【再起】帝都の方から来た鉄亀
馬車猪
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シナリオID:2423
オープニング
圧倒的な破壊力を生み出す筋肉も、足場がなければ本来の力は発揮できない。
(何が起こっ)
直前までの記憶と今の状況が断絶している。
城壁を乗り越え左腕から預かった便りを届け、その前後から記憶が曖昧だ。
片手で持ったハンマーを城壁にぶつける。
破壊はもちろん亀裂を入れることすらできず、しかし反発を利用して自身の向きを変えることは可能だ。
体の向きが変わり城壁にぶつかる。
衝撃が体を突き抜け骨も内臓も悲鳴をあげる。
固い壁に突き立てた指から爪が剥がれ先端が削られていく。
(クリーパー?)
城壁の上から人間ではない瞳が覗き込んでいる。
気配の質はクリーパーであるのに、命令を忠実に果たす理性らしきものを感じる。
(エフレムの召喚獣か)
着地する。
受け流しきれなかった衝撃が体中の骨を砕くがこの程度なら死にはしない。
(何故だ)
まだ生きている理由が分からない。
召喚獣にはハンマーによる傷跡がある。
つまりエフレムに襲いかかったということで、襲いかかって殺しきれなかった緑の中指は死んでいないとおかしいのだ。
血が体を伝い地面に染みこむ前に敵対的な気配が押し寄せてくる。
不気味な木が、生物を冒涜した形の怪物が、使者であったはずのゴブーナ1人を狙う。
(このまま死ねるかっ)
ハンマーが旋回する。
幹が砕け背骨が折れて地面に転がる。全てあわせても城壁の上の1体より弱く、緑の中指には足止めにもならない。
だが無傷ではすまない。
枝や牙による打撲傷や切り傷がハンマーを振るう度に増え、城壁から離れ襲撃の密度が低下しても背後からの攻撃を防ぎきれず負傷は深刻になる。
(生き延びた……見逃されたか)
数分攻撃が途絶えて気を抜いたのが致命的だった。
帝都の脅威に怯えて縮こまっていた亀が、見上げるほどの大きさの首を振りゴブーナに噛みついてきた。
衝撃に耐え、ハンマーを短く持って高速で振る。
鍛えた人間の全身より重い頭が真横に跳んで甲羅に打ち付けられる。
負傷と出血で衰えた腕力では、ただの魔獣でしかない亀を倒すことができなかった。
●
「そこのおっさーん! 危ねーぞー!」
代官の担当地域の隅っこで、黒い装備の集団が旅人を包囲する。
「盗賊じゃねーよ! そっちは代官のねーちゃんの縄張りの外だぜ? ほんとに行くのかよ」
数分説得しても相手は折れず、リットは包囲を解いて相手を行かせた。
「ああいうの増えたよなぁ」
復興事業を急速に進める新人代官に刺激されたようで、帝国貴族の後継者を名乗る者や元代官を名乗る者達が活発に動き始めた。
あの代官が帝国復興のため持ち込んだ金貨の量を知らず、どれだけ冒険者ギルドに依頼しているかを知らず、なのに己ならもっと巧くやれると思ってしまった連中が多かった。
「リットは成功しないと思うのか?」
「成功できる奴なら難民キャンプで活躍してたんじゃねーか? あそこにいた帝国のえらい連中と比べてみろよ」
スラムに居た頃からの仲間達が、リットの言葉を聞いて納得顔になる。
国や青い血への敬意など持ってはいない。
最も命が危なかった時期に、自分達では不可能なことを成し遂げた個人や冒険者だけを尊敬している。
「戻ろうぜ。そろそろ代官のねーちゃんから物資が届いているはずだからよ」
「あのねーちゃん怖いよな」
「言うなよ。義兄の嫁さんじゃなきゃ逃げてるくらい怖いんだから」
河川という重要な場所の守備を任されている集団が、少し疲れた足取りで拠点へ向かう。
残念なことに、本当に危険なものに気付けるほど鋭くはなかった。
「火を借りているぞ」
緑髪のゴブリンが煮炊き用のかまどで獣肉を焼いている。
新鮮ではあるが血抜きも不十分な肉に火を通しては貪り欠片を零すこともない。
獣の肉が常人ではあり得ない速度で消化吸収され、1時間前は死体のようだった肌に血の気が戻っていく。
「えっと」
リットは拠点を担当していたはずの副官を探す。
なんで戻って来たのよ、という表情の副官を見つけてようやく失敗を悟った。
「これ以上何もありませんっ。塩と香草くらいでっ」
副官の言葉は何故か棒読みっぽい。
「どういう……ああ」
ゴブーナは変形した指輪を1つ取り外す。
意識が断絶する前は呪いを振りまいていたそれは、今ではただの純金製の指輪だ。
「大人しく渡さないと殺すぞ?」
「そんなっ」
両者棒読みのまま金と調味料が交換される。
ゴブーナは岩塩を囓って食べる速度を加速させる。
(どうなってんの?)
(戦うと殺されるから取引を持ちかけたのっ)
(良い根性をしている。聞こえているからな)
小声で話しても格の高い授恵者には聞こえてしまうので要注意である。
「念のため教えておくが」
ゴブーナが話し始めた直後、リットが来た方向から無惨な悲鳴が聞こえてきた。
肉と骨がまるごと咀嚼される音が、断末魔の悲鳴に混じっている。
「強力な魔獣が私を追って近くまで来ている可能性がある」
逃げろとも戦えとも言わず、ゴブーナは食事を終え北でも南でもない方向へ歩き去る。
「野郎、敵をなすりつけて逃げやがった!」
「野郎じゃないし一応警告してくれただけ賊としてはマシよ。そんなどうでもいいことより撤収準備!」
「おうっ!」
気心の知れた仲間達が、大慌てで天幕と厨房を解体してビヒモーの背に積み始めた。
●
「討伐依頼です」
冒険者ギルドで職員が説明を始めた。
「帝国の僻地で大型の魔獣が発見されました」
発見者は飛行中のビッグオウムとその御者だ。
「形は亀。複数の授恵者を含む集団が攻撃に失敗し捕食されていたそうです」
弱い授恵者ではなかった。
しかし亀魔獣の装甲の厚さを貫くことができず、亀らしくない速度で追い付かれて大量の牙が生えた口で鎧ごと食いちぎられてしまった。
襲われた側は馬も人も結構な数いたのに、全て食い尽くされて今では骨も残っていない。
「場所は在野授恵者率いる集団に近いです」
被害者よりリット達の方が強い。しかし亀の強さと比べれば誤差でしかない。
追い付かれてたら同じ末路は確実だ。
「至急現地に向かい、亀の魔獣をなんとかしてください」
撃破あるいは撃退。
冒険者の求められるのは、そのいずれかである。
解説
マスターより
リプレイ
ビヒモーが踏んでも足型がつくだけの固い地面が、亀の重さに負けて甲羅の形に凹んだ。
亀の太い足は地面を踏むというより土を抉っていて、大柄ビヒモーより数倍重い脅威が冒険者に迫る。
「亀だから硬いってのは毎度毎度パターンだな、おい?」
全身鎧で身を固めたアーテミシアが爆発的に加速する。
亀の足や頭は届かない距離と位置で見事に急停止して、しかし亀は見た目の鈍重さからは想像し辛い速度で位置をずらして首を振り上げアーテミシアに頭を叩きつける。
火花は散らず、地面に亀裂が入る。
肩から指先までを隙間なく覆うガントレットで受け止めたアーテミシアが、体重と力で押してくる亀を器用に受け流す。
強靱な歯と歯がぶつかり異様な音が響く。
亀の頭が横にずれて地面にぶつかるよりも早く、戦槌を持つ手に装甲で覆われた手を添える。
過酷な戦闘でも曲面装甲は歪んでいない。
戦槌を使った全力の振り降ろしは成功し、戦槌と地面で挟まれた巨大頭部が強い衝撃で襲われた。
「こうすりゃ効くだろ」
硬い。装甲は打ち抜けなかった。だが装甲に毒を染みこませるのには成功したし敵の反撃も予測できている。
移動速度で倍も差がある敵相手に、アーテミシアは相手の周囲を円を描くように動き回避と防御を行い時間を稼いだ。
「リット! とにかく逃げろ!」
義弟を庇うアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは立派で精悍だが、義弟の頭の悪さのせいで単純な指示しか通じないのでちょっと以上に辛そうな表情だ。
黒汗馬から飛び降りる。
攻撃が掠めただけで即死しかねない相手との戦闘に連れて行くことはできない。危険を冒す意味がないからだ。
(戦える馬がいればな)
皇子の騎士の地位を持つアルベルトは寂しさを感じつつ前へと踏み込む。
「鉄亀め、貴様を倒す!!」
両手剣サイズの漆黒の剣で極太の首を横から刺す。
強靱で柔軟で分厚い皮膚という装甲が威力の半分以上を防ぎ、しかしアルベルトの膂力と技を防ぎきるには少々どころでなく足りない。
深い傷が刻まれてから数秒遅れで血が噴き出し、黒い盾と鎧に新しい色をつけた。
(目潰しか?)
宙に舞う血飛沫の向こうから、家じみた大きさの巨体が鉄以上の固さを保ったまま迫ってくる。
「この」
黒い盾で受けて衝撃を体から足を経由して地面に逃がす。
たった1度の防御で骨に痛みが残る、とんでもない威力だった。
「啓示にも「ここで守る事が出来ればタイム短縮に繋がります」と出ています」
亀が吹き飛ぶかのように横移動。
フリーダ=ブロムヴィストの台詞を途中でかき消すがそれ以上進めなくなる。
彼女の背後で、彼女に守られなければ死んでいたビヒモーと人間が体を震わせていた。
「是が非でも助けたいと思ってますが余裕はありませんよ?」
声と言葉は届かなくてもフリーダが何を伝えたいのかは分かったのだろう。
リットやビヒモーも足音が大きくなりそして遠ざかる。
(これは)
威圧を込めた声を発しようとしてその必要がないことに気付く。
(幸運、いえ幸運もありますが)
シーザーロア2が効いている。
アーテミシア並みの極大防御力で亀の突撃に耐え、その上で軽装戦士並みの速度でリット達から引き離す方向へ走る。
亀は追って来た。
まだ呪縛が解けていない。抵抗が強くないのだ。
「相性が最高です、と言われても」
防げはするが痛いし辛い。
フリーダの力があっても、長時間の足止めは不可能だった。
「ヴァレンタインさん!」
シルク・メイプルリーフから複数種類の治癒術がフリーダに集中する。
5秒あたり2度の治癒は全快まではいかないがフリーダが倒れる未来を大きく遠ざける。
(光縛封で拘束して時間稼ぎ……予想より大きいよー!)
アルマ・ヴァレンタインが手間取っている。
回復でも援護でも万全で、特に後者は黄金色の光と共に冒険者の大部分の能力を2割向上させ総合力ではそれ以上に引き上げている。
その上で光縛封を仕掛けようとするが光縛封にぎりぎりおさまる大きさの高速魔獣を光柱に封じるのは非常に大変だ。
亀の後ろ脚に力と重さが集中した瞬間、筋肉の守りが比較的薄い箇所に刃が突き込まれる。
致命傷にはならず、状態異常と呼ぶには効果が限定的すぎ、しかし少しの間移動を単純にする効果はある。
「この程度なら無視できるとでも思ったか」
大重量の亀が高速移動する戦場に隠れて機会を待って一撃を入れたベルク・オスマットが鼻を鳴らす。
「いくよー!」
祭刀に持ち替えたアルマの祈りがエーテルに特別な形を与える。
何もない宙にいきなり出現した光の壁が、亀の脚と甲羅にぶつかりびくともしない。
「回復ー!」
「集まってください」
歴戦のヒーラー2人が手際よく治療を行う。
中型以上の魔獣としては物理での攻防に非常に優れ並以上の速度まで兼ね備えた個体だ。だからこそそれ以外は貧弱そのもので、15秒という貴重な時間を浪費させられるのだった。
●
戦闘が始まった時点で、リット一行が犠牲者0で終わるのは不可能に近かった。
しかしその運命はセリオス・オーガストが放った矢により覆る。
矢が弾けて沸きだした濃煙幕に防壁としての効果はない。
だが煙の中で何をしているか外からは分かりづらく、煙の中で逃げている者達に回避での優位を与える。
セリオスが2つめの矢をつがえる間に、冒険者の前衛と亀が接触し白兵戦が始まった。
(この戦い……)
亀の防御力が高すぎる。
だからフェイタルアローを使う。
セリオスの強弓と超人的な弓の技でも矢尻が埋まる程度のダメージしか出ず、けれど毒として働くエーテルが矢尻から甲羅や皮膚に染みこみ内側から継続的に亀を痛めつける。
(いけるか)
矢で与えた被害よりスキルによる被害の方がかなり大きい。
しかも抵抗されるまで続く。
付与術をかなりの水準で身につけているので、フェイタルアローによる【スリップ】は長く続きそうだ。
スキルを鋭射2に切り替え1本の脚を集中して狙う。
威力25パーセント増しの攻撃なのでもともと高い攻撃力がさらに強化されて敵の防御を上回る。
これで【スリップ】を上回る威力になる。
亀の右前脚へのダメージも積み重なり、しかし残念ながら部位破壊や状態異常を引き起こすには足りなかった。
(ビヒモーさんたち、を、助けないと)
エルはビヒモーを助けるのに集中している。
手厚く、熱心で、人間達が「ひょっとして俺達のことどうでもいいの?」と不安に思ってしまうほどだ。
(もちろん、リットさんたちも、入って、ます、よ。ビヒモーさんたち、の、大事な相棒さんたち、です)
そう考えていても激しい戦闘が至近距離で行われているので口に出す余裕はない。
リット達が怯えている理由に気付かないまま、ウィルにビヒモーを先導させるエルであった。
(セリオス、さんが?)
振り返ったエルが微かに動揺する。
実戦経験豊富なセリオスが、亀相手に力を出し切れていないことに気付いたからだ。
(もしか、して)
半ば無意識で閃光塗弾を目潰しに使う。
濃煙が消えかけたタイミングで炸裂したので、リットとビヒモー達は命拾いしたかもしれない。
(こっち?)
エーテルを込めて矢を放つ。
矢尻は実体を持つ竜鉄製だが、刻印の効果により実質的に魔法攻撃だ。
エーテルは高度な付与技術により方向性を付与され、効果はセリオスのそれと比べればやや控えめでも敵の内側を冒すという点では全く同じだ。
そして矢は、凄まじい威力を誇るセリオスと同等かそれ以上の打撃を甲羅に与えてひびを生じさせている。
(魔法、防御、うすい)
敵は見た目より素早いので1度着弾した場所に連続で当てるのは難しく、けれど魔法攻撃も得意なエルは効率よく甲羅を破壊していた。
●
アルマが攻撃を開始した。
残念ながらヒールが尽きたし光縛封の効果時間も過ぎたのだ。
分厚い甲羅に光球が潜り込む。
アルマの強力な魔力が魔法攻撃も2割増しと魔弾と攻撃集中によって強化され、大きさの割に脆い亀の魔法防御を打ち破った。
「そっちかー! あっ」
亀が冒険者前衛を無視してアルマへ首と目を向ける。
完全に狙われたいた。
「だいたい予想通りです」
亀と同程度に速いフリーダが頭の先に回り込む。
「継続ダメージは十分蓄積されているでしょう。後少しです」
その少しの時間を稼ぎ出すために亀を改めて拘束する。
白金のラウンドシールドを巧みに操り、亀からの打撃を減らした上で豊富な生命力で耐える。
足音に聞こえないほど微かな振動が連続する。
フリーダと足を止めて戦うことになった亀の甲羅は、優れた身体能力と勇気があれば足場として使える。だからベルクが有効活用する。
(気付かれたか)
亀が体を揺すって妨害するが既に遅い。
ベルクの刃が亀の目を正確に狙い、それを躱すため亀は大きな動きでの防御を強いられる。
「何であろうと亀は亀でしかねえンだよ。悔しかったら首でも倍に伸ばしてみな」
元々危険な距離で亀に立ち塞がっていたアーテミシアがさらに距離を詰める。
亀が1歩前に出るだけで超重量がぶつかるが彼女であれば耐えられる。
「この皮膚も中々のモンだな」
ゴブリンと戦ったときですら感じなかった恐怖が亀を襲う。
太い首の真横に回り込んだアーテミシアが戦槌を喉元へ叩き込む。
他と比べれば薄い喉元が凹まされ、被害を防ごうと力を入れてもドワーフの腕力を上回れない。
「剥ぎ取って防具に出来ねえもんか確かめてやる。甲羅もな」
太い首が激しく動く。が、無理矢理に首を曲げて噛みつこうとしても曲がりきらずに無駄に隙をさらすことになる。
(温存は無理か。ならっ)
巨体にデバフが染み渡った魔獣に、十分狙いをつけて漆黒の刃を振り下ろす。
通常攻撃が必殺技じみたアルベルトによる千鳥雷切斬だ。
首が半ば近くまで切断され、しかしまだ最も重要な神経や血管は繋がっていた。
「うおー……?」
竜石の長杖を構えたアルマが変化に気付く。
亀の気配がいきなり薄れた。
同時に、亀の内側で暴れ回っていたエーテルも消えている。
「シューターさん大活躍だねー」
長杖の先に現れた光球を念のためぶつけると、死んだふりなのか死んでからも最後の一撃を繰り出す力があったのかは分からないが、とにかく力が残っていた足を壊されて亀は完全に無力化されたのだった。
●
良いものを見た、と腕を組んで頷くゴブーナは後方祖母面をしている。
主要なスキルを消費した冒険者に襲いかかれば有利に戦えるだろうが、あの若さであれほどの強さの持ち主を不意討ち同然で倒すなど思いつきすらしない。
おお、と喜びの声がこぼれる。
今からゴブーナが全力で逃げても絶対に追いつかれる速度でベルクが向かって来ていることに気付いたのだ。
「今の帝都あたりで生きられる魔獣を引っ張ってくるとか、ふざけるなこの馬鹿ゴブリン!!!」
真実激怒していても芯は冷静なままで、ゴブーナが大技を使っても届かない距離を保っている。
「どうした」
ゴブーナの目には、ベルクが文句を言いにわざわざ危険を冒す人間には見えていない。
「……先触れだ。すぐに行き倒れるつもりがないならあまり暴れるな」
その瞳はゴブーナとは別の冷たさがあった。
アルベルトが黒汗馬を駆けさせゴブーナに向かって来る。
激戦を経ても戦意は十分で、戦闘可能な距離になる前に馬から下りて己の足で加速する。
「意欲は認めるが……」
ゴブーナの表情が沈んでいく。
常にベルクを警戒しつつ、あちこち骨が折れた体を酷使し後退する。
アルベルトの斬撃がハンマーの最も太い部分に刺さり、抜けず、止まる。
ほぼ同時にゴブーナが黒い鎧の腹を蹴り、アルベルトが数歩後ろへよろめいた。
「そこまでです」
シルクが到着する。
見た目は健康的美少女ヒーラーだが、ゴブーナの目には別のモノに映っている。
「今なら治療が間に合いますよ?」
死体じみた瞳がベルクを見る。
ベルクは無言で肩をすくめる。
(世界の広さをこの年で感じるとはな。どういううまれと生き方をすればこうなるのか)
アルベルトが剣を納めるのを見てから、ゴブーナは理解のできない相手からの治療を受け入れた。
「見たところボロボロですが、あの亀だけにやられるほどあなたが弱いとは思えません。その辺の事情を聞いてもよいですか」
フリーダの言動は気さくで、まるで今が平時であるかのようだ。
ゴブーナの瞳が困惑一色に染まる。
(なんだ? 本当になんだ?)
相手の所作から内心まで読めてしまう強者は、優れた実力と理解できない要素を兼ね備えたフリーダに恐怖に近い物を感じた。
警戒して誤魔化そうと自然に考え、傷口が塞がれた感触を改めて意識し思い直す。
「帝都に用があって行った。何があったかは私にもよく分からない」
本当に分からない。
ゴブーナはそれ以上何も言わず、治療前とは別人のような速度で東へ消えていった。
●
「食ってもマズそうだな」
力を活かして甲羅を外しアーテミシアが眉をしかめる。
「今なら砦の近くで全部売れますよ!」
リットの仲間達は、亀の血にまみれながら上機嫌だ。
「亀さんのスープ何人分になりますかね。甲羅も防壁とか防具の素材に使えたりは……」
シルクは医療と薬学についての深い知識と優れた技術があり、怪我人の面倒を見るのは大得意だ。
ヒールが尽きていてもリット達の治療は問題なく行えている。
「好事家に売ってその分のお金で買った方がいいかもだし、危ないかもだからお土産に持ち帰るほうがいいかもしれないよー」
冒険者が希望すれば一部を持ち帰ってもどこからも文句は出ない。リット達では扱いきれないからだ。
そんなことより肉だ。
アルマの黒パカさんと荷馬車だけでは足りないので、荷物を再分配した背中が開いたビヒモーが亀の肉を背負うことになっている。
「リット坊、よくやったとは思うが今より気を付けるんじゃぞ」
「分かってる。今回は本当にやばかった」
リットのその仲間達もベルクの言葉に素直にうなずく。
「ゴブーナさんは、怖い人、なんです、よ、ね? 副官さんたちが、無事だったのは、副官さんの、機転、と。ゴブーナさんが、怪我してた事と、鉄亀の、せい?」
エルは言語化して今回の出来事をまとめ、それを地面に書くことで文字ではなく二次元で出力する。
ゴブーナが帝都から逃げ、逃げるゴブーナを亀が追ってきたことがはっきりと分かった。
「帝都?」
そこに具体的に何がいて何をしているか。
大物の名前は判明しているが詳しい情報については分厚い霧の向こうだ。
「愛は大体のものに勝つのです」
だからいっぱい食べて余裕を持つ必要がある。
シルクが火で亀肉を焼くと、リットを先頭に大勢の若者と子供が集まりささやかな宴が始まるのだった。
なお、空腹とシルクの料理の腕があっても味は平凡だったらしい。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2022年08月31日 09時05分04秒 公開
相談掲示板
No.1
シスターシルクです 亀肉……美味しいでしょうか? 甲羅ももしかして何かの素材になるかも知れませんね 被害が拡大する前に打ち倒しましょう
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 鉄亀をうまく誘導して、ゴブーナにぶつけることは出来ないかな? 上手くいけば鉄亀もゴブーナも倒せるぜ。
ウォリアーのアーテミシアだ 誘導って言ってもオレは移動力2しかねえからな…というか1キロってことは200ヘクスだろ? イケるのか?
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 ゴブーナにぶつけるのは無理だろうな、流石に離れすぎているし、何より弱っていても移動力は同じだ。 鉄亀にぶつけるなら先に足止めをゴブーナに仕掛けねばならなくなるが、そうすると逆に鉄亀の対応が不十分になる可能性がある。 誘導するとしても旧男爵領から見て帝都側に誘導する位にしたほうがいいだろうな。
>鉄亀の誘導 俺が『シーザロア3』を鉄亀に対して掛けて、ゴブーナ方面に逃げるのは駄目か? その間に他の皆がゴブーナの足止めに回るとか・・・ 個人的な意見だけど、ゴブーナが大怪我をしている今がゴブーナを討つ絶好の好機だと思うんだ もし、駄目だと言うなら諦めるけど
ウォーリアのリットだ。よろしくな! 離れた場所(1キロ先)から視線を感じるのは考えたくねぇ……。
No.7
功名心はともかく今回ゴブーナさんに手出しは難しいのでは? リットくん リットくんと亀さん私達の位置関係はトライアングルな感じですかね?
No.8
あと今回に関してはゴブーナさんに追いついた場合私はゴブーナさんを治療します
No.9
リットくん達にはこちらに走って来てもらいそのまま我々の後ろに駆け抜けてもらったほうがいいですかね? 私達は逆に隊列を崩さぬままに亀さんを待ち受け集中砲火を
・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む さすがに1キロは誘導するにしても厳しいだろうから正直諦めたほうがいいと思う。 リット達はシルクの言う通り可能なら俺たちがわに逃げてもらって、俺たちが待ち構えるでいいと思うが、追いつかれるのは避けたいからビヒモーの移動力次第だな。 こちらに逃げ切るまでに追いつかれるようならこちらから向かう必要があるだろうし
了解した。 仕方がないが今回はゴブーナ撃破は諦めるか・・・ ところでリットに2つ質問だが、リット達の移動力はどの位あるんだ? 移動力によってリット達が鉄亀に追いつかれる可能性があるから、待ち構えるか鉄亀に向かって行くか方針が変わるからな。 あと、ゴブーナが逃げている方向は分かるか?リットを逃がすのに、ゴブーナに近づく様な方向を指示したくはないからな。
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 帝都の方から来ました!なつよつよ鉄亀さん 追いつかれる寸前って説明のわりに距離300メートル(60へくす?)は 割と余裕ありそうな気がしないでもないー…けど、ビヒモーさんの足回りが問題なのかなあ 状況しだいだけど降ろして移動力が増すならお荷物パージの指示を出すのもアリー…? あとは鉄亀さんの最大サイズが5メートルならギリギリ光縛封に収まるし 閉じ込めてる間に足並みそろえてインフィニティロアで全体支援してから袋叩きー… ないめーじで考えてるよ
まあ、オレは足止めかつ盾にやること絞る。ある程度チャージングでダッシュしてビヒモーから引き離したところで接敵したいところだな
エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 追い付かれる寸前、とある、から。何もしなければ、追い付かれる移動力、なのかも、です、ね? 速くなれる事は、やった方がいい、とは、思い、ます。 わたしは、とりあえず、攻撃…。 BSとか、効くといい、です、けど。
【回答】 全力を出せて移動3かなぁ。荷物を捨てるとかするのにも時間かかるし。 俺だけだと移動4だぜ。 例のゴブリンのいる方向は、俺だけでなくみんな分かると思う(ゴブーナに近付くように移動する、ゴブーナから離れるように移動する、という表現で問題なく行動可能です MSより)
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 まずは何より追いつかない事には始まりませんね。 幸い敵は物理攻撃一辺倒な相手ですし、一度補足して攻撃対象をこちらに移してしまえば、 ウォーリアの人数的に壁にも困らないでしょう。 とりあえずこちらも足止め盾役として行動を考えています。 >ゴブーナ 亀を誘導するのは流石に難しいとは思いますが、 少数の味方で追撃に走るという手もありかもしれません。 幸い相手も手負いですし、人数次第では確保まで行けそうです。 その場合、亀対応の味方に負担をかけてしまう形にはなりますが……
リット、回答ありがとう。 これは、リット救出のためにはこちらから鉄亀の方に向かって行ってリットと鉄亀が接敵する前に、俺達が鉄亀に接敵する必要があるな。 リットにもう一つ質問だけど黒汗馬って移動力はどのくらいあるんだ?(もしご存じの方がいるならご教示願います)
【回答】飼い主が分からないなら俺には分からないよ……。誰がどう乗っているかにもよるんじゃないかな。