忖度のないデザート研究会
鍵島
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シナリオID:2624
オープニング
時刻はお昼より少し前。薄曇りの空模様だが、今日は心地の良い気候だ。
落葉樹達がその葉を赤や黄色に染め抜いて、針葉樹達は一層青々と茂っていた。
エラトゥーン都市同盟の冒険者街に、トルペ・ブルーメという名を冠した飲食店がある。
扉に掛けられたドアプレートにはクローズの文字と、釘で留めた張り紙もされていた。
『店長不在につき臨時休業、明日明後日はお休みといたします』
そんな店先で、はらひら舞い降りる落ち葉をかき集める影がふたつ。
箒をぱたぱた動かして、色の変わった木の葉をまとめて、風に煽られてふわっと舞って。
落ち葉達を慌てて追いかけ、粗方の掃除を終えたらしい店員の一人、リリィベルが不意に言葉を口にした。
「……秋の味覚つかった、甘いデザートたべたーい!」
「甘いもの?」
箒を杖代わりに突き、首を傾げて応えるのはもう一人の店員、ライネス。
「そー! ほら、ほら。こないだの森で採った、栗! 木の実! 果物!」
「あぁ……まぁ色々採ってたけどさ」
こないだの森、というのは。
二人が迷子になった記憶が新しい、エラトゥーン都市同盟から程近い平野に広がる森だ。
冒険者達に迷惑をかけてしまった苦い思い出に、んん、ライネスが喉を鳴らす。
「たべたいたべたい! たべたい! できればケーキにして!」
「いや、でもさ。一人分だけ作るってのも大変なんだよ」
「じゃあいっぱい作ろ!」
「いや。今日明日は父さんが用事でいないだろ? 店も開けられないからお客さんなんていないし……いっぱい作っても悪くするばかりだ」
「じゃあ……えぇっと……あ、そうだ! この辺で冒険者してる人に食べてもらお!」
「……依頼で?」
「依頼で!」
「……どんな依頼になるんだ、それ?」
ケチを入れるつもりはないが、如何せん要所要所に待ったをかけてしまうのは致し方あるまい。
突飛な事を言い出すものだと訝し気にするライネスは、いまいち乗り気ではないらしい。
然し甘いものを作りだしてくれるのは彼である。
どう丸め込めば……。リリィベルの顔が思案に悩む。
何を揉めているのかと、不信げな面持ちをして冒険者達がちらほら通りすがって行くのを横目に。
「嘘偽りなく、甘いデザート試食会での評価をおねがいしま~す! ……なんてどう?」
「……………」
「ほら、ほら! 冒険者さんって、故郷も様々、色んな人がいるから色んな味覚あるよ!」
「……………」
「それにそれに! じっくりお話聞いて、率直な意見聞いたりするのって大事だよ! お客さんの声だいじ! 冬のお祭りに向けて、新作デザート考えようよ!」
口説き落とそうと必死な姿に、ふはぁと間の抜けた溜息が零れ落ちる。
「……わかったよ。まぁ、確かに……作った料理の意見を聞けるってのは大事だよなぁ」
わぁいと嬉しそうに笑うリリィベルと対照的に、肩を竦めるライネス。
そうと決まれば今日中に食材を揃えて、明日やるなら父さんが帰る夕方までにはお開きにして……。考える事が山積みだ。
「あ」
「え?」
「土産もくっつけて、この店の名前を覚えてもらおう」
転んでもただでは起きまい、という事だろうか。
ともあれ。彼らは早速、気のゆるみきった依頼をお願いしに行くのだった。
落葉樹達がその葉を赤や黄色に染め抜いて、針葉樹達は一層青々と茂っていた。
エラトゥーン都市同盟の冒険者街に、トルペ・ブルーメという名を冠した飲食店がある。
扉に掛けられたドアプレートにはクローズの文字と、釘で留めた張り紙もされていた。
『店長不在につき臨時休業、明日明後日はお休みといたします』
そんな店先で、はらひら舞い降りる落ち葉をかき集める影がふたつ。
箒をぱたぱた動かして、色の変わった木の葉をまとめて、風に煽られてふわっと舞って。
落ち葉達を慌てて追いかけ、粗方の掃除を終えたらしい店員の一人、リリィベルが不意に言葉を口にした。
「……秋の味覚つかった、甘いデザートたべたーい!」
「甘いもの?」
箒を杖代わりに突き、首を傾げて応えるのはもう一人の店員、ライネス。
「そー! ほら、ほら。こないだの森で採った、栗! 木の実! 果物!」
「あぁ……まぁ色々採ってたけどさ」
こないだの森、というのは。
二人が迷子になった記憶が新しい、エラトゥーン都市同盟から程近い平野に広がる森だ。
冒険者達に迷惑をかけてしまった苦い思い出に、んん、ライネスが喉を鳴らす。
「たべたいたべたい! たべたい! できればケーキにして!」
「いや、でもさ。一人分だけ作るってのも大変なんだよ」
「じゃあいっぱい作ろ!」
「いや。今日明日は父さんが用事でいないだろ? 店も開けられないからお客さんなんていないし……いっぱい作っても悪くするばかりだ」
「じゃあ……えぇっと……あ、そうだ! この辺で冒険者してる人に食べてもらお!」
「……依頼で?」
「依頼で!」
「……どんな依頼になるんだ、それ?」
ケチを入れるつもりはないが、如何せん要所要所に待ったをかけてしまうのは致し方あるまい。
突飛な事を言い出すものだと訝し気にするライネスは、いまいち乗り気ではないらしい。
然し甘いものを作りだしてくれるのは彼である。
どう丸め込めば……。リリィベルの顔が思案に悩む。
何を揉めているのかと、不信げな面持ちをして冒険者達がちらほら通りすがって行くのを横目に。
「嘘偽りなく、甘いデザート試食会での評価をおねがいしま~す! ……なんてどう?」
「……………」
「ほら、ほら! 冒険者さんって、故郷も様々、色んな人がいるから色んな味覚あるよ!」
「……………」
「それにそれに! じっくりお話聞いて、率直な意見聞いたりするのって大事だよ! お客さんの声だいじ! 冬のお祭りに向けて、新作デザート考えようよ!」
口説き落とそうと必死な姿に、ふはぁと間の抜けた溜息が零れ落ちる。
「……わかったよ。まぁ、確かに……作った料理の意見を聞けるってのは大事だよなぁ」
わぁいと嬉しそうに笑うリリィベルと対照的に、肩を竦めるライネス。
そうと決まれば今日中に食材を揃えて、明日やるなら父さんが帰る夕方までにはお開きにして……。考える事が山積みだ。
「あ」
「え?」
「土産もくっつけて、この店の名前を覚えてもらおう」
転んでもただでは起きまい、という事だろうか。
ともあれ。彼らは早速、気のゆるみきった依頼をお願いしに行くのだった。
解説
冒険者街にある飲食店で、秋と冬の新作デザートの評価をお願いします。
評価といっても難しい事はなく、言ってしまえば感想を一言だけでも大丈夫です。
こんなお菓子食べたい、という意見も歓迎します。
|お日柄
・よく晴れた晩秋の日。時刻はお昼を少し過ぎた頃。
陽が出ていて心地よい陽気です。
小ぢんまりとした店内にも秋の花が飾られ、お菓子の匂いと相まって華やいでいる気がします。
|お品書き
・フルーティで後味のすっきりした暖かいお茶を用意しています。
飲み物に関しましては持ち込みも可能です。
また、デザートだけでなく、しょっぱい軽食もご用意しています。
お品は以下の通りです。味の保証は存分にいたします。
気に入ったお品がありましたら、お土産としておひとり様おひとつ持ち帰る事ができます。
・三種のベリージャム添えゴーフル
・キャラメルナッツのダリオル
・ブランデー漬けマロングラッセのベニエ
・リンゴとレーズンのファーブルトン
・マーマレードと蜂蜜入りノネット
・大粒ブドウのコンポート
・パンペルデュ二種
水きりヨーグルトとイチゴジャム添え
カリカリに焼いた塩漬け肉と黒胡椒掛け (軽食)
・チーズとじゃがいものガレット (軽食)
☆お菓子は全て食べる事ができますが、特に食べたい!と思える物を2~3種類に絞っていただけると、描写がより深堀できるかと思います。
登場NPC
・リリィベル
黒猫のハーフビースト。17歳。人懐っこく、間延びした口調で話す。
普段はウェイトレスとして店に立っている。舌が肥えている。
冒険者達に出す前に試食したデザートへダメ出しを繰り返していた。
・ライネス
茶狐のハーフビースト。20歳。意外に饒舌。ちょっと砕けた口調で話す。
普段は料理人として店に立っている。食事デザート問わず作れる。
ダメ出しされた点から試行錯誤し、改善して、どうにかOKをもらった。
なにかありましたらリリィベル・ライネスをお呼びください。
マスターより
鍵島と申します。
寒い冬に備えて甘いものを食べましょう。
冒険者の皆さんを心よりお待ちしております。
リプレイ
秋風が落ち葉をひらりはらりと地に躍らせる。本日の天気、薄曇りながら陽気は上々。
場所はエラトゥーン都市同盟、冒険者街。店主不在の張り紙が貼られた、飲食店の店先で。
いち、に、さん。
閉店の札を掛けた扉を開け放ち、指差し確認。机、椅子、お茶。よし。
菓子の品評をお願いします、そう募った冒険者達は種族も多様、生まれ故郷も彼方此方の人ばかりである。
「いい、ライネス! 忖度ナシの貴重な意見を貰える機会だからね、大事にしないとだよ!」
「わかってる。……わかってんだけど、なぁ。普段接客に立たないもんだから」
あれこれ騒ぎ立てる彼らの元へ、見目共に逞しい冒険者が一人、扉を潜った。
「ある意味、難儀な依頼を見かけたもんだからな」
視線は遥か上に在る。リザードマンのサイラスだ。
「冒険者さん! 改めてお時間頂戴します、いらっしゃいませ!」
腑抜けた空気を振り払うべく、ハッとした顔でライネスの背を叩いて厨房へ送り、リリィベルが高らかに声を上げる。
店内へ案内した後、依頼掲示の際に記載していた通りの品書きを彼へと見せる。
甘い物が多く居並ぶ文字群の中で、サイラスの目が留まった。気に掛けるリリィベルがその先を辿る。
「ガレットと焼き塩漬け肉、コンポート。だな」
「はぁい! かしこまりです!」
その身にぶらさげるメモ書きを手に、淡と告げるサイラスの注文を承る。
芋と肉を主軸にした食事系二つに、素材の味を甘く盛り立てるコンポートのチョイスだ。
「美味いものでも無理をして食べるべきではない。然し腹一杯になった後でも口にして美味いと思えるなら、それが真に美味いものという」
ふかい。
甘いもの食べたいし、あと冒険者さんに美味しいって言ってもらえたらいいな~! などという浅い考えで依頼を願ったリリィベルの耳には非常に痛いものだ。
うぐ、と喉を唸らせつつ暖かなお茶を淹れて差し出す。サイラスが嗅覚を鋭くさせてみると、果物の淡い甘さの中に、後味をスッキリとさせるハーブが用いられているようだ。
「……ふむ。茶の。ハーブが少し強すぎる気がある。ハーブを減らして、柑橘類の皮を入れるとか」
「そこからぁ! うぅ、いえ、とっても勉強になります! えっとえっと、ハーブ……!」
おぼんを脇に挟み、指摘を行うサイラスの言葉をひとつひとつ書き留める。店員達は両者ともに、どちらかで言えば強い匂いを好む嗜好を持っていた。
「お待ち……って。茶の段階からこれなら、まだまだ改善の余地はありそうですねぇ……!」
ジャガイモのガレットに塩漬け肉のパンペルデュを先んじて持ってきたライネスが、必死にメモを取るリリィベルの様子に肩を竦める。食事へ注がれるサイラスの視線も中々に鋭い。
コンポートはせめて、褒められる点がある事を願おう。否、どうだろうか。ヒトの味覚は千差万別、甘く柔らかに仕立てられた果物の評は如何に。
斯くして忖度の無い研究会は、サイラスの厳たる意見と共に幕を上げた。
●
「依頼なのに甘い物を食べさせて貰えるなんて……!」
感嘆の声を口にするのはアステルだ。金の瞳をきらきら輝かせ、ハーブ抑え目のお茶を口にしていた。
雑味のない爽やかな味わいで喉を潤すと、今か今かと待ちわびる目当てのデザートが彼女の前に運ばれた。
ブルーベリーにブラックベリー、ラズベリーが使われたジャムを添えられたゴーフルがまず彼女の眼前に差し出される。外はさっくりとした食感、噛むとふわふわとして、粒の残るジャムと合わさり食感が楽しい。
「とはいえぜひぜひ、見て食べて! 実直なご意見をお願いします~……!」
カトラリーを添えてどうぞと促す傍ら、リリィベルが手を合わせて告げる。
「ありがとう! 私、ベリー系のモノ大好きっ!」
機嫌良く笑みを湛えるアステルは、一口大に切ったそれにジャムを添えて口へ含む。
甘みの中にも仄かな酸味が確りと感じられる。ゴーフル本来の素朴で優しい味わいが華やいで、食べやすいだろう。果物を好むアステルのお眼鏡にかなう逸品の物であったらしい、ありありと幸せを体現すべく大事に咀嚼している。これを兄へのお土産にしよう、心の中に決めて。
「このジャム、とても美味しいから色々なモノに合わせられそう」
「ほんとです?」
「例えば……スコーンとか、ノネットに入れても美味しそう! ……でも、邪道かな? 変わり種、っていう味なら、良いかな?」
「あぁ、ノネットに入れる物っていうと、マーマレードや蜂蜜が主ですからね。んや、でも。結構イイかもしれません。またそれ用に配合を変えたジャムを作り直して、雪に見立てた粉糖を……」
アステルにとっては何気ない一言でも、ライネスからすると重要なアイデアである。隣でリリィベルがメモを差し出し、ひたすら思い浮かぶだけの文言を書き留めていた。
「っと。ありがとうございます。次はパンペルデュですね」
ゴーフルを食し終える頃合いだ。アステルの前に、二種のパンペルデュが置かれる。
水分の抜けてしまったパンだからこそ、卵と牛乳を吸ってしっとりやわらかに仕上がる生地。二種あるうち、一方は塩味の強い肉に黒胡椒が利いて後味がぴりっとする。一方で、甘く煮詰められたイチゴジャムの対比が面白い。蜂蜜も掛ければ、甘みがより増した。
「パンペルデュは、やっぱり蜂蜜と! ん。柔らかくて美味しい!」
ナイフとフォークを使い、口の中へ食べ進めるアステル。判りやすく安堵するライネスは、やはりというべきか、直に評価を下される事に慣れていない。リリィベルもまた固唾をのんで見守っている。
「……うーん。でも、捻りがないといえば無い……のかな。なにか面白いアレンジが加えられれば、もっと良いと思うんだけど……勿論、このままでも凄く美味しいけどっ」
「はい、はい! わたしもそう思ってました!」
「王道こそ安定、然しながら冒険者とあれば、やっぱりアレンジは必至……ですか」
「何がいいとかは、ごめんなさい! 思い浮かばなくて。もっと、甘いだけじゃなくて、何かがあると……」
うぅん。誰からともなく悩みあぐねる声が響いて、思いついたようにアステルが片手をひらひらと振る。
「あっ! 思いついたよ! "ちょうどいい"の甘さだけじゃなくて、がつん! ってくるくらいに、甘くするの! どうかな?」
「がつん……?」
「とっても甘くしちゃえば、それだけだと苦い……コーヒーとか出して、一緒に食べるの!」
「あっ! それ、面白いですねぇ! 甘いだけ、苦いだけじゃ進まない物でも、組み合わせたら無限に食べられる! ありですよ~!」
「そうだよね!」
きゃっきゃとはしゃぐ女性陣。甘い物が好みであるアステルや、幾らでも試食を行えたリリィベルからすると甘さは決して天敵などではないらしいが。
あんまり食うと太りますぜ――そんな言葉を声にしかけて、そっと飲み込んだライネス。
貴重な意見をくれたアステルへ持たせる土産の量が増えたのは、言うまでも無いだろう。
●
有体に言えば菓子の感想を述べる依頼。
ゆっくり出来そうだね、と穏やかに微笑んで笑うのはシルヴィア・A・カペル。
柔らかな物腰に添える表情は、柔和である。
然しながら、そんなシルヴィアが一番と言っていい程に適宜な指摘を紡いでくれたのではないだろうか。
「ふむ。まずメニュー表について……」
「はい!」
「来店する人の出身地は多岐に渡るから、名前だけではそのお菓子がどういった物かを知っている人ばかりではないね。口頭では印象も纏まらないから、文字に起こして説明として書いた方が良い。店の一押しお菓子、お客さん一番人気……等の見出しも良いかな」
「確かに……改めて見ると、専門的な菓子の羅列だけだったな……」
「君達は食への造詣が深い。それが故に、お客さんの目線で物を見る事が少し難しいのかもしれないね」
「うぅっ……! それは、確かに、盲点でした……」
先ず視点の入りから違いが出るのは、シルヴィア自身の家柄から由来する事もあるのだろう。
唇を引き結んで唸るリリィベルの様子にくすくすと喉を鳴らし、彼女は続ける。
「商人や貴族なら、産地にもこだわる人もいるだろう。マロングラッセなんかは特に、この栗がリーンエスの物か、シャルガネ産なのか。それだけで、印象が変わってくると思わないかい?」
故郷の食材が使われたとあれば、素直に喜んで頼む人もいるだろうから。と。
栗と一口に言っても、土地ごとに多様な気候があるもの。風味の強さ、単純な甘さ、果肉の硬さ、乾燥しているかほっくりとしているか。
流れるせせらぎのよう。止めどなく、穏やかに語るシルヴィアの傍ら、リリィベルが懸命にメモを取っている。
丁寧に論理立てて改善要項を提示する彼女の声に、顎先に手を宛がって、感心したようにライネスは頷いていた。
「ブランデーが何処の銘柄か、も。欲しい所だね。……秋ならではとして、大いに宣伝するのも良いだろう」
「故郷、産地。成程、そうですね。自分の故郷のモンがあったら、親近感を感じて、手が伸ばしやすい」
「と、いうことだね。……例に挙げて話していたら、食べたくなったよ。頼んでもいいかな?」
「はい! ブランデー漬けマロングラッセのベニエで!」
「かしこまりました」
一礼したライネスが奥へと引っ込み、メモ書きを置いたリリィベルが、早速とシルヴィアの前でお茶の準備を始めた。
温かいお茶を共に、シルヴィアはベニエにデザートナイフを入れる。
ゆるんだ長方形の形をしたベニエを切ってみると、中のマロングラッセが目見える。まだ温かなベニエから、ブランデーと栗の匂いが広がって鼻をくすぐった。
「肌寒くなってきた季節、だからかな。温かなベニエにほっとするよ」
特有のふわふわとした生地に振りかけられた粉砂糖は、さながら冬の雪を先取りしたみたいで目にも楽しい。
一口頬張れば、濃厚な味わいが舌を優しく撫でる。主張の無い甘さ控えめな生地ともよく合っていた。
「……そういえば。現在で果実蒸留酒を製造出来るのはドワーフ王国のみだね。そういった希少性もお客さんの目を引きそうだよ」
「希少性、ですか」
「あ! とっても大粒の宝石を欲しがるのと同じ!?」
「……ちょっと違うかな?」
間の抜けたリリィベルの言葉に肩をゆすらせつつ。
店内に飾られた秋の花を眺めながら、シルヴィアはベニエを心行くまで味わう。
すっかり秋めいてきた。もう、冬だって近い。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
机上の花瓶で、鮮やかなコスモスの花弁が風に揺られていた。
●
「ごちそうになりに来たぞ」
扉を潜る前からとても自由奔放な言葉が、店の中へとすっ飛んできた。
声の主は、ひらりと片手を上げて現れたペルゼィックだ。
「今日は怖い奴はいない、安心しろ」
「! いらっしゃいませ!」
あらゆる意味で怖いお兄さんの来店に、リリィベルは目をぱちぱちと瞬かせ、ライネスが咳払いで笑気を誤魔化す。
過日の依頼で随分とお世話になった冒険者である彼の言葉に、その節は、と手を控えめに合わせる店員二名の姿が続く。ペルゼィックは何処か得意げな顔をして見せた。
とはいえ。突飛な試食依頼に、幾つか疑問を抱いたのも事実。
「……独立すんのか? よその店に卸すのか?」
「あぁ! 単純に、冬のお祭りで新作考えるついでに勉強できたらな~! って」
「そんな感じで冒険者さん達の視野の広さを借りようかと」
「……ふうん。成程な」
見知った冒険者街ではない何処かへ、という内訳では無いと首を振る店員達。
もしそうであっても、贔屓にするのは変わらないが。とは、ペルゼィックの心の声だ。
何を頼みます? 嬉しそうに品書きを見せる二名から、そっと視線を其れへと移して鋭い赤の瞳が吟味を始める。
「……ママレードは甘みより苦味が強いのが美味い。レモンのママレードで作ったのを食いてぇ」
「ノネットですか? すぐには作れないんで、代わりにレモン汁を加えてみますよ」
「ガレットには卵が合う。チーズもいい」
「えっ? と……たまごに、チーズと」
注文を取る横から、ハーブも少し入れれば美味しい。追加に慌てて文字を走らせる。
勝手気儘と思える一言から既存の品に材料の追加をしていけば、不思議と新作メニューの出来上がりである。お客の需要を直に聞けるのはありがたい。実食するなら、味見としても兼ねて貰える。
「んで……コンポート、瓶詰めにすりゃ持ち帰りに出来そうだな。瓶なら用意できるぜ、っと……これの栗も詰めたのも作れ。食事客に掴ませろ」
「すごーい! なんだかめちゃくちゃ計算してる!」
瓶の納品数と工賃計算を始めるペルゼィックの様子から、商売根性的勉強を必然と感じ取るリリィベル。ライネスは無茶の続く注文に奔走していた。
幾らか時間を頂戴した後、やがてペルゼィックの前に前述の三品が並んだ。
ガレットは軽食というよりもはやがっつりとした食事になった。手を止めず頬張る様子からして、気に入ってもらえたようだ。
オレンジマーマレードにレモン果汁が加わって、さっぱりと食べられる仕上がりとなったノネットも。ころんとしたブドウのコンポートは、一粒食べた後、続けて口に放り込んで居た様子から察するに、やはりお気に召す物であった模様。
「……ペルゼィックさんは、甘い物、好きなんですか~?」
「甘い物? ……別段嫌いじゃねぇ。考えてる時の甘いもんは、ココに染みて格別だからな」
とん。自らの頭頂を指先で指し示して、ペルゼィックは頷いた。
そのようで。ライネスが早速と小瓶にコンポートを詰めてみていた。リボンも結べば、立派な土産になりそうだ。
「けど。またご縁くれるとは思いませんでしたよ」
「あ?」
此処は。
不純物に神経を研ぎ澄ませた食事をする事も無ければ、戦いの場で油断が許されない事も無い場。
「食事くらい、座って落ち着いてうまいもん食いたいしな」
「?」
積極的に関わりを持ってくれるペルゼィック。斯様な彼によって端折られた言葉にぴんとこないリリィベルは首を傾げているが、その様子を気にも留める事なくノネットが口に運ばれていく。
やがて机上に空の皿が残される頃。深呼吸をすると、ペルゼィックは口元を拭いながら椅子にふんぞり返った。
「ま、最後はよ。自分らが美味いと思える物を提供できりゃ、いいんじゃねぇの」
この場にいない幼馴染の顔を想像しながら呟くと、ペルゼィックの口角がニヤりと持ち上げられた。
●
冒険者達を見送って、淡い夕陽が射し込む店内の椅子へと座り込む影がふたつ。
「総評。やっぱ俺達、アプローチが下手だよなぁ……」
「でも、でも! 冬のお祭り、お菓子作りの参考になったよね!」
「ん。ちゃんと報えるように努力だな」
収穫は上々、書き記した意見は目一杯ある。
満足そうに笑う店員達の頬を、冬の気配を帯びた風が撫でて行った。
場所はエラトゥーン都市同盟、冒険者街。店主不在の張り紙が貼られた、飲食店の店先で。
いち、に、さん。
閉店の札を掛けた扉を開け放ち、指差し確認。机、椅子、お茶。よし。
菓子の品評をお願いします、そう募った冒険者達は種族も多様、生まれ故郷も彼方此方の人ばかりである。
「いい、ライネス! 忖度ナシの貴重な意見を貰える機会だからね、大事にしないとだよ!」
「わかってる。……わかってんだけど、なぁ。普段接客に立たないもんだから」
あれこれ騒ぎ立てる彼らの元へ、見目共に逞しい冒険者が一人、扉を潜った。
「ある意味、難儀な依頼を見かけたもんだからな」
視線は遥か上に在る。リザードマンのサイラスだ。
「冒険者さん! 改めてお時間頂戴します、いらっしゃいませ!」
腑抜けた空気を振り払うべく、ハッとした顔でライネスの背を叩いて厨房へ送り、リリィベルが高らかに声を上げる。
店内へ案内した後、依頼掲示の際に記載していた通りの品書きを彼へと見せる。
甘い物が多く居並ぶ文字群の中で、サイラスの目が留まった。気に掛けるリリィベルがその先を辿る。
「ガレットと焼き塩漬け肉、コンポート。だな」
「はぁい! かしこまりです!」
その身にぶらさげるメモ書きを手に、淡と告げるサイラスの注文を承る。
芋と肉を主軸にした食事系二つに、素材の味を甘く盛り立てるコンポートのチョイスだ。
「美味いものでも無理をして食べるべきではない。然し腹一杯になった後でも口にして美味いと思えるなら、それが真に美味いものという」
ふかい。
甘いもの食べたいし、あと冒険者さんに美味しいって言ってもらえたらいいな~! などという浅い考えで依頼を願ったリリィベルの耳には非常に痛いものだ。
うぐ、と喉を唸らせつつ暖かなお茶を淹れて差し出す。サイラスが嗅覚を鋭くさせてみると、果物の淡い甘さの中に、後味をスッキリとさせるハーブが用いられているようだ。
「……ふむ。茶の。ハーブが少し強すぎる気がある。ハーブを減らして、柑橘類の皮を入れるとか」
「そこからぁ! うぅ、いえ、とっても勉強になります! えっとえっと、ハーブ……!」
おぼんを脇に挟み、指摘を行うサイラスの言葉をひとつひとつ書き留める。店員達は両者ともに、どちらかで言えば強い匂いを好む嗜好を持っていた。
「お待ち……って。茶の段階からこれなら、まだまだ改善の余地はありそうですねぇ……!」
ジャガイモのガレットに塩漬け肉のパンペルデュを先んじて持ってきたライネスが、必死にメモを取るリリィベルの様子に肩を竦める。食事へ注がれるサイラスの視線も中々に鋭い。
コンポートはせめて、褒められる点がある事を願おう。否、どうだろうか。ヒトの味覚は千差万別、甘く柔らかに仕立てられた果物の評は如何に。
斯くして忖度の無い研究会は、サイラスの厳たる意見と共に幕を上げた。
●
「依頼なのに甘い物を食べさせて貰えるなんて……!」
感嘆の声を口にするのはアステルだ。金の瞳をきらきら輝かせ、ハーブ抑え目のお茶を口にしていた。
雑味のない爽やかな味わいで喉を潤すと、今か今かと待ちわびる目当てのデザートが彼女の前に運ばれた。
ブルーベリーにブラックベリー、ラズベリーが使われたジャムを添えられたゴーフルがまず彼女の眼前に差し出される。外はさっくりとした食感、噛むとふわふわとして、粒の残るジャムと合わさり食感が楽しい。
「とはいえぜひぜひ、見て食べて! 実直なご意見をお願いします~……!」
カトラリーを添えてどうぞと促す傍ら、リリィベルが手を合わせて告げる。
「ありがとう! 私、ベリー系のモノ大好きっ!」
機嫌良く笑みを湛えるアステルは、一口大に切ったそれにジャムを添えて口へ含む。
甘みの中にも仄かな酸味が確りと感じられる。ゴーフル本来の素朴で優しい味わいが華やいで、食べやすいだろう。果物を好むアステルのお眼鏡にかなう逸品の物であったらしい、ありありと幸せを体現すべく大事に咀嚼している。これを兄へのお土産にしよう、心の中に決めて。
「このジャム、とても美味しいから色々なモノに合わせられそう」
「ほんとです?」
「例えば……スコーンとか、ノネットに入れても美味しそう! ……でも、邪道かな? 変わり種、っていう味なら、良いかな?」
「あぁ、ノネットに入れる物っていうと、マーマレードや蜂蜜が主ですからね。んや、でも。結構イイかもしれません。またそれ用に配合を変えたジャムを作り直して、雪に見立てた粉糖を……」
アステルにとっては何気ない一言でも、ライネスからすると重要なアイデアである。隣でリリィベルがメモを差し出し、ひたすら思い浮かぶだけの文言を書き留めていた。
「っと。ありがとうございます。次はパンペルデュですね」
ゴーフルを食し終える頃合いだ。アステルの前に、二種のパンペルデュが置かれる。
水分の抜けてしまったパンだからこそ、卵と牛乳を吸ってしっとりやわらかに仕上がる生地。二種あるうち、一方は塩味の強い肉に黒胡椒が利いて後味がぴりっとする。一方で、甘く煮詰められたイチゴジャムの対比が面白い。蜂蜜も掛ければ、甘みがより増した。
「パンペルデュは、やっぱり蜂蜜と! ん。柔らかくて美味しい!」
ナイフとフォークを使い、口の中へ食べ進めるアステル。判りやすく安堵するライネスは、やはりというべきか、直に評価を下される事に慣れていない。リリィベルもまた固唾をのんで見守っている。
「……うーん。でも、捻りがないといえば無い……のかな。なにか面白いアレンジが加えられれば、もっと良いと思うんだけど……勿論、このままでも凄く美味しいけどっ」
「はい、はい! わたしもそう思ってました!」
「王道こそ安定、然しながら冒険者とあれば、やっぱりアレンジは必至……ですか」
「何がいいとかは、ごめんなさい! 思い浮かばなくて。もっと、甘いだけじゃなくて、何かがあると……」
うぅん。誰からともなく悩みあぐねる声が響いて、思いついたようにアステルが片手をひらひらと振る。
「あっ! 思いついたよ! "ちょうどいい"の甘さだけじゃなくて、がつん! ってくるくらいに、甘くするの! どうかな?」
「がつん……?」
「とっても甘くしちゃえば、それだけだと苦い……コーヒーとか出して、一緒に食べるの!」
「あっ! それ、面白いですねぇ! 甘いだけ、苦いだけじゃ進まない物でも、組み合わせたら無限に食べられる! ありですよ~!」
「そうだよね!」
きゃっきゃとはしゃぐ女性陣。甘い物が好みであるアステルや、幾らでも試食を行えたリリィベルからすると甘さは決して天敵などではないらしいが。
あんまり食うと太りますぜ――そんな言葉を声にしかけて、そっと飲み込んだライネス。
貴重な意見をくれたアステルへ持たせる土産の量が増えたのは、言うまでも無いだろう。
●
有体に言えば菓子の感想を述べる依頼。
ゆっくり出来そうだね、と穏やかに微笑んで笑うのはシルヴィア・A・カペル。
柔らかな物腰に添える表情は、柔和である。
然しながら、そんなシルヴィアが一番と言っていい程に適宜な指摘を紡いでくれたのではないだろうか。
「ふむ。まずメニュー表について……」
「はい!」
「来店する人の出身地は多岐に渡るから、名前だけではそのお菓子がどういった物かを知っている人ばかりではないね。口頭では印象も纏まらないから、文字に起こして説明として書いた方が良い。店の一押しお菓子、お客さん一番人気……等の見出しも良いかな」
「確かに……改めて見ると、専門的な菓子の羅列だけだったな……」
「君達は食への造詣が深い。それが故に、お客さんの目線で物を見る事が少し難しいのかもしれないね」
「うぅっ……! それは、確かに、盲点でした……」
先ず視点の入りから違いが出るのは、シルヴィア自身の家柄から由来する事もあるのだろう。
唇を引き結んで唸るリリィベルの様子にくすくすと喉を鳴らし、彼女は続ける。
「商人や貴族なら、産地にもこだわる人もいるだろう。マロングラッセなんかは特に、この栗がリーンエスの物か、シャルガネ産なのか。それだけで、印象が変わってくると思わないかい?」
故郷の食材が使われたとあれば、素直に喜んで頼む人もいるだろうから。と。
栗と一口に言っても、土地ごとに多様な気候があるもの。風味の強さ、単純な甘さ、果肉の硬さ、乾燥しているかほっくりとしているか。
流れるせせらぎのよう。止めどなく、穏やかに語るシルヴィアの傍ら、リリィベルが懸命にメモを取っている。
丁寧に論理立てて改善要項を提示する彼女の声に、顎先に手を宛がって、感心したようにライネスは頷いていた。
「ブランデーが何処の銘柄か、も。欲しい所だね。……秋ならではとして、大いに宣伝するのも良いだろう」
「故郷、産地。成程、そうですね。自分の故郷のモンがあったら、親近感を感じて、手が伸ばしやすい」
「と、いうことだね。……例に挙げて話していたら、食べたくなったよ。頼んでもいいかな?」
「はい! ブランデー漬けマロングラッセのベニエで!」
「かしこまりました」
一礼したライネスが奥へと引っ込み、メモ書きを置いたリリィベルが、早速とシルヴィアの前でお茶の準備を始めた。
温かいお茶を共に、シルヴィアはベニエにデザートナイフを入れる。
ゆるんだ長方形の形をしたベニエを切ってみると、中のマロングラッセが目見える。まだ温かなベニエから、ブランデーと栗の匂いが広がって鼻をくすぐった。
「肌寒くなってきた季節、だからかな。温かなベニエにほっとするよ」
特有のふわふわとした生地に振りかけられた粉砂糖は、さながら冬の雪を先取りしたみたいで目にも楽しい。
一口頬張れば、濃厚な味わいが舌を優しく撫でる。主張の無い甘さ控えめな生地ともよく合っていた。
「……そういえば。現在で果実蒸留酒を製造出来るのはドワーフ王国のみだね。そういった希少性もお客さんの目を引きそうだよ」
「希少性、ですか」
「あ! とっても大粒の宝石を欲しがるのと同じ!?」
「……ちょっと違うかな?」
間の抜けたリリィベルの言葉に肩をゆすらせつつ。
店内に飾られた秋の花を眺めながら、シルヴィアはベニエを心行くまで味わう。
すっかり秋めいてきた。もう、冬だって近い。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
机上の花瓶で、鮮やかなコスモスの花弁が風に揺られていた。
●
「ごちそうになりに来たぞ」
扉を潜る前からとても自由奔放な言葉が、店の中へとすっ飛んできた。
声の主は、ひらりと片手を上げて現れたペルゼィックだ。
「今日は怖い奴はいない、安心しろ」
「! いらっしゃいませ!」
あらゆる意味で怖いお兄さんの来店に、リリィベルは目をぱちぱちと瞬かせ、ライネスが咳払いで笑気を誤魔化す。
過日の依頼で随分とお世話になった冒険者である彼の言葉に、その節は、と手を控えめに合わせる店員二名の姿が続く。ペルゼィックは何処か得意げな顔をして見せた。
とはいえ。突飛な試食依頼に、幾つか疑問を抱いたのも事実。
「……独立すんのか? よその店に卸すのか?」
「あぁ! 単純に、冬のお祭りで新作考えるついでに勉強できたらな~! って」
「そんな感じで冒険者さん達の視野の広さを借りようかと」
「……ふうん。成程な」
見知った冒険者街ではない何処かへ、という内訳では無いと首を振る店員達。
もしそうであっても、贔屓にするのは変わらないが。とは、ペルゼィックの心の声だ。
何を頼みます? 嬉しそうに品書きを見せる二名から、そっと視線を其れへと移して鋭い赤の瞳が吟味を始める。
「……ママレードは甘みより苦味が強いのが美味い。レモンのママレードで作ったのを食いてぇ」
「ノネットですか? すぐには作れないんで、代わりにレモン汁を加えてみますよ」
「ガレットには卵が合う。チーズもいい」
「えっ? と……たまごに、チーズと」
注文を取る横から、ハーブも少し入れれば美味しい。追加に慌てて文字を走らせる。
勝手気儘と思える一言から既存の品に材料の追加をしていけば、不思議と新作メニューの出来上がりである。お客の需要を直に聞けるのはありがたい。実食するなら、味見としても兼ねて貰える。
「んで……コンポート、瓶詰めにすりゃ持ち帰りに出来そうだな。瓶なら用意できるぜ、っと……これの栗も詰めたのも作れ。食事客に掴ませろ」
「すごーい! なんだかめちゃくちゃ計算してる!」
瓶の納品数と工賃計算を始めるペルゼィックの様子から、商売根性的勉強を必然と感じ取るリリィベル。ライネスは無茶の続く注文に奔走していた。
幾らか時間を頂戴した後、やがてペルゼィックの前に前述の三品が並んだ。
ガレットは軽食というよりもはやがっつりとした食事になった。手を止めず頬張る様子からして、気に入ってもらえたようだ。
オレンジマーマレードにレモン果汁が加わって、さっぱりと食べられる仕上がりとなったノネットも。ころんとしたブドウのコンポートは、一粒食べた後、続けて口に放り込んで居た様子から察するに、やはりお気に召す物であった模様。
「……ペルゼィックさんは、甘い物、好きなんですか~?」
「甘い物? ……別段嫌いじゃねぇ。考えてる時の甘いもんは、ココに染みて格別だからな」
とん。自らの頭頂を指先で指し示して、ペルゼィックは頷いた。
そのようで。ライネスが早速と小瓶にコンポートを詰めてみていた。リボンも結べば、立派な土産になりそうだ。
「けど。またご縁くれるとは思いませんでしたよ」
「あ?」
此処は。
不純物に神経を研ぎ澄ませた食事をする事も無ければ、戦いの場で油断が許されない事も無い場。
「食事くらい、座って落ち着いてうまいもん食いたいしな」
「?」
積極的に関わりを持ってくれるペルゼィック。斯様な彼によって端折られた言葉にぴんとこないリリィベルは首を傾げているが、その様子を気にも留める事なくノネットが口に運ばれていく。
やがて机上に空の皿が残される頃。深呼吸をすると、ペルゼィックは口元を拭いながら椅子にふんぞり返った。
「ま、最後はよ。自分らが美味いと思える物を提供できりゃ、いいんじゃねぇの」
この場にいない幼馴染の顔を想像しながら呟くと、ペルゼィックの口角がニヤりと持ち上げられた。
●
冒険者達を見送って、淡い夕陽が射し込む店内の椅子へと座り込む影がふたつ。
「総評。やっぱ俺達、アプローチが下手だよなぁ……」
「でも、でも! 冬のお祭り、お菓子作りの参考になったよね!」
「ん。ちゃんと報えるように努力だな」
収穫は上々、書き記した意見は目一杯ある。
満足そうに笑う店員達の頬を、冬の気配を帯びた風が撫でて行った。
マスターコメント
冒険者の皆さま、この度は貴重なご意見をありがとうございました。
冬のお祭りに向けて意気込む二人にとって、得難い経験をいただけました。
また皆様と会えますことを、お待ちしております。
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない4 / 4〜5人
2022年12月07日 09時48分15秒 公開
成功
参加者
- サイラス
- アステル
シルヴィア・A・カペル
ペルゼィック
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