【恨縁】蟻亜人の鬼謀

広大野人

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シナリオID:2950

オープニング

●???
 暗闇の中、メドゥの指先『赤の親指』ミュルコレオは蟻亜人の一体と触角を用いて『会話』していた。それは人の言葉では表現できぬものではあるが、おおよそ、次のようなものであった。
「……わらわの知恵を求めるのか。地上の巣の者よ」
「いかにも。我らの主は我らの家ごと崩された」
 小さい砦のような蟻塚を巣としていた蟻亜人達は、先日、襲撃により巣を破壊された。抵抗を試みたが、新型の投石器により徹底的に破壊されたのだ。その際、女王蟻は巨大な石の直撃を受けて死んでしまった。
 たまたま巣の外で活動していた十数体は無事であったが、女王蟻が死ねば巣は遠かれ全滅する……その前に一矢報いたいというのが蟻亜人の願いだった。
 ミュルコレオは優し気な微笑を浮かべて告げる。
「そなたの欠落を埋める願い。わらわが聴き遂げよう」
 人間共と戦えば戦力差であっという間に敗れるのは目に見えている。
 だから、ミュルコレオは策を授けた。恐るべき罠を……。

●
 レルドク領は王国北西部に位置し、特にこれといった特徴の無い土地である。
 過去、魔獣や敵性亜人の襲来によって度々苦しんだ経緯があり、街道に出現した蟻亜人の一報に討伐隊が編成された。
 兵士や傭兵、志願兵からなるレルドク軍は蟻亜人の群れと衝突。
 数刻後には蟻亜人達は敗走。領主は国境外まで追撃を命じた。
「一匹残らず殲滅するのだ」
「ご命令通りに!」
 幾台かの戦車が陣を出発する。
 武装した兵士を載せる荷車を軍馬が牽いており、御者一人、長大な鉾槍を持つ兵士二人が乗っていた。
 騎兵と比べると機動力は落ちるが、亜人や魔獣相手ではそこそこの攻撃力を持ち、少なくともレルドク軍では重宝されているのだ。
 蟻亜人は移動の際、多脚を用いる事ができるので、一般的な人型と比べると足は速い方だが、流石に戦車の速度には敵わない。
 次々に背後から攻撃を受けて脱落していく蟻亜人。
「このまま皆殺しだ!」
 兵士長が叫ぶと敗走を続ける蟻亜人を追いかけ続けた。
 奴等は狂暴極まりない存在。旅人や行商を食い散らかし、かつては開拓民の集落を根こそぎ奪っていった事もある。
 もはや戦いというよりかは……まるで害虫駆除のような様相を呈した戦場。
 もう少しで蟻亜人共を全滅できる――という所で、新たな蟻亜人の群れが姿を現す。
「新手か! 一斉突撃で粉砕するぞ!」
 勇ましい合図と共に数台の戦車が地響きを鳴らしながら激走。が、次の瞬間、戦車に乗っていた兵士達が投げ出される。
 落とし穴に戦車が落ちた為だ。勢いがついていた事があり、急には止まれないので次々に戦車が縦長に掘られた穴に落ちていく。
「罠……だとっ!?」
 投げ出された痛みに耐えながら兵士長は驚く。
 これまで落とし穴という原始的な罠が無かった訳ではない。驚いたのは戦車から見えないように巧妙に隠された上に、戦車の特性を良く理解した上で張り巡らされた形に仕上げてあったという事だ。
「まさか……ミュルコレオが指揮する蟻亜人だったのか!?」
 メドゥの指先『赤の親指』として、度々国境を脅かす存在だ。蟻亜人の特異個体と思われ、その知能も高い。罠を準備する事は造作もないはずだ。
「生き残った者で円陣を組むぞ! 救援が来るまで耐えるんだ!!」
 そう命じた兵士長の胸を蟻亜人の投げ槍が貫いたのはそれから間もなくの事だった。

●
 増援が到着した時、既に生き残っている兵士達は息も絶え絶えだった。
 周囲に蟻亜人共の姿は見えなく、沈みかけた陽が寂し気な光を放っている。
「おい、しっかりしろ!」
「うぅ……」
 致命傷ではないが戦闘不能な怪我……当然、歩く事はできず、背負ったり、担架に乗せる必要がある者ばかりだ。
「暗くなる前に陣に戻りたい所だな」
 総出で負傷者を移動させようとした時だった。
 兵士達の目の前で地面が不自然に幾つも盛り上がっていく。
「な……なんだ……って、敵!? せ、戦闘準備!」
 地面の中に潜んでいたのだろう。幾体もの蟻亜人が姿を現した。
 一方、兵士達は負傷者を保護していたので臨戦態勢に無い。ここぞとばかりに蟻亜人共が襲い掛かって来る。
「まさか……わざ、と……なのか!?」
 殺し切る事をせずに助けに来た所を奇襲する。
 卑劣な戦い方ではあるが戦場では極めて有効な手段の一つだろう。そもそも蟻亜人共に人の常識は通じないものだ。
 太陽は完全に沈み、辺りは暗くなってきた。果たして自分は陽が昇ってくるまで痛みに耐えながら生きていられるだろうかと兵士は絶望の表情を浮かべるのであった。

解説

●目的 生き残っている兵士達の救助及び蟻亜人の殲滅 ●状況 冒険者達は帰って来ない兵士達の探索と蟻亜人の殲滅を依頼されて陣を出発し、瀕死の兵士達を発見した所から開始となります。 時刻:未明(薄暗いが戦闘行為に支障はない) 地形:荒野(多少の段差あり) 天候:晴れ・軽風 特記:瀕死の兵士達とは40ヘクス程度の距離が離れている事とします。 ●NPC等 ミュルコレオ メドゥの指先『赤の親指』。蟻亜人の特異個体と思われる。今回、リプレイ内に登場する事はない。 マガリー・アフレ 狼型魔獣を使役する魔獣使いの女性。ヒューマン以外の種族に対して敵対的(もっと言うとヒューマン至上主義以外のヒューマンにも敵対的)。一応、会話は成立する。 戦闘開始一定ラウンド経過後、多数の狼型魔獣と共に姿を現し、蟻亜人に対して攻撃する。冒険者に対して積極的には攻撃してこない。 狼型魔獣:冷気を放つ狼型魔獣の群れ。十数体。一際大きな群長(ボス)が率いている。 兵士達10数人 全員が戦闘不能な状態。何らかの回復を受ければ命だけは助かるかもしれないが、自力での移動は困難な状態。 ●敵勢力 蟻亜人 多数(正確な数は不明) 人の背丈ほどある直立した蟻の亜人。人語は話せない。各自、槍と剣、盾で武装している。魔法を扱う個体は存在しないようだが、酸や毒を射出する能力は持っている様子。力量は個体差があるようで一般兵士で倒せる場合もあれば授恵者に近い実力を持っている個体もある。 (PL情報)冒険者の誰かが兵士達の元に到着もしくは地中にいる事が発覚された時点で一斉に出現する。 ●その他 ※プレイング内容によってはアドリブ対応になる場合があります。ご了承下さい。 ※OP『???』のシーンはPL情報となります。 ※EXCが紐付けされていますが、プロフィール外の情報や設定はマスタリング対象となっております。質問への回答は致しませんのでご了承ください。

マスターより

 おはようございます。当依頼にて71作目となった広大野人です。  新たな個人連作の開始。タグ名は【恨縁】(こんえん)とさせていただきました。  【恨源】とは直接的な繋がりがありませんが、一部NPCなど重なる所が出て来る予定ではあります。  当シナリオ自体は蟻亜人の殲滅と兵士達の救助がメインとなります。不足する戦力については狼型魔獣に頼る事になるかと思いますが……どう関わるかは今後の個人連作の進み方によっては重大な選択の一つかと思います。  なお、今回、紐付けされているミュルコレオがリプレイに登場する事はありませんが、冒険者達のリプレイ内容は後日把握されると思っていただいて構いません。  それでは、依頼へのご参加、お待ちしております!

リプレイ

●
 薄っすらと明るくなってきた荒野で冒険者達は昨日から行方不明になっている兵士達を見つけた。
 周囲への警戒を続けるナハティガル=ラーが冷静に言い放つ。
「周囲に敵影はない……にも関わらず、瀕死の兵士達だけがこれ見よがしに放置されている。これは――罠かもしれんな」
 その台詞にエミリア・シバも同意する。
「戦場で負傷兵が放置されている場合考えられるのは、敵が殺すのも惜しむほどの敗走をしている場合……だとしたら、負傷者がほぼ一か所に集まっているのは少し変ね」
 追撃戦の場合、逃げ遅れから順番に倒れるものだが、今回は違う。
 助け合うように……というよりも、わざと集められた様子にも見えた。
 ルベア・ベルニが短剣を引き抜いて臨戦態勢に入る。
「確かに、動けない兵士が放置されているって時点でかなり不自然よね……とはいえ、助けに行かないという選択はないし」
 兵士達は瀕死のなのでこのまま見ている暇はなさそうだ。
 エミリアが周囲を見渡した。今の所、敵影は見られない。
「兵士達を餌にして助けに来た所を狙うとか考えられるわね。注意すべきは奇襲がどこから来るか、ね」
 討伐対象の蟻亜人の武装では射程はたかが知れている。とすれば、待ち伏せする場所はこの付近のはずだ。
 ルベアが一行に注意を促す。
「慎重にいかないとね。段差や一度掘り返されたと思われる痕跡なんかは特に」
「やはり、地中で潜みながら獲物を待つ罠か。どうやら蟻亜人に知恵を授けた存在がいるらしいな」
 ナハティガルの言葉にミア=リゼルが胸の中にざわつく想いを口にする。
「蟻亜人……ですか。なんだか胸騒ぎがします……。もしかして、先日の彼女(ミュルコレオ)が?」
 ミアは以前、蟻亜人の特異個体であり、メドゥの指先幹部であるミュルコレオと遭遇していた。あの時は共闘という形であったので脅威ではなかったのだが……ふと、思い至った。
(……そういえば、戦いに集中していたので彼女の戦い方や力量を、しっかりと観察していなかったかもです……)
 蟻亜人と呼ばれるぐらいだから地面の中に隠れるのもお手の物かもしれない。
 アステルの耳には地中から響いているであろう音が確かに聞こえていた。
「変な音がする気がする……蠢くような音……? 地中……?」
「罠ならば出て来るタイミングは絶対にあるからね」
 耳に手を当てて一望する妹にキオルティスはそう話す。
 待ち伏せで肝心なのは仕掛ける機会をどこに設定するかだ。遅すぎても早すぎても意味が無い。逆に言うと、待ち伏せがあると分かっている冒険者達の方が対策を立てられる分、『先手』側とも言える。
「護ってみせるさ、絶対にね」
 兵士達の姿をみつめながら宣言した台詞にアステルは大剣を軽々と掲げた。
「囲まれる可能性は大……だけど、行くしかないよね!」
 蟻亜人がどんな罠を張り巡らしていても、瀕死の重傷を負っている兵士達を救えるのは、ここにいる冒険者達だけなのだから。

●
 足並みを揃えて冒険者達は兵士達に近づいた。
 最初に兵士の傍へと到着したのはルベアだった。
「やっぱり地面の中に!」
 周囲を見渡すと、数えるのも馬鹿らしくなる位、色々な所で土が盛り上がっていく。
 先手を打ったのは警戒していたエミリアとナハティガルの二人だった。
「悪いわね餌に食いついたのは貴方達の方よ」
「所詮は付け焼き刃の策という事だな」
 二人がそれぞれに放った闘気槌によって、瞬く間に数体の亜人が倒される。
 冒険者達の初動が上手くいったのは、空中を進む事で、足音を感知していた蟻亜人の裏をついたルベアの行動と、もう一つ、エミリアが地中に隠れている蟻亜人に『気づかないふり』を提案した事によるものだ。
 何らかの行動を起こされない限り、蟻亜人は発覚されていないと思ってしまったのだ。
「これだけの人数、タイミングを合わせるなんて難しい事はできないわよね」
「『人が罠に近づいたら』あるいは『隠れている誰かが攻撃を受ける』。奇襲のワードはこの二つだったのだろうな」
 個別に地中に隠れてしまえば意思疎通は難しくなる。だからこそ、予め分かりやすい条件を設定していたのだ。
 そして、冒険者達の行動はその設定を突いた訳だ。
 武器にエーテルを纏わせながらルベアがミアに告げる。
「弓持ちも多いから、ミアさん!」
「分かりました。ルベアさん、範囲から外れて下さい」
 直後、兵士達を囲うように光柱が発生する。
 その障壁は外と中を物理的にも隔てるものだ。効果時間は限られるが、少なくとも弓矢程度なら十分に防げるはず。
「アステルさん、光柱に接近する亜人をお願いします」
 ミアの呼び掛けに、大剣を構えて待ち構えていたアステルが意識を集中させる。
「勿論です! って、あっちからも次々に出て来た!」
 光柱を破壊しようと群がってくるように迫る蟻亜人共に対して、『場』を形成した。
 強引に突破されない限り、光柱に取りつく事は出来ない。エーテルが続く限り、アステルは場の維持を続けるつもりだ。
「行かせないよ!!」
 場のエーテルに翻弄され、藻掻く蟻亜人に言い放つアステル。
 そこに敵の注意を引くように動いていたキオルティスが一陣の風のように踏み込む。
「ガラ空きだよ?」
 蟻亜人達にエーテルが込められた強力な一撃を叩き込む。
 それで倒れる個体もいるが、全てではない。どうやら、個体差が大きいようで耐えられる蟻亜人もいるようだ。
 出だしは好調……キオルティスは光柱によって守られている兵士達に一瞬だけ視線を向けた。急いで別の場所に移動させる必要はなさそうだ。
「結界が維持できている間に、出来るだけ多く倒しておきたい所だよ」
 そして、キオルティスは手薄な場所に向かって駆け出すのであった。

●
 光柱が消えた後、ミアは自らを盾としつつ回復魔法を行使続ける。
 接近してくる敵は前衛が対応しているが、散開している弓持ちには反撃の手段が限られてしまう。
 飛来する矢を短剣と身体を張って防ぐルベア。
「……そう何度も耐えられたものじゃないけど」
 授恵者の力で包囲を突破する事も出来るが……今の状態でやると兵士達が無防備になってしまう。そんなジレンマをかき消すように、ルベアは胸の奥底から強いプレッシャーを感じた。
「あ……狼!」
 幾体もの狼型魔獣が姿を現したのだ。
 蟻亜人の一体を文字通り粉砕していたアステルも新手に気が付いた。
「敵の増援!?」
 蟻亜人の数が多くて大変なのに、ここに来て魔獣のおかわりだ。
 すぐ横で並んで戦っていたキオルティスが目を細める。
「いや、あの布陣……明らかに人為的だ」
 狩りの際、包囲するように戦うイメージが強い狼だが、現れた狼の群れは横並びだった。
 中央に一際大きな狼の姿が見える……あれが群長(ボス)なのだろう。
 アステルとキオルティスの二人が見守る中、狼の群れが蟻亜人に向かって突撃を開始。
 突然の強襲に蟻亜人共が右往左往と乱れた。
「んん? なんか蟻亜人に攻撃してる……ってことは、味方? 今のところ敵意は無さそうだけど」
 首を傾げるアステル。
 敵の増援でないだけでも、この状況ではありがたいのは確かだ。しかし、キオルティスは油断せずに、狼の群れを視界の中に入れながら戦いに意識を戻す。
(ただの狼型魔獣の群れじゃない……魔獣使いがいるはず)
 本当に敵ではないと分かるまで油断は絶対にできないのだ。
 それはナハティガルも同じ考えでいた。
「狼の魔獣が蟻亜人を攻撃だと? ……魔獣使いに使役でもされているのか」
 狼が現れた丘に人影が見えた。
 ショートカットの緑髪のヒューマンの女性。戦況を見て、魔獣を操っているかのように腕を振るう。それに応える動きをする狼型魔獣。
「――この間の雷狼と似ているか」
 冷気のようなものを纏った狼型の魔獣。危険な存在なのは明らかだ。
 しかし、現状、背に腹は代えられない。数で勝る蟻亜人相手に身動きを取れない兵士達を守り続けるのは困難だからだ。
 狼型魔獣の出現に慌てる蟻亜人の一体をエミリアが倒し、戦況を確認した。
(まだ危ないけれど……この流れが続くのなら、大丈夫かもしれないわね)
 油断はできないが、エミリアは別の事を思案する。
 蟻亜人から何らかの情報を得られるのではないかと……例えば、蟻亜人の動きは誰かが入れ知恵したようにも思えた。その正体に辿り着ける可能性もある。
 それに、この規模であれば指揮官級が居ても不思議ではない。
(捕縛して、なにか情報取れないかしら?)
 蟻亜人の見分けはつかないが、1体ぐらい戦闘不能にさせてみる価値はあるかもしれないと思うのであった。

●
 狼型魔獣の群れは蟻亜人に対して積極的に攻撃を加えていた。連携の取れた動きは見事としか言いようがない。
「援軍……蟻亜人を掃討するみたいだけど……何だか嫌な感じがする。それに、あの魔獣……また、狼……」
 ルベアが独り言のように呟いた言葉にミアが応える。
「この前の狼型魔獣とは違うみたいですね」
 魔獣の専門家ではないので詳しい違いは分からないが。
 兎も角、戦力が不足している事もあるし、共闘してくれる分には助かるかもねとエミリアが前置きしつつ、エーテルを絞り出してスキルを繰り出す。
「負傷者がいる状況でこれ以上、敵は増やしたくところよ」
「同感だな。勿論、いつ攻撃されても対処できる様にしておくが」
 ナハティガルが通り際にそう言った。
 狼型魔獣が包囲の一辺を崩した為、冒険者達に余裕が出来た。
「このまま一気に押し切るべきだな」
「そうね。私とナハティガルちゃんがこっちから。キオルティスちゃんとアステルちゃんで挟み込むように仕掛けたいわ。ルベアちゃんとミアちゃんはここをお願いね」
 エミリアは舞うようにステップを踏み、ナハティガルは力強く駆け出した。
 残っているエーテルは限られているものの、ここで攻勢に出なければ敵に大きな損害を与えられない。
 二人の動きに応じるよう、キオルティスが対峙していた蟻亜人に三連撃を叩き込んで打ち倒す。
「外殻は硬いけど、それだけだよね」
 集中攻撃して砕いてしまえば脆いものだ。
 ぐっと足に力を入れて瞬間的に加速。瞬時にアステルが戦っている蟻亜人の真横に出て注意を引く。
 突然の事に驚いた蟻亜人の隙を突いて、大剣を振り上げるアステル。
「たぁぁぁぁ!!」
 気合の声と共にエーテルを纏った全力の一撃を蟻亜人は盾で受け止めよう試みたが、盾ごと頭部を割られて活動を停止した。
 まだまだ戦えそうな妹の様子に、キオルティスは背を向けながら蟻亜人の一団に向かって姿勢を低く落とす。
「あの集団を叩く。アステル、行けるか?」
「行くよ、ルティスお兄ちゃん!」
 飛び出すように走り出した頼もしい兄の背中を追いかけるアステルであった。

●
 戦闘はそれから間もなく終了した。
 結局、全滅するまで蟻亜人達は戦った訳だが、組織的に戦う事が出来ず、各個に撃破されていったのだ。
「皆、もう少しだから頑張って!」
 応援が到着するまで兵士達を元気づけていたアステルは、生き残りの蟻亜人がいないか確認している魔獣使いの女性に気が付いて、タタタと駆け寄る。
「有難う御座います! お陰で助かりましたっ!」
「貴女達、冒険者なのね」
「はい! アステルと言います。兵隊の皆さんを保護する依頼を受けていました」
 表裏の無い笑顔で話すアステルに対し、魔獣使いの女性は冷ややかな視線のまま名乗る。
「私はマガリー・アフレよ。貴女達と同じ理由で蟻亜人を倒しに来たわ。兵士は貴女達に任せるわね」
 そう言い放つと、エミリアとキオルティスの元へと向かう。
 もっと正確に言うと、二人が掴まえた蟻亜人に、だが。
「蟻から情報を得ようと思っても無駄だと分かったでしょ」
「その……ようだね」
 当たり障りのない返事をするキオルティス。
 蟻亜人の言語は人とは全く異なる概念であるようで、何も聞き出せなかったのだ。敵性亜人や魔獣の類なので難しいとは思っていたが……。
 次の瞬間、同行していた狼が牙を立てて、蟻亜人の頭をかみ砕いた。その様子にエミリアが両肩を竦める。
「容赦ないのね」
「慈悲の必要が?」
 その返しは残忍という次元にないものだとエミリアは感じた。
 暗殺者が淡々と仕事で命を奪うのとは真逆。強い恨みのようなものを発しており、兵士達の救護を行っているナハティガルにも同じ視線を向けていた。
(恨みを買ったつもりはないのだがな……)
 下手に刺激してもややこしい事になるかとナハティガルは思いつつ、視線に気が付かないふりをして、こっそり狼型魔獣を観察する。
 氷の力を操る事が出来る狼のようだ。
 先日の依頼で討伐した雷の力を宿した狼と違うのは明らかな上に、戦い方も魔獣使いがいるのといないとでは全く異なる。
 立ち去ろうとしたマガリーをミアが呼び止めた。
「ご助力ありがとうございます。私はミア=リゼルと申します。この狼さん達はあなたが従えているのですか?」
「そうよ。何か?」
「ミュルコレオという蟻亜人をご存知ではありませんか? 狼型の魔獣を狩っていたみたいなので……」
 ミアの質問にマガリーは狼の頭を撫でながら応える。
「知っているわ。メドゥの指先『赤の親指』……蟻亜人の特異個体よ。厄介な敵、そのものね」
「敵対しているのですか?」
「互いに相容れないだけよ」
 その口ぶりは他人ではなく、まるで知人……みたいな関係性にも聞こえる。
 話は終わったとマガリーが一歩踏み出した所で、今度はルベアが行く手を立ち塞いだ。
「待って、聞きたい事があるの」
「半獣人と交わす言葉は持たないわ……でも、まぁ、いいわ。一つぐらい答えてあげる」
 差別の視線と偉そうな口ぶりに耐えながらルベアは訊ねる。
「アナタ、狼の魔獣でどこかの村や集落を襲ったりなんて……したこと、ある?」
 場を包む沈黙。
 ミアが困惑したようにルベアに駆け寄った。
「ルベアさん?」
「分かってる。不躾な質問だって。でも……どうしても確かめたいの」
 その理由が喉を通るのを抑え留めるルベア。今はまだ……考えすぎかもしれないから。
 ルベアの真っ直ぐな視線をマガリーは受け止め……暫しの間の後に口元に手を当てながら笑いだした。
「ははははは……そう、そうなの……あの灰狐の集落の生き残りなのね。あるわよ、もう数えきれないほど」
「どういう……こと……」
「決まっているじゃない。ハーフビーストやゴブリンは人の世界に不要だからよ。もちろん、貴女も」
 残忍極まりない態度に一行に緊張が走る。
 蟻亜人との戦闘の後でエーテルは消費しているのだ。狼型魔獣の群れとまともに戦えば無事では済まない。
 マガリーはつかつかと歩み、ルベアの横を通り抜けた。
「命が惜しかったら、どこかの貴族に飼われる事を勧めるわ。家畜のようにね」
 そんな一言を呟きながら……。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  【恨縁】第1作目となります。兵士達の救助と待ち構えている蟻亜人との戦闘。  蟻亜人の裏を突いた形で序盤が進んだ所で狼型魔獣の参戦だったので、終始有利でした。また、各自、役割をしっかりと分担し、やり遂げた事も大きいと思います。  さて、登場したマガリー・アフレですが、幾つか情報が出てきましたね。冒険者達がどう向き合っていくか、これからの関わりに影響してくると思います。  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会あればご参加の程、お待ちしております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準6 / 4〜6人

2023年05月09日 09時57分46秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ルベア・ベルニ

    シーフのルベアよ、宜しく。 瀕死の兵士たちだけが荒野にいたら、流石にちょっとおかしく感じると思うのよね…。 救助に急ぎつつ、いつでも迎撃出来るようにしておきたいかな。 先手を取るのもありだけど…それだと兵士たちが危ないかしらね。 (ちなみに現時点ではまだ、ルベアは自分の故郷がマガリーの魔獣によって滅ぼされた、つまり実質的にマガリーが父親の仇であることを知りません…その体で動きますので宜しくお願いします)

  2. キオルティス

    シーフのキオルティス。キオでもルティスでご自由に。 今回は宜しくね。 そうだね…瀕死の兵士だけ、って言うのは確かにちょっと不自然かも。 ただ、それをどう言う違和感に感じるのかは難しいところかな。 あとは敵が掘り返した所謂『もぐら塚』的なものとかは無いかな、とか。 沢山あれば瀕死兵士だけの状況にプラスして、何らかの考察が出来る そんな一助にならないかな…って思ったよ。 それはさて置き。皆はどっちの蟻出現を予定してるのかな…。 兵士の許に辿り着いての出現なのか、蟻発見次第なのか。 とりあえずこれを決めなきゃね。 因みに俺は2班に分かれて救助班と発見班とに分けるのが良いかな、と。 巧く行けば、敵を挟むことが出来ないかな…ってね。 ところで敵って1体くらいは情報源として残しておいたりする? 俺は今後のことを考えると残しておくのが良いかな、と思ってるよ。

  3. ミア=リゼル

    ヒーラー、ミア=リゼルです。よろしくお願いしますね。 気づくなら瀕死の兵士さんたちの様子から…でしょうか。交戦中ならまだしも周囲に敵影がなく、瀕死の兵士たちのみが放置されており、応急手当てなどの復帰行動を誰もできていないとなると…罠かな、とは思いますね。 この線で、必要があれば戦術眼などで補強して気づく、ということができないかなと。 ひとまず私は兵士さんの救助を最優先とさせていただきたく思いますが、気配を感じ取るのはシーフさんたちほど得意ではないので… あるいはタイミングを見極めつつ囮になるのもいいかな、と考えています。敵が出現したところで隠蔽シーフさんたちに後ろから叩いていただく…とか。もちろん作戦次第ではあるのですが…

  4. エミリア・シバ

    シーフのエミリアよ、よろしくね。 見つけた瞬間スタートで距離は40へクスってなると、 そこまで見えてるってことだし結構見晴らしよさそうよね。 瀕死の仲間をエサにして誘き寄せて狙撃やら奇襲っていうのはよく聞くし。 見晴らしよさそうで狙撃がなさそうならどこかに隠れているかもとかは警戒しても不自然じゃないかしら? ただ、PL情報の『地中にいる事が発覚された時点で一斉に出現』。 これ感波みたいな技能を持ってて捜波で地中にいるのを見つけたら発覚したことが敵に発覚するのかしらね……? その辺の按配がちょっとあやふやでタイミングを制御しきるのが難しいかしらと思ったわ。 なので、兵士にたどり着いた時が基本でもいいのかしらって思ったわね。 発見班っていうのは、奇襲の警戒を兼ねて周囲の警戒をしながら、救出班と少し距離をとって周囲の警戒のほうをメインにするってイメージかしら? それだったらおねえさんも班分け賛成ね。

  5. ナハティガル=ラー

    シーフのナハティガル=ラーだ。――今回は宜しく頼む。 >瀕死の兵士 周囲に敵影もなく、瀕死の兵士達だけがこれ見よがしに放置されているとなると―― 普通に罠である事を察知しても不自然ではない筈だ。 >地中にいる事が発覚された時点で一斉に出現 エミリアが述べているように蟻亜人達が ・感波的な能力を持っており、捜波や気配を感知した時点で出現? ・感波的な能力は持っておらず、冒険者側の挙動で発覚/未発覚を判断? どちらなのか不明であるから、兵士の許に接近=蟻亜人出現の心積もりでいた方が無難だと俺も思う。

  6. No.6

    出遅れてごめんなさい! ウォーリアのアステルです。宜しくお願いしますね! 確かに瀕死の兵士を放り出してあるのは不自然な気もするから、 何らかの罠を疑うのはおかしく話と思うな。 兵士たちに近づくにつれ、警戒を強化していく方が良いと思う。 あと、ルティスお兄ちゃんが言ってるように、 『もぐら塚』的なモノは存在してる気がするから、兎に角周囲の異常を見て…って感じだね。 出現は兵士の元に私たちがたどり着いたら。って考えてるよ。 そういえば、マガリーさんへの対応は皆はどうするのかなぁ? 味方っぽく現れ行動するから、そのままにするのか、マガリーさん達も罠の一環と考えるか…。 私はヒューマンだからあまり適任ではないだろうけど、取り合えず話しかけてはみたいかな。

  7. キオルティス

    >罠 確かに瀕死の兵士たちだけが置き去り状態は罠だと見ても良いのか…。 発覚なんかじゃなく、気付いただけでは敵は出て来ないよね。 それなら皆で情報共有して動くのも良いのかも、とか。 因みに感波的な能力は勿論、罠解除も…使えない、よね?別の意味で。 >班分け エミリアさんの補足してくれた内容で大体合ってると思う。 発見班が少しだけ先行して範囲警戒をメインに囮代わりになり、 救助班は要救助者をメインに回復や護衛、退避を図る感じ…かな。 ただ、今OPと解説を再読したら、蟻は兵士たちを総出で攻撃するんだよね? 更にその総出の敵たちが俺たちではなく、一気に要救助者たちに 向かっていくんだとしたら、その班分けだと難有りになりそうだと 自分で言っておいて気付いたよ…。 >マガリーさん 俺はノータッチの予定、かな。 常に行動を視野には入れて警戒はしておくけれど、基本的には 彼女が攻撃するに任せる感じで。

  8. ミア=リゼル

    そうですね…懸念点は把握しました。 光縛封の効果範囲がもう少し広ければ防護陣を展開するようなこともできるのですが、さすがにそこまで使い勝手は良くないので…ううん。 アステルさんの取りたい行動と相談になるのですが、隔離という点では殺界系のほうが使い勝手が良いですから、それで要救助者を囲ってしまうことは可能でしょうか…? 枠を一つとりますし、他に良い案があれば私の言ったことは忘れてください! (殺界って範囲内←→外へ効果通るかどうかがうろ覚えの人) >マガリーさん 可能であれば接触してお話を聞いておきたいところですね。 仲良くなれるかどうかはともかく…

  9. No.9

    殺界、了解だよ! あとは、ドラゴンチャリオッツ持って、接近した敵をふっ飛ばしたり、 他の範囲攻撃をしていくつもりだよ。 んーあとは四方囲まれてそうだから、退路の確保をしておいた方が良いのかな?とか。

  10. ナハティガル=ラー

    >兵士 いずれにしても兵士の数は10数人と多い。 ホライゾナルジャンプ等で抱えて離脱するには数人で当たっても時間が掛かる事から、 その場で兵士達を護りながら応戦するのが基本になるかと。 その為、光縛封・殺界・シーザーロア等は時間稼ぎとして有効な筈だ。 >班分け 発見班=迎撃班で良いのではないか? 罠や奇襲を警戒しながら兵士達に接近⇒蟻亜人出現後は迎撃に移る感じで。

  11. エミリア・シバ

    >兵士 光縛封・殺界はとても助かるわね。 発見班(迎撃班)が蟻たちを攻撃に出ればこちらにも手を割いてくるでしょうから班は二つでも大丈夫かしら?と思ったわね、今回のこちら側も人数が多いわけでもないので。一方的に囲まれるような状況になったら面倒くさそうな気もするし。 一応班分けするならば足止めや回復などはできないので発見班(迎撃班)のほうで動けたらと思うわ。 >個人 捜波が発覚のきっかけは怖いので、もしかしたら傷ついた兵士がこちらに何か言ってくれるかもしれないのも含め【超聴覚】と【戦術眼】あたりを持っていく予定ね。 攻撃は、バーストストライクと【対象識別】のできる闘気槌を敵が出た初手使おうかと思ってるのと、あとは地道にトリプルファングかしらね。 >マガリー 個人的な心情だと、お仕事的に負傷者たちがいる状況でしょうから積極的に敵対行動はとりたくないわね。。こちらに攻撃してこない限りは警戒しつつあからさまに敵対しない、ぐらいにしたいかしらね。

  12. ナハティガル=ラー

    >個人 時間も押し迫っているので、俺は発見班(迎撃班)として動こう。 天眼と看破で周囲を警戒しながら兵士の許へ接近し、蟻亜人出現後は迎撃する。 メインの攻撃手段は真・トリプルファング。 その他、範囲攻撃スキルも持って行く予定。 >マガリー 『ヒューマン以外の種族に対して敵対的』との記載もある為、(攻撃されない限りは)俺の方から接触するつもりはない。

  13. ルベア・ベルニ

    >個人 私も発見班(迎撃班)で。 捜波は使わずに天眼と超視覚で警戒しつつ接近、かな。エアーライドも駆使して出来るだけ足音も消して行きたいと思ってる。 攻撃スキルはトリプルファングと闘気槌。 >マガリー 戦闘中は触れない。 …その後は、うん…こないだ(『魔獣の街道』)のことで少し気になっているから、接触はすると思うけど…どうなるかは正直(PLも)分からないわ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0