【音旅】蒼き調べと共に
崎田航輝
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シナリオID:2181
オープニング
音楽の町エルセント。
今もどこか遠くに楽器の音色が響いて聞こえる、そんな町長邸で……町長サンドロは冒険者達に労いの言葉をかけていた。
「紀行文も大きく補完されて、マルコの旅の全貌も見えてきました」
言って手に取っているのは冒険者の調査報告書を纏めたもの。
そこから見えてくるのは――その旅路が、進むほどに音楽に満ちてゆく道だったという事だ。
始めに聞こえるのは単純な音色。だが前回旅した場所まで行けば、十二分に長尺の音楽と言って良いものを聞く事が出来た。
「最果てに行けば、“楽しいひと時のための弦楽”の旋律そのものを見つけられる……今ならそれを信じる事が出来ます」
一つの環境音だけでなく、様々な音響や自然現象が絡まり、何らかの動物が作る音も加わって複雑な楽曲になる。
そんな冒険者達の考察もまた、サンドロは正しいと思っているという。
「始めは中々想像も出来ませんでしたが……皆さんの成果を拝見すると、きっとそこに探す旋律がある、そう思います」
だからまた冒険へ向かってくれませんか、と。
サンドロはそう皆へ依頼を述べた。
●最後の旅へ
「紀行文の長さを考えると、今回で遠征は最後になる可能性が高いですね」
サンドロは文書を眺めながら告げる。
紀行文には欠落も多いが、単純な文量で言えば残りは三分の一程度。順調に足を伸ばしていけば……目的地である“蒼の畔”に到達出来るはずだ。
「そこに、マルコに旋律を“教えた”何かがある、という事ですが――」
それを見つけられるかどうか、不安は残ると言った。
「紀行文は内戦前の古い時代のものですから……自然の産物だとして、現代にその自然が残っているかどうかは判りません」
環境が変われば、音も変わる。
旋律に何らかの生物が関わるなら、その生物の現存もまた疑わしいだろう。
「元より、樹海の奥深くともなれば純粋に危険地帯ですから――」
魔獣やクリーパーに現地が荒らされている可能性もある。
それでも、紀行文を信じるならば“蒼の畔”は確かに存在するはずだ。
「そこに何かが残っているなら……見つけていただきたく思います」
何があったとしても、それを詳らかにしてほしい、と。
「この町のルーツの一つですし……単純に、美しい旋律がどうやって生まれたか、それを少しでも知りたいですから」
そう好奇心に満ちた声でサンドロは語った。
「もし、魔獣やクリーパーによって現地の自然や生物に危険が及んでいるようでしたら……可能な限りで撃退し、環境の保全もお願いします」
何より安全第一に、お気をつけて、と。
サンドロは今一度頭を下げ、冒険者達を見送ってゆく。
●蒼き羽
音色が燻っていた。
蒼き羽を持つそれは、長らく雄大な旋律を奏でる機会を失っていた。
それは環境音に合わせて歌うように囀る事で、どの動物とも似ていない音楽を生み出す。その音で遠くの個体ともコミュニケーションを取り、餌となる木の実を円滑に見つけるという生態を持つ生物だった。
けれど今――響くのは逃げる為の羽音と、悲鳴にも似た鳴き声だけだ。
畔にこの世ならざる存在……クリーパーが跋扈するようになったのはいつからか。
その捕食者に喰らわれ、蒼き羽を持つそれの個体数は減り始めていた。
元来、戦いに優れた種ではない。
自身の命を守る為、それは高らかに歌う自由もなく必死に逃げ惑う。クリーパーはゆらゆらと、そんな蒼き羽を追っては命を奪っていた。
近辺にはかなり以前から、自然の動物が寄り付かなくなっている。
このクリーパーが餌を求めて這い回る事で、環境が汚染されている為だ。
木々が朽ち、音を奏でていた自然がなくなってゆく。まるで静寂の波が這い寄るように、クリーパーの通った後には無音の空間が残っていた。
この周囲では、既に元の環境を保っているのはこの畔の中心地だけ。
かつて音に満ちた湖畔。
それが消え去るのも時間の問題だった。
解説
マスターより
リプレイ
ざらついた風が吹き抜けてゆく。
――砂風丘陵。
キャンプから進んだ先、前方に広がるのは乾いた砂漠地帯だった。
「傾斜も多いな」
セリオス・オーガストは呟きながら見回す。
隆起した大地、遠方に見える岩の柱、周囲の砂の山。道は平坦ではなく、荷を積んだ黒汗馬を引くのにも注意が必要だった。
脅威はそれだけでなく――キオルティスはマントを目深にし直す。
「やっぱり陽が当たると暑いね」
「うん」
頷くアステルも、瞳を細めて視線を仰がせる。
辺りを眩く照らす日光と、それが作る陽炎は一種の美しさがあった。けれど同時に体力を奪うものには違いない。
「長々と過ごすのも良くないかなー」
故にサイラスは言って砂山の上に上り、広く見渡してみる。
すると彼方に砂地とは違う、稜線にも似たものが見えた。
「森林かも知れない。陽炎で不明瞭だけど、違う環境ではありそう」
「では音を探しながら、そこを目指しましょう!」
元気に言って、地面にそっと栗鼠を下ろすのはエルナ・クルプファルツ。
「お願いします!」
その意に沿うようにチュチュっと囀った栗鼠は、前へ。斥候としてパーティの少し先を行く形で荒野を駆け始めた。
ララベル・サン・ディーベルも歩み出しつつ、一度彼方を望む。
「これで、冒険も終わるかな――」
そこにどんな景色と旋律が待っているか。そこにはやはり、期待と楽しみがあった。
道中は平坦な道を選べば、体力は温存できる。
ただ、それでも温度と乾燥は否めない。イズル・M・ヴォルゴールは水を含みつつ視線を巡らせていた。
「とにかく、水が確保できなければな――」
「記述を見ると、オアシスは数があるみたいだけど」
と、紀行文に目を落とすのはルーンス・ラグネル。
ここに来るまでに改めて読み込んで来ており……マルコが相当数の水源を見つけていた事は把握している。
「オアシスは植物に溢れてるらしいね」
「じゃ、まずはそれを見つけないとなー」
サイラスは言いつつも、時折棒を立てて目印にしていた。
大きな岩が増えて視界が通らない事も多い。それでいて似た景色が続くから……これで迷わずに進む事が出来る。
そうして距離を伸ばすと――イズルがはっとする。
嗅覚に草の香りを感じたのだ。
「向こうの岩の裏だ」
「あっ、本当です!」
エルナが栗鼠を先行させると、確かに草花に囲まれた一帯があった。
そこへ向かうと、アステルは思わず笑みを零す。
「わぁ、キレイ――」
そこは淡桃や黄色の花に満ちた泉。
陽光で煌めく水面が美しく、涼し気だった。
「それじゃ、休憩と水汲みだね」
キオルティスの言葉に皆も頷いて小休止。
「これで……っと。水は汲めるけど、砂っぽくなるのは少しうんざりだよね」
幾度掬っても濁りの消えぬ水に、ララベルは苦笑する。
とはいえここでは命の恵み。皆でありがたく給水して――
「これも食べる?」
アステルの差し出した干し肉で空腹を満たし、塩分も補給して……そこからまたオアシスを辿りつつ前進していった。
「問題は音だけど――やっぱり、あれかな」
ルーンスは遠くに立つ岩の柱を眺める。
「直接的な言及はないけど、紀行文ではかなり着目されてるみたいだし」
それに皆も頷いて、そちらに足を向けると……すぐに変化は訪れた。
「何か聞こえます!」
まずはエルナが、聴覚にそれを捉えた。
風音に混じる、低い笛のような音色。オルガンのようにも思える豊かな響きだ。
キオルティスが方向を見定めて指をさす。
「向こうだ」
それは岩の柱の一つ。
独特な凹凸を持ったもので――風がそこを吹き抜ける時だけ、特定の音階になっていた。
セリオスは近づいて「成る程」と声を零す。
「表面の不均一な形が、笛のように作用しているようだな」
そして周囲の柱も調べ……ここの岩とハーモニーになる音程を響かせるものを見つけた。
「間に立てば両方の音が聞こえるな」
「辿っていけば、音楽になるかも」
ララベルも言うと皆も頷き、音色の響く岩を巡ってゆく。
キオルティスはマルコの楽譜と照らし合わせ……音符の動きが一致する箇所を見つけた。
「ここだ。曲の最初のあたりだね」
「じゃあ、ここから正しい道を辿っていくことが出来るね」
隣から覗き込むアステルも言うと、キオルティスも頷いて……楽譜通りに進み始める。
すると、上から砂の降る柱が増え――進むほどに、その音も徐々に音楽に溶け込み始めた。
イズルはバイオリンを爪弾いて音階を確認する。
「高い音とリズムを兼ねているようだな」
それはシンバルをブラシで扱う音色に似ている。風の音を邪魔しない優雅な音色だった。
と、ある程度前進した所で皆は一度止まる。
二方向の遠方に岩の柱が見える――分かれ道にぶつかったのだ。
サイラスは楽譜を確認する。
「このあたりから、音数も増えてるな」
「それじゃあ、岩の見た目にも変化があってもおかしくないよね」
ララベルは言って双方の岩を観察。
すると片方の岩に穴が多く開いているのを発見した。
「あれも音に関係してるなら、あっちが正解かも?」
という事でそちらへ前進。
すると音の変化に、ルーンスが早々に気づく。
「一気に和音になったね」
岩の穴が別の笛の役割を果たし……伸びやかな和音を作り出していたのだ。
木管の重奏のように、玄妙で涼やかで。心が洗われるような曲だった。
と――そこでイズルが不意に嗅覚に異変を覚える。
「何か生き物がいる。蜥蜴か、いや――」
捉えたのは、蜥蜴に似た魔物だ。
皆も程なくその敵影を見つける。
数は三体。蜥蜴というには大きい魔獣で……魔力の風を渦巻かせていた。
故に皆も即座に臨戦態勢。
イズルが声音と共にエーテルを解き放ち、皆の力を引き上げると――セリオスが光の矢を拡散させて全体の体力を削る。
そこへララベルとエルナが素早く追撃に入って一体を撃破した。
残る二体が風を放ってくるが――サイラスがエーテルを揺らめかせて庇護翼を形成。仲間に飛ぶ衝撃をかばい受ける。
直後にはルーンスが治癒の光を煌めかせて傷を拭い去り……キオルティスが疾駆。剣を奔らせ一体を穿っていた。
「アステル、頼めるかい」
「うん!」
と、応えるアステルが横合いから衝撃波を放って敵陣を巻き込み、一体を沈めてゆく。
残る一体はあくまで敵意を見せてくるが……単純な知能だと見きったイズルは、自身へ引き付けるようにして皆へ背を向かせていた。
「今のうちに」
「ああ」
頷くセリオスがそこへ精確な矢撃。狙い違わず貫いて殲滅した。
蜥蜴の肉や皮など、素材を回収したサイラスは……マントを羽織り直す。
「冷えてきたなー」
見れば、陽が落ちかけていた。
夜が来ると冷え込むのもまた砂漠の特徴だ。故に皆も頷きながら、防寒を万全にしつつ傍のオアシスへ。火を焚いて――
「ここなら見通しも悪くなさそうだし、警戒も簡単だね」
ララベルの言葉にも皆で同意し、今日は野営をする事に決めた。
皆が持ち寄った食糧、そして蜥蜴の肉も適宜焼いてお腹を満たしてゆく。その間も、岩と風が奏でる音楽が聞こえていた。
だけでなく、サイラスは少し仰いで気づく。
「雨が少し降ってきたな」
砂を濡らすにも満たない小雨。だが……その雫が時々柱から垂れる音もまた快いリズムを作っていた。
キオルティスはそれも楽譜にしてゆく。
「これで預かった楽譜ともほとんど同じ内容だね」
「少し、セッションしていい?」
アステルが風が作る音に、フルートでハーモニーを重ねる。
柔らかく清涼な響きが生まれると、キオルティスも愛用の竪琴で彩りを。イズルがバイオリンで艶めきを与えると、エルナもまたフルートでユニゾンをして美しい旋律を飾った。
そうして自身達でも音楽を楽しみながら……皆は食事も終えて。
「睡眠は、ここでとってくれ」
セリオスが用意したのはゲル。
そこなら砂風も避けられ、快適な眠りがとれる。皆はありがたくそれを借り、交代で見張りもしつつ夜を越えた。
そうして翌朝。
皆と共に更に岩の旋律を追うと――エルナがあっと気づく。
「森が見えてきました!」
気づけば気温も下がり、空気の乾燥もなくなっている。
それこそが目指す次の場所。皆は頷き合って、木々の間に歩み入った。
●花
砂漠で失われていた色彩が、溢れ出たような景色だった。
「凄いね……!」
アステルが見回すそこは――花の森。名に違わぬ彩り豊かな花が咲き誇っていて、凄絶なまでの美しさを見せていた。
セリオスは頷きつつも、警戒は欠かさない。
「視界は悪いな。注意して進もう」
「そうですね! ここでもリスさんが大活躍ですよ!」
言ったエルナは、言葉通りに栗鼠を木に登らせて……高い位置から視界を確保していた。
すると高所でも木の枝に多様な花が咲いているのが判る。枝垂れたものもあり、植物園のような豊かさだ。
「種類自体は外でも見られるものも多いかな」
サイラスは図鑑と見比べつつ歩んでゆく。
実際、生育度合いに差こそあれど既存種も多い。ただ、外では見られないものもあって――どれもが生き生きとしているようだ。
「これだけ多彩な花があるってことは……気候的なものだけじゃなく、土や水が花と相性いいのかな」
ルーンスは興味深げに眺めて呟く。
事実、土壌は丘陵地帯とは全く別物と言ってよく……生命力に溢れている。気候も涼やかで、快い空間とも言えた。
「進んでいけば、もっといろいろな花が見られそうだね」
「珍しい花があるなら、そこにヒントがあるかも?」
ララベルの言葉に皆も頷いて。音は勿論、花に注目していく形で進み始めていく。
すると感じられるのは、花の良い香り。
イズルが共感能力を活かしてみると、花にはよく栄養が行き渡っている事が感じられた。
「向こうに進むと、花の状態は更に良くなって行きそうだ」
視線の先には、一層色に溢れた景色が連なっている。
その先が正解ならば、どんな音が聞けるのか。それが未だ判らないだけに、キオルティスはむしろわくわくとした心持ちだ。
「楽しみだね」
「うん……!」
ララベルも好奇心を隠しきれぬ様子でそちらへ進み出すと……程なく、先刻までは見られなかった花が増え始めてくる。
エルナが試しにつついてみると……りん、と澄んだ音が響く。
「あっ、何だか鈴みたいです!」
「他の花も少しだけど音を出してるみたい」
アステルも見回して、同種の花が僅かに音を発しているのを見つける。花弁と花柱が触れる事で、鈴のように鳴る構造だった。
セリオスは警戒を続けつつ遠方を望む。
「ここの音楽は花によるものなのかもな」
とはいえ現状、花が独りでに曲を奏でる所までは行かない。
それでもその花を辿って進むと――不意に前方の花々が大きく揺れた。
「あっ、動物だ」
ルーンスはそれに気づく。
花の蜜を吸おうと、数匹の蜂が飛んでいる。それを狙って飛ぶ小鳥を、更に捕食しようとする小動物達が駆けていた。
その勢いで花が順に揺らめいて……流れるような連続の和音が生まれている。
キオルティスは耳を澄ませて得心の思いだった。
「花だけじゃなく、傍で息づく命も音楽の一部という事かな」
確かめるよう、小動物が通る小さな獣道に沿って歩むと……そこを動物が通るたびに音楽が生まれてゆく。
動物の動きは不規則だが、不思議と不協和音にはならない。或いは動物達もこの音楽の美しさと共存しているのかも知れなかった。
だが、そこに僅かに濁った音色が交ざるのを、サイラスは聞き逃さない。
「これは……音楽とは違うなー。上か」
「ああ」
頷くセリオスもそちらに目を向けている。
遠方に枝垂れる花が、不自然に揺れ動いていた。
「大きな蜘蛛さんみたいです!」
栗鼠を介してエルナが発見したそれは、木々の間を糸で伝う事で移動する――蜘蛛型の魔獣だった。
こちらを獲物と見てだろう、近づきながら糸で攻撃しようとしてくる、が。
「――させはしない」
その頃にはイズルが動き出している。
巨体の下を通り抜け、その体重を支えている糸へ狙いを定めると……戦槌で一振り。糸を断ち切っていた。
蜘蛛がよろめくとその隙にサイラスも射撃。光の矢を爆裂させて枝を折り、体勢を崩させていた。
そこへキオルティスも跳躍。一息に肉薄して剣撃を放ち、真っ直ぐに貫いていた。
躰自体は脆かったのだろう、蜘蛛は早々に力尽きて地に落ちる。
アステルは改めて周囲を見回した。
「もう敵はいないみたい」
「ねえ見てみて。食べられそうな実がいっぱい生ってたよ」
夜、野営を始めるとララベルは大きな木の実を持ってくる。
自然豊かな地だけあって、食糧も豊富。皆はありがたくそれらを頂き、栄養を補給していた。
だけでなく……アステルは日中とは違う音に気づいている。
「夜だけ咲く花が鳴ってるんだね」
見ると傍に一輪、また一輪と開く花があって……それが夜行性の小動物の動きに伴って、夜だけのメロディを奏でていた。
「静かだけど、ステキな響き――」
これもまたマルコの楽譜と一致する。
だから皆は焦らず、朝、昼、夜と花を辿って……確実に順路を進んでいった。
が、そんなある日中。
「花が枯れているな」
セリオスは森の景色の変化に違和感を抱く。
色鮮やかな景色が褪せて、植物が減っていた。それは進む程に進行していて……単なる土地の特色とも思えない。
ルーンスは紀行文と見比べる。
「こんな場所があるっていう記述は読み取れないね」
欠落しているだけの可能性もあるが……そうとはルーンスには思えなかった。
「以前にはなかった、最新の脅威があるのかも」
「……何が起こっているんだろう?」
ララベルは呟きを零す。
見据える先には湖畔への入口があった。
●協奏
植物の朽ちる風景を進むと、遠方に美しい湖畔が見えた。
紛れもない、“蒼の畔”だ。
「キレイ……!」
アステルは笑顔をぱっと咲かす。
少し歩めば湖が見えて、澄んだ水面が差し込む陽光に煌めいているのが判った。
滝に露出した地層、風に揺れる木立。多様な環境に囲まれていて、どこを見ても心が惹かれる。
だが――その美観にそぐわぬ異常もアステルの視界に映った。
それは何かから逃げるように飛ぶ蒼い鳥と……時折消えては姿を現す、この世ならざる球体状の存在。
「むむ、クリーパー!? 鳥が追いかけられてる!」
「植物が枯れてたのは、あれか」
サイラスも声を零す。
クリーパーは煙を揺蕩わせていて……それが環境に悪影響を与えている事は明らかだった。
あのままでは鳥も捕食されるだろう。
「皆、行くよ!」
故にララベルは迷わず疾駆。高速で距離を詰め、まずは一体へ流麗な刺突を叩き込んでみせる。
キオルティスもクリーパーと鳥の間に滑り込み、自身に狙いをつけさせた上で剣撃を喰らわせていた。
すると揺らめいたクリーパーは――迷彩能力だろう、姿を薄らがせて消える。
エルナは聴覚でも捉えられぬと把握して。
「無音で行動してるみたいです!」
「動物にとっては脅威だろうな」
セリオスは呟く。
花の森の終端周辺だけ、命の気配がなかった事を想起する。あれはこの存在に抗える生き物がいなかったからだろう。
だが、セリオスはサーマルアイで僅かな温度変化を捉えている。即座に二連射を加えて一体を四散させた。
「体力は高くないな」
「なら、位置だけ判れば問題ないな」
サイラスは光の矢を地面で爆破させる。すると、巻き上がった土や枯葉が降り掛かって敵の姿が浮かび上がった。
クリーパーは無論、それを払おうとするが――その前にエルナが香水を染み込ませた布を矢に撒いて放ち、濃密な香りを付着させている。
「これで簡単には落ちないはずです!」
「それじゃあ、いくよ!」
アステルはそのまま接近。大剣へ眩いエーテルを纏わせて……強烈な斬撃で三体共を巻き込んでいた。
クリーパーも影色の弾で反撃する。が、割り込んだサイラスが庇い受けながら、その骸装で耐えきってみせていた。
受けたダメージこそ小さくはないが――ルーンスも即座に治癒行動。
祭刀の切っ先へ魔力を込め、煌めく光球で傷を回復させると……更に精神を集中。光のヴェールで撫ぜるよう、エーテルを活性化させて不調をも癒やしきっていた。
「これで問題はないかな」
「助かる」
言ったサイラスは反撃に移って敵の体力を削り始める。
ただ、クリーパーも一度下がって湖に入る事で香水の匂いを落としていた。
「只ではやられないつもり、か」
呟くイズルは、しかし冷静だ。
クリーパーが姿を見せる一瞬を待ち―― 招霊呪怨縛【冥月】。
白銀で男性を、黄金で女性を象るようにオーラを生み出し、ダンスを踊らすようにその輝きをクリーパーにまとわり付かせていた。
その一体が動けなくなると、ララベルが疾走。軽やかに宙へ跳びながら……連続の剣閃を降らせてゆく。
「これでも、喰らえっ!」
その衝撃に貫かれたクリーパーが消滅すると、もう一体へもキオルティスが剣撃。無拍子の一閃で素早く打倒した。
残る一体は煙を撒いてくるが、それも無駄な抵抗。アステルが反撃に移り、横一閃の斬撃を刻むと――セリオスも弓を引き絞り。
「終わりだ」
放つ矢を球体へ突き立たせる。
そのまま弾けて散ったクリーパーは、跡形もなく消滅していった。
戦いの後、皆で傷を癒やして互いの無事を確認する。
と、それも一段落する頃。
ぱたりとやわい羽音を響かせて……冒険者達の近くへ鳥が舞い降りてきていた。
エルナはわぁ、と笑顔を見せる。
「綺麗な鳥さんですね! お礼を言ってくれているのでしょうか!」
耳を傾けると、美しく囀っていた。そして一羽、二羽と逃げていた鳥が戻ってくると、まるで綺麗な合唱のように聞こえる。
ララベルは心地よさげに瞳を細める。
「綺麗な声だね……この鳴き声が音楽になるのかな?」
「多分、そうだな。ここが生活圏みたいだし、畔の名前も鳥から取ったのかも」
サイラスは言葉と共に景色を見回す。実際、周囲に蒼といえるものは無く……故にこそ鳥達の蒼色が映えていた。
そして鳥達が湖の周りへと戻り始めると……一際鳴き声が美しく響き始める。
「金属質の地層があるね。あれによく反響してるんだ」
鳥について歩むキオルティスは、快いエコーを生むそれを発見していた。
それだけではない。鳥が木の実をついばみながら、湖の周りを飛ぶと……滝の水音と共鳴するように華やかな和音が生まれる。
「この辺りは、塩湖かな」
サイラスは局所的に薄く水が張っている部分を見つける。
他と独立しているため、周囲の植物を枯らすことはない。それでいて、水面に滴る湧き水や時折落ちる木の実が小さなリズムを作って音楽に興を添えている。
「この畔が、色んな環境の境目にある感じかなー」
湖を中心に多様な自然の交差点になっている。そこを回遊する鳥達は、日常からこの彩り豊かな眺めに触れているのだ。
ルーンスは歩みながら、それに魅了される思いで。
(にいさまにも見せたいな)
そんな心と共に、鳥にも目を向ける。
鳥達はその中で囀り、歌っていた。時に水音に合わせ、時に木々の揺らめきに合わせ。場所によって異なる響きと和音に、巧みに鳴き声を重ねてゆく。
それが連なり、複雑で華やかな旋律になっていた。
「この歌が最後の楽曲なんだね」
「うん。凄い――」
ルーンスの言葉にララベルも頷いて聴き入っている。
この奥地でしか聴く事の出来ない、鳥と自然の協奏。冒険の成果として余りあるほどの感動を、そこに抱いていた。
「“楽しいひと時のための弦楽”――間違いないね」
キオルティスも楽譜を見て言う。
「マルコさんはここで鳥達の歌を聴いていたんだ」
鳥達の血脈も、この曲も今へ連綿と繋がっている。
自分達を導いたもの。響く一つ一つの音色。それはマルコの魂の欠片でもあるのかもしれない。キオルティスはそう感じていた。
「演奏しようよ」
最後に、アステルが言ってフルートを奏で始める。
鳥達の歌声に、合わせて旋律を紡ぐと……キオルティスも頷いて竪琴を爪弾く。
和音はメロディに合わせ、足首につけた鈴はリズムに合わせるように。そこにサイラスも楽譜との一致を確かめるよう、竜花琴を鳴らすと――
「ではこちらも」
イズルもバイオリンで主旋律を演奏。確かにそれが楽譜通りに明るく、楽しい曲だと実感していた。
ララベルは聴き惚れながら、思いを呟く。
「道のりを思い返すと……何だか一層色んな感情が湧いてくるね」
「うん。“楽しいひと時のための弦楽”の旋律を探すこの旅も――楽しいひと時だね!」
アステルはそう笑んで応えた。
これで旅が終わりでも、楽しかった思い出は一生消えない。消さない、忘れない。そんな思いだってあるから。
(今までの旅の事、一緒に旅したみんなの事、見た景色、感じた空気……)
その全てを込めて、アステルは協奏を楽しんだ。
「そうですか。確かにあったんですね」
音楽の町エルセント。
帰還した冒険者達を迎えた町長サンドロは……報告を聞いて万感の思いのようだった。
「自然が作った音楽がルーツの一つだなんて、この町らしくていいと思います」
「土地の一部は、クリーパーによって朽ちていたが――」
どうする、とイズルは尋ねる。
それだけが、最後に決めるべき事と思っていた。
ただ、サンドロは迷っているようだから……イズルは自身の思いを伝えた。
「個人的には、あの地は人の手を入れたくない」
自然はまた、あるべき姿になっていくだろう。
だから曲の原風景をあのままに守りたい。“楽しいひと時のための弦楽”――その旋律を聴く度に、そして弾く度に……あの光景をきっと思い出すから、と。
町長もそれに頷いた。
「そうですね。手つかずのままが良いでしょう」
それから皆のメモを改めて眺めて。
「これほど多彩な音が眠っていたなんて、想像以上でした」
「ここからもうひとつ、曲を作ってはどう?」
ルーンスはそう提案する。
「失われた音楽が蘇り、紀行文から愛された音楽を探し求め、復活させる物語。――昔と今を繋ぎ、未来へ伝えていく物語の曲も必要だよ」
きっとそれが新たなルーツとなっていく。
皆もそれには同意するから……町長も頷いていた。それは心を踊らせ、音楽の楽しさを教えてくれる――そんな曲になるに違いないのだから。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準8 / 6〜8人
2022年06月02日 21時18分14秒 公開
相談掲示板
No.1
サイラスだ、よろしくなー 物資なら前回までと同じようにマジカルポケットとか、追加されてるし馬車持ち込むのが良さげかなーと? 砂漠だし昼は日除け夜は防寒具いるかね? 後は植物共感とかが捜索かね?何か持ち込んで目標代わりに突き立てるとかあった方がいいだろけど。場所的に砂漠があるし クリーパーの探知手段としては塗料塗りつけた武器払うとかペンキとかぶち撒ける、かえしのついた矢とかで突き刺すとかかね?体に害があると思うので煙対策もしておきたい所?
エルヴンシューターのエルナです!みなさまよろしくおねがいしますね! 砂漠は昼夜の寒暖の対策が必要そうですね! 探索と索敵を兼ねて超聴覚は持っていこうかなと思います! 後は楽器も前回同様持っていきますね! 砂漠は穴のあいた岩が音楽と関わっているのかなと思っていますが、『花の森』の植物達がどのように音楽と関わってくるのかが分かっていない感じです!
ヒーラーのイズル・M・ヴォルゴール。よろしく。 道中見る感じ、持ってく汎用は超嗅覚と植物共感で確定かな。 荷物に楽器も入れておく。 マジカルポケットは持ってないから、防寒にマント入れたら残り一つで、今は乗せるアイテムは未定。 調査部分だけ簡単に。戦闘については後で書き込む。 花の森に関しては、一日調査で滞在もありかもしれない。あと、楽譜の検証と精査も。 植物共感で丁寧に生態や音を拾ってもいいかもしれない。 砂漠は落ちる砂も気になるな。
・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず馬車とウマなら両方持ってるので必要なら連れていけるぞ。 砂風丘陵の柱は何というか笛みたいな感じだな。風が吹いたら砂と開いてる穴で音が聞こえてきそうだから何かしら法則性とかがあるかもな。 花の森はとりあえず枯れてる地域を探してあとはそちらに進めば最終目的地の蒼の畔までいけそうだな
ヒーラーのルーンス・ラグネルだよ。 よろしくね。 BSが多彩で厄介だし、解呪か聖呪は必要そうかな。 作戦次第だけど回復・支援中心になりそう。 スキルは資料検索は今までと同じように。 残る1つはちょっと検討中。
No.6
とりあえず演奏と看破持ち込もかと?奇襲増えそうだから。 後はカバリングと鋭射とで早めに減らしていければと思う。 一応明日メンテナンスあるから注意かな?と 1時間だけとはなってるけど延長あり得るから相談時間減ると思うし
シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 今回も宜しくね。 さて、と。 今回は音の発見も難しそうな場所も在りつつ、敵も一筋縄ではいかなさそう、と。 >音 やっぱり森がネックだよね。 花が咲く、枝垂れている…うーん…何か浮かびそうで浮かばない。 前回みたいに場所が変わる境界での音の発露も無さそうだし、何か考えないとね。 イズルさんの言うように1日を過ごせばまた、違った音に出会えるかもしれない。 ただPL情報的にはゆっくりしていられないのも事実だし、どうするかな…。 >敵(クリーパー) サイラスさんに賛成。早めに減らした方が良さそうだね。 とりあえず斥候に、ホライゾナルジャンプ辺りを使った方が良いかな。 近くの生物を捕食ってことだし、囮に、って感じ? もしララベルさんも可能なようなら、4体中2体は引き付けておけるかな、と。 勿論、強制ではないけれど。
>花の森 一日滞在は(状況的に)難しいか。 なら、道中や休憩中に花を見たり植物共感を試したりが良さそうだ。 >クリーパー 敵の消えるスキルに関して、目印としてつけたものも消える能力に干渉されるか不明だから、 シーフの人のサーチスキルで、敵がどこにいるか把握できるようにするのが良いと思う。 音もなくなるなら超嗅覚も索敵に有効そうだけど、BSはもらうのは覚悟の上って感じだな。 BS解除用に聖別は持ってく。 回復はルーンスさんが多めに持っていってもらえるみたいだから、俺はバフに寄せようと思ってる。 他、視認出来るように試しに招霊呪怨縛使おうと思ってる。でも、付与できるかわからないので期待しないでもらえれば。
>花の森 エリアを最短経路で抜けようとしても恐らく一日以上は掛かりそうなので、時間による植物の変化は野営時以外は移動しながらになりそうですが、一応見ることはできそうな気がします! 音のなるお花を少し調べてみたのですが、マツヨイグサは開花のときに小さな音をたてる(と言われている)そうです! このお花は日が暮れると共に開花して、翌朝には枯れてしまうとか! なのでもし似たような性質のお花があるなら、野営の時に静かに周りに耳を澄ませてみるのはありかもしれません! >対クリーパーさん やはり嗅覚に頼るのが良さそうでしょうか! 香水をかけてみたりすれば、超嗅覚無しでも相手の位置を捉えられるでしょうか! 皆さんで協力して違う香りの香水をそれぞれのクリーパーさんにつけたりできれば識別も容易になりそうな気がします!
>花の森 そうか、各地点で1日~数日掛かるワケだから、自ずから1日は過ごせるんだ…! エルナさんは指摘、有難う。じゃあ、イズルさんの言うように1日の中で音探し、だね。 >対クリーパー うーん、不自然な空間の歪みとか出ないだろうか。 あとは最初にサイラスさんが言ってくれたように、色付けしたりとか。 香水も含め、出来得る限りの位置確認方法はしておいて損はないだろうし 数うちゃ当たるじゃないけど、どれかはビンゴして欲しいな、とかね。 >スキル とりあえず今のところ、だけど。 捜波・改とホライゾナルジャンプは確定、マジカルポケットもやっぱり便利だし 暫定的に決まり、かな…あと1つ、汎用スキルはどうしようかは考え中だよ。