【奇貨】ターニングポイント
真柄 葉
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シナリオID:2481
オープニング
焦げた臭いが残る庭先を、ヴィルジニアはじっと見つめる。
「申し訳ありません、ヴィルジニア様……!」
そんな彼女に部下の一人が大きく頭を下げた。
「アタシに謝罪したって、起こってしまった事は取り消せやしないさね。そんな『無駄』に労力を使うくらいなら、今後どうするかに頭を使いな」
ヴィルジニアは表情一つ変える事無く、部下に指示を出す。
先日の襲撃事件。世間的にはボヤ騒ぎとして処理させた。しかし、ボヤ騒動から始まった一連の『事件』の被害はけして小さなものではなかった。
襲撃で屋敷を守っていた者達に多数の死傷者が出た。当時、屋敷に居た者達はヴィルジニアが信を置く腕利きばかりだったのにだ。それだけでも、相手方がどれほどの手練れで、どれほどの準備をしてきたのかがわかる。そして何より深刻なのは『天秤』を奪われたという事実。相手は被害を出しながらも目的を達成した。そう、ヴィルジニアは敗北したのだ。
「あの……セルッティさん!」
「……なんだい?」
中庭を眺め、思案していたヴィルジニアの元に、シーガルがあらわれた。
「申し訳ありませんでした!」
シーガルはヴィルジニアに深く頭を下げる。
「アンタもかい……」
「……え?」
しかし、ヴィルジニアはそんな青年の謝罪に小さくため息をつく。
「何でもないよ、こっちの事だ。それに今回の件はアンタの責任じゃぁない。謝る必要なんてないだろう?」
「ですが、私が……いえ、私にもう少し力があれば、最悪の事態は……」
「力ねぇ。アンタは本格的に冒険者でも目指すのかい?」
「え……、い、いえ、そういうつもりはありませんが……」
「なら、力より頭を使いな。失った命は戻らないけど、『天秤』は取り戻せるかもしれない。責任を感じてくれているのなら、尚更ね」
「は、はい!」
「わかったのならぼやぼやしてないで自分のやることをやりな」
ヴィルジニアの言葉を受けて、シーガルは再び頭を下げるとその場を辞した。
「……さて、どうするかね」
去っていくシーガルの背を見つめながら、ヴィルジニアは小さく呟く――――。
●
後日、ヴィルジニアは身分を隠しとある同盟都市を訪れていた。
「――――ドルトレス、何かわかったかい」
「はい、やはり『キリコの時計』の構成員でした」
「やっぱりそうか……」
ソファに腰かけるヴィルジニアに、手ずから飲み物を差し出した中年のゴブリンは、名前をドルトレスという。ヴィルジニアと共に秘密裏に組織した諜報機関『ヘルシルム』の所長を務めている。
そして、ヴィルジニアは先日の襲撃者の死体をこの中年ゴブリンに調査させていた。
「それで、あの商会との関連性はあったかい?」
「残念ながら確たる証拠は……しかし、詳しく調べたところ死体の一体にこの様な刺青がありました」
そう言って、ドルトレスは一枚のメモを差し出す。
そこには、白と青の『雫』が交じり合ったような、不思議な文様が描かれていた。
「……知らない模様だね。これは一体何なんだい?」
「これは東方医術で用いられることがある模様だそうです」
そう答え、ドルトレスは古い本を机に乗せた。古い医術書らしきその表紙には、確かにメモと酷似した文様が記されている。
「東方医術だって……? アンタはここに何の関連性を見たんだ。たまたま彫っていただけという可能性もあるだろう」
「当然、その可能性の方が高いでしょう。しかし、よくお考え下さい。かの商会が取り扱うのは『薬』です。そして、かの商会主殿のルーツは東方にある。奇妙な一致だとは思いませんか?」
「……はは、薄すぎるね。その程度じゃ、証拠とは呼べないさね」
「そうですね、ですが私はこれを小さくない違和感だと感じています」
「……ふむ。その心は?」
「私共が追っている『キリコの時計』が取り扱う物もまた『薬』と言えるからです」
そう言ってドルトレスは、ずっと追って来た絶盗団『キリコの時計』がこれまでに関わったとされる品物のリストを差し出した。
そのほとんどが盗難品である中、『キリコの時計』自体が生産したとされるものもいくつかリストアップされていた。
「『花梨の蜂蜜漬け』や『紫苑の練り香水』……咽頭痛を和らげる『薬』に精神安定効果のある『薬』か」
「ええ。巧妙に偽装されてはいますが、出所は『キリコの時計』です。ただ……」
「ただ?」
「何のためにこの様なものを生産し、流通させているかまではわかっていません」
「ふむ……」
絶盗団『キリコの時計』と個人的な因縁を持つドルトレスを使い、かの組織を調査させ始めて2年。いくつかの尻尾の端は見せるものの、それを掴ませることはいまだに無い。
「わかったよ。引き続き、組織の動向を探っておくれ。また違和感を覚えたらすぐに伝えるんだ」
ヴィルジニアの指示に、ドルトレスは静かに頷いた。
●
また後日、セルッティ商会に一通の手紙が寄こされた。
「……ふんっ」
手紙に目を通したヴィルジニアは、不機嫌に腕を組む。
「奴は何と言ってきたのですか」
「読んでみな」
部下に問われ、ヴィルジニアは机の上に手紙を放り投げた。
「……なっ! 性懲りもなくまたこのような事を……!」
手紙に目を通した部下の肩が震えている。
「今度こそは『本物』と来たかい。ははっ、よくもまぁ」
怒りを露わにする部下とは対照的に、ヴィルジニアは呆れるように溜息をつく。
手紙にはこう書かれていた――――『本物の信望の時計を見つけました。再度鑑定をお願いします』と。
そう、手紙の差出人はタオ商会主ユベール・タオ。
先日、『信望の時計』だとされるものをヴィルジニアの元へ持ち込み、『果断の天秤』により偽物だと鑑定を受けた人物だ。
「一体何を企んでいるのでしょうか……」
「なんだい、そんな事もわからないのかい?」
手紙をそっと机に戻しつつ、眉間に深い皺を刻んでいる部下に不敵な笑みを向ける。
「ユベールの目的は十中八九、うちから天秤が失われた事を公にする事さね」
『果断の天秤』はセルッティ商会の象徴ともいえる神具だ。もしそれが失われたと知られれば……。
「断りましょう! わざわざ相手の思惑に乗る事なんてありません!」
「そうさね、普通はそう思うだろうけど…………これはチャンスだとは思わないかい?」
「え……?」
この危機的状況に自分の主は一体何を言っているんだと、部下は呆気に取られる。
「相手からわざわざ出向いてくれるんだ。チャンスと言わずになんというんだい」
「しかしそれは、うちを陥れるための最後の仕掛けであって……」
部下の懸念は当然だ。普通の思考を持っていればそう考えるだろう。だけどそれでは海千山千の商人達がひしめくこの世界で生き残っていくことは難しい。
「はっ……まさか、奴の裏をかく必勝の策が……!」
「そんなものないさね」
期待に満ちた視線を向けてくる部下に、ヴィルジニアはけらけらと笑って答えた。
「だからこそ、冒険者の知恵が借りたい」
「ぼ、冒険者ですか……?」
一転、ヴィルジニアは真剣な表情で部下を見つめる。
「わかりました。すぐに手配を」
部下はそれ以上何も言わず、胸に手を添え目礼した。
「ああ、頼むよ。それからシーガルを呼んでくれるかい」
「え? あの若造ですか」
「ああ、あの若造だ」
口元に薄い笑みを浮かべ、ヴィルジニアは部下を送り出した。
解説
マスターより
リプレイ
ナハシュは今回の襲撃事件に少なからず違和感を覚えていた。
第一に襲撃がスマートすぎる。第二に何故屋敷に戻ったのか。
この二つの違和感の正体を探るべく、ナハシュは屋敷の再調査と共に、屋敷に者たちに話を聞いていた。もちろん、内部に間者がいないかもあわせて調べる。
「単純に考えれば、鑑定に来た時に内部を調べて襲撃に活かした。そして、戻ってきたのは後始末をするためって線だが……」
ナハシュは思考を巡らせながら、ボヤのあった小屋や執務室を巡った。襲撃から一月経ったが、見落とした落とし物や傷がないか念入りに調べる。
並行して、勘を頼りに、すれ違う従業員に実力を詐称している感じはないかも調査していた。
「ナハシュさん!」
そんなナハシュの元に、トーラが駆けてくる。
「できました。見てもらえますか?」
トーラは息を整える間もなく、持ってきたスケッチブックを広げると、そこには何人もの人物画が書かれてあった。
「どれか見知った顔の人はいますか?」
「……ん? こいつはユベールについてた奴じゃないか?」
「ジョンですか!」
「ジョンっていうのか。お、この双子も……俺が見たメイドに似てるな」
「やっぱりそうなんですね……!」
ヘルシルムとセルッティ商会の関係を知った時、トーラの頭の中で一つの線がつながった。二つの味方。そして、二つの敵。この関連性を確かめるためにナハシュの記憶を頼ったがどうやら大正解だった。
「トーラも知ってるのか」
「はい、別件ですけど、ちょっと因縁がありまして」
「……なんだ、色々絡んでるみてぇだな」
「ですね。正直びっくりしてます」
二人は「繋がって来たな」と声をかけあうと、調査の為に別れる。
●
「時にヴィルジニア様」
ヴィルジニアの元を訪れたレイヤ・ダライ=カホールはずいっと身を乗り出した。
「セルッティ商会は天秤じゃないんです。高々、品物一つ無くなったぐらいで傾いたりしません。もっと平然としていてくださいな」
突然の言葉に、ヴィルジニアは面食らう。
「と、鎌をかけてたいのですけどどうでしょう?」
「はは、面白い子だね」
「でも本当に思ってるんですよ。天秤がなくなったからってどうってことないんじゃないんですか?」
「そうだね、あれがただの天秤であればね」
「例え神具でもです。神具なんかに頼らなくても、セルッティ商会は潰れないでしょう?」
「ああ、潰れないよ」
「なら――」
「違うんだよ。あれはそう言いう類のものじゃない」
「む」
「アンタも天秤含め他の二つで同盟三種の神具と呼ばれているのは知っているね」
ヴィルジニアの問いにレイアはこくりと頷いた。
「そうだね、三国に例えるとわかりやすいか」
そう言って、ヴィルジニアは壁にかけられて地図を指す。
「王国が天秤、帝国が時計、同盟が眼鏡としよう。帝国が王国を手に入れた。さて、世界はどうなってしまうだろうね」
「同盟に攻め込むでしょうね。はれて大陸統一です」
「そういう事だ。要はバランスなんだよ」
「……揃わせないために、あえて所持を公言している……って事でしょうか?」
レイアの導きだした答えに、ヴィルジニアは満足げな笑みを浮かべる。
「うーん……色々と突っ込みたい所はありますが、裏で色々あるんですね?」
「楽しそうなお話をしてます?」
レイヤの問いにヴィルジニアが口を開こうとした時、二人の元にリサ・ベイカーがやってきた。
「あんまり楽しくなかったですけど、面白い話は聞けましたよ」
「それは楽しそうですね。あとで聞かせてもらえますか?」
「話聞いてましたか?」
くすくすと笑うリサに、レイヤは口を尖らせる。
「それより、ヴィルジニア様。準備が出来ましたのでロビーにお越し願えますか」
「ああ、わかったよ」
リサはとある計画を進めていた。
それは、タオ商会からの鑑定依頼を拒否しようというもの。ただ、何の理由もなしに断っては相手にいらぬ警戒を抱かれる。そこでリサは一計を案じたのだ――――。
●
「よく集まってくれたね」
本館のロビーには集まった従業員達を階段から見下ろし、リサを侍らせたヴィルジニアが声を上げた。
「先の襲撃は――――」
ヴィルジニアから先日の襲撃事件のあらましとその後の経過が改めて語られる。従業員は皆沈痛な想いで彼女の話に耳を傾けた。
演説も終わりに近づいた頃、こつりとヴィルジニアの靴音が鳴る。
「ヴィルジニア様、どうかなさい――――ヴィルジニア様!」
物音に気付き振り向いたリサ。二人の目が合った途端、ヴィルジニアは突然力を失い階段を転げ落ちそうになる。リサは咄嗟に手を差し伸べ彼女の身体を受け止めた。
「しっかりしてください! ……だめ、意識がない! 誰か、お医者様を!」
ぐったりとするヴィルジニアを支えながら、リサが叫ぶ――。
●
「んー……いないか。ここにいる奴等が全員『白』って事は、入院中の方か?」
リサが一芝居うっている間、サイラスは物陰から従業員の様子を探っていた。
その目的はドルトレスが見つけたと言っていた『印』の発見。もしその『印』が襲撃者を示すものであり、従業員の中に『印』を持つ者がいるのであれば、その人物は限りなく黒に近くなる。
サイラスは【看破】で従業員一人一人の所作や癖を探る。その動きに不自然な所はないか、身体に何かを隠していないか――――その鋭い眼光は小さな違和感も見逃さない。
しかし、サイラスの思惑とは裏腹に、主人の異変を前に、装っていた仮面がはがれ、本性を垣間見せるかと見つめていたが、従業員達に異変は感じられなかった。
「……いや、もしかしたら死んだ奴等の中にいたのかもしれないか?」
敵方の死体はヘルシルムが調べたと報告があった。しかし、従業員の方はどうか。
「とはいえ、墓を掘り起こすわけにはいかんよな……やっぱ聞き込みしかねーか」
もう何度も行っているだろう聞き込みを今更とも思うが、聴く人間によっては別の視点が見えてくる可能性もある。
サイラスはヴィルジニアが倒れた混乱に動揺する従業員が落ち着くのを待って、再調査を始めた。
●
レイヤは屋敷の書庫へ訪れていた。
「……『果断の天秤』。改めて思いますが、すごく便利ですね。天秤に乗るものであれば、都合の悪い物を何でも消せるんですから」
三種の神具について書かれた本を開きながら、レイヤは読み進める。彼女は神具の特性について調べていた。
「……もしかして」
何度も本を読むうちにレイヤはある推測をたてる。それは、同盟に伝わる三種の神具は全て商売敵に渡して使うものではないのかという物だった。
「天秤にを頼れば、判断を委ね、機を逸する。
時計を使うなら、信頼は時と共にその手から零れ落ちる。
眼鏡は……細事に気を取られ、輝く奇貨に気付く事もない」
本には天秤以外の神具の情報は抽象的にしか記されていない。
それでも、もし推測通りの可能性があるのなら……。
「総じて商売は転がすもの……なんていうのは、ちょっと穿ちすぎですかね」
そう呟くと共に一息吐いて、レイヤは本を閉じた。
●
「そうか……やはり繋がりが」
子供に変装しつつ、ドルトレス所長の元を訪れたトーラは、似顔絵によって得た情報を報告した。
「はい、わたしもびっくりしました。でも、よくよく考えるとしっくりくる部分も多い気がします」
トーラは以前からドルトレスと関わりを持っていたが、ここに来てタオ商会と絡むとは予想していなかった。しかし、今回の件、そして、似顔絵調査の結果を受けて、その関係は半ば確信に変わっていた。
「松島さんの調査のその後はどうですか」
秘匿されたヘルシルムのアジトではあるものの、どこに目があり耳があるかわからない。トーラはスキルで警戒しつつ、話を進める。
「今も張らせているが、大きな動きはないな。相変わらず人の出入りは激しいが、枝場の中の総数はほとんど変わっていない」
「人の出入り……幹部クラスの出入りもあるという事ですね。幹部に何か……そう、表の顔を使って活動しているとか、そういう情報はありませんか」
トーラが問いかけるとドルトレスは話し始めた。
キリコの時計で表立って行動する可能性があるのは、貴族を装う「ルーク」。その護衛兼執事として動く「ジョン」。更にメイドの「双子」。それはユベールの元に居たといわれた「ジョン」「双子」と酷似している。
「しかし、ルーク以外変装もせず同じ役割を演じているのは……何か裏がるのだろうか」
「そうですね。顔が割れる事を危険だと思っていない様子ですし……うーん。あ、こちらの絵に見覚えは?」
と、トーラが更に別の一枚を差し出す。それはシーガルの目撃情報を元に描かれた人物画だった。
「いや……わからないな。「ルーク」に似ている気もするが、奴は変装の達人だ」
「なるほど……シーフの暗殺者もいますし、表と裏で行動する人物を分けている?」
「私を襲った奴か……そうだな、その可能性はある」
「所長。もし、手に余裕があるのならタオ商会の事も調べていただけませんか」
「余裕か。正直言ってあまり無いが……そうだな、タオ商会が奴等の隠れ蓑の可能性もある。調査の手を広げてみよう」
●
「どうでしたか」
「ダメだなー。黒っぽい人間はいねーわ」
「そうですか。皆さんヴィルジニア様の側近ですから、身元も忠誠心も確かな方ばかりなのかもしれませんね」
昏睡したヴィルジニア自室に寝かせた後、リサとサイラスは情報を共有するため秘かに会っていた。
「襲撃の時にどさくさに紛れて入ってきた奴いるかとも思ったが、その辺りもしっかり管理されてるわ。どんだけ用心深いんだか」
「あー……まあそれは商人なので、仕方ない事かも」
呆れるように言うサイラスに、商人の習性を理解するリサは苦笑する。
「とはいえ、その様子じゃ、情報操作の方も手応えないかもしれませんね」
リサの立てた作戦は、情報の出所を絞る為の策。特定のグループに噂を流す事で、情報の出所や、伝わり方を調べようとしていた。
ヴィルジニアが策で昏睡した後、リサはその場に居合わせた従業員の顔を覚えると共に、グループそれぞれに噂を流した。
1つには、ヴィルジニアは過労で倒れた。しばらく安静が必要だ。
別の組には、先日のドワーフ王国訪問の際、流行り病を貰った。
更に他グループに、事件の調査を行ううちに、体に害のある煙を吸い込んだ。と――――。
「それはどうだろうなー。こっちにリークする気はなくても、相手が勝手に手に入れる可能性もあるしな。流石に従業員全員の接触を監視するのは無理だろ」
「それは確かにそうなんですが……いえ、そうですね。その筋から何か引っかかってくれることを期待します」
「まー、それはいいとして。相手の目的はなんなんだ? いや、神具を揃える事なんだろうけど、わざわざ挑発してくる理由がわからん」
「まだタオ商会が天秤を奪ったと確定したわけではありませんが……そうですね、三つの神具……。揃うと何が起きるんでしょうか」
サイラスの言葉にリサは考える。相手の本当の目的はどこにあるのかを。
●
「セルッティさんは大丈夫なのでしょうか」
「心配いらねえよ。腕のいい医者がついてるんだろ?」
「そうですが……」
華江へと向かう道中の馬車の中、セルッティ商会の従業員に変装したナハシュと、使者であるシーガルが声を潜め話していた。
「医者と言えば、ドウセツは元気そうだったな」
「はい、いい所で隠居できたと喜んでいますよ。まったく、こちらは大変な目に遭ったというのに……」
その顔を思い出したのか、拳を震わせるすシーガルに、ナハシュはケラケラと笑う。
ナハシュは旅に出る前、セルッティ商会に匿われている元ミクニ商会の商会主であるドウセツに会っていた。
安全確認の名目で、ドウセツに会い、身体検査をしたナハシュだったが、特に異常は見られなかった。
「……ここだけの話。ミクニさんを疑っていたのですか?」
シーガルは更に声を潜めナハシュに問う。
「いや? あのじーさんは唯一時計の被害に遭ったと思われる人間だからな。変な後遺症とかあったらいやだろ?」
「なるほど……確かにそれはそうですね。それで何か見つかりましたか?」
「いや、特には。ま、俺は医者じゃねーし、詳しくはわからんな」
シーガルにそうは言うとナハシュは、窓の外に広がる景色に視線を移した。
●
「そうですか。どうかご自愛くださいとお伝えください。鑑定の方は復調された後、改めて」
「はい、ご意向に添えず申し訳ありません」
ユベールへの返答を終えたシーガルは、タオ商会を出るとすぐに馬車へと乗り込んだ。
「どうでしたか」
シーガルは【エリアサイレンス】を使い、話しかけた。
「一瞬だが、メイドの姿が見えた」
「そ、それは先の鑑定の時に同行していた……?」
シーガルが問いかけるとナハシュは頷く。
ナハシュはシーガルがユベールと会っている間、隙を見て屋敷内を調べていた。
「他にも商売人とは思えない奴等もちらほら居たな」
「え? そんな人いましたか……?」
「一見すれば従業員だからわからないかもしれねえな。だが、あの動きと感じは素人じゃねぇ。もしかしたら、襲撃者も含まれてたのかも……なんてな」
「そんな……、それじゃ、襲撃犯はやっぱり」
「まだ断定するには早いが、顔は大体覚えたからな。トーラに似顔絵でも書いてもらって、あの夜屋敷に居た人間に見てもらう」
ナハシュはリサの能力をコピーする事で、それを可能にしている。
「では、急いで戻りましょう」
「まあまあ、そう焦るなって。もうちょっとこの街を散歩していこうぜ。面白いもんがあるかもしれねぇ」
●
後日、冒険者は見舞いと称しヴィルジニアの私室に集まり報告をおこなう。
ナハシュの記憶を頼りにトーラが新しく書いた似顔絵は、後日従業員へ見せられ、襲撃者との関連を調べる運びとなっている。
「『花梨の蜂蜜漬け』の方は大変美味しかったですよ。流石ダンジョン産という所でしょうか。ただ……」
一方、レイヤはトーラが調達してきた『花梨の蜂蜜漬け』を味見していた。しかし、甘味に対して特別敏感な舌を持つ彼女でも、それが何に使われるのかまではわからなかった。
「流した噂の広まりに関してはもう少し時間が必要ですね」
そして、リサの策はまだ成果らしい成果を出していない。今後、噂が広まれば、何か見えてくるかもしれない。
「なぁ、3つ目の回収しとく方がいいんじゃねーの?」
様々な調査結果が上がってくる中、サイラスがヴィルジニアに問いかける。
「チップもないのに、賭けのテーブルに座るのは分が悪い……いや、マナー違反だろ?」
「眼鏡を探せって事かい?」
二人のやり取りに、他の者も興味深げに耳を傾ける。
「そうだね……」
しかし、ヴィルジニアはそれ以上言わず、口を閉ざした。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:多い5 / 4〜5人
2022年09月20日 11時58分35秒 公開
参加者
相談掲示板
トーラです。前回は囮作戦が失敗してしまってすみませんでした。 襲撃者が顔を見られても良い依頼を受けた相手ということに気付いていれば… リベンジよろしくお願いします! とりあえず、キリコの時計については過去に関わったこともあるので、そちらについて調べたいと思っています。 それと、鑑定依頼について意見を統一する必要はないかと思うんですけど、皆さんはどう考えているでしょうか?
No.2
サイラスだ、よろしくなー とりま再調査メインで行こうかと 鑑定の方はどちらでもええよーと。
レイヤです。よろしくお願いしますね。 『果断の天秤』、奪われてたんですか!?あ、でも秘密なんですね? 今回も難しそうなお話ですね。 何をするか、よく考えていきたいです。 鑑定依頼…正直どっちでもいいように思っています。 神具とはいえ天秤一つ失った程度でセルッティ商会が衰退するものでもないでしょう。奪われたというお話なら名声もさほど傷つくものでないと思います。 そもそも、その程度の商いならばもうご破算になっているのでは?…なんて。
リサです、よろしくお願いします。 鑑定ですが、天秤の偽物作れませんかね? 矜持が許さないかな? 強盗との確実な関連がわからないと難しいかもですが… 関連が確定すれば、 偽物の天秤、時計が偽物でも消えない →本物ですね! となって、相手は偽物と知ってても、これは偽物だとは言えない。 天秤が偽物と知っていてもそんなことは言えない とはいえ、まあ、犯人確定しないと 万一、無関係だったら、こちら側の詐欺になるから、そこが難しいですね。
ナハシュだ。よろしく。 何をするかはちょっと考えてるな!屋敷や時計の調査でもいいし、シーガルの方に同行してもいいかなとは。表向きではあるが屋敷内をざっと見ることはできるかもしれない。 >鑑定 今んとこどちらでも!もしばれるのが相当不味いのなら、理由としてヴィルジニア前日事故で怪我して動けなくなった、みたいな形でもいいだろうし……つうか公になってねえなら、受けた後やってきたユベールに「実は先日天秤狙いの賊が入った。天秤は守られたがヴィルジニアは負傷してしまったので鑑定は出来ない。」みたいなことも堂々と言えるのでは。 受けるなら天秤の偽物を用意するのはアリだと思う。 盗まれたことを知っている人間は加害者側だけってんなら十分いけんじゃねえかな。 ただまあ前々回、鑑定後疲労しているみたいな様子は相手も察していたみたいだから、そこは上手く演技しねえと突かれるかもしれねえとは思う。 確定したら使う、くらいで考えておくのはいいんじゃねえかと。
No.6
とりあえず全体意見的にはどっちでもいい人でほぼ埋まりやねー とりま彫金か手細工あたり偽物作るなら持ち込むが
〉偽物 まあ、確認というか案として出しますが、拒否できるなら拒否したほうが無難かなとは思いますね。 上手くすれば、相手を嵌める事ができますが、 やっぱり、『嘘を付く』というのは、後からどんな風に突かれるかというリスクがあるので…使えるのは相手が黒と確定したら、ですかね。 となると、どう断るかですが、ナハシュさんの仰る、ように体調不良等の適当な理由をつけて日を改めてもらうといった時間稼ぎですかね?
>偽物 そうですね。わたしも騙すのはリスクが高い気がします。 天秤があちらの手にある以上、それを持ち出されればこちらが騙した事が公になってしまいますし、商人として信用を失うことになれば天秤以上の損失になるでしょうから。 とりあえず、わたしはヘルシルムからの依頼を受けたことがあるので、ドルトレス所長に会ってキリコの時計の動きについて調べてみようと思います。
No.9
じゃあ持ち込まんでええのなー了解ー じゃあ家の捜索に専念するわー ふと思ったけど信望の時計を使う条件とか分からんかったなと思ってたけど果断の天秤が間違った判断をしたペナルティとして存在を消すとしたら、信望の時計は信用を失う様な真似(偽証とか)した生物へのペナルティとして記憶を消すとかなのかなーと まあ想定しても意味ないがねー。もし正解でも掴めそうな図書館の爺様?が何したから(二重契約?)消えたとかわかるはずないんで証明出来ないが
>偽物 お手紙には「鑑定をお願いする」としか書かれてないので、 天秤は無くてもいいような気もちょっとしました。 この状況で持ち込んでくるなら、十中八九偽物な気もします。 でも、最終的にどうするかはヴィルジニア様に委ねちゃおうかと思います。 わたしはキリコの時計のこと調べようかと思います。 『花梨の蜂蜜漬け』。もし手に入れて味見できれば【超味覚】で何かわかるかも、と思って
>キリコの時計 以前にナハシュさんが尾行したメイドが恐らく構成員だと思います。 メイドは二人いて、一人はウォーリア、もう一人がシューターでした。おそらく、シューター方のメイドが前々回の偽物の時計の鑑定依頼時に孤高者の双波か宗波で館の作りを把握して、前回の襲撃で天秤のありかへ誘導したのではないかと思います。 他に注意すべきはシノビ装束のハーフビーストのシーフ……おそらく前回襲撃時の実行犯です……と、ジョンと呼ばれる凄腕のウォーリア、もう一人キャスターも居たと思いますけど、もしかしたら前回シーガルさんが顔を見たのがこのキャスターかもです。
>鑑定 要はヴィルジリアは、加害者しか知らない情報やメイドを持ってるユベールをおびき出せるという一点で受けてもいいって言ってんだよな。 誘き寄せることで何かできないかという趣旨の筈で、そこで相手は何を仕掛けて此方は何を探るかってことだと思うし、此処を詰められねえなら断ろうって話だと思うんだが。 とはいえ俺もそんな思い付きはしないんだが、例えばサイラスの言ってるのの証明を兼ねて、受けた後ヴィルジニアにマジで負傷してもらって当日ドタキャンするとかはできねえかな。 向こうからすれば此方が天秤を持っていないことは確定事項であり、直前でドタキャンする理由は十中八九嘘だ。持ってきたのが偽者だったり能力を使わず引き返すならそれも良し、使ったとしても此処で理由を真実にしておけば時計は不発になるかもしれないし、使うにしても天秤と同じく相手は使うためのキーワードを言わなきゃならねえよなたぶん。 後は受けたとして、ボヤ騒ぎがあったから念のため身体検査をさせてもらうなどで例の入れ墨が出てきたりしないかとかはできるのでは。特に護衛のメイド回り‥同じ奴が来るとは限らないが、手練れを一人は連れて行くならそいつらのどれかからは取れたりしないかね。 >キリコの時計 構成員に関しては同じくトーラの言う通りだと思う。 メイド辺りが普段もいるならそれこそおびき出すか、シーガルについてった回りで出会えたりしねえかな‥。 >個人 とりあえず屋敷の再調査の方で考えておくかな。 スカウトの心得辺りを大量に積めば何かは見つかるかもしれん。会談をするならするでそっちに回ってもいい。
〉鑑定 断る理由としては、体調不良が無難でしょうね。 実際に体調不良になっていただく、というのは確かにありかと思います。 ただ、ドタキャンは、『借り』を作ることになるので、ちょっとリスクかなぁと。 考えた手としては、ヒュプノシスを使って、敢えて従業員達人の目のあるところで“意識を失って”もらう感じです。 もちろん、本人には事前にお伝えしておいて受け入れてもらう。 スキルかけて、すぐに倒れる前に受け止めることで、 過労により倒れた、とできるかなと。 少なくとも、周囲はそれを目撃しているので、 過労により受けられない、という断りに説得力は持たせられるかと。 〉行動 個人的に何をするかは、もう少し考えます。
No.14
ヒュプノシス持ち込むか分からんから一応俺が持ち込もうか。自分で持ち込む、いや別のにするとかなら俺は使わん様にするとして。 予定通り看破とか持ち込んで屋敷探す専念かなと。
>ヒュプノシス サイラスさん、ありがとうございます。わたしの方で持っていくので、もし間に合えば、他のスキルで大丈夫ですので。 たぶん、一番近くにいて不自然がないので。ヴィルジニアさんにも話すようにします。 あとは、ちょっと流す情報に色をつけて、どの当たりからタオ商会へ情報が流れてるのか? を、調べられないかチャレンジしてみすね。 余裕があれば、わたしも屋敷捜査とか、何かしら行動したいと思います
>ヒュプノシス 成程な!周囲に解りやすく倒れてもらうのは確かにありだと思う。 ヒュプノシス持って行ってもらえるならありがてえし異論もねえ。 ただドタキャンする形でねえなら、伝達役のシーガルにはこの件は内密にしといたほうがとは思うな。コイツにとっても真実である方が安全性は高いと思う。気にしすぎかもしれねえが。 その辺お任せできるなら、やっぱ屋敷の再調査をメインにしておこうと思うぜ。 あとはフェイクカバーで商会の誰かの顔を借りつつシーガルのお使いについていってみようかと思う。そんくらいかな。