蠱毒な吸血鬼の従者

空色みなも

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シナリオID:2732

オープニング

●
 ここは、とある古城。
 玉座に座すは、桃色の髪を持つ少女。
 しかし、その瞳は血のように紅く。
 口元には、牙が覗く。

 そう、彼女は吸血鬼――マルグリット・ライヒシュタイン。
 マルグリットは冒険者たちから受けた深い傷を癒すため、『親』より受け継いだこの古城に潜伏する日々を送っていた。

「忌々しい冒険者たち、今頃ワタクシの居所を突き止めようとやっきになっている頃かしら?」
 玉座に肘をつきながら、マルグリットが苛立たし気に呟いた。

 マルグリットは前回の冒険者との遭遇戦で、逃走する際にエーテル的な印による追跡を受けていた。
 追跡には時間的な制約があったため、おそらく古城の位置特定にはまだいたっていないと考えられる、が。
 冒険者たちは執念深くマルグリットの居所を探ろうとすることだろう。
 少なくとも、マルグリットという脅威を除かんと依頼する者がいる限りは。

「ここはワタクシから先手を打つべきですわね」
 マルグリットがパチンと指を鳴らす。

 と、どこからともなく、従者風の女たちが現れ。
 マルグリットの前にひざまずいた。

●
『マルグリットの討伐を計画するに先立ち、その潜伏場所の調査が依頼として出されています』
 金髪を二本のおさげにした冒険者ギルド職員から、そう説明を受けた冒険者たちは。
 リーンエス王国のさる領を起点に、前の遭遇時にマルグリットを追跡した方角を調査することになっていた。

 時間帯は昼。
 マルグリットは夜間における活動しか報告されていないため、おそらくはデイウォーカーではなく。
 さんさんと輝く太陽は、彼女の活動を制限してくれるはずだった。

 冒険者たちが街を出て、さびれた地域に到達すると。
 そこへ従者めいた服装の女たちが姿を現した。

 その数、六人。
 全員なんらかの武装をしており、雰囲気も穏やかではない――。
 冒険者たちが身構えていると、従者風の女たちが武器を構えてきた。

「あなたたち――マルグリット様の居場所を嗅ぎまわっていますね?」
 そのうちの一人、槌を構えた女の言葉により冒険者たちは察することになった。
 彼女たちは自分たちと相容れぬ関係にあると――。

解説

●目的  マルグリットに洗脳された授恵者たちに勝利する。  なんらかの方法によりマルグリットの居城を突き止める。  冒険者たちが重傷を受けない。 ●状況  リーンエス王国のとある領の街の外、時刻は昼。  敵の配置は先頭に刀メイド2人。  その6へクス後方に槌メイドと盾メイド。  その6へクス後方に杖メイド。  その6へクス後方に弓メイド。  PCの初期配置は敵の先頭から半直線上に距離4~20へクスの範囲で選択可能。 ●敵情報  今回、敵となるマルグリットの従者は合計6人います。  いずれも授恵者であり、若い女性です。  例外なく深い洗脳状態にあり、スキルを用いたとしても当日中に洗脳が解けることはありません(マルグリットから数日以上、引き離していれば洗脳が解ける可能性はあります)。  ▽刀メイド×2  刀で武装したシーフ型の授恵者。  能力傾向としては【回避】【移動】【INI】が高い。  近接物理攻撃ができる他、以下の能力を使用可能。  ・毒刃  メインアクション。  ダメージを与えた相手に『スリップ』の付与判定を伴う近接物理攻撃。  ▽槌メイド×1  槌で武装したヒーラー型の授恵者。  能力傾向としては【抵抗】が高い。  近接物理攻撃と近接魔法攻撃ができる他、以下の能力を使用可能。  ・ヒールヘキサグラム  メインアクション。  射程6以内の1地点を中心とした直径1へクスに【対象識別】で【回復】を行う。  ▽盾メイド×1  盾で武装したウォーリア型の授恵者。  能力傾向としては【物理防御】【魔法防御】が高い。  以下の能力を使用可能。  ・護衛  リアクション。  ラウンドごとに1回まで使用可能。  射程1以内の対象に【カバリング】を行う。  ▽杖メイド×1  杖で武装したキャスター型の授恵者。  能力傾向としては【魔法攻撃】【付与】が高い。  近接物理攻撃と射撃魔法攻撃ができる他、以下の能力を使用可能。  ・ブラッドレイン  メインアクション。  射程12以内の1地点を中心とした直径3へクスに対する【対象識別】の射撃魔法攻撃。  ダメージを与えた対象に高強度の『流血』の付与判定を伴う。  ▽弓メイド×1  弓で武装したシューター型の授恵者。  能力傾向としては【命中】【物理攻撃】が高い。  射撃物理攻撃ができる他、以下の能力を使用可能。  ・鎧貫き  メインアクション。  ダメージ判定を【物防減:50%】で行う、射程20の射撃物理攻撃。

マスターより

 お世話になっております、空色みなもです。  EXCのマルグリット・ライヒシュタインを紐づけたシナリオとしてお送りいたします。  前回のシナリオの結果を受け、このような形のオープニングになりました。  今回はマルグリットの忠実なしもべと化してしまった授恵者が相手です。  マルグリット本人はリプレイで遭遇することはありませんが、次回にマルグリットの居城へ攻め込めるかどうかの分岐点となるシナリオとなっています。  スケジュールの都合上、念のため執筆期間を調整させて頂いております。  ご確認のうえ、ご参加いただければ幸いです。  自身の信念にこそ忠実な皆さんのプレイングをお待ちしております。

リプレイ

●
「あーらら。こっちの動きはあちらさんに読まれちゃってるねえ」
 ディレイン・オールドケイジがずらりと並んだメイド服を眺め、呟く。
 見事なまでに女子で統一された部隊。
 はっきり、マルグリット・ライヒシュタインという吸血鬼は拗れていると思った。
 マルグリットはかつて囚人を殺害せんと牢獄に現れた際、子を授かれない体になったと口にしていた。
 であるとするならば、男を嫌うようになったとして無理はないとも言えるが――。

「こいつらは吸血鬼じゃねーんだよな? そうなるとやっちまうわけにもいかねぇか……」
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングも今回、マルグリットに関する依頼へ加わるにあたり事情は聞いていた。
 マルグリットは吸血鬼として子を成す代わりに、攫った者を洗脳することで手駒にしていると。

「以前のシールさんのように……何人も人を攫っていたのですね……!」
 ルアンナ・ミュラーは得物として杖を持ちつつも、果敢に前へ出る。
 敵の後方に控え、同じく杖を構えるメイドに狙いを定めるためだ。

「フン、一人じゃどうにもならねーから子分けしかけてきたか? デカいクチ叩いといて、やるこた小物だな。いい加減あのツラも見飽きたし、こいつら締め上げてねぐらの場所を吐かせてやるかね」
 呆れるように息を吐いたアーテミシアも、腕にはめた重厚な籠手を構えた。

「っし! 行くか! 俺はあの弓持ちをおさえてくるぜ!」
「おっと、散る前に補助を――」
 ハヤトが駆け出そうとするのを見て、ディレインが呼び止めようとする。

「いや、俺は動いたほうがいいはずだ! 相手もこっちの準備が済むのを待ってはくれないからな」
「なるほど……どうか気を付けて」
 だがハヤトの勘は、ここは機先を制するべきだと告げていた。
 ディレインはそれを見送りつつ、支援魔法を発動すべく集中を開始する。

「こうして敵が出てきたということは、俺たちは確実にマルグリットに近づいている、ということか」
 それに続いてレピド・クロサイトも前方へ飛び出していく。
 最高速を発揮することで刀を手にした二人のメイドを迂回し、槌持ちに向かって突っ込んでいくレピド。

「やらせません」
「邪魔をするか」
 盾のメイドがその間に割り込み、レピドの振るった暗器を受け止めた。
 キン――と澄んだ金属音が、戦場に響く。

「しかし、甘い」
 だがレピドの攻撃はそれで終わらない。
 続けて振るわれた連撃が、槌のメイドの衣服を切り裂いた。
 レピドは現在、回避に意識を割いているため与えた傷は深くない。
 とはいえ槌と盾のメイドに対し、無視できない相手という印象を与えることには成功したと言えるだろう。

「……斬る」
 この段階で、刀を構えたメイド二人が動いた。
 もともと前方に布陣していた冒険者たちのもとへ、姿勢を低くして突っ込むように駆けてくる。

「ちょーっと、そういうわけにもいかないんだよね」
 そのうちの一人に対し、ディレインが立ちはだかった。

「やるねぇ……でも俺自身の痛みはないことにしておくよ」
 鋭く振るわれた刃に脇腹を割かれたディレインは、痛覚を遮断することで怯むのを避ける。
 毒性のエーテルがディレインの身を蝕もうとするが、これにもなんとか抗った。

「この先は行かせませんよ」
 そしてもう一人を相手取ったのがバル・ヌール・スケアクロウだ。

「形成」
 一言、バルが呟くとともに、彼女の盾を光の膜が包み。
 生半可な鋼であれば切り裂いてしまいそうなメイドの刀を、なんなく受け止めた。
 刀に仕込まれたエーテルは、もとより傷さえ受けなければ体に浸透することもないようだ。
 鋭い一撃を受けたにも関わらず、バルはピンピンとしている。

「行かせないと言ったでしょう」
 そしてバルは盾で刀を受け止めた逆の手で、メイドの手首を掴んでいた。
 なにより刀のメイドを自由にさせないことが、バルの負った役目であるから。

(洗脳した側としてはこれも一種、娯楽のようなものでしょうし。彼女たち以外の何かが潜んでいる可能性くらい、考えて損はないかなと思いますが)
 同時に、バルは相対するメイドたちの他にも、この戦いを監視する存在がいるのではないかと警戒していた。
 ただ、もしそのような監視者がいたとして、今は戦闘に参加しているメイドたちを相手取るので手一杯とも言える。
 戦闘終了後でも調査に引っかかるような何者かがいれば、情報源になるかもしれないが――。

「悪いが最初から全力でいかせて貰うぞ。加減してやれる状況でもないんでな」
 セリオス・オーガストが弓に番えた矢が示す先には、杖を構え、呪文を唱えようとするメイドの姿があった。
 限界までしなった弓の輪郭が、強い光に溶けていく。
 その様は、地表に浮かぶ太陽のごとく。
 弦に込められた力が解放され、セリオスの手で弓が回転する。
 次の瞬間には、眩い光に包まれた矢が杖持ちの脚に突き刺さっていた。
 その一撃で、杖のメイドは満身創痍といった様子になる。

「このっ……」
 悪態をつきながら、槌のメイドが祈るように手を組んだ。
 光の線が六芒星の形を描き、杖持ちを取り囲むと。
 受けた傷の大きさに比べればわずかとも言えるが、杖持ちの負傷が癒えていく。

「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が相手になってやんぜ!」
 その間に、ハヤトは敵後方の弓持ちへ爆発的な脚力をもって迫ろうとしていた。
 身に迫る危険を排除せんとしてか、弓のメイドも狙いをハヤトへとつけている。

「これでも喰らいやがれっ!」
 ハヤトは走りながら閃光弾のピンを抜き、手前の地面へと叩きつけた。
 狙いすました投擲より、移動を優先した形だ。
 弓のメイドも激しい光に怯んだか、もともとハヤトの回避力が高いおかげか。
 メイドの射かけた矢がハヤトの体を捉えることはなかった。

「お待たせ……!」
 ここでディレインの術が発動し、エーテルが周囲に満ち溢れる。
 その波動に包まれたのはディレイン自身の他、ルアンナ、バル、アーテミシア。
 そして様子を見るため待機していた、エミリア・シバ。
 五人から蒼白いオーラが立ち上り、その能力が大きく引き出されていく。

「とと、流石にすばしっこいね。まあ、まともに切りあう気もないんだけど」
 ただし、同時に武器へ淡い光を宿して刀のメイドに繰り出した一撃は避けられてしまう。
 回避力に優れた相手なだけはある。
 とはいえ足止めが役割であるため、攻撃を当てることはこの際、重要ではないとも言える。

 と、ここから冒険者たちが散開する前にあることが起こる。
 杖のメイドが術式を完成させたのだ。

 どす黒い血のようなエーテルが鋭い刃の雨を形成し。
 ディレイン、ルアンナ、バル、アーテミシア、エミリアの五人へと襲い掛かった。

「あらあら、やっぱりアナタが厄介みたいね」
 降り注ぐエーテルの雨を、エミリアは素早い身のこなしですべて潜り抜ける。
 他、ルアンナも回避に成功したようだが、三人は攻撃を受ける形となってしまった。
 特に、ディレイン、バルは体のあちこちを切り刻まれ、出血がひどい形だ。
 まずはあの杖持ちから――エミリアは最初に片付けるべき相手を見定めた。

「あと一押しで倒せそうじゃあるけどな!」
 そしてハヤトは弓持ちメイドへと駆けながらも、俯瞰するような視点で全体を見回していた。

「ならこのまま押し切ったほうがよさそうですね……! お返しです!」
 ルアンナは杖持ちの防御能力を衰えさせることも考えていたが、その猶予はないと判断。
 杖の先端に溜めた閃光を迸らせる。
 光の渦は杖のメイドを飲み込み、すさまじい衝撃を与えた。
 そのショックで、杖持ちは意識が朦朧としているようだ。

「刀の相手は十分みてぇだな。オレは盾のほうに行かせてもらうぜ」
 アーテミシアは刀のメイドを押しのけながら盾のメイドへ向かう予定だったが。
 すでに刀のメイドは担当する冒険者たちのもとへバラけている。
 なら、遠慮なく目標へとまっすぐ進めばよい。
 猛然と大地を蹴るアーテミシア。

 その盾のメイドは、目前にいるレピドを盾で殴りつけようとしている。
 結果、レピドの軽い身のこなしの前に翻弄されることになっているが――。

「さぁ、おねえさんと踊りましょう?」
 様子を伺っていたエミリアが、ついに動いた。
 エミリアは立ち眩みを起こしてふらふらとしている杖のメイドに一気に肉薄し。
 次はそのまま先手を取って、目にも留まらぬ三連撃を見舞った。
 速いだけではなく、一閃ごとに鋭い斬撃。
 このような攻撃を浴びては、杖のメイドもひとたまりもなかった。
 ドウ――と地に伏す杖持ちメイド。

「さぁ、次はあんたの番だ!」
 そしてハヤトも弓持ちのもとへ到達。
 脚を覆う鎧から飛び出す魔獣の牙、そして、東方に謂れを持つとされる忍刀が次々と振るわれる。
 怒涛の攻撃を前に、相手は弓の弦を切られないよう庇うので精一杯になっているようだ。

「これならどうか?」
 防戦では敵に与える傷が浅いと見たレピドは、今度は打って変わって攻勢に出る。
 威力を重視した鋭く重い一撃が、槌のメイドを襲う。
 これも盾のメイドが庇ってくるが、さすがに盾持ちでも受けきるのは難しい一撃であったようで。
 盾持ちも傷の痛みに顔をしかめている。

 刀持ちの一人は、執拗にディレインを切り続けていた。
 蒼白いオーラが身の守りも高めてくれているため、今のところ大きな被害は出ないで済んでいるが――。

 もう一人の刀持ちは、手首を掴んでいたバルの腕を切りつける。
 バルに痛みはないが、衝撃で手が離れ、刀のメイドは離脱を果たした。

「たとえ身を固めても防げないものがある。後で正気に戻ったなら、それも覚えておくといいだろう」
 セリオスは盾のメイドに対し矢を射かける。
 鎧の隙間に突き立った、その鏃には強力な毒性のエーテルが仕込まれており。
 じわじわと長時間にわたり、盾のメイドを体内から蝕んでいった。

「私たちにはこれが……!」
 槌のメイドが再び六芒星を描き出す。
 今度は範囲内に盾と槌のメイド、二人が居る。
 その二人を、光はまとめて治療してしまう。

「やっぱり固めといたらダメか」
 盾のメイドに対処すべく駆けるアーテミシアが、その様子を見て足を速めたところへ。

「っと、あぶねぇな」
 飛来した矢を、アーテミシアはガントレットの硬い部分を盾に受け止めた。
 弓持ちがハヤトに狙われながらも、仲間を援護する射撃を敢行したようだ。
 鎧の隙間を狙った一射であったが、ここはアーテミシアの防御技術が勝ったようだ。
 大きな負傷はない。

「痛みはないことにしたけど、ここで俺が倒れるわけにもいかないねぇ……」
 ディレインは祭刀を振るって刀持ちの進路を妨害しつつも、自身に術を施して傷を塞いでいく。
 杖持ちの魔法による激しい出血があるため能率は落ちるが、ないよりはいい。

「私の次の相手は貴女です!」
 ルアンナは槌のメイドにエーテルを飛ばす。
 禍々しいエーテルは槌持ちの体を蝕んで脆くしようとするが。
 槌のメイドは強い抵抗力を発揮し、その影響を吹き飛ばしてしまった。
 どうやら、彼女はメイドたちの中でもエーテルの悪影響に対して強いらしい。
 ならここからは直接的な攻撃に切り替えていくべきか。

「捕まえておくのは容易ではありませんか。ならば倒して捕縛するまでですね」
 バルは空いた手に得物を掴み、振るった。
 捻じれた槍が二本組み合わさったような、奇妙な武器だ。
 刀のメイドはバルからわずかに距離を取っていたが、バルの武器から伸びたエーテルの刃がその肌を刻む。

「いい加減パターンだって? 対処できねえのが悪いのさ」
 そしてアーテミシアがついに盾のメイドを射程内に捉えた。
 助走をつけての、ガントレットによる体当たり。
 重装備のメイドが、軽々と木の葉のように吹き飛んで。
 気づけば、その体は遥か遠くに転がっていた。
 慌てて起き上がる盾のメイドを追うように、アーテミシアはさらに走る。
 戦線に復帰しようと盾のメイドからも近づいて、アーテミシアを盾で殴りつけきた。

「なもン、痛くも痒くもねっての」
 しかし堅牢なアーテミシアは、それではほとんど傷つかない。

「こいつでどうだ!」
「トドメ……は刺しちゃダメだけど、これで終わりね」
 ハヤトが三連撃を加えた弓持ちのもとへ、杖持ちの相手を終えたエミリアも颯爽と飛び込んでくる。
 さらに三度の斬撃が加えられることによって、二人で六連撃が完成した。
 後衛である弓持ちのメイドがこれに耐えられるはずもない。
 杖持ちに続いて、地に沈むことになった。

「今なら邪魔も入らない。覚悟するんだな」
 レピドの槌持ちを狙った攻撃は、今度は盾持ちに防がれることもなく。
 鋭利な針が槌のメイドの肌を深く突き刺す。

「あとは回復手のお前を潰せば、そっちの勝ち目も潰えるだろう」
 セリオスも鋭く矢を放って槌持ちを撃ち抜いていき。
 槌持ちもそうして受けた傷を自ら癒すのに手いっぱいとなっていく。

「一気に畳みかけましょう!」
 ルアンナが魔法の光を槌のメイドへと放つ。
 回復が追いつかない速度で敵を倒す必要があると見たルアンナは、自らの生命力を魔法力へと転化しており。
 その一撃は、槌持ちの体力を大幅に削り取る。

「ちょうどいいや。前から気になってた事、試させてもらうぜ」
 アーテミシアは助走をつけるために少し後方へと下がり、再び盾のメイドに対しガントレットによる体当たりを放った。
 今度は屈んだ姿勢で突進し、斜め下から角度をつけるように。
 すると、盾のメイドはかすかに浮き上がるような放物線を描いて飛んで行った。
 やや斜め上くらいに飛ばすのは不可能ではないらしい。
 ただしこの分だと、真上は無理だろう。

「刀傷そのものは大したことはありませんが……毒がやっかいなようですね」
「あともう少しでみんなと合流できるはずだし、それまでは踏ん張ろうか」
 バルがついに毒性のエーテルに侵されたのを見て、ディレインが傷の治療を施した。
 刀メイドとの戦いは綱渡りであったが、その時には流血が止まっていたことは幸いだった。

 槌メイドもセリオスの放った鋭い一射に貫かれ、先ほど倒されている。
 後は誰も倒れることなく戦いきれるかだ。

「まとめての攻撃ができるのは、貴女たちだけじゃないんですよ」
 ルアンナが生命力を魔力に注ぎ込み放ったのは、光球を流星雨のように降らせる魔法。
 仲間の冒険者を器用に避けて降り注ぐそれに、刀のメイドが二人とも巻き込まれる。
 刀のメイドたちは光球をかわそうと身をよじるが、間に合わない。
 ディレインの支援により、ルアンナの攻撃精度が増していることも一役買っている。

「さて、それじゃ周りがケリ付くまでまたオレと遊んでてもらいましょうかね、と」
 アーテミシアはエーテルを込めた戦槌を、盾のメイドに叩きつけていた。
 戦槌を受け止めた盾を通してメイドにエーテルがまとわりつき、その体を脆いものとしていく。

「自決でもされては困るからな」
 レピドは倒れた槌持ちから武器を遠ざけ、ロープによる拘束を行っていた。
 舌を噛んで自害されることなどもないよう、バンダナで猿ぐつわを噛ますのも忘れない。

「待たせたなぁ! こっからは俺たちのターンだぜ!」
「おねえさんが来たからには、もう好きにはさせないわよ」
 そしてハヤトとエミリアも、刀メイドたちのもとへ駆けつけてきた。
 もはやメイドたちには戦線を立て直す回復役もなく。
 冒険者たちの勢いを止める術は残されていなかった――。

●
 こうして全てのメイドを拘束し、大地に転がした冒険者たち。

「さて、マルグリットさんにしても配下の様子を見ていない、というのは考えづらいわけですが」
 監視者の存在を警戒し、バルは周囲を見回している。

「俺もそれは気になって、戦闘中、気を付けておいたのだが」
 セリオスが言うには、少なくとも近くに監視者の気配はなかったという。
 索敵に優れたセリオスに見つけられていないのだから、監視者はいなかったか、いたとして遠くから見張っていたものと考えられる。

「マルグリットはどうやらデイウォーカーではないようだしな。洗脳した配下の監視につけるとしても、やはりそれも洗脳した配下になってしまい、堂々巡りなのだろう」
 よほど自身の施した洗脳に自信がないとできないことだろうがな、とセリオスは付け加えた。

「とはいえ、こうしてやってきた奴らの足跡などは残っているだろう。それを追跡する価値は、十分ある」
「あ、それならおねえさんも探索に出るわね。匂いなら追えるわけだし」
 周辺調査に赴こうとするセリオスに、エミリアが同行を申し出る。
 エミリアの発揮できる優れた嗅覚は、こうした追跡にもってこいと言える。

「俺も残留思念を追ってみよう。すまないが、捕まえた彼女らの様子を見ておいてくれ」
 レピドも調査に役立つ準備があったため、メイドたちを連れ帰る前に周辺を調べておくことにする。

「この子たちも被害者だし、最低限の処置はしてあげないとだねぇ」
 ディレインはその場に残り、メイドたちの手当てをすることにしたようだ。

「ええ……マルグリットによる犠牲者もこれ以上、増やせませんから」
 治療を受けるメイドたちを見て、ルアンナは秘かに唇を噛む。
 これも元を辿れば、セラフィアス商会の行っていた人身売買に端を発する事件だ。
 もし過去のセラフィアス商会が、マルグリットを商品として売り買いしていなければ――。
 たらればの話をしても仕方ないことではあるのだが、ルアンナとしては口惜しく思わずにはいられなかった。

「じゃあ俺はここで警戒にあたるとすっか。何が起こらないとも限らねぇからな」
 ハヤトは捕らえたメイド周辺を警護することに。

「ならオレもかね。いざってときに盾になれるヤツもいたほうがいいだろ」
 アーテミシアもこの場に残り、しばし探索組と捕まえたメイドの監視組に分かれて行動することとなった。

 そしてややあって、探索組が引き返してくる。

「よお、首尾はどうだった?」
「こちらの監視と言うわけではなかったが、マルグリットの居城周辺を見張っているのだろうな。何人かのメイドがうろついているのを見つけた」
 ハヤトに出迎えられたセリオスが、探索の結果を報告する。

「おねえさんたちに気付いている様子はなかったから、そのまま引き返してきたわ。もうこっちに何人か捕まえている以上、さらなる消耗戦も避けたかったし」
 エミリアが言うには、直接マルグリットの居城らしき建造物が目に入る位置まではたどり着けなかったらしい。
 どうやらマルグリットもかなり広範に見張りを放っている様子だ。

「残留していた思念は恐怖に近いものだったな。それと、主に従わなければならないという強迫めいた思い込みか」
 レピドも自らの触れた残留思念について説明する。
 このことは、捕らえたメイドがマルグリットによる精神支配を受けていたことを改めて浮き彫りにしていた。
 もしそうだとすれば、洗脳さえ解くことができればメイドたちから詳しい話を聞けるであろうことも。

「そういうことなら、さっさとこいつら連れて帰ろうぜ。しばらくすりゃ洗脳から抜けられる可能性もあんだろ?」
 ハヤトの一声に頷いた一同は。
 捕縛したメイドの一団を連れ、街へ戻ることにした。

●
 街へ戻った冒険者たちは、メイドたちが洗脳の影響を抜け出すのを待つ間もできるだけの調査を行った。

 特にレピドとバルは、現れたマルグリットの配下がメイド服を着用していたことに目を付ける。
 配下も洗脳される前からそのような衣装を着ていたわけではないだろう。
 となれば、服をどこかから調達する必要があるはずだ。

 これについては、ある推測が成り立った。
 以前、マルグリットに攫われたと考えられる行方不明者の中に、仕立て屋が含まれていたのだ。
 どうやらマルグリットは戦闘要員だけでなく、身の回りの世話をさせるための人員も誘拐で賄っているらしい。
 昼間に動けない彼女は、そうした人員に様々な調達を任せているのだろう。
 洗脳されているとはいえ配下は吸血鬼でないわけだから、街に出てもそう目立たないのかもしれない。

 そして数日の後、冒険者たちは――すでに服は着替えさせられていたが――メイドたちから話を聞くことができた。
 マルグリットに従うとする洗脳は解けているはずだが、それでも恐怖のためか情報を口にするのをためらっていた彼女らが、震えながらもようやく話してくれた情報。
 それは、マルグリットがある古城を拠点として使用していること。
 その間取り、そして配置された人員の数。

 彼女らは洗脳を受けていた間の記憶がやや曖昧なこともあり、古城の正確な位置を示すことはできなかったが。
 そこは現地で彼女らの足跡を追った結果から、方角が割れている。
 そして彼女らが歩いたというおおよその距離の証言と合わせることで、地図上に一つの印がついた。

「ここにマルグリットがいるのですね……! 次こそは――逃がしません」
 ルアンナは地図に刻まれた印をじっと見つめ。
 マルグリット討伐の決意を、その表情に滲ませた。

 昼間は配下に活動を任せていることから、マルグリットもデイウォーカーではないと考えられている。
 となれば、昼はあのやっかいな変身能力で逃げられる心配もないはずだ。

 マルグリットとの決戦が、近づいていた。

マスターコメント

 お疲れ様でした。空色みなもです。  このたびは当シナリオにご参加頂き、誠にありがとうございました。  マルグリットを追い続けた一連のシナリオも、いよいよ佳境を迎えつつあります。  また皆さんにシナリオ参加して頂けるのを心よりお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ難しい 報酬:標準8 / 6〜8人

2023年01月27日 17時08分10秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. バル・ヌール・スケアクロウ

    まぁなんにせよやらないことにははじまりませんね ホムンクルス・ウォーリア バル・ヌール・スケアクロウです。 よろしくお願いしますね。

  2. ディレイン・オールドケイジ

    ヒーラーのディレイン・オールドケイジた。引き続きよろしく。 しっかしまあ、やらしいねえ。洗脳した受恵者とは。 個人的には助けたいんだけど、そうすると無力化した上で連れて帰らないといけないわけだ。 全力でくる相手を。 困るねえ。 とにかく止めたいのはあちらさんの回復かな? 今回はデバフ解除じゃなく攻撃スキル持っていこうと思ってる。 あとはハウリングで底上げ。 こっちに回復が必要になるまでになるべくダメージ与えるのが、おじさん的方針だなあ、今のとこ。

  3. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。 ま、とりあえず死なない程度にボコって拘束した後で絞る上げるしかねーだろ とりあえずはどう戦うかだな。 杖と弓がちょいと面倒か

  4. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 こんなに授恵者を従えてるなんて…、なんとか無力化して連れ帰りたい所です。 相手にも回復役がいるのが厄介ですし、一番に狙うべきでしょうか。

  5. レピド・クロサイト

    レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 相手も授恵者だから、こちらがスキルを使っても即死しないところは助かる……といえば助かる、かも。 無力化は武器を奪った上で拘束、という感じだろうか。 個人的には杖や弓を狙いたいが、先に盾をどうにかしないとカバリングで妨害されるか……?

  6. ディレイン・オールドケイジ

    連れて帰る方向で考えてよさそうかな。 カバリングの射程が1だから、先に倒したい子と盾を引き離すのがポイントだと思う。 相手と相手の間に割り込むとするとちょっと危険度は上がるけど…

  7. アーテミシア

    やっぱオレがふっ飛ばすか。 毎度同じパターンだけどな

  8. バル・ヌール・スケアクロウ

    あちらの連携を崩す、というのは必要だと思いますので飛ばすのは必要ですかね? >さておき とりあえずは武器の回収というか武装解除で大半の特性やアクションスキルの無効化を考えるべきです? 戦闘不能かそれに近い状況まで追い込むのは必要でしょうけど

  9. エミリア・シバ

    シーフのエミリアよ、よろしくね 拘束に関しては単純に戦闘不能にしたうえで武器と防具を剥いでって感じでいいんじゃないかしら? 受恵者ならとどめを刺す宣言しなきゃ即死しないわけだしね。 とりあえず今回は全力で攻撃に回って大丈夫そうなので、ホライゾナルジャンプとかで敵の後方から狙う予定ね。 範囲攻撃嫌なので杖を優先して、次に槌か弓の予定ね。 カバリングに関しては、正直こちらの人数のほうが多いのでそこまで気にしすぎなくても、と思っちゃうわね。

  10. アーテミシア

    とりあえず誰を飛ばすかだな。つっても初手で飛ばせるのは刀だけか。次で盾か鎚飛ばしてどれかを抑えるか

  11. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、挨拶遅くなった、シューターのセリオスだ、よろしく頼む まあすでに出てる通り戦闘不能にして捕縛という形か とりあえず俺もエミリア同様先に杖を集中攻撃で落として、弓の予定だ

  12. レピド・クロサイト

    情報を見直してみたが、杖・弓以外に槌(回復持ち)も大概放置出来ないんだな…… オーブの関係でホライゾナルジャンプがまだ取れないので、俺は距離がまだ近い槌の方に回るかな。

  13. バル・ヌール・スケアクロウ

    盾か槌、であれば槌でしょうか? 回復などはさすがにされると長引くでしょうし

  14. ディレイン・オールドケイジ

    杖→弓→槌→盾or刀、ってとこ? ここまでの流れとして、優先度が高いところに複数人で攻撃して、優先度低いのはそれ以外のメンツでマークしておくって感じかね。 特に杖と弓は、槌による回復を上回る感じでやってもらう、と。セリオス君、エミリアちゃんと、ルアンナちゃんもこっちかな? 槌の抑えはレピド君で、そしたら俺は弓かな。こっちに回復が必要になる前に杖組が来てくれそうだし。 それで、アーテミシアちゃんとバルちゃんには邪魔な盾と刀を引き離しといてもらう方向でどうだろう。こっちの後衛に突っ込んで来られても困るから…2対3になっちゃうから大変かな?

  15. ディレイン・オールドケイジ

    おっと、ごめん、ハヤト君が抜けてた。 もし刀の対応に回ってくれるとしたら、人数的不利にならなくて済むね。 あるいは弓に向かってもらって、俺が刀側に行くとか。

  16. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 遅くなっちまってすまねぇな。 流れは把握したぜ! 相性的には【命中】【物理攻撃】が高い弓を俺が相手した方がこっちよ被害が少なくて済む気がすっからディレインに刀の抑えに回って貰った方が良くねぇか?

  17. ディレイン・オールドケイジ

    それもそうだ。 じゃあ、弓はハヤト君にまかせて、俺は刀に回ろうかな。

  18. アーテミシア

    ンじゃ、オレは刀飛ばした後に盾飛ばすか。2回も飛ばせば援護なんて出来ねーだろ。槌は任せる。 テキトーに遊んでるから終わったら頼むかね。

  19. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    OK! んじゃ!俺は弓を潰しに行くぜ!!

  20. バル・ヌール・スケアクロウ

    では刀を重視しておきますねー

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0