【甘壇】危うい香りとショコラ・フェスタ
白葉うづき
コメント 1
シナリオID:2825
オープニング
●ショコラ・フェスタを開く前の一騒動
「ミカエルさん、菓子焼き上がりました!」
「ありがとうございます、良い香りですね」
「今年もいいカカオを仕入れましたから! カカオが採れないかも、なんて話もありましたけど、無事流通してよかったです」
オーブンから菓子を取り出し、店の中にふわっと甘く、夢心地を思わせる香りが広がった。
王国北部にある教会都市シャイネ、そこに店を構えるバー『夢む蝶』は、甘輝祭に伴いチョコレート菓子や飲物を提供する『ショコラ・フェスタ』の開催に忙しくしていた。少しでも訪れてくれたお客様が楽しめるよう種類を用意し、普段は落ち着いた雰囲気の店内もカカオや宝石をモチーフにした飾りで少しばかり明るくポップになっている。
「あ、これがフェスタで提供するリキュールですよね」
「ええ、なかなか良いものを仕入れていただいたようです。一口飲めば花開くようなカカオが楽しめますよ。味わいはビターですが、合わせるものによってその姿を変えるでしょう」
バーの店主の言葉に、トラムの瞳が輝く。
「ミカエルさん、一本開けませんか! 俺も飲んでみたいです」
「そうですね……一杯なら許しましょう。少し出てきますが、酔い潰れてはいけませんよ?」
「やった!」
いそいそとナイフを持ち出す店員に微笑み、ミカエルはその場を後にした。
●おこだよ
「冒険者の皆様方。お初にお目にかかる方も多いでしょう。私はこの街でバー、『夢む蝶』を営んでおります。どうぞミカエルとお呼びください」
にっこりと笑いかけるミカエルは、整う美貌の持ち主だった。蠱惑的な雰囲気が漂うエルフの男性には、しかし静かな迫力がある。
――端的に言えば、非常に怒っていた。
「私の店でショコラ・フェスタをするため仕入れたリキュールに、魔法薬が混在していました。飲んだ者に痺れや眠りをもたらすものです。仕入れ先の商人は覚えがないと言い、調べてみたところ裏口に侵入された形跡がありました。そして、これです」
一枚の紙がテーブルに置かれる。
『リア充滅すべし モテ男も滅すべし
嫉妬人』
「どうです? ふざけた内容でしょう?」
にこにこと笑ってはいるが、迫力がさらに増したように思えた。
「ギルドに話を聞いてみれば、どうやら集団であちこち悪さを働いているとのことです。そこで、二つ依頼を申し上げます。ひとつ、私の店を手伝ってください。単純に人手が足りないことに加え、まだ魔法薬入りのお酒が無いか探さなければなりません。リキュールをまとめていた箱にこの手紙があったので、リキュールだけに絞って捜索してもいいかと。私が当たってもいいですが、私に会いにくるお客様もいらっしゃいます。出来ればお任せしたいところです」
それともうひとつですが、と瞳を細める。
「嫉妬人、という集団をこらしめてやってください。どういった手段かは問いません……と言ったらギルドの方に怒られたので、おいたを反省するくらいほどほどにこらしめた後、騎士団に引き渡しをお願いします。あと、集団を率いる人が居れば連れてきてください。ああ、これは出来ればでいいですので」
口元に手を当て、ミカエルは再び瞳を細めて笑う。
「報酬としてお支払する分の他、ささやかながら冒険者様だけのショコラ・フェスタを開催させていただければと思います。どうぞ、よろしくお願いしますね」
●嫉妬人たちの叫び
「何が甘輝祭だ! 何が『大切な人に贈り物をする』だ! 贈ってフラれた俺たちはどうすればいい!」
「おおー!」
「世の中のカップルが憎い! モテる奴らが妬ましい!」
「おおー!」
「幸せなデートなど許せない! この悲しみや辛さをやつらにも味わわせてやろう!!」
「おおー!」
「ミカエルさん、菓子焼き上がりました!」
「ありがとうございます、良い香りですね」
「今年もいいカカオを仕入れましたから! カカオが採れないかも、なんて話もありましたけど、無事流通してよかったです」
オーブンから菓子を取り出し、店の中にふわっと甘く、夢心地を思わせる香りが広がった。
王国北部にある教会都市シャイネ、そこに店を構えるバー『夢む蝶』は、甘輝祭に伴いチョコレート菓子や飲物を提供する『ショコラ・フェスタ』の開催に忙しくしていた。少しでも訪れてくれたお客様が楽しめるよう種類を用意し、普段は落ち着いた雰囲気の店内もカカオや宝石をモチーフにした飾りで少しばかり明るくポップになっている。
「あ、これがフェスタで提供するリキュールですよね」
「ええ、なかなか良いものを仕入れていただいたようです。一口飲めば花開くようなカカオが楽しめますよ。味わいはビターですが、合わせるものによってその姿を変えるでしょう」
バーの店主の言葉に、トラムの瞳が輝く。
「ミカエルさん、一本開けませんか! 俺も飲んでみたいです」
「そうですね……一杯なら許しましょう。少し出てきますが、酔い潰れてはいけませんよ?」
「やった!」
いそいそとナイフを持ち出す店員に微笑み、ミカエルはその場を後にした。
●おこだよ
「冒険者の皆様方。お初にお目にかかる方も多いでしょう。私はこの街でバー、『夢む蝶』を営んでおります。どうぞミカエルとお呼びください」
にっこりと笑いかけるミカエルは、整う美貌の持ち主だった。蠱惑的な雰囲気が漂うエルフの男性には、しかし静かな迫力がある。
――端的に言えば、非常に怒っていた。
「私の店でショコラ・フェスタをするため仕入れたリキュールに、魔法薬が混在していました。飲んだ者に痺れや眠りをもたらすものです。仕入れ先の商人は覚えがないと言い、調べてみたところ裏口に侵入された形跡がありました。そして、これです」
一枚の紙がテーブルに置かれる。
『リア充滅すべし モテ男も滅すべし
嫉妬人』
「どうです? ふざけた内容でしょう?」
にこにこと笑ってはいるが、迫力がさらに増したように思えた。
「ギルドに話を聞いてみれば、どうやら集団であちこち悪さを働いているとのことです。そこで、二つ依頼を申し上げます。ひとつ、私の店を手伝ってください。単純に人手が足りないことに加え、まだ魔法薬入りのお酒が無いか探さなければなりません。リキュールをまとめていた箱にこの手紙があったので、リキュールだけに絞って捜索してもいいかと。私が当たってもいいですが、私に会いにくるお客様もいらっしゃいます。出来ればお任せしたいところです」
それともうひとつですが、と瞳を細める。
「嫉妬人、という集団をこらしめてやってください。どういった手段かは問いません……と言ったらギルドの方に怒られたので、おいたを反省するくらいほどほどにこらしめた後、騎士団に引き渡しをお願いします。あと、集団を率いる人が居れば連れてきてください。ああ、これは出来ればでいいですので」
口元に手を当て、ミカエルは再び瞳を細めて笑う。
「報酬としてお支払する分の他、ささやかながら冒険者様だけのショコラ・フェスタを開催させていただければと思います。どうぞ、よろしくお願いしますね」
●嫉妬人たちの叫び
「何が甘輝祭だ! 何が『大切な人に贈り物をする』だ! 贈ってフラれた俺たちはどうすればいい!」
「おおー!」
「世の中のカップルが憎い! モテる奴らが妬ましい!」
「おおー!」
「幸せなデートなど許せない! この悲しみや辛さをやつらにも味わわせてやろう!!」
「おおー!」
解説
●目標
ショコラ・フェスタを無事に開催する、楽しむ
嫉妬人の妨害に対応しつつデートやお出掛けを楽しむ
●できること
1.バー『夢む蝶』にてショコラ・フェスタ開催のお手伝い
・調理、接客などお店の手伝い
・魔法薬の入った酒の対応(三十本中、何本かのみ混在している模様)
・トラムを治す
・ミカエルの手伝い
など自由です。
2.嫉妬人関連
・嫉妬人の対応
・一緒に嫉妬人になり混沌を生む
3.甘輝祭デートを楽しむ
・甘輝祭に賑わう街を楽しむ
※ほぼ確実に嫉妬人に襲われます
●ショコラ・フェスタ
王国、教会都市シャイネにあるバー『夢む蝶』が主催する、チョコレートのお菓子や飲み物を提供するちょっとした催し。
お菓子は甘さ控えめのチョコレートに始まり、チョコレートの焼き菓子、ケーキやチョコレートファウンテンなど、飲み物はショコラリキュールやホットショコラなどあります。店の常駐メニューとしてナッツやチーズも。
チョコレートのお菓子や飲み物は、冒険者たちが問題を解決すれば特別に無料で振る舞ってもらえます。もちろんお客さんとして来店も歓迎します。
●嫉妬人
甘輝祭のお祝いを邪魔しようとする、悲しみを浮かべる仮面で顔を隠した集団。甘輝祭自体に悲しいことや辛いことを抱え、幸せそうなカップルを見ると脅かしたりデートが台無しになるよう邪魔したりする。『夢む蝶』や甘輝祭のお菓子や宝石を提供する店、デートスポット周辺に集団で現れる模様。
●NPC(絡みがなければ登場しません)
・ミカエル
エルフの男性、バー『夢む蝶』の店主。お酒担当。嫉妬人たちに大変お怒りの様子。
・トラム
ヒューマンの男性、バー『夢む蝶』の店員。店の奥で痺れている。お菓子担当。
●備考
私の登録・非登録NPCもご要望があれば呼び出して構いません。何らかの用事で近くにいた、フェスタに誘った、など自由です。
マスターより
お世話になっております。白葉うづきです。
お菓子を楽しむものも出したかったのです。ほんとうです。
嫉妬に燃える人々は自暴自棄になっている方も多く見られます。
恋人やそう見える人は優先して狙われるかもしれません。
問題を解決して、ショコラ・フェスタを楽しみましょう!
ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。
皆さんのアニエピカライフが素敵なものになりますように!
リプレイ
●
「はっ!」
「あ、起きた? はい、手をグーパーしてみて
「え? は、はい……こうですか?」
「治ったね、よかったー」
問題なく動くのを確認し、ルーンス・ラグネルは顔を覗き込んで頷いた。
「つまり、営業妨害、と」
冷静に状況をまとめたヴィナスがそう確認を取ると、店主であるミカエルは相違ありませんとにこやかに告げる。未だにお怒りの様子だが、それも無理はないだろう。
(そもそも、不法侵入しての薬物混入は可愛くない犯罪だしね?)
「倒れた彼が飲んだ瓶は」
「そちらになります」
「私も検分しよう」
シルヴィア・A・カペルは手袋をはめて瓶を手にし、慎重にコルクを抜いてそれを調べる。目立って変な個所はなさそうだ。瓶の方もヴィナスと二人で観察し、瓶自体、コルク、ラベルと怪しい箇所がないかを徹底的に見ていった。
「始まったか」
恋人の雄姿を見ながらエル=バ=ノイアンは洗った手を布で乾かし、借りたエプロン姿でキッチンに立つ。
今この街を騒がせている狼藉者のことは聞いた。誰かが大切な想いを、それこそ大切な誰かを想って作った料理の冒涜、そして食べ物を粗末にすること。もし張本人が目の前に居たらノイアンも殴っている。ただ今回、それは他の者に任せることにした。
(楽しい祭りのため、俺は俺のすることに集中しよう。彼女も楽しみにしてくれている)
頷き、裾を捲っていたらシルヴィアと目が合った。楽しみだ、応援しているといわんばかりに笑ってくれる顔に、ノイアンもエールを込めてこくりと頷く。
「トラムさん、目が覚めたよー」
「ご心配おかけしました……!」
「ありがとうございます、ルーンスさん。本当に心配しましたよ」
店の奥から青年が二人戻り、ミカエルが迎える。どうやら後遺症も無いようで、すぐ店に復帰できるようだ。
「それじゃ僕は行ってくるねー」
「ああ、気を付けて」
任せて、と言わんばかりに頷くルーンスは頼もしい顔をしていた。心配はないだろう。
ヴィナスとシルヴィアは店の奥に場所を移動し、リキュールの入った箱も見せてもらった。薬入りの瓶と幾つかを見比べると、やはり違和感がある。
「ラベルが他の瓶よりも厚い気がするね」
「ああ。けれど剥がしたり、ラベルを上から張っているような痕は見られない」
「ということは……」
「つまり……」
――魔法薬入りの酒をわざわざ造り、すり替えていたことになる。
何かの目的のため、また怪しまれないためにそのものを作ってしまうのは、まったく聞かない話でもない。けれど、何というかこれは。
「そこまでするならもう少しやりようがあったように思うんだ」
労力に対してリターンがまるで見合っていないとシルヴィアは感じた。本当に甘輝祭を邪魔するためだけに作ったのかも信じられない、それぐらいクオリティが高い偽物。ヴィナスも概ね同意であるが、理解できない人々という者はいるものなのだ。
「モテたいなら空気は読んだ方がいいのにね」
「嫉妬の力というのは凄まじいね……」
首を傾げながら、二人は偽物と本物の選別をしていく。なおすり替えられたとみられる瓶は、二人が改めて倉庫を調べた折、棚裏で発見することが出来た。
●
「両手に花だな」
「まあ」
カイン・ステラの言葉にハウラは照れる。ただ、桃色髪の少女が目立って反応しないのが気になった。
「……フィオ、まだ怒ってるのか?」
「いいえ? それより何を作りましょうか、カインさん」
カインは二人を誘って街に出て来ていた。甘輝祭に向けて作るお菓子、それと包装を参考にしたりするための買い物だ。二人と相談しながら、カインは何を作るか固めていく。
会話の中、ふとハウラがカインに訪ねた。
「お兄様はどんなチョコを本命様に作るんですか!」
「突然だな。恋人とかいねぇけど」
照れたように頬を掻き、そうだなぁと言葉にする。
「本命の好みに合ったチョコだな。包装とかも好みの色とかにしてぇし、やっぱり本命が好きなの贈り……」
「カインさんはどんな人が、きゃっ」
「ど、どうしたのです?」
カインは咄嗟に二人を後ろに庇う。悲しい顔の仮面を着けた集団がにじり寄っていた。
「シアワセソウ……」
「ニクイ……」
(あ、これが嫉妬人?)
神父から、そいつらのお陰で友人が大変だと聞いた。なるほどと思っていたら少女二人が身体を強張らせているのに気付き、急激に怒気が上がる。
「フィオとハウラが怖がってるだろうが馬鹿! ファ!」
カインの掛け声で大鼬が嫉妬人を掻きまわし、近くの賊を捕まえたカインは握った拳で側頭部をぐりぐりとこね回した。片っ端から捕まえその責め苦をお見舞いしていく。
「ヒィ!」
「ニゲロ!」
「騎士団の皆様ー!!」
「不審者がここにいます!」
二人が呼んできた騎士団によってあえなく御用となる。嵐のようなひと時だった。
「ありがとうな、二人とも。馬鹿は帰ったから行こうぜ」
巻き込んだからと髪飾りを贈ったその後。二人から手作りの御礼のお菓子が贈られた。
「坊ちゃま、こちらはいかがでしょうか」
「いいね! 僕の婚約者にとってもよく似合いそう! もっと見せてくれる?」
かしこまりました! と想像よりも賑やかに店員が騒いでくれる。きっと上客が来たとご機嫌なのだろう、都合がいい。
(これでたくさん釣れてくれそう!)
ルーンスは街を巡り、訪れる店訪れる店で婚約者との惚気を披露していた。菓子屋、花屋、雑貨屋、そして今は宝石屋に来ている。もちろんすべての店で買い物をし、袋の中は彼女へのプレゼントでいっぱいだった。
「コイツダ……」
「ミセツケヤガッテ……!」
目論見通り、仮面を着けた集団がルーンスに引き寄せられてきた。
「そんな悲しい顔してどうしたの?」
人の心を失くしたモンスターのような人々に声を掛けると、戸惑った雰囲気が伝わった。
「オレはモテない……」
「自業自得だね」
「俺は贈り物を贈ってすぐ売られた……」
「それは酷い! 僕なら慰謝料請求したいレベルだね」
ルーンスは威圧を感じる笑顔で応じていると、話を聞いてくれる彼にわらわらと仮面の軍団が集っていく。
「どうしたらよかったんだ……」
「それは彼女も悪いけど君も悪いよ? ちゃんと彼女の考えてた? 言わないと伝わらないんだから」
いつしか、街中で恋の相談室が開催されていた。
●
「ショコラ・フェスタへようこそ」
フェスタ開催の店。そう客を迎えるミカエルを見ながら、ヴィナスは警戒を怠らない。ショコラリキュールは無事なものを店に出し、調理場の手伝いもしたが、フェスタ中いつ襲ってくるかもわからないからだ。バックヤードを中心に見張っていた。
危惧したとおり嫉妬人たちは裏口で発見される。すべてヴィナスに見つかり、そしてシルヴィアによって眠らせられたり魔法薬入りリキュールを振る舞われたりと、フェスタの邪魔は許されなかった。
「シルヴィア、問題は片付いたのか?」
「ああ、見ての通りだ」
店中ではフェスタが開催され、ミカエルとトラムが忙しなく働いている。トラムが復帰したこともあり、冒険者たちも一緒に楽しんでほしいと言われていた。
「……お疲れ様」
「ノイアンもお疲れ様だ。無事に開催出来たのは、ノイアンの力もあってこそだよ」
手を差し出したノイアンは、握ってくれたシルヴィアを奥の席へと案内する。
「一緒に食べよう」
「うん」
案内されたテーブルに、幾つかのマフィンが並んでいた。
「君が何を作ったのか、教えてもらってもいいかな。とても楽しみにしていたんだ」
「もちろん。今回作ったお菓子はチョコレートマフィンだ。中に入れるものも変えてみた」
「見た目が可愛いね。チョコレートチップとドライフルーツのものと……」
「マシュマロを混ぜたものだな」
マフィンの乗る皿には真っ白なクリームも添えられている。これだけで特別なお菓子と感じられ、その心遣いに思わず笑顔を浮かべた。
「君が作る料理は見た目にもこだわっているね」
「見栄えのいい方がいいからな」
「その優しさが……その、とても良いと思う。いただくよ」
照れを滲ませながら、シルヴィアは一口齧る。程よい甘さが広がった。
「美味しい。好きだな」
「良かった」
二人でお菓子を食べながら、ゆっくりと時間を過ごしていく。
「春になったら色々な景色を見に行こう。その時には、私も君に手作りのお菓子を振舞えたらと思う」
「それは楽しみだな。ああ、必ず」
小さな、大切な約束を交わした二人は、柔らかく笑いあった。
――その後、とある場所で長蛇の列を作っていたせいで嫉妬人はほぼ軒並み捕まり、首謀者も泣きながら騎士団の世話となり、街に平和が訪れたようだ。
「はっ!」
「あ、起きた? はい、手をグーパーしてみて
「え? は、はい……こうですか?」
「治ったね、よかったー」
問題なく動くのを確認し、ルーンス・ラグネルは顔を覗き込んで頷いた。
「つまり、営業妨害、と」
冷静に状況をまとめたヴィナスがそう確認を取ると、店主であるミカエルは相違ありませんとにこやかに告げる。未だにお怒りの様子だが、それも無理はないだろう。
(そもそも、不法侵入しての薬物混入は可愛くない犯罪だしね?)
「倒れた彼が飲んだ瓶は」
「そちらになります」
「私も検分しよう」
シルヴィア・A・カペルは手袋をはめて瓶を手にし、慎重にコルクを抜いてそれを調べる。目立って変な個所はなさそうだ。瓶の方もヴィナスと二人で観察し、瓶自体、コルク、ラベルと怪しい箇所がないかを徹底的に見ていった。
「始まったか」
恋人の雄姿を見ながらエル=バ=ノイアンは洗った手を布で乾かし、借りたエプロン姿でキッチンに立つ。
今この街を騒がせている狼藉者のことは聞いた。誰かが大切な想いを、それこそ大切な誰かを想って作った料理の冒涜、そして食べ物を粗末にすること。もし張本人が目の前に居たらノイアンも殴っている。ただ今回、それは他の者に任せることにした。
(楽しい祭りのため、俺は俺のすることに集中しよう。彼女も楽しみにしてくれている)
頷き、裾を捲っていたらシルヴィアと目が合った。楽しみだ、応援しているといわんばかりに笑ってくれる顔に、ノイアンもエールを込めてこくりと頷く。
「トラムさん、目が覚めたよー」
「ご心配おかけしました……!」
「ありがとうございます、ルーンスさん。本当に心配しましたよ」
店の奥から青年が二人戻り、ミカエルが迎える。どうやら後遺症も無いようで、すぐ店に復帰できるようだ。
「それじゃ僕は行ってくるねー」
「ああ、気を付けて」
任せて、と言わんばかりに頷くルーンスは頼もしい顔をしていた。心配はないだろう。
ヴィナスとシルヴィアは店の奥に場所を移動し、リキュールの入った箱も見せてもらった。薬入りの瓶と幾つかを見比べると、やはり違和感がある。
「ラベルが他の瓶よりも厚い気がするね」
「ああ。けれど剥がしたり、ラベルを上から張っているような痕は見られない」
「ということは……」
「つまり……」
――魔法薬入りの酒をわざわざ造り、すり替えていたことになる。
何かの目的のため、また怪しまれないためにそのものを作ってしまうのは、まったく聞かない話でもない。けれど、何というかこれは。
「そこまでするならもう少しやりようがあったように思うんだ」
労力に対してリターンがまるで見合っていないとシルヴィアは感じた。本当に甘輝祭を邪魔するためだけに作ったのかも信じられない、それぐらいクオリティが高い偽物。ヴィナスも概ね同意であるが、理解できない人々という者はいるものなのだ。
「モテたいなら空気は読んだ方がいいのにね」
「嫉妬の力というのは凄まじいね……」
首を傾げながら、二人は偽物と本物の選別をしていく。なおすり替えられたとみられる瓶は、二人が改めて倉庫を調べた折、棚裏で発見することが出来た。
●
「両手に花だな」
「まあ」
カイン・ステラの言葉にハウラは照れる。ただ、桃色髪の少女が目立って反応しないのが気になった。
「……フィオ、まだ怒ってるのか?」
「いいえ? それより何を作りましょうか、カインさん」
カインは二人を誘って街に出て来ていた。甘輝祭に向けて作るお菓子、それと包装を参考にしたりするための買い物だ。二人と相談しながら、カインは何を作るか固めていく。
会話の中、ふとハウラがカインに訪ねた。
「お兄様はどんなチョコを本命様に作るんですか!」
「突然だな。恋人とかいねぇけど」
照れたように頬を掻き、そうだなぁと言葉にする。
「本命の好みに合ったチョコだな。包装とかも好みの色とかにしてぇし、やっぱり本命が好きなの贈り……」
「カインさんはどんな人が、きゃっ」
「ど、どうしたのです?」
カインは咄嗟に二人を後ろに庇う。悲しい顔の仮面を着けた集団がにじり寄っていた。
「シアワセソウ……」
「ニクイ……」
(あ、これが嫉妬人?)
神父から、そいつらのお陰で友人が大変だと聞いた。なるほどと思っていたら少女二人が身体を強張らせているのに気付き、急激に怒気が上がる。
「フィオとハウラが怖がってるだろうが馬鹿! ファ!」
カインの掛け声で大鼬が嫉妬人を掻きまわし、近くの賊を捕まえたカインは握った拳で側頭部をぐりぐりとこね回した。片っ端から捕まえその責め苦をお見舞いしていく。
「ヒィ!」
「ニゲロ!」
「騎士団の皆様ー!!」
「不審者がここにいます!」
二人が呼んできた騎士団によってあえなく御用となる。嵐のようなひと時だった。
「ありがとうな、二人とも。馬鹿は帰ったから行こうぜ」
巻き込んだからと髪飾りを贈ったその後。二人から手作りの御礼のお菓子が贈られた。
「坊ちゃま、こちらはいかがでしょうか」
「いいね! 僕の婚約者にとってもよく似合いそう! もっと見せてくれる?」
かしこまりました! と想像よりも賑やかに店員が騒いでくれる。きっと上客が来たとご機嫌なのだろう、都合がいい。
(これでたくさん釣れてくれそう!)
ルーンスは街を巡り、訪れる店訪れる店で婚約者との惚気を披露していた。菓子屋、花屋、雑貨屋、そして今は宝石屋に来ている。もちろんすべての店で買い物をし、袋の中は彼女へのプレゼントでいっぱいだった。
「コイツダ……」
「ミセツケヤガッテ……!」
目論見通り、仮面を着けた集団がルーンスに引き寄せられてきた。
「そんな悲しい顔してどうしたの?」
人の心を失くしたモンスターのような人々に声を掛けると、戸惑った雰囲気が伝わった。
「オレはモテない……」
「自業自得だね」
「俺は贈り物を贈ってすぐ売られた……」
「それは酷い! 僕なら慰謝料請求したいレベルだね」
ルーンスは威圧を感じる笑顔で応じていると、話を聞いてくれる彼にわらわらと仮面の軍団が集っていく。
「どうしたらよかったんだ……」
「それは彼女も悪いけど君も悪いよ? ちゃんと彼女の考えてた? 言わないと伝わらないんだから」
いつしか、街中で恋の相談室が開催されていた。
●
「ショコラ・フェスタへようこそ」
フェスタ開催の店。そう客を迎えるミカエルを見ながら、ヴィナスは警戒を怠らない。ショコラリキュールは無事なものを店に出し、調理場の手伝いもしたが、フェスタ中いつ襲ってくるかもわからないからだ。バックヤードを中心に見張っていた。
危惧したとおり嫉妬人たちは裏口で発見される。すべてヴィナスに見つかり、そしてシルヴィアによって眠らせられたり魔法薬入りリキュールを振る舞われたりと、フェスタの邪魔は許されなかった。
「シルヴィア、問題は片付いたのか?」
「ああ、見ての通りだ」
店中ではフェスタが開催され、ミカエルとトラムが忙しなく働いている。トラムが復帰したこともあり、冒険者たちも一緒に楽しんでほしいと言われていた。
「……お疲れ様」
「ノイアンもお疲れ様だ。無事に開催出来たのは、ノイアンの力もあってこそだよ」
手を差し出したノイアンは、握ってくれたシルヴィアを奥の席へと案内する。
「一緒に食べよう」
「うん」
案内されたテーブルに、幾つかのマフィンが並んでいた。
「君が何を作ったのか、教えてもらってもいいかな。とても楽しみにしていたんだ」
「もちろん。今回作ったお菓子はチョコレートマフィンだ。中に入れるものも変えてみた」
「見た目が可愛いね。チョコレートチップとドライフルーツのものと……」
「マシュマロを混ぜたものだな」
マフィンの乗る皿には真っ白なクリームも添えられている。これだけで特別なお菓子と感じられ、その心遣いに思わず笑顔を浮かべた。
「君が作る料理は見た目にもこだわっているね」
「見栄えのいい方がいいからな」
「その優しさが……その、とても良いと思う。いただくよ」
照れを滲ませながら、シルヴィアは一口齧る。程よい甘さが広がった。
「美味しい。好きだな」
「良かった」
二人でお菓子を食べながら、ゆっくりと時間を過ごしていく。
「春になったら色々な景色を見に行こう。その時には、私も君に手作りのお菓子を振舞えたらと思う」
「それは楽しみだな。ああ、必ず」
小さな、大切な約束を交わした二人は、柔らかく笑いあった。
――その後、とある場所で長蛇の列を作っていたせいで嫉妬人はほぼ軒並み捕まり、首謀者も泣きながら騎士団の世話となり、街に平和が訪れたようだ。
マスターコメント
お疲れ様でした!
お店は盛況だったようです。嫉妬人たちも反省したことでしょう。
ほんのりコメディを楽しんでいただければと思います。
MVPは嫉妬人の捕獲に有効な働きをして下さった方へ。
ご参加いただきありがとうございました!
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない5 / 4〜25人
2023年03月03日 16時09分42秒 公開
大成功
相談掲示板
カイン・ステラ、よろしく。 フィオとハウラと買い物してるよ。