【西局】落日のコヴェロ

革酎

コメント 18

シナリオID:2302

オープニング

●陥落の危機
 コヴェロ砦。
 そこはシラー砂漠とリーンエス王国内地を隔てる領境線の中でも、比較的安全な砦、の筈だった。
 地理的には西方辺境伯領都にそこそこ近く、補給や兵の増派も容易に行えるということで、ここが窮地に陥ることなど滅多に無いともいわれていた。
 ところがここ数日、このコヴェロ砦が陥落の危機に瀕しているというのである。
 攻め手側の太信党はどういう訳か、コヴェロ砦の防衛機構の中でも唯一の弱点とされていた南側の防衛線を執拗に叩き続けてきた。ここは砂地の下に埋もれている岩盤が想像以上に脆く、砂顎や岩蠍が集団となって砂中を突破すれば、あっという間に砦の敷地内へと通じることが出来るのだ。
 本来、この南側防衛線の弱点に関する情報は最高級の機密であり、決して外部に漏らされることはないとされていたのだが、しかし事実は違った。
 太信党は南側防衛線の地下岩盤について、知り得ることが出来た。でなければ、これ程までに一点集中的な攻撃を仕掛けることも無かっただろう。
 そして現在、コヴェロ砦は南側防衛線に兵力の大半を割き、他の方面への守りがすっかり疎かとなってしまっている。
 このままでは、陥落も時間の問題だ。
 コヴェロ砦陥落は、太信党にとっては西方辺境伯領都へと繋がる橋頭保をひとつ得ることとなる。
 逆に王国側からすれば、コヴェロ砦からの悲鳴は頭痛の種だった。

 アザンティア・カーン率いる漠兵隊の一個中隊がコヴェロ砦に入ったのは、太信党の苛烈な猛攻が始まってから三日目のことであった。
 本来なら漠兵隊は攻撃隊であり、防御の為の兵力ではない。しかし形勢を一気に逆転させるには、突進力に優れた漠兵隊を投入する方がより効果的であるとして、今回だけは例外的に派遣されてきたというのが実情であった。
 コヴェロ砦に入ったアザンティアは、各防衛線の想像以上の疲弊ぶりに思わず顔をしかめた。
「これは相当に拙い状況だな」
「……冒険者を雇った方が良いかも知れない」
 アザンティアの傍らで、灰色狼の半獣人娘ロレッタ・レーゼンが渋い表情を浮かべた。派遣されてきた漠兵隊一個中隊だけでも辛うじて凌ぎ切れるだろうが、犠牲が拡大しないとも限らない。
 ここは冒険者に支援を求める方が確実だろう。
「済まないが、冒険者ギルドに走ってくれないか。私はこれから各戦線の立て直しを図る」
「心得た」
 アザンティアの頼みを聞き入れ、ロレッタは馬を走らせて西方辺境伯領都にとんぼ返りすることとなった。
 冒険者ギルドには確か、数名程度の冒険者達が居残っていた筈だ。彼らを全て動員する。

●血を求める魔物
 コヴェロ砦を望む、砂の丘。
 その一角に、大きな天幕が張られている。分厚い布地で陽射しを遮るその内側では、青白い肌と鋭い犬歯が特徴的な剃毛の男がだらしなく寝そべっていた。
「これはテクホテップ師……御陵から足を延ばされるとは、珍しいこともおありで」
 天幕に足を踏み入れてきた、よく太った死霊術師が幾分驚いた様子で声をかけた。その声の主アリバ・ジャハール・カサドに対し、吸血鬼テクホテップはふふんと鼻を鳴らす。
「弟が仕向けた情報が如何程に正確なのかを、この目で見ておこうってなだけの話だ」
「そうでございましたか。それならば、ご心配御無用。コヴェロ砦は最早、陥落寸前ですとも」
 アリバは眉根を開き、さも嬉しそうに答えた。
 しかしテクホテップの意識は既にその点には無く、別のことを問いかけてきた。
「ところで今、あの砦には美味そうな女がふたり、入っているらしいな」
 舌なめずりする吸血鬼に、アリバはお耳が早いと苦笑を返す。アザンティアとロレッタのことを指しているということは、アリバにもすぐに分かった。
 テクホテップは、そのふたりだけは生け捕りにせよと鷹揚に命じた。
「いつの世でも、良い女の血は美味い。是非とも賞味しなきゃあな」
 今から楽しみだと笑うテクホテップ。
 流石にこればかりは確約は出来ませぬと渋い表情を浮かべたアリバだが、太信党の兵や魔獣使いで不可能ならば、自ら打って出るとまでテクホテップはいい切った。
 アリバとしても、自身が生み出した吸血屍は戦闘力という面では自慢だが、特定の相手だけを生け捕りにするという芸当は少々難しい。
 どうしてもというのであれば、テクホテップ本人に頑張って貰うしか無いかも知れない。
「なるべく、そうはならぬ様に努力は致しますとも」
「ふん、そうか……まぁ、余り期待せずに待っておこう」
 そういってから、テクホテップはそのまま自身の肘を枕にして、アリバに背を向けた。

解説

称号『青燕兵曹』について:  このシナリオでは、『青燕兵曹』の称号を持つPCがNPC部隊(約20名)に対し、部隊規模での行動を依頼することが出来ます。但し依頼内容によっては部隊の了承を得られない場合もあります。 状況:  PCの皆様は西方辺境伯領都の冒険者ギルド支部から依頼を受け、ロレッタ・レーゼンと共にコヴェロ砦に急行したところからスタートして頂きます。  コヴェロ砦は十分な防衛機構を持っている城塞クラスの防衛地ですが、南側の防衛線が砂顎や岩蠍といった魔獣集団に破られ、敷地内へと戦線が押し込まれてしまっています。  更に手薄となった他の防衛線では、太信党の戦士や吸血屍といった戦力が押し寄せてきており、次々と突破されて、こちらも徐々に押し込まれています。  砦の常備兵や漠兵隊だけでは間違い無く多大な犠牲が生じる為、冒険者の皆様で敵の勢いを跳ね返し、形勢を逆転させて下さい。 敵:  太信党の戦士団、魔獣使い部隊、砂顎と呼ばれる超巨大ミミズの様な魔獣、吸血屍という人間の生き血を吸い尽くすゾンビの集団、岩蠍と呼ばれる強固な殻を持つ巨大蠍型魔獣で構成された戦力が、コヴェロ砦の各防衛線を押し込んできています。  砂顎は砂の中を動き回る超巨大ミミズの様な怪物です。そこそこ強力ですが、熟練の冒険者ならひとりで斃せる程度の強さです。特殊能力はありませんが、砂の中を自由に、そして高速で動き回り、鋭い牙と強力な顎で、一般人なら人間ひとりを一撃で噛み殺します。  岩蠍は非常に硬い殻と、人間の胴を簡単に切断する大きな鋏を武器とする巨大蠍型魔獣です。動きは素早く、硬い殻による強固な守りに任せて一気に迫ってくる突進力が脅威です。  太信党の戦士は一般人にとっては脅威ですが、冒険者ならば簡単に斃せる相手です。但し徒党を組んで挑んでくる為、普通に戦うと若干手間取るかも知れません。  NPC:  アクファリテ西方辺境伯の部下で漠兵隊長のアザンティア・カーンと、冒険者ロレッタ・レーゼンが主なNPCですが、大勢の漠兵隊員やコヴェロ砦の常備兵もモブNPCとして登場することになるでしょう。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動『王国西部局地戦線』でのシナリオをご提供致します。  今回はアザンティア・カーン、ロレッタ・レーゼンと共に、陥落の危機に瀕しているコヴェロ砦を防衛して頂きます。  状況はOP本文に書かれてある通りですが、敵側にテクホテップが来ていることは、PC情報としては伝わっていません。その為、いきなりアザンティアやロレッタが連れ去られる可能性も大いにあり得ます。  戦況がコヴェロ砦側にとって芳しくなく、ふたりの女性NPCの拉致が容易だと判断した場合に、テクホテップが夜間に突撃してきますので、その場合はもう諦めて下さい。テクホテップは数名程度の冒険者でどうにかなる相手ではありません。  それでは、ご縁があればご参加のご検討宜しくお願い致します。

リプレイ

●南側防衛線の反撃
 夕刻のコヴェロ砦に、十名近い冒険者が姿を現した。
 心強い援軍の到着で大いに沸いた砦内。
 だが青燕兵曹の称号を持つフセイン ラファは砦に入るなり、砦の常備兵や漠兵隊全員に対して撤退指示を出そうとしたところ、漠兵隊長アザンティア・カーンに差し止められた。
「どうして? ほぼ砦としての防御力が無いといっていい状態で勝てる訳が無いなら、彼等は足手まとい以外の何でもないわ。それより砦のある他の場所が押されてるのを出来るだけサポートして、抑え込む時間を稼いで欲しいんだけど」
「それはつまり、彼らに死ねといっている様なものだな」
 ラファは安全なルートで砦から撤退させろと主張したが、その様なルートは存在しない。あれば最初から、アザンティアやロレッタ・レーゼンが砦入りした時点で検討を進めている。
 非力な常備兵が砦外へ出たところで、砂顎や岩蠍の群れが一気に押し寄せ、彼らは地獄に叩き落とされることになるだろう。
「……ま、そういうことなら仕方無いわね。後で色々いうとして、今はこの状況を打開しなきゃね」
「その為に君達を呼んだ。大いに期待しているぞ」
 小さく肩を竦めて、ラファは自身の指揮下に入っている漠兵隊一個小隊に、面を返した。
「皆、頑張ったら後でご褒美よ」
 実際のところ、ラファは得意の占いをしてやるつもりでいったのだが、漠兵隊員達は変な意味に取り違えたのか、妙な笑みを浮かべて互いに顔を見合わせていた。
 一方、コヴェロ砦の南側防衛線には早くもサイラス、セリオス・オーガスト、ハヤト=ガラン=ヴォルファングといった面々が飛び出していき、盛大に砂塵を撒き散らしながら防護壁の内側地面を突き破って飛び出してくる砂顎や岩蠍を相手に、懸命の殲滅戦に突入していた。
「はっはぁ! 中々ヤベェ状況になってんじゃねーか! こいつぁ全部蹴散らした後に、ボーナスで美女ふたりからのパフパフのご褒美追加だな!」
 誰よりも派手に走り回って魔獣の群れを蹂躙するハヤト。サイラスとふたりで砂顎が飛び出してくる位置をほぼ正確に見抜き、巨体が屹立したところへ鋭いカウンターを叩き込む。
「この乱戦じゃ素材回収ってのも、無理な話かー……んじゃ、しゃあない。全力で叩こうか」
 サイラスはやや距離を取り、ハヤトがカバーし切れない位置の敵を遠距離攻撃で狙撃していた。試しにジャマーを張り巡らせてみたが、魔獣共の動きには何の変化も見られなかった為、素直に直接攻撃で対処する方針に切り替えた。
 そしてセリオスだが、彼だけは魔獣そのものではなく、防護壁の内側に入り込んできている太信党の魔獣使いに狙いを定めている。
 敵は勢いに乗って南側防衛線の防護壁を乗り越え、いよいよコヴェロ砦の敷地内へと足を踏み入れてきているのだが、それは逆をいえば、魔獣使いに狙いを定めているセリオスには最も都合が良かった。
「……調子に乗ってのこのこと出向いてこなければ、狙われずに済んだものを」
 セリオスは岩蠍を操っていると思しき魔獣使いのひとりに、必殺の一撃を叩き込んだ。極限にまで破壊力が増大した鏃は狙いを定めた魔獣使いの胴部を貫通し、一瞬で絶命へと追いやる。
 すると二体の岩蠍が攻撃の手を止め、慌てた様子で砂地の中に潜り込んでいった。支配が解除され、逃げ出していったのだろう。
 セリオスは更に別の魔獣使いを仕留め、岩蠍を合計五体、防護壁の内側から追い払った。
 流石にこのままでは拙いと敵も判断したらしく、一部が防護壁の外側へと退避してゆく。魔獣使い共は砂顎や岩蠍を鈴の音等の音響器具で操作している様で、防護壁の外へ逃れることに多少の難色を示していたが、自分達が狙われているとあってはそうもいっていられない様子だった。
 だがこれで、砂顎も岩蠍も連携精度が極端に落ちた。この隙を衝いて、ハヤトは念の声を介してトゥーリとバル・ヌール・スケアクロウを南側防衛線に呼び出した。
 直前まで砦内の状況把握と南側防衛線の再構築案の捻出に注力していたトゥーリだったが、魔獣共の動きが乱れたことでいよいよ戦列に参加する運びとなった。
「地下の状況と地上の関係性が、大体分かってきたよ!」
 砂顎の攻撃を掻い潜りながらハヤトと合流を果たしたトゥーリ。バルが必死に南側防衛線の防護壁内部を駆け回って集めてきた情報と、トゥーリ自身が砂顎や岩蠍が潜り込んできた地中の状況を隈なく観察し、脆い岩盤がどこまで続いているのかを見極めることが出来たのだ。
「こんな情報、やっぱり、普通じゃ分からないよ。こちらの全体的な情報を横流ししてるひとが居ると見て、間違い無さそうだね」
 トゥーリは、砂顎や岩蠍では突破出来ない地中の岩盤の上に、改めて防護壁を構築し直せば戦線は回復出来ると踏んだ。
 この時点で、南側防衛線の手当ての目処はついたといって良い。
「……では、私は太信党の戦士や吸血屍の対処に廻ります。こちらに兵力を割いた為に、他の防御がかなり手薄になっている様でございますから」
 砦周辺の地理を予め頭に叩き込んでいたバルは、別方面への移動も実に手早かった。
 そのバルと入れ替わりに、ラファが飛び出していた。その機動力はハヤトやトゥーリに次ぐ脅威となって、魔獣共に襲い掛かることになるだろう。
 砦内部での情報整理と兵力投入計画はトゥーリが大体のところを押さえた。後は冒険者達自身が最前線で、その実力を如何無く発揮すれば、それで良い。

●力を見せつけ、押し返せ
 その後、バルは西側の防衛線へと廻った。当初は東側に廻るつもりだったらしいが、こちらよりも西側に多くの敵が殺到しているということで、アザンティアから漠兵隊と共に西側の死守を依頼された。
「カーン様は、どちらへ?」
「私は北を守る。こっちは私とルアンナ、ロレッタの三人しか居ないがな」
 バルに苦笑を返しながら、アザンティアはロレッタと連れ立って北側防衛線へと駆け出していった。
 残されたバルは、アザンティアの命を受けた漠兵隊員達と共に、西側に群がり来る太信党戦士団、及び吸血屍の群れへと挑みかかる。
 まだまだ冒険者としての経験が少ないと自覚しているバルだったが、周りには漠兵隊員達が居る。彼らと冒険者とでは同列に扱うことは出来ないが、それでも大勢の仲間が共に戦ってくれるというのは心強い。
 立ちはだかる太信党の戦士達には、腕や脚の関節部狙いで戦いを仕掛けてゆくバル。場合によっては敵を一気に薙ぎ払ったり、長射程の技で牽制したりと、中々に変幻自在の戦術を見せた。
 漠兵隊員だけではどうしても単調な、数と数のぶつかり合いに終わるところであったが、バルが参戦したことで戦術の幅が一気に広がり、戦いを優位に進めることが出来る様になった。
 数で押されれば状況が厳しくなると危惧していたバルだが、この西側防衛線では、その点についての心配に頭を悩ませる必要は無さそうだった。
 そして北側の防衛線では、ルアンナ・ミュラーの超絶的な火力が押し寄せる敵を圧倒していた。
 凄まじく巨大な槍型の魔力が天に向かって放たれ、そのまま放物線を描いて敵陣の中央に着弾した。その極めて派手な戦いぶりに、敵側は相当に強力な魔術師がコヴェロ砦に入っていることを知り、大いに動揺している様子だった。
 ルアンナは既に初手で魔力の破壊波を奔流の様に押し出し、或いは炸裂する岩弾で吸血屍を蹴散らし、魔獄の吸血鬼ハンターここに在りを存分に知らしめている。それだけでも、北側防衛線は人数の少なさを十分にカバー出来ていた。
「魔獄の、だいぶん派手に蹴散らした様だな。流石だ」
 一気に魔力を放出した為か、少しばかり疲労の色が出ているルアンナ。砦の北側防護壁上で呼吸を整えようとしているところへ、長刀を携えたロレッタが静かに肩を並べてきた。
「吸血屍は、これ以上数が増えるという様子は無さそうですね」
「奴らに喰い殺されたからといって、自動的にアンデッドとなって蘇る訳じゃない。死霊術で造られた存在は、勝手には増殖しないさ」
 ルアンナに答えながら、ロレッタは防護壁上から身を躍らせ、敵陣のど真ん中へと飛び込んでゆく。そのすぐ後にアザンティアの巨躯も続いた。
 早い段階でルアンナが敵の数を相当に減らしておいた効果もあり、ロレッタとアザンティアは敵に囲まれる心配も無く、存分にその力を発揮することが出来ている。
 多くの敵を巻き込み、圧倒的な火力で一気に蹴散らすことが出来る魔術師の存在は、特に多数対多数の戦いでは非常に有効に作用する。
 この調子なら、北側防衛線の敵が完全殲滅に至るのも時間の問題だ。
 ルアンナは後の敵はロレッタとアザンティアに任せて、ひと息入れることにした。

 北、西、南とコヴェロ砦側が徐々に太信党戦力を押し返している中、ベルク・オスマットは単身砂中の敵陣を大きく迂回する格好で背後へと廻り、魔獣使い共を死角から次々と仕留めてゆく。
 その際ベルクは、敵の本陣に死霊術師アリバ・ジャハール・カサドが居るであろうことを想定し、わざと敵の耳に入る様に、アリバに対する罵詈雑言を並べていた。
 ベルクは過日、太信党の戦術参謀を暗殺しており、その悪名は大いに響き渡っている。魔獣使いを護衛する太信党戦士達はベルクの姿を見るや、ここが手柄の立てどころだといわんばかりの勢いで殺到してきたものの、そのことごとくが返り討ちに遭っていた。
「取り敢えず、とっとと死んでくれ。あの褐色デブが顔を真っ赤にするところを見たいのでな」
 次々と襲い掛かってくる太信党戦士達を、目にも止まらぬ速さで片っ端から仕留めてゆくベルク。そのうち、彼女の存在に気付いた太信党側が本陣方面から後詰の吸血屍陸戦隊を送り込んできた。
 南側防衛線はハヤト、ラファ、トゥーリ、サイラス、セリオスといった面々が大半の敵を平らげ、最早これ以上の戦力投入は不要だろう。
 であれば、ベルクとしては吸血屍共を叩き伏せ、アリバをこの場に誘い出したい。
 そこかしこで何かと衝突するアリバには、良い加減うんざりしていたベルク。ここらでそろそろ、ひとつ区切りを付けたいと思っていた。
「さて……あの褐色デブの首を、我の戦歴に加える頃合いかな」
 ベルクは尚も、半ば独り言に近しい罵詈雑言を並べながら太信党戦士、そして吸血屍共に刃を向ける。
 敵がベルクの罵倒をいちいち聞いているかどうかは、この際関係が無い。要は単なるストレス発散だった。
 ついでにアリバの首も取れれば万々歳だろう。
 そのベルクの視線の先に、見覚えのある巨体がのっそりと姿を現した。予想通り、恰幅の良い体型の中年男が激高している様子が、手に取る様に分かった。

●陥落阻止の夜
 北側防衛線はルアンナの強大な魔法火力による一斉掃射が威力を発揮し、ロレッタとアザンティアの掃討戦で敵勢力はほぼ壊滅状態となった。
 防護壁上で座り込み、石壁に背を預けていたルアンナは、戦いを終えて戻ってきたロレッタに疲れた様な笑みを浮かべた。
「今日は、砦でひと晩過ごすことになるでしょうか」
「そうだな。敵が引き返してこないとも限らない。明日になっても再度の襲来が無ければ撤収、ということになるだろう」
 ロレッタの説明によれば、トゥーリが弾き出した南側防衛線の新しい防護壁構築ポイントでの作業が、既に始まっているらしい。ここに仮の防護板を並べて補強していけば、コヴェロ砦の南側防衛線は一応、防御力を回復したことになる。そうなれば敵もおいそれとは攻め込むことが出来ないだろう。
 アザンティアも、一部の漠兵隊を砦の守備兵として残し、急造の南側新規防衛線の守りに当たらせるとしているらしい。
「夜食にパンを焼きましょうか。材料はひと通り揃っているでしょうし」
「それは美味そうだ。是非、ご相伴にあずかろう」
 薄く笑うロレッタに、ルアンナは疲れた表情ながら、任せて下さいと胸を張った。

 南側防衛線は接近戦のハヤト、トゥーリ、ラファの三人が戦場を駆け巡って魔獣共を撃退し、サイラスとセリオスの遠距離攻撃で魔獣使いを仕留めてゆくという効率的な戦術で、ほぼ制圧が完了していた。
「この方面はもう大丈夫と見て良さそうだな。では俺は、西側の支援に廻る」
 愛用の弓を肩に担いだセリオスが、傍らのサイラスに告げた。
 サイラスは未だに素材収集の可能性を探っている様だが、死骸を晒している魔獣は砂顎のみであり、岩蠍は全て逃げ去っている。
「俺も西に廻るかなぁ。吸血屍なんか、素材の欠片も期待出来ないけど」
 肩を竦めながら、小走りに駆け出してゆくセリオスの後を追うサイラス。
 その西側防衛線では、バルと漠兵隊員達が優勢に戦いを進めているものの、まだ完全に敵勢力を押し返すには至っていない。そこにセリオスとサイラスが加われば、ほぼ決定打になると見て良いだろう。
「そういえば、ベルクは?」
 同じく南側防衛線で敵の背後に廻り、魔獣使いを仕留めるという任務に就いている筈のベルクの姿が、先程から見えない。
 トゥーリは不思議そうに、砂顎の死骸がそこかしこに残る戦場を見渡した。すると、ハヤトとラファが南西方向の防護壁付近に、のんびりと歩いて帰ってくるベルクの姿を見つけた。
 ベルクは何とも残念そうな顔つきで、太信党戦士や魔獣使いの死屍累々たる砂地の間を引き返してくる。
 曰く、アリバを討ち損ねたのだという。
「何とも恐ろしげな気配に阻まれてな」
 どうやら、凄まじく強大な力を持つ何者かがアリバの背後に控えており、ベルクの猛攻に泡を喰ったアリバを追撃しようにも、余りに危険過ぎた為、手控えざるを得なかったとの由。
「しかしあの褐色デブ、こんなものを落としていった」
 それは、リーンエス王国内で流通する書簡だった。ベルクが中身を確認したところ、コヴェロ砦の内情や構造的弱点についての情報が事細かに記されていた。
 だが何より問題だったのは、その書式である。
 ベルクが差し出した書簡を覗き込むハヤト、トゥーリ、ラファ。
 明らかに王国貴族が差出人と思われる、格式ばった書面。無記名だが、それなりの立場にある貴族と見て良さそうだった。

 やがて、コヴェロ砦近郊からは太信党勢力は完全に姿を消した。
 夜になっても再度の襲撃は無く、コヴェロ砦の陥落は阻止されたと見て良さそうである。唯一の弱点だった南側防衛線も、トゥーリの打ち出した再構築計画と、ラファ率いる漠兵隊一個小隊の働きで急造ながら防護板での外壁がひと晩で完成し、敵襲に備えることが出来た。
 太信党からすれば、攻め手を失った格好だ。
 後は西方辺境伯領都から増援が到着するのを待つばかりである。
 コヴェロ砦は、陥落を免れたのだ。

マスターコメント

 皆様お疲れ様でございました。  出だしは非常に困難な状況でしたが、コヴェロ砦を完璧に守り抜くことが出来ました。  尚、青燕兵曹は飽くまでも漠兵隊・護兵団の中の一個小隊相当の部隊に対する依頼権を得るだけであり、それ以外の漠兵隊・護兵団の兵や砦の常備兵に対する命令権を得られる訳ではありません。  漠兵隊はアザンティア・カーン、護兵団はダルヴィン・ケルソーにのみ命令権が与えられており、各砦の常備兵に対しても、彼等が実行可能な範囲での内容をお願いすることは出来ますが、強制力を持つ命令権は冒険者には認められておりません。  ポータルページ記載の青燕兵曹の説明欄を今一度、ご確認下さい。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2022年07月13日 00時25分35秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです。アザンティアさんもロレッタさんも攫わせませんよ絶対!! こちらが劣勢の時だけやって来るって事は、相手を叩きのめせばテクホテップは来ないって認識で良いんでしょうか。

  2. No.2

    サイラスだ、よろしくなー。 とりあえずNPC周りは置いといて 魔獣使い系統は基本的にジャマーで崩壊し易いイメージがあるなーと。ジャマーかけた後そのまま火力ブッパして魔獣使い処理すれば魔獣周りは敵も魔獣の攻撃対象になるんで無い?こっちに動物持ち型シューターいるなら影響でるけど基本的に向こうってリンク頼りで魔獣使ってるイメージ んで戦士団は連携取るみたいだし範囲で沈めるのがいんでない? 魔獣の方はミミズに探知必須クラスと思う。奇襲かけられて一般兵削られそうだから察知しないとまずい 蠍は突撃してくるから食い込まれたくないな。ハサミで片端からバラされそう。防御高めらしいが魔法系にも固いのだろうか んでまあNPC護衛したいとか護ります!って人いると思うけど、個人的には前線に出て戦う方が護衛として活躍できると思う。 数人で、多分参加者全員居てもどうにもならない扱いだろうのに一人護衛に回ってもな。それよりミミズに一撃処理される一般兵とか死なせない方が防衛成功率上がりそうやなと それと称号持ってたら借りれるらしいから借りれる人は借りてもいいんでなかろか?

  3. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ。よろしく頼む。 劣性で面倒なく拉致れるならと言うことだからな。 こちらが優位で撃退できれば大人しく帰るのだろう。 我は迂回して後方から襲撃して魔獣使いを狙おうかと思う。

  4. バル・ヌール・スケアクロウ

    ウォーリアのバル・ヌール・スケアクロウです。 よろしくお願いしますね。 >優先事項 お仕事の内容が内容(防衛)ですからね。 まずはそこがちゃんとしないといけない事項ということは肝に銘じておきますね。 >考え事 状況的に長期戦、を考えたほうがよさそうでしょうか? 休息タイミングや治療なども含めて、交代なども考える必要性ありますか?

  5. ルアンナ・ミュラー

    もちろん主目的は砦を守り切る事ですし、それを完遂しないとバッドイベントとして…って事ですよね。 でも、敵としてテクホテップが近くに来てるって事は知っておきたいなーと。 吸血屍がいるという事は近くにアリバが居そうだというのは推測出来そうですし、どこで高みの見物してるんだと偵察してたら「なんかいるー!?」って感じで分かったりしませんかね。 >個人的にやりたい事 「砦で冒険者が大暴れしている」というのをアリバとテクホテップにも直接伝えたいんですよね。 ギガンティックシュートで特大化した魔法を敵陣ど真ん中に炸裂させれば、視覚的に伝わるのではないかと考えています。

  6. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず防衛がメインだし、そっちをうまくやれば拉致も防げるだろうからどこまで奮戦できるかだな サイラスの言う通り魔獣使いを先に倒せれば制御を外れそうではあるし優先的に狙いたいところだ。 蚯蚓対策は超聴覚で掘り進む音を聞き取るとかで確認するとかだろうか。 サソリは固いから防御を貫通できるか、もしくは命中率を上げて間接などを狙うかだな

  7. バル・ヌール・スケアクロウ

    一応自分でもできることとして考えているのは 戦士団やゾンビ相手が中心ですかねぇ。 耐久重視でいかに長く戦うかを考え中です

  8. フセイン ラファ

    遅くなってごめんなさい ラファよ、よろしくね 私は青燕兵曹の称号あるし、それを使ってNPC部隊を動かしての作戦をしようかなって考えてるわ …具体的な案はまだだからもし何かしてほしい事あったら、言ってくれたらその動きを入れられるわ 私個人の動きはまぁ…シーフに近い動きしか出来ないとだけ伝えとくわ()

  9. No.9

    とりあえず弓の射程で殴る、近ければカバリングでフォロー くらいだなー。剣は火力あっても射程なさ過ぎてなー

  10. トゥーリ

    遅くなってゴメン! >ジャマー? 話が出ていたので確認させてね。 ジャマーを活用した魔獣使いの妨害はアリだと思う!今回はその方針でいくのかな? 確認したいのは、砦の敷地もかなり広そうだけど、テレパスでの戦域連携は必要ないかな。 ジャマーとテレパスは排他になっちゃうから、敵の妨害と味方の連携、どちらを重視するかは確認しておいた方がいい気がしたよ。 ワタシはどちらでも、必要があれば対応できるよ!

  11. No.11

    連携取るのん? 誰も擦り合わせとか取ってないからいつも通り全員最善を尽くして自由に動けだと思ってたけども

  12. バル・ヌール・スケアクロウ

    >連携について 連携とまではいきませんが連絡はそれなりに密なほうがよろしいかなと思います。 薄くなった部分とかに駆け付けられたほうがいいでしょうしね >テレパス 私も取得しました、射程問題はありますが「中継」程度にはお役に立てますかと。

  13. ルアンナ・ミュラー

    私もテレパスを取得しましたので、戦線状況の通達に使用できます。 私はまずゾンビと太信党の方に行きますが、南防衛戦の状況が悪い場合には加勢する予定です。

  14. トゥーリ

    >ジャマーとテレパス とりあえずバルさんとルアンナさんがテレパス持ち込んでくれるみたいだから、ワタシもテレパスは持っていこうかな。 >南側 明確にここ抑えるよって人はいない感じ? ワタシ一人でどうなるか分からないけど、とりあえずここに入るね。

  15. バル・ヌール・スケアクロウ

    >南側 一番被害があるところと思われますからトゥーリさんがいてくれることはとても助かると思います。 >テレパス組 こちらに関してはできるだけ散ったほうがいいのでしょうかね? 私はほかの防衛線・・・仮として東側に回りましょう。 特に何もなく普通とは思いますけれども

  16. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ギリギリになっちまってすまねぇ!! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 俺の女達←×に手ぇ出そーなんざ、100万年と2千年早ぇって思い知らせてやんぜ!! んで、南の弱点には地中からの攻撃察知が重要そうだからな! 俺もトゥーリと一緒に南の防衛に回んぜ!! こっちが何とかなるってなれば元々の兵達も他の方面に送り込みやすくなるだろーしよ! テレパスは俺も持ってくから連携に役立ちゃいーな。

  17. フセイン ラファ

    出発日になっちゃったけど、とりあえず私もテレパス積んだわ

  18. フセイン ラファ

    急遽だけど 称号『青燕兵曹』で出せる指示を 「コヴェロ砦にいる常備兵や漠兵隊を撤退のち他の砦に向かわせるように指示させる」 「砦内制圧後信号で帰還させる」 「再度砦としての簡易復旧」 このあたりで提出することにしたわ だからもしかしたら擦り合わせミスで砦内に兵の応援とか出来ないかも?

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0