【夏果】元カレピのカード占い~スイカと塩あり編~

眞石ユキヒロ

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シナリオID:2340

オープニング

●上からの命令には勝てなかったよ……
 辺境都市群冒険者ギルド、会議室。
「水泳大会を開いたあの湖でスイカの屋台を開け、ですか?」
 辺境都市群冒険者ギルド職員、ツェレンは大きなシカ耳をピンと上に伸ばして、上司からの命令を再確認した。
「ああ、辺境都市群冒険者ギルドをもっと身近に感じてもらうために、昨今のトロピカルフルーツブーム……いやブームの予定に乗っかる形で、とのことだ」
「……はあ」
 ぽかんと口を開けたまま、ツェレンは内心、このギルドの上層部に毒を吐く。
(前から思っていたが、ベル(職員)をさらったティボー(誘拐犯)をギルドの下っ端扱いしたり、ブームの予定に乗っかったり、ここの上層部は何か変だ……)
 罪を憎んで人を憎まずなのかもしれない。流行り物に敏感なのは情報収集が得意な証拠でもある。
 けれど、なんというか……。腑に落ちない。
 世の中はいろいろな思惑の上に成り立っており組織も同様ではあるが、だからといってこの緩さは……。
 そもそも結婚式の手伝いとしてティボー(誘拐犯)をタダで使える労力として押しつけてきたのも、助かったは助かったけれど、なんか……。
 いや、本人にも償う気持ちがあるのは働きっぷりから理解はできたが、ううん……。
「しかしツェレン君、ブームの予定に乗るだけでは少し物足りないのではないかと僕は思うんだ。だからもう一つ、何か良い感じの出し物を考えてきてはくれないか?」
 再びツェレンの耳がピンと伸びる。
 唐突に企画を丸投げされたツェレンは、目を丸くしたままそれでも折り目正しい礼をして、会議室を後にした。
(何をどうしろと言うんだ……!)
 カツカツと大きめの足音を立て、階段を降りて行く。耳に入る一階の喧騒が懐かしく、とても落ち着くもののように感じられた。
「先輩、どうしたんですか?」
 無論、ライリー・ベル(いつもの後輩)のこともだ。

●恋人(現伴侶)のことが大好きな人達
「マジですか」
 上司からの依頼(無茶振り)を説明されたライリーの感想はそれだった。
 ライリーも己の信仰(ドゥジン信仰)に関連する話題では滅茶苦茶な発言をする方だが、普通の仕事の話であれば普通の対応をする。
 よって、丸投げされたいいかげんな仕事にはそれなりに呆れる(ふんわり企画にはそれなりに驚く)。
「とはいえ言われたんなら考えとかないとヤバイですよね……」
 そして書類とか整理しながらも(自分の仕事を片付けながらも)建設的に対応してくれる。ツェレンからすれば有難い存在でもあった。
「先輩、何か特技とか無いんですか?」
「私は……料理は好きだが……」
「彼(カレピ)さんっていうか旦那さんに振る舞ってるんですねわかります」
 目を細めて含み笑いをするライリーに、ツェレンの顔面の温度が急上昇する。
 怒ってやろうと口を開けたところで、ライリーが手をぱん、と合わせた。
「そういえば! 前に彼(カレピ)……旦那さんは占いが得意だって嬉しそうに語ってませんでしたか!?」
「折角ですし占い屋台、やってみません? 屋根とかつけてカーテンで仕切って水晶とか用意してそれっぽくしましょうよ!」
 たたみかけるように提案をするライリーに気圧されながらも悪くはない、と思う。からかわれている感じもあるが、一応具体性はあるし。
「問題はカレ……旦那さんが受けてくれるかですけど……」
「ワタシは受けるよ」
「あああ、アーキル!?」
 カウンター越しに、ツェレンの夫であるリザードマンのキャスター、アーキルが低い声で語りかけてきた。
 アーキルは冒険者であるため、冒険者ギルドにいることもよくある。
「驚かせてしまったかな。すまないツェレン。お詫びにあとでシャルガネのおでんと焼酎でも……」
「カレ……アーキルさん! それより、占いの屋台を引き受けてくださるんですか!?」
「勿論。可愛く美しく凜々しく働き者な可愛い嫁の助けになるなら」
 アーキルは子供のような屈託のない笑みで答えた。
「でしたら、詳細を詰めてから連絡いたします! どうかよろしくお願いします!」
 立ち上がり勢いよく礼をしたライリーの横で、ツェレンは真っ赤な頭を机に押しつけた。
 
●腐れ縁の人達
 以前水泳大会が行われた、水上都市アキュアリスタの湖の畔。
「で、こんなものを用意したんですか」
 雑用係に任命されたティボーが、湖畔の緩い傾斜に桟敷席を設置しながら呆れた声を漏らす。
 桟敷席横にはスイカの屋台と、紫の布で仕切られた小さな占いの館。
「上からの命令だからな」
 大玉スイカが詰められた木箱を運び、湖で冷やす準備を始めたツェレンが事務的に回答する。
「私の旦那……アーキルまでかり出されたのだからな。しっかりと働かなければ」
「それにしても占いですか。あんま詳しくないんですけど、カード占い? 僕もやってもらおうかなと」
「何を占う気だ」
「……ライリーさんに今後どう思われるのか、です」
「は?」
 気でもあるのかと尋ねるまでもなく、二人の間には脈が一切存在しない。
 ティボーは良くも悪くも事務的で、ライリーは良くも悪くも他人への憎悪は濁すタイプだ。
「いや……、悪いことしたんで、なんかこう……機嫌取るっていうか、せめて不快に思われないようになりたいな、と思ってまして」
 なるほど、それなら一応は納得できる。ツェレンは占いの館の方に顎を向け、行ってこいと促した。
 
●元カレピ(現ダーリン)のタロット的な(カード)占い
「「悪魔(魔物)の正位置」ですね」
「これってどんな意味のあるカードなんですか? 正位置って?」
 眉間に皺を寄せたティボーが、不吉そうな絵柄のカードを眺めながら尋ねる。
「正位置はカード本来の向きを現す言葉です。意味は何というか……誘拐されたことがまだ強く心に残っているようですね(現在はあまりよく思われてはいない、という感じですね)」
 アーキルはティボーにだいぶ濁した結果を告げた。それから小さな黒い鱗のついた太い指でもう一枚。アドバイス用のカードをめくる。
「アドバイスは「月の正位置」。心配や隠れた敵を現すカードです。そっとしておくべきです(しばらくはあまり関わらず、見守る方が良いかもしれません)」
 ティボーが「だろうな」という本心を飲み込んだ。
「ちなみにアーキルさんとツェレンさんの相性はどうなんです?」
 微妙な空気のままもいやなので、明るくなりそうな話題をすかさず提供する。
「ワ、ワタシとツェレン(ハニー)!? ……いや、しかし折角占ってくれと依頼されたのだから……」
「見せつけちゃってくださいよ。お金、ちゃんと払いますんで」
 アーキルは狼狽するもすぐに気持ちを切り替え、二十二枚のカードを混ぜ始めた。
 それからカードをまとめ、三つの山にわけ、それを好きな順で一つの山に戻す。
「一枚目、今後の二人……「女教皇(女司祭)の逆位置」。ツェレンに何か苛立つようなことでも起こるのだろうか!? もしかしたらワタシがツェレンを怒らせ……!」
 アーキルが目つきの鋭い美女のカードを前に大慌てする。
「よくわかりませんけど次のカードを見ましょうよ、二枚目はアドバイスなんでしょ」
 ティボーに急かされ、アーキルが二枚目のカードを素速く表にした。
「「恋愛の正位置」。娯楽や選択を現します。気楽に構えた方が良い、というところでしょうか。そして選択するときはビシッと決める」
「ツェレンさんも神経質っぽいですけど、アーキルさんも心配性みたいですしね。なんか楽しそうな絵柄ですし、肩の力抜けって事なんでしょうね」
 対座するティボーが無表情で一言も二言も多いアドバイスをする。
 占いの館から怒声がしたがツェレン以外は誰も気に留めず、自分の作業に集中していた。

解説

●目標  ・占いを楽しむ  ・スイカブームを巻き起す     ●場所  水上都市アキュアリスタの大きな湖。  「【花戦】ハーレムごろし?~神との競泳(偽)編~」で競泳(?)大会をした場所ですが、当該シナリオを読んでいなくても楽しめます。  湖畔にスイカの屋台と占いの館を出しています。  桟敷席も用意されています。飛び込み台は撤収されていますが水着でいらっしゃって大丈夫です。 ●できること  ・タロット的なカードで占う   使用するのは現実の大アルカナっぽい22枚です。   運勢とアドバイスを、アーキルがカード2枚で占います。   ロスガリアでの知名度は「占いの知識がある程度あるなら知っている」程度です。   ・メニュー    ・相性占い(ペア、グループ可。眞石所持NPCとも可。不参加PCさん、NPCさんなどが対象の場合は、相手についてはぼかします)    ・運勢占い(恋愛運とか目標とか)    ・そのほか(人生相談なども可)    (※実際にはMSがタロットを用いて占います。ふんわりした内容でも占えるようにマスタリングしますのでお気軽にどうぞ)    (※OPノベルのツェレンとアーキルについては実際に占った結果を使用しています)      ・スイカを食べる   ツェレンが切り分け、ライリーが配っています。片付けとかはティボー。   1玉を三角錐っぽく16等分したものを、1人につき1個(を紙の皿付きで)差し上げます。   塩も用意してあります。好きなだけ振ってください。   お好きな調味料などをご持参いただいても構いません。   スイカの種をどこまで飛ばせるかを競い合うなども可能です。どこまで飛ばそうがティボーが片付けます。      みなさんがスイカを美味しそうに食べていれば、スイカブームは自然に巻き起こると思われます。   人が喜んで食べてるものって、自分も気になりますもんね。    ●NPC(※プレイングに記載が無ければアーキル以外は基本空気)  ・アーキル   冒険者(キャスター)でツェレンの旦那なリザードマン。新婚でとてもラブラブ。   占いを担当する。     ・ツェレン   辺境都市群冒険者ギルド職員でウォーリアのシカハフビ。新婚でry。   スイカを切る係。     ・ライリー・ベル   ツェレンの後輩。いつものドゥジン信徒。   スイカ配る係。     ・ティボー   元誘拐犯。現状は辺境都市群冒険者ギルドの下っ端みたいな感じになってる。   雑用係。

マスターより

 冒険者の皆様、お読みいただきありがとうございます。  眞石ユキヒロです。    今回は占いとスイカの欲張りセットです!  どっちか片方で良いのかもしれない、でもどっちも楽しめるならどっちも楽しみたい!  塩をかけてないスイカと、塩をかけたスイカとか!  そんな感じの欲張りセットです!  ロスガリアに概念が存在しないため、ルビを振って「女教皇」は「女司祭」、「死神」は「死」、「法王」は「司祭」、「審判」は「復活」と置き換えさせていただきます。ご了承ください。  今更ですが、WR資格を取得したことを報告いたします。  はじめは結構びびっておりましたが、実際に書いてみると楽しいですね。  現在は「アニエピカ」「ホワイトレター」に対応しております。  私所持のNPCであれば登場させることも可能ですので、ぜひご検討いただけると嬉しいです。  質問があれば冒頭に【質問】と書いて相談卓に投稿すればツェレンかライリーが答えられる範囲で答えます。

リプレイ

●
 容赦ない日差しが照りつける中、時折、湖の上を風が滑り、涼しさを連れてくる。
 辺境都市群、水上都市アキュアリスタ。
 今年の春に『授恵者と神の水泳大会』が催された湖の畔に、今年の夏は二つの屋台が設置された。
 一つは辺境都市群冒険者ギルドが主催するスイカ屋台。
 もう一つは上司が部下(ツェレン)に丸投げした企画、占いの館。
 
 パラソルの下の桟敷でスイカを食(は)みながら涼むことも可能だし、ギルドは推奨している。だが彼女は働くことを自分から申し出た。
「……こういうのを売るときって昔から、ちょこっとセクシーにやるのが流行りじゃない?」
 重厚な黒の鎧を纏った、ショートカットの銀髪を揺らすエルフの女性。アリア・ティーダは桟敷の横に設置された着替え用のゲルに視線をやって口にした。
 彼女のどたゆんっ!!!(強化されたお色気)は鎧の上からでもわかる見事なものだが、そのナイスバディを更に引き立てるにはそれ相応の衣装が必要というものだ。
「ってわけで、ボクは着替えてくるよ。スイカのアピールとして人前で食べてみたり。勿論、重労もやるよ。よろしくね!」
 ツェレン(ギルド職員)が頷いたのを確認してから、彼女はゲルの中へと消えていった。
 
「わー! スイカだって!!」
 大きな看板に描かれた、大森林では見たことのないトロピカルフルーツに歓喜の声を上げるエルフの女性が一人。
 陽光に似た金髪をショートカットにし、青い瞳を湖面のようにキラキラと輝かせるエルフ、ツィーラ・イェレミースだ。
(あ、いけないいけない。あたしは占いの方に用があったんだった)
 頭の横をくしゃくしゃとかきながら、でも占いのあとでこっちの屋台にも寄ってみたいなと考えつつ、ツィーラは占いの館へと吸い込まれていく。
 
 黄色い花のカチューシャをつけ、後ろ髪を二つ結びにし、黒のビキニとホットパンツを纏ったアリアが入れ替わるように現れた。
 キュッとくびれた腰が、胸部のどたゆんを更に強調する。通りすがりの男性の視線がそちらに向かうが、アリアは弾ける笑顔で赤く輝くスイカにかぶりつく。
(暑い夏にぴったり! 湖で冷やした甘いスイカ! ……まだマイナーみたいだけど、流行るといいよね)
 シャリシャリをした食感を楽しみ、嚥下する。波打つ喉に、複数の男性の熱い(ホットな)視線が集まる。
「熱くいこうじゃないっ! 赤くて甘い熟れたスイカ、まだまだ屋台にいっぱいあるよ!」
 自分に視線を送る男性たちに声をかけ、小さく手を振る。それからアリアは屋台へ入り、包丁を手にスイカの切り分けを手伝い始めた。
 スイカ屋台に少しずつアリア目当ての客が集まる(列ができはじめる)。
 
「ライリ~、今日はお友達をお連れしましたの」
 穏やかな笑顔が人に安心感を与える、銀髪をくるりとお団子にしたヒューマンの女性。
 マラカイトの瞳を優しく細めたサシャ・テーリングがマロンブラウンのワンピースをはためかせながら、スイカを配るライリー・ベルに声をかけた。
 サシャの隣には橙色の髪を緩く二つ結びにした、大きなシカ耳と空に伸びる角を持つ可愛らしいハーフビーストが並んでいた。
「こちらはうよたん……梅(バイ)・雨陽(ウヨウ)さんというの。可愛らしい、私の癒やしですわ」
 雨陽の背に優しく手を当てながら、サシャは笑みを深める。
「ライリーちゃん、サッシャんのお友達同士ヨロシクネ!」
 雨陽は両手を頬にあて、大粒のルビーみたいな瞳で上目遣いを繰り出す。
 ライリーはめっちゃ可愛い……という本心を喉でとどめ、「よろしくお願いします!」と無難に会釈を返した。
「うよたん、ライリーは頼りになる素敵なお姉さまですのよ。……私と同い年ですけれどね」
「そうなノ? じゃあ、ワタシも頼りにするネ!」
 笑みながら小首をかしげるサシャにつられるように、雨陽は小首をかしげてウィンクする。尊い光景にライリーの残機が一つ消えた(消し飛んだ)。
(大好きな人達が両手に……とても嬉しいですね)
 サシャの笑みにはいつにない喜色が混じっている。理想のドゥジンシを見つけたときとはまた違う、春の日差しのような暖かな喜び。
「ブレイドさん。ささ、とろぴかるふるーつと占いの欲張りセットを体験しましょう」
「あ、ああ、わかった。わかったからそんなに引っ張らないでくれないか?」
 と、聞き覚えのある声が二つ、サシャの耳に届いた。
 一つめは猫耳のように跳ねた髪と編み下ろした代赭色の後ろ髪をさらさらと靡かせる小柄なヒューマンの少女、東雲(しののめ)・更紗(さらさ)の声。
 二つめはカージナルレッドの短髪を逆立てバンダナを巻き、その下から哀愁漂うジェイブルーの瞳を覗かせる屈強なヒューマンの男性、ブレイドの声。
(ゲテモノだのドゥジンだの突拍子もないもんしか興味がないと思っていたが、流行りモノや占いでご機嫌なあたり年頃の娘さんで正直安心した……)
「まぁサシャさんもいらしていたのですね、奇遇です……!」
「更紗様とブレイド様もいらっしゃったのですね」
 ブレイドの密かな安堵と関係なく、更紗とサシャ(ドゥジン信徒同士)はひかれ合う(互いの姿を見つけた)。
「お連れの方も初めまして! 私は東雲・更紗と申します。こちらの筋肉が大好きな殿方はブレイドさんです」
「筋肉が大好き、というわけではないのだが……いや、よろしく頼む。そちらは……」
 更紗が両手を重ねてお辞儀をすると、つられるようにブレイドも頭を下げた。
「ワタシは梅・雨陽だヨ! 更紗ちゃん、ブレイドちゃん、ヨロシクネ!」
(図体のデカい自分にちゃん付け……?)
 雨陽による屈託のない笑みのちゃん付けに、ブレイドは無表情(チベスナ顔)で硬直した。
「ふふ、皆で占いをして貰いませんか?」
「えぇ、ご一緒にまわってみましょうか」
「占いネ~。なんだか人がいっぱいみたいだし、ゆっくりでもよさそうだよネ」
「では、私とブレイドさんは水着に着替えてまいります。行きましょうね、ブレイドさん」
「その間に私たちは全員分の占いの整理券をいただいてきますね」
 めまぐるしく展開する話を静聴していたブレイドの腕を引っ張り、更紗はゲルへと歩いて行く。
「そんなに引っ張らなくても自分は逃げたりしないぞ。皆でまわるのも悪くないと思うからな」
 年頃の娘さんらしく夏の行事に勤しむ更紗にわずかに口角を上げながら、ブレイドは抵抗せず引っ張られていった。
 
「ギルド職員だけでなく冒険者まで手伝っているのか……これは大変だな」
「ボクはやりたいから(夏を満喫するために)手伝ってるんだけどね。……はい、甘~いスイカをどうぞ!」
 ボクサータイプの水着に着替え、鍛え上げた肉体を余すことなく見せつけるブレイドが、アリアからスイカを受け取る。
「ありがとうございます。ええと、お塩は……」
「はい、これだね。適量なら甘くなるけどかけ過ぎには注意だよ!」
 華奢な身体にフリル付きのワンピース水着を纏う更紗がアリアから塩の入った容器を受け取り、代赭色の瞳をにこりと細めた。
 桟敷に席を確保しているサシャと雨陽に手招かれ、四人並んでスイカを口にする。
「スイカは……はむっ、……シャリシャリで甘いですねー」
 最初の一口を存分に味わい、サシャは片手を頬にあて、きゅっと目をつむった。
「オイシイ! ワタシはスイカは塩をかけない派なのヨ」
 雨陽はスイカの種と格闘しながらも、ニコニコと食べ進める。
「とろぴかるふるーつがスイカ……は意外でしたがそのままでもお塩をかけても美味しいです! きっとお醤油も合うはず……?」
 しゃくしゃくとスイカを楽しみながら、更紗は新たな味覚へ思いを馳せる。
「そのままが自分には丁度いい甘さ加減かな……。しかし更紗さんよ、塩はともかく醤油は合わんと思うぞ?」
 一口囓ったスイカをまじまじと眺めながら、ブレイドが更紗の新たな味覚への挑戦に待ったをかける。
「しょっぱいなら、スイカのお漬物が実は好きヨ。ちょっと赤いところを残して、甘いのとしょっぱいのを楽しむのヨ!」
「まぁ、そのような調理法があるんですね。是非試してみたいと思います」
 楽しげにスイカを食べる四人組を見た通行人たちが、スイカ屋台の列に追加されていく。

●
 紫の布で仕切られた向こうには丸い水晶の乗った大きなテーブルとその向こうに座るツェレンの旦那、リザードマンのアーキルがいた。
(リザードマン、かぁ……。でも、占ってくれるんだよね……?)
 アーキルは何やら緊張しているツィーラに手を向け、手前の椅子に座るよう促した。
「失礼するね。えっと、これがメニューなの?」
 ツィーラはテーブルに置かれた手書きのメニュー表をまじまじと見つめる。
(恋愛? ううん、そういうのじゃなくて、んっと……)
「あたしの双子のお姉ちゃんが今どこに居るかを占って欲しいんだ。それが難しいなら、近々会えるかどうかについて占って欲しいんだけど……」
 眉尻を下げて切実な表情を浮かべるツィーラを見たアーキルは「会えるかどうか、ですね」と確認してからカードのシャッフルを開始した。
 二枚のカードを伏せて並べ、一枚目を表向きにする。
「近々出会えるかについては恋愛の正位置が出ました」
「恋愛? どういう意味なの?」
 ツィーラは切ない表情のまま、膝の上に置いた手をぎゅっと握る。
「このカード単体で見ると、新しく楽しい出会いがありそう、という印象を受けます。そして二枚目、どのような依頼に入ればお姉さんと再会できそうか……」
 ツィーラの切実な視線が注がれた二枚目のカードを表にする。
「死神(死)の正位置。……言いづらいですが、命に関わるような、大変な依頼でこそお姉さんと再会できる可能性が高いかもしれません」
 ツィーラは長く息を吐き出した。彼女とて冒険者だ。命のやりとりなどとうに経験済みである。けれど。
「お姉ちゃん、無事だといいな」
「最初に出たのは恋愛の正位置です。貴方が落ち込むようなことはきっと、お姉さんとの間に起こりませんよ」
「そっか。……ありがとね!」
 ツィーラはにこりと笑ってみせ、それから占いの館を後にした。
 
 二人目の客は、アーキルにとっての恩人の一人であった。
「占ってほしいです!」
 オーキッドの輝く長髪に薄紫と水色のリボンを飾り、淡藤色のワンピースの上に短いケープを纏ったヒューマンの少女。
 可愛らしい顔立ちと、貴族ゆえの上品な振る舞いが印象的なシェルリア・リトヴァールだ。
「内容は、そうですねえ……恋愛運を」
 つり下がっているメニューを摘まみ、頬を染め、静かにオーダーを告げる。
「何ですか私だって年頃の乙女なんですよ素敵な恋に憧れたっていいじゃないですか!」
 知り合いに恋愛占いを頼む気恥ずかしさが、まくし立てるような声に滲んでいる。アーキルからすれば微笑ましい限りだが。
 頬を膨らませるシェルリアの視線を感じながら、アーキルはニコニコとカードを混ぜた。そして伏せた二枚のカードを並べ、一枚目を表にする。
「シェルリアさんの今後の恋愛運。皇帝の逆位置。……しばらくは好きになる人は現れないかもしれません」
「そ、そうですか……」
 「ううーん」と頭を抱えるシェルリア(恩人)を見かね、アーキルは素速く二枚目を開示した。
「では、恋愛に発展しそうな相手に出会うにはどんな依頼に入るべきか。……太陽の正位置です!」
 明るい色使いで太陽と白馬と子供が描かれたカードだ。心を開いてくれるような、すがすがしい印象をシェルリアに与える。
「自分が楽しそうと思った、解決したい、大切にしたい気持ちに正直に行動すると、素敵な出会いがあるかもしれません」
 努めて明るく語るアーキルにシェルリアも次第に表情を明るくする。
「そうですよね、落ち込んでいても何も解決しません! スイカをいただいて一涼みしたら、早速冒険者ギルドによってみようかと思います」
「シェルリアさんの心に響く依頼が見つかるよう、ワタシも祈らせていただくよ」
「はい、ありがとうございます!」
 シェルリアは華やかな笑顔を浮かべて立ち上がった。ワンピースの裾をきゅっと摘まみ、軽く腰を曲げ、左足を少し引いて礼をする。
 それからくるりと踵を返して、占いの館を後にした。
 
「運勢を占って欲しいんですけど、ここに居ない人でも大丈夫でしょうか?」
 艶のある朱色のショートヘアーに、黒い猫耳型のイヤーマフを身につけたハーフリングの少女、トーラは小さく口を開いて確認する。
 スカーレットの瞳には真剣さが宿っており、アーキルは瞬き一つせずに彼女の言葉に聞き入った。
「皇子(レイウェストさま)のこれからが知りたいなって」
「相性占いなどではなく?」
 一応確認したアーキルにトーラは柔らかな両頬を真っ赤に染めて大きく口を開けた。
「相性占い? そそそそんなおそれ多いですしいやでも気にはな……でももし悪かったら立ち直れなくなりそうなのでやっぱりいいですー!!」
 戸惑いながらも勢いよく否定するトーラに、アーキルは若干気圧された。
 乙女心は複雑である。結果は状況を見て出すか伏せるかにしよう。そんなことを考えながら、アーキルはタロットをシャッフルし、伏せた三枚のカードの一枚目をめくる。
「レイウェスト様に今後何が起きるか……。皇帝の逆位置。……とても意味深ですね」
 皇帝。その言葉にトーラの動きが止まる。アーキルも眉間に皺を寄せ、腕を組む。
 石で作られた椅子にどっしりと座る、王冠をいただく立派な男性。
 これが正位置であれば喜ばしいことと捉えられた。しかし逆位置。否定されるべき皇帝と言われて思い浮かぶ人物は、ただ一人(そう多くない)。
 トーラは言葉を失ったまま、カードを見据えている。このままではいけない。アーキルが咳払いし、時を動かす。
「……ではその時、トーラさんはどうすれば皇子(レイウェスト様)のお力になれるか。それを見てみましょう」
 二枚目のカードをめくる。
「女教皇(女司祭)の逆位置。感情や情報に惑わされず、己の心を見つめること、ですね」
 トーラのまっすぐな視線が再び、皇帝のカードに向かった。不安や迷い、困惑は勿論ある。それでも皇子(レイウェストさま)の力になりたいという気持ちだけは曲がらなかった。
 トーラが釘付けになっている隙を見て、アーキルは三枚目のカードの表をチラリとのぞき見た。
「……今はまだ、先は見えないでしょう。けれど世界は続きます。それだけは真実です」
 その言葉が自分とレイウェストの今後の関係を指しているとは、その時のトーラには理解できなかった。
 ただただ、皇子(レイウェストさま)の力になりたい、その思いが胸に渦巻くだけで。
 
 雪色の長髪が儚い美を引き立てるエルフの女性、ネーヴェ・グラヌローザが木の椅子に静かに腰を下ろした。
「私(わたくし)のことも占って頂けますか?」
 想像よりはハキハキとした様子で喋るネーヴェに、アーキルが頷く。
「左様にございますね……その、恋人がいるのですが、その方との相性を」
 輝くシルバーの瞳を優しく細めてはにかみ、声を少し小さくして。一言一言、確認するようにゆっくりと話していく。
「そして、これからこの関係は、どのようになっていくでしょうか」
 自分たちにもそんな頃があったなと思いながら、アーキルはカードの山を混ぜた。
 三枚のカードを並べて、一枚目を表にする。
「現在のお二人の相性は節制の正位置。互いにとって居心地が良く、意見の交換なども対等にできる間柄でしょう」
 杯から杯へと器用に水を移し替える、赤く大きな羽根を背負った女性のカードがネーヴェに安心感とほんの少しの高揚を与える。
「……占いを信じすぎるのも宜しくありませんが、そういう風に言っていただけるととても嬉しいですね」
 年頃の女性だ。恋人との仲をそんな風に褒められれば、どうしたって照れてしまう。
 証拠に白い頬がほんのりと赤く染まっている。
「では次は関係がどのように変化するか、ですね」
 二枚目のカードをめくる。
「星の逆位置。……少し理想が高くなってしまうかもしれません。では、更に良い関係になるためにネーヴェさんがどう振る舞うべきか」
 三枚目のカードをめくる。
「悪魔(魔物)の逆位置。良くないと思うことはせず、己を信じましょう」
「それなら大丈夫でございますね。良くないことに手を出すつもりはございませんから」
 安堵の笑みを浮かべ、ネーヴェは短く息を吐き、緊張を解いた。
 頬の熱は引かないが、それでも気持ちはいくらか楽になる。
「占いの結果を前向きに受け止めて今後の糧とする所存です。誠にありがとうございました」
 ネーヴェは立ち上がり、両手を重ねて深々と礼をした。それから、軽やかな足取りで占いの館を後にする。

「実はこういうのに目がないタイプでな。マーシュも結構好きだろう? 占いは乙女の何とやら……だ」
 長い銀髪が褐色の肌を引き立てる、やや露出が高めのセクシーなエルフの少女、ライナ・フレイヴァルツは占いの待機列に並び、隣に立つメイドの少女に語りかけた。
「はいっ! 今回はライナ様が楽しみにしている感じもあっていつも以上にどきどきが……!」
 容赦なく照りつける太陽の下でもスカート丈の長いメイド服を纏い、ライナに仕える銀髪のエルフ、フロマーシュ・ダイヤドロップが頷き、胸に手を当てた。
 豊満な胸の谷間に、絶え間なく汗が滑り落ちてゆく。
「次の方、お入りください」
 紫の布を開き、中に入り二人並んで座る。二人の距離は近いのに、なんとなく涼しくて居心地が良い。
 ライナはテーブルに置かれたメニュー表を手にし、フロマーシュと二人で眺めた。
「色々あるのだな。ふむ。まずは私個人を占ってもらおうかな。占ってもらう内容は……そうだな。周囲からの印象だな」
「ライナ様はいつも凜々しくて素敵ですよ」
 すかさずライナの良さを語るフロマーシュに、ライナがほんの少し頬を染めて待ったをかける。
「マーシュからそう言ってもらえるのは嬉しいが、自分たちだけではわからない自分、というものもあるからな」
「でしたら私は……皆を笑顔にするアドバイス、でしょうか?」
「私はいつもマーシュに笑顔にしてもらっている気がするよ」
 ライナが柔らかな表情で、マーシュへの思いを述べる。
「ありがとうございますっ! でも、もっと皆を……ライナ様も笑顔にできたらって思います」
 二人の微笑ましいやりとりに心を和ませながら、アーキルがカードを混ぜる。
 伏せた二枚のカードの、一枚目をめくる。
「ライナさんがどう思われているか……。愚者の正位置。純粋で自由、どこかあぶなっかしいけれどそこも魅力的……といったところでしょうか」
「わかりますっ! 私はそんなライナ様をお守りできたら……と思います!」
 ライナ評に、本人より先にフロマーシュが反応する。
「あ、ありがとう。では、マーシュの方はどうだ?」
 フロマーシュがドキドキする胸を押さえる中、アーキルが二枚目をめくる。
「皆を笑顔にするアドバイス。運命の逆位置。流れに身を任せ、しなやかな対応を心がけると良さそうですね」
「マーシュの心遣いは常に行き届いているぞ」
 今度はライナが先にフロマーシュへのアドバイスに反応する。
「嬉しいです、ライナ様……!」
 フロマーシュが両頬を抑え、俯く。占いの館の中は比較的涼しいが、なんだか熱々になってきた。
「ところで、マーシュとの相性占いもしてもらっても良いか?」
「ライナ様との、相性占い……!」
 更なる熱々が投下される。しかしここで追い出すアーキルでもない。カードをシャッフルし、伏せた三枚を並べる。
「一枚目はお二人の相性……。吊られた男の正位置。辛いことにも耐え、二人で試練を乗り越える間柄と言えるでしょう」
 ライナはフロマーシュの穏やかな蒼の瞳を、フロマーシュはライナの強い輝きを宿す銀の瞳をみつめた。アーキルはすかさず二枚目、三枚目をめくる。
「二枚目はライナさんがどう行動すれば二人の関係が良くなるか。恋人の逆位置。フロマーシュさんをよく見て、彼女を慮る。といった感じでしょうか」
「三枚目はフロマーシュさん側からです。死神(死)の逆位置。古い自分を捨てるかのように思い切って行動してみるのも良いかもしれません」
 見つめあうライナとフロマーシュは、アーキルのアドバイスに我に返った。
「……心にとどめておくぞ」
「思い切って……ライナ様に……、が、頑張りますっ!」
 二人はアーキルに礼を述べてから退場した。
 
「占いネ~。やったことないワ。サッシャんとの仲良し度を占ってもらう? でも占いで言われてもネー。もう仲良しヨ」
 占いの館にアーキルの恩人であるサシャとブレイドと更紗、サシャ(恩人)の友人である雨陽が押し寄せた。
「私は恋愛運が良いです。あとは……恋と仕事、どちらに注力すれば今後が充実するでしょうか?」
「ワタシも考えたヨ! これからのワタシはカワイイキュートを目指すか、大人カワイイを目指すか、新たなジャンルを切り開くかの……指針をヨロシク!」
「流石うよたんですわ! 今の可愛さに満足せず、更なる高みを目指す姿勢。私も見習いたいと思います」
 雨陽とサシャの話はトントン拍子に進んでいく。アーキルは頭の中で要点をまとめながらカードを混ぜる。
「まずはサシャさんの方からです。現在の恋愛運は隠者の正位置。密かにサシャさんを好きな人がいるかもしれませんが、アプローチはしてこない……そういった感じでしょうか」
「まあ、奥ゆかしい方なのね」
 サシャはにこりと笑って受け流す。
「仕事か恋かは、皇帝の正位置。気になる、あるいは好きな方がいるなら積極的にアプローチしても良いと思います。そうでなければ仕事一筋の方が充実するでしょう」
「自分の心に問いかけることが大事……。そう受け止めましたわ、ありがとうございます」
 サシャはアーキルに頭を下げ、それから隣の雨陽を見た。
「雨陽さんが可愛さについてどういう方針をとるべきか。愚者の逆位置。うーん、自分に正直に、どうすれば自分がもっと可愛くなれるかを真剣に考えるのが、良いかと……」
「ワタシのカワイイを信じよう! ってことでいいのカシラ? アリガトネ!」
 歯切れの悪いアドバイスからも、雨陽は自分なりの答えを見つけ出した。
 サシャが席を立ち、雨陽もそれに従った。二人の背後には神妙な面持ちのブレイドと、ワクワクを隠しきれない更紗が立っている。今度は二人が席に座る番だ。
「自分は仕事運でも……」
「いえ、できればブレイドさんとの相性占いをお願いします!」
「自分との相性占い……?」
 紫の布に包まれた館の中に緊張が走る。
「良いならこれからも気兼ねなく、悪ければ親密になれるよう頑張るだけですのでどちらに転んでも問題はありませんよ? ふふ」
 それでも余裕の笑顔を見せる更紗に、ブレイドはため息をつく。
「仕方ない……相性占いで頼む」
 アーキルはこれは果たして全員に結果を見せるべきなのかと考えながら、カードをシャッフルする。
「お二人の現在の相性。女帝の逆位置。うむ……どう転んでも更紗さんがこの関係を引っ張っていくことになるのでしょうね」
 ブレイドは無表情(チベスナ顔)で過去のあれこれを思い出していた。心当たりは結構ある。忘れられないものが沢山。
「ブレイドさんがどう行動したら更に関係が良くなるか。塔の逆位置。現状に順応し、運命を受け止める……」
 なるほど、今後もこの関係は続いていくのか。ならば――。
「……一応、善処しよう。でだ。更紗さんの方は……」
「力の正位置ですね。愛情を持ってブレイドさんに寄り添うことが大切でしょう」
 更紗が言葉を失い、大きな目をぱちくりさせる。
「更紗さん? 更紗さん!」
 ブレイドの力強い呼びかけに、更紗が顔をそちらへ向ける。
「あ、え、な、なんでしょうか? 愛情、あ、愛情ですか……?」
 愛情。うら若き乙女には強すぎる言葉だった。

●
「お勧めの食べ方があって、レモンの果汁をかけると酸味が加わると共に香りがプラスされて別の果物みたいになるんですよ。よろしければ試してみませんか?」
 占いを終えたトーラはツェレンからスイカを受け取り、自分流のスイカの食べ方を伝授した。
 周囲にはスイカに興味を持った人も集まってきて、ミニイベントのようになっている。
「んんっ、美味しいです!」
 実演して食べてみせたトーラにつられ、見物客もアリアと数人で切り盛りするスイカ屋台に吸い寄せられていく。
「あの、ツェレンさん」
 加勢に向かうべきかと悩むツェレンをトーラが呼び止めた。代わりにライリーがスイカ屋台に向かう。
「よろしければお二人(ツェレンさんとアーキルさん)の馴れ初めを(後学の為にも)聞かせて頂けたら……」
 もじもじと人差し指の先を合わせ、トーラが懇願する。ツェレンは困惑したが、トーラとは水泳大会で一緒に神と戦った縁がある。それに、折角聞いてくれたのだし……。
 ツェレンは目を伏せると、自分たちの出会いを語り始めた。ツェレンの父が死んで落ち込んでいたときに、酒屋で同じ酒を取ろうとして手が触れあったのが始まりだそうな。
(ロマンチックなような、ちょっと違うような、やっぱりロマンチックなような……)
 所々に酒の絡む二人の馴れ初め話を、未成年のトーラは果たして自分と皇子(レイウェストさま)にこのような展開はあるのだろうかと考えながら最後まで静聴した。
 
「はいはい、押さない押さない! スイカは逃げないからね。はい、どうぞ!」
 華のあるアリアが屋台から解き放たれ、どたゆんを揺らしながらスイカを配っていく。
「そこを歩いてる君ー! おねーさんと一緒に熱い夏はいかがかなー?」
 桃の木の向こうを通る男性たちに、屋台に持って行く途中の大玉スイカを抱えたまま笑顔とVサインで呼びかける。
 ナイスバディの水着美女に呼びかけられて反応しない男などそうはいない。
 また一人、二人とスイカ屋台へ吸い寄せられていく。

(お姉ちゃんとまた会える可能性、あるんだよね)
 大好きな姉に思いを馳せながら、ツィーラはスイカを一囓りする。
「美味しい! ……お姉ちゃん、スイカは好きかなぁ?」
 多少偏食はあるもののよく食べる姉と並んでスイカを食べる未来を思い描き、ツィーラは空を見上げた。
(もしかしたら、冒険者ギルドで再会したりするのかな!?)
 
 ライナとフロマーシュは同じ桟敷に並んで、二人でスイカを食べていた。
 フロマーシュは屋台からスプーンを借り、ライナのスイカに潜む種を取り除いている。
「大丈夫だ。そのくらい自分でできるぞ」
「いいえ、これがメイドである私の仕事ですから」
 困ったように笑うライナに、フロマーシュは満面の笑みを向ける。
「さあ、これで完成です。いただきましょう?」
「ああ……。マーシュと食べるスイカは甘くて……美味しいな」
 ライナがフロマーシュの目を見つめて、優しく微笑む。フロマーシュは言葉の代わりに微笑みを返す。
(ライナ様の微笑みとスイカ。二つの甘さに包まれる私は幸せ者です……!)

(次はいつ、あの方とこういった催しに参加できるのでしょうか?)
 ネーヴェは未来の期待を胸に抱き、スイカを口元へ運ぶ。
 一人で食べるスイカもさっぱりとした甘さで、とても美味しい。それでも。
(二人で分かち合う喜びは、なにものにも代えがたい。やはりそう思いますわ)
 冷たく甘いスイカを囓る。存分に味わって飲み下す。
 今この場にはいない、大切な人とのこれからを思いながら。
 
 さらりと塩を振ったスイカを手に、シェルリアは桟敷で涼んでいた。
(私みたいな可愛い女の子が美味しそうに食べてればスイカ大ブームを巻き起こすでしょう!)
 ちょっと強気な想像をしながら思いきってがぶりとスイカを口にする。実家にいたらこうはできない。
「ふふっ、美味しいですっ!」
 占いの結果は良くも悪くもなく。それでも人生は続いていく。
(だったら、自分が楽しいと思うこと、やりたいことに挑んでみせます!)
 その結果、運命的な出会いがあったら良いなと、未来に胸を弾ませて。
 
●
「なかなか楽しい一日になったな、ありがとう」
「ふふ、珍しく素直に喜んで頂けて何よりです」
「……いや、そんなに珍しいか?」
 日が傾き、湖がオレンジに染まる。
 水着から普段の衣装に着替えたブレイドと更紗が、湖畔の斜面を登り、桃の木の向こうへと消える。
「うよたんがどんな風に可愛さに磨きをかけるか、とても楽しみです」
「サッシャんの恋愛運? 仕事運? もどうなるか気になるヨ!」
 サシャと雨陽が歩幅を合わせ、和気藹々と話ながら、イベント会場を後にする。
 少しずつ夜が迫ってくる。間もなくスイカ屋台も占いの館もおしまいだ。
「ふーっ! ボクもだいぶ夏を満喫した気がするよ。ってわけでじゃあね、皆!」
 水着から甲冑に着替えたアリアが大きく伸びをしてから、戦友(ギルド職員たち)に手を振る。
「早速、ギルドに寄って依頼の確認かな。お姉ちゃんに会うために頑張るよー!」
「私もギルドで依頼の確認をするつもりなんですよっ! 良かったらご一緒しませんか?」
 再会への決意を固めるツィーラに、シェルリアが歩み寄り、朗らかに声をかける。
「さて、私もそろそろ帰りましょうか。……あの方との関係をよりよくする方法も、なんとなく見えてまいりましたから、ね」
 食べ終わったスイカを片付け、ネーヴェは長い影を伸ばし、夕日に染められ歩いていく。
「関係を良くする……わたしもいつかレイウェストさまとそんな関係になれるのでしょうか?」
 トーラの小さな影も続く。夕日に照らされていなくても頬は充分に赤い。
「甘いスイカ、だったな」
「……はいっ。今もまだドキドキして……」
 ライナとフロマーシュ。催しが終わりを告げようとも、二人の間の甘い雰囲気は続く。

 こうして辺境都市群のスイカブームの予定に便乗した催しは、大成功を収めた。

マスターコメント

 冒険者の皆様、ご参加いただきありがとうございました!  スイカ屋台と占いの館の催しは大成功いたしました!  MVPは積極的にスイカ屋台を手伝ってくださった方、スイカにかける調味料について伝授してくださった方に差し上げます。  作中ではカード占いとなっておりますが、実物のタロットを使って占わせていただきました。  占いが皆様の今後のロスガリアライフをよりよいものにする一助になればとても嬉しいです。  改めて、ご参加いただきありがとうございました!  眞石ユキヒロでした。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準11 / 10〜25人

2022年07月30日 21時30分03秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. トーラ

    成立ですね! よろしくお願いします!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0