新たな星が空に咲く

馬車猪

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シナリオID:2374

オープニング

 星のない夜空に光の花が咲いた。
 微かな爆発音に数秒遅れ、色違いの花が咲いては薄れて消えていく。
「すごい!」
「きれー!」
 着飾った少年少女(協力者の子供)が目をきらきらさせて夜空を見上げ、彼等を連れて来た大人達(協力者である貴族や富豪)も驚きを隠しきれない。
 大きく、明るく、数が多いのだ。
 これまでにも頭上の華(花火)を上回る作品はあった。
 しかしそれらは個人の技や特質で成し遂げたものだ。
 量産に成功して販売まで到達できたのは、この花火紋具が初めてだ。
(次の花火はまだかと複数の問い合わせ(実質的な命令)がっ)
(紋具の発熱がそろそろ限界です! 1番熱い(ヤバイ)のは既に隔離させましたが……)
 舞台裏には余裕はなく、しかし誰もが成し遂げた快挙を実感して誇りで顔を輝かせていた。

●
「花火大会ですか?」
 問われた受付嬢は困った顔になる。
「知ってますけど今から入場券を手に入れるのは……」
 一般公開に先立って行われた協力者向け公開(小規模でした)が非常に好評で、遠くから花火(空の芸術)に気付いた人間も多かった。つまり花火大会へ行きたがる人間が多くなりすぎた。
「少しお待ちください」
 受付嬢が奥に下がって職員と内緒話をする。
 警備、護衛、防衛などという物騒な単語が聞こえたような気がしたのは、おそらく気のせいではない。
「お待たせしました。この依頼をうけて頂けるなら、かなり良い場所から花火を鑑賞可能です」
 守秘義務についての了解を得てから、受付嬢は詳細な地図を遠くからは見えないように注意しながら広げる。
 場所は河原。
 貴賓席と花火紋具は厳重に警備される。
 しかし見物客が多く集まると予測され、警備の人員が不足するのがほぼ確実だ。
「依頼の種類は警備依頼になります」
 戦うのが目的ではない。
 武力と調査に優れた冒険者が会場にいることで犯罪者予備軍を威圧し、花火大会で騒動を発生させないことが目的だ。
「警備場所は大きく分けて3つです」
 貴賓席とその周辺、花火紋具とその周辺、屋台が多数出る予定の河原の3箇所だ。
「紋具周辺ではできる限り重武装をお願いします」
 大会中は紋具技術者と警備しか立ち入り許可が出ない場所だ。
 侵入者の大部分は迷子か酔っ払いと思われるが、財産としても技術としても貴重な紋具を狙った犯罪者が現れる恐れもある。
「逆に軽武装を要求されるのは貴賓席です。安全を優先するなら重武装の方がいいのですが……」
 我が儘な客が多く、威圧的な格好だと大会主催者に文句が殺到する可能性大らしい。
 だが冒険者以外の警備もいるので難易度は高くない。服装に問題がないなら1番良い場所から花火を楽しめるはずだ。
「屋台周辺は特に制限はありません」
 花火を楽しむのに集中しても、自分で屋台を出しても良い。
 人が大勢集まるのでトラブルの発生確率は高めのはずなので、冒険者の腕の見せどころでもある。
「主催の商家代表から「せっかくの祭りを堪能して欲しい」という伝言を預かっています」
 有力な大商家1つの力では足りず、多数の協力者と共に無数の困難を越えた結果の花火大会だ。
 冒険者が花火会場に行けば、空に咲く花と誇らしげな顔を見ることになるだろう。

解説

●目的  花火大会を成功させること ●場所  都市の近くにある河川の川原です  比較的涼しく、虫も少ないので過ごしやすいです  花火が打ち上げられるのは日が落ちてからで、それまでには屋台も見物客も大勢集まって来ます ・貴賓区画  貴族や大商人やその関係者がいる場所です  警備もいますが、数はともかく質は冒険者と比べるとかなり低いです ・屋台区画  一般の見物客がいる場所です  とにかく人数が多く、適切な手を打たないとトラブルが発生するかもしれません ・紋具区画  花火紋具が多数設置されている場所です  複数の技術者と警備がいます。警備は貴賓区画が最優先なので不足気味です ●花火紋具  火薬を使わず花火のように美しいものを打ち上げ可能な紋具達です  量産可能な品ではありますがかなり高価で、並の金持ちでは購入を躊躇うほどです  今後使われることがあるとしたら、式典やお祭りでの使用になるかもしれません ●花火  ロスガリア大陸には火薬はありません  しかし今回の紋具では音は必ず発生しますし、花火っぽい光も発生します  冒険者がどんな花火をどんな演出で見たいか希望すれば、技術者達が頑張って実現しようとします

マスターより

 リクエストありがとうございます  花火を楽しむのを優先しても問題ない依頼です  楽しんでいただけると非常に嬉しいです

リプレイ

●
 馴染みの薄い文化の普及は困難だ。
 どれだけものが良くても時間がかかる。
 しかし圧倒的な魅力があれば話は別なのだ。
(んんっ)
 ローザリカ・L・ディオールは動揺してしまった。
 高級感漂う薄くて軽い夏用の着物の上に夏用の羽織。
 どちらも白に近い明るめのグレーでジュスト・ヴェルジーの鍛えられた体と色香が普段以上に感じられる。
 ジュストは冒険者としてのたしなみで武装もしている。
 黒い革手袋型の魔術具と各種装飾具がシャルガネ風の衣装と似合っていて、センスと財力が優れていることを証明すると同時にさりげなく主張もしている。
 まとめると、色男としか表現しようがない。
「待たせてしまったかな?」
「ほんの少しだけだが、待ったぞ」
 頑張って普段と同じ態度を保とうとするローザリカがとても可愛い。
 彼女は淡い黄色の着物に若苗色の帯を合わせ、若苗色の薄手のショールも羽織ってシャルガネの文化に流されるのではなく乗りこなしている。
 装束にあうようまとめあげた髪にはジュストから貰った小さな風鈴飾りの簪を添え、ローザリカの意図はこれ以上なく明らかだ。
「行こうか」
 呼びかけるのはローザリカでもリードするのはジュストだ。
 帯に差した扇(得物)や、日傘としても使えるレース傘(戦闘用装備)の位置がずれない絶妙な速度であることに気遣いを感じられる。
 2人のどちらかに惹かれて声をかけようとした者は、2人の近さと気配だけではなく調和のとれた姿に臆して結局声をかけられなかった。
「多いな」
 既に日は落ちたので傘は閉じている。
 意図的に抑えられた照明でも分かるほど、貴賓用区画が広くそれ以上に人が多い。
「うん。本当に綺麗なものだね」
 2人は容姿と服装で目立ち、その上で高位の授恵者の雰囲気を隠していない。
 いざというときは2人が動いてくれるという事実が、貴族や富豪の護衛を安心させこの場の安全を向上させる。
「ほら、あの色。君の瞳と同じだ」
 空に咲いた数個目の花への論評である。
 なお、ジュストの視線はほとんど隣(ローザリカ)に向いたままだ。
「また君はそういっ……て……」
 動揺を隠しきれていないことを気付いてしまうほど聡く、感情を爆発させるほど未熟ではない。
 照れ隠しに文句でも言ってやろうと視線をやって、いつもの甘い表情のくせに目だけは真剣なジュストに気付いてしまう。
「どうした婚約者殿、空の花もたのしまずに」
 意識して呆れたような声を出したつもりだが成功しているかどうかも分からないほど混乱していた。
 かわいい。
 幼い頃なら「僕のロゼはすごいんだ」と大声で主張したかもしれないが今の彼(ジュスト)は18歳(適齢期)の貴公子(伯爵家令息)だ。
「隣にも綺麗な花が咲いていたからね。つい見惚れていた」
 匂い立つような男の色香を放ちながら、周りに人がいても構わないつもりで(盛大に見せつけるように)本心を伝える。
 ローザリカは酔ったかのように目を潤ませる。
 美しい手の指は扇(武器)に向かわず何かを求めるかのように動く。
「……はぐれたら困る」
 空が明るくなる。
 煌めきをいくつも残して高空に駆け上がったそれが、無数の小さな光からなる巨大な芸術を黒々とした空に刻み込む。
 ジュストがローザリカと指を絡める。
 最初は戸惑い恥ずかしさもあったローザリカも、温かさを感じるうちに自分からも絡めて決して離れなくなる。
 心は温かく、体は熱く、しかし貴族の一員である2人は変わった様子を外にはほとんど出さない。
(こういう時でもないと、触れ合えないからね)
(触れ合いたいと思っているのは君ばかりではないと、この仄かな熱で伝えてやってもいい)
 大人は察して眩しいものを見る表情に。
 年頃の男女は嫉妬と羨望が混じった目つきに。
 そして若いか幼い子供達は、詳しい理屈や知識は分からないまま見本(理想的な男女関係の1つ)を目と心に焼き付けていた。

●
 高位の授恵者は多芸だ。
 例えばLVが30台だと洞察LV3の非授恵者に匹敵すると同時に看破LV3もそれ以外の技能も兼ね備え、授恵者の優れた体力と戦闘力も当然に持っている。
 つまり並の犯罪者では全く敵わない。
「大人しくしてくださいね。騒ぐと色々な人達を敵に回してしまいますよ」
 ルアンナ・ミュラーは当然のように話術も巧みで威圧感も出せる。
 スリ、置き引き、恐喝などを見つけ次第捕獲し人(警備)を呼んで引き渡す。
 花火紋具が大きな音を発した。
 これまでの花火も十分大きかったが、空へ移動中に放つ光ですら大きく、高空に咲かせた花は奇跡か何かと思ってしまうほど巨大でしかも美しい。
「こうなるのですか」
 打ち上げの順番から考えると、これがルアンナの注文した花火だ。
 技術の進歩だけでなく、ルアンナの美意識を現実のものとした職人の技術と執念に感嘆してしまう。
「ついつい花火に目が行ってしまいますね」
 分かり易く強力な竜石の杖を掲げる。
 殺気もエーテルも出さなくても、強力な授恵者(レシーバー)がいるということは周囲に伝わり犯罪の発生率が徐々に低くなっていった。
(なるほどなぁ。あれの後では出にくいよねぇ)
 花火紋具が並んだ区画を眺め、パヴェル・A・サムルガチェフがうんうんと頷いている。
 どれも気合が入った良い出来ではあるのだが、あんな大物の直後に打ち上げるのを恐れる気持ちは分かる。
「なら俺が演(や)っても文句は出ない訳だ」
 頑丈な柱を挟む形で2枚の鉄壁が横向きに出現する。
 地上1メートルの舞台は照明用の紋具に照られて幻想的に光り、しかし悠然と舞台に降り立つ体格の良い麒麟のハーフビーストは舞台の迫力に負けてはいない。
 腹掛け、鉢巻き、褌のみの装備が肉体美を観客に魅(み)せつける。
 戦士というには優美すぎ、美術品と称すには威圧感がありすぎ、しかしパヴェルという舞手の肉体としては完全に仕上がり妖しい色気すらある。
「さぁ見ねぇ、"すたぁまいん"の始まりだぁ!」
 三叉棍の先端部にそれぞれ接続された花火紋具が稼働を開始。
 パヴェルの舞いによって黄、碧、紫の光が時に交わり時に離れて今このときしか存在しない芸術となる。
 貴賓区画から護衛を置き去りにする勢いでやって来る観客もいるがそれ以上に熱心な客もいる。
(衝撃は予想の範囲内です。これなら)
(最上に近い舞手を基準に考えるな。一般に売り出すには……)
(それより光の具合を)
 花火紋具という技術に取り付かれた男女が、色欲とは種類の違う欲に突き動かされてかぶりつきでパヴェルと紋具を凝視している。
「さぁ!」
 パヴェルの舞いに応じて紫雷が呼び起こされ、花火の光を巻き込み二角馬の姿をとって空を駆け巡るのだった。

●
 脂と蛋白質と炭水化物が鉄板の上で踊っている。
 小さな串が高速で生地を操り、液と具だったものを多数の球へと変える。見た目も動きも香りも大いに人を惹きつける魅力があった。
「おいしいアツアツのタコ焼き! シャルガネの名旅館でも使われる高級醤油味がおすすめでございますよ!」
 ハリーヌ・ヨツユビは凶悪なヤジも飛ばせるがビジネスの口上も巧みだ。
 予め毛に櫛を通した上で鉢巻きと法被をきっちり着こなして、その上でタコ焼きの生産と呼び込みを並行する。
 人間としては小柄なハリーヌの法被に書かれた字は読みづらいが問題ない。
 看板娘?(マスコット兼交通整理)のエーテルリンク済ゴリラが着た法被はサイズ以外はハリーヌの法被と同じだ。色合いもデザインも結構可愛らしい。
 協賛する飲食系紹介や宿泊系商会の名が、誤解しようのない大きさで自己主張している。
(何がビジネスに繋がるかわからないでございますから、しっかり目に焼き付けてくるでございますよ)
 花火を愛でるときも目つきは鋭い。
 客が来るタイミングを予測するのにも重要なのだ。
「5舟でございますね。焼き立てでございますから、中身がアツアツでございます。気をつけて召し上がるでございますよ」
「ありがとなぁ。折角の旨いもんだ、喰う分とあわせて、少し土産にしようと思ってよ」
「ではあちらの店をお勧めしますよ! 甘辛い食べものと丁度あうそうです」
 協賛してくれる別(酒系)商会への協力も忘れない。
 最初は小さな縁でも大きな縁に育てるのが立身出世の基本なのだ。たぶん。
 大柄なパヴェルが抱えると6舟(1舟はサービス)でも小さく見える。
 人にぶつからず楽しく美味しそうに食べる様は、タコ焼きの良い宣伝だ。
 大いに飲み、食べ、買い食いすることで、建ち並ぶ屋台の売り上げに大きく貢献している。
「タコ焼きは逃げませんよ」
 今だけはタコ焼き職人であるハリーヌの実力を見抜ける者は少ない。
 しかしハリーヌと情報的な意味で繋がったゴリラの強さは馬鹿でも分かる。
 ハリーヌに迷惑をかけようとした瞬間ゴリラが賊(こちら)を向くので騒動は発生する前に鎮圧されている。
「私も1ついいですか?」
「もちろんでございます」
 顔を出したルアンナの前で、焼きたてが皿に並べられタレ、ノリ、その他様々な彩りが鮮やかな手つきで追加される。
「祭りの定番に出世するかもしれませんね」
 花火とは別方向で華やかで、それでいて材料は高くない。
 自身も飲食店経営者であるルアンナは、タコ焼きの未来を高く評価している。
(眼福眼福)
 花火とジュスト達を肴に、楽しい時間を過ごしていた。

●
 バラ色のエーテルを纏う履き物が不埒者の足先を踏んづける。
 ローザリカは不埒者に悲鳴を上げることも許さず、ジュストと警備の手を借り街の牢屋へ運ばせる。
 ジュストは広範囲の足止め(犯罪者限定)を無数の蝶で成功させ拍手もされている。
 ハリーヌは手を止め、無意識に漏れそうになったため息を我慢する。
 仲が良い2人へ嫉妬に似たものを感じてしまう。
 地位や財力への嫉妬であれば生き抜くための力にもできただろうが、今ハリーヌが抱いているのはより深刻で解決し辛い現実への感情だ。
 こんなに人がいるのに、獣よりのハーフビースト(ヨツユビハリネズミ)は見当たらない。
 爆音が聞こえ、何かが散らばる音と共に巨大な光の花が咲く。
「これが花火でございますか。なんとも壮大な仕掛けでございますねぇ」
 2度目の特大花火はどこまでも高く美しく、そして少し冷たく感じられた。

マスターコメント

 お疲れ様でした。
ショートシナリオR

ショートシナリオR易しい 報酬:標準5 / 4〜8人

2022年08月17日 18時19分25秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ハリーヌ・ヨツユビ

    ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 今回は警備員でございますね。皆様、よろしくお願いするでございますよ! 花火というものを見られるとは、なかなかない機会でございますね。 ワタクシはタコ焼き屋台など出しながら、人が多いところの警備を担当させていただきたいでございます。 もちろん、皆様にはタコ焼きを一舟ずつサービスするでございますよ!

  2. パヴェル・A・サムルガチェフ

    キャスターのパヴェルだ。ま、一つ頼むぜぇ。 紋具を使ったファイアーダンスでもやってみるか。 屋台の旨いもんも一通り味わってみたいねぇ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0