多文化交友部の奮闘

馬車猪

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シナリオID:2139

オープニング

 椅子に座る。
 ただそれだけの動作が絶望的に違う。
 隣り合う席で同時に座ると残酷なほど違いが強調されて、学園に入るために必死に学んだ平民生徒が実質晒し者にされていた。

●
「礼儀作法か」
 ナキルは眼鏡の位置を調節する。
 それを怒りの仕草と解釈した学園生(女子生徒)が狼狽えるがその所作は美しい。
 実家(貴族家)で長年教育された結果、慌てても所作か崩れないほど仕上がっているのだ。
「ありがとうな、教えてくれて」
 ハーフリングのナキルの身長は低めだが存在感は大きい。
 爽やかに微笑まれ、学園生(女子生徒)は微かに顔を赤くし立ち去った。
「貴族うまれの学園生にも色々いるってことか」
 冒険者やそれ以外の貴族子弟のことを改めて思い出す。
 一般的な貴族生徒と比べれば数は少ないが、平民生徒のことを気遣う貴族生徒も存在はするのだ。
「今から礼儀作法の講義を受けても……間に合わないよな」
 相手に馬鹿にする意図がない場合でも、身についた礼法の練度差により格(立場)の差が確定しかねない。
 既に冒険者として身を立てているから関係ない、とナキルは主張できるが折角正規の学園生として入学したのだ。相手の得意分野で対抗したいという気持ちも確かに存在した。
「ご注文の品です」
 場末の店なら大きな音がしそうな皿が、ほとんど音を立てずにテーブルに置かれる。
 濃いめのスープの中に大きな鶏肉が数個と複数の野菜が転がり、肉と野菜の旨みが香りとなって立ち上る。
 フォークで刺せば手応えは柔らかく、気を付けないと食べ過ぎてしまいそうなほど美味くて食べやすい。
 ナキルは眼鏡を外して気持ちを切り替え、数分の間食事に集中した。
「問題は場所だよな」
 ナキルが立ち上げた【学楽】多文化交友部は学園非公認の部活動だ。
 活動内容は真っ当なので学園から一時的に場所を借りるのはおそらく可能。だが広い場所を借りるのは難しい。
 礼儀作法の座学だけなら1人の講師と狭い部屋だけで十分でも、様々な所作(日常動作からダンスまで)を身につけようとするなら広い場所が必要だ。
「これは試供品(サービス)です」
 皿が空になったタイミングでハーブ茶入りのカップが隣に置かれる。
 悩んでいたナキルが顔を上げると、客(生徒)が少なくなった食堂で顔馴染みの店員が礼儀正しく問いかけてきた。
「場所をお探しですか」
「ああ、ひょっとしてここを借りられるのか? 食事じゃなくて部室……教室か? そんな感じで使わせてもらいたいんだが」
 ナキルは頬の古傷を無意識に撫でる。
 そこそこ流行っている食堂に対して無茶な要求であることは自覚している。
「1週間後の午後ならいけますよ」
 店員は今後1ヶ月のスケジュールを何も見ずに思い出して返答する。
「店長の許可は必要ですけど大丈夫ですよ。ナキルさんはお嬢様のご友人ですから」
「……そうだな」
 男2人が視線を交わし、ほろ苦く笑う。
 なお、ハーブ茶の味は挑戦的過ぎて正直売れないと思った。

●
「学園での依頼を紹介します」
 冒険者ギルドの職員が真顔で言った。
「臨時礼法教室への参加のお誘いです」
 真顔のままで、実際に真面目な内容だ。
 冒険者全員が教養人である必要はない。しかし依頼で貴族や騎士や軍人に出会ったときに舐められない程度の教養や礼儀作法は身につけていて欲しい。
 そう考える人間が冒険者ギルドや協力組織の中には結構な数いて、ナキルがギルドに依頼した『礼儀作法勉強会への参加者募集』に少額ではあるが補助が出ることになった。
「参加条件はパンクリアース学園の聴講生または学園生であること。冒険者になった時点で聴講生資格が与えられますので冒険者であれば誰でも参加可能です」
 場所は学園内にある食堂だ。貸し切りなので少々騒いでも問題ない。
 複数ペアが余裕をもってダンスを踊ることが可能な程度には広く、テーブルマナーを学ぶための料理を作るための設備もある。
「学園から講師は派遣されません」
 冒険者の中で礼儀作法に自信がある者が講師をすることになる。
 食事やダンスだけでなく言葉遣いや日常の所作まで礼儀作法に含まれるため、複数人で分担するのがお勧めですと職員が言う。
「冒険者以外の参加者も集まる見込みです」
 学園でも参加者を募集している。
 聴講生か学園生かも、新一年生であるかどうかも、身分も出身も種族も問わず参加者を募集しているので冒険者が参加者募集に注力しなくても冒険者ではない参加者も数人は集まりそうだ。
「冷やかしや妨害目的の参加者はまずいないと思います」
 武力で活躍した冒険者が立ち上げた部が主催なのだ。そんな部にちょっかいをかけるのはよほどの馬鹿だけである。
「ですから、礼儀作法の心得がほとんどない参加者への対応が必要です」
 完璧な礼法を教える必要はない。
 今の、付け焼き刃にすらなっていない状態を改善するだけでも冒険者以外の参加者は満足するはずだ。
「成功すれば大勢の助けになる依頼です」
 ですから是非参加を検討してみてくださいと、職員は真顔のままで熱心に勧めていた。

解説

●目的  礼儀作法勉強会を成功させること  教師役も生徒役も、両方する方も募集中です ●場所  パンクリアース学園内にある食堂の1つ  午後2時から午後6時まで貸し切りで使用可能です ●冒険者以外の参加者  全員非授恵者です ・オープニングに登場した貴族生徒  男爵令嬢。とても気弱  隣の席の同性の同級生のことを思い、勇気を振り絞って【学楽】多文化交友部に相談しました  礼儀作法はLV4ですが、重度の引っ込み思案なため教育能力は低いです ・冒頭で侮辱された平民生徒  頑張って勉強し、地元の有力商人に頑張って支援されて編入試験を受けて合格し、初めての授業で強烈な洗礼を浴びました  隣の席の貴族生徒に呼び出され(たと本人は受け取り)、びくびくしながら礼儀作法を訪れます ・普通の平民生徒  礼儀作法の噂を聞いて参加しようとします  ヒューマンが4割です  冒険者が積極的に礼儀作法勉強会の宣伝をすると数が増えます ●他  食堂の前の広場も利用可能です  食堂内と違って部外者からの視線があります

マスターより

 リクエストありがとうございます

リプレイ

●
 食堂前の鳥カツサンド売り場の隣で、小柄な生徒が質問攻めにあっていた。
「おいおい、具体的な中身も知らずに参加しようなんて不用心だぜ」
 自身より体格の良い相手や上級生に囲まれてもナキルは平然としている。
 身体能力や戦闘能力だけでなく度胸も精神力も桁が違うのだ。
「シルヴィア副生徒会長も講師役をやるからまともな活動なんだけどな」
 にやりと笑う。
 生徒達がはっとして周囲を見渡す。
「此度の勉強会で、微力ながら皆様のお力添えをさせて頂きたいと存じます」
 侯爵令嬢で副生徒会長で精鋭揃いの冒険者の中でもトップ層に位置する授恵者でもある。
 とても目立つ。
「君達もどうかな?」
 シルヴィア・A・カペルが威圧させないよう気をつけ穏やかに微笑むと、生徒達は勝手に威圧されてしまう。
(仕方がねぇよな)
 シルヴィアは悪くない。勝手に威圧された生徒も悪くない。
「礼儀作法が身につけられたら受け流すのも楽そうだろ。午後からそこでやるから興味あったら来ないか? 必要そうなやつには声を掛けてやってくれな」
 そう言われて戸惑う生徒の横をミア=リゼルが通り過ぎる。
 シルヴィアよりは親しみ易いが服装も化粧も隙がない。
 歩きながらにこりと微笑み、その間動き続けているのに頭の上に載せた参考書は揺れもしない。
 背筋を伸ばし体勢を維持したまま、しずしずと食堂の前を横切り綺麗に止まる。
「頭のてっぺんから糸でつられているように、背筋を伸ばして本を落とさないように歩くんです。腹筋を引き上げることを意識することで均整のとれた体づくりにも役立ちますよ」
 勉強会に来ればこれを教えてもらえる。
 昼食の時間が終わるまでに、20人ほど参加希望者が増えた。

●
 食堂は綺麗に片付けられて、机と椅子が会食用の配置に変更されている。
 予め並べられたカトラリーとその並べ方は美しく、慣れていない生徒は勉強会が始まる前から緊張していた。
(わぁ! 今日は色々と教われるね。有り難いし楽しみだよ!)
 エルシー・サリバンは恐れず席につく。
 講師達と比べると少し粗はあるがこの場でそれに気付けるのは高度な教育を受けた(礼儀作法5レベル相当以上な)者達だけだ。
 礼儀作法の演技をしても隠せないエルシー本人の資質(明るさ)が、下町出身の平民生徒を勇気づけて逃亡する選択肢を消した。
 ミアが講師用の席に座る。
 卒業前の生徒としては十分すぎるほど美しい動作だ。
(少し前までは教わる側だったのですが、せんせいに教わったことを思い出しました……ので!)
 指先から髪の先まで見事に整っている。
「今回はせんせい直伝のテクニックをみなさんにもお伝えしたいと思いますっ。よろしくお願いしますね」
 具体的にどうやって身につけたかは思い出せないのに、身につけていく過程が体と心の奥に確かにある。
「最初はお茶の飲み方から始めてみましょう!」
 会食よりも確実に遭遇する頻度が高いイベントだ。ミアに仕込んだ人間の力量がこれだけでも想像できる。
「茶器の持ち方もこのように……そう。結構筋力を使うんですよね……!」
 ミアは自ら見本を見せるのと生徒の動きの確認と評価を並行して行える。
「まずは食器類を保持することを意識して」
 できる者を褒め、できない者には教えて急かさない。
「自然にそれができるようになったら、指先まで美しく見えるように動きを意識してみましょう」
 とても華やかで、しかし教える側も教わる側も大変な内容だった。
「ミア先生」
 エルシーは同じ日に編入試験に合格したミアに対して礼を尽くしている。
 心構えから違うせいか、あるいは既に身につけた能力や技能との総合か、ミアから学ぶ速度はかなり早い。
「椅子の用意か……らですか」
 ゲルトは言葉遣いも姿勢も所作も今日全て身につけて帰るつもりだが、情報量が予想よりも多く苦戦している。
 この食堂(臨時教室)にある椅子は種類が多い。
 小はハーフリング用から大はリザードマン用まで。
 中サイズのヒューマン用の椅子が一番多い。
「参ったな」
 ハーフビーストの中で特に大柄なパヴェル・A・サムルガチェフが、ヒューマン用の椅子に恐る恐る座る。
 不安定だが無事だ。
 壊れるかもという心配が消えて安堵するが座り心地は良くない。
「椅子を交換……」
「はいただいま!」
「オレも」
 ゲルトとパヴェルは勉強会で苦労することで将来の失敗を減らしていた。
 食事が運ばれてくる。
 時間が中途半端なので量は少ないが種類は多い。
(小さい……)
 虐めではなく単純にパヴェルが大きいだけだ。
 普段使わない食器は手のサイズより一回り小さく、小さいのはナイフとフォークもなので動かすのも大変だ。
 適度が脂がのった鶏肉をなんとか切り離し、1度刺すのに失敗したフォークで口元へ運ぶ。
「んふううっ」
 変な(感嘆の)声が出た。
 脂と塩の単純な味を予想していたのに、肉の旨味だけでなく野菜や果物の旨味も加わり舌と鼻を楽しませてくれる。
「ん、まぁ……」
 顔を赤らめてしまい、後で注意されていた。
「本で予習してきた、つもりですが」
 ゲルトは徹底して集中することで五感を酷使する。
 所作だけでは足りず、同席者に対する意識や視線の向け方など覚えることが有り過ぎるのだ。
「最初の頃は緊張で食べた気がしないと聞くね」
 シルヴィアの言葉を聞いて、その通りだと思ってしまった。

●
 次の内容を教えるヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンは気合が入っている。
 貴族でなくヒューマンでもないナキルが勉強会開催に漕ぎ着けるのにどれだけ苦労したかなど、少し考えるだけで分かる。
(不肖このヴァレリア、切磋琢磨した友の期待に応えるべく最善をつくしましょう)
 食事の作法は完璧でも生徒達の印象にはそれほど残らない。
 今のヴァレリアは貴族令嬢というより文官の雰囲気なのだ。
「講義の前に雑談をしましょう」
 普段はクールな彼女が微笑むと柔らかな印象になるが、知的で理詰めの雰囲気はそのままだ。
「みなさんは学園卒業後は社会の上層に関わることになります」
 店員に皿を出して貰って生徒達に見せる。
「今のみなさんが知っている値段は小売価格といって……」
 身近な物の話題からはじめて流通と生産へ話題を広げる。
 受験勉強しかしてこなかった者を中心に、理解が追いつかず知恵熱を出している者もいた。
「何であれ買い物という概念には商会の存在がつきもの。その商会が劣悪な質を押し付けながら暴利を貪るような存在だったなら? それを許してしまう、彼らを付け上がらせる事になれば後の禍根にもなります」
 皿を裏返す。
 贋作注意と彫り込まれている。
「そうしたトラブルを未然に防ぐ為にも、真贋の目利きは必要になってくる時が来るはずです」
 雑談の形で始まった話は、礼儀作法に隣接した分野の講義であった。
 講義は講師を変えて続く。
「講師役を務める5年のジュスト・ヴェルジーだ。王党派貴族として、個人としても皆の入学を歓迎するよ」
 ジュスト・ヴェルジーが新しい講師として登場する。
 話し方はほどよく砕けているが発音も言葉選びも座る姿勢も貴族子弟にしか見えない。
 実際にヴェルジー伯爵家の次男だ。
 威圧感が薄いのを単純に喜べる人間はほとんどいない。冒険者以外の生徒の緊張感が急激に増していく。
「そうだね。絶対に身につけておくべきことから話していこう」
 相手の思考と精神状態を予測して、注目が最も集まるタイミングで話し出す。
「基本、身分が下の者は上の者から話しかけられるのを待つ。ただし無視をするわけではなく、黙って脇に控え、頭を低くするなどして礼を示す」
 具体的なやり方は別の機会に覚えてもいいし後の講師からも学んでも良いが、これだけは必ず意識しておくようにと飄々とした口調でも分かる強さで言う。
「軽々しく家名を呼んではいけない。手や肩に触れるのは勿論、不躾な視線を送るだけでも不敬にあたる。異性との距離ややり取りは慎重に。発音は丁寧に。早口は禁物。地声が高い場合は幾分か落ち着いた声を意識して……」
 覚えるべきことが非常に多い。
 ジュスト自身、血肉の一部になっているものを言語だけで説明したときの長さに驚いたほどだ。
 長く話しても基礎中の基礎でしかない。
 礼儀作法の背景にある王国貴族の価値観について説明することで覚え易くはしているが、講義の時間も生徒の脳酷使具合も増していく。
「あれこれ話すと失言も増えるからね。沈黙は金と言うし、困ったら黙るというのも手だ」
 少し考える時間を与える。
「貴族はわざと意地の悪い言葉で相手の失言を誘ったり揚げ足をとったりすることが多い。悔しいかもしれないが、その場は黙って耐えた方が良いこともある」
 若い生徒ほど、ためになる講義だった。
 飲み物が配られる。
 濃厚な甘味が脳の疲れを癒やしてくれるが講義はまだ中盤だ。
「おしゃれは老若男女問わず武装です」
 ミアは目に光が戻った女子生徒にうなずき、分かっていない男子生徒に注意する。
「武装せずに戦場(学園生活)に来たひとがどうなるか分かりますよね? だから男性も身だしなみには要注意。このメイク術を伝授しましょう……」
 生徒のやる気が盛り上がり、静かにミアの講義に聴き入った。
「少し休憩しては?」
 エルシーは酷い顔色の平民生徒に薬草茶を勧める。
 蚊の鳴くような声でありがとうと言われ、自らの学びを後回しにして面倒を見ることに決めた。
「うん、そうなのですか」
 普段は活力に満ちたエルシーが上品さを装うと頼り甲斐のある年上少女になる。
 勉強を頑張り続けてなんとか今年編入試験に合格した少女の泣き言を引き出し受け止める。
「今マナーに関しての知識が無くても、まだ無い、だけです。充分に覚えられる頭脳があるからこそ入学ができたので卑下する必要は無いですよ」
 にこりと微笑み力づける。
「できるようになりますわ、一緒に覚えましょうね」
 分かりましたお姉様、という予想外の言葉と態度が返ってきてエルシーは困惑した。
(そういうことか)
 ゲルトはまた1つ気付きを得た。
 聴講生だった頃に図書館に通って得た知識と学園生活の間にある齟齬(食い違い)が、今日の講義で言語化できた気がする。
(学問と文化と慣習は一部ずつ重なりあっている訳だ。内容に幅と奥行きがありすぎて本にまとめようとしても労力が非現実的だから今の形に……平民やそれ以下にとっては落とし穴だな)
 犯罪都市の要素が濃い故郷では発想も困難だ。
(これだけでも入学した価値がある。これだけで満足する気もないけどな)
 心身共に優れたゲルトでも学ぶ速度と時間に限りはある。
 パーティに出る機会は少ないと判断し、ダンスの講義には参加しないつもりだった。

●
 店員が慣れた動きで椅子とテーブルの配置を換える。
 ダンスホールと呼べるほどの優雅さはないが、窮屈さを感じず練習ができる空間ができあがる。
「礼儀作法とは合言葉のようなものです。公の場での共通ルールが定まっていれば、異なる国や文化を持つ人々とも円滑に交流する事ができます。場合によっては身を護る鎧にもなりましょう」
 その精華が会話であり社交としてのダンスである。
「大切なのは周囲を思いやる心。ダンスにおいては、相手の魅力を引き出そうとする姿勢」
 理論も背景も慣習も全て理解した上でシルヴィアはそう断言する。
 そして目で誘う(指名する)。
「お、俺かい?」
 呼ばれたパヴェルは動揺する。
 薄緑の差し色がついた半袖風の燕尾服は踊り手として鍛えられた肉体に似合い、胸元につけたブローチとその宝石とのバランスも見事だ。
 姿勢には文句のつけようがなく、舞踏の経験と才能は十分以上にある。
 だが社交ダンスに関しては初心者未満だった。
「ダンスの基本は単純だ(奥深い)よ。舞踏会では気を付けることも多いけどね」
 シルヴィアは口調は冗談めかしているが本心かつ事実にしか聞こえない。
 パヴェルは正直断りたい。
 が、背中に子供(生徒達)の視線を感じて覚悟を決めた。
 入場のためのやりとり、目上・対等・目下に対する対応にちょっとした意地悪への対処法。
 挨拶と紹介の仕方に踊りの申込みやエスコートする際の言葉やお辞儀。他にも覚えることは多数ある。
 名門貴族の子女であるシルヴィアにとっては常識でも、これまで社交界に縁のなかった者にとっては難易度が非常に高い。
「いいね」
「はは、ゆっくり頼むぜ」
 シルヴィアは言うまでもなく、体格に優れ高い踊りの素養を持つパヴェルにとっては踊るだけなら簡単だ。
(これに意地の悪いやりとりがあるんだろ? 学園生ってのはすごいな)
 恐る恐るだったのは最初だけで、一曲踊り終える頃にはリードも可能になっていた。
 シルヴィアは一度に踊るペア数を制限しつつできる限り多くの面倒を見る。
「背筋はすっと伸ばして、手の位置は此処に……うん、素敵だよ」
 踊りの男性パートも見事にこなす。
「大切なのは微笑みだ。この世にドレスが似合わない女の子はいないよ。自信を持って」
 男役として完璧すぎて、気弱な平民女子生徒を魅了してしまっている。
 悪い男に引っかかるよりはいいかと考え、シルヴィアは積極的に夢からさまそうとはしない。
「この勉強会に君を呼ぶよう私に言ったのは彼女だ」
 はらはらと見守っている男爵令嬢に目をやると、令嬢は瞬時に猫を被って目礼し、夢見心地だった平民女子生徒はびくりと体を震わせる。勉強会が始まる前と比べて、怯えの度合いは改善されていた。

●
(なるほどな……色々とひとつひとつにちゃんと意味があるのか)
 ナキルは伊達眼鏡を1度外してタオルで汗を拭う。
 体力にも持久力にも自信はあるが、膨大な情報を記憶するだけでなくつまずきかかった学生からどこが気になったか聞き取ったりアンケートに答えて貰ったりもしていたので消耗も深刻だ。
「飲み物はこっちだぜ。椅子はこれを使ってくれ」
 その上で講師の助手もしている。
 もちろん講義もしっかり聞いているので疲労はさらに増える。
 その上、わずかにできた空き時間を使って出力する(紙に書く)。
 作業は大変でも理解を深める効果が間違いなくあった。
「知らない事を教わるのはとても楽しかったですわ、ありがとうございました」
 エルシーが講義の終わりの挨拶を行っている。
 生徒達も彼女を見習いそれぞれに礼をしている。
(体がギシギシ言ってる気がするよ……形として覚えても身に付くのは当分先みたいだし)
 礼儀作法と同時にダンスもみっちり練習したエルシーは少しお疲れだ。
(知っていたつもりのコトや、できてはいたけど理解していなかったコトも、それ以外も大量だぜ)
 分厚いレポートになってしまった紙の束をまとめながら、ナキルは決意を新たにする。
「こういう所でちょっとずつ成長して。またアイツを驚かせてやりたいしな」
 疲労で頭が重くても向上心は強くなるばかりだ。
 ナキルは冒険者以外の生徒が去った後、勉強会の会場を食堂に戻すために積極的に店員に協力するのだった。

マスターコメント

 お疲れ様でした。
ショートシナリオR

ショートシナリオR易しい 報酬:少ない8 / 4〜8人

2022年05月23日 02時08分38秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ナキル

    「パンクリアース学園、2年生のナキルだ。よろしくなっ 部員以外の参加者生徒も居るし……新一年生で「自信がない」って連中は、うまく呼び込んであげると集まって勉強ができそうだな。 講師役ができるヴァーレも参加ありがとうな、すげぇ助かるぜ。 一年生間なら、同じクラスで礼儀作法に不安なやつ同士、声を掛けあって呼んで貰ったり 教師陣からある程度ピックアップしてもらうのも一手か。 折角の機会だし、「勉強できるタイミング」で参加したほうが絶対いいもんな! っと、実際の勉強会の内容も考えねェっと…っていうか、これは講師役を募集するしかないか(むむ)」

  2. エルシー・サリバン

    皆さまこんにちは、エルシー・サリバンだよ。 ナキルさん、お勉強会の企画・準備とありがとうね! 私は生徒の立場で参加させて頂くよ。 皆さまの様子も拝見させて頂いて、良い所作は取り入れて行くので宜しくお願いします。

  3. ジュスト・V・ケレス

    5年のジュストだ。 礼儀作法の講師役が必要と聞いて参加させて貰ったよ。 俺自身時に窘められることもある身だけれど、微力でも手伝いが出来たらと思ってね。 男女で違う作法もあるし、範囲が広いから他の講師役の人と教える内容を分担できると嬉しいよ。 それでは皆よろしく頼む。

  4. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。ナキルはお誘いありがとう。 皆、今回はよろしくね。 教師役として参加させて貰う予定。教える事にはあまり慣れていないけれど、出来る限り尽力するつもりだよ。 今の所、ダンスの指導を考えている。相談次第で変更も可能だ。

  5. ミア=リゼル

    2年生のミア=リゼルです!お邪魔しますね(スソソ 本来は礼儀作法を教わる立場だったのですが、いろいろあってスキルレベルが上がりまして…なので不肖私、教師役をやらせていただきます。 そうしましたら私は…テーブルマナーや綺麗な歩き方など、どうかなと

  6. ジュスト・V・ケレス

    シルヴィア嬢がダンス、ミア嬢がテーブルマナーやウォーキングの予定、と。 それなら俺は話し方、会話や応対を中心にしようかな。 単純な言葉遣いだけじゃなく、発音や話す速度、言葉選び諸々も含めて。

  7. ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーン

    キャスター、ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンと申します。 お見知り置きを。 講師役といいましても、恥ずかしながら私は礼儀作法1なのです……(目線泳ぎ( 極めた部分と言えば商業知識と交渉くらいであって、教えられそうなものといっても手細工の類ともなれば、学園生活に加え貴族社会において、何のために使うんだ?という事にも(

  8. ゲルト

    2年生のゲルトだ、ナキルは誘ってくれてありがとな。 生徒役で参加するぞ。

  9. ナキル

    「先生役の面子が頼もしい…! 来てくれてありがとうな。これはしっかり勉強できそうだ…! これはあれだな…内容によっては次回も考えるか(ふむ) って、先の話はさておき! 聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥って言うのも、なんかどっかで聞いたしな 異種族新入生にも、貴族や豪商の新入生も、声掛けてなるべく多く~ってしたい気もするけど 先生役が大変になるかっ…!?」

  10. ジュスト・V・ケレス

    ヴァレリア嬢、今回スキルレベルはさほど拘らなくても良いのではないかな? 今回教える対象が礼儀作法の心得がほぼない庶民という状況だから、貴族であるという出自でも補正は少しかかると思う。スキルじゃなくて自身のレベルによる補正もあるし、何より重要なのは行動(プレ)だから。 商業知識は商人の子達に教える際にわかり易い喩えを出すのに活かせるし、王国での商いと同盟や他地域の商いは勝手が違うところもあるから礼儀作法の修得は王国内での商いに如何に有用かをアピールすれば彼らのモチベーションも上がって成果が出るのでは、なんて思ったり。 俺の教える部分に関しては多人数でも問題ないけど、テーブルマナーやダンスに関しては食堂内の広さやテーブルの数など考慮して一度に受けられる数はある程度制限する必要はあるかもね。 ただ宣伝してなるべく多くの受講者を集めること自体は異存ないよ。

  11. シルヴィア・A・カペル

    ジュストが言ってくれたようにスキルレベルについては気にしなくて良いと思う。自分が教えたい分野を教える、或いは学びたい分野を学ぶ、で。折角の機会だし楽しもう。 >宣伝 受講者を集める事は私も賛成だ。ダンス講習をしていない時間は宣伝に回ろう。 >担当について ダンスに付随して、舞踏会のマナーについても要点を抑えて伝えられればと思っているよ。 人数が多い場合は一度に踊るペアの数を制限して、踊る様子を見学してもらうというのも手かな。ペアは毎回変えて出来るだけ全員が実践訓練を出来るようにしたい。

  12. ミア=リゼル

    そうですね、テーブルの数にも限りがありますし…歩くのにもスペースを取りますから。うまく調整したいところです。 宣伝…食堂前の広場を使うこともできるのですよね。テーブルマナーは食堂内のスペースを借りるとして…いわゆるカーテシー関連は外でやることで宣伝になるでしょうか…!

  13. パヴェル・A・サムルガチェフ

    講聴生のパヴェルだ。 礼儀作法が学びたいもんでよぉ、生徒としてさせてもらうぜ。 テーブルの作法と貴族の踊りが気になっている所。だな。 >スキルレベル スキルレベルの影響は気にしなくてもいいんじゃねぇかなぁ。 お前さんの行動が嚙み合っていれば、何かを競うわけでもねぇしな。

  14. ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーン

    ヴェルジー様、カペル様、サムルガチェフ様、助言及び励ましの言葉有難うございます。 お目汚し、失礼致しました。 では改めまして、皆様の意見ややりたい事を参考にしたものですと、私からは趣味・嗜好に関して教える事に全力を注ぎたいと思います。 作法に関してはヴェルジー様とカペル様に一任して、私の役回りとしては緊張を解す事も兼ねる形に。 といっても趣味の分野ですとドゥジン……はハードルが高いでしょうから、手細工から始めたく。

  15. ナキル

    「いやぁ、ほんと助かるぜ…サンky…いや、ここはこうか、ありがとうございます。か! 最初に新一年生たちに、「こんなことやるぜ」って告知しながら あとはオレも勉強させて貰うんだけど、「記憶力」と「一点集中」とかで みんなの講義の内容とか様子をなにかしら書き留めとくのも 持ち帰っての勉強にも使えたりするかな。 いや、オレも実戦も含めて勉強必要なんだけどっ…あぁーーー身体が二つ欲しくなるやつっ!」

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0