蠱毒な吸血鬼に終焉を
空色みなも
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シナリオID:2790
オープニング
マルグリット・ライヒシュタイン。
現在リーンエス王国を騒がす、女吸血鬼。
かつてマルグリットがヒトの少女だった頃。
彼女は奴隷として売り買いされていた。
それを最後に買い取ったのが、マルグリットの父となる吸血鬼であった。
その父を――マルグリットは自らの手で殺めた。
それがライヒシュタイン家における、世代交代の伝統であったから。
だが、マルグリットが父より受け継いだものは。
今もマルグリットの胸で輝き続けている――。
●
「皆、分かっているな? マルグリットへの道を切り開くのが私たちの役目だ! うぉおおおお!」
シール・ドガールが剣を掲げて吶喊し、それに幾人もの仲間が続く。
向かって行く先にいるのは、メイド服を着た武装集団。
マルグリットの配下である。
前回の冒険者による調査で、ついにマルグリットは居城が明らかになっていた。
これまでの行動から見るに、マルグリットはデイウォーカーではないはずだ。
昼間に居城へと攻め入れば、逃げ場もないと考えられる。
そうしていよいよマルグリットを討たんと、編成された討伐隊。
その露払いを買って出たのが、シールたちなのだ。
「分かっている……お前たちもマルグリットの被害者なんだろう? だがそれが分かっているからこそ、止めてやらねばなるまい!」
配下たちが洗脳されているだけであることは、シールも痛いほど理解していた。
なぜなら、シールにもマルグリットに操られた経験はあるからだ。
だからこそ、この戦いは配下たちを助けるためのものでもあると、シールも奮い立たずにはいられなかった。
「さぁ、今のうちに! 君たちの手で、マルグリットを倒してきてくれ!」
シールが配下と鍔迫り合いを繰り広げる横を通り抜け。
マルグリットの待ち受けるであろう部屋へと、冒険者たちが雪崩れ込んだ――。
●
「アナタ方、いよいよここまで辿り着いてしまわれましたね」
果たしてマルグリットはそこにいた。
部屋の奥に据え付けられた豪奢な椅子から立ち上がり、冒険者たちを見回すマルグリット。
「ワタクシがお父様から受け継いだこの城を踏み荒らしたこと、万死に値いたしますわ」
マルグリットが胸元を飾るブローチに手を伸ばす。
「お父様から頂いたこの力、全てを出し切って――入念に殺し尽くして差し上げるのですわ」
するとマルグリットの胸元から、強い赤光が迸り。
部屋全体を紅に染め上げた――。
解説
マスターより
リプレイ
古城の一室を、赤光が照らし出す。
全てが血に染まったように、紅く、紅く。
実際、冒険者の何人かは血に濡れていた。
エーテルの奔流が冒険者たちを貫いたのだ。
しかし、素早い身のこなしによって事なきを得た者もいる。
「遂に親玉登場か! 早速のご挨拶だな!」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングもその一人。
彼は渦巻くエーテルをかいくぐり、無傷でその場を凌いでいた。
常人には成し得ないほどの反応速度は、まるで光すらも置き去りにするかのように。
「もう事ここに至れば会話は意味はないわね」
エミリア・シバも自身を襲ったエーテル流の軌道を見切り、その場を飛び退いて回避する。
(ただ、まあやっぱり、こうなる前に会ってみたかったけれども。奴隷商とかそういうのって、おねえさん的には最高に嫌いなのよね)
エミリアは着地しながら渦中の吸血鬼、マルグリット・ライヒシュタインへと静かな憂いを湛えた金の瞳を向けた。
ある意味で実家の奴隷とも表現できた過去を持つエミリアにとって、マルグリットの境遇は他人事と言ってもいられない。
「これで最後だ……」
レピド・クロサイトもまた、攻撃を見切ることに成功していた。
他の冒険者たちがそうであるように、彼もまた暗闇で視界を確保する準備があったため。
マルグリットの予備動作に気付くことができたのだ。
「射手の体術も捨てたものじゃないと知るんだな」
そして運も味方して、セリオス・オーガストも攻撃をかわしている。
また、紅い光を受けてしまった冒険者も、それぞれ衝撃に耐えていた。
「マルグリット、ここで決着を付けましょう。『魔獄の吸血鬼ハンター』がお相手します」
緋色の激流を二つに割った光の膜から現れたのは、赤を纏ったルアンナ・ミュラー。
彼女がこのように紅のドレスに身を包むのは、向かう事件に『許せないもの』が絡むとき。
つまり今、ルアンナは怒りに燃えている。
「いい加減、茶番も終わりだぜ。口だけ達者で一回も勝てねーような能無しなんざ、もう相手にしてらンねーよ」
アーテミシアは全身鎧とガントレットで固めた持ち前の身の守りで、その場に立ち続ける。
「であれば、己を謳い上げなさいな。粛々と、朗々と、己と己の誇りを」
盾と甲冑に輝く光をまとい、赤光を受け止めるバル・ヌール・スケアクロウ。
(私にできることは、貴方の輝き――誇りを覚えること。未来を語るのは、いつだって生きる側なのですから)
温度を視覚化したバルの視界の中で、マルグリットはヒトより冷ややかに映っていた。
そう、吸血鬼であるマルグリットの持つ命は、いわば仮初のもの。
そしてホムンクルスであるバルにとっては自らもまた、一度死した者と言えた。
行ったことはどうであれ、背負ったもの、継いだものはどうしても未来を縛る。
マルグリットにも受け継いだものがある以上、退く気はないのだろう。
そのことはバルの継ぎ接ぎの記憶でも少しだけ、理解できた。
かつて命の繋がりが途絶えたその時に、バルからは価値が失われてしまったものだけれど。
「はぁ……早く帰って布団で寝たいなあ……」
あちこちに傷が刻まれたディレイン・オールドケイジの体を支えるのは、こうなれば意地だ――生きる、ということに対しての。
マルグリットとて事情はあろうが、これはもはやヒトと吸血鬼との生存競争なのである。
「こちらも反撃の狼煙を上げさせてもらうぞ」
冒険者側で先陣を切ったのはレピドだった。
彼が飛ばした魔力集中を乱す光印を、しかしマルグリットは身をひねってかわしてしまう。
以前、出会った頃のマルグリットであれば当たっていただろう。
彼女も覚悟を決めてのことか、相当な強化がなされているようだ。
「今までのワタクシと同じと思わないことですわ!」
このタイミングで、イニシアチブをとったのはマルグリットだった。
マルグリットの指先から、血のように赤い糸が伸び――。
「く……届かせてしまったか」
絡めとったのはレピドであった。
ディレインの支援が届く範囲を維持していたが、その中でもマルグリットに近く位置していたため、射程圏内に入っていたようだ。
見切ろうとするも間に合わず、マルグリットのもとへ引き寄せられてしまうレピド。
「……俺は独りじゃない、仲間がいる」
突き立てられた鈍色の刃による痛みは強制的に抑え込んで。
レピドは全身に巡る毒性のエーテルにより体力が奪われていく中、なんとか倒れることなく戦いに臨み続ける。
「ふん、お前の得意戦術をそのまま返してやろう」
セリオスの放つ矢は、マルグリットがいかに強化されていようとも回避を許さないほど正確だ。
マルグリットの肩に突き立った鏃から、強力な毒性のエーテルが体内へと侵蝕していく。
今度という今度こそ、逃がさない。
セリオスの鋭い眼光は、狩人が獲物に対して見せるそれであった。
「ごめん、お待たせ……!」
ここに来てディレインの強化術が完成した。
彼の周囲に留まることのできた冒険者たちが、蒼い炎のようなオーラに包まれる。
戦いの最中ではあるが、マルグリットの瞳に宿る紅との対比が、どこか美しくも見えた。
「ぜったい生きて帰るよ! これくらいしか掛ける言葉が思いつかなくて申し訳ないけど!」
さらにディレインから癒しの光が広がり、周囲一帯を包んだ。
ディレイン自身だけでなく、バル、アーテミシア、ルアンナの傷が塞がっていく。
マルグリットから受けた赤光のせいでしばらくは治癒力も落ちそうだが、あるのとないのとでは大違いだ。
バルは自身の体に力が漲るのを感じながら、マルグリットへと向けて駆け出した。
「貴女こそ、糸で雁字搦めになるのがお似合いです!」
「またワタクシの邪魔を――ルアンナ!」
ルアンナが放ったエーテルの糸は、マルグリットを絡めとることができた。
動きが鈍ったマルグリットへ――。
「タネが割れた手品をいつまでも使い続けてンじゃねーよ」
「……っ! アナタこそよくも飽きもせず……!」
アーテミシアの構えたガントレットが迫る。
突進の勢いを乗せたガントレットによるぶちかましは、マルグリットを大きく吹き飛ばした。
レピドに繋がれた、血塗られた運命すら引きちぎりながら。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が相手になってやんぜ!」
支援を受けるために待機していたハヤトもマルグリットの懐に飛び込んで。
忍刀を振るい、鎧で覆われた脚で蹴り上げる。
息もつかせぬ三連撃は、さながら紅き雷をまとった竜巻のごとく吹き荒び。
青白いマルグリットの肌に、無数の傷を刻んでいく。
そして後方へと下がったハヤトと入れ替わるように――。
「悪いけど、貴女とはここで終わり」
エミリアがマルグリットへと肉薄し、籠手から伸びる爪をその腱へと突き立てる。
爪に仕込んだエーテルはマルグリットの抵抗力に弾かれたが。
手ごたえからすれば、何度か試みるうちに通ってもおかしくはないだろう。
ヒットアンドアウェイを意識するエミリアもまた、攻撃直後にマルグリットから距離を取る。
「アンタが背水の陣を敷くなら、俺も同じ。ここで退く気はない」
レピドが動いた――と思った時には、暗闇に紅い華が咲いていた。
いや、華ではない――マルグリットの血液だ。
気付けばマルグリットの頬には、新たな三筋の傷が刻まれている。
毒性のエーテルを体内で焼き尽くしたマルグリットが耐性を得ているため、レピドは三連撃を見舞うことを選んだのだ。
そしてレピドもやはりマルグリットと間合いを離していく。
「ンだよ? オレにはてめぇといちゃつく趣味はねーンだよ」
次に赤い糸の標的に選ばれたのは、アーテミシアだった。
回避することはままならず、マルグリットのもとへと引き寄せられるが。
アーテミシアは赤い糸を引きちぎり、そのまま絡めとられてしまうことは防ぐ。
続けて放たれた禍々しい瘴気は、防具の装甲部分を活用して受けきった。
被害はまだ軽微だ。
「お前に前が見えていないのは今も、か知らんがな」
セリオスの矢が突き立った途端、マルグリットの視界が曇る。
攻撃の精度を鈍らせるエーテルが、鏃に仕込んであったのだ。
霞んだ視界の中でセリオスを見つけ、マルグリットは睨むように視線を送った。
「若者が無茶できるように踏ん張るのがおじさんの務めだからね」
「悪いな、助かった」
ディレインはレピドが傷だらけなのを見て、即座に治療を行う判断をする。
強い光が撃ち放たれ、レピドを癒した。
「貴女も吸血鬼とはいえ人型である以上、四肢は構造上の弱点となるはずです」
バルの持つ、捻じれ絡み合った二本の槍が鋭く閃いて。
マルグリットの左腕に深い傷を刻み込む。
目標は切断だが、左腕も今はまだマルグリットの体に繋ぎ止められている。
そう、今はまだ――だが、いつか。
バルは自らの力を高めている授恵者としてのエーテルを意識し、全力で己の目標に臨む。
「私たちにはこの城の構造だって分かっているのですよ。元、貴方のメイドさんが教えてくれましたから」
ルアンナの杖から放たれたエーテルを起点に爆発した衝撃波は、マルグリットを捉えることはなかった。
外れた――のではなく、あえて外したのだ。
ルアンナの真の狙いは、部屋の天井を崩すことにあった。
流石に頑丈に作ってあるのか天井が大きく崩落することはなかったが、穴は空いた。
そこから射し込む日光こそ、ルアンナの求めていたものだ。
「くっ、賢しい真似を――!」
「おいおい、てめぇから誘っといて逃げンのか?」
日光から逃れようと飛び退くマルグリットへ、アーテミシアの戦槌が強かな追撃を加えた。
●
マルグリットは例によって受けた変調を瘴気で焼くことで取り除いてくる。
霞んでいたマルグリットの目は再び凶悪な輝きを取り戻すが、その分、彼女の体力も失われているはずだ。
「これならどう?」
エミリアが爪に纏わせたエーテルは、今度はマルグリットの抵抗力を貫いた。
これによりマルグリットの体が脆くなったところへ、冒険者たちがここぞとばかりに猛攻を加えていく。
「今なら威力を重視すべきか」
タイミングを管理しながら敵に変調を与えるセリオスも、ここは押すべきと判断した。
セリオスの弓に込められたエーテルが、爆発的な射出力を生み出して矢を送り出す。
鋭く宙を切り裂いて飛翔した矢は、柔肌となったマルグリットを深く抉った。
マルグリットもこのまま無防備ではいられないと悟ったか、体を脆くするエーテルを瘴気で焼き尽くす。
(切り札を切るには、まだはえぇか)
ハヤトはマルグリットに連撃を加えつつも、懐に仕込んだ自らの『作戦』実行のタイミングを窺っている。
彼の本能に刻まれる卓越した戦闘センスは、きっと最適解を導き出してくれるだろう。
仕掛けるための機が熟せば、魂がそう教えてくれるはず。
「ダンスに付き合って貰える、マルグリット?」
「アンタが毒をも喰らうというのなら、いくらでも喰らってみせろ」
エミリアも三連撃に攻撃手段を切り替えて手数を稼ぎ。
一方、レピドは暗器にまとわせたエーテルの刃で、マルグリットの体を強烈に蝕んでいく。
「さあ、捕まえましたわよ」
「ち、しつこいヤローだ」
マルグリットはついに執念深く狙い続けたアーテミシアを赤い糸で縛り付けることに成功した。
目の前にいる吸血鬼を突き飛ばしたいアーテミシアであるが、血塗られた運命は突進のための助走も許さない。
勢いをつけて吹き飛ばしを狙うためには、離すべき最小の間合いも存在するのだ。
「アーテミシアちゃん!」
ディレインの閃かせた祭刀から、衝撃が刃を成してマルグリットの胸に襲い掛かる。
狙うはブローチ――だが、マルグリットは上体をよじるようにして衝撃をかわす。
「……ち、洗脳するのはヤメにしたか? その結果がコレたあ、切羽詰まってもケチくせー性根は変わらねえってか」
そしてアーテミシアは突然、目の前が暗くなるような感覚を覚えた。
どうやらマルグリットに何かされたようだ。
アーテミシアの中で様々な負の感情がないまぜになり、頭がはちきれそうになる――。
しかしアーテミシアを襲った不快感は、すぐに晴れた。
「こんなこともあろうかと準備してきた甲斐があったね」
ディレインの術がアーテミシアの抵抗力を引き出し、精神毒を打ち払ったのだ。
「このっ……!」
マルグリットは標的を切り替え、バルに赤い糸を向けた。
「私をいくら刻もうとも、痛みに悲鳴を上げることはありませんよ」
バルの脇腹を短剣が掠めるも、痛覚を遮断できる彼女が動きに精彩を欠くことはない。
反撃に、バルは左腕を切り返してやった。
「奴は弱っている。このまま畳みかけるぞ」
セリオスの矢に仕込まれたエーテルは、今度はマルグリットの体を重くする。
動作が鈍り、冒険者たちの攻撃をもろに浴びるマルグリット。
このおかげもあって、ディレインが再びブローチに向けて放った衝撃の刃を。
マルグリットは左腕で庇うことしかできなかった。
そこからバルに精神毒を与えようにも、今度はアーテミシアに突き飛ばされて思うようにいかない。
ままならない戦いに、苛立ちを募らせていくマルグリット。
ハヤトとエミリアの三連撃が織りなす、六重奏。
五感を総動員したエミリアの視点は、戦場を見下ろすかのごとく把握しており。
敵味方が激しく動き回る乱戦において、高度な陣形を維持することを可能にしていた。
マルグリットの意識を分散させるように、そして仲間の射線を維持するように。
エミリアは戦場を優雅に舞う。
レピドはマルグリットが得る耐性の切れ目を狙って、毒性のエーテルを与えている。
セリオスは一時も手を休めることなく、まさに矢継ぎ早にマルグリットへ射撃を加えていく。
その精度は極めて高く、一射だって直撃を逃すことはない。
(マルグリット――今、貴女が思うのも。ただ私たちへの憎しみだけですか?)
ルアンナは静かに、しかし苛烈な魔法をマルグリットへ放ち続けていた。
マルグリットにとって、自らを歪める発端となった商会への憎しみは想像を絶するものかもしれない。
しかし、それと同じくらい。
吸血鬼――命を歪める存在を、ルアンナが許すことはないだろう。
そしてマルグリットはディレインが冒険者たちの生命線として機能していることを見定めたらしい。
彼を赤い糸で引き寄せて短剣を見舞うが、やはりアーテミシアに吹き飛ばされることで追撃は叶わない。
「どうだ! そろそろ観念する気になったかよ!」
縦横無尽に戦場を駆けまわるハヤト。
エミリア、そしてレピドによって、マルグリットの肌にはもはや数えきれないほどの傷が走っている。
マルグリットはその時点で近くまとまっていたアーテミシア、バル、ディレインの三人へ駆け寄り。
一帯へ瘴気を吹き荒れさせるが、決定打にはならない。
一回では治しきれないとはいえ、ディレインの範囲回復で癒されてしまうからだ。
「よし、今だっ! 『作戦実行』するぜ!」
そして、ここでハヤトが懐に収めていた『虎の子』を取り出した。
ヒカリゴケを用いた閃光弾だ。
合言葉とともに缶に取り付けられたピンが勢いよく引き抜かれ、数秒の後。
うっすらと陽光が射し込んでなお薄暗い城内を、極めて激しい光が照らし出す。
「こんなものっ……!」
マルグリットが顔面を庇って生まれた隙は、ほんの刹那と言えた。
瞬きをする間にも似た、その一時に――。
「終わりだな。テメーの行先は地獄だけだぜ」
背後に回り込んだアーテミシアが、組み付きを仕掛けていた。
「……っ! こうなれば!」
それはマルグリットの動きを完全に封じるものではなかったが、少なくとも行動の自由は妨げた。
マルグリットもこれが最後のチャンスと見たのだろう。
目に入ったのは憎しみを向ける相手――ルアンナだ。
ルアンナをマルグリットのもとへ手繰り寄せる、因縁の赤い糸。
そしてマルグリットの短剣がルアンナを毒牙にかける。
しかしそれでも、ルアンナは倒れない。
ここで倒れるわけには、いかなかった。
「そうだな。今度こそ終わりにしたいものだ」
セリオスは矢を鋭く射るためのエーテルを最後まで出し尽くす。
敵に変調を及ぼせるエーテルにしろ、多く残っているわけではない。
時間にすればまだ始まって一分にも満たない攻防が、今はいやに長く感じた。
「貰いました」
そしていよいよバルが目論見を達成する。
もはや辛うじて体に繋がっているだけとなっていたマルグリットの左腕を斬り飛ばしたのだ。
胴体と泣き別れとなった左腕は宙を舞い、灰となって崩れていった。
それを見送るマルグリットは、信じられないものを見るかのような目をして。
「私にはまだ、貴女に見せていない奥の手があるんですよ」
そしてルアンナの杖には、膨大なエーテルが収束されていた。
極限まで圧縮されたエーテルを、杖を振るうことで直接マルグリットへ叩き込む。
およそ魔術師らしからぬ大技。
夜空の向こうで、星が弾けたとしたらこのようになろうか。
光の爆発が収まったとき、しかしマルグリットは襤褸切れのようになりながらも形を残していた。
「ルアンナ……ルアンナァ! ァアアアア!」
鬼のような形相――いや、マルグリットは実際、吸血鬼であるか。
彼女の胸元でブローチが再び妖しい光を宿し――破裂するように城内を満たす。
その様はまるで、血液を満たした袋を突いて破ったような。
「もうその技は見切ってる」
だが赤光はエミリアの脇を虚しく通り過ぎていく。
ここまでの戦闘において、彼女は一切の被弾を免れていた。
見れば、ハヤトやレピドなど身のこなしの軽い冒険者たちはもちろんのこと。
セリオスやルアンナ、ディレインといった者たちも、身に宿した蒼白いオーラに高められた能力で回避に成功している。
アーテミシアやバルはそもそも受けることを選んでいるため、大きな被害には至らなかった。
「詰んだ、な。これで最後にしてやるぜ!」
ハヤトがマルグリットの前に飛びついて、忍刀で一撃、二撃。
そして、紅き稲妻のように全身を輝かせて振り上げた蹴りが、マルグリットのブローチを捉え。
「あ……」
マルグリットの胸で、ブローチが大きくひび割れた。
彼女が父なる吸血鬼から受け継いだという、親子の証が――。
カラン、と床で音がする。
マルグリットが右手に握っていた短剣を取り落としたのだ。
空いた右手で胸元を押さえ、その場に膝をつくように頽れるマルグリット。
それは、操り人形の糸が切れたかのように。
実際、彼女は妄執に操られるがまま戦っていたのだろう。
従者たちを操っていたようでいて、糸に捕らわれていたのがマルグリット自身であったことは。
彼女が蜘蛛に変身できたことを思えば、まるで滑稽とも言える話であった。
親を喰らい、獲物を捕らえるための巣を張り巡らせてきた結果。
身動きが取れなくなっていったのは、マルグリットその人であったのだから。
「お父様……ワタクシ……子を成すことが……」
「マルグリット」
目許から赤い雫を零すマルグリットを見下ろすように、ルアンナが立つ。
「せめてもの慈悲です――私の手で終わらせます」
ルアンナの突きつけた杖の先が、彼女を見上げるマルグリットの顔の前で光った。
●
「終わったな……ようやく」
「ああ。めでたしめでたし、ってやつだ」
セリオスの呟きを拾って、ハヤトが小さく伸びをした。
思えば、緊張感が続く戦いであった。
マルグリットに関する一連の事件を追い続けたセリオスにとっては、特に思うところがあったのだろう。
今まで惜しいところで逃がし続けてきた獲物を、ようやく仕留めることができたのだから。
床に降り積もった灰が、天井の穴から吹き込む風によって散っていく。
つい先ほどまで、マルグリットであったものだ。
その灰と、床に残された遺品――ブローチと短剣を。
埋葬のためと、レピドが拾い集めている。
「皆、無事か!?」
「こっちは片付いたわ。そっちこそ大丈夫だった?」
城の外で敵にあたっていたシール・ドガールが、部屋に駆けこんできたのを見て、エミリアが問い返すと。
どうやらマルグリットの従者たちは、シールたちが戦っている最中に洗脳が解けたようだった。
シールたちにも深刻な被害は出さずに済んだらしい。
戦闘後の治療にあたっていたディレインも、冒険者らの次はシールたちや洗脳の解けた従者たちの手当てだと忙しそうにしている。
そうした事後処理が一通り終わった後。
マルグリットの遺灰と遺品は、日陰になる城の裏手に葬られることになった。
「ふン、戦力出し惜しみしてダラダラやってたのが敗因だな。どこまで行ってもドシロートだったぜ」
互いに武器を交えた間柄として、アーテミシアはその言葉だけを送り。
「貴女の最後の輝き、覚えておきますよ」
バルは墓標を前に、マルグリットとの戦いをしかと反芻する。
継ぎ接ぎの記憶でできた、自らの魂へと刻むように。
「ごめんね、ゆっくりおやすみ」
ディレインは墓標を寝かしつけるように、そっと手を添えた。
奪われないためとはいえ、そして吸血鬼のものとはいえ、命を奪ったこと。
仕方ないと割り切るためには、命という存在はディレインにとって重かった。
「さよなら、だ。マルグリット・ライヒシュタイン」
レピドは心の中で祈るような思いを抱く。
エーテルが巡り、またこの世に生まれることがあったなら、今度こそ幸せな生をと。
ただの同情ではない、謎の既視感をマルグリットの境遇に覚えながら。
「ええ、さようなら――哀れな運命の糸に縛られた吸血鬼」
別れの挨拶を呟いたルアンナが墓標に背を向けたのをきっかけに。
冒険者たちは次々と墓標のもとを離れ、そのまま古城を立ち去っていく。
それまで古城を満たしていた喧騒が嘘であったかのように。
後にはただ静寂が残された。
マスターコメント
ミドルシナリオ非常に難しい 報酬:標準8 / 6〜8人
2023年03月03日 14時40分40秒 公開
相談掲示板
とりあえず頭数は揃ったな。 ま、小細工の必要がないのは楽でいいか。 しっかし、スリップがメインとか随分とケチ臭いやり口になったもンだな。 強度が10とか15とかやられると流石に面倒くせえが…とりあえず『血塗られた運命』はドラチャリでどっちかふっ飛ばせば解除できそうだな。
正面からですねぇ ウォーリアのバル・ヌール・スケアクロウです。 今回も頑張りましょう。 >血染めの赤い糸 これ、あちらもこちらも回避できないということは 「捕まえる」ということも可能とみていいのでしょうか? もちろん腕力的な勝負とはなると思いますしそこまで有利とは思いませんが 「回避できない」ということは結構大きなことだと思うのです
ディレインおじさん、今回もひとりヒーラーかな。 色んな意味でよろしくね。 えーっと、攻撃力低下により戦闘長期化が考えられるが、そうなるとスリップがじわじわ効いてくるところへ、範囲魔法攻撃で一網打尽にされる恐れあり、ってことかな。 赤い糸の際に捕まえるとしても、やるならせめてウォーリアだけにしてほしいなあ。 それ以外の職だと危険な気がする。 精神毒の超高強度スリップは解除すべきだろうから、バステ解除は持ってくとして… ヒール盛る方向で考えてるよ。
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 今までの『血塗られた運命』はバフ込みでギリギリ回避という感じだったから、今回は当てられかねないな。 アクセラレイターで回避率を最大まで上げていこうかと。 『毒を以て毒を制す』を見越したバステ盛り戦法は今回も効きそうか……?
>捕まえる 流石にやるとしたらウォーリアさん担当だと思いますよー。 耐久戦ですしね。 回復手段は多めのほうがよさそうです。 基本は数の差で行くべきだと思いますし
キャスターのルアンナです、これが最終決戦ですね……! 私は2度血染めの赤い糸を受けてますが、ノーガード状態のマルグリットを昏倒させるなりして畳み掛けられれば強いです。でも上手くいかないと重体待ったなしですね。 実際、前回ので重体食らいましたし。( しかし今回の「自壊へと至る精神毒」の効果は洗脳ではなくスリップダメージなんですね…。
シーフのエミリアよ、今回もよろしくね。 血染めの赤い糸は回避できるようだから今回は回避重視で行こうかしらと思うわ。 毒を以て毒を制すでのダメージは今回も期待できそうな気はするけれど、回避重視だとどうしても付与力が30ちょっととあまりないからおねえさんはトリプルファングでの攻撃を主力にしようかと思うわ。 といっても一応BSも効いたらラッキー程度でいくつか持っていこうかとは思うわ。 血染めの赤い糸の命中を下げれたら回避しやすくなるかしらって、腱撃4(【命中低下:25%】)か破脚砕3(【行動阻害】(強度2))や、破鎧砕3(【物防低下:20%】)あたり、感じね。
…もしかして、生命が一番高いのってルアンナちゃんなの? スリップに一番堪えられるの、ルアンナちゃんなの… 初期位置が、マルグリットからの距離4~12へクスの範囲で決められるけど、どうしようね。固まっててもらえるなら、ハウリング(以下略)でバフかけようかなと思うんだけど。 ただ10ラウンドを超える長期戦になってもかけなおせないから、その後が怖いといえば怖いんだけど。 あとそうだ。 部屋の中は暗いみたいだから、暗視を持ってくつもりだよ。
スリップは直にダメージだから生命が一番高いやつが耐えられるってだけだし、精神毒ならそこに至るまでのアクションにダメージを経由しねーからな。 アイツの戦法って最初にこっちの攻撃力減らしておいて、糸からのスリップで間引きしながらタフネスで耐えてこっちの自滅待ちだろ。 ぶっちゃけ相手の得意な攻撃に乗ってやる理由もねえし、糸食らったらドラチャリでふっとばしてスリップ回避したほうがいいンじゃねえの? 刃のほうは避けるしかねーけど。 とりあえずオレはドラチャリ容易してヒールも持っとくか。
>視界の関係 一応相応の手段はあったほうがよさそうですねぇ。 こちらも準備しておきましょう。 >状態異常付与関係 気休めですが抵抗には意識しつつ、とかでしょうか?
>バフ 貰えるなら貰っておきたいな。 仮に10ターン以上かかってもその頃には相手も弱ってはいるだろうし…… >回避 長期戦だという部分が頭から抜けてた。 だと一回しかないアクセラレイターで特性枠を一つ埋めるのは上手くないか。 回避上昇はアクションの方で補正しよう。 >戦闘 トリプルファング改、死齎刃(スリップ強度10)、毒撃4(スリップ強度4)、反応強化4辺りは持っていこうかと。
>バフ 了解。戦闘開始直後に使うかね。 俺は赤い糸の範囲に入ることは避けたいんで、発動まではバフの範囲内にいてくれると助かるよ。
・・・・ん、顔だし遅くなってすまない。シューターのセリオスだ、よろしく頼む 今回も面倒な能力のようだな とりあえず俺は付与を高めにしてBSつけていくつもりだ 視界の方も暗視を持っていくので光源は大丈夫だ
ちょっと間が空いたしこの時間だけれども、 ディレインちゃんのスタート位置はどのぐらいになりそうかしら。 血染めの赤い糸の外ってなると7以上+マルグリットの移動力を考えてそれ以上かしら? 移動力考えると1ラウンド目から攻撃に行くのに移動スキル必要かどうかかバフをもらうかをちょっと考えたいので、もしよかったら教えてもらえると助かるのだけれど。
位置ね。少なくとも7にはしようと思ってたよ。 確かこれまでも同じくらいの位置取りでバフ使って、先陣切る前衛以外にはかかってたからね。 うちの頼りになる前衛の横を素通りして俺に糸がかかることはないかなーと。 あとはまあ、俺のINIが低いからねえ。 1ターン目の手番を俺より遅くするかどうか、ってのもあるとは思うよ。
とりあえず個人目標として「片腕を奪う」ことにしてみました。 バランスも崩れますし、純粋に戦闘力も落ちると思いましたので
ディレインちゃん。 位置の件ありがとう了解したわ。 初手は手番の操作はバフを受けるために極力遅くするっていう感じで入れてみてるわ。
どういたしまして。 しんがりは務めるから、心おきなくやっちゃって。 …バルちゃんはなんか怖いこと言ってるけども。
おーっす! ギリギリになっちまってすまねえ! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 方針は理解したぜ! 俺は回避盾としてマルグリットの気を引ける様にウザがられる程度のヒットアンドアウェイで攻め立ててみんぜ!! 初手はエミリアと同じくディレインの補助魔法貰ってから突っ込む事にすんな!! ディレインはよろしくな!
まぁ対人型戦の基本は如何に相手の利点を奪うかですから・・・