青玉の猟犬

コースケ

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シナリオID:2509

オープニング

●覚醒
 これまでの彼は平凡だった。獲物を狩り、番を見つけ、子を成す他の個体と変わらない生活を送っていた。
 ひとつだけ他と違う点を上げるなら、彼の鎧の色が青玉(サファイア)を思わせる輝きを放っている事だった。

 ある時、彼は災厄に巻き込まれた。
 人間達が『辺獄戦役』と呼ぶ騒動の余波により、シグモル火山帯にあった彼の縄張りは濃密な澱(エーテル)溜まりと重なり、彼もそれに呑み込まれ多量の澱を取り込むことになったのである。
 魔獣として澱に耐性のあった彼だったが、濃すぎる澱に内側から蝕まれ、身体中の孔から血を噴き出し痛みにのたうち回った。

 一晩か、数日か、数週間か。
 気が付けば痛みはやわらぎ、彼はふらつきながら身を起こす。辺りには他の魔獣の死骸が転がり、動くものは他に無い。
 酷い空腹を覚え、彼は死骸のひとつに喰らいついた。澱によりズタズタになっていた消化器官が悲鳴を上げるにも構わずそれを平らげ、次の死骸に噛り付く。
 その死骸は人のものであり、頭部に赤色の石が付いていたが、彼は構わずそれを噛み砕き飲み下した。

 覚醒してからの彼は辺獄をさ迷い、魔獣や鉱石、時には這者(クリーパー)をも喰らい飢えを満たす。
 その体内には濃密な澱が巡っており、体躯は急激に成長し、知恵も飛躍的に向上していた。


●学習
 その後、彼は獲物を求めて入り込んだ裂け目の先で黒い這者と遭遇した。

(喰われる)

 それが自分の力を大きく越えることを理解した彼は、その場を逃げ出し、以降はその這者を避け行動する様になった。
 それから暫くして、彼は驚くべき光景を目にする。黒這者や自分に及ばぬと思っていたひ弱な立って歩く猿(にんげん)が、黒這者を撃退したのである。

(あれはそんなに恐ろしい生き物だったのか)

 個の力では自分にも及ばないが、群れとなると恐ろしい程の粘りを見せた。
 道具や澱を扱えば煩わしいと思ったこともあったが、群れの者達が役割に付き、それを全うすれば何倍もの力の差を覆す事が出来る生き物とは思ってもいなかったのである。

(恐ろしい。恐ろしい)

 彼にとって同種とは、子を成すとき以外は縄張りを脅かす敵でしかなかった。
 群れることなどなく、力を合わせて狩りをする事もない。何より、今の自分と肩を並べる事の出来る同種など何処にも居ないだろう。それが何よりも恐ろしく、胸が締め付けられる謎の焦燥感を伴って彼を襲う。

(生きねば。死にたくない。どうすれば)

 彼は澱による隠形で身を隠しつつ、驚異として認識した人間達を観察するのだった。


●青玉の猟犬(サピラ)
「ば、化け物!?」
「は、早く中に入れ! あの図体じゃ入っては来れねえ筈だ!」

 鉱夫達が鉱石を投げ出し、ほうほうの体で坑道に駆け込む。
 ふと見上げた坂の上に巨大な影を見付けて居なければ、今ごろどうなっていたか考えるだけでぞっとする。

「あいつ、いったい何なんだよ……?」
「俺、聞いたことがある。山のようにでけぇアーマーハウンドを見た奴がが居るって……。そんなのが居るわけねぇって笑ったけど、左右の目の色が違う青い奴って言ってたから間違いねぇ……。確かサピラって呼ばれてた筈だ……」

 震える鉱夫達が眺める先で、サピラは辺りの様子を伺いながら降りてくると、坑道の入り口付近に積み上げられた鉱石を貪り始める。

「ダマスカスを食ってやがる……」
「あれが無くなれば次は俺達の番じゃねぇか……?」
「縁起でもねぇ事を言うな! 坑道の奥に潜んで助けを待つんだ。俺達が帰らなけりゃ、心配して誰か見に来てくれる。事態に気付けば助けを読んでくれる筈だからそれまで耐えるんだ!」


「何だこれは……魔獣か?」
「上を見ろ。吊禿鷲(ハンギングヴァルチャー)も居る。何かあったに違いないぞ……」
「あそこに見えるのはアーマーハウンドだな。普段はここに居ない魔獣達が何故……」

 翌日になり、様子を見に来た関係者は採掘場に行く途中で巨大な魔獣の足跡を目にし、鉱夫達に何かあったと判断して至急冒険者へ救出依頼が出されるのだった。

解説

解説 シグモル火山帯のダマスカス鉱石採掘場に、サピラと名付けられたアーマーハウンドの特異個体が現れ、坑道の入り口に陣取り鉱夫が閉じ込められました。 また、サピラのお零れを狙ってか他のアーマーハウンド等の魔獣が集まっています。 ●依頼内容 鉱夫5人の救出。サピラ含む魔獣の討伐は必須ではありません。 ●状況 シグモル火山帯のダマスカス鉱石採掘場。新しい採掘場のため、坑道は短く他の出入口はありません。 入り口から約200mほど離れたところに通気孔がありますが、付近に他の魔獣が居ます。 ※通気孔に入る場合、狭さから隠蔽が10を越える装備を身に付けての進入は出来ないものとします。これは装備の中で最大のものを参照します。 採掘場周辺は岩場になっており、岩陰など身を隠す場所は多くあります。 ●鉱夫達 一般人です。 坑道に避難してまだ日数は経っていません。 ●魔獣 【アーマーハウンド】 鉱質を鎧のように身に纏う狼型の魔獣。 通常の同種は最大全長5m程とされ、見た目通りの堅牢さと俊敏さ、重量。更にそれらを支える強靭な四肢より繰り出される爪と鉱石をも噛み砕く牙は非常に強力で、シグモルでは中堅の冒険者が見る関門の一つとして数えられる。 ・二回攻撃……一度のメインアクションで噛み付きと引っ掻き、もしくは2回の引っ掻きによる攻撃を行う。 ・噛み付き……【物防減:50%】を伴う近接攻撃。 ・引っ掻き……【吹飛:5】を伴う近接攻撃 ・鋭敏感覚……嗅覚を始め鋭い感覚を持つ 特異個体化しているサピラは通常のアーマーハウンドの倍以上の体躯を持ち、その枠を大きく越える能力を得ている。更に追加の特殊能力を得ている可能性が高い。 通常のアーマーハウンドは3頭目撃されており、サピラから離れた場所を単独で行動している。 【ハンギングヴァルチャー】 灰色の羽の翼長4mほどの猛禽魔獣が二羽。 通常は他の魔獣の食べ残しを漁る掃除屋だが、人間サイズの獲物なら自力で狩る事もある。生息域は他所だが、サピラの食べ残しを狙って来た模様。 ・吊り上げる&落下 高度2(上空40m)からメインアクションで狙いを付け、次の行動で急降下して対象を爪に引っ掛け、上昇した後離して地面に落下させます。 これを受けると60点(岩場なのでダメージ増加しています)のダメージを受け、衝撃で直後の行動が出来なくなる。また、このダメージは防具による減衰は適用されない。 爪を避けるか、抵抗判定に成功する事で回避可能。

マスターより

お世話になっております。コースケです。 『イレギュラーに出会ったら、どうしますか?』 というリクエストで、非常に強力な魔獣の特異個体との遭遇になる救出シナリオです。 オープニングの殆どはPL情報ですので、救出に向かった先でサピラと遭遇することになりますが、いきなりの遭遇戦となるか、隠密行動で偵察した上で状況に合わせた作戦を取るか、最初から足跡の主を警戒して通気孔からの救出を試みる等工夫は出来るので色々と考えてみてください。 ただし、体長10m越えの魔獣は非常に強力ですし、更に特異個体でもあるのでご注意を。 オープニングと解説で分からない事があれば、「ヤバイ予感がする」と坑道に近付きたくないオッターが回答します。 それでは、よろしければご参加お願いいたします!

リプレイ

●火山の痕跡
「これが依頼主の言っていた足跡か?」

 鋭い感覚と射手としての経験による予測に、孤高者の宗波(スキル)も合わせ周囲を警戒していたセリオス・オーガストが発見したのは、巨大な窪みだった。
 風に晒され輪郭が曖昧な部分があるが、その幅は長身のセリオスを優に超えており、先端に爪の痕がある。
 セリオスと先行していた海神(うみがみ) 江流(える)がしゃがみこみ、窪みの縁を指でなぞる。

「大きいな……。アーマーハウンドというのはここまで大きくなるのかい?」
「ハウンドは知っているけど……こんな足跡は見たことないわ」

 江流の質問を受け、シグモル火山帯出身の神官ロゼットが自信なさげに首を振る。
 火山帯の武装集団である【神徒】の一員として様々な脅威に対処した経験のあるロゼットから見ても、このサイズの足跡を目にするのは初めてだった。

「これはアーマーハウンドのもので間違いないのですね?」
「そうね……、私の知るシグモルの魔獣の中ではアーマーハウンドの足跡に一番近いと思う。ただ、ハウンドはもっと緑の多い所に生息してるし、何より足跡が大き過ぎるから断言は出来ないわ」

 Alexandra(アレクサンドラ)・Hexe(ヘクス)・Claudia(クラウディア)も足跡を調べながらロゼットに確認し、ロゼットはまた曖昧な答えを返す。

「てかよ、魔獣なんだからデカくなるもんじゃねーの? ンな事より鉱夫の救助を急いだ方がよくねえか?」

 そこへ、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが移動を提案する。彼の言う通り、遅れればそれだけ鉱夫に危険が及ぶ可能性もある。

「確かに足を止めている暇はありませんね。ですが、要因を識らねば再発する可能性や、もっと大きな事件となった時に対応が遅れる可能性があるでしょう。思索を止めるべきでは無いかと」
「私も魔獣の事は気になってる」

 抱く懸念を口にするAlexandraに、友人であるコハクも魔獣への関心を口にする。

「どちらに、しても……いそぐのがいい、と……思います。いやなにおい、が……します、から……」

 ミゼリア・L・ステュクスが、先を見つめて無表情に呟く。彼女の鋭敏な鼻が何かを感じ取ったらしい。
 その言葉に従い先を進むと、再び先行し警戒をしていたセリオスと江流が合図を送っているのが見えた。それに従い極力音を立てぬよう近付き岩陰から覗くと、坑道の前に陣取る巨大な魔獣の姿があった。


●特異個体
「確かにハウンドだわ。でも、ここまで大きいなんて……」

 ロゼットが息を飲む。青い鉱質を鎧のように纏ったアーマーハウンドは、彼女が知るそれの倍以上の巨躯だった。

「あのデカさの魔獣をこの人数で相手するのはキツそーだな」
「ああ。依頼は救出だ。無理に退治する必要は無いだろう」
「でも、こうふのひと……とじこめられてる……かも、しれません」
「そうね。あの巨体なら坑道へは入れないでしょうし、逃れるために中に避難してる可能性は高いと思うわ」
「俺とオーガストさんで調べたけど、ここからじゃ距離があって坑道の奥までは宗波も届かなかったよ。けれど、俺も鉱夫は中に居ると思う」

 一行は話し合った結果、先にあるという通気孔から坑道への進入を試みることになった。


「それでは、救助はお任せします」
「ん。気をつけて」
「そちら、も……気をつけて、ください……」
「ヤバくなれば合図してくれ。すぐ駆け付けっからよ!」

 Alexandraとコハクは魔獣を観察する為に残り、コハクとミゼリアが互いに警戒を呼び掛ける。ハヤトは自分の腿をぴしゃりと叩いてアピールし、依頼主から聞いた通気孔へ向かって歩き出した。


●救助
「おい、無事か?」
「救助に来たよ。なるべく物音立てずに引き上げようか?」

 通気孔から進入したハヤトと江流は、坑道の奥で横たわっている鉱夫達を発見し声をかける。

「おお、あんた達が救助の者か?」
「助かった。外の魔獣は退治したのか?」

 鉱夫達は起き上がり、喜びの声を上げようとして江流に制される。聞けば、助けが来るまで体力温存のためじっとしていたらしい。

「入口にデカい魔獣が陣取ってるから通気孔から来たんだ。外に仲間も待ってるから気付かれない内にずらかろうぜ」
「ロープを下ろして貰ってるからそれを使うといい。怪我があるなら癒す(ヒール)から今の内に言って欲しい」

 二人は鉱夫に手を貸しながら通気孔を登り、仲間と合流する。だが、上空には二羽の吊禿鷲(ハンギングヴァルチャー)の姿があり、斜面の上下二方向からそれぞれ一頭ずつのアーマーハウンドが迫ってくる所だった。

「ヒエェ、他にも居やがったのか!」
「すぐに仕止める。孔に潜って身を潜めていろ」

 いち早く魔獣の襲撃を察知していたセリオスの言葉に従い、鉱夫達が通気孔に潜り込む。
 セリオスが放った矢が爆散して濃密な煙幕を撒き散らしてヴァルチャーを牽制し、ミゼリアが漆黒のエーテルを腕に纏わせ前に出た。

「俺達も行くぜ!」
「了解。上は引き受けるから下を任せていいかな」
「任せとけ!!」

 ハヤトと江流もそれぞれの獲物を定めると前に出る。

「皆、ここで退治してしまいましょう!」

 ロゼットがダマスカス鋼の祭棍を構えて呼び掛ける。思わぬ遭遇戦になったが、鉱夫達が隠れる孔がある場所での戦闘であることは幸いとも言える。
 ロゼットの言葉に頷いた一行は、得物を構えて襲撃に備えた。


●サピラ
 坑道の入口に陣取ったサピラは、時折ダマスカスの鉱石を口にする他は目立った動きはない。

「そんなにお腹が減ってるのかな」
「ですが、あの肉体を維持するのに主食が鉱石では難しいような。動植物に恵まれた立地でもなし……他の魔獣も含めてこの場に集結した理由は何でしょうか……?」

 鉱石を貪るサピラを眺めながらお腹に手をやるコハクに、Alexandraは疑問を口にする。
 当初から魔獣騒ぎにしては動向が静か過ぎると感じていたのだが、予想以上に事態は不可解な事が多い。

(あの巨体を維持するための獲物を必要とするなら、他所で家畜や人を襲っていても不思議ではない。だが、付近でそういう事件が起きているなら、関係する可能性としてギルドから何らかの情報がある筈だがそれも無く、更にここにもその痕跡は無い……)

 黙考しながら坑道の周囲を確認する。そこには戦闘の形跡どころか、血痕も見当たらない。別の場所で鉱夫を襲った可能性もあるが、それならサピラがここに留まる理由は何だろうか。


(あの子も故郷を追われたのかな……?)

 思考に沈むAlexandraの邪魔をしないようにしながら、コハクもサピラを観察する。
 狼のハーフビーストであり、帝国崩壊時に故郷を失った彼女はサピラに親近感のようなものを覚えていた。加えて左右別々の輝きを放つ瞳も、色は違えど共通していた。

(キミも特別な魔獣だったりするの……?)

 そんな事を考えていたコハクの紅玉、黄玉の瞳と、サピラの青玉、黄玉の瞳の視線が一瞬、交差する。

「!? アレク。いま目が合った。あの様子だと、多分ずっと前から気付かれてる」
「想定以上に感覚が鋭い様ですね」

 此方が感付いたことも分かっているのだろう。サピラは身を起こし、ゆっくりと此方へ近付いて来る。青黄の瞳が、二人をじっと見据えていた。


●猟犬と禿鷲
「うるぁっ! 邪魔しやがるなら返り討ちにしてやんぜ!!」

 ハヤトの蹴りがアーマーハウンドの顔面に炸裂し、血と鉱質が飛び散る。

『ゴァッ!』

 だが、ハウンドはそれを物ともせずハヤトを捕らえようと爪牙を剥く。それをハヤトは危なげなく躱し、爪に弾かれた岩が転がるのを横目に距離を取る。

「デカいだけあって硬くてタフだな。重装備のウォーリア相手にしてるみてーだぜ」
「同感だね。出来れば集中して一体ずつ倒したいけど、この状況じゃ難しそうだ」

 同じく後退してきた江流も背中合わせに同意を示す。シーフである二人にとってタフなアーマーハウンドの相手は相性が悪く、長期戦となり運悪く攻撃を避け損ねるような事があれば深傷を負いかねない。
 とは言え、帝国崩壊後に頭角を表したシーフの中でも上位の実力を持つハヤトと江流は、ハウンドの防御を上回る斬撃を繰り出し、確実にダメージを積み重ねていた。

「一体を止めれば良いのね? なら、私に任せて!」
「わたし、も……てつだい、ます……」

 江流の言葉にロゼットが反応し、ミゼリアも協力を申し出る。二人は何度もハウンドの爪で弾きとばされて中々思うように動けずにいたため、現状を打開すべく考えを巡らせていたのだ。
 ロゼットはハウンドの一体へ向き直ると、マトリクス界と交信し、偉大なる存在へ助力を願う。

「光よ戒めの鎖となれ!」

 ロゼットの声に応えた存在により、地中から光の鎖が飛び出し、ハウンドの動きを止めんと身体に巻き付き縛り上げる!

「ヒュウ、派手な技持ってんじゃねえか!」

 ハヤトが口笛を吹いて喝采を上げるが、ロゼットの表情は思わしくない。

「!? ごめんなさい、押さえるには力が……」

 見ると、鎖は身体に食い込むほどにハウンドに絡み付いているが、その巨体の動きを止めるには本数が足りていない。

「いや十分だ! 江流はもう一体を止めてくれ! セリオスは引き続きヴァルチャーを頼む!」
「了解した」
「引き受けた!」

 セリオスは短く同意すると、エーテルを込め威力を高めた矢でヴァルチャーを射貫く! セリオスもまた上位のシューターであり、これまでも彼がいなければヴァルチャーによって撹乱を受け、冒険者達は苦戦を強いられて居ただろう。
 江流ももう一体のハウンドに駆け寄ると、逆手に持った短刀【囃子】を振り抜き、肉体を蝕むエーテルを流し込んでその動きを鈍らせる。


「これでも喰らいやがれ!」
『ガッ!?』

 仲間に合図したハヤトの閃光塗弾が眼前で炸裂し、鎖に縛られたハウンドが視界を奪われる。

「これも、受けて……?」

 その隙を突き、ミゼリアは漆黒のエーテルを靡かせながら一気に距離を詰め、香水を鼻先にぶちまける!
 視覚だけでなく嗅覚まで狂わされたハウンドは、前足で顔面を掻くように擦るが、しばらくは感覚が戻らないだろう。

「良し、江流の所に行くぞ! こっちはミゼリアに頼めるか!?」
「わかり、ました……。ぜったい、通しません……!」

 漆黒のエーテルを揺らめかせハウンドの足止めに立つミゼリアを残し、ハヤトとロゼットが江流の加勢に走った。


「待たせたな!」
『ギャンッ!』

 飛び込んできたハヤトにより新たに三本の裂傷が加わり、アーマーハウンドは悲鳴を上げる。
 これで勝敗は決したと言っても良い。岩や斜面も地面と同じく足場にし、立体的に動き回るハヤトに撹乱され、ハウンドは攻撃の狙いを絞れず、加えて江流のエーテルによって蝕まれた身体は攻撃の精度も低下し、ロゼットも攻撃を躱す事に成功していた。
 更に、二人の連撃の間に放たれるロゼットの物魔撃(エーテルブロー)は、自慢の鎧など無いかの様に身体を打ち、遂にハウンドは身体を貫かれ絶命するのだった。


「さよう、なら……」

 ミゼリアは掲げた漆黒の処刑剣を振り下ろし、残ったアーマーハウンドの命を刈り取る。戻ってきたハヤトにロゼット、江流も加わった事で、遂にハウンドを倒すことが出来たのだ!
 その身体には多数の裂傷が加わり、褐色の肌に紛れているが痣も出来ていた。
 それでも平然としているのは、痛覚遮断(ペインキル)の上に彼女の尋常でない生命力故である。

「大丈夫? すぐに癒すわ」
「ありが、とう……ござい、ます……」

 その傷にロゼットが顔を曇らせるが、ミゼリアは鉱夫達が出てくるのを眺めていた。

(よかった……)


(あちらも仕止めたか)

 竜骨の強弓を構えたセリオスは、倒れるハウンドを横目に引き絞った弓から矢を放つ。それは遂にハンギングヴァルチャーを射ち落とす事に成功する。

(あれは無理だな……)

 狙いを付け降下する予兆が見える方に矢を放つしかなく、片方に攻撃を集中できなかったため半端に傷付けたままになってしまったヴァルチャーが飛び去ってゆく。
 狩人として半矢の獲物を逃がすのは忸怩たる思いだったが、鉱夫を無事に連れ帰らなければならないため諦めるしか無いだろう。
 あの巨大なハウンドが残っている以上、余力は残しておかねばなるまい。そう考え、セリオスは構えた弓を下ろすのだった。


●恐れ
「コハクさん、貴女の足なら仲間と合流できます。行って下さい」
「駄目。私が足止めするからアレクが下がって」
「……エルフもどき一体の為に命を賭けることも無いでしょうに」

 迫る魔獣を前にしても互いに引く気は無く、その間にもサピラは眼前に迫っていた。その足がピタリと止まり、青黄の瞳が二人をじっと見下ろす。

「襲って来ないね……?」
「こちらを観察している?」

 サピラが止まっているのは、魔法の射程の一歩外だった。一歩踏み出せば届く距離ではあるが、その動きを見せた瞬間、あちらも踏み込んで来るだろう。

「背中を見せれば襲って来るかな」
「恐らく。目を逸らさないで下さい。刺激するのも危険です」

 コハクの問いに、Alexandraも視線を逸らさず答える。

(この魔獣は魔法の射程を知っている……? 何処かでそれを学習したか。しかし、何故そこで止まるのか。あの巨体なら一撃受けても倒れる事なく此方を粉砕出来る筈なのに)

 サピラはAlexandraの視線を受け、サピラの視線が僅かに逸れる。それを察したAlexandraは、『もしや……』と考えコハクに声をかける。

「コハクさん、これから私がやることに驚かず、黙って見ていて貰えますか」
「? ……分かった。アレクを信じる」
「感謝を」

 Alexandraは指笛でサピラの注意を引くと、蒼玉鋼の霊刀を手放し丸腰で一歩踏み出した。

「!?」

 止めようとするコハクを手で制し、更に一歩、また一歩とサピラに向かって行く。

『グルル……』

 サピラは身を低くし、牙を剥き出し唸りを上げるが、それ以上の動きに出ることは無く、Alexandraに気圧されている風にも見えた。

「やはり怯えていたのですね。此方から危害を与えるつもりはありません。何に怯えているのか教えて貰えますか?」
「! アレクッ!?」

 動物交感(エーテル)による接触を試みようと手を伸ばしたAlexandraに、サピラの動きを察知したコハクが声を上げる。

『グルァッ!』

 だが、サピラは一声吠えて後ずさると、踵を返して駆け出し、あっという間に岩山の向こうへと姿を消して行った。

「大丈夫? 噛まれてない?」
「はい。ありがとうございます。……しかし、思った以上に警戒心がありましたが、見た目程の脅威は無いかもしれませんね」

 そう呟き、Alexandraはサピラが消えた岩山を眺めた。


●結末
 鉱夫達を保護し、合流した冒険者達は冒険者ギルドに戻ると青玉の猟犬について報告し、事態を重く見たギルドは【神徒】と共に付近の魔獣討伐を行うこととなった。
 それにより多くの魔獣が討伐されたが、青玉の猟犬については足跡以外の痕跡は発見されず、その行方は不明なままとなっている。

マスターコメント

お待たせいたしました。 初のEXC関連のリクエストシナリオということで色々考えてみたのですが、いかがでしたでしょうか。 魔獣との戦闘については格下相手とはいえ相性とハウンドの特殊能力に苦しめられ、予想外の苦戦をする内容となりました。とはいえ、無事に救助は出来ているため成功となっております。 解釈違いなどなく、リプレイ楽しんでいただければ幸いです。 ご参加、ありがとうございました!
ショートシナリオR

ショートシナリオR難しい 報酬:標準7 / 4〜8人

2022年10月26日 09時34分38秒 公開

成功

相談掲示板

  1. Alexandra・Hexe・Claudia

    キャスター、クラウディアです。よしなに。 ―あの、依頼参加にあたり確認したいことが。 Q,アーマーハウンド・サピラについて、ギルドでの知名度はどの程度か? 現場の民間人が、当該個体について噂を口にしている というのが気になりまして。 この噂が、[あくまで民間人のみのごくローカルな話題]なのか、[ギルドでも認知のある情報]なのかで事情がいくらか変わってきます。 ―尤も、依頼行動開始時点では「魔獣が現場にいる?」程度の情報でしょうから…落とし込みは別途行動を挟むこととなりそうです。

  2. オッター

    おはよう。回答させてもらうぜ。 Q,アーマーハウンド・サピラについて、ギルドでの知名度はどの程度か? A,シグモル火山帯の冒険者ギルドで噂になっている程度だ。 目撃者はいるが規格外のサイズだし、なかなか信じられてないってところだな。

  3. Alexandra・Hexe・Claudia

    あくまでも噂は噂、か…わかりました。 さて、盤面の方ですが…んん。 主観ですとだいぶ動かしづらい印象を受けます。 坑道を目の前に大型魔獣が鎮座、周囲をほかの魔獣がうろついている… ―見方によっては、大型の存在が周囲の魔獣を牽制しているようにも。 下手に大型と交戦するよりは、他の魔獣や避難中の鉱夫への対処を優先して行うのが吉かな というのが現状の考えです。 具体的な行動は…すみません、人数も足らない中であれこれというわけにも。

  4. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。これでまず人数は成立ね。 シグモル火山帯からの依頼を受けて、参加したわ。 >目的 仮に8人枠が埋まっても、鉱夫5人の保護と 特異個体を含めた魔獣の撃破を両方こなすのは大変そう。 鉱夫の救出に絞った方が良いと思うわ。 >魔獣まとめ 特異個体サピラ1体:鉱山入口前で鉱石を食事中 アーマーハウンド3体:サピラから離れた場所を行動中 ハンギングヴァルチャー2体:現場上空で行動中 >方針&課題案 ・岩場に隠れての敵数と状況の観察 ・通風孔からの侵入(装備の遮蔽値制限あり)と救出作業 ・救出作業中の魔獣による襲撃への対応方法 ・特異個体サピラに察知された場合の時間稼ぎor足止め方法 ざくっとまとめるなら、こんな感じかしら。 救出作業の安全のために、ヴァルチャーを先に叩く手もあるけど 戦闘の音や血の匂いで、サピラやハウンドを呼び寄せてしまう 危険もあるから、動くなら短期で、一気に始めた方が良いかしら? >自分にできること 通風孔への侵入、私は可能よ。ただ役割にはこだわらないわ。 ハウンドの相手か、「魔矢」は撃てるからヴァルチャー相手も。 あと巨大なサピラには、たぶん『光縛封』は入りきらないわね。 BSが通るなら、2ラウンドの行動封じはあるのだけど。 いきなり一杯ゴメンなさい。思いつくのはこれくらい。 後は参加者が増えることを願いつつ。

  5. Alexandra・Hexe・Claudia

    ロゼットさんの言に乗っかるなら、敵状偵察はぜひとも受け持ちたいところです。 今回は特に、詰めたい情報もあるので…。 別行動を想定する手前、情報のやり取りを円滑にする手段を何がしか用意する必要あり…と。 鉄板はやはりテレパスでしょうか?

  6. ロゼット

    >別行動 鉱山入口から通気孔までは200mあるから、 この2カ所に分かれてしまうとテレパスは届かないわ。 個人的には、最初に鉱山入口でサピラを確認した後は全員で 通気孔に移動してしまった方が良いんじゃないかと思うけど…。 サピラは食事中のようだから、刺激する必要もないかなって。 察知されて通気孔まで来たら時間稼ぎ、足止めが必要だけど。 と、私は思っているわ。後は他の人の希望次第かしら。

  7. 海神 江流

    出遅れ申し訳ない。 シーフの海神 江流だよ。今回は宜しくね。 通気孔は隠蔽10を超える装備を持っての侵入は出来ない。ってなってるんだよね。 現時点での参加者の装備をざらっと見渡したところ、隠蔽16の強弓持ってるセリオスさんが厳しそうに見えるかな。 全員で、ってなるとそこらへんは確認が必要そうに思う。 俺個人は、シーフはそのへんの縛りはゆるゆるなんで通気口から行くのは問題ないよ。 内部から通気孔へのアプローチがどんなもんかわからんけど、ロープ持っていけば、一般人でもそっちから脱出できそうな感じなら楽そうではあるね。

  8. Alexandra・Hexe・Claudia

    ふむ…で、あれば。 即効性・正確度いずれも劣りますが、ペットに伝令をやらせてみます。 今回の場合は…狼が適任かな。簡単なおつかいの要領で、ポーチにメモ紙の数枚くらいは渡せるでしょう。 …ここまで話が進みましたし、私個人の指針をば。 チャンスがあれば、件の大型魔獣…サピラと直接接触を試みるつもりです。理由は二つ。 第一に今回のイレギュラーケース。 通常であれば来ることのない魔獣達が人間の"縄張り"にきている。 これの原因と対応策を得る上で、サピラの存在は焦点となりうる。 第二に…これは現状、憶測の域を出ないのですが。 サピラは今時点で、人間に対して敵愾心を持っていない ないしは弱い可能性がある。 上手くとりなすことができれば状況をより安全に解決出来るかもしれない。

  9. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む 海神も言ってるが通気口から入る場合隠蔽10以上のものは入れないので俺は細剣に変えて近接仕様になりそうだ。 そのためシューター装備でのスキルは使えないのでその前提で頼む とりあえず通気口からの侵入で俺もいいと思う。あくまで救出がメインなのだから無理に戦う必要もないわけだしな。 俺は孤高者の宗波あたりでサーチをかけたりしながら救助者を探す予定だ

  10. ロゼット

    誰かが通気孔から侵入して、内部の鉱夫を呼びにいった方が 良いけど、全員である必要はないと思うわ。 鉱山の中は広くはないらしいから、少数でも困らないはずよ。 呼びにいってる間、通気孔の外で魔獣が来ないか、脱出口の 安全を見張るメンバーがいても良いと思うのだけど。 >江流 問題なければ、通気孔から侵入して鉱夫を呼びに行く役を、 お願いして良いかしら。身軽な人の方が良さそうだし。 やってくれるなら、私は通気孔の外からロープを垂らすわ。 >セリオス 通気孔への侵入希望なら別だけど、通気孔の外で 見張る役でも良いなら弓を持ち込んだらどうかしら。 ヴァルチャー相手に射撃武器の専門がいてくれると、 助かると思うのだけど。もちろんセリオスの希望次第で。 >アレクサンドラ 戦わずに済むなら何よりだけど、危ない橋とは思うわ。 襲われない限りは仕掛けないから、試みは止めないけど、 身を守る手段、逃げる算段は考えておいた方が良いと思う。

  11. セリオス・オーガスト

    <ロゼット ふむ、こちらはそれでもかまわない ならこちらは通気口入り口で周囲の警戒とヴァルチャーの迎撃をさせてもらおう

  12. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! さて、鉱夫の救出作戦ってことだが、今の面子だと通気孔から潜入出来るメンバーも多そうだから救出は通気孔を使うって方向性になりそーか? 通気孔に鉱夫達を連れてくのに壁歩きを使えばフォローもし易いんじゃねーかと考えてんぜ! それと戦闘になったらひとまず全力で倒しに行きゃいーんだよな? Q:ちなみにオッターに質問なんだけどよ、通気孔っつーと天井から穴があいてる認識で大丈夫か?

  13. オッター

    Q:ちなみにオッターに質問なんだけどよ、通気孔っつーと天井から穴があいてる認識で大丈夫か? A:その認識で合ってるぜ。 ただ、魔獣が入れなかったり、嵩張る装備が持ち込めなかったりと狭いんで、人が一人通るのがやっとって感じだな。

  14. 海神 江流

    〉ロゼットさん 通気孔から入って鉱夫たちを誘導してくればいいかな。 此方でやるのは問題ないよ。 そこまでに魔獣に遭遇しないようにハイディング持っておこうかな? ハヤトさんが言ってるとおり、脱出の際に壁歩き系統のスキルがあると、鉱夫の脱出を支援してあげられるかもだね 脱出時にはシーフは殿寄りに回った方がスムースかな? 戦闘力は確保しておきたいから、壁歩きはお任せしてしまうかも

  15. ミゼリア・L・ステュクス

    ウォーリアの、ミゼリア……です。よろしく、おねがいします……ね。 ええと……セリオスさんといっしょに、通気口の入口で、周囲の警戒と、ヴァルチャーの迎撃を……しようかなと。 盾役の、うごきに、なるかと、思い……ます。

  16. コハク

    顔出しが凄まじく遅くなった駄犬のコハクです、よろしくわん(五体投地) 今までの流れを見てると救出班はだいぶ面子が厚そうだからアレクと一緒にわんころのサピラに会いに行こうと思っていたり。

  17. ロゼット

    明日の朝には出発よ。 魔獣サピラはアレクサンドラとコハクのアプローチ次第として。 ハウンドとヴァルチャーは鉱夫を狙ってくると思うから、 しっかり護衛しましょう。私は近接、射撃の両方で ハウンド戦、ヴァルチャー戦に加勢できるようにしておくわ。 行動不全BSで全縛りをかけて動きを封じたり、 ヒール4で270点くらいの回復はできるから利用して。 私は鉱夫が安全域まで離脱できるよう、同行していくわ。 >江流 >鉱夫たちを誘導 ありがとう。 >ハヤト >全力で倒しに行きゃいーんだよな? ええ、襲ってくるハウンドとヴァルチャーはね。 大型のサピラは敵対かまだ分からないから、 向こうから襲ってこない限りは今回、放っておきましょう。 >ミゼリア 本職のウォーリアは助かるわ。頑張りましょう。

  18. Alexandra・Hexe・Claudia

    ―コハクさんが間に合ったのはすこし安心 です。 ただ、相手は12m級の大型魔獣ですから…踏みつけやのしかかりを受ければひとたまりもないでしょう。 くれぐれも油断なく…お願いしますね?

  19. Alexandra・Hexe・Claudia

    ―ええと、ロゼットさんが先に話してくれましたが。 現状、サピラは[識別不明]です。 実際には採掘場を新たな縄張りとして占拠しにきた可能性も大いにありますし、"戦闘の可能性がある" といった状況です。 この点、判定とコールはこちらで行います。 ただ、どう転ぶにせよ先ずは鉱夫の救出から避難までが最優先です。 あの巨体でもし通常個体同様の運動能力を持っているなら、移動力は通常の数倍。 鉱夫は離脱が確定しない限り、相手にしてみればいつでも追いかけてひき肉にできる状態なので。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0