雪百合と酒
馬車猪
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シナリオID:2291
オープニング
雪百合騎士団は美貌と実力を兼ね備えた騎士団である。
より正確に表現するなら、宣伝と治安維持の両方を担当しているので顔も所作も実力も必須の、華やかだけど仕事が超絶大変な騎士団ということになる。
「腰が……」
「なーに色っぽい話?」
「デスクワークで腰にダメージが重なってるの分かるでしょ」
女神のような美貌で「そのネタで弄るなら社会的に再起不能にしてあげる」と微笑まれると、恐怖で全身がぶるりと震えてしまう。
「そういえば、今日で強化合宿も終わりね」
他の話を振ってごまかそうとする。
女神っぽい美貌に呆れの色が混じり、威圧感が薄れた。
(ごまかせた!)
「ごまかせてないわ」
机から離れて立ち上がる。
たったそれだけの動作で、美に慣れているはずの団員達の視線を惹きつける。
こうでなければ雪百合騎士団の幹部は務まらないのだ。
「いつも通りならそろそろ酒盛りが始まるはずよ」
心身の疲れを癒やすには酒も必要だ。少々派手にしても見て見ぬふりをすることになっている。
「いいなー」
「私も行きたーい」
わらわらと幹部格が集まってくるが彼女は動じない。
「上の人間がいたら愚痴も吐けないでしょう。ご褒美と飲み過ぎ防止を兼ねて何か適当に買って持っていくだけよ」
発言がもっともすぎるので誰も反論できない。
雪百合騎士団のイメージを壊さない程度にお洒落で、しかし肴として十分な質と量を買い込んで強化合宿で使用中の宿舎へ向かう。
途中、彼女に挨拶してくる街の人々も、手に提げている包みの中に酒飲み御用達の料理がみっちり詰まっているとは思わないだろう。
ノックしても反応がないので鍵を使って中に入る。
「失礼するわ……よ?」
そこにあったのは酒だ。
リーンエス王国産のちょっとお高いワイン!
ドワーフ王国産の度数高めなおさけ!
シャルガネ居住区の米のワイン!
そこまでなら問題はない。彼女だって若い頃は色々たっぷり飲んだりはした。
が、駄目な酒飲み用の度数の高い安酒や、酔い潰すのが目的としか思えない飲みやすいお酒なども大量に積み上げられている。
「この……お馬鹿!」
説教は夜が更けるまで行われ、打ち上げは後日改めて行われることになった。
●
冒険者ギルドで職員と受付嬢が集まり相談している。
「この依頼……」
「お金を払ってでも参加したい人はいるでしょうけど」
「そのまま張り出すと誤解されそうです」
しばらく悩んだ末に、問題なさそうな冒険者を選んで声をかけ始める。
「エラトゥーン都市同盟、都市ベールコートからの依頼です」
『百合茶』の産地としても知られる都市だ。
住人のエルフ比率が他より高く、容姿端麗巨乳の若い女性のエルフとヒューマンからなる『雪百合騎士団』が広告塔としても活動している。
茶葉の質と効果的な宣伝の組み合わせによる商売の巧みさでも知られた都市なのだ。
「はい、お察しの通り『雪百合騎士団』からの依頼です。お酒を少し……いやとても少しとはいえない量なんですが、とにかくお酒を余らしてしまったようでして」
量と内容が問題で返品も難しいらしい。
「『雪百合騎士団』の宿舎に出向いてお酒を消費するのが目的の依頼です。お仕置きを兼ねて……失礼、社会勉強を兼ねて団員が接待してくれるそうですが、ギルドとしては紳士淑女としての振る舞いを期待します」
酔い潰してお持ち帰りとかは駄目ということだ。
美貌で知られる騎士団25人だけでなく、傘下の一般兵100人も騎士団志願がいて武力以外もレベルが高いので、非常に高いモラルと理性が要求される依頼になる。
「後は、そうですね、未成年の冒険者にはジュースか百合茶が用意されるそうです」
どの年齢で成年扱いになるかは土地や種族で異なることもあるが、どう見ても若すぎる者の飲酒は駄目絶対ということだ。
「楽しく飲むことができれば成功になる依頼です。よければ参加を検討してみてください」
大勢には聞こえないよう、小声で説明を終えるのだった。
より正確に表現するなら、宣伝と治安維持の両方を担当しているので顔も所作も実力も必須の、華やかだけど仕事が超絶大変な騎士団ということになる。
「腰が……」
「なーに色っぽい話?」
「デスクワークで腰にダメージが重なってるの分かるでしょ」
女神のような美貌で「そのネタで弄るなら社会的に再起不能にしてあげる」と微笑まれると、恐怖で全身がぶるりと震えてしまう。
「そういえば、今日で強化合宿も終わりね」
他の話を振ってごまかそうとする。
女神っぽい美貌に呆れの色が混じり、威圧感が薄れた。
(ごまかせた!)
「ごまかせてないわ」
机から離れて立ち上がる。
たったそれだけの動作で、美に慣れているはずの団員達の視線を惹きつける。
こうでなければ雪百合騎士団の幹部は務まらないのだ。
「いつも通りならそろそろ酒盛りが始まるはずよ」
心身の疲れを癒やすには酒も必要だ。少々派手にしても見て見ぬふりをすることになっている。
「いいなー」
「私も行きたーい」
わらわらと幹部格が集まってくるが彼女は動じない。
「上の人間がいたら愚痴も吐けないでしょう。ご褒美と飲み過ぎ防止を兼ねて何か適当に買って持っていくだけよ」
発言がもっともすぎるので誰も反論できない。
雪百合騎士団のイメージを壊さない程度にお洒落で、しかし肴として十分な質と量を買い込んで強化合宿で使用中の宿舎へ向かう。
途中、彼女に挨拶してくる街の人々も、手に提げている包みの中に酒飲み御用達の料理がみっちり詰まっているとは思わないだろう。
ノックしても反応がないので鍵を使って中に入る。
「失礼するわ……よ?」
そこにあったのは酒だ。
リーンエス王国産のちょっとお高いワイン!
ドワーフ王国産の度数高めなおさけ!
シャルガネ居住区の米のワイン!
そこまでなら問題はない。彼女だって若い頃は色々たっぷり飲んだりはした。
が、駄目な酒飲み用の度数の高い安酒や、酔い潰すのが目的としか思えない飲みやすいお酒なども大量に積み上げられている。
「この……お馬鹿!」
説教は夜が更けるまで行われ、打ち上げは後日改めて行われることになった。
●
冒険者ギルドで職員と受付嬢が集まり相談している。
「この依頼……」
「お金を払ってでも参加したい人はいるでしょうけど」
「そのまま張り出すと誤解されそうです」
しばらく悩んだ末に、問題なさそうな冒険者を選んで声をかけ始める。
「エラトゥーン都市同盟、都市ベールコートからの依頼です」
『百合茶』の産地としても知られる都市だ。
住人のエルフ比率が他より高く、容姿端麗巨乳の若い女性のエルフとヒューマンからなる『雪百合騎士団』が広告塔としても活動している。
茶葉の質と効果的な宣伝の組み合わせによる商売の巧みさでも知られた都市なのだ。
「はい、お察しの通り『雪百合騎士団』からの依頼です。お酒を少し……いやとても少しとはいえない量なんですが、とにかくお酒を余らしてしまったようでして」
量と内容が問題で返品も難しいらしい。
「『雪百合騎士団』の宿舎に出向いてお酒を消費するのが目的の依頼です。お仕置きを兼ねて……失礼、社会勉強を兼ねて団員が接待してくれるそうですが、ギルドとしては紳士淑女としての振る舞いを期待します」
酔い潰してお持ち帰りとかは駄目ということだ。
美貌で知られる騎士団25人だけでなく、傘下の一般兵100人も騎士団志願がいて武力以外もレベルが高いので、非常に高いモラルと理性が要求される依頼になる。
「後は、そうですね、未成年の冒険者にはジュースか百合茶が用意されるそうです」
どの年齢で成年扱いになるかは土地や種族で異なることもあるが、どう見ても若すぎる者の飲酒は駄目絶対ということだ。
「楽しく飲むことができれば成功になる依頼です。よければ参加を検討してみてください」
大勢には聞こえないよう、小声で説明を終えるのだった。
解説
●目的
健全に楽しく飲むこと
●場所
『雪百合騎士団』の宿舎の1つです
イベント会場や厨房を借りることもできます
●酒
多種かつ大量に用意されています
持込歓迎
●料理
肴の持ち込みや現地での調理も歓迎されます
●NPC
・ドクター・アルヴィース
「飲まないの? そう。じゃあ全部飲むね!」
ドワーフ王国からの刺客!(スカウトされただけです)
身長130cmの雪百合騎士団超少数派! おむねが平坦な18歳!!
お仕置き対象ではないのに酒目当てに潜り込んだ兵器開発顧問です
マッド気質の技術者なので、冒険者が技術的な話を振ると猛烈な技術トークが始まり飲むペースが倍増します
・ユリーシア&イザベラ
「どうぞ……」
「目付きが嫌らしいのに近づいては駄目よ」
姉妹のように仲がいい2人組です。体力はありますが自分自身が飲める量をまだ把握しきれていません
ユリーシアがタイが曲がっているのを注意される側、イザベラは委員長っぽく注意する側です
・エルディア
「飲まないのかい?」
黙っていれば典型的雪百合騎士団(エルフ美少女)、実力は十分で強化合宿でも教官側でしたが勤務時間外に口を開けばかなりガサツな実年齢3桁
訓練を兼ねてお仕置き(接待)に放り込まれました
心優しい少女(?)ではあります
・ガブリエラ
「この服は薄すぎるのでは?」(眼鏡くいっ)
クソ真面目な眼鏡騎士です。ヤンキー気質のエルディアとはたびたび口論していますが、ツンデレという噂もあります
エルディアが心配で義務でもないのに参加しました
・メイア
「あまり揶揄わないでください」
雪百合騎士団の団長。非授恵者。問題児が多すぎて急遽参加する予定です
胃に優しくない渉外の経験が豊富なため、会話で楽しませながら一方的にきつい酒を相手に呑ますことができるエルフ
冒険者が希望すればドレスを着てくれますが露出度低めです
冒険者が関わらない場合は、お酒についての注意を団員に対して行います
・新人&一般兵達
「接待? いったい何がどうなって……」
おさけだわーい! 用意されたお酒を前にはしゃいでいたら長時間説教されて接待の場所に放り込まれた人達。十数名います
緊張で周囲が見えていません
種族はヒューマンかエルフで、顔立ちも体型も雪百合騎士団向きですが未成年が多いです
大酒飲みから猪口一杯で酔う者まで様々です
うっかりアルコールを飲んでしまわないよう、冒険者は注意してあげてください
マスターより
この依頼は健全です!!
リプレイ
●
「すっごーい!」
「おにくー!!」
酒と脂と野菜うまみがたっぷりの肉と人参と馬鈴薯とブロッコリーが、お代わり自由の達で大皿に美しく盛られている。
「この食感っ……小麦粉まぶしてる?」
「大蒜おいしいよね」
「ワインと香草も使ってる? これ王国の宮廷料理とかそんな感じの料理なの!?」
はしゃぎながら食べる兵士達は体育会系の学生にも見える。
「授業には体力も必要だと思うのだ」
次の大皿ではなく鍋を運んで来たストレガ・L・リベルガストラが囁くと、騎士団長がしぶしぶ納得して教育の準備を始める。
「酒を飲むのはまだ早いのだ」
酒精の濃い酒に手を出そうとした兵士の前の器に炊きたての米を載せ料理も載せる。
問題なく飲める者には飯ではなく塩茹での枝豆と米酒で酒蒸した肉に魚介に野菜だ。エルフ騎士には野菜も好評だった。
繊細な音色が会場を彩っている。
竜花琴を奏でているのはヒューマンやエルフとは体格が違うサイラスで、武の鍛錬をした指が巧みに動いて華やかな音を奏でる。
「のめー!」
既にできあがった団員に絡まれるが体格も鱗を押し上げる筋肉も凄まじく、何より演奏に徹しているので絡みきれない。
「はなせー!」
「すみませんっ」
騎士団長にもとへ連行する人と連行していく人をちらりと見て、サイラスは長い曲を綺麗に終わらせた。
「注文の品なのだ」
ストレガが普通の皿をテーブルに置く。
技術的には非常に優れてはいるが肉に元気がない。
サイラスは感謝を示すかのように深めにうなずいて、慎重に見て、かおりを嗅いで、口に入れて味わい困惑する。
(不味くない? 食肉用のを注文したんだよ?)
(産地との距離を考えるのだ。それに始めたばかりならまだ小さい個体ばかりだろう。本体価格と輸送費でとても高価なのだ。鮮度もご覧の通りなのだ)
(通常の老齢個体を潰した肉かー。スヴァーノやってるコネ使ったつもりなんだけどな)
(特殊なものを食べたいならもっと頑張るのだ)
小声での会話を終え、ストレガは厨房へ引っ込んでいった。
「戦闘側の子を……いやもったいないか」
たまにいる魔獣じみた個体のことが脳裏に浮かぶが、ここは物騒なことを考える場所ではない。
サイラスは後味の良い酒で口の中をさっぱりさせて、再び演奏を始めるのだった。
●
「まったく、しょーがねーなー! 騎士団さんの尻拭いをお手伝いしましょーかねー」
若干棒読みではあるがハヤト=ガラン=ヴォルファングの表情はきりりと引き締まっている。
戦士としては低めの身長でも、体は強靱さと柔軟さを兼ね備えた武人としての美しさを持っている。
服も小物も美の邪魔をしない程度の質とセンスがあり、冒険者としての実績も大なのでそれはもうモテる。
「吟遊詩人の歌みたいに派手な戦いにはならねーよ。基本は殴るか蹴るか刃物を使うかだぜ?」
武勇伝のネタなどいくらでもある。
エルフやヒューマンの団員を相手に受けるネタを素早く選択しつつ全体に気を配る。
「こんだけの美女軍団の中にいてもやっぱりサフィラの可愛さが一番際立ってんぜ♪」
恋人に気を配ることも忘れない。
「またハヤトはナンパしてもーっ」
不満はあるが十分配慮されているのでサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブはまだ手を出すほど怒ってはいない。
が、違和感には気付いている。
(悪いなサフィラ。このチャンスは活かす!)
アルコール耐性を計算に入れればハヤトの方がペースが早くなる速度でお互い酒を楽しむがこれは罠だ。
(事前にあさり汁とゴールディの薬草汁で二日酔い対策! 更にチェイサーを水にして完璧だぁ!!)
すごく駄目なことを考えて実行していても外見は甲斐性のあるモテゴブリンだ。
気付いた団員はいるが、これも経験かと生暖かく遠くから見ているだけだ。
やがてサフィラがうとうとし始める。
ハヤトは酒に強いドワーフを他の冒険者へ誘導し、成功確率が低いと判断した団員に酒を飲ませた上で距離をとる。
残るのは獲物候補だけだ。
(今日こそ体質を発揮するとき!)
「ハヤトー」
綺麗に手入れされた爪先と美しい指がハヤトの肌に絡みつく。
「あたしという恋人が居ながら、なに鼻の下伸ばしてんのっ!」
気付いたときにはスリーパー・ホールドが完成していた。
「ちょ、待っ」
ハヤトは技を外そうとするが、エーテルとシノビ隠形術まで使って奇襲されたので最初の不利が大きすぎる。
体格とレベルの優位を活かして少しずつ外していくが、完全に外れるよりも早くサフィラがバックドロップへの完了して床からハヤトを持ち上げる。
「そぉい!!」
投げられる。
被害を局限するためのハヤトの体術は見事で、余興と思った酔っ払い達はやんやの大喝采だ。
「サフィ……なぜっ!?」
ふりまわされたことで酒精が体にまわり、ハヤトは無念の思いを抱えたままうとうとし始めるのだった。
同時刻。厨房。
「食は万世共通の幸福なれば」
厨房にいるストレガが、真顔のまま対アルコールの料理を作っている。
医療・薬学分野でも一流なので、色っぽすぎるイベントを防ぐための対策も万全であった。
●
「せーの! かんぱーい!」
サフィラの声に元気な兵士達が唱和する。
グラスは微かにしかぶつからないが中身が揺れて、豊潤な果実の香りが漂う。
「みんなお疲れ様だねっ! 今日は飲んで食べてパーッと気晴らししようねっ!」
はーいっ、わーいっ、うぇーいっ、とアルコールが一滴も入っていないのに盛り上がる。
厳しい訓練から解放され、華やかな香りと飲みやすい飲み物と美味しいごはんがあれば何時間でも楽しく騒げる。
「今日はごめんねー、ハヤトが騒がせちゃって」
「楽しかったです!」
「あたしのものって感じがすごいです! さすがです!」
かなり酔ったサフィラがあははと笑ってごまかす。
栓を抜くのが面倒臭くなって、綺麗に整えられた爪に傷もつけずに指だけで抜き取る。
「あっ」
「手酌でもいいでしょ。というかキミ達に飲ませたらあたし達が怒られちゃうからね」
余ったらハヤトに飲ませればいいやと考え、色々な種類の酒を高価な順に飲んでいく。
お酌はしてはあげるがそちらはあくまでノンアルだ。
「そういえば女同士で飲んでていいの?」
サフィラの言葉に、少女達が困ったように笑う。
「あっちに行くと帰って来れなさそうだなって」
ちらりと振り返ると、きらきらした空間が展開されていた。
●
ソファーにただ座っているだけなのに絵になりすぎる。
ジュスト・ヴェルジーは着こなしも所作も遊び慣れた貴族のそれで、しかも美形で若くて冒険者としての実績まである。
単独で相対せば高確率で不可逆に夢中になってしまう、乙女にとって危険な存在だ。
百合茶を飲み終えカップをソーサーに戻す。
微かに上下した喉元がなまめかしくて、鍛錬に精を出して男女関係に疎い少女が顔を赤くしたまま動かなくなる。
「酒を消費する目的だし、酒精を飛ばしたワインで作ったカクテルをお願いしたよ」
ストレガが作ったそれが特大のお盆で運ばれてくる。
配る指示を出すジュストは手慣れていて、命令する側の存在であることが五感で理解可能だ。
「暑くなってきた今頃はゼリーはどうかな? 白ワインのゼリーの中に果物を入れると甘いし、見た目も綺麗だよ」
面が良く腕が立ち話題が豊富。
刺激が強すぎるから止めた方が良いかも、と遠くで団長が悩んでいる。
「ワイン以外だと……少し贅沢だけれど、シャルガネのお酒はお湯をはったバスタブに入浴剤代わりに入れて酒風呂にすると温まるし、肌にも良いって聞いたことがあるね」
目の前の色男と自らを想像の中に登場させてしまい、頭の中も顔ものぼせ上がる被害者多数である。
「ありがとう、君のような美しい女性とお茶が出来て嬉しいよ」
丁寧に止めを刺していくのは、本当に容赦がなかった。
(……私にはそんなこと言った事無い癖に)
ローザリカ・L・ディオールは貴族令嬢として完璧に近い教育を受けているため隙を見せない。
だから悔しさが自らに向かってしまう。
彼を疑うわけでも信じていないわけでもない。
けれど、それでも。
自分以外に視線を向けて、手を取って、言葉を掛けて。
そんな場面を目の当たりにしてしまうと、理性とは別の部分が消耗して抑えが効きづらくなる。
ジュストに気付かれるほど自己の制御が甘くなっていることに、まだローザリカは気付けていない。
なお、色男の隣に座るローザリカに気付いて圧倒される少女もどんどん増えていっていた。
「ロゼ?」
本当に自然な態度でジュストが微笑みかける。
「誰も何も言っていないし、やましいことがないのなら僕がいたって構わないだろう」
彼女の声の響きは柔らかいが視線に棘が潜んでいる。
「それは……」
(弁明じみた発言こそ疑ってくれと言っているようなものだっ)
自らの心の乱れに気付けない。
誰にも奪わせないとジュストの隣をキープしたまま、面白くないという感情を消し去れずに彼の一挙手一投足に過敏に反応してしまう。
未成年の多い卓へ出向いたのだって本当は年下が好みだとも考えてしまった。
(猜疑心、か)
ようやく自覚し、奥歯を噛む。
これはあくまで依頼だ。
騎士団の皆に罪はなく、楽しく過ごしているところに水を差したいわけではない。
だけど心は静まってくれない。
「やっぱり僕にも貰えるかな。うるさい止めるな。これが飲まずにやってられるか!」
普段は料理も味わうのに今日は酒精を干す速度だけが早い。
さっぱりした肴が速度を加速させる。
彼女につきあってジュストが酒を飲み始めたことにも気付けない。
いつの間にか涙ぐみ、うつむいていた。
「ごめんね」
ジュストは兵士達に丁寧に断ってから、ローザリカを抱き上げる。
止めようとしても止められなかったのでもう少しで泥酔状態だ。
(全く、甘え方を知らないにも程があるんだから)
警備がしっかりしている宿を騎士団に紹介してもらい、部屋の前まで運んで後は女性従業員に任せるジュストであった。
●
「お疲れ様です、上に立つものはこういうときも大変ですね」
雪百合騎士団と関係が深いキーゼがカクテルを勧めると、団長だけでなく複数が受け取り水か何かのように飲み干す。
「気付けばそこそこの付き合いになってきましたが、"生存戦略"は順調ですか?」
淡く苦笑してうなずかれる。
土台であることは分かっていても教育は大変なのだ。
団長は既に3杯目を飲むドワーフを見て、胸が上下するほど大きく息を吐いた。
「それにしても、麗しき雪百合騎士団の方とお酌を楽しめるとは、とてもいい依頼ですね。定期的に開催してみては?」
その気になれば女に困らずその上で楽しませるだろうキーゼだから発言に説得力がある。
団長は自身にかかる負担を思って肩に重みを感じて首を横にふり、ドワーフは遠慮なくおかわりを要求する。
「僕はあくまで中立ですからね。個人としても、お金と契約次第で何でもしますよ、有事の際はお気軽にどうぞ」
のんべえには強烈な一杯を、団長には疲れた胃と神経に優しい酒精抜きのカクテルを、下戸や若い兵士達には色だけ酒に似せたほとんどジュースを作って提供する。
「こういう華やかな仕事も大歓迎ですが。お似合いですよ、ドレス」
団長は、あまり揶揄うと怒りますよと優しく囁く。
キーゼが本当の意味で独り身なら色々考えたかもしれないが、キーゼには既に大事なひとがいるのだ。
(ネーヴェは……)
(もう1杯!)
皆の視線の先で、ネーヴェ・グラヌローザが楽しげに配膳を担当している。
若者向けの肉料理は相変わらず多い。塩ダレがかかったキャベツのサラダや、もちっとした食感の塩にぎりも割合が徐々に増えている。
ストレガの生産力は速いだけでなく消費速度にあわせて出す速度が絶妙だ。
料理が皿の上で乾いていくことがほとんどない。
(楽しく飲む依頼ですけれど、根本にあるのはお酒の消費ですわよね。ただ私は、正直あまりお酒は強くなくて……その分、飲める方にはどんどん飲んで頂くようにしませんと)
この場には冒険者以外の男はいない。
ネーヴェは美女ではあるが兵士達も素質はあるし雪百合騎士団の団員はネーヴェに匹敵する美貌の持ち主だ。
だから需要がない、などという展開はあり得ない。
「少し冷えますね」
体調が崩れる気配のあった兵士には暖かな飲み物を勧め。
「はしゃぎすぎは駄目ですよ?」
酔っ払って羽目をはずしていた者には反発し辛いタイミングで声をかけ誘導する。
話しながら酒の入ったグラスをこっそり水のグラスと取り替えたりもして、団員のユリーシアやイザベラが醜態を晒すという展開を回避させている。
話術はもちろん洞察力が非常に優れていなければ不可能だ。何より本人の優しさがあって始めて可能な接待だ。
(キーゼさんもお酒は強いですわよね)
騎士団について話し合っているようなので、声はかけずにしかし無意識に近くを選んで座る。
お盆をテーブルに置くと、強めの塩気を帯びた枝豆を小柄なドワーフが高速で確保する。喉が渇くと酒がうまいのだ。
「ところで私、"兵器"を存じ上げないのですが」
きらん、とこれまでとは別の意味でドワーフが燃え上がる。
団に無関係な客がいたら情報漏洩確実な密度と速度で、理解するには広範な知識が必要な知識を広範な知識を持つネーヴェに機嫌良く教える。
機嫌が良いと酒も進むのでネーヴェの狙い通りの消費量だ。
「熱心ですね」
話を終えてキーゼが来る。
ネーヴェに代わって酒を注ぐのは実に効率的だ。
「ああ、ええと、キーゼさんの分は私が注ぎますから私達の接待は大丈夫です、どうぞお気遣いなく」
本心があからさまで、実に可愛らしい。
「私は百合茶を……」
百合茶を使ったカクテルを勧められ、ひとの良いネーヴェはつい飲んでしまう。
(そういえば去年の宴会では膝を借りてしまいましたわね。温もりがとても心地良かったのですけど、思い出すと今でも少し、気恥ずかしさも蘇りますわね……)
心も体もふわふわとして、極自然にキーゼの肩を借りている。
ぐい、と優しく体を持ち上げられた。
「えっ、ちょっと待っ……!」
「膝がご希望なようでしたので? 今日はちゃんと場を楽しめてますか」
自らの膝に乗せて、借りた扇で熱くなった顔を冷やしてあげる。
そして、騎士団に2人の仲を見せ付けるように、ネーヴェの好きなものをネーヴェのペースで食べさせていくのだった。
翌朝。
「二日酔いも一度なら良い経験なのだ」
水ー、と呻いている美少女と美女に、ストレガが飛び切り苦くて効く薬草汁を渡していく。
厨房の後片付けは完璧でわずかに残った酒もサイラスが引き取った。
場所を貸した宿屋の店主が目を丸くし、ほんの少しだけ酒臭い団員達も満足そうだった。
「すっごーい!」
「おにくー!!」
酒と脂と野菜うまみがたっぷりの肉と人参と馬鈴薯とブロッコリーが、お代わり自由の達で大皿に美しく盛られている。
「この食感っ……小麦粉まぶしてる?」
「大蒜おいしいよね」
「ワインと香草も使ってる? これ王国の宮廷料理とかそんな感じの料理なの!?」
はしゃぎながら食べる兵士達は体育会系の学生にも見える。
「授業には体力も必要だと思うのだ」
次の大皿ではなく鍋を運んで来たストレガ・L・リベルガストラが囁くと、騎士団長がしぶしぶ納得して教育の準備を始める。
「酒を飲むのはまだ早いのだ」
酒精の濃い酒に手を出そうとした兵士の前の器に炊きたての米を載せ料理も載せる。
問題なく飲める者には飯ではなく塩茹での枝豆と米酒で酒蒸した肉に魚介に野菜だ。エルフ騎士には野菜も好評だった。
繊細な音色が会場を彩っている。
竜花琴を奏でているのはヒューマンやエルフとは体格が違うサイラスで、武の鍛錬をした指が巧みに動いて華やかな音を奏でる。
「のめー!」
既にできあがった団員に絡まれるが体格も鱗を押し上げる筋肉も凄まじく、何より演奏に徹しているので絡みきれない。
「はなせー!」
「すみませんっ」
騎士団長にもとへ連行する人と連行していく人をちらりと見て、サイラスは長い曲を綺麗に終わらせた。
「注文の品なのだ」
ストレガが普通の皿をテーブルに置く。
技術的には非常に優れてはいるが肉に元気がない。
サイラスは感謝を示すかのように深めにうなずいて、慎重に見て、かおりを嗅いで、口に入れて味わい困惑する。
(不味くない? 食肉用のを注文したんだよ?)
(産地との距離を考えるのだ。それに始めたばかりならまだ小さい個体ばかりだろう。本体価格と輸送費でとても高価なのだ。鮮度もご覧の通りなのだ)
(通常の老齢個体を潰した肉かー。スヴァーノやってるコネ使ったつもりなんだけどな)
(特殊なものを食べたいならもっと頑張るのだ)
小声での会話を終え、ストレガは厨房へ引っ込んでいった。
「戦闘側の子を……いやもったいないか」
たまにいる魔獣じみた個体のことが脳裏に浮かぶが、ここは物騒なことを考える場所ではない。
サイラスは後味の良い酒で口の中をさっぱりさせて、再び演奏を始めるのだった。
●
「まったく、しょーがねーなー! 騎士団さんの尻拭いをお手伝いしましょーかねー」
若干棒読みではあるがハヤト=ガラン=ヴォルファングの表情はきりりと引き締まっている。
戦士としては低めの身長でも、体は強靱さと柔軟さを兼ね備えた武人としての美しさを持っている。
服も小物も美の邪魔をしない程度の質とセンスがあり、冒険者としての実績も大なのでそれはもうモテる。
「吟遊詩人の歌みたいに派手な戦いにはならねーよ。基本は殴るか蹴るか刃物を使うかだぜ?」
武勇伝のネタなどいくらでもある。
エルフやヒューマンの団員を相手に受けるネタを素早く選択しつつ全体に気を配る。
「こんだけの美女軍団の中にいてもやっぱりサフィラの可愛さが一番際立ってんぜ♪」
恋人に気を配ることも忘れない。
「またハヤトはナンパしてもーっ」
不満はあるが十分配慮されているのでサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブはまだ手を出すほど怒ってはいない。
が、違和感には気付いている。
(悪いなサフィラ。このチャンスは活かす!)
アルコール耐性を計算に入れればハヤトの方がペースが早くなる速度でお互い酒を楽しむがこれは罠だ。
(事前にあさり汁とゴールディの薬草汁で二日酔い対策! 更にチェイサーを水にして完璧だぁ!!)
すごく駄目なことを考えて実行していても外見は甲斐性のあるモテゴブリンだ。
気付いた団員はいるが、これも経験かと生暖かく遠くから見ているだけだ。
やがてサフィラがうとうとし始める。
ハヤトは酒に強いドワーフを他の冒険者へ誘導し、成功確率が低いと判断した団員に酒を飲ませた上で距離をとる。
残るのは獲物候補だけだ。
(今日こそ体質を発揮するとき!)
「ハヤトー」
綺麗に手入れされた爪先と美しい指がハヤトの肌に絡みつく。
「あたしという恋人が居ながら、なに鼻の下伸ばしてんのっ!」
気付いたときにはスリーパー・ホールドが完成していた。
「ちょ、待っ」
ハヤトは技を外そうとするが、エーテルとシノビ隠形術まで使って奇襲されたので最初の不利が大きすぎる。
体格とレベルの優位を活かして少しずつ外していくが、完全に外れるよりも早くサフィラがバックドロップへの完了して床からハヤトを持ち上げる。
「そぉい!!」
投げられる。
被害を局限するためのハヤトの体術は見事で、余興と思った酔っ払い達はやんやの大喝采だ。
「サフィ……なぜっ!?」
ふりまわされたことで酒精が体にまわり、ハヤトは無念の思いを抱えたままうとうとし始めるのだった。
同時刻。厨房。
「食は万世共通の幸福なれば」
厨房にいるストレガが、真顔のまま対アルコールの料理を作っている。
医療・薬学分野でも一流なので、色っぽすぎるイベントを防ぐための対策も万全であった。
●
「せーの! かんぱーい!」
サフィラの声に元気な兵士達が唱和する。
グラスは微かにしかぶつからないが中身が揺れて、豊潤な果実の香りが漂う。
「みんなお疲れ様だねっ! 今日は飲んで食べてパーッと気晴らししようねっ!」
はーいっ、わーいっ、うぇーいっ、とアルコールが一滴も入っていないのに盛り上がる。
厳しい訓練から解放され、華やかな香りと飲みやすい飲み物と美味しいごはんがあれば何時間でも楽しく騒げる。
「今日はごめんねー、ハヤトが騒がせちゃって」
「楽しかったです!」
「あたしのものって感じがすごいです! さすがです!」
かなり酔ったサフィラがあははと笑ってごまかす。
栓を抜くのが面倒臭くなって、綺麗に整えられた爪に傷もつけずに指だけで抜き取る。
「あっ」
「手酌でもいいでしょ。というかキミ達に飲ませたらあたし達が怒られちゃうからね」
余ったらハヤトに飲ませればいいやと考え、色々な種類の酒を高価な順に飲んでいく。
お酌はしてはあげるがそちらはあくまでノンアルだ。
「そういえば女同士で飲んでていいの?」
サフィラの言葉に、少女達が困ったように笑う。
「あっちに行くと帰って来れなさそうだなって」
ちらりと振り返ると、きらきらした空間が展開されていた。
●
ソファーにただ座っているだけなのに絵になりすぎる。
ジュスト・ヴェルジーは着こなしも所作も遊び慣れた貴族のそれで、しかも美形で若くて冒険者としての実績まである。
単独で相対せば高確率で不可逆に夢中になってしまう、乙女にとって危険な存在だ。
百合茶を飲み終えカップをソーサーに戻す。
微かに上下した喉元がなまめかしくて、鍛錬に精を出して男女関係に疎い少女が顔を赤くしたまま動かなくなる。
「酒を消費する目的だし、酒精を飛ばしたワインで作ったカクテルをお願いしたよ」
ストレガが作ったそれが特大のお盆で運ばれてくる。
配る指示を出すジュストは手慣れていて、命令する側の存在であることが五感で理解可能だ。
「暑くなってきた今頃はゼリーはどうかな? 白ワインのゼリーの中に果物を入れると甘いし、見た目も綺麗だよ」
面が良く腕が立ち話題が豊富。
刺激が強すぎるから止めた方が良いかも、と遠くで団長が悩んでいる。
「ワイン以外だと……少し贅沢だけれど、シャルガネのお酒はお湯をはったバスタブに入浴剤代わりに入れて酒風呂にすると温まるし、肌にも良いって聞いたことがあるね」
目の前の色男と自らを想像の中に登場させてしまい、頭の中も顔ものぼせ上がる被害者多数である。
「ありがとう、君のような美しい女性とお茶が出来て嬉しいよ」
丁寧に止めを刺していくのは、本当に容赦がなかった。
(……私にはそんなこと言った事無い癖に)
ローザリカ・L・ディオールは貴族令嬢として完璧に近い教育を受けているため隙を見せない。
だから悔しさが自らに向かってしまう。
彼を疑うわけでも信じていないわけでもない。
けれど、それでも。
自分以外に視線を向けて、手を取って、言葉を掛けて。
そんな場面を目の当たりにしてしまうと、理性とは別の部分が消耗して抑えが効きづらくなる。
ジュストに気付かれるほど自己の制御が甘くなっていることに、まだローザリカは気付けていない。
なお、色男の隣に座るローザリカに気付いて圧倒される少女もどんどん増えていっていた。
「ロゼ?」
本当に自然な態度でジュストが微笑みかける。
「誰も何も言っていないし、やましいことがないのなら僕がいたって構わないだろう」
彼女の声の響きは柔らかいが視線に棘が潜んでいる。
「それは……」
(弁明じみた発言こそ疑ってくれと言っているようなものだっ)
自らの心の乱れに気付けない。
誰にも奪わせないとジュストの隣をキープしたまま、面白くないという感情を消し去れずに彼の一挙手一投足に過敏に反応してしまう。
未成年の多い卓へ出向いたのだって本当は年下が好みだとも考えてしまった。
(猜疑心、か)
ようやく自覚し、奥歯を噛む。
これはあくまで依頼だ。
騎士団の皆に罪はなく、楽しく過ごしているところに水を差したいわけではない。
だけど心は静まってくれない。
「やっぱり僕にも貰えるかな。うるさい止めるな。これが飲まずにやってられるか!」
普段は料理も味わうのに今日は酒精を干す速度だけが早い。
さっぱりした肴が速度を加速させる。
彼女につきあってジュストが酒を飲み始めたことにも気付けない。
いつの間にか涙ぐみ、うつむいていた。
「ごめんね」
ジュストは兵士達に丁寧に断ってから、ローザリカを抱き上げる。
止めようとしても止められなかったのでもう少しで泥酔状態だ。
(全く、甘え方を知らないにも程があるんだから)
警備がしっかりしている宿を騎士団に紹介してもらい、部屋の前まで運んで後は女性従業員に任せるジュストであった。
●
「お疲れ様です、上に立つものはこういうときも大変ですね」
雪百合騎士団と関係が深いキーゼがカクテルを勧めると、団長だけでなく複数が受け取り水か何かのように飲み干す。
「気付けばそこそこの付き合いになってきましたが、"生存戦略"は順調ですか?」
淡く苦笑してうなずかれる。
土台であることは分かっていても教育は大変なのだ。
団長は既に3杯目を飲むドワーフを見て、胸が上下するほど大きく息を吐いた。
「それにしても、麗しき雪百合騎士団の方とお酌を楽しめるとは、とてもいい依頼ですね。定期的に開催してみては?」
その気になれば女に困らずその上で楽しませるだろうキーゼだから発言に説得力がある。
団長は自身にかかる負担を思って肩に重みを感じて首を横にふり、ドワーフは遠慮なくおかわりを要求する。
「僕はあくまで中立ですからね。個人としても、お金と契約次第で何でもしますよ、有事の際はお気軽にどうぞ」
のんべえには強烈な一杯を、団長には疲れた胃と神経に優しい酒精抜きのカクテルを、下戸や若い兵士達には色だけ酒に似せたほとんどジュースを作って提供する。
「こういう華やかな仕事も大歓迎ですが。お似合いですよ、ドレス」
団長は、あまり揶揄うと怒りますよと優しく囁く。
キーゼが本当の意味で独り身なら色々考えたかもしれないが、キーゼには既に大事なひとがいるのだ。
(ネーヴェは……)
(もう1杯!)
皆の視線の先で、ネーヴェ・グラヌローザが楽しげに配膳を担当している。
若者向けの肉料理は相変わらず多い。塩ダレがかかったキャベツのサラダや、もちっとした食感の塩にぎりも割合が徐々に増えている。
ストレガの生産力は速いだけでなく消費速度にあわせて出す速度が絶妙だ。
料理が皿の上で乾いていくことがほとんどない。
(楽しく飲む依頼ですけれど、根本にあるのはお酒の消費ですわよね。ただ私は、正直あまりお酒は強くなくて……その分、飲める方にはどんどん飲んで頂くようにしませんと)
この場には冒険者以外の男はいない。
ネーヴェは美女ではあるが兵士達も素質はあるし雪百合騎士団の団員はネーヴェに匹敵する美貌の持ち主だ。
だから需要がない、などという展開はあり得ない。
「少し冷えますね」
体調が崩れる気配のあった兵士には暖かな飲み物を勧め。
「はしゃぎすぎは駄目ですよ?」
酔っ払って羽目をはずしていた者には反発し辛いタイミングで声をかけ誘導する。
話しながら酒の入ったグラスをこっそり水のグラスと取り替えたりもして、団員のユリーシアやイザベラが醜態を晒すという展開を回避させている。
話術はもちろん洞察力が非常に優れていなければ不可能だ。何より本人の優しさがあって始めて可能な接待だ。
(キーゼさんもお酒は強いですわよね)
騎士団について話し合っているようなので、声はかけずにしかし無意識に近くを選んで座る。
お盆をテーブルに置くと、強めの塩気を帯びた枝豆を小柄なドワーフが高速で確保する。喉が渇くと酒がうまいのだ。
「ところで私、"兵器"を存じ上げないのですが」
きらん、とこれまでとは別の意味でドワーフが燃え上がる。
団に無関係な客がいたら情報漏洩確実な密度と速度で、理解するには広範な知識が必要な知識を広範な知識を持つネーヴェに機嫌良く教える。
機嫌が良いと酒も進むのでネーヴェの狙い通りの消費量だ。
「熱心ですね」
話を終えてキーゼが来る。
ネーヴェに代わって酒を注ぐのは実に効率的だ。
「ああ、ええと、キーゼさんの分は私が注ぎますから私達の接待は大丈夫です、どうぞお気遣いなく」
本心があからさまで、実に可愛らしい。
「私は百合茶を……」
百合茶を使ったカクテルを勧められ、ひとの良いネーヴェはつい飲んでしまう。
(そういえば去年の宴会では膝を借りてしまいましたわね。温もりがとても心地良かったのですけど、思い出すと今でも少し、気恥ずかしさも蘇りますわね……)
心も体もふわふわとして、極自然にキーゼの肩を借りている。
ぐい、と優しく体を持ち上げられた。
「えっ、ちょっと待っ……!」
「膝がご希望なようでしたので? 今日はちゃんと場を楽しめてますか」
自らの膝に乗せて、借りた扇で熱くなった顔を冷やしてあげる。
そして、騎士団に2人の仲を見せ付けるように、ネーヴェの好きなものをネーヴェのペースで食べさせていくのだった。
翌朝。
「二日酔いも一度なら良い経験なのだ」
水ー、と呻いている美少女と美女に、ストレガが飛び切り苦くて効く薬草汁を渡していく。
厨房の後片付けは完璧でわずかに残った酒もサイラスが引き取った。
場所を貸した宿屋の店主が目を丸くし、ほんの少しだけ酒臭い団員達も満足そうだった。
マスターコメント
お疲れ様でした。
ショートシナリオR易しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2022年07月12日 23時54分23秒 公開
成功
相談掲示板
No.1
サイラスだ、よろしくなー と言っても相談する事ないし好き勝手にやるでええやろが。一緒に動きたい人がメール以外で相談するとか募集するなら使うかもだが
ストレガなのだ。宜しくなのだ。 厨房を借りるのだ。 大量消費とあらば料理は沢山あるほうがよいのだ。 あと料理に使える酒を回してもらうのだ。