を確認しながら、位置取りしていくことになりそうだ。
「特異個体には、どのような物がいるのでしょうか?」
「他よりも大型の固体や、飛行速度の速い個体などがおりますわ」
確かに、去年はギルドであまり雲霞鳥の討伐依頼を見ていませんし、そちらの可能性もあるなら確認しておきたいというトーラにシャレムが答える。
大型の固体は、強さそのものは普通の雲霞鳥と同じだが支援範囲が広く、雲霞鳥が群れれば群れるほど危険度が高くなるらしい。大量発生と同時に出現していると、厄介そうだ。
「雲霞鳥、あれと戦うことは沼地に生きるものの定め。害鳥であり、群れたそれは災害である。滅ぼさねばならぬ――わたしはそうカホールの長老に教わりました」
今その雲霞鳥がどうなっているのか――しっかり調査し、そして無事に帰って来なければならないと言うレイヤに、他の四人も頷き合う。
「それで大事なお願いがあるのですが……」
そんな中、キリッと毅然とした顔でトーラが口を開く。
「……ケーキのお代わりを頂けますか?」
「まあ。ええ、もちろん。お口に合いました?」
「とても美味しいです! 作り方を教えて貰いたいくらいで……!」
「あらあら。じゃあレシピを書きますわね」
しっかり腹ごしらえをして出発いたしましょうね、と微笑みつつ、ケーキのおかわりとレシピをくれるシャレムだった。
そうして出発した一行の話題に上ったのは、新たに現れたという征竜の巫女のことだった。
「それにしても、大酋長様も大変ですね。求心力が下がったところに征竜の巫女なんて」
「私に話が来たのも、きっとご苦労なさっているからでしょうね……」
レイヤの言葉に、「きっと手が回らなくて困っていらっしゃるのですわ」とシャレムも頷く。そんな二人の会話をトーラが複雑そうな表情で聞いている。
レイヤは、更に続けた。
「リザードマンに早く竜になって欲しいなんて、『天に溶けし征竜』様以外の征竜様が言うものでしょうか? 謀の香りがする気がします。やな感じです」
「ほう、そういうものなのか」
「わたしの思い過ぎかもしれませんけど、どうにも引っかかるんです」
かつて、神話では、蜥蜴がリザードマンになることを他の多くの竜が危惧したという。
リザードマンが竜になることもまた、本来であれば危惧される事なのでは無いだろうか?
ライナに尋ねられて説明するレイヤに、フロマーシュがなるほどと頷いている。
「母様はどう思います?」
「そうですわね……結果的にリザードマンという種の団結が乱れることになっている点は、気がかりではありますわね」
この亀裂が、もっと広がるような事態にならなければいいのですけれど――とシャレムは憂い顔を見せる。
「とにかく、私達はやるべきことをやらなければいけませんわ」
「そうですね……わたし、ちょっと偵察してきます!」
トーラは宗波で辺りを確認しながら、目の前に現れた斜面を登り始めた。気配はいくつか感じられるが、どれも虫や小動物のもので雲霞鳥ではないらしい。飛んでいる雲霞鳥がいないことを目でも確認しつつ、母蜘蛛糸のロープを垂らして皆が進む手助けをする。
「向こうの岸壁に何かの巣があるみたいです」
「じゃあわたしが見てきますね」
岸壁の途中に気配を察知したトーラの言葉に頷き、レイヤが母蜘蛛糸のロープを貼り付けてゆっくり下り始める。だが、その巣はウミネコの物のようで、雲霞鳥はいない。
「羽ばたきが聞こえます……トーラ様、あちらを確認していただけますか?」
そうして、しばらく確認を重ねながら進んでいくと、やがて超聴覚を持つフロマーシュの耳が、何かの羽ばたきを捉えた。警戒を強めながらトーラが確認するが、気配はどこかへ飛び去っていく。
「巣があるかどうか見ておこう」
ライナがロープを手早く掛けて岸壁を覗き込むと、小さな巣が掛かっているのが見えた。
「雲霞鳥の物だろうか?」
「ええおそらく。群れから少し離れて営巣しているようですわね」
手招かれたシャレムがそう告げる。なら少し様子を見てみましょうか、とレイヤは動物のおやつを取り出した。ペット用だけれど、仕掛けておけば雲霞鳥にもきっと効果があるだろう。
ロープを引き上げ、少し離れた場所で身を伏せながらしばらく待つと、飛んできた一羽の鳥――雲霞鳥だ――が、動物のおやつをくわえて、すぐさまどこかへ飛んで行く。
「ここで食べるのではなく、どこかへ持ち去る? というのは少し不思議ですね」
「向こうに何かあるのだろうか?」
フロマーシュとライナは、雲霞鳥が飛び去っていった方を見ながら首を傾げる。
もしかしたら、群れの本体がそちらにいるのだろうか?
とにかくそちらを確認してみよう、と、一行は歩みを進めていく。
どうやら雲霞鳥は、ある崖上の一角に群れているらしい。飛ぶ影から見つからないよう、崖下に降りて岸壁の影に隠れるようにしながら近付いていく。
「数は……そこまで極端に多いという訳では無いか? だが――」
超視覚を持つライナが舞い飛ぶ雲霞鳥を数える。ただ、他の個体よりも大きめの個体が何体も見えるのが気掛かりだと皆に告げる。
「特に、奥の方にいる個体が大きいな。そのひときわ大きな個体の傍に雲霞鳥が集まっている……ような気がする」
「ひときわ大きな個体……集まっている……まさか」
「? シャレム様、どうなさいました?」
ライナの言葉を聞いて、少し狼狽えた様子のシャレムの顔をフロマーシュが覗き込む。
「いえ……その個体、私も確認しておきたいですわ。――あそこからなら見えるかしら?」
雲霞鳥に近寄り過ぎない程度の位置にある、岸壁の中程を指すシャレムに、登るならお支えしますよとフロマーシュが応え、トーラが先導するように登っていく。
「なるほど、確かに群れるというか、集まっているという感じですね……?」
「だろう? どうも雲霞鳥は餌を持ってあそこに集まってきているようだ」
登りきって自らの目でも見えるようになったレイヤの言葉に、ライナが雲霞鳥の口元や鉤爪を見つめながら付け加えていく。その光景を見て、シャレムは一瞬息を飲むと、呟いた。
「グランドマザー……?」
「え?」
「あの中心にいる個体、ただの大型個体ではありませんわ。きっとグランドマザー……膨大な数の卵を産み、雲霞鳥の大量発生に寄与することから、そう呼ばれているのですけれど……」
ごくごく稀に、発生する特異個体。けれど一度発生すれば雲霞鳥の大量発生の源となる厄介な存在。
それがグランドマザーだ。
グランドマザーの元に多くの雛がいるから、周囲の雲霞鳥がわざわざ餌を運んでいるに違いないと、シャレムは口にした。
「確認してきます!」
トーラは咄嗟に判断を下すと、宗波の届く距離まで近付いて雲霞鳥の状態を探る。見た目からカウントした数よりもずっと多い気配が、確かに、そこにはある。
この数が――更にそれ以上に増した雲霞鳥が、一気に押し寄せたとしたら?
ぞわっと、背筋に嫌な物が走るのをトーラは感じた。
「いけない、雲霞鳥が来るぞ!」
様子を窺っているこちら側に気付いたのだろう。雲霞鳥の一部が舞い上がり、一行に向かって飛んでくる。その中に数体、とんでもなく速い個体がいる。
「高速個体もいるようですわ……!」
「大丈夫です、お任せくださいっ」
フロマーシュは全身全霊全速力で駆けつけ、雲霞鳥の突撃を受け止める。
群れを突き抜けて数羽が飛んできた程度だからだろうか。薄い靄を纏ってはいるものの、その強化具合は乏しく、ダメージはそれ程ではない。レイヤはすぐさま魔弾を飛ばし、そのうちの一羽を撃ち落とす。
「シャレムさん、どうする?」
「調査は十分ですわ、退きましょう」
特異個体が発生していること、大量発生の源となるグランドマザーがいること。
この二つだけで調査は十分だと判断したシャレムの言葉に、ライナは頷いて不可視の重力場を出現させる。飛んできた雲霞鳥は重力場に突入した瞬間、速度をガクンと落とす。
「先に行ってくださいっ!」
フロマーシュは鋼の祭刀にエーテル光を纏わせ、長大な刃と成し構えると、同時に不可視のエーテルを張り巡らせた。皆が駆けていくのを視界の端で見つめながら、飛んできた雲霞鳥に向かって次々と攻撃を繰り出すと、傷付いた雲霞鳥がばたばたと落ちていく。
「高速個体以外は振り切れそうですね」
大型の個体がその後ろから飛んでくるが、速度は決して早くない。これなら何とかなりそうだと見積もりつつも、トーラは念の為、フロマーシュと一緒に殿につく。いざという時は、自身が敵を引き付けて何とかするつもりだった。
が――。
「諦めた……のでしょうか?」
雲霞鳥たちは、やがて旋回すると向こう側へと戻っていく。もしかしたら、群れから大きく離れるのを避けたのかもしれない。十分に距離が離れたのを確認して、一行は一度足を止めて、一息つく。
「母様、他の雲霞鳥の巣でも、このように特異個体やマザーが発生しているのでしょうか?」
「そうですわね……今までの経験からすると、その可能性は高いと思いますわ……」
複数の巣で、同時多発的に特異個体が見つかることはままあるのだという。目撃例の少ないグランドマザーであっても、それは同じ……今年は非常に頭の痛いことながら『雲霞鳥の当たり年』だと考えるべきなのだろう。
「すぐに、大酋長さんに知らせを出し、判断を仰いだ方が良さそうですわね」
「ならわたしが伝令に行きます」
名乗りを上げたトーラに「お願いしますわ」と頷いて、連絡を託すシャレムだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜6人
2023年06月03日 03時06分23秒 公開
相談掲示板
ライナ・フレイヴァルツ、キャスターだ。宜しく頼む。 慣れない土地でかつ、雲霞鳥と対峙したことがないので危険度は推し量れないのだが、 やはり数が多いと手に負えないものなのか? 私が一先ずやれそうなことは超視覚で遠くを注意深く観察することくらいだろうか。 他に雲霞鳥について何か詳しいことがわかっていれば、それに協力させて頂こう。
シーフのトーラです。 よろしくお願いします! 調査ということなので、宗波と壁歩き当たりを持ち込んで見て回ろうかと思います。 雲霞鳥はわたしも多くは対応したことはないですけど、数が増えた驚異に、個体の強化も加わるので対応を間違えると厄介な印象です。 なので対処をする必要があるなら、数を減らすことを優先するのが良いと思います。 それも出来ないくらい群が大きいなら、撤退して危機を知らせる様にしたいですね。
ウォーリアのフロマーシュ・ダイヤドロップと申します。 皆様よろしくお願いいたしますっ! 群れることで強くなる、という特性がある分、 そこへの対策を考えますと、確かに数を減らすことは有効そうです。 ですので、群れられた時の対策を兼ねて、範囲攻撃は用意しておこうと思います。 私も超聴覚を利用して調査に協力しながら、 調査員のシャレム様を初め、皆様をお守りして参りますのでっ!
レイヤ・ダライ=カホール、キャスターです! 調査員のシャレムは私の母様です、ともどもよろしくお願いしますね。 雲霞鳥は群れると薄い靄みたいな…オーラのようなのをまとって急に強くなるんです。 なので私たちのようなディズルの者はみんな見つけたらすぐ倒すようにしているんですが… それでもいまだによく見かけるくらいに繁殖力も強くて。ほんとに厄介な生き物です。 幸い個々はあんまり強くないし、高くは飛ばない鳥なので少数なら倒すのは難しくないですよ。 私はロープとかバランス感覚とかで崖の下とかも見れるようにして行こうと思います。 …あ、おかしなところとかあったら母様が直接見れるようにしたほうがいいかもですね。
成立しているようだな。皆よろしくな。 シャレムさんはレイヤさんの母君だったのだな。 何事もなく無事に終わることを祈ろう。 それと…雲霞鳥について各々の知っている情報を 細かく教えてくれてありがとう。 成程、群れであると手を焼くとはそういうことなのか。 おまけに繁殖力も強いとなれば雲霞鳥の巣を調査する依頼が出るのも頷ける。 一応これだけ確認しておきたい。 調査と護衛が名目であるようだが、巣が出来上がっていた場合はその討伐もする…のか? 状況としては雲霞鳥が襲ってきたときの対処と思っていたが、皆はどう考えてるだろう? そこはシャレムさんと相談して現場判断でということになるか。
雲霞鳥への対応は、調査と護衛を優先して、討伐の必要があるかはシャレムさんの判断に従うので良いと思います。
そうですね、討伐は後回しでいいと思います。 それよりは調査と、それから無事に帰るのを優先したいですね。 まずは全容を知りたいかなって。予想より数が多いとか特異個体がいるならこの人数では危険な事態に陥るしれません。 シャルガネのほうでは”彼を知らずして己を知れば 一勝一負す”なんていうらしいですし。
なるほど、調査と皆様をお守りすることを優先、ですねっ。 また、レイヤ様がおっしゃったように、数の多さ特異個体等、危険度が高い相手に襲われる可能性がある事を考えますと、 調査の際もお互いが離れすぎないようにして、万が一の際もすぐ駆けつけられるようにする方が良いかもしれません。
了解だ。3人ともありがとう。 まずは気づかれないように動くこと、 そして気づかれた時に如何に対処するかを考えて動くことにしよう。 目立たない装備で隠蔽しつつ、様子を伺おうと思う。