【生祝】灯火と共に祝杯を〜新暦1222年8月〜
一乃口
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シナリオID:2415
オープニング
エラトゥーン都市同盟の北東にある古都、エスト・ポーラ。
そんな古い港町の中にある豪商のひとつ、アルアータ商会の建物の一室。
パトラ=L=アルアータが羊皮紙の報告書をそれぞれ見比べ。
「はぁ」
大きめのため息を付いて羊皮紙を机上へと放る。
それはアルアータ商会が出資しているあるグラス工芸品の業績に関する報告書だ。
エスト・ポーラの中ではそれなりに知名度があるし、相応のオーダーが外からもあるのだが。
景気が良い、とは言えない。所謂、赤字の報告であった。
ため息の理由には充分である。
あまりに結果を出せていない事業には、資金を向け続ける事はやはり難しい。
同じアルアータ商会の中でもパトラの”次席”と言う存在が居る訳で――パトラが起因の業績不振とは、そう言った派閥に見られる訳だった。
パトラ個人としては昔から好きなこのグラス工芸に関わっていたい。
直ぐに結果が出ないからと手離すのも早計だと、周りに強気で言ってはいるのだが。
(何か策を講じねばなりませんわね)
商売人としての気質と、自身の矜持に身を振りがちな紫色の瞳が遠くへ向く。
一考を経て、一旦時間切れを迎える。
その表情は明るくはない、問題を打開する具体案は浮かばなかった。
次に見た報告書は、桃園に纏わるモノだ。その中で桃園の評判は良く、農家からの感謝も含め好印象が強い。
最初期の出荷の遅れを取り戻せる程に盛況だった。桃園の件など、今までにアルアータ商会に無かった動きでパトラは評価されていく。
(まぁ、先ずは――)
別件で貸し切った、店舗費用の採算を計算する。
投資とは、直ぐに結果が出るものではないのだと常々実感を改める。
ふと、別件の不振と、桃園の盛況具合がパトラの目に留まった。
「そうですわ、この組み合わせがありますわね――」
パトラは冒険者ギルドを通じ、冒険者に参加を募る。
それは、8月に生誕を迎えた冒険者の祝いの席と。
ある民芸品工房と、その作品を飾るアルアータ商会が出資する庭園への招致だった。
そんな古い港町の中にある豪商のひとつ、アルアータ商会の建物の一室。
パトラ=L=アルアータが羊皮紙の報告書をそれぞれ見比べ。
「はぁ」
大きめのため息を付いて羊皮紙を机上へと放る。
それはアルアータ商会が出資しているあるグラス工芸品の業績に関する報告書だ。
エスト・ポーラの中ではそれなりに知名度があるし、相応のオーダーが外からもあるのだが。
景気が良い、とは言えない。所謂、赤字の報告であった。
ため息の理由には充分である。
あまりに結果を出せていない事業には、資金を向け続ける事はやはり難しい。
同じアルアータ商会の中でもパトラの”次席”と言う存在が居る訳で――パトラが起因の業績不振とは、そう言った派閥に見られる訳だった。
パトラ個人としては昔から好きなこのグラス工芸に関わっていたい。
直ぐに結果が出ないからと手離すのも早計だと、周りに強気で言ってはいるのだが。
(何か策を講じねばなりませんわね)
商売人としての気質と、自身の矜持に身を振りがちな紫色の瞳が遠くへ向く。
一考を経て、一旦時間切れを迎える。
その表情は明るくはない、問題を打開する具体案は浮かばなかった。
次に見た報告書は、桃園に纏わるモノだ。その中で桃園の評判は良く、農家からの感謝も含め好印象が強い。
最初期の出荷の遅れを取り戻せる程に盛況だった。桃園の件など、今までにアルアータ商会に無かった動きでパトラは評価されていく。
(まぁ、先ずは――)
別件で貸し切った、店舗費用の採算を計算する。
投資とは、直ぐに結果が出るものではないのだと常々実感を改める。
ふと、別件の不振と、桃園の盛況具合がパトラの目に留まった。
「そうですわ、この組み合わせがありますわね――」
パトラは冒険者ギルドを通じ、冒険者に参加を募る。
それは、8月に生誕を迎えた冒険者の祝いの席と。
ある民芸品工房と、その作品を飾るアルアータ商会が出資する庭園への招致だった。
解説
●解説
アルアータ商会が出資するグラス工房と、その作品を扱う庭園、レストランへの招待状が冒険者ギルドに掲示されました。
8月に生誕を迎えた冒険者のお祝いを兼ねた祝会です。
依頼人でもあるパトラも【1】の視察と【3】の会場に顔を出します。
●日中
【1】グラス細工を作る。
モザイクランプ等を作る工房、カラーグラスを使った工芸品を作る体験会。ペン立て、ステンドグラスパネル。
またカラーグラス使用したアクセサリーを作る事が可能です。
ランタンや蝋燭を入れるモザイクランプを作りを楽しめます。
デザインを決めれば、職人さんが作業をしてくれますが、暑くても焼き場まで! と言う方は大歓迎です。
●夜
【2】庭園で過ごす。
モザイクランプの淡い雰囲気を堪能できる庭園。ガゼボやベンチの近くに作品の数々が展示されている。
庭園の中央にある池とベンチであれば水面に映るモザイクランプも楽しめます。
散策や憩いの一時にどうぞ。
【3】
モザイクランプの淡い雰囲気やグラスパネルを楽しみながら飲食が出来るレストラン。
平素としては、ランプの灯りを楽しめるように暗めの店内だが、お祝いの為に飾り付けも可。
酒類、果汁水、誕生日ケーキ等の提供。
エスト・ポーラの畜産牛の肉料理、おすすめはステーキ料理。がっつりお食事から軽食まで。
マスターより
8月に誕生日な冒険者の皆様、誕生日おめでとうございます!
7度目まして! 一乃口です。
前回微妙にカウントミスしました、すみません。(全力五体投地)
2回目のイベントシナリオになります! ここはカウントミスりません!
今回も会場は、エスト・ポーラです。
NPCのパトラも会場に居りますが、プレイングでお呼ばれしない限り空気になります。
9月は特に要望がない限りエスト・ポーラから離れない……いや、どうかな未定です!
リプレイ
エラトゥーン都市同盟の北東にある古都、エスト・ポーラ。
古い港街であるその街は、港の増改築が幾度となく行われた為に独特な景観を有している。
今回、冒険者の皆々が招待されたのは、そんなエスト・ポーラの中では比較的新しい部類にあたる工芸品工房。
アルアータ商会が出資しているガラス工芸のある場所になる。
「工房の見学希望者は……以上ですわね」
紫色の瞳を羊皮紙に落としていたパトラ=L=アルアータが視線を上げる。
「久し振り、パトラ嬢」
その上げた視線を待って居たようにルーンス・ラグネルが微笑みながら手を振っていた。
明るい緑の瞳が年相応な柔らかさで向けられる。
「久しぶりですわね、そちらの方は――」
パトラは挨拶の傍ら、ルーンスの隣に立つもう1人へと視線を送った。
「ヴィナスです。よろしくね」
ヴィナスと名乗る金髪で緑色の明るい瞳、その面貌にパトラの中で勘のようなものが働くのとほぼ同時。
ヴィナスはパトラの方へ数歩、歩み寄って。
「……そして、次期会頭の兄ルースです。はじめまして」
小声の自己紹介、パトラはその挨拶を経て、「なるほど」と先刻よぎった勘の正体へと思い至る。
パトラ自身は一人っ子だったからこそか、兄弟と言う独特な雰囲気には敏感であった。
挨拶をそこそこにヴィナスはルーンスの元へと歩んで行く。
そんな様子を遠巻きに見守る形になったルイドは、少し退屈な思いをしそうになっていた所だった。
パトラがそれに気づいたかはさておき。
「今回も来てくれたのね」
パトラはルイドへと礼を告げる、こちらこそとルイドはぶっきらぼうなりの礼儀を込めて話す。
「今回も冒険者への招待感謝、ってことで」
灰色の瞳と紫玉の瞳がパトラへと向けられる、日和良い日差しを吸い込むような黒い髪が吹いた風に揺れた。
「えぇ、今回も是非楽しんでいらしてね」
パトラの中では、エスト・ポーラを気に入った冒険者の1人、ルイドだと記憶されつつあった。
工房への道すがら、これから向かうグラス工房の成り立ちや、それらに纏わる話と案内をするパトラ。
その後を工房体験希望者の3名が続く。
取引先としてリブラネスタが最も多い――と、パトラの中ではそれが優位な点である認識の為、嬉々として語り。
(アルアータ商会の次期後継ってリブラネスタ嫌いだったような?)
説明の中でリブラネスタに対して口にしたパトラの声色を聞いたヴィナスは、そんな次期後継の様子に首を傾げる。
が、その後のリブラネスタの商人に自慢できた件が、パトラの口から出て納得した。
レンガ造りの工房へと四者は辿り着く――。
独特なニオイが鼻を付く、この中で一番そう言ったニオイに慣れていないルイドが少しだけ眉根を寄せた。
「うちはミルフィオリやエマイユが得意な工房が多いから、こちらも興味あって――」
ルーンスが少し足早にそう言うと工房の奥へと進んでいく。
それを追うようにヴィナスが続く。
「幼馴染の誕生日が20日なんだ」
ルーンスの言葉に、ヴィナスだけがその言葉に納得の行く表情をして、パトラとルイドには誰の事か解らなかったが、誕生日を祝いたい間柄なのだと言う断片的な情報に関心を示す。
色々と事情の入り組んだ間柄のような言葉端はさておき、パトラが工房の中へと案内を続ける。
工房の中は、外の気温とはまた質の違う熱量が充満している。
パトラは苦手では無いが、長くは居られない。
強烈な熱気が吸う空気を経て喉を刺激するようだった、職人達への挨拶と冒険者達の紹介を終えるとパトラは退避した。
そして、ルーンス、ヴィナス、ルイドのガラス工芸体験が始まった。
ルーンスは件の幼馴染の彼女へと贈る品を作る、そういうイメージが固まっている彼は自然と目当てのカラーグラスを手に取る。
彼女の誕生日石の色と、自身の誕生日花の色と組み合わせ。
丁寧に、そのひとつひとつを組み合わせ、焼き場に入れても形が崩れぬように手を加える。
そんなルーンスの真剣な横顔をヴィナスは眺めながら、自身との比較をしていたようだ。
(弟の贈り物って……人のこと言えないけど独占欲強いな)
手元の組み合わせの意図を推し量れる、ヴィナスならではの感想だった。
(俺にとっても幼馴染だし、贈り物にモザイクランプを作ろう)
ヴィナスはそんなルーンスが作っている手元の品を見て、その要素を織り交ぜつつ、見て直ぐに気付かないようなバランスで整える。
弟と幼馴染への思いと、それらを見守る彼なりの心配りが垣間見える。
ルイドはそんな二人の作業の様子を――意識できない程に集中して取り組んでいた。
手慣れていない自身が作るとしたら、シンプルなモノがいいだろう。
チョイスしたのはモザイクランプ、ソコを決めたら後はデザイン――集中力とインスピレーションが導き出したのは『エスト・ポーラ』のイメージがルイドの脳裏に過った。
港町から湧いて来たイメージのカラー、水を見立てたグラスを選ぶ。
触れたグラスの鋭利さには注意を払いつつ、サイズのちょっとした違いや確度、選ぶグラスが立てる高い音が何度も鳴った。
できそうなら波紋模様風に、と灰色と紫玉の瞳が可能な限りへと挑む。
細い白色のグラスを適度に割って、青と組み合わせる――その繊細な作業を淀み無く行うルイド。
ルイドの後ろで職人の一人が感嘆を漏らした事にルイドは気付かなかった。
集中力を高めた彼の指先は、頭の中のイメージへと手元のグラス達を近付けて行く。
赤い――。
焼き付く赤が、力強い熱量が赤々と滾り、皮膚を刺すように燃える。
三者三様の作品達は、そのそれぞれだった形状がひとつになるように火へとくべられていく。
手本を見せた職人に倣って、自作した品々を窯へと納めて行く。
その作品の完成へと馳せる思いは、この炎よりも熱いのかも知れない。
既定の時間加熱されたソレの完成と出会えるまで、熱をじっくりと引かせるために砂の中へと投じられた。
完成には、まだしばらくの時間を要する。
ヴィナスは職人達の仕事振りを「美しい」と称える、照れ臭そうにする職人達はそんな彼の飾らない誉め言葉に気をよくして、他の仕事を見せると工房の奥へ案内した。
その間にルーンスが職人達にグラスの強度に関した質問をし、改善策と見た目のバランスに関する話が互いに行き交う。
職人との話に折が付いた頃、ルーンスが「そう言えば」とパトラへと水を向けた。
輸送に関する話である。
強度の話題と、自然と重なる所が前面に現れる。
大きさと一度に運搬が可能な量、大掛かりな物へと力を入れていたパトラの、野心的な部分が顕になる。
ルーンスとパトラでは互いに展望への視点や段階的な価値観は異なったと言えるだろう。
ルイドがその話を関心半分に聞き流しながらお茶をおかわりするのに飽きた頃、グラスの熱が引いたと職人から声が掛かった。
焼きあがったカラーグラスを組み立て完成した『エスト・ポーラをイメージしたモザイクランプ』がルイドの前に形を成す。
器用に組み上げられたモザイクランプのデザイン、その風景の印象に合点が行く者は静かに賞賛を送る。
職人から筋が良いと褒められたルイドの表情は普段より明るく見えた。
ルーンスの作品、それはルビーのように赤いカラーグラスで四葉のクローバーを象ったペンダント。
その出来を確かめるように、陽に翳す。
ヴィナスもまた完成したモザイクランプを組み立て終えた所だった、贈り物として丁重に収納されて行くその品。
再び人目に付くのは、贈られた人の目に触れる時だろう。
●
日が沈んだ頃、招待された他の冒険者達が工房からそう遠くない庭園とレストランへと招かれて行く。
パトラは「この風景がよく見える場所はあるか」とモザイクランプのデザインを見せるルイドに問われ、心当たりを答えた。
その返事にルイドは短く彼らしい礼をパトラへ告げると工房を後にする。
ルイドはその灯りと実際の風景を楽しめた事だろう。
庭園へ足を運んだ四人がそれぞれにその様子へと思い思いの言葉を紡ぐ。
キリアン・フィッツジェラルドが見回したガゼボやベンチ。灯りの灯されたモザイクランプが照らす風景に感嘆を漏らす。
蒼の双眸が、その光景を見て芸術的な場所だと感じた。
「これはなかなかロマンチックですね!」
カミンル・マオの赤い瞳がランプに負けないくらい輝いて辺りをキョロキョロと見回す。
続く女子よりテンションの高い彼女――いや、彼の女子力はとても高く、乙女アピールに余念が無い。
気になったガゼボを見付けると「あそこに行きましょう!」と皆を先導するように駆ける。
キリアンがそれを嗜めながら、振り向く。そこにはイーティルとアドルフ・ジーノの2人の姿があった。
青い瞳に銀の髪、対照的な褐色の肌を持つ狼の女性ハーフビースト、イーティル。
その隣には青い瞳に黒い髪を持つハーフリングのアドルフ、その歩幅に併せて散策を楽しんでいる2人を気に掛けるキリアン。
早く行きましょうと手を振るカミンル。
そんな様子にアドルフは何だか嬉しくて微笑んだ。
訪れたガゼボの中に飾られたモザイクランプの灯りをカミンルに追い付いたイーティルやキリアン、アドルフが楽しむ。
ガゼボの灯りは中央でまた別の模様に見えるように配置されている。
ふと、天井を見上げたイーティルがその頭上の灯りも模様になるように作られている事に気付く。
そういった作品を作った者の気持ちを想像する事も、楽しみのひとつだと彼女は思って居る。
静かな時間を過ごす――と思えばカミンルが次の場所へとみんなを手招いて居た。
ガゼボから出てカミンルが皆を呼んだ場所は、湖の傍らにあるベンチだった。
「こっちです! すごくロマンチックですよ!」
呼ぶカミンルの声がとても楽しそうだ。
モザイクランプの灯りに照らされたベンチ。
そして湖にはモザイクランプの灯りが水面に映っている。
「ロマンチックとはまさにそのとおりだねえ」
イーティルがそう言うと、キリアンも同意を示す。
「カミンルさんのロマンチストも頷ける所があります。男ですが」
「男だってロマンチストでもいいじゃないですか! それよりベンチですよ、折角だからみんなで座りましょう」
キリアンの最後の一言にカミンルが唇を尖らせて言いながらベンチへと皆を促す。
「ねぇ、見てみて! 普段は見上げる夜空がこんなにも手が届きそうだよ」
アドルフの青い瞳が星のように輝きながら手を伸ばす。
そんな様子に手を貸したいカミンルだが、両サイドにイーティルとキリアンが居て手が届かない。
「キリアンさん、膝が余ってますがいかがでしょうか!」
「えっ」
膝をぽんぽんと叩くカミンルの動作に、意を汲み取った聡明なキリアン。
キリアンが姿勢を倒せばアドルフまで手を伸ばせるのではと、カミンルは思った。
(僕みたいにガタイのいい人が膝枕されるというのも、ちょっぴり恥ずかしいような)
キリアンが逡巡している間に、カミンルが今度はイーティルに向かって声を掛ける。
「イーティルさんにはもう片方のお肩を!」
その様子をみたアドルフは、こういうベンチでは肩を寄せ合うものだと聞いた気がしたので、伸ばしていた腕を引っ込めて。
逡巡中のキリアンの横に座り直して詰め寄った。
少し驚いた声を上げたキリアンが、丁度イーティルが肩に寄って来たカミンルとさらにむぎゅっと寄せ合う形となる。
ひとつのベンチで四人、身を寄せ合って。
キリアンは改めて水面に映ったモザイクランプの灯りを見て、芸銃的な庭園だと思った。
誰かのお腹が不意に鳴る。
ぷっと笑い声が漏れると、それを合図にみんなで笑う。
そろそろレストランに行こうとみんなでベンチから立ち上がると足を向けた。
●
レストランに四人が着いた頃には、先客達の料理が既にテーブルに並んでいた。
お腹が空いてくると、その室内に漂う香りがより一層美味しそうに感じてしまうのも仕方がない。
給仕の丁寧な案内で四人は向かい合ったテーブル席へと通されて行く。
庭園のように飾られたモザイクランプが店内を照らす。
メインの照明にも、散りばめられたそのグラス工芸が店内を彩っていた。
先にグラス工房を後にしてレストランへ足を運んでいたルーンスとヴィナス。
テーブルの上には、ルーンスのオーダーでステーキサンドと付け合わせにフライドポテトとトマトスープがそれぞれに並ぶ。
そして乾いた喉のお共に桃の果汁水。
ルーンスが向かいの席に座る、ヴィナスと共に歓談と食事を楽しんでいた。
話題は日中についての意見交換を交わす事が中心となった。
ヴィナスは弟であるルーンスと同じメニューを頼んでいたのだ、弟のオススメと聞けば桃の果汁水も興味が湧く。
話題の色が商人気質に変わったころ、各テーブルの様子を見に来たパトラが近くを通ったのでヴィナスは呼び止める。
兄弟の歓談を邪魔しないように考えて居たパトラは少し戸惑うも、直ぐに調子を戻す。
「なにかしら?」
ヴィナスは昼間見学したグラス工房を見て来た上で、弟との会話のなかで湧いたアイデアを伝える。
「ガラスペン、ガラスの刻印があると購入者層広がるかも、とね」
「――そう、ですわね。持ち帰って検討しますわ、ありがとう」
ヴィナスの提案を、身に付けたベルトポーチから取り出した紙にメモとして残すパトラの後ろ姿は、ルーンスからはよく見えていた。
四人のテーブル席に料理が次々と運ばれてきて、それぞれがその一皿へと瞳を輝かせた。
見た目にも美味しそうな肉厚のステーキ、焼き加減の好みにも合わせたその肉がステーキカバーの内側で勢いの良い音と共に肉汁を躍らせる。
冒険者のフィジカルを思えば、皆がお勧めのステーキを頼んで居る事に違和感は無い。
料理を運び終えた給仕や、実のところ様子を視察しているパトラの目にも、男一人、女三人といったテーブル席。
キリアンの姿は「モテる男子」とその瞳に映って居そうな風景であった。
カミンルが果汁で見知った桃や他のフレーバーにも目を輝かせ、アドルフのテーブルにはミルクが並ぶ。
イーティルは以前、三人が食べた桃の話題が出た折りに飲み物に桃の果実水を注文してみる。
話題の中心にいるカミンルが女子会トークの雰囲気に引っ張っている印象。
(気分は女子会ですね……男三人女一人ではあれど)
役目を終えたステーキカバーを外して、育ちの良さを思わせる所作でステーキをカットしながらキリアンは思った。
その事実を知ったらレストランの従業員やパトラは驚く事だろう。
「皆の誕生日はいつなの!」
カミンルがステーキをひとくち味わったあと、また話題を振ってくれる。
「僕の誕生日は12月と、まだまだ先の話ですね」
キリアンが言うと「ちなみに僕の誕生日は1月5日です!」と被せ気味なカミンル。
控え目にアドルフが「僕は3月だよ」と言うと、そんな様子をイーティルは微笑ましく見守りながら自身へと視線が向いた事に気付く。
「ワタシの誕生日は10月だからまだ少し先だねえ」
ステーキを頬張る、焼き加減と肉汁の美味さを堪能している、隣の席のアドルフの視線に揺れる白い尻尾が見えた。
向かいの席でカミンルがキリアンに、相変わらずあーんをねだって、キリアンも普段のように返してからひとくち運んであげた。
揺れるイーティルの尻尾の次に目を引いたその様子、ついじっと見つてしまうアドルフ、その瞳がカミンルとあった。
「え? あーんで食べさせてほしい!? はい、よろこんで!」
カミンルはアドルフの様子を見て「あーんして欲しい」と思った、思ったら即行動だった。
切り分けたステーキがアドルフの口元に運ばれてきて。
「あっ……あ、あーん」
ちょっとの恥ずかしさからか、少しためらって開かれたアドルフの控えめなお口にステーキが頬張られる。
食べさせてもらえたステーキは、自分のとどこか違うのだろうか。
もぐもぐとしながら、アドルフはちょっと考えた。
「では、次はワタシからもあーんしてあげよう」
一口を食べ終えたアドルフを見計らって今度はイーティルがアドルフへとあーんをし始めて。
一度食べさせて貰えたら、もう大丈夫かなっと思って居たアドルフはあわあわと面喰い。
その様子に「僕にもして欲しいです!」とカミンルが言えばイーティルが矛先をカミンルへと変えた。
そんな流れから互いに食べさせ合うと言う流れに発展し出すもキリアンもやれやれと口で言うが乗って来る。
ステーキを堪能し終えた四人のテーブルには食後のデザートとしてケーキが並び、より一層女子会らしく……。
仲良し達の一見女子会は賑わしく続いた。
そう、女子会である。
そんな賑やかなテーブル席とは少し距離がある二人掛けのテーブル、と言っても十分な広さのある席で向合った二人。
スー・ルーとパヴェル・A・サムルガチェフ。
互いに220cmという高身長である、そんな二人が快適に過ごせるように椅子やテーブルにも気を配り準備された。
店内のモザイクランプもそれなりの大きさであったが、二人に取っては座った高さからでも少し低い目線に映る工芸品と言った所だろう。
卓上のモザイクランプの方が、小さい分精工な作りで灯す灯りにそのグラスの色をテーブルクロスに映す。
そちらの方がパヴェルには綺麗に思えた。
グレーの髪に橙色の瞳で、向かいに座ったスー・ルーへと視線を向け直したパヴェル。
友として親しい彼が、今日ここへ自身を呼んだ事に、依頼の主旨から悟ってはいても表に出さぬように問うた。
「今日は、どうしたんだ?」
スー・ルーへ向けたパヴェルの視線。
何時もなら溢れんばかりの威勢の良さで返って来るであろう返事が、向けられるであろう翠緑の瞳が逸らされがちである事にパヴェルも不思議な気持ちを抱く。
「俺の故郷には、そんな風習なかったんだ」
途中途中、スー・ルーにしては珍しく歯切れの悪い言葉で続く話を、パヴェルは聞き溢さないように耳を傾けた。
その言葉は、パヴェル自身にとってもそうだったし、逆の立場ならばとも考えただろう。
ほらよ、とスー・ルーが一片の手紙をパヴェルへと差し出した。
パヴェルはその手紙を受け取って「読んでもいいか?」と聞けば、何時ものような勢いある返事が返って来る。
ゆっくりとその手紙を開く。
誕生日おめでとう、パヴェル・A・サムルガチェフ――。
そう書いてあると、パヴェルにだけ判読できただろう、続く友の思いを綴った言葉はパヴェルの心を奥から温かいものを沸かせる。
スー・ルーの文字はお世辞にも綺麗とは言えない。
それでも一番親しいと感じているパヴェルの誕生日を祝うと決めて慣れないペンを取った。
心が躍る。
それは言葉で知って居たとしても、心から理解できるほどの感動を得られる者は少ないのだと。
パヴェルはその手紙を何度も読みながら、実感した事だろう。
「登録するときに書いたろ、聞いたら教えてくれたぜ」
気恥ずかしさを誤魔化すように言うスー・ルー。
そんな友人の様子に、パヴェル自身も気恥ずかしさと照れが隠しきれずに居た。
彼もまた誕生日はあまり意識したこともなく、祝われることも珍しい事だったのだから。
噛み締めるようにその手紙を大事にして。
その手紙を、自身を祝おうと思って行動してくれた友人に、パヴェルは取り繕う事も忘れて顔を上げる。
「ありがとう――」
スー・ルーはパヴェルのそんな顔を見て、やっといつもの笑顔を取り戻す。
気恥ずかしさを連れ去ってくれと言わんばかりに、酒がテーブルに並んだ。
パヴェルは上機嫌にグラスを傾け、嬉しそうに、美味しそうにそのグラスを開けた。
その豪快な飲みっぷりに、スー・ルーは過去の苦い思い出をふっと思い返した。
誤って口にした酒の味。
舌に感じた痺れるような感覚は、それまでの価値観では毒と同等であった。
そう思ってからの、これまでにおいては酒を嗜もうとも思わなかったが。
目の前の、友が美味そうに飲む酒なら――違うかもしれない。
「俺にもくれ」
スー・ルーの言葉にパヴェルは少しだけ意外そうな表情を少し向けたあと、快諾して予備のグラスを手渡すとそのまま酌をする。
そのグラスに入った酒を見るスー・ルー。
親しい友が好きな物であれば、好きになれるかも知れない――好きになりたいと思う。
そんな友人の心中を察してかは定かではないが、パヴェルは自身のグラスをスー・ルーへと向けて腕を伸ばす。
スー・ルーも、それまで飲まなかったが、その光景だけは見聞があった。
「「乾杯――」」
高い音を短く鳴らす、モザイクランプに照らされた酒杯は色を移り変えさせながら、傾く。
「……悪くねぇ。ホントだ、飲めるしな」
飲みなれない酒に、あまり見ない友人の表情を見たパヴェルは、それを肴に酒を呷った。
テーブルに空いた酒瓶がいくつか転がり出した頃、スー・ルーはハッキリしてる内にと給仕へと合図を送った。
恥ずかしさを忘れて気持ち良く酔っぱらいつつあったパヴェルは、その様子をぼんやりと目で追った。
戻って来た給仕が、大事そうに運んで来たそれをスー・ルーが受け取る。
何か見えぬよう掛けられた手巾を取り払う。
「誕生日おめでとうだ」
猫をモチーフにしたガラス製のペン立て。
スー・ルーがパヴェルが猫を飼っているから、好きなんだろうと思って選んだ誕生日プレゼントだ。
パヴェルは再び”心が躍る”思いを――実感する。
今なら、取り繕えなくなったとしても、酒に酔ったせいに――できるだろう。
古い港街であるその街は、港の増改築が幾度となく行われた為に独特な景観を有している。
今回、冒険者の皆々が招待されたのは、そんなエスト・ポーラの中では比較的新しい部類にあたる工芸品工房。
アルアータ商会が出資しているガラス工芸のある場所になる。
「工房の見学希望者は……以上ですわね」
紫色の瞳を羊皮紙に落としていたパトラ=L=アルアータが視線を上げる。
「久し振り、パトラ嬢」
その上げた視線を待って居たようにルーンス・ラグネルが微笑みながら手を振っていた。
明るい緑の瞳が年相応な柔らかさで向けられる。
「久しぶりですわね、そちらの方は――」
パトラは挨拶の傍ら、ルーンスの隣に立つもう1人へと視線を送った。
「ヴィナスです。よろしくね」
ヴィナスと名乗る金髪で緑色の明るい瞳、その面貌にパトラの中で勘のようなものが働くのとほぼ同時。
ヴィナスはパトラの方へ数歩、歩み寄って。
「……そして、次期会頭の兄ルースです。はじめまして」
小声の自己紹介、パトラはその挨拶を経て、「なるほど」と先刻よぎった勘の正体へと思い至る。
パトラ自身は一人っ子だったからこそか、兄弟と言う独特な雰囲気には敏感であった。
挨拶をそこそこにヴィナスはルーンスの元へと歩んで行く。
そんな様子を遠巻きに見守る形になったルイドは、少し退屈な思いをしそうになっていた所だった。
パトラがそれに気づいたかはさておき。
「今回も来てくれたのね」
パトラはルイドへと礼を告げる、こちらこそとルイドはぶっきらぼうなりの礼儀を込めて話す。
「今回も冒険者への招待感謝、ってことで」
灰色の瞳と紫玉の瞳がパトラへと向けられる、日和良い日差しを吸い込むような黒い髪が吹いた風に揺れた。
「えぇ、今回も是非楽しんでいらしてね」
パトラの中では、エスト・ポーラを気に入った冒険者の1人、ルイドだと記憶されつつあった。
工房への道すがら、これから向かうグラス工房の成り立ちや、それらに纏わる話と案内をするパトラ。
その後を工房体験希望者の3名が続く。
取引先としてリブラネスタが最も多い――と、パトラの中ではそれが優位な点である認識の為、嬉々として語り。
(アルアータ商会の次期後継ってリブラネスタ嫌いだったような?)
説明の中でリブラネスタに対して口にしたパトラの声色を聞いたヴィナスは、そんな次期後継の様子に首を傾げる。
が、その後のリブラネスタの商人に自慢できた件が、パトラの口から出て納得した。
レンガ造りの工房へと四者は辿り着く――。
独特なニオイが鼻を付く、この中で一番そう言ったニオイに慣れていないルイドが少しだけ眉根を寄せた。
「うちはミルフィオリやエマイユが得意な工房が多いから、こちらも興味あって――」
ルーンスが少し足早にそう言うと工房の奥へと進んでいく。
それを追うようにヴィナスが続く。
「幼馴染の誕生日が20日なんだ」
ルーンスの言葉に、ヴィナスだけがその言葉に納得の行く表情をして、パトラとルイドには誰の事か解らなかったが、誕生日を祝いたい間柄なのだと言う断片的な情報に関心を示す。
色々と事情の入り組んだ間柄のような言葉端はさておき、パトラが工房の中へと案内を続ける。
工房の中は、外の気温とはまた質の違う熱量が充満している。
パトラは苦手では無いが、長くは居られない。
強烈な熱気が吸う空気を経て喉を刺激するようだった、職人達への挨拶と冒険者達の紹介を終えるとパトラは退避した。
そして、ルーンス、ヴィナス、ルイドのガラス工芸体験が始まった。
ルーンスは件の幼馴染の彼女へと贈る品を作る、そういうイメージが固まっている彼は自然と目当てのカラーグラスを手に取る。
彼女の誕生日石の色と、自身の誕生日花の色と組み合わせ。
丁寧に、そのひとつひとつを組み合わせ、焼き場に入れても形が崩れぬように手を加える。
そんなルーンスの真剣な横顔をヴィナスは眺めながら、自身との比較をしていたようだ。
(弟の贈り物って……人のこと言えないけど独占欲強いな)
手元の組み合わせの意図を推し量れる、ヴィナスならではの感想だった。
(俺にとっても幼馴染だし、贈り物にモザイクランプを作ろう)
ヴィナスはそんなルーンスが作っている手元の品を見て、その要素を織り交ぜつつ、見て直ぐに気付かないようなバランスで整える。
弟と幼馴染への思いと、それらを見守る彼なりの心配りが垣間見える。
ルイドはそんな二人の作業の様子を――意識できない程に集中して取り組んでいた。
手慣れていない自身が作るとしたら、シンプルなモノがいいだろう。
チョイスしたのはモザイクランプ、ソコを決めたら後はデザイン――集中力とインスピレーションが導き出したのは『エスト・ポーラ』のイメージがルイドの脳裏に過った。
港町から湧いて来たイメージのカラー、水を見立てたグラスを選ぶ。
触れたグラスの鋭利さには注意を払いつつ、サイズのちょっとした違いや確度、選ぶグラスが立てる高い音が何度も鳴った。
できそうなら波紋模様風に、と灰色と紫玉の瞳が可能な限りへと挑む。
細い白色のグラスを適度に割って、青と組み合わせる――その繊細な作業を淀み無く行うルイド。
ルイドの後ろで職人の一人が感嘆を漏らした事にルイドは気付かなかった。
集中力を高めた彼の指先は、頭の中のイメージへと手元のグラス達を近付けて行く。
赤い――。
焼き付く赤が、力強い熱量が赤々と滾り、皮膚を刺すように燃える。
三者三様の作品達は、そのそれぞれだった形状がひとつになるように火へとくべられていく。
手本を見せた職人に倣って、自作した品々を窯へと納めて行く。
その作品の完成へと馳せる思いは、この炎よりも熱いのかも知れない。
既定の時間加熱されたソレの完成と出会えるまで、熱をじっくりと引かせるために砂の中へと投じられた。
完成には、まだしばらくの時間を要する。
ヴィナスは職人達の仕事振りを「美しい」と称える、照れ臭そうにする職人達はそんな彼の飾らない誉め言葉に気をよくして、他の仕事を見せると工房の奥へ案内した。
その間にルーンスが職人達にグラスの強度に関した質問をし、改善策と見た目のバランスに関する話が互いに行き交う。
職人との話に折が付いた頃、ルーンスが「そう言えば」とパトラへと水を向けた。
輸送に関する話である。
強度の話題と、自然と重なる所が前面に現れる。
大きさと一度に運搬が可能な量、大掛かりな物へと力を入れていたパトラの、野心的な部分が顕になる。
ルーンスとパトラでは互いに展望への視点や段階的な価値観は異なったと言えるだろう。
ルイドがその話を関心半分に聞き流しながらお茶をおかわりするのに飽きた頃、グラスの熱が引いたと職人から声が掛かった。
焼きあがったカラーグラスを組み立て完成した『エスト・ポーラをイメージしたモザイクランプ』がルイドの前に形を成す。
器用に組み上げられたモザイクランプのデザイン、その風景の印象に合点が行く者は静かに賞賛を送る。
職人から筋が良いと褒められたルイドの表情は普段より明るく見えた。
ルーンスの作品、それはルビーのように赤いカラーグラスで四葉のクローバーを象ったペンダント。
その出来を確かめるように、陽に翳す。
ヴィナスもまた完成したモザイクランプを組み立て終えた所だった、贈り物として丁重に収納されて行くその品。
再び人目に付くのは、贈られた人の目に触れる時だろう。
●
日が沈んだ頃、招待された他の冒険者達が工房からそう遠くない庭園とレストランへと招かれて行く。
パトラは「この風景がよく見える場所はあるか」とモザイクランプのデザインを見せるルイドに問われ、心当たりを答えた。
その返事にルイドは短く彼らしい礼をパトラへ告げると工房を後にする。
ルイドはその灯りと実際の風景を楽しめた事だろう。
庭園へ足を運んだ四人がそれぞれにその様子へと思い思いの言葉を紡ぐ。
キリアン・フィッツジェラルドが見回したガゼボやベンチ。灯りの灯されたモザイクランプが照らす風景に感嘆を漏らす。
蒼の双眸が、その光景を見て芸術的な場所だと感じた。
「これはなかなかロマンチックですね!」
カミンル・マオの赤い瞳がランプに負けないくらい輝いて辺りをキョロキョロと見回す。
続く女子よりテンションの高い彼女――いや、彼の女子力はとても高く、乙女アピールに余念が無い。
気になったガゼボを見付けると「あそこに行きましょう!」と皆を先導するように駆ける。
キリアンがそれを嗜めながら、振り向く。そこにはイーティルとアドルフ・ジーノの2人の姿があった。
青い瞳に銀の髪、対照的な褐色の肌を持つ狼の女性ハーフビースト、イーティル。
その隣には青い瞳に黒い髪を持つハーフリングのアドルフ、その歩幅に併せて散策を楽しんでいる2人を気に掛けるキリアン。
早く行きましょうと手を振るカミンル。
そんな様子にアドルフは何だか嬉しくて微笑んだ。
訪れたガゼボの中に飾られたモザイクランプの灯りをカミンルに追い付いたイーティルやキリアン、アドルフが楽しむ。
ガゼボの灯りは中央でまた別の模様に見えるように配置されている。
ふと、天井を見上げたイーティルがその頭上の灯りも模様になるように作られている事に気付く。
そういった作品を作った者の気持ちを想像する事も、楽しみのひとつだと彼女は思って居る。
静かな時間を過ごす――と思えばカミンルが次の場所へとみんなを手招いて居た。
ガゼボから出てカミンルが皆を呼んだ場所は、湖の傍らにあるベンチだった。
「こっちです! すごくロマンチックですよ!」
呼ぶカミンルの声がとても楽しそうだ。
モザイクランプの灯りに照らされたベンチ。
そして湖にはモザイクランプの灯りが水面に映っている。
「ロマンチックとはまさにそのとおりだねえ」
イーティルがそう言うと、キリアンも同意を示す。
「カミンルさんのロマンチストも頷ける所があります。男ですが」
「男だってロマンチストでもいいじゃないですか! それよりベンチですよ、折角だからみんなで座りましょう」
キリアンの最後の一言にカミンルが唇を尖らせて言いながらベンチへと皆を促す。
「ねぇ、見てみて! 普段は見上げる夜空がこんなにも手が届きそうだよ」
アドルフの青い瞳が星のように輝きながら手を伸ばす。
そんな様子に手を貸したいカミンルだが、両サイドにイーティルとキリアンが居て手が届かない。
「キリアンさん、膝が余ってますがいかがでしょうか!」
「えっ」
膝をぽんぽんと叩くカミンルの動作に、意を汲み取った聡明なキリアン。
キリアンが姿勢を倒せばアドルフまで手を伸ばせるのではと、カミンルは思った。
(僕みたいにガタイのいい人が膝枕されるというのも、ちょっぴり恥ずかしいような)
キリアンが逡巡している間に、カミンルが今度はイーティルに向かって声を掛ける。
「イーティルさんにはもう片方のお肩を!」
その様子をみたアドルフは、こういうベンチでは肩を寄せ合うものだと聞いた気がしたので、伸ばしていた腕を引っ込めて。
逡巡中のキリアンの横に座り直して詰め寄った。
少し驚いた声を上げたキリアンが、丁度イーティルが肩に寄って来たカミンルとさらにむぎゅっと寄せ合う形となる。
ひとつのベンチで四人、身を寄せ合って。
キリアンは改めて水面に映ったモザイクランプの灯りを見て、芸銃的な庭園だと思った。
誰かのお腹が不意に鳴る。
ぷっと笑い声が漏れると、それを合図にみんなで笑う。
そろそろレストランに行こうとみんなでベンチから立ち上がると足を向けた。
●
レストランに四人が着いた頃には、先客達の料理が既にテーブルに並んでいた。
お腹が空いてくると、その室内に漂う香りがより一層美味しそうに感じてしまうのも仕方がない。
給仕の丁寧な案内で四人は向かい合ったテーブル席へと通されて行く。
庭園のように飾られたモザイクランプが店内を照らす。
メインの照明にも、散りばめられたそのグラス工芸が店内を彩っていた。
先にグラス工房を後にしてレストランへ足を運んでいたルーンスとヴィナス。
テーブルの上には、ルーンスのオーダーでステーキサンドと付け合わせにフライドポテトとトマトスープがそれぞれに並ぶ。
そして乾いた喉のお共に桃の果汁水。
ルーンスが向かいの席に座る、ヴィナスと共に歓談と食事を楽しんでいた。
話題は日中についての意見交換を交わす事が中心となった。
ヴィナスは弟であるルーンスと同じメニューを頼んでいたのだ、弟のオススメと聞けば桃の果汁水も興味が湧く。
話題の色が商人気質に変わったころ、各テーブルの様子を見に来たパトラが近くを通ったのでヴィナスは呼び止める。
兄弟の歓談を邪魔しないように考えて居たパトラは少し戸惑うも、直ぐに調子を戻す。
「なにかしら?」
ヴィナスは昼間見学したグラス工房を見て来た上で、弟との会話のなかで湧いたアイデアを伝える。
「ガラスペン、ガラスの刻印があると購入者層広がるかも、とね」
「――そう、ですわね。持ち帰って検討しますわ、ありがとう」
ヴィナスの提案を、身に付けたベルトポーチから取り出した紙にメモとして残すパトラの後ろ姿は、ルーンスからはよく見えていた。
四人のテーブル席に料理が次々と運ばれてきて、それぞれがその一皿へと瞳を輝かせた。
見た目にも美味しそうな肉厚のステーキ、焼き加減の好みにも合わせたその肉がステーキカバーの内側で勢いの良い音と共に肉汁を躍らせる。
冒険者のフィジカルを思えば、皆がお勧めのステーキを頼んで居る事に違和感は無い。
料理を運び終えた給仕や、実のところ様子を視察しているパトラの目にも、男一人、女三人といったテーブル席。
キリアンの姿は「モテる男子」とその瞳に映って居そうな風景であった。
カミンルが果汁で見知った桃や他のフレーバーにも目を輝かせ、アドルフのテーブルにはミルクが並ぶ。
イーティルは以前、三人が食べた桃の話題が出た折りに飲み物に桃の果実水を注文してみる。
話題の中心にいるカミンルが女子会トークの雰囲気に引っ張っている印象。
(気分は女子会ですね……男三人女一人ではあれど)
役目を終えたステーキカバーを外して、育ちの良さを思わせる所作でステーキをカットしながらキリアンは思った。
その事実を知ったらレストランの従業員やパトラは驚く事だろう。
「皆の誕生日はいつなの!」
カミンルがステーキをひとくち味わったあと、また話題を振ってくれる。
「僕の誕生日は12月と、まだまだ先の話ですね」
キリアンが言うと「ちなみに僕の誕生日は1月5日です!」と被せ気味なカミンル。
控え目にアドルフが「僕は3月だよ」と言うと、そんな様子をイーティルは微笑ましく見守りながら自身へと視線が向いた事に気付く。
「ワタシの誕生日は10月だからまだ少し先だねえ」
ステーキを頬張る、焼き加減と肉汁の美味さを堪能している、隣の席のアドルフの視線に揺れる白い尻尾が見えた。
向かいの席でカミンルがキリアンに、相変わらずあーんをねだって、キリアンも普段のように返してからひとくち運んであげた。
揺れるイーティルの尻尾の次に目を引いたその様子、ついじっと見つてしまうアドルフ、その瞳がカミンルとあった。
「え? あーんで食べさせてほしい!? はい、よろこんで!」
カミンルはアドルフの様子を見て「あーんして欲しい」と思った、思ったら即行動だった。
切り分けたステーキがアドルフの口元に運ばれてきて。
「あっ……あ、あーん」
ちょっとの恥ずかしさからか、少しためらって開かれたアドルフの控えめなお口にステーキが頬張られる。
食べさせてもらえたステーキは、自分のとどこか違うのだろうか。
もぐもぐとしながら、アドルフはちょっと考えた。
「では、次はワタシからもあーんしてあげよう」
一口を食べ終えたアドルフを見計らって今度はイーティルがアドルフへとあーんをし始めて。
一度食べさせて貰えたら、もう大丈夫かなっと思って居たアドルフはあわあわと面喰い。
その様子に「僕にもして欲しいです!」とカミンルが言えばイーティルが矛先をカミンルへと変えた。
そんな流れから互いに食べさせ合うと言う流れに発展し出すもキリアンもやれやれと口で言うが乗って来る。
ステーキを堪能し終えた四人のテーブルには食後のデザートとしてケーキが並び、より一層女子会らしく……。
仲良し達の一見女子会は賑わしく続いた。
そう、女子会である。
そんな賑やかなテーブル席とは少し距離がある二人掛けのテーブル、と言っても十分な広さのある席で向合った二人。
スー・ルーとパヴェル・A・サムルガチェフ。
互いに220cmという高身長である、そんな二人が快適に過ごせるように椅子やテーブルにも気を配り準備された。
店内のモザイクランプもそれなりの大きさであったが、二人に取っては座った高さからでも少し低い目線に映る工芸品と言った所だろう。
卓上のモザイクランプの方が、小さい分精工な作りで灯す灯りにそのグラスの色をテーブルクロスに映す。
そちらの方がパヴェルには綺麗に思えた。
グレーの髪に橙色の瞳で、向かいに座ったスー・ルーへと視線を向け直したパヴェル。
友として親しい彼が、今日ここへ自身を呼んだ事に、依頼の主旨から悟ってはいても表に出さぬように問うた。
「今日は、どうしたんだ?」
スー・ルーへ向けたパヴェルの視線。
何時もなら溢れんばかりの威勢の良さで返って来るであろう返事が、向けられるであろう翠緑の瞳が逸らされがちである事にパヴェルも不思議な気持ちを抱く。
「俺の故郷には、そんな風習なかったんだ」
途中途中、スー・ルーにしては珍しく歯切れの悪い言葉で続く話を、パヴェルは聞き溢さないように耳を傾けた。
その言葉は、パヴェル自身にとってもそうだったし、逆の立場ならばとも考えただろう。
ほらよ、とスー・ルーが一片の手紙をパヴェルへと差し出した。
パヴェルはその手紙を受け取って「読んでもいいか?」と聞けば、何時ものような勢いある返事が返って来る。
ゆっくりとその手紙を開く。
誕生日おめでとう、パヴェル・A・サムルガチェフ――。
そう書いてあると、パヴェルにだけ判読できただろう、続く友の思いを綴った言葉はパヴェルの心を奥から温かいものを沸かせる。
スー・ルーの文字はお世辞にも綺麗とは言えない。
それでも一番親しいと感じているパヴェルの誕生日を祝うと決めて慣れないペンを取った。
心が躍る。
それは言葉で知って居たとしても、心から理解できるほどの感動を得られる者は少ないのだと。
パヴェルはその手紙を何度も読みながら、実感した事だろう。
「登録するときに書いたろ、聞いたら教えてくれたぜ」
気恥ずかしさを誤魔化すように言うスー・ルー。
そんな友人の様子に、パヴェル自身も気恥ずかしさと照れが隠しきれずに居た。
彼もまた誕生日はあまり意識したこともなく、祝われることも珍しい事だったのだから。
噛み締めるようにその手紙を大事にして。
その手紙を、自身を祝おうと思って行動してくれた友人に、パヴェルは取り繕う事も忘れて顔を上げる。
「ありがとう――」
スー・ルーはパヴェルのそんな顔を見て、やっといつもの笑顔を取り戻す。
気恥ずかしさを連れ去ってくれと言わんばかりに、酒がテーブルに並んだ。
パヴェルは上機嫌にグラスを傾け、嬉しそうに、美味しそうにそのグラスを開けた。
その豪快な飲みっぷりに、スー・ルーは過去の苦い思い出をふっと思い返した。
誤って口にした酒の味。
舌に感じた痺れるような感覚は、それまでの価値観では毒と同等であった。
そう思ってからの、これまでにおいては酒を嗜もうとも思わなかったが。
目の前の、友が美味そうに飲む酒なら――違うかもしれない。
「俺にもくれ」
スー・ルーの言葉にパヴェルは少しだけ意外そうな表情を少し向けたあと、快諾して予備のグラスを手渡すとそのまま酌をする。
そのグラスに入った酒を見るスー・ルー。
親しい友が好きな物であれば、好きになれるかも知れない――好きになりたいと思う。
そんな友人の心中を察してかは定かではないが、パヴェルは自身のグラスをスー・ルーへと向けて腕を伸ばす。
スー・ルーも、それまで飲まなかったが、その光景だけは見聞があった。
「「乾杯――」」
高い音を短く鳴らす、モザイクランプに照らされた酒杯は色を移り変えさせながら、傾く。
「……悪くねぇ。ホントだ、飲めるしな」
飲みなれない酒に、あまり見ない友人の表情を見たパヴェルは、それを肴に酒を呷った。
テーブルに空いた酒瓶がいくつか転がり出した頃、スー・ルーはハッキリしてる内にと給仕へと合図を送った。
恥ずかしさを忘れて気持ち良く酔っぱらいつつあったパヴェルは、その様子をぼんやりと目で追った。
戻って来た給仕が、大事そうに運んで来たそれをスー・ルーが受け取る。
何か見えぬよう掛けられた手巾を取り払う。
「誕生日おめでとうだ」
猫をモチーフにしたガラス製のペン立て。
スー・ルーがパヴェルが猫を飼っているから、好きなんだろうと思って選んだ誕生日プレゼントだ。
パヴェルは再び”心が躍る”思いを――実感する。
今なら、取り繕えなくなったとしても、酒に酔ったせいに――できるだろう。
マスターコメント
この度はご参加ありがとうございました!!
8月誕生日の方、おめでとうございます!!
とっっっても、好き。
アドリブ要素多めになってしまった所は、その、すみません。
MVPは今回、お祝いを頑張った方と、お誕生日の方へ!
遅くなってしまい、申し訳ないです。
またのご参加お待ちしております!!
イベントシナリオ易しい 報酬:無し9 / 6〜25人
2022年09月01日 01時00分04秒 公開
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