君の懺悔を、告解を
眞石ユキヒロ
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シナリオID:2612
オープニング
●ゆるされざる行為
リーンエス王国、とある教会の告解室。
辺境都市群冒険者ギルドの実質的職員であるハーフリングのウォーリア、ティボーが台の上で茶色い目を伏せ跪き、罪の告白を行っていた。
「まぁ、そんなわけで僕は善良で病弱な家族のためとか考えながら罪を犯したんですよ」
冒険者になるが仲間に恵まれず、なんでも屋の傭兵に転身した。犯罪まがいの依頼ばかりを頼まれ、家族可愛さにそれをこなした。
最後に冒険者ギルド職員、ライリー・ベル誘拐に加担した事実を語って、ティボーは瞼を上げる。
「笑ってしまいますよね。誰かのためなら何をしても許されるわけではないと頭でわかっているくせに、犯罪まがいの行為に何度も加担したんですから」
小窓の向こうに佇む司祭は何も返さず、ただティボーの告白に耳を傾けていた。
「……今日までの罪を告白いたしました」
何かを伝えるべく小さく息を吸い込んだ司祭の口を封じるように、ティボーが言葉を続ける。
「……ゆるしはくれなくて良いです。誰かに言いたかっただけですので。……では、失礼します」
小窓の向こうから漂ってくるひりついた空気に背を向け、ティボーは告解室を後にした。
●七色の輝き
(罪をゆるす、ゆるさないなんていうのは第三者が決められることじゃないんですよ)
祭壇の向こうのステンドグラスを眺めながら、チャーチベンチに腰掛けたティボーはぼんやりと思う。
ステンドグラスみたいに配色を決めて美しい決着をつけるなんて、当事者同士でもそうそうできることではない。
(言いたいことだけ言って出て行ったのはまぁ、悪かったなとは思いますけど……)
生活のための悪事は家族にも言えないので、縁がない相手に聞いてもらうしかなく。
(多分、罪への明確なゆるしなんてなくて、時が経つにつれて罪がぼやけて、消えたように見える。とかそんな感じなんじゃないかなって)
頭の後ろで手を組んで天井を見上げる。橙色のナチュラルマッシュが腕を擽った。
(僕にもいつかそんな日が来るんでしょうかね)
天井に描かれた小さき神々がやけにはっきりと見える。ティボーはそのの眩しさにため息を吐いた。
リーンエス王国、とある教会の告解室。
辺境都市群冒険者ギルドの実質的職員であるハーフリングのウォーリア、ティボーが台の上で茶色い目を伏せ跪き、罪の告白を行っていた。
「まぁ、そんなわけで僕は善良で病弱な家族のためとか考えながら罪を犯したんですよ」
冒険者になるが仲間に恵まれず、なんでも屋の傭兵に転身した。犯罪まがいの依頼ばかりを頼まれ、家族可愛さにそれをこなした。
最後に冒険者ギルド職員、ライリー・ベル誘拐に加担した事実を語って、ティボーは瞼を上げる。
「笑ってしまいますよね。誰かのためなら何をしても許されるわけではないと頭でわかっているくせに、犯罪まがいの行為に何度も加担したんですから」
小窓の向こうに佇む司祭は何も返さず、ただティボーの告白に耳を傾けていた。
「……今日までの罪を告白いたしました」
何かを伝えるべく小さく息を吸い込んだ司祭の口を封じるように、ティボーが言葉を続ける。
「……ゆるしはくれなくて良いです。誰かに言いたかっただけですので。……では、失礼します」
小窓の向こうから漂ってくるひりついた空気に背を向け、ティボーは告解室を後にした。
●七色の輝き
(罪をゆるす、ゆるさないなんていうのは第三者が決められることじゃないんですよ)
祭壇の向こうのステンドグラスを眺めながら、チャーチベンチに腰掛けたティボーはぼんやりと思う。
ステンドグラスみたいに配色を決めて美しい決着をつけるなんて、当事者同士でもそうそうできることではない。
(言いたいことだけ言って出て行ったのはまぁ、悪かったなとは思いますけど……)
生活のための悪事は家族にも言えないので、縁がない相手に聞いてもらうしかなく。
(多分、罪への明確なゆるしなんてなくて、時が経つにつれて罪がぼやけて、消えたように見える。とかそんな感じなんじゃないかなって)
頭の後ろで手を組んで天井を見上げる。橙色のナチュラルマッシュが腕を擽った。
(僕にもいつかそんな日が来るんでしょうかね)
天井に描かれた小さき神々がやけにはっきりと見える。ティボーはそのの眩しさにため息を吐いた。
解説
●目標
・懺悔しましょう
●できること
・司祭へ懺悔・告解
告解室で司祭へ自分の罪を懺悔・告解できます。
「ダイエット中だけど深夜にお菓子を食べた」のような軽いものも、「過去の大罪・誰にも明かせない秘密」のような重いものも大丈夫です。
ゆるしを与えられますし、ゆるしを拒否しても良いです。自分なりの考えを出していきましょう!
・ティボーと話す(※成功度に影響しません)
家族や罪についてとかも話せますが、そういうことについては口が硬いです。
逆に世間話とかだと軽口が多くなります。誕生日当日ではないですが祝うことも可能です。
●NPC
・ティボー
実質的に辺境都市群冒険者ギルド職員になってしまったハーフリングのウォーリア。生年月日は1196/10/8。
告解を勝手に打ち切ってチャーチベンチでくつろいでいます。
辺境都市群冒険者ギルド職員、ライリー・ベルを誘拐(詳しくは「ライリーVS誘拐犯VS……?」参照)しただけでなく、過去にも傭兵として犯罪まがいの依頼を受けていました。
自分以外の家族が揃って病弱のため、授恵者の力に目覚めた10歳の頃から働いていましたが、流石にその頃は普通の仕事をしていました。
・司祭
真面目な司祭の男性。OPノベルでは不憫でしたがちゃんとPCさんのお話を聞きますし、秘密にします。
マスターより
冒険者の皆様、この依頼をご確認いただきありがとうございます!
眞石ユキヒロです。
一ヶ月遅れですがティボー誕生日シナリオです。
誕生日シナリオとは言っていますが、ティボーをスルーして懺悔・告解に全力投球していただいて構いません。
質問があれば冒頭に【質問】と書いて相談卓に投稿すればツェレンが答えられる範囲で答えます。
※当依頼は参加時に仮プレイングの提出を推奨しております。
絶対ではありませんがご一考いただけると有難いです。
リプレイ
●
リーンエス王国。とある教会の告解室。
サイラスの懺悔は炎と共にあった。
「最初のはなーんとなく、邪魔だから潰そうと思ったんで集落に火をつけました、よく燃えました。くらいだけどな。若すぎてそんな考えてないよその頃」
何のために懺悔するのか、本当にはわからない。けれどやってみないことには一生何もわからない。
「まあ復讐、くらいはあったんじゃない?」
育った村の腐った大人たちはほぼ全員死んでくれた。可哀想な奴隷仲間は埋葬した。
その時の感情については今でもはっきりとは思い出せない。感情を麻痺させて自分を保ったのかもしれない。
「次は依頼で、生き残りがいたから宿題が残ってる感覚で殺しにいきましたとさ。まあ全員は殺せなかったが、主要人物は殺したしね」
二度目の復讐について、他人事のようにからっとサイラスは言う。けれどその額には汗が滲んでいる。
「……ほーんと、お優しいよなぁあの族長様は。まさか若い子は未来があるからって保護するとはなー」
何の感情も込めずにサイラスが賛辞を口にする。
(気が付かなかった時は自分の所の餓鬼攫われても気が付かない。何あっても気にしない癖にね? 俺とかさ)
救われなかった者の悲しみを、怒りの炎を胸にしまって。
(あの村の生き残りがいることに内心苛立つ程度には人の心がない事も懺悔するべきかね?)
あの時、あの赤い炎が全て燃やしてくれさえすれば。
けれど自分から手を出すわけにもいかず、この話についてはここまでにしておく。
「あとは作ってた酒盗んだ鍛治仲間へ復讐としてそいつのお気に入りの遊女さんを奥さんへバラしたりとか、大福の餌をあんまりにも盗み食いが多いからダイエットフードにした事とか」
グルルと唸るように喉を鳴らす※狼ですを思い出し、でもそれはしょうがなくねと半分開き直りながら続ける。
「人間は使わないとはいえラスリャマスのエーテル強奪からの竜化研究してるとか、そもそも竜化を誇りとか良い物じゃなくて真面目にやってた阿呆への嫌がらせで研究してるとか?」
しれっと大胆告白を織り交ぜる。司祭が黙ってりゃヨシ!
「今思い出せるのはこのくらい、かなー。……今日までの主な罪を告白したぜー。ゆるしを頼むぞ」
どんな神にゆるしを願うのか。さっぱりわからないので決まり文句だってどうしても軽くなる。
司祭はサイラスの心に、救いを求める幼き姿を見いだした。だからこそすんなりと決まり文句を返す。
「罪をゆるされた人は幸せです。ご安心を」
ゆるされた? ゆるしを請わねばならないような罪を犯したのは……と考えてサイラスは顔を上げる。ゆるされたらここを出なくてはならない。そういうシステムだ。
「じゃあなー」
すくっと立ち上がり告解室を後にする。見上げた教会の天井には、無数の小さき神々が描かれていた。
(あの中の誰かにでもゆるされたんかね、おれ)
ゆるされずとも我が道を行く覚悟はある。けれどなんとなくのゆるしを得ることで心が軽くなるのもまた、人間である。
●
「私の懺悔は罪を背負ってない事ですよ」
セラフィナ・M・ベイリーは罪に跪く。
命を奪い食事とする。小さな約束を反故にする。うるさく飛び回る羽虫を潰す。
「人は多かれ少なかれ「罪」を背負って生きている」
悪い事を一度もした事がない聖人なんて存在するはずありませんから!
「でも私は一度死んだ時に全部忘れてしまった。償うべき罪を。背負って歩いて行かなきゃいけなかった罪を。守らなきゃいけなかった約束を。大切な思い出を」
どこかに置き去られてしまった大罪に詫びるように、セラフィナは頭を下げる。
「そんな全てを失った私が今、生きていると言えるのでしょうか?」
司祭は何も答えない。セラフィナは答えを持ち合わせていない。
身体は時を止めている。新たな命を繋ぐことはできない。この見た目を不気味に思う人間だっている。
「何で冒険者ギルドはホムンクルスを人類として認めちゃったのでしょうね」
無理矢理生み出された生命を殺すのではない、帝国の罪の証を駆除してくれれば良かったのだ。こんな、こんな種族は――。
「私は精一杯人生を楽しんでるふりをしながら生きるしかないのですよ。自分の存在意義のギルドの依頼をこなしながら、第二の生を謳歌してます! って笑いながら」
セラフィナの弁には熱量が存在する。触れた相手を燃やし尽くすほどの、痛みを持つ熱が。
「フフフフフ、滑稽で笑っちゃうでしょう?」
セラフィナは顔を上げて小窓の向こうの司祭を見ると、ちっとも楽しくなさそうに笑った。
「範囲攻撃で敵を蹂躙してる時は、結構気分爽快なんですよ」
右眼の賢者の石から血の涙が流れているようにすら思える。
「以上が私の、今日までの罪、ですね」
しばし待った。それでもゆるしを求めないセラフィナに、司祭は「一日一日を生きてゆけば、貴方に罪は降り注ぎます」と声をかけた。
「そして罪をゆるされた人は幸せです。ご安心を」
これから罪が積み上がったとして、それはセラフィナが求めている罪ではない。それでもその言葉に思いやりを感じたから、セラフィナは無言で告解室を出た。
(輝いていますね)
ステンドグラスから注ぐ七色の光が、セラフィナの視界にも入った。そしてその光を眺めているティボーも。
「いいなぁ」
不意に、口から零れた。後悔を背負っている。ティボーはそんな横顔をしている。
「貴方はちゃんと生きてるのですね」
ティボーがチラリとセラフィナを見た。なぜ切なげな表情でこちらを見るのか、ティボーには全く理解できない。けれど咎める理由もないのでステンドグラスに視線を戻す。
セラフィナはステンドグラスへ背を向け中央通路を出入り口へと歩んだ。いつか自分もあちら側になるのかもしれない。
けれど今は自分に似合わない教会から抜け出すべきだと歩を進めた。
●
「例えば過去に罪を犯したとして。それで死刑になったとする。普通はそこで終わりだが……もしも生き返るようなことがあったとしたら、その罪はどうなるのだろう」
レピド・クロサイトはあえて他人事のように尋ねる。
「刑の執行がゆるしの条件であれば、執行された時点で罪へのゆるしは与えられた。私はそう考えます」
思いやりはあれど熱はない。返ってきたのは如何にもゆるすための存在らしい言葉だった。
レピドにとって自分の罪は現在も自分の中に存在する。
「……そういう考え方もあるんだな」
それでもレピドは司祭の考え方を他者の思考として吸収した。
「今日は過去の罪ではなく、現在の俺の罪を告白する」
あまりに重い問いを投げかけたレピドだ。その罪はいかほどのものかと司祭の心に僅かな緊張が生ずる。
「俺は……その、好奇心に負けてしまって……」
歯切れが悪い。強い罪の意識により、そういった状態に陥る人間を幾千と見てきた神父は努めて平静を装った。
「食べてしまったんだ……飼い猫のおやつを……」
「はあ。え、ええ……」
レピドの様子があまりに深刻故、司祭は脱力する。
「飼い猫の「なんでお前が食べてるの?」という顔が忘れられない。我に返った後にすぐ謝ったが、何しろ相手は猫だ、許してくれたかもわからなくて……」
とはいえ罪は罪だ。レピドは眉根を寄せてきつく目を閉じているし、ゆるしは必要だ。
「ちなみに薄味ではあるがまぁまぁ美味かった……」
真面目故、しっかりと感想まで述べる。その口調にも後悔が滲んでいるものだから、司祭は真顔を保つので必死だった。
「今日までの罪を告白した。……ゆるしを、頼む」
「つつ、罪をゆるされた人はっ、幸せ、ですっ。ごあ、ご安心を……っ!」
神父は決まり文句を言い切って、ピシャリと小窓を閉じた。レピドは少々驚いたが、司祭という職業はそれほどまでに忙しいのだろうと好意的に解釈した。
「楽になった。ありがとう」
レピドは小窓の向こうに届けるようやや大きな声で礼を言って、告解室を後にする。
(それにしても、こんな場所があるんだな……)
美しい装飾がそこかしこに施され、どこまでも静謐で、あらゆるものをなんとはなしに受け入れる場所。
辺りを見回すと、様々な種族の人間がティーチベンチに座っている。
(なるほど。ここは憩いの場なのだな)
間違ってはいない。けれど正しいとも言い切れない情報をインプットして、レピドはしばし協会の中の人間を観察した。
(ベンチには自由に座って良いのだろうか?)
レピドはより多くの人間を観察できるように、最後列に腰をかける。
(この場所では大きな声を出さないのがマナー、なのだろうな)
人間観察が捗るとは言いがたいが、何かに守られているような感覚を得る。おそらく、ここに通う人間にとっては後者が重要なのだろう。
自分なりの理解をしたレピドは飼い猫へおやつを与えるべく、教会を後にした。
●
「血で汚れた手で更紗さんの保護者みたいなのをやっていると、バツの悪さというか、な……」
告解室にて、ブレイドは己の後ろ暗さを吐き出す。
「昔の話だ。絶対に声を上げさせず殺すため、幾人もの……を掻き切った」
両手のひらを見つめるブレイドに表情はない。
「けれどナイフを引くあの感覚が、死にゆく者の自分を恐れる目が、いつまでも消えなくてな」
ブレイドを振り返り、ギンと見開いた目でターゲットたちは訴えてきた。「どうして」と。
ブレイドの瞳に映らずとも、ブレイドの働きによって命を失う者だって大勢いた。
目を閉じると東雲・更紗の笑顔が浮かび、その後ろに無数の死体が、ブレイドを見つめる身体が積み上がった。
血の気を失った身体が、乾いて濁った瞳が、ブレイドの良心に何も言わず語りかける。
「傭兵稼業の人間にとってはありきたりな罪だが……」
だとしても、だからこそ、今の安息に良いのか? と疑問を投げかけてしまう。
「今日までの罪を告白した。ゆるしを……頼んだ」
ブレイドが無表情で小窓を見上げる。
「……罪をゆるされた人は幸せです。ご安心を」
司祭はブレイドに決まり文句を与えた。
(聞いてもらえるだけで少しは気が楽になるものだな……)
ブレイドは静かに扉を開いて告解室から踏み出した。ぎこちない笑顔の更紗が待ち受けている。
「ブレイドさん、遅かったですね。いえ、詮索するつもりはありませんよ、ええ」
(私に言えないような大人のお店巡りでも懺悔していたのかもしれませんし、見て見ぬふりをする情けも必要ですよね)
「……何を考えているんだ、更紗さん?」
更紗の様子がおかしい。ブレイドの懺悔中に何かがあったという感じではないが、おかしい。
「お買い物が楽しみだなと考えていますよ、ええ」
両手で広げたリーンエス王国銘菓巡りガイドを見せつけ、更紗が本来の目的へ話を戻す。
「ああ、そうだな。待たせて済まなかった」
露骨に話を逸らされたが懺悔のあとだ。詮索するのも気が引ける。ブレイドは更紗を伴い中央通路へと歩を進めた。
(あれは……!?)
ブレイドの視界に、ティボーが入った。
「……ティボーさんも懺悔に来てたのか、奇遇だな」
「こんなところで会うなんて思いませんよね、普通」
頭の後ろで手を組んだまま、ティボーが二人に顔を向ける。
(同じ傭兵上がりだ。懺悔の内容などは聞かぬが花、というものか)
(まさかティボーさんまで大人のお店巡りを……?)
あらゆる意味で言えない言葉を二人が飲み込む。
「まぁ、この前ぶりでしょうか、ティボーさん」
冷や汗をかきながら更紗がティボーに歩み寄り、ブレイドがそれに続く。
「職業体験は全員ひたすら働いてましたけどね」
ティボーが立ち上がり、教会の出入り口に視線を向ける。更紗とブレイドも意図を理解し、ティボーに続いた。
●
ティボーはブレイドを割と気に入っているだの、それにむっとする更紗だの、勘弁してくれと真顔になるブレイドだの、三人の世間話はカオスの様相を呈した。
「冗談ですよ」と笑うティボーに更紗が安堵し、ブレイドがなんとも言えない表情で押し黙った。
カオスが極まったところで話題が変わる。なぜティボーがここに来ていたのかだ。
「誕生日休暇ですよ。本当は10月だったんですけどまぁ、色々あったんで……」
「そうか、ティボーさんも10月生まれなのか」
「ブレイドさんもですか。それはおめでとうございます。では」
深入りを避けようとするティボーの背に、更紗が声をかける。
「折角ですから、一緒にお誕生日をお祝いしませんか?」
ティボーがへらりと笑いながら振り返る。
「お二人だけで祝えば良いのでは?」
示唆的な言葉に更紗の頬が熱を帯びる。
「いえ、是非三人でお祝いしましょう。その前に少々お買い物がありますので、お待たせすることにはなりますけど……」
「自分としては付いてきてくれて構わないが、ティボーさんはどうだ?」
「いえどうぞお二人で」
その言葉に更紗が小さな唇をキュッと結び、ブレイドは顎に手を当てて眉根を寄せた。
バターたっぷりのパイ生地にふわふわのクリームを挟んだミルフィーユ、このあたりでは珍しい、醤油を何度も何度も塗った炭火焼きのおせんべい。
自分たちの分のお土産をたっぷりと確保したブレイドと更紗は、ティボーへの土産選びに興じていた。
「ブレイドさんはどういうお菓子が良いと思いますか?」
「そうだな、癖がなく食べやすいものだろうか……」
ブレイドがクッキーをいくつか見繕う。更紗も良さそうなものに手を伸ばす。二人の手が触れあった。
瞬間、更紗の脳裏にティボーの言葉が蘇る。
(お二人だけで。どうぞお二人で……)
それはそういうことだが、まだ幼さの残る更紗には冷静に分析する余裕などない。
「どうした更紗さん?」
「い、いえ、なんでもありませんよ」
誤魔化すようにあれもこれもと積み上げお会計に向かおうとしてしまう。
「そんなに渡したら困惑させてしまうと思うぞ」
「……そ、そうですね。選びなおしましょうか」
ブレイドに冷静に指摘され、更紗はいくらか落ち着きを取り戻す。
手分けして商品を元の場所に戻す。改めて二人で商品を吟味して、ハトを象ったサブレを渡すことにした。
●
「とっくに過ぎているから」と言い張るティボーを言いくるめて、ブレイドと更紗は近くの飲食店へ入った。
「ブレイドさんもティボーさんも、お誕生日おめでとうございます!」
満面の笑顔の更紗が二人を祝う。ブレイドは「ありがとう」と珍しく相好を崩す。ティボーは「あざす」と申し訳なさげに頭を下げた。
(別にこの人たちが嫌いなわけじゃないんですけど……)
これデートでしょとティボーは内心思う。しかし彼らの思いやりから逃げるほど冷たくもなく。
「まずは乾杯か?」「はい、飲み物も揃いましたし、いきましょうか」「そうですね」
三人で杯を重ねる。カチリと鳴る音は実に清々しく。
リーンエス王国。とある教会の告解室。
サイラスの懺悔は炎と共にあった。
「最初のはなーんとなく、邪魔だから潰そうと思ったんで集落に火をつけました、よく燃えました。くらいだけどな。若すぎてそんな考えてないよその頃」
何のために懺悔するのか、本当にはわからない。けれどやってみないことには一生何もわからない。
「まあ復讐、くらいはあったんじゃない?」
育った村の腐った大人たちはほぼ全員死んでくれた。可哀想な奴隷仲間は埋葬した。
その時の感情については今でもはっきりとは思い出せない。感情を麻痺させて自分を保ったのかもしれない。
「次は依頼で、生き残りがいたから宿題が残ってる感覚で殺しにいきましたとさ。まあ全員は殺せなかったが、主要人物は殺したしね」
二度目の復讐について、他人事のようにからっとサイラスは言う。けれどその額には汗が滲んでいる。
「……ほーんと、お優しいよなぁあの族長様は。まさか若い子は未来があるからって保護するとはなー」
何の感情も込めずにサイラスが賛辞を口にする。
(気が付かなかった時は自分の所の餓鬼攫われても気が付かない。何あっても気にしない癖にね? 俺とかさ)
救われなかった者の悲しみを、怒りの炎を胸にしまって。
(あの村の生き残りがいることに内心苛立つ程度には人の心がない事も懺悔するべきかね?)
あの時、あの赤い炎が全て燃やしてくれさえすれば。
けれど自分から手を出すわけにもいかず、この話についてはここまでにしておく。
「あとは作ってた酒盗んだ鍛治仲間へ復讐としてそいつのお気に入りの遊女さんを奥さんへバラしたりとか、大福の餌をあんまりにも盗み食いが多いからダイエットフードにした事とか」
グルルと唸るように喉を鳴らす※狼ですを思い出し、でもそれはしょうがなくねと半分開き直りながら続ける。
「人間は使わないとはいえラスリャマスのエーテル強奪からの竜化研究してるとか、そもそも竜化を誇りとか良い物じゃなくて真面目にやってた阿呆への嫌がらせで研究してるとか?」
しれっと大胆告白を織り交ぜる。司祭が黙ってりゃヨシ!
「今思い出せるのはこのくらい、かなー。……今日までの主な罪を告白したぜー。ゆるしを頼むぞ」
どんな神にゆるしを願うのか。さっぱりわからないので決まり文句だってどうしても軽くなる。
司祭はサイラスの心に、救いを求める幼き姿を見いだした。だからこそすんなりと決まり文句を返す。
「罪をゆるされた人は幸せです。ご安心を」
ゆるされた? ゆるしを請わねばならないような罪を犯したのは……と考えてサイラスは顔を上げる。ゆるされたらここを出なくてはならない。そういうシステムだ。
「じゃあなー」
すくっと立ち上がり告解室を後にする。見上げた教会の天井には、無数の小さき神々が描かれていた。
(あの中の誰かにでもゆるされたんかね、おれ)
ゆるされずとも我が道を行く覚悟はある。けれどなんとなくのゆるしを得ることで心が軽くなるのもまた、人間である。
●
「私の懺悔は罪を背負ってない事ですよ」
セラフィナ・M・ベイリーは罪に跪く。
命を奪い食事とする。小さな約束を反故にする。うるさく飛び回る羽虫を潰す。
「人は多かれ少なかれ「罪」を背負って生きている」
悪い事を一度もした事がない聖人なんて存在するはずありませんから!
「でも私は一度死んだ時に全部忘れてしまった。償うべき罪を。背負って歩いて行かなきゃいけなかった罪を。守らなきゃいけなかった約束を。大切な思い出を」
どこかに置き去られてしまった大罪に詫びるように、セラフィナは頭を下げる。
「そんな全てを失った私が今、生きていると言えるのでしょうか?」
司祭は何も答えない。セラフィナは答えを持ち合わせていない。
身体は時を止めている。新たな命を繋ぐことはできない。この見た目を不気味に思う人間だっている。
「何で冒険者ギルドはホムンクルスを人類として認めちゃったのでしょうね」
無理矢理生み出された生命を殺すのではない、帝国の罪の証を駆除してくれれば良かったのだ。こんな、こんな種族は――。
「私は精一杯人生を楽しんでるふりをしながら生きるしかないのですよ。自分の存在意義のギルドの依頼をこなしながら、第二の生を謳歌してます! って笑いながら」
セラフィナの弁には熱量が存在する。触れた相手を燃やし尽くすほどの、痛みを持つ熱が。
「フフフフフ、滑稽で笑っちゃうでしょう?」
セラフィナは顔を上げて小窓の向こうの司祭を見ると、ちっとも楽しくなさそうに笑った。
「範囲攻撃で敵を蹂躙してる時は、結構気分爽快なんですよ」
右眼の賢者の石から血の涙が流れているようにすら思える。
「以上が私の、今日までの罪、ですね」
しばし待った。それでもゆるしを求めないセラフィナに、司祭は「一日一日を生きてゆけば、貴方に罪は降り注ぎます」と声をかけた。
「そして罪をゆるされた人は幸せです。ご安心を」
これから罪が積み上がったとして、それはセラフィナが求めている罪ではない。それでもその言葉に思いやりを感じたから、セラフィナは無言で告解室を出た。
(輝いていますね)
ステンドグラスから注ぐ七色の光が、セラフィナの視界にも入った。そしてその光を眺めているティボーも。
「いいなぁ」
不意に、口から零れた。後悔を背負っている。ティボーはそんな横顔をしている。
「貴方はちゃんと生きてるのですね」
ティボーがチラリとセラフィナを見た。なぜ切なげな表情でこちらを見るのか、ティボーには全く理解できない。けれど咎める理由もないのでステンドグラスに視線を戻す。
セラフィナはステンドグラスへ背を向け中央通路を出入り口へと歩んだ。いつか自分もあちら側になるのかもしれない。
けれど今は自分に似合わない教会から抜け出すべきだと歩を進めた。
●
「例えば過去に罪を犯したとして。それで死刑になったとする。普通はそこで終わりだが……もしも生き返るようなことがあったとしたら、その罪はどうなるのだろう」
レピド・クロサイトはあえて他人事のように尋ねる。
「刑の執行がゆるしの条件であれば、執行された時点で罪へのゆるしは与えられた。私はそう考えます」
思いやりはあれど熱はない。返ってきたのは如何にもゆるすための存在らしい言葉だった。
レピドにとって自分の罪は現在も自分の中に存在する。
「……そういう考え方もあるんだな」
それでもレピドは司祭の考え方を他者の思考として吸収した。
「今日は過去の罪ではなく、現在の俺の罪を告白する」
あまりに重い問いを投げかけたレピドだ。その罪はいかほどのものかと司祭の心に僅かな緊張が生ずる。
「俺は……その、好奇心に負けてしまって……」
歯切れが悪い。強い罪の意識により、そういった状態に陥る人間を幾千と見てきた神父は努めて平静を装った。
「食べてしまったんだ……飼い猫のおやつを……」
「はあ。え、ええ……」
レピドの様子があまりに深刻故、司祭は脱力する。
「飼い猫の「なんでお前が食べてるの?」という顔が忘れられない。我に返った後にすぐ謝ったが、何しろ相手は猫だ、許してくれたかもわからなくて……」
とはいえ罪は罪だ。レピドは眉根を寄せてきつく目を閉じているし、ゆるしは必要だ。
「ちなみに薄味ではあるがまぁまぁ美味かった……」
真面目故、しっかりと感想まで述べる。その口調にも後悔が滲んでいるものだから、司祭は真顔を保つので必死だった。
「今日までの罪を告白した。……ゆるしを、頼む」
「つつ、罪をゆるされた人はっ、幸せ、ですっ。ごあ、ご安心を……っ!」
神父は決まり文句を言い切って、ピシャリと小窓を閉じた。レピドは少々驚いたが、司祭という職業はそれほどまでに忙しいのだろうと好意的に解釈した。
「楽になった。ありがとう」
レピドは小窓の向こうに届けるようやや大きな声で礼を言って、告解室を後にする。
(それにしても、こんな場所があるんだな……)
美しい装飾がそこかしこに施され、どこまでも静謐で、あらゆるものをなんとはなしに受け入れる場所。
辺りを見回すと、様々な種族の人間がティーチベンチに座っている。
(なるほど。ここは憩いの場なのだな)
間違ってはいない。けれど正しいとも言い切れない情報をインプットして、レピドはしばし協会の中の人間を観察した。
(ベンチには自由に座って良いのだろうか?)
レピドはより多くの人間を観察できるように、最後列に腰をかける。
(この場所では大きな声を出さないのがマナー、なのだろうな)
人間観察が捗るとは言いがたいが、何かに守られているような感覚を得る。おそらく、ここに通う人間にとっては後者が重要なのだろう。
自分なりの理解をしたレピドは飼い猫へおやつを与えるべく、教会を後にした。
●
「血で汚れた手で更紗さんの保護者みたいなのをやっていると、バツの悪さというか、な……」
告解室にて、ブレイドは己の後ろ暗さを吐き出す。
「昔の話だ。絶対に声を上げさせず殺すため、幾人もの……を掻き切った」
両手のひらを見つめるブレイドに表情はない。
「けれどナイフを引くあの感覚が、死にゆく者の自分を恐れる目が、いつまでも消えなくてな」
ブレイドを振り返り、ギンと見開いた目でターゲットたちは訴えてきた。「どうして」と。
ブレイドの瞳に映らずとも、ブレイドの働きによって命を失う者だって大勢いた。
目を閉じると東雲・更紗の笑顔が浮かび、その後ろに無数の死体が、ブレイドを見つめる身体が積み上がった。
血の気を失った身体が、乾いて濁った瞳が、ブレイドの良心に何も言わず語りかける。
「傭兵稼業の人間にとってはありきたりな罪だが……」
だとしても、だからこそ、今の安息に良いのか? と疑問を投げかけてしまう。
「今日までの罪を告白した。ゆるしを……頼んだ」
ブレイドが無表情で小窓を見上げる。
「……罪をゆるされた人は幸せです。ご安心を」
司祭はブレイドに決まり文句を与えた。
(聞いてもらえるだけで少しは気が楽になるものだな……)
ブレイドは静かに扉を開いて告解室から踏み出した。ぎこちない笑顔の更紗が待ち受けている。
「ブレイドさん、遅かったですね。いえ、詮索するつもりはありませんよ、ええ」
(私に言えないような大人のお店巡りでも懺悔していたのかもしれませんし、見て見ぬふりをする情けも必要ですよね)
「……何を考えているんだ、更紗さん?」
更紗の様子がおかしい。ブレイドの懺悔中に何かがあったという感じではないが、おかしい。
「お買い物が楽しみだなと考えていますよ、ええ」
両手で広げたリーンエス王国銘菓巡りガイドを見せつけ、更紗が本来の目的へ話を戻す。
「ああ、そうだな。待たせて済まなかった」
露骨に話を逸らされたが懺悔のあとだ。詮索するのも気が引ける。ブレイドは更紗を伴い中央通路へと歩を進めた。
(あれは……!?)
ブレイドの視界に、ティボーが入った。
「……ティボーさんも懺悔に来てたのか、奇遇だな」
「こんなところで会うなんて思いませんよね、普通」
頭の後ろで手を組んだまま、ティボーが二人に顔を向ける。
(同じ傭兵上がりだ。懺悔の内容などは聞かぬが花、というものか)
(まさかティボーさんまで大人のお店巡りを……?)
あらゆる意味で言えない言葉を二人が飲み込む。
「まぁ、この前ぶりでしょうか、ティボーさん」
冷や汗をかきながら更紗がティボーに歩み寄り、ブレイドがそれに続く。
「職業体験は全員ひたすら働いてましたけどね」
ティボーが立ち上がり、教会の出入り口に視線を向ける。更紗とブレイドも意図を理解し、ティボーに続いた。
●
ティボーはブレイドを割と気に入っているだの、それにむっとする更紗だの、勘弁してくれと真顔になるブレイドだの、三人の世間話はカオスの様相を呈した。
「冗談ですよ」と笑うティボーに更紗が安堵し、ブレイドがなんとも言えない表情で押し黙った。
カオスが極まったところで話題が変わる。なぜティボーがここに来ていたのかだ。
「誕生日休暇ですよ。本当は10月だったんですけどまぁ、色々あったんで……」
「そうか、ティボーさんも10月生まれなのか」
「ブレイドさんもですか。それはおめでとうございます。では」
深入りを避けようとするティボーの背に、更紗が声をかける。
「折角ですから、一緒にお誕生日をお祝いしませんか?」
ティボーがへらりと笑いながら振り返る。
「お二人だけで祝えば良いのでは?」
示唆的な言葉に更紗の頬が熱を帯びる。
「いえ、是非三人でお祝いしましょう。その前に少々お買い物がありますので、お待たせすることにはなりますけど……」
「自分としては付いてきてくれて構わないが、ティボーさんはどうだ?」
「いえどうぞお二人で」
その言葉に更紗が小さな唇をキュッと結び、ブレイドは顎に手を当てて眉根を寄せた。
バターたっぷりのパイ生地にふわふわのクリームを挟んだミルフィーユ、このあたりでは珍しい、醤油を何度も何度も塗った炭火焼きのおせんべい。
自分たちの分のお土産をたっぷりと確保したブレイドと更紗は、ティボーへの土産選びに興じていた。
「ブレイドさんはどういうお菓子が良いと思いますか?」
「そうだな、癖がなく食べやすいものだろうか……」
ブレイドがクッキーをいくつか見繕う。更紗も良さそうなものに手を伸ばす。二人の手が触れあった。
瞬間、更紗の脳裏にティボーの言葉が蘇る。
(お二人だけで。どうぞお二人で……)
それはそういうことだが、まだ幼さの残る更紗には冷静に分析する余裕などない。
「どうした更紗さん?」
「い、いえ、なんでもありませんよ」
誤魔化すようにあれもこれもと積み上げお会計に向かおうとしてしまう。
「そんなに渡したら困惑させてしまうと思うぞ」
「……そ、そうですね。選びなおしましょうか」
ブレイドに冷静に指摘され、更紗はいくらか落ち着きを取り戻す。
手分けして商品を元の場所に戻す。改めて二人で商品を吟味して、ハトを象ったサブレを渡すことにした。
●
「とっくに過ぎているから」と言い張るティボーを言いくるめて、ブレイドと更紗は近くの飲食店へ入った。
「ブレイドさんもティボーさんも、お誕生日おめでとうございます!」
満面の笑顔の更紗が二人を祝う。ブレイドは「ありがとう」と珍しく相好を崩す。ティボーは「あざす」と申し訳なさげに頭を下げた。
(別にこの人たちが嫌いなわけじゃないんですけど……)
これデートでしょとティボーは内心思う。しかし彼らの思いやりから逃げるほど冷たくもなく。
「まずは乾杯か?」「はい、飲み物も揃いましたし、いきましょうか」「そうですね」
三人で杯を重ねる。カチリと鳴る音は実に清々しく。
マスターコメント
お届けまでお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした!
ご参加いただきありがとうございます!
これといって問題も発生しなかったため、大成功となります。
ご参加いただいた皆様に称号を差し上げます。どうぞご利用くださいませ。
ティボーも祝っていただけて悪い気はしていません。お土産は家族で美味しくいただきました。
ティボーをお祝いいただきありがとうございました!
改めて、ご参加いただきありがとうございました!
ショートシナリオ易しい 報酬:無し5 / 4〜10人
2022年12月08日 01時48分14秒 公開
大成功
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