【再起】刀折れ矢尽きた地で
馬車猪
コメント 12
シナリオID:2233
オープニング
「ここで息子夫婦が戦ったのです」
白髪も抜け始めた老人が背筋を伸ばして立っている。
孫は意味を理解できず、祖父の悲しそうな顔を見て徐々に涙目になっていく。
「前任者に敬意を」
普段の薄着ではなく王国風の礼服を着込んだセニャが、本心からの敬意を込めて一礼する。
王国貴族的価値観を持っているので一方的な共感を抱いているのだ。
「孫に男爵位を継がせようとは思っていません。ですが、息子達が守ったここの復興だけは」
セニャは表情を変えずに困惑する。
領地は子に継がせるのが基本の王国貴族と、能力がなければ爵位が継承されないことすらある帝国貴族では価値観がかなり違う。
前者は領主そのもので、後者は代官としての役割も強い。
セニャはまだ、王国と帝国の違いを深い意味では理解できていない。
「継承については帝国と相談してください」
今度は先々代の代官が困惑する。
住民はわずかな生き残りがヴィントにいるだけで、家屋は全て壊れ、畑の形も失った。
そんな村の復興を確実な未来のように言うこの少女を信じていいかどうか分からなくなる。
「私は復興を担当するだけです」
幼児の扱いには甥で慣れている。
元村の状態を確認しながら頼り甲斐のあるお姉さんを演じる。
(土が痩せてるわね。畑に戻しても面積あたりで実家の6割くらいの収量かしら)
覚悟はしていたつもりだが予想より酷かった。
地面を指で弾くと、水気も生気も薄い土が砕けて人がいない方向へ飛び散る。
(もとの住民もほぼ全滅。猪が出る土地だから防御施設を建てた後も兵力……最低でも戦える男を多めに配置しないと)
傷一つついていない指をハンカチで綺麗にして、真似しようとする幼児に微笑みながら注意する。
(魔獣やクリーパーが近くに潜んでいる恐れがある。前回捕らえた賊を鉱山の小鳥として使うすべきかしら)
冒険者のおかげで扱いやすい状態だ。生き残れば減刑という餌なら代官の権限で出せる。
「1度ヴィントへお戻り下さい。冒険者と共に再開発にとりかかりますので、近いうちに良い知らせを届けることができると思います」
内心を隠して微笑むと、やり手の新人代官にしか見えなかった。
●2つめの村――羊の村
「羊を飼わせてくだされ!」
まだ若いのに言葉使いが老人風の村長が、休憩のため立ち寄ったセニャに全力で頼み込む。
なお、村に金はないので資金援助もしてくれという厚かましさだ。
「代官として返済が前提の貸し付けはするけど」
紫と金の瞳が冷たく見下ろす。
「人手が足りないでしょう」
「人手を集めるためにも羊が必要なのですじゃ!」
村長は徹底的に頼るつもりだ。
目の前の代官は個人で農耕馬数十頭を所有する、彼から見ればとんでもない大金持ちだ。
村の未来のためならブーツの底まで舐めて綺麗にする覚悟があった。
「柵の中で飼える数は次の便で送ってあげる」
「ありがとございまっ」
「それ以上は住民の数が増えてからよ。係累や知り合いや新規の住民として呼び寄せて、牧童や農民として教育しなさい」
伯爵代理をやっているとき何度も痛い目を見たセニャは、目下相手にもしっかりとしていた。
村長宅から出ると、ヒューマンもゴブリンもリザードマンもいる集団が出迎えた。
雑だが整列していて、人足や馬借とは比較にならないほど統率がとれている。
「時間通りね」
セニャの態度に蔑視はないが親愛も皆無だ。
貴族らしい態度であり、本人が高位の授恵者なので気の弱い者なら怯えて従ってしまいそうになる。
(優しい貴族が例外でこっちが普通の貴族だよなー)
集団のリーダーは気の弱さとは縁遠い。
あの日スラムから逃れた仲間と共に難民キャンプで生き抜き、戦う冒険者や貴族や皇子の姿を間近で見て来たのだ。
自然と肝も太くなる。
「で、何すりゃいいんだ?」
礼儀も悪意もなく、俺達はやるぜという自負がある。
「冒険者と合流した後に魔獣の巣を攻撃するわ。あなた達の役割は魔獣の巣を囲んで魔獣の逃亡を防ぐこと」
細部は冒険者に任せるから変わる可能性はあると補足する。
「あなた達の次の依頼は今回の働きを見て決める。以上よ。下がりなさい」
反発心が芽生えても押し潰す、非常な迫力があった。
「うっす!」
リットが雑に頭を下げる。
雰囲気に飲まれていた仲間達が、リットよりはるかにマシな所作で礼をする。
「よーしてめーら! テント張ってからメシだー!」
1人元気なリットを、紫と金の瞳が無感情に観察していた。
●1つめの村――引継
真新しい柵が家屋と食料庫を囲み、その外側にある畑には畝がいくつも伸びている。
微かに緑の芽が生えかけているところもあり、ここが1月前は廃村寸前だったと説明されても信じられない者が多いだろう。
噂を聞いて戻って来た元村人もそうだった。
「道を間違えたか」
ヴァイセントラフ砦からやって来た官僚系軍人が困惑している。
1週間前に届いた報告書より村人の数が明らかに多く、痩せてはいるが充実した表情で鍬を振るっている。
「遅れて申し訳ありません」
セニャが出迎える。
「謝罪は不用」
村々とヴィントの間を高速で行き来しているのは知っている。
軍人が予定より早く来ただけなので責める気も責める意味もない。
「復興中の村の引き渡しについての話と聞いたが」
「復興が確定した村と扱って欲しいですわ」
紫と金の瞳に楽しげな色が混じる。
「ご覧の通りです」
「確かに」
反論の言葉を探してもあら探しにしかならない。
「まあ、農耕馬が数十頭あるという噂が広まって賊の類いが寄って来てはいるのですが」
「おい」
くすくす笑う代官をじろりと見る。
「馬はつがいを1組残して後は他の村に移動させる予定です。時間が経てば自然と賊も寄って来なくなるでしょう。割にあいませんし」
2頭だけなら村人だけでも守るのも隠すのも容易だ。
被害なく奪える数の賊が集まれば、1人当たりの儲けが少なすぎる。
「この村は落ち着き次第帝国に引き渡すつもりです。話を通して頂いても?」
「確約はできないがおそらく受け入れられるだろう。ご苦労だった」
礼儀正しく頭を下げるセニャに言葉をかける。
(依頼をした冒険者が有能だっただけか?)
セニャを信用しきれない。
だが、現実に復興を進めているセニャを排除する余裕は、今の帝国には存在しなかった。
●
狼は家族を失った。
つまり餌を多く食えるようになったということだ。
林ですらない茂みにある巣を出て、広大な原野を駆け回って草食獣を刈る。
悲鳴をあげる喉笛を食いちぎり、新鮮な内臓も肉も骨の髄まで1頭を1体で独占する。
栄養状態の改善は体格と戦闘力の向上に繋がり、失った家族に倍する強さを1体1体が身につけようとしていた。
●
「帝国復興に関する依頼です」
ギルドの職員が依頼の説明を始める。
「帝国では様々な土地で様々な復興事業が行われています」
成果が出ている事業もあれば道半ばの事業もある。
「この依頼は新人の代官を助けるという形式の依頼です」
形式であり建前だ。
復興の役に立つなら基本的になんでもできる。予算も資材も代官に出させることが可能だ。
表だって動けるのが代官の担当する村や土地という制限はあるが自由度は高い。
「代官はかなり癖の強い人間ですので、その点は注意して下さい」
職員は冒険者の実力を信頼しているが、代官のことはあまり信用していなかった。
解説
マスターより
リプレイ
「驚いたわね」
セニャは2人のスヴァーノを交互に見て、もう一度交互に見た。
「どしたのー?」
「リットくんを可愛がる相談ですか?」
アルマ・ヴァレンタインとシルク・メイプルリーフが少し不思議そうに見返してくる。
「いえ、なんでもないわ」
セニャを挟むと小、中、大だ。
ハーフリングなアルマは小さいのが普通かもしれないが、貴族令嬢として豊富かつ良質な栄養を摂取してきたセニャを上回る大きさに理不尽を感じる。
なお、客観的に見ると天与の才の持ち主に対抗するセニャが身の程知らずなだけである。
(もしかすると)
うまれも種族も違う3人の会話をしばらく観察していたベルク・オスマットがふと気付く。
「リットくん借りて行きますねー」
「がんばれー」
「ところでスヴァーノの更新についてだけど……」
ベルクは違和感の正体を特定した。
(まさかな。元は王国貴族令嬢で学園生だぞ? だが万一知らぬでは困る)
こほんと咳払い。
セニャはベルクの気配と目付きから、冒険者ではなく帝国に仕える者としての行動であることに気付く。
「念のため確認させてくれ」
「聞きましょう」
「帝国は実力主義が基本なため次代の能力が不足し補えそうにないなら他の者が継ぐのが普通。例え無能でも血筋があれば継げる王国との最大の違い。帝国は己の才覚で青い血を示し、王国は己の血筋で青い血を示すとも言える」
「知っているつもりよ?」
セニャに嘘の気配はない。
だから安心、とはならずベルクの危機感は増した。
「本当に分かっているのか。セニャ殿の子が無能であればセニャ殿の立場は引き継げないのだぞ」
「あなたの立場は理解するけど仮定の話でも不愉快だわ」
セニャの反論は形式と感情が半分半分だ。
「子弟の教育手段はある程度だけど身につけているし、私の血筋は素質だけなら良いのがほとんどよ」
傲慢極まりない言葉を悪意なく口に出す。
セニャは王国の貴族派貴族の価値観に染まりきっていた。
なお、セニャの一族の素質が高いのは事実だが相争い数を減らして今は3人しか残っていない。
(これは……どうしろと)
ここは帝国だから正しいのはこちらだ、と主張するのは簡単だ。
しかしセニャの能力が高いのは事実だし、セニャ並みは無理でも帝国から要求される能力を持つ子供は育てられそうだ。
つまり、知識としてではなく本当の意味でセニャに納得させる方法がない。
(報酬を渡した後で揉めるのは避けたいのだがな)
そんなことをすれば復興した土地は得られても帝国と信用と評判に傷がつく。
セニャが本当の意味で帝国人になれる問題はないのだが、この様子では中身の価値観は王国貴族のままで後々問題を引き起こしそうだ。
「帝国と王国では青い血の意味が違うようだ。帝国はクジンリーネ様の御代より「強兵こそが国を作る」、つまり能力あるものが国を作るとして実力主義を貫いてきた、バルディオン将軍やコンラート将軍らヒューマン以外の実力者たちがその証左。ゆえに男爵はここの復興は願えども身を引くつもりだったのだろう」
ベルクは事実に使い推測を語ってセニャの反応を観察する。
(私に対する牽制? 意味の薄いことをするとは思えないけど……)
価値観の違いから生じる軋轢が常識的な範囲でおさまるか破滅まで導くのか、今はまだ誰にも分からなかった。
●
「いやー、難しい話だったねー。代官さんと中央から来た監査役さんみたいな?」
「数年後はそうなりたいわね。で、スヴァーノさんの意見はどうかしら」
「政治に巻きこまれたくないなーって」
専門家として知恵と技術は提供するからそれ以外のことはお前がやれということである。
「じゃあ真面目な話。村長さん度胸あるね。セニャさんて打ち解けるまでとっつきにくい所あるけど直談判だなんてー……それだけ切羽詰まってるのかもだけど」
「きぞ……代官に上申するなら覚悟は決まっていると思うけど」
「セニャさんに話しかけてたのってギルド長さんとか町長さんとかでしょ? 小さな村の村長にその水準を要求するのは厳しいと思うよー……。それじゃセニャさんも気を付けて」
「ええ」
相変わらず高速で、すぐに遠くに消えていった。
「よし」
むん、と気合いを入れる。
考え事をするときにときどき咥えているおしゃぶりに手を伸ばしたくなる気持ちを押さえ、セニャの代理である冒険者兼スヴァーノとして村長宅前に集まった村人のもとへ向かう。
「みんなー、セニャさんのお手伝いで羊さんの飼い方を伝えにきたアルマだよー。見た目がちっちゃかったりとか気になることはあるー……と思うけど、分かりやすく羊さんの飼い方を伝えられるよう頑張るからよろしくねー」
アルマの身元を保証するのは冒険者ギルドでありセニャであり家畜所有証明だ。
一番強烈な証明はアルマ自身の格だが、非授恵者の中には感じられない者も多い。
「まずは羊さんとの接し方……じゃありません! 畜舎の準備や手入れが全然だめだよー!」
少し消耗している羊達に水をやり餌をやる。
村人のときとは違い、素直にアルマに従っている。
「ぼくの体格だと分かり易い見本にならないかもだから絵を描いてきたよー」
カラーインクも使った分かり易い紙製マニュアルを配る。
牧畜知識も教導も玄人水準なアルマの授業は非常に為になる。
(あとは土地に合ったやり方ってあるはずなんだけどー……)
気付かれないよう村人の年齢と手際を確認していく。
(一番上手なひとでも下働きくらい。これって規模がおっきくなればなるほど問題でてきそう……)
羊飼いとしての教育だけでなく、羊を飼う手法の修正もアルマが行うことになった。
●
目覚ましい復興を遂げた村に儲け話があると判断してやって来る商人もいれば、夜陰に乗じて侵入してくる賊もいる。
「元気だねー」
夜中に響く悲鳴を聞いた感想がこれである。
サイラスは仮眠をとっていた寝台から起き上がって万力鎖を手に取り、壁1つ隔てた所にある厩舎に脚を踏み入れた。
馬のつがいが、つぶらな瞳にほっとしたような表情を浮かべる。
サイラスが実力者であり今の庇護者であることを、ここ数日の生活で理解したので怯えはしない。
「どこの罠か分からないけどね」
少し本気を出した。
空気に殺意が満ちる。
採光用の開口部からの風が吹雪のように感じられる。
馬達の脚がすくみ、身を寄せ合ってその場に座りこんだ。
「村人が引っかかったとかないよね?」
代官の言いつけを無視するなら怪我程度は問題ない。
サイラスは殺界を解除した上で、薄く開いた窓の隙間から攻撃した。
再度の悲鳴。
罠がより深く食い込む気配。
サイラスは馬を庇う位置を保ちながら厩舎の外へ出る。
「現行犯か」
体格の良いヒューマンが媚びた表情で見上げてくるが、サイラスの心は全く動かない。
「遅いから手短に。命の危機と情報どっちが大事?」
ぎりぎり未遂と言い張れないこともない相手を無惨に殺すのはやり過ぎだ。
だから今回のサイラスは鞭役。
サイラスとは別の凶悪さを持つ飴役は別にいる。
(賊も少しは頭を使うか)
厩舎の裏から離れて行く気配があった。
サイラスの手のひらから連続で光の縄が伸びていき、脚に食い込んだ罠に苦しむ賊を拘束する。
「逃げなければ後で応急手当してあげかも?」
向きを変えて背中にエーテルを集中。
地面に転がる松明より明るい炎の翼が広がり、サイラスを地表の高度のまま飛翔させる。
「止まらないと罰が重くなるぞー」
警告はこれで終わり。
後は制圧だけだ。
相手の命ではなく逃がさないことを優先して鎖を振る。
スキルは使っていないが手応えはあった。兵士未満一般人以上の体格と筋肉の感触だったので強盗とか夜盗とかの部類だろう。
「素直に情報を吐けば野晒しは止めてあげるよ」
サイラスの内心は楽しげだが外から見ると非常に怖い。
完全に心折れた賊が、痛みで動かない体で必死の命乞いを始めていた。
翌朝。
サイラスが念入りに絞めあげ牢にぶち込んだ賊が、村の広場に引き出される。
出迎えたのは、最下層の賊に落ちるような人間には一生縁がないように見える令嬢だ。
背後に立つ兵士は厳めしくも恭しく、突き固められた地面でしかない広場が宮殿のように感じられた。
「代官……」
「代官様と言え!」
兵士が荒々しく前に出て賊を殴りつける。
サイラスと比べれば数分の1の威力もないが容赦がない。
心がとうに限界だった賊が、虚ろな目で涙を流した。
「兵士さん、私に話をさせてください」
白いレースの日傘は鼻から上を隠し、しかし透明な響きの美しい言葉が気品に満ちた美貌を想像させる。
鎧はドレスが隠しきれない部分鎧。
精緻な装飾が施された細剣を腰に下げているのに頭頂から踵まで鉄柱が通っているかのように動かない。
控えめに表現して、帝国軍の第一線でも戦うことのできる実力者だ。
「みなさん」
兵士の暴力を平然と受け入れている。
「お馬さんを売って得たお金もすぐに尽きてしまうでしょう。そしてまた盗みを働く……そんな生活をずっと続けるつもりですか?」
復興した村と、大勢集まった村人と、兵士を従える権威と権力を背景に気品と暴力を突きつける。
「セニャさんであれば、あなたたちに仕事を与えてくれます」
セニャさんって誰? という疑問が頭に浮かぶような余裕は与えていない。
死ぬか従うかという残酷な2択をこの上なく優美につけている。
「それが飲めないのなら……致し方ありません」
片手で細剣を抜く。
相変わらず体勢は安定し、鍛えられた刃が陽光に照らされぎらりと光る。
「ええ、おしおきです」
振り下ろす。
剣先にエーテルの輝きが灯り、地面から突き出た拳サイズの石を断ち割り地面と同じ高さで止まる。
「畑か、荷運びか、土掘りか。どれがいいですか?」
誇りも価値観も全て砕かれ別の形に固められ直された賊が、ミア=リゼルに完全に屈服した。
「セニャさん……代官殿のお心遣いです。兵士さんもしっかり食べてくださいね」
姿も仕草も装備も貴族令嬢で、本人の記憶から消えていても上級貴族の血を引くミアはセニャより貴族令嬢らしい。
つまり「王国から来た令嬢が代官をしている」としか知らない人間にとってはミアが代官にしか見えないのだ。
「ここはヴィントに近いですから、いずれヴィントの郊外として扱われるでしょうね」
村落1つの復興と引き渡しが終わったのは、この翌日のことである。
●
「羊は馬以上に脆いのだ。こないだの狼が襲ってくる気も起きないほど狩らねばなるまい」
ストレガ・L・リベルガストラの危機感は強い。
(ただで殲滅しない。その身は頂いていく。これが弱肉強食の理にして魔獣に対する私なりの供養なのだ)
全て仕留めるために、その上で被害を出さないためにリット一党の面倒も見る。
「平地において目の前にいようと見えにくいから油断はしないようにするのだ。少し間をおいてるから生き残りをかけて力をつけてるか警戒心が高くなっているかもしれないのだ」
「うす」
「生き残り最優先っすね」
帝国難民キャンプからの生き残りが大部分なので、実力は不十分でも根性はあるし冒険者の言うことは素直に聞く。
数人で組を作って緊密に連携し、油断なく巣を警戒し始めた。
「そろそろ始めますよー」
シルクがリット一党を呼び集める。
一時的に包囲が崩れるが、桃色髪の代官が冷え冷えとした殺気を放っているせいか敵の反応はない。
「婚約者が来なくてご立腹か?」
ケン・Z・ブラッドリーがからかう。
「とても残念ではあるけど私をずっと手伝うのが大変なのは理解してるわ。……そういう意味で言った訳ではないのでしょう?」
「まあな。義理の弟やその部下に気を遣ってやりな。被害が出ないよう連中の前で待ち構えて最後の砦として討ち漏らしの討伐をお願いするぜ。あんたはもう手柄を狙う側じゃなく褒めてやる側だろ」
セニャは大きく息を吐き、そうねと答えて黙り込んだ。
「スブニグなんちゃら様のご加護を!」
シルクの生命力に満ちた心身を通して濃厚な力が現れる。
怪しいピンク色のオーラはリットを初めとした若者達に大きな力を与える。
「皆さんがんばりましょう。持ち場へ!」
はーい、と元気の良い返事と同時に大小様々な人間が包囲網に戻った。
「何かあったら恥ずかしがらずにすぐ言うんですよ」
「ねーちゃんそれだと余計に恥ずかしがるぜ、っと」
リットが迎撃に出る前にシルクのシルバートンファーが迎撃する。エーテルがたっぷり籠もっているので眩しいくも美しい。
「先に敵を見つけたら授恵者を呼んで対処する方が包囲に穴が開きませんよ。助けがいるかいらないかは最低でも伝えないと」
色香に惑うリットが可哀想になるほど平静な、エルフのおねーさんであった。
「後ろに何体か漏らしたか。まあこれだけ数がいればな」
ケンが使う大太刀は身の丈より長いがエーテル刃はその倍はある。
地面から生える草も枝肩垂れる蔓も、切れるというより触れた瞬間消滅する。
攻撃力が、リットや魔獣の攻撃とは次元が違う。
(天眼があっても邪魔が多ければあまり見えないか)
暗視能力持ちのケンは薄暗い茂みの中も良く見えてはいるが、小さいとはいえ木々の連なりは守る側にとって有利。
だが奇襲されたのは狼だ。大部分は不意を打たれて混乱している。
「気付くのが遅いぜ」
風下から風上へ攻め込む。
チャージングによる移動はあまり繊細ではなく、ケンを狙った体当たりや爪が何度かかすめる。
だがケンの防御力は薄くはないし生命力も豊富だ。
何より、破格の破壊力があれば狼の企みなど真正面から粉砕できる。
「てめぇらも仲良く家族の場所に送ってやるから感謝しろよ」
敢えて挑発。
濃密な殺気が木々の間を満たし、10メートル以内にいた狼を隠密状態か戦闘状態かに関係なく引きつける。
そこをエーテル刃で蹂躙する。
骨ごと肉と皮膚を裂き、断末魔の悲鳴と内臓切れ端まみれの地獄の出現させるが戦いはまだ中盤にすら入っていない。
「茂みはほぼ正方形。半分程度は任せるのだ」
ケンを道先案内に茂みに侵入を果たしたストレガが、破壊も光も伴わない術を行使する。
殺界に巻きこまれなかった狼の脚が止まる。
ケンが獰猛に笑って殺意の檻を開けて光塊を用意し振り回す。
破壊が通り過ぎた後は、狼による傷を除いて無傷の茂みと魔獣の死骸だけが転がっていた。
食べる事の幸福を追求し、またそれに至る研鑽と頂く命を無駄にしない調理術や解体術を重視するストレガにとって非常に辛い光景ではある。
だが依頼中に背負うものは普段より多い。
(もったいないが現地戦力に傷がつくのはもっともったいないのだ)
2つの重力場に重ならないよう雷の罠を配置する。
冒険者から逃げて包囲を突破するときに必ず通る必要がある場所だ。
これで完全に退路を断たったことになる。
「1体の逃さず倒すのであれば仕事はまだ始まったばかりなのだ」
ストレガは、真剣で慎重な態度を全く崩していなかった。
●
セニャがいる場所から直線距離にして70メートル。
茂みを迂回すれば最低でも200メートルは走る必要のある場所にハヤト=ガラン=ヴォルファングがいた。
(んじゃ、セニャの功績のために今回も一肌脱ぎますかね♪)
セニャとは付き合いが長いし、濃い付き合いをしている者がセニャと親しいことも結構ある。
依頼をうけたからには手を抜く気はないが、よりいっそうやる気になっている自覚がある。
(国が壊れた後はこうなるってことかよ)
ここは狼の巣だ。
獲物の残骸がいくつも転がっていて、その中には子供のための装備もある。最近のものはない。あの日とその直後のものだろう。
傷の付き具合から当時何が起きたか分かってしまってもハヤトは動揺はしない。
動揺できるような甘いうまれや育ちはしていないのだ。
(裏口から入ると楽だな)
ケン達は非常に派手にやると予測できたので、ハヤトは逆側から気配と音を消して侵入……する前に双波で内部の敵の位置を丸裸にした。
(残りの狼は逃げてもあんた等で怪我人を出さずに対応できる数だ)
ハヤトが合図を送ると、ハヤトになんとかついて来ていた犬がうなずき主に伝える。
(俺が仕留めた後ならだけどな)
瞬間的に加速し、鍛錬で固くなった踵で踏み潰す。
隠れていたつもりの狼の首が折れ、息絶えるまでの短い時間激痛に晒される。
(だいぶ狩られてるのにまだいやがるのかよ)
風にのってくる血の臭いが凄まじい。
森の中に出現した雷蛇禍による光も禍々しく、狼にとっての故郷は地獄と化している。
「気付いたか」
茂みに入って始めて普通に話す。
草に隠れた凹みの寸前で立ち止まったハヤト目がけて、母と妻の首を折られた親子が左右から襲いかかる。
「お前等もやったんだろ? 少なくとも俺は獲物で遊びはしないぜ」
足の具足部分で子狼を蹴りつけ、一瞬無防備になった腹を忍刀で腹を切り裂く。
追撃よりも一時離脱を優先すると、親狼が子と妻に振り向く誘惑に負けて隙を晒した。
再度前に出る。
「ここを縄張りにしようと思った事を後悔するんだな!!」
迎撃の爪や牙を見切り、打撃と斬撃を6度浴びせて止めを刺した。
●
非授恵者が魔獣の群れを包囲するのは大変だ。
大怪我や死に繋がる傷を負わせないで戦うのは得に難しい。
「すごいや!」
「聖女様だー!」
そんな苛酷な役目を果たしている連中がおおはしゃぎだ。
仲間による投石の誤射を生身で受けてしまった者が1度のヒールで全快。
それだけならヒールが使えるのが凄いで住んだかもしれないが、鎧越しに体当たりを受けて骨と内臓が痛んでいたのにたった1度のヒールで全快するのを見れば感動と興奮を我慢しきれなくなる。
「落ち着きなさい」
叱責の言葉が穏やかに響く。
ミィアは15歳だが落ち着きと礼儀正しさが実年齢より上の頼り甲斐を感じさせる。
実力については言うまでもない。
「全員いるかどうか確認を。怪我の有無も報告して下さい」
元々苛酷な状況で集団行動してきた者達だ。
帝国軍にははるかに劣るとはいえ、ごろつきではあり得ない速度と精度で報告が来る。
「結構。敵の数が減っていますので包囲を狭めます。私を中心に展開して微速前進です」
ミィアには透視能力がある。
戦闘中に使うのは難しい能力であり、そして敵の抵抗が弱く味方に守られているなら使えることもある能力でもある。
「そこの巣穴です」
使えたなら効果は絶大だ。
暗視能力だけでは見つからなかったはずの穴を次々見つけ、絶対に逃げられない状況に追い詰めた上で戦いを挑むことができる。
後片付けは小柄な非授恵者の担当だ。
エーテルを帯びさせた祭刀を両手に構え、ミィアは足下の死骸から目を上げる。
「止まって下さい。そろそろ終わります」
戦闘の音が、最初の数分の1になっていた。
みっ、と奇妙な悲鳴が漏れる。
肩に噛みつかれたリットが剣を離して引き離そうとするがうまくいっていない。
「リットくん以外は後退! リットくんがんばれー!」
シルクは敢えて厳しくしながらヒールを連続使用する。
非授恵者達には過剰なほどの回復力でもリットにとっては少し足りない。
リットと剣を真横に振り切ったケンとの間にあった狼頭が真横にずれて、骨と血管の断面を外気に晒して地面に転がり落ちた。
戦慣れしたリットが冷や汗を流す光景だ。
「悪いが根切りにさせてもらうぜ……これも生存競争の一つだ。恨んでくれて構わんから迷わず逝けよ」
狼に告げてからリットを目で促す。
「お、おう」
「害獣退治は都市の外で暮らすなら基本ですよ」
シルクに宥められてようやく、リットは至近で絶技と死を見た衝撃から抜け出す。
まだ死にきれない狼達が、大太刀とトンファーと剣により止めを刺されていった。
●
「水と寝床があればすぐ死にはしない」
ベルクは1つの村の立ち上げを志願して受け持った。
「だから井戸職人の邪魔をするな! ……高い壁を作るのと空堀で相対的に高さを得るの、どっちが楽じゃと思う? これで分からんか。我の言うことを聞け! 貴様は農具を使って壁沿いに穴を掘れ。貴様等は壁の続きを建てよ」
小柄で華奢なベルクを舐めた元賊もいたが、ほとんどは黒毛の大馬に食い止められ、運悪くベルクに襲いかかってしまった男は重傷を負い後送された。
(空堀で出た土で土壁は……こやつ等では無理か)
見た目ほどの体力もないし協力し合おうという意識も薄い。
大馬の傷有り強面に「蹴散らしていい?」と尋ねる色が混じった気がする。
「我が言ったものを運んで来い!」
余計なことを考えさせないようするため、効率が悪いのを覚悟の上で元賊達を酷使する。
なお、数日後にミアから送られてきた元賊の扱い易さに気付き、とても良い笑顔を浮かべてしまい元々いた元賊を怯えさせた。
彼等がここまで恐怖しているのには他にも理由がある。
未だ生臭さが残る特大狼の毛皮が壁に沿って干されているのだ。
「そこに置くのだ」
「了解っす姐さん!」
体格は劣っても機敏で何より肝の据わったゴブリン達が、ストレガの指示に従い狼の残骸を運び込む。
状態が良好なのは稀で運ぶ際に血と臓物の中身に塗れることになるのに、臭がってはいても嫌がってはいない。
当代のストレガが種族のために行動していると知っているからだ。
「皮と骨は家畜を育てる為の資金の足しになる。焼けば痛み易い肉も食べられるのだ」
「食えるなら食うけどさぁ」
ゴブリンに混じって運んで来たリットが切ない表情になっている。
「美食は体ができてから考えるのだ」
ストレガは本心から忠告する。
リットはゴブリナであるストレガより小柄なのだ。
しかも術使いではなく前衛。体作りは義務である。
ストレガは炎の中から枝を抜いていく。
戦闘中に死んだ肉なので血が少し残っている。美味いとはとてもいえないが臓器なので滋養はある。
肉を焼く作業を出稼ぎ達に任せストレガは村の外に出る。
ヴィントと反対側の方向は、害獣と魔獣とクリーパーが跋扈するはずの無人地帯が広がっている。
「彼等は運が悪かった。それだけの事なのだ」
失敗すれば荒野に食われるのはリットでありセニャだ。
目指す場所は遠く、成功の確信を持つのはまだ無理だった。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:多い9 / 6〜10人
2022年06月11日 23時44分32秒 公開
参加者
相談掲示板
お邪魔しますね。ヒーラーのミア=リゼルです。よろしくお願いします。 今回復興をお手伝いする村はみっつ…分担するか、順番に回っていくか… 分担の場合は狼の対応(3つ目の村)のメンバーから先に決めたいところです。 ただ復興に従事してもいいのですが、気になるのはセニャさんと担当官さんの信頼関係でしょうか。どうにかうまく橋渡しできるといいのかなと。 個人としては、ひとつめの村に向かって復興のお手伝いと賊の対応をしようかと考えていますが、前述のこともあるので相談次第で動きますね。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 狼狩りのほうに回るのだ。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! セニャのヤツはやる事が早ぇな。 早速代官として頭角を現してやがんのかよ!? んじゃ、俺は3つめの村で狼の巣を叩いてくるとすっかな!
シーフのベルクだ。3つ目の村の復興に行くかね。 …そうか、帝国と王国では青い血の意味が違うのか。 王国的な価値観ゆえに報酬はアレだけ謙虚なものになってたわけか(十分の一)
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー ボクは前回と同じく2つめの村で羊さんに関わっていこうかなと思ってるよ
No.6
シスターシルクです まずはリットくんの手伝いからはじめましょうか
ウォーリアーのケンだ よろしくな 俺は狼の巣を潰しに行こうかと思っている
ヒーラーのミィアです。 わたしもオオカミの巣をなんとかしにいきたいと思ってます。 よろしくお願いします。
シーフのリットだ! よろしくな! なんか質問があったら答えるぜ。俺の知っていることしか答えられないけど。
No.10
サイラスだ、よろしくなー とりあえず三つ目、狼多いから一つ目の村行こうかね 族が出るらしいし。
No.11
リットくん!?いつのまにシーフに おねーさん初耳ですよ!
あっ。 ごめん、ウォーリアだよ。ほんとだよ。