生誕祝う宴の誘い
一乃口
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シナリオID:2344
オープニング
発端は冒険者ギルドの閑散とした時間の出来事だった。
「そう言えば、私もうすぐ誕生日なんですよ」
あるギルド職人達が、小休憩の時間に嬉しそうに告げる。
「そうだったのね、おめでとう!」
作業を終えて、書類を整理した向かいの同僚が笑顔で祝いの言葉を送り。
「なにか予定はあるんですか?」
まだ仕事を終えて居ない後輩職員の手が止まり、話題へ加わる。
恋人と過ごすのか、家族と過ごすのか。
そんな話に花が咲き、賑やかに会話が弾む。
弾んだ拍子に、水先が変わる。
「そう言えば、冒険者の方々ってそういうのどうしてるんでしょうね」
一度、そう言えばと同じ様に作業を終えた先輩職員も混じり話は熱を帯びていく。
貴族や商家出身の冒険者達の華やかそうな祝会に想像の羽を伸ばし。
きっと普段は見られないような絢爛豪華な装いとそれに相応しい規模のパーティ。
夢のように素敵な様相なのだろうと。
そんなヒューマンの多い社会の中で暮らす小さいハーフリングの話をして。
独自の文化を持つリザードマンやゴブリン等の種族はどうなのだろう。
ホムンクルスは素体に寄るのだろうか。
そう言った話に憶測が飛び交い。
方や一定の偏見から、祝いの場も厳かそうだとイメージを持たれたエルフ。
ドワーフに至っては酒を飲んでたくさん食べる、それは平常通りなのではと話が盛り上がり。
後輩職員は手が止まってる事に気付かれて、少し叱られる。
声高らかな会話は、応接間にもよく響いていたそうだ。
「その話、私も伺ってもよろしいかしら?」
聞く者に一定の畏怖を与えてしまうのは、その自信に満ちたるせいか。
職員達が僅かに肝を冷やして姿勢を正す。
視線は声の主であるパトラ=L=アルタータへ注視する。
「私も冒険者の方々に、何か依頼を出したいと思っていた所でしたので……」
受付嬢は先輩から同僚、そして最初に話題の口火を切った新人へと視線が向けられ。
「あ、そのですね」
話のあらましを聞いたパトラの表情は「我が意を得たり」と満足気に頷いて宣言する。
「では、私……いえ、アルタータ商会が出資して、冒険者の皆様をもてなします。依頼に必要な手続きはこのままお願いしてよろしいかしら」
「は、はい! かしこまりました……ですが」
受付嬢の不安そう、いや、不可解そうな表情にパトラは笑みを浮かべて答える。
「あぁ、私の好奇心……そう、冒険者の方々との縁を得る機会にも打って付けだった、そう言う動機なら納得がいくかしら?」
出資者の意向とする所が解らなかった受付嬢はそれを聞いてペンを取る。
幾つかの質疑応答により、高級過ぎる環境は気軽さに欠けるだろうと酒場での飲食提供が妥当だろうと言う流れになり。
そう言うことなら、と依頼書へ記されて行く文面、酒場「踊る子熊亭」と書かれたペン先を紫色の眼光が鋭く見る。
その眼光の意味を知っていた先輩受付嬢は、後輩受付嬢の手元を覗き見て「しまった」と依頼主にバレぬよう心の中で思った。
「会場はリブラネスタ、では無くエスト・ポーラですわ」
「え?」
きょとんとした表情で聞き返してしまった受付嬢。
パトラの眉が少し動くが、エスト・ポーラの商家、アルアータ商会の次期跡取りパトラは繰り返し言葉に出す。
「会場はエスト・ポーラですわ」
「そう言えば、私もうすぐ誕生日なんですよ」
あるギルド職人達が、小休憩の時間に嬉しそうに告げる。
「そうだったのね、おめでとう!」
作業を終えて、書類を整理した向かいの同僚が笑顔で祝いの言葉を送り。
「なにか予定はあるんですか?」
まだ仕事を終えて居ない後輩職員の手が止まり、話題へ加わる。
恋人と過ごすのか、家族と過ごすのか。
そんな話に花が咲き、賑やかに会話が弾む。
弾んだ拍子に、水先が変わる。
「そう言えば、冒険者の方々ってそういうのどうしてるんでしょうね」
一度、そう言えばと同じ様に作業を終えた先輩職員も混じり話は熱を帯びていく。
貴族や商家出身の冒険者達の華やかそうな祝会に想像の羽を伸ばし。
きっと普段は見られないような絢爛豪華な装いとそれに相応しい規模のパーティ。
夢のように素敵な様相なのだろうと。
そんなヒューマンの多い社会の中で暮らす小さいハーフリングの話をして。
独自の文化を持つリザードマンやゴブリン等の種族はどうなのだろう。
ホムンクルスは素体に寄るのだろうか。
そう言った話に憶測が飛び交い。
方や一定の偏見から、祝いの場も厳かそうだとイメージを持たれたエルフ。
ドワーフに至っては酒を飲んでたくさん食べる、それは平常通りなのではと話が盛り上がり。
後輩職員は手が止まってる事に気付かれて、少し叱られる。
声高らかな会話は、応接間にもよく響いていたそうだ。
「その話、私も伺ってもよろしいかしら?」
聞く者に一定の畏怖を与えてしまうのは、その自信に満ちたるせいか。
職員達が僅かに肝を冷やして姿勢を正す。
視線は声の主であるパトラ=L=アルタータへ注視する。
「私も冒険者の方々に、何か依頼を出したいと思っていた所でしたので……」
受付嬢は先輩から同僚、そして最初に話題の口火を切った新人へと視線が向けられ。
「あ、そのですね」
話のあらましを聞いたパトラの表情は「我が意を得たり」と満足気に頷いて宣言する。
「では、私……いえ、アルタータ商会が出資して、冒険者の皆様をもてなします。依頼に必要な手続きはこのままお願いしてよろしいかしら」
「は、はい! かしこまりました……ですが」
受付嬢の不安そう、いや、不可解そうな表情にパトラは笑みを浮かべて答える。
「あぁ、私の好奇心……そう、冒険者の方々との縁を得る機会にも打って付けだった、そう言う動機なら納得がいくかしら?」
出資者の意向とする所が解らなかった受付嬢はそれを聞いてペンを取る。
幾つかの質疑応答により、高級過ぎる環境は気軽さに欠けるだろうと酒場での飲食提供が妥当だろうと言う流れになり。
そう言うことなら、と依頼書へ記されて行く文面、酒場「踊る子熊亭」と書かれたペン先を紫色の眼光が鋭く見る。
その眼光の意味を知っていた先輩受付嬢は、後輩受付嬢の手元を覗き見て「しまった」と依頼主にバレぬよう心の中で思った。
「会場はリブラネスタ、では無くエスト・ポーラですわ」
「え?」
きょとんとした表情で聞き返してしまった受付嬢。
パトラの眉が少し動くが、エスト・ポーラの商家、アルアータ商会の次期跡取りパトラは繰り返し言葉に出す。
「会場はエスト・ポーラですわ」
解説
●解説
舞台はエラトゥーン都市同盟の北東部にあるエスト・ポーラ。都市同盟内において最も古い湾岸都市である。
メイン会場はアルアータ商会が仕入れを担う酒場で行われる。
【1】誕生日を祝う
自分の誕生日を祝う、誰かの誕生日を祝う。そんな風習知らなかったでも可。
既に誕生日を迎えたって人でも大丈夫。
料理や酒類の提供、未成年は酒類NG。
アルタータ商会の斡旋パティシエの派遣によりケーキ類の提供も可。
極端なモノで無ければプレイングでの指定でお出しします。
【2】飲食を楽しむ
誕生日と言う訳ではないので、タダ飯タダ酒を楽しみたい方向けです。
【1】と同じ物が隔てなく提供可能となります。NGラインも同じです。
パトラ=L=アルタータは冒険者の観察をしています、交流も可能です。
来月以降の開催や提供場所の提案等も話題にできます。
【3】祝いの品を探す
エスト・ポーラで誕生日の「お祝いの品」を探す事ができます。
どんなのが良いか、探したり相談したりする選択肢です。
大抵の品物はエスト・ポーラでも入手可能でしょう。無ければアルアータ商会に一声掛かります。
内容によっては暈す形になることも想定されます、ご容赦下さい。
実在するアイテムをお持ち込みする際は、持ち込んだアイテムのロック期間にご注意下さい。
マスターより
5度目まして一乃口です!
もうちょっと早くリリースしておけば……と反省しつつ。
7月お誕生日を迎えられた冒険者様、おめでとうございます。
今回は既に誕生日を迎えられた方もお祝いしたいな!
なんて思っております。
来月にも需要があれば、お出ししたい気持ちでいます。
マスターページも活用して行けるように頑張りますね。よろしくお願いします。
リプレイ
夏の強い日差しが陰りを帯びる宵の口。
エスト・ポーラにある酒場の一画を貸し切って行われる祝いの席。
その内装は平素よりも明るく、鮮やかに粉飾が施されている。
壁や天井、テーブルクロス。
そう言った細かい所の手配や采配を取ったのは主催であるアルアータ商会の次期跡継ぎ。
パトラ=L=アルアータであった。
冒険者達を迎えられるように、その内装や料理。そう言った所にも目を通す。
元々信に置いた付合い長い店との打ち合わせは、想定よりもすんなりと終えたそうだ。
●祝杯の席
そして、開場の時。
訪れた冒険者の面々にパトラは変わらぬ気概で来訪を称える。
「ようこそ、エスト・ポーラへ」
会場の広さや華やかさは妥協せず。
料理は並べる形式は合わないと判断し、オーダー制へ変更をする。
無駄なリソースは割かずに、オーダーへ全力を注ぐ、パトラの性質が垣間見える。
パトラは出迎えと同時に略式な初めましての挨拶と、来訪の礼を述べて祝杯の場へ面々を案内する。
多種多様な種族、年齢や身長を考慮して準備されていたテーブルや椅子の数々。
早速1名をその席へ案内する。
赤紫色の鱗を、撫でるように揺れる銀色の髪。
落ち着いた雰囲気に柔らかくも明るいオレンジ色の瞳。
小さめの二本の角を飾る装飾が印象的なリザードマンのスィーリーンだ。
そんな彼女スィーリーンが座りやすいであろう、テーブル席へとパトラは案内をする。
その特徴的な尾が閊えぬよう、背もたれを排した椅子へ通す。
給仕を担う者がスィーリーンにオーダーを伺う。
「では、果物のたくさん乗ったフルーツタルトをいただけますか?」
そのオーダーを復唱すると係の者は一礼し離れる。
そうですわ、とパトラの紫色の瞳がスィーリーンへ向けられる。
「お誕生日おめでとうございますわ、スィーリーン様」
今宵、この場で唯一の誕生日を迎えた彼女へ贈る。
「ありがとうございます、パトラ様」
スィーリーンはこの会場において、今日一番の主役と言って過言では無いだろう。
お辞儀を軽く済ませると、ゆっくりと楽しんで行ってくださいと言い残してパトラは席を離れる。
しばし待つと、給仕の者がスィーリーンの為に作られたフルーツタルトを運んでくる。
併せて淹れられた紅茶の香も漂って来た。
待っている間のスィーリーンは、内装の装飾やテーブルクロスの意匠。そう言った所で目を楽しませていたが。
いま、眼前へと現れた色鮮やかなフルーツ達が可愛らしくも惜しみなく並ぶタルトに釘付けである。
ティーセットやタルトの為に準備されたフラットウェア、使われている皿までをスィーリーンは目で楽しんでいた。
平素より、そう言う物の繊細さや綺麗さを嗜む彼女ならではの反応。
そのスィーリーンのオレンジ色の瞳が嬉しそうに煌めくのを、遠巻きに観察していたパトラにも伝わる。
準備した甲斐を感じると言うものだ。
最初の一口に、どのフルーツから食べたものかと。
悩ませるタルトの上をスィーリーンはフォークで切って、その口に運ぶ。
生地の中にも織り込まれた隠し味も相まって、フルーツの味を引き立てる甘さ。
スィーリーンはその甘さの中に、懐かしい甘さをひとつ見付ける。
次に口へ運ばれるフルーツは、また違う甘味で彼女の舌を喜ばせる事だろう。
この日の訪れに。
スィーリーンに関わり、ここまで育ててくれた皆様に感謝しつつ。
緋色の髪に遠くへ焦れる赤い瞳の小柄な少女トーラがひとつのケーキをオーダーした。
その小さなケーキに「ロウソクを」とオーダーで聞いた給仕から「プレートに名前を書き添えますか?」とトーラへ伺う。
逡巡した赤い瞳を閉じて、首を小さく横に振る――。
「無記名でお願いします」
ショートヘアーのハーフリングの少女、トーラはケーキを待っている間にふわふわと心は遠くに。
トレードマークである黒い猫耳形のイヤーマフが、物思いに揺れる。
「お待たせ致しました――」
給仕の手で運ばれて来たケーキ、ろうそくの明かりがトーラの赤い瞳に別の火を映す。
無記名のチョコレートネームプレート。
「お誕生日、おめでとうございます――」
声は届かずとも、その思いは届けばと、祈るように。
「困難に立ち向かう貴方に、神様の祝福と」
その名を口にするのは、少女にはまだ遠く――。
「困難を無事に乗り越えることが出来ますように……」
思いの深さが。
祈る間を以って伝わるようだった。
そんな少女の様子を遠目から観察していたパトラは、心の中で悶えたが、平静を装いつつ見守った。
祈りを捧げた瞼が次に開かれる時、乙女から少女の顔に戻ったトーラはふっとろうそくの火を吹き消す。
余韻。
頃合いを見計らったパトラが給仕に合図を送ると、トーラの元へ紅茶が届けられた。
少し意外だったトーラは「ありがとうございますっ」と普段のような元気な笑顔を返す。
せっかくのケーキ。
トーラはその端を切って口に運んだ。
甘いクリームとスポンジのやさしい口当たりが、トーラの口内に広がっていく。
ゆっくり味わいながら。
遠くへ思いは続く。
(あの方は、向こうで何をされているでしょうか)
大変な状況に置かれた、その人の身を案じる。
せめて、いまこの時は――自分と同じように、ゆっくりと休んで過ごせていたらと思う。
夜にちゃんと眠れているのだろうか。
無いとは思っていても、不遇な立場に身を置かれていないかと心を寄せる。
紅茶の温かさと香りが、そんな不安をほんのわずかに溶かしてくれた。
●会食の時
「誕生日か……」
黒い髪の下、灰色と紫玉の瞳を持つルイドは思案した。
自身のその日は「たぶんこのくらいの時期」程度にしか覚えてはおらず。
そして、あまり意識する事もない事項であった。
そんな彼が今日、この場所を訪れたのもタダ飯を頂けるという機会を見す見す逃す手は無い。と言う事で今に至る。
給仕に通され、一般的なヒューマン向けの席へ腰を据える。
人数の都合、オーダー制を取る事にした為、配膳前にメニューに目を通す形になる。
ルイドはそれらを一瞥して一考――。
馴染みの定番メニューから、多種多様に選択肢がある訳だが。
(エスト・ポーラって言うと何が名物になんのかね?)
メニューの一覧に不満がある訳ではなく、これと言う焦点が定まらない。
折角なら、その土地のメニューを楽しみたとルイドは考えて居る。
そんな視線が、パトラと合う――居住まいや雰囲気から依頼を受けた時に見聞きした印象と合致したルイド。
給仕に一言断りを入れ、席を立ったルイドはパトラの元へ。
「確か今回の主催者だったよな?」
参加者の様子を伺っていたパトラは「えぇ、そうですわ」と毅然と答える。
一瞬、ルイドの片目に視線が行く。
「ホムンクルス……でしたかしら、初めて見ましたわ」
そうかい、とルイドは挨拶もそこそこに終えると本題へ移る。
「やっぱ飲み食いするんならその土地の名物だとか、そこでしか経験できないもの優先してぇんだけど」
「なるほど、そう言う事ですの」
ルイドはこの後、ちょっと後悔する。
やる気に満ちたパトラ=L=アルアータの自信が瞳の圧が、つよい――。
「エスト・ポーラと言えば――! 前略――中略――以下省略」
長かった。
雄弁に語るとはこの事か、一品の生産者から加工者までに至る話は想像以上に長かった。
気付けばテーブルに2人は腰かけており、立ったまま話を聞かなくて済んだのが幸いだろうか。
「じゃぁ、パトラのオススメで決まりだ」
海鮮料理を中心としたディナーセットが届く前に、ちょっと疲れた一息をルイドは吐いていた。
だが、そのお勧めされた店の看板メニューはルイドを喜ばせてくれたと言う。
「はじめまして、アルアータ嬢」
そう挨拶をしたのはルーンス・ラグネル。
「えぇ、はじめまして」
パトラは改めて挨拶をする。
その必要性を感じさせる雰囲気を、冒険者とはまた違う人生経験からパトラは自然と行う。
その様子にルーンスも我が意を得たりと言ったほほ笑みと共に、緑色の瞳に灯す色がわずかに変わる。
「本来の立場で話したいし、隅で話をしても?」
その言葉の意図を、パトラが計り兼ねる間に。
ルーンスは静かに、その名を告げ――。
「そう言うことですわね」
腑に落ちたと言った顔でパトラ=L=アルアータは、その招きに応じた。
広く貸し切られた店内が活用される。
エスト・ポーラでお酒としても親しまれている桃とレモンを使ったカクテルがテーブルに並ぶ。
給仕が離れるのを眼で見送ったルーンスはカクテルの入ったグラスを傾けて、ひとくち。
甘みとサッパリとした風味が、良い調和で喉を潤してくれる。
同じようにグラスを傾け、終えたパトラに顔を向けると早速と話題を切り出す。
「先に商人としての本音を言うとさ、リブラネスタだけが同盟と思うなって思わない?」
金髪の下、パトラを伺う緑の瞳が捉える。
その言葉に、パトラの瞳がちょっとだけ驚いたような様子を見せるが直ぐにそれは潜めた。
「そうですわね、リブラネスタ一強と思われるのは癪ですわ」
ふっと野心的な笑みを見せるパトラに、ルーンスも普段の笑顔を置いた笑顔で告げる。
ルーンスは冒険者であるが故に、拠点としてリブラネスタで過ごす事が多いが、その中で癪に触る事はままあるらしい。
その根底にある不満の芽、それは――。
「同盟全体で経済盛り上げてナンボでしょ」
その言葉を聞いたパトラの紫色の瞳が、ルーンスの眼にどう映ったかをパトラは気にしない。
「えぇ、つくづく――その通りですわ」
ルーンスは冒険者として活動していく中で、王国や辺境の商人との知己を得て。また刺激を受けて来たと言う。
今回の会食の席においては、同盟の商人とも話せる機会となっているようだ。
パトラもまた、エスト・ポーラと言う同盟の中での立ち位置やリブラネスタには劣っていないと――語れば止まぬ口を一旦閉ざす。
――話題は流通や販路と踏み込んでしまえば時間が足りそうにない。
開催の時間を考慮すると、今回はこの辺が潮時だろう。
「では、お互い地元経済を盛り上げようね」
「えぇ、是非もありませんわ」
2つのカクテルが触れ、軽やかな音が鳴る。
歓談の時間を終え、席を立つルーンスに、パトラは「風の噂ですけど」と一言ルーンスへ、噂の真相を暗に問う。
さぁて、ね。
とルーンスは静かに。
「秘密。僕は風を待つだけ」
普段と同じ商人の笑顔で答えて、この日の幕は閉じる。
エスト・ポーラにある酒場の一画を貸し切って行われる祝いの席。
その内装は平素よりも明るく、鮮やかに粉飾が施されている。
壁や天井、テーブルクロス。
そう言った細かい所の手配や采配を取ったのは主催であるアルアータ商会の次期跡継ぎ。
パトラ=L=アルアータであった。
冒険者達を迎えられるように、その内装や料理。そう言った所にも目を通す。
元々信に置いた付合い長い店との打ち合わせは、想定よりもすんなりと終えたそうだ。
●祝杯の席
そして、開場の時。
訪れた冒険者の面々にパトラは変わらぬ気概で来訪を称える。
「ようこそ、エスト・ポーラへ」
会場の広さや華やかさは妥協せず。
料理は並べる形式は合わないと判断し、オーダー制へ変更をする。
無駄なリソースは割かずに、オーダーへ全力を注ぐ、パトラの性質が垣間見える。
パトラは出迎えと同時に略式な初めましての挨拶と、来訪の礼を述べて祝杯の場へ面々を案内する。
多種多様な種族、年齢や身長を考慮して準備されていたテーブルや椅子の数々。
早速1名をその席へ案内する。
赤紫色の鱗を、撫でるように揺れる銀色の髪。
落ち着いた雰囲気に柔らかくも明るいオレンジ色の瞳。
小さめの二本の角を飾る装飾が印象的なリザードマンのスィーリーンだ。
そんな彼女スィーリーンが座りやすいであろう、テーブル席へとパトラは案内をする。
その特徴的な尾が閊えぬよう、背もたれを排した椅子へ通す。
給仕を担う者がスィーリーンにオーダーを伺う。
「では、果物のたくさん乗ったフルーツタルトをいただけますか?」
そのオーダーを復唱すると係の者は一礼し離れる。
そうですわ、とパトラの紫色の瞳がスィーリーンへ向けられる。
「お誕生日おめでとうございますわ、スィーリーン様」
今宵、この場で唯一の誕生日を迎えた彼女へ贈る。
「ありがとうございます、パトラ様」
スィーリーンはこの会場において、今日一番の主役と言って過言では無いだろう。
お辞儀を軽く済ませると、ゆっくりと楽しんで行ってくださいと言い残してパトラは席を離れる。
しばし待つと、給仕の者がスィーリーンの為に作られたフルーツタルトを運んでくる。
併せて淹れられた紅茶の香も漂って来た。
待っている間のスィーリーンは、内装の装飾やテーブルクロスの意匠。そう言った所で目を楽しませていたが。
いま、眼前へと現れた色鮮やかなフルーツ達が可愛らしくも惜しみなく並ぶタルトに釘付けである。
ティーセットやタルトの為に準備されたフラットウェア、使われている皿までをスィーリーンは目で楽しんでいた。
平素より、そう言う物の繊細さや綺麗さを嗜む彼女ならではの反応。
そのスィーリーンのオレンジ色の瞳が嬉しそうに煌めくのを、遠巻きに観察していたパトラにも伝わる。
準備した甲斐を感じると言うものだ。
最初の一口に、どのフルーツから食べたものかと。
悩ませるタルトの上をスィーリーンはフォークで切って、その口に運ぶ。
生地の中にも織り込まれた隠し味も相まって、フルーツの味を引き立てる甘さ。
スィーリーンはその甘さの中に、懐かしい甘さをひとつ見付ける。
次に口へ運ばれるフルーツは、また違う甘味で彼女の舌を喜ばせる事だろう。
この日の訪れに。
スィーリーンに関わり、ここまで育ててくれた皆様に感謝しつつ。
緋色の髪に遠くへ焦れる赤い瞳の小柄な少女トーラがひとつのケーキをオーダーした。
その小さなケーキに「ロウソクを」とオーダーで聞いた給仕から「プレートに名前を書き添えますか?」とトーラへ伺う。
逡巡した赤い瞳を閉じて、首を小さく横に振る――。
「無記名でお願いします」
ショートヘアーのハーフリングの少女、トーラはケーキを待っている間にふわふわと心は遠くに。
トレードマークである黒い猫耳形のイヤーマフが、物思いに揺れる。
「お待たせ致しました――」
給仕の手で運ばれて来たケーキ、ろうそくの明かりがトーラの赤い瞳に別の火を映す。
無記名のチョコレートネームプレート。
「お誕生日、おめでとうございます――」
声は届かずとも、その思いは届けばと、祈るように。
「困難に立ち向かう貴方に、神様の祝福と」
その名を口にするのは、少女にはまだ遠く――。
「困難を無事に乗り越えることが出来ますように……」
思いの深さが。
祈る間を以って伝わるようだった。
そんな少女の様子を遠目から観察していたパトラは、心の中で悶えたが、平静を装いつつ見守った。
祈りを捧げた瞼が次に開かれる時、乙女から少女の顔に戻ったトーラはふっとろうそくの火を吹き消す。
余韻。
頃合いを見計らったパトラが給仕に合図を送ると、トーラの元へ紅茶が届けられた。
少し意外だったトーラは「ありがとうございますっ」と普段のような元気な笑顔を返す。
せっかくのケーキ。
トーラはその端を切って口に運んだ。
甘いクリームとスポンジのやさしい口当たりが、トーラの口内に広がっていく。
ゆっくり味わいながら。
遠くへ思いは続く。
(あの方は、向こうで何をされているでしょうか)
大変な状況に置かれた、その人の身を案じる。
せめて、いまこの時は――自分と同じように、ゆっくりと休んで過ごせていたらと思う。
夜にちゃんと眠れているのだろうか。
無いとは思っていても、不遇な立場に身を置かれていないかと心を寄せる。
紅茶の温かさと香りが、そんな不安をほんのわずかに溶かしてくれた。
●会食の時
「誕生日か……」
黒い髪の下、灰色と紫玉の瞳を持つルイドは思案した。
自身のその日は「たぶんこのくらいの時期」程度にしか覚えてはおらず。
そして、あまり意識する事もない事項であった。
そんな彼が今日、この場所を訪れたのもタダ飯を頂けるという機会を見す見す逃す手は無い。と言う事で今に至る。
給仕に通され、一般的なヒューマン向けの席へ腰を据える。
人数の都合、オーダー制を取る事にした為、配膳前にメニューに目を通す形になる。
ルイドはそれらを一瞥して一考――。
馴染みの定番メニューから、多種多様に選択肢がある訳だが。
(エスト・ポーラって言うと何が名物になんのかね?)
メニューの一覧に不満がある訳ではなく、これと言う焦点が定まらない。
折角なら、その土地のメニューを楽しみたとルイドは考えて居る。
そんな視線が、パトラと合う――居住まいや雰囲気から依頼を受けた時に見聞きした印象と合致したルイド。
給仕に一言断りを入れ、席を立ったルイドはパトラの元へ。
「確か今回の主催者だったよな?」
参加者の様子を伺っていたパトラは「えぇ、そうですわ」と毅然と答える。
一瞬、ルイドの片目に視線が行く。
「ホムンクルス……でしたかしら、初めて見ましたわ」
そうかい、とルイドは挨拶もそこそこに終えると本題へ移る。
「やっぱ飲み食いするんならその土地の名物だとか、そこでしか経験できないもの優先してぇんだけど」
「なるほど、そう言う事ですの」
ルイドはこの後、ちょっと後悔する。
やる気に満ちたパトラ=L=アルアータの自信が瞳の圧が、つよい――。
「エスト・ポーラと言えば――! 前略――中略――以下省略」
長かった。
雄弁に語るとはこの事か、一品の生産者から加工者までに至る話は想像以上に長かった。
気付けばテーブルに2人は腰かけており、立ったまま話を聞かなくて済んだのが幸いだろうか。
「じゃぁ、パトラのオススメで決まりだ」
海鮮料理を中心としたディナーセットが届く前に、ちょっと疲れた一息をルイドは吐いていた。
だが、そのお勧めされた店の看板メニューはルイドを喜ばせてくれたと言う。
「はじめまして、アルアータ嬢」
そう挨拶をしたのはルーンス・ラグネル。
「えぇ、はじめまして」
パトラは改めて挨拶をする。
その必要性を感じさせる雰囲気を、冒険者とはまた違う人生経験からパトラは自然と行う。
その様子にルーンスも我が意を得たりと言ったほほ笑みと共に、緑色の瞳に灯す色がわずかに変わる。
「本来の立場で話したいし、隅で話をしても?」
その言葉の意図を、パトラが計り兼ねる間に。
ルーンスは静かに、その名を告げ――。
「そう言うことですわね」
腑に落ちたと言った顔でパトラ=L=アルアータは、その招きに応じた。
広く貸し切られた店内が活用される。
エスト・ポーラでお酒としても親しまれている桃とレモンを使ったカクテルがテーブルに並ぶ。
給仕が離れるのを眼で見送ったルーンスはカクテルの入ったグラスを傾けて、ひとくち。
甘みとサッパリとした風味が、良い調和で喉を潤してくれる。
同じようにグラスを傾け、終えたパトラに顔を向けると早速と話題を切り出す。
「先に商人としての本音を言うとさ、リブラネスタだけが同盟と思うなって思わない?」
金髪の下、パトラを伺う緑の瞳が捉える。
その言葉に、パトラの瞳がちょっとだけ驚いたような様子を見せるが直ぐにそれは潜めた。
「そうですわね、リブラネスタ一強と思われるのは癪ですわ」
ふっと野心的な笑みを見せるパトラに、ルーンスも普段の笑顔を置いた笑顔で告げる。
ルーンスは冒険者であるが故に、拠点としてリブラネスタで過ごす事が多いが、その中で癪に触る事はままあるらしい。
その根底にある不満の芽、それは――。
「同盟全体で経済盛り上げてナンボでしょ」
その言葉を聞いたパトラの紫色の瞳が、ルーンスの眼にどう映ったかをパトラは気にしない。
「えぇ、つくづく――その通りですわ」
ルーンスは冒険者として活動していく中で、王国や辺境の商人との知己を得て。また刺激を受けて来たと言う。
今回の会食の席においては、同盟の商人とも話せる機会となっているようだ。
パトラもまた、エスト・ポーラと言う同盟の中での立ち位置やリブラネスタには劣っていないと――語れば止まぬ口を一旦閉ざす。
――話題は流通や販路と踏み込んでしまえば時間が足りそうにない。
開催の時間を考慮すると、今回はこの辺が潮時だろう。
「では、お互い地元経済を盛り上げようね」
「えぇ、是非もありませんわ」
2つのカクテルが触れ、軽やかな音が鳴る。
歓談の時間を終え、席を立つルーンスに、パトラは「風の噂ですけど」と一言ルーンスへ、噂の真相を暗に問う。
さぁて、ね。
とルーンスは静かに。
「秘密。僕は風を待つだけ」
普段と同じ商人の笑顔で答えて、この日の幕は閉じる。
マスターコメント
イベントシナリオ、ご参加いただきありがとうございました!!
一乃口の個人的な反省点は来月へ反映させたいと心に誓いつつ。
お誕生日を迎えられた方、おめでとうございます!!
来月もお祝いしましょう、誰かの誕生日をお祝いするのもやっぱりとても良いですよね。
この度はご参加いただきありがとうございます。
またの機会を楽しみにしております。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し4 / 4〜25人
2022年07月29日 11時50分43秒 公開
大成功
相談掲示板
投稿はありません