【学騒】襲来! あなたの黒歴史。

蓮華・水無月

コメント 0

シナリオID:2043

オープニング

●ドゥジンの筆流出事件
「まさか、廃校舎に隠し部屋があるなんて……これ、大発見じゃね?」
「見ろよ、宝箱があるぜ! きっとお宝だ!」
 ここはパンクリアース学園・廃校舎。入寮したばかりの新入生達は寮内の仲良しメンバーを集め、廃校舎を探検していた。そしてなんと、老朽化して脆くなった壁の裏に隠し部屋を見つけてしまったのだ。新入生たちがわくわくしながら大きな木箱を開けると、中には古めかしいデザインの筆がたくさん入っていた。

「なんだ、筆かよ。伝説の剣とか魔導書とかだったら面白かったのに。それか、空飛ぶ絨毯とかさ」
「筆か……ぼく作文苦手だからなあ。ぼくはいいや。レナード君、いる?」
「ま、一本記念に貰っとくか。でもまだまだあるぜ。これ、どうする?」
「戻すのももったいないし、せっかくの戦利品よ。寮で友達とか先輩に配ればいいんじゃない?」
「そうだな。じゃあ、全部持って行こう」

 そんなわけで、廃校舎から発見された筆たちは学園にばらまかれることになった。だが、これらの筆は実はれっきとした神具であった。名を『ドゥジンの筆』。画才や文才を持つ者が扱えば描かれた物語(ゆめ)を一日限りだが現実にできるという、世界を塗り替える力を持つ伝説のマジックアイテムだったのだ……!


●
 さてその日、パンクリアース学園の某所にあるそこに冒険者達が足を踏み入れることになったのは、言ってしまえば必然の結果だった。学園を騒がせ始めた『ドゥジンの筆』、それによって綴られた書物がある、との話が舞い込んだからだ。
 それをもたらしたのが果たして誰だったのか、それは些細な問題だ。なにしろ今この学園には数多の筆が流出し、数多の騒乱が沸き起こっている。
 ゆえに、とにかく騒動があるならば行かねばならぬ、細かいことは行ってから考えて欲しい。そんなノリで冒険者達は、さしたる情報もなくそこに足を踏み入れることに――あるいは踏み入れさせられる事になって。

 ソレと、向き合う事になる。


●
 きっと、1度は想像してみた事がある人も居るのではないだろうか。
 自分は実は特別な血筋を引いているのだとか、あるいは自分の中には秘められし特別な力が眠っているのだとか。誰も見ていない所で特別なポーズを決めてみたり、秘密の呪文をそっと唱えてみたりした事が。
 もちろんと言うべきか、そこに足を踏み入れた冒険者の1人であるリーヴ・ロランもそんな、いつか自分は特別な使命に目覚めるのだとか、右手に誰も知らない特別な力が宿っているとか、そういう夢想に明け暮れた事があった。何なら人目を盗んでこっそり決めポーズを考えたり、それを練習したりなんかもしたことがある。
 ――それを、こんな風に後悔する日がやってくるなんて、思いもしなかった。

「うっそぉ」

 そこでリーヴが目にしたのは、つまり言ってしまえばソレである。すなわち、自分自身が幼い頃に、または思春期の頃に夢を見、妄想に浸った黒歴史の自分の姿。
 あぁ……あの決めポーズ、めちゃくちゃ覚えがある。クルっと回ってあごの下に人差し指を当てて流し目、昔はものすごくクールでかっこいいと思ったんだった。
 ――が、今見ると恥ずかしいどころの騒ぎではない。張り倒したい。むしろ今すぐ死にたい、俺が。

「うぁぁぁぁ……」

 自分自身(過去の妄想の産物)の姿を目の当たりにして、ゆえにリーヴはがっくりと崩れ落ちた。彼にとって精神的ダメージが大きかったようだ、ちょっと目が虚ろ。


 ――つまりは、そういう事である。

解説

◎目的 自分の黒歴史と戦う。 ◎もうちょっと詳しく 黒歴史と一口に言っても、過去の恥ずかしい思い出だとか、中二病なあれこれだとか、色々あるかと思います。 そんな黒歴史が、あなたの目の前に現れます。 右目に眼帯をしていたり、意味深に包帯を左手に巻いていたり、昔書いた恥ずかしいポエムを朗読されたり、それは様々な姿で現れることでしょう。 そんな黒歴史がいま、ドゥジンの筆の力で皆さんの目の前に現れます。 それと戦い、打ち勝ち、原因となっている書物を破壊してください。 なお、戦う、と言っても物理で戦うだけが解決方法ではありません。 何らかの方法で過去の自分を乗り越えられれば、その方法は(倫理的に問題なければ)問いません。 過去の自分との対決、何となくかっこいい響きですね。 そんな感じでよろしくお願い致します。 ◎さらに細かく 本シナリオは、基本的には自分との対決という事で、個別に描写させて頂きます。 どなたかとご一緒の描写をご希望になる場合は、大変お手数ですがその旨を明記しておいて頂けますと幸いです。 ◎登場NPC リーヴ・ロラン……  22歳。  黒色の髪と青の瞳の青年で、冒険者稼業3年目。  大剣使いで、皆さまとはこの依頼で初めて顔を合わせました。  本シナリオ内では心に深い傷を負っているので、特に何もせずほっといて大丈夫です、むしろほっとかれた方が本人も喜ぶかもしれません。

マスターより

初めまして、または大変お久しぶりです、蓮華・水無月と申します。 長らくお休みを頂いておりましたが、こんなシナリオで久々にお邪魔させて頂きます。 黒歴史、人によっては大変恐ろしかったり、楽しかったり、色々な思い出があったりするのではないでしょうか。 過去の恥ずかしい自分のことは、ふと思い出すと居た堪れなくなって膝を抱えたりしますよね。 というか蓮華はする時があります、はい…… そんなこんなのお困りごと(?)、お気が向かれましたらどうぞお気軽に、お助け頂けますようよろしくお願い致します。

リプレイ

 廃教室には何もなかった。何もない――否、妙に薄っぺらい本の並んだ棚だけがある。
 冒険者達の視線が、棚へ吸い寄せられた。そうして――全てが暗転する。

●
 それは正義の味方だった。色々と突っ込み所はあれど――謎模様びっしりの凄い(チート)アイテムな眼帯や意味深(思わせぶり)に額に巻いたバンダナ、ゴテ盛りの鎖、etc(などなど)――正義の味方だ。
 それに、サイラスは真顔になった。人の趣味にとやかく言うつもりはない、それが自分じゃなければ。
 あン? という表情のサイラス(自分)を見て、正義の味方(サイラス)は”やれやれ”と首を振る。

「この眼帯はあんたの心を見抜く」
(あったなー、そんな設定(ネタ))

 そう語った正義の味方(サイラス)に、サイラスは眩暈を覚えた。その間も、自分には重大な使命があるだの、こっちのアイテムはああだ、そっちのアイテムはこうだ、と説明は続き。
 よし、とサイラス(本物)は心に決める。

「死ね!」
「おっと!」

 周囲の安否なぞ無視で、むしろ目の前の正義の味方(過去の黒歴史)諸共吹っ飛ばそうとサイラスがぶん回した大蛇身に、だが正義の味方(過去の黒歴史)は揺らがない。キィン! 何か硬質な硬い音が、大蛇身を弾く。
 「おお怖い」と肩を竦めた正義の味方(過去の黒歴史)が翳しているのは、左手の中指にはめた指輪。そういやあの指輪は、

「これはどんな攻撃も弾く不可視の盾なんだ」
「あったなそんな設定(ネタ)も!!」

 ぐぁぁぁぁ、と吠えるサイラスである。誰だそんなの考えたの! おれだよ!
 これはダメだ、サイラスはそう悟り正義の味方(過去の黒歴史)を睨み据えた。これはダメだ。何がダメって、プライドとかメンタルとか外聞とか、何もかもダメだ。

(兎に角壊す)
「……って思ってるだろうけど出来るかな?」
「えぇい黙れ喋るな動くな!!」

 過去に考え(妄想し)たチート能力(すんごいチカラ)を容赦なく見せられる、居た堪れなさにサイラスは吠えながら全能力、全スキルを傾け正義の味方(過去の黒歴史)と筆(諸悪の根源)を地上から消し去ることを決意する。何としても壊す、最後のひとかけらまで壊し尽くす……!
 若かりし過去(黒歴史)が生き恥(黒歴史)を現在進行形で生産していくのを、他人事ならゲラゲラ笑って見ていられるが、自分事なら話は別だ。そんなサイラスの気配が変わった事に、気付いた正義の味方(過去の黒歴史)が腰に巻いた鎖をじゃらり、外した。
 途端に思い出した設定に、サイラスの頬が引きつり、

「良いよ、本気で相手してあげよう。普段はこの鎖で力を封印してるんだが」
「良いからもう喋るな!!!」

 滔々とそれを語る正義の味方(過去の黒歴史)をいかに最短で攻略する(ぶちのめす)か、ゆえにサイラスは真剣に深刻に考えを巡らせ。ヒーロー系黒歴史VS現在進行形厨二病の、仁義なき戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。


●
 ベルク・オスマットは悶えていた。もっと言えば、発狂していた。

「!!!!!!???? くぁzwsぇdcrfvtgbyhぬjみこl!!!!!???」
「あはは、敵かい? 敵かい? 我ら夢駆路(ムクロ)商会の敵かい? 家を狙うんなら殺らなきゃね! ニンニン♪」

 そんなベルクの前に現れたのは、黒一色のくノ一装束でやたらテンション高くこちらを見てくる、若かりし頃の自分。――ゴールディで奉公奴隷兼暗部要員として所属していた、ヤの付く自由業な裏の顔も持つ夢駆路(ムクロ)商会での裏仕事姿である。
 表向きは総合商会とはいえ、何しろ裏はソレなので、敵対組織や商会にカチコミや暗殺、窃盗に入る事も少なくはなかった。しかもそれなりに長く勤めていたものだから、そこそこの年数くノ一装束(アレ)をやっていた訳で――年を重ねて落ち着いた今となっては、完全なる黒歴史。
 そんな過去の羞恥事案が目の前で再現されれば、発狂もしようというものだ。となれば、

「しぃいねぇええええ(死ね)!!!」

 目の前の羞恥事案を誰かに見られる前に葬り去るべく、真剣(マジ)で殺しにかかったのもまた、当然のことだった。持てる力のすべてを爪と刀に注ぎ込み、躊躇なく躍りかかったベルクをくノ一(ベルク)は「あはは♪」と高笑いしながらひらりと避ける。
 ギリィッ! 奥歯を砕かんばかりに噛み締め、続けざまに地を蹴り飛び上がった。

「殺す、妾の過去を殺す! そしてこの空間を作ったやつも闇討ちしてくれる!!」
「ニンニン♪ 弱い弱い♪」

 そんなベルクを嘲りながら、くノ一(ベルク)がまたひらりと飛ぶ。同時に懐から何かを鋭く投げつけたのを、難なく叩き落しながら死角へ回り込もうと疾走したが、その動きも読まれていて。
 おのれ、と舌打ちした。羞恥と怒りをそのままに、戦いの冷静さを取り戻せ、と自身に言い聞かせる。
 大事なのは確実にアレを仕留める事だ。万に一つも仕損じてはならない、仕損じて誰かに見られでもしたら死ぬ、ベルクが。

「おのれぇぇぇぇ!!」

 その光景を想像し、全身を震わせたベルクの咆哮にくノ一(ベルク)が虚を突かれたようにほんの一瞬、足を止めた。僅かな一瞬、だが必殺の気配に研ぎ澄まされたベルクには十分な隙。
 それを見逃さず、ベルクはくノ一(ベルク)に肉薄し、その胸に刃を突き立てた。カハッ、息を吐く音がして、だが次の瞬間には何もかもが霧散する。

「ふん。所詮は偽物じゃな」

 そうして何も居なくなった空間に、ベルクはそう嘯き――崩れ落ちた。


●
「ここにも『ドゥジンの筆』で綴られた書物があるのー……? って」

 突然の暗闇に、アルマ・ヴァレンタインは言葉を止めた。しかも――他の人の気配を感じない?
 うーん、と首を傾げたアルマは、だがすぐに何かに気付いた。何か――違う、誰か?

(ちょっとよく見えないけどー……誰かいる!?)

 ぴく、と警戒したのは当然だった。耳を澄ませば聞こえる何かの水音と、何とも形容し難い匂い。
 ソレを何故か見たくないと感じる。何故だか自分でも解らない、が、ソレを探らない訳にもいかない。
 ゆえに、口中で”お前は誰だ 陰に隠れた その姿見せろ~♪”と唄いながら謎の水音へと近付いた、アルマはだがすぐ「うぇ」と呟き足を止めた。何しろそこには、

”幸せな時も困難な時も、病める時も健やかなる時も、ゲテモノを愛し、慈しみ、食し続けることを誓います”

 そんなメッセージカードのついたシルバーナイフを携えながら、ジャ〇アンシチューばりのチョコ……レート? 鍋を鼻歌まじりで楽し気にぐ~るぐるかき混ぜるアルマ(自分)が居たのだ。それもわりと最近、具体的には1年と2か月ばかり前に見覚えのある。
 たっぷり数十秒その光景を見つめてから、アルマは「うわあ」と天を仰いだ。

(なんだか凄いことになっちゃったぞー……)

 なるほどコレは見たくなかった、と自分の第六感に感心したって事態は好転しない。認めたくない若さゆえの過ちに、向き合わねばならないのだろう。
 うぅ、と呻く。何しろあの頃(1年と2か月ばかり前)は一生ゲテモノ食を探求しながら面白おかしく過ごして、彼氏と付き合ったりなんて別世界の出来事だと思ってたのだ。
 まあここは――

「えい!」
「あ!?」

 ずかずか近寄ってそのチョコ……レート鍋を奪い返したアルマは、せいっ! と中身をしっかり美味しく完食した。完食して自分(黒歴史)を見下ろし。

「世界が変わっても、わたしはわたし。ってことだよ?」

 見せびらかすように示したのは《四つ葉のペアリング》。それを愛おしそうに見つめニッコリした、アルマに黒歴史(アルマ)が怯えた表情になる。
 ずい、と指輪を出せば、ずさ、と後退った。ずい、ずさ、ずい、ずさ、ずい……

「浄化をォォォ!」
「いやァァァ!」

 ベシ! と指輪を叩きつけた途端、黒歴史(アルマ)は悲鳴を上げて掻き消える。よし! と大きくガッツポーズ。

「いやあ……ボクの黒歴史は強敵でしたね」

 ふぅ、とアルマは良い笑顔で額の汗を拭った。――いやぁ、ほんと見たくなかったなアレ。


●
 気付けば暗闇の中に立っていた。何が、とコハクは1つ瞬きをする。
 ただ面白そうな依頼があったから、それだけで学園に足を運んだ。そして依頼の廃教室に足を踏み入れて――それで?
 よく思い出せなかった。何が、とまた考えるコハクの前に、不意に何か(ナニカ)が浮かぶ。

「……!」

 ソレは過去の記憶。集落の皆から迫害され、逃げ惑った哀しい記憶。そのはずの――だが、自分の記憶とは違う――否、本当に?

(そうだ……)

 思い出す。これは違う。自分の記憶だと思っていたもの、皆が自分達を愛してくれたという記憶は間違いで、本当の本当はああやって迫害されてて、それで逃げ出したら皆が雪崩で……!
 嗚呼、と戦慄く。呼吸が、動悸が速い。眩暈がする。くらり、意識が混濁する。
 そうだ、と誰かが――姉(コハク)が言った。

〈お前は偽りの記憶に逃げたんだ。過去の傷を忘れたんだ……私(俺)を殺したのもお前だろ!!!〉

 そうだ、とコハク(私)は頷く。姉さんを、私を殺したのは私。
 眩暈が、息切れが酷い。姉(コハク)の言葉がぐるぐる回り、堪え切れずうずくまる。
 そんなコハクの後ろから、”違うだろ”と声が聞こえた。

”お前は逃げてなんかいない。お前は私の為に、皆の為に助けを呼びに行ってくれたじゃないか”
〈違う!! お前は俺達を捨てた!!!〉
”騙されるな、んな下らない妄言なんか気にすんな。俺を信じろ……自慢の姉ちゃんだぞ”

 その言葉にはっとした。”俺を信じろ、自慢の姉ちゃんだぞ”――それは確かにコハクしか知らない姉の言葉だ。
 ゆえに瞬いた、コハクの意識が急速に鮮明になる。そうして先までとは違う眼差しで眼前を見据えたコハクの眼差しが、届くようで届かないすぐ傍でアクロアイトもまた、同じ言葉を聞いていた。
 否、それはアクロアイトにとってはまったく別の人物が、まったく別の響きを持って発したように聞こえていて。――はっ、と目を見開く。
 いつしか耳を塞いでいた手を、そっと離した。”俺を信じろ、自慢の姉ちゃんだぞ”、そう言ったのは俺じゃないか。
 ぐっ、と拳を握り締める。目の前の光景を、見覚えのない見知った銀髪の子と金髪の子を、瞼を閉じて意識から追い出す。
 ――ただ、面白そうな依頼だと学園に足を運んだ。そうして気付けば暗闇の中に立っていて――身に覚えのない記憶を見せられて。
 これは何なのか、と混乱した。10年より前の記憶を持たない彼女にとって、幼い自分の――恐らくは自分であろう子どもの姿は、それでなくとも困惑するのに。
 それが、金銀の色違いで2人。見せられた光景(記憶)も2つ。――そのどちらもが正しい。

(俺の頭が壊れたのか?)

 強く、強く目を瞑る。コレは無くしてしまった過去の記憶なのか? だとしたらなぜ正しい記憶が2つある?
 それを確かめる術を、アクロアイトは持たなかった。いつしか耳を塞いだのにそれでも何故か、その声は消えてくれない。

〈俺達はあいつ等から迫害されてたんだ! 誰も愛してくれなかった! 死んで当然だろ!!〉
”違うよ、皆愛してくれてた。だからこそ私達だけ逃がそうとして……”

 誰か(銀の娘)と誰か(金の娘)が誰か(アクロアイト)に叫ぶ。うるさい、2人で話しかけんじゃねぇ! と吠えてもその声は消えない。
 眩暈がする。耳鳴りのように響く2人の声が、アクロアイトの意識をかき乱す。動悸が、呼吸がどんどん速くなる。
 うるさい、うるさい、うるさい……!

〈未来永劫許すな。憎しみを胸に抱いて進み続けろ〉
”忘れないで。どんな姿でも姉さんは自慢の姉さんだから”

 その――誰か(金の娘)の言葉をすくい上げアクロアイトは、そうだ、と頷いた。それは、泣き虫だった世界で一番大事な妹に言っていた言葉。
 それを大切に抱いて瞳を開けば、眼前には誰か(銀の娘)と誰か(金の娘)。けれどももう、アクロアイト(コハク)は迷わない。
 どちらが真実(ホントウ)なのか、判りはしないし証拠もない。確かめる術などあるはずもない。
 けれども、

「これだけは言える」

 誰かの言葉が自分に重なる。

「厨二病じゃあるまいし、過去の私達の姿を使ってあれこれ語るな」

 ”俺を信じろ、自慢の姉ちゃんだぞ”、その言葉だけが大切で、それ以外はどうでも良い。そうでしょう(そうだろう)と心に問えば、そうだと誰かが頷いた。
 だから、

「「俺達の記憶は……俺達だけのものだから! 余計な茶々いれるんじゃねぇ!!!」」

 そう言ってやって、握った大剣で切り払った。片割(ニセモノ)の身体に奔った二筋の斬撃から鮮血が迸り、一瞬後に崩れ落ちる。
 ――確かにその時、互いを感じた気がした。


●
 お疲れさまー、と叩かれた肩にアクロアイトは我に返った。

「ここ、は……」
「廃教室だよー」

 呆然と辺りを見回すアクロアイトの呟きに、応えたのはアルマだ。妙にスッキリしたその顔に、他に誰か居なかったかと尋ねれば、先に帰ると出て行った冒険者が居るという。
 そうか、と頷いた。頷き、その答えを胸の内で持て余すアクロアイトの視界の端に、ごくごく丁寧に、粉微塵になった何かをさらにごりごり砕いているサイラスの姿が映る。
 アクロアイトの眼差しに、気付いたサイラスがイイ笑顔で応えた。

「コレ、筆本体(諸悪の根源)」

 インクなどは研究に使えないかと一応回収してみたものの、本体はこの世に存在してはいけないものだ。元より依頼の趣旨も筆の破壊、何も問題は無い。
 そう揺らがない笑顔のまま目だけを真剣にぎらつかせて話すサイラスの向こうでは、布団の山、じゃなくて野営用の毛布にくるまったベルクが、団子のように丸くなって羞恥に悶えている。脳裏を走馬灯のように駆け巡るのは、くノ一(黒歴史)にさんざん穿られた過去の様々あれこれな思い出。

「違うんじゃ、あれは妾じゃないのじゃ、あの時代とは決別したんじゃ、妾はもうあんなテンションしないのじゃ、仕事上で必要ないかぎりしないのじゃ」
「泣くなよ……」

 顔が真っ赤なのは羞恥かそれとも暑いのか、めそめそ泣くベルクの毛布の上から、リーヴがぽんと肩を叩く。そんな彼自身もまだ、過去から立ち直れてはいないのだが。
 ゴリゴリ筆を砕いていた、サイラスがふぅ、とようやく安堵したように息を吐いた。吐いて、「というか」と呟く。

「筆の書かれた内容を実体化するって能力的に、人の黒歴史を再現するって内容書いた人がいるよね?」
「「あ」」

 最高に殺意の込められたサイラスの言葉に、アルマとアクロアイトの驚きが重なる。が、当人(サイラス)はもうそんな事は聞いちゃいない。
 それは素晴らしい笑顔の真顔で、サイラスが歩き出す。

「よし探そう、草の根分けても探し出す」
「妾も行くぞ」
「後始末、しなくっちゃね」
「ま……待て、その、何か待て!」

 そんなサイラスのみならず、凄みのある笑顔で部屋を出て行こうとするベルクやアルマに、嫌な予感を覚えたリーヴが顔を青くする。そんなリーヴを振り返り、サイラスはにっこりした。

「大丈夫、殺してあげないから」
「むしろ殺してあげて!?」
「ダメだろ殺しちゃ」

 その笑顔に動揺し、倫理的にダメな事を口走ったリーヴに、呆れた口調でアクロアイトが突っ込みを入れる。それを他所にさっさと廃教室を出て行った3人より、なお早く廃教室を後にしたコハクは、ふぅ、と大きく息を吐いて空を見上げた。
 そうして、さて、と誰かを探して歩き出す。

 ――筆を巡る騒乱は、あともう少しだけ続くようだ。

マスターコメント

いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月です。 この度はご参加頂きまして、本当にありがとうございました。 皆さまの黒歴史なあれこれをあれこれする物語、如何でしたでしょうか。 黒歴史、と一言でいえばそれまでですが、悲喜こもごも様々に色んなエピソードがありますよね。 そんな色んなエピソードを、どう描こうかとあれこれ楽しくコネコネさせて頂きました。 コネコネ。 また機会があれば、黒歴史第二弾とかやってみたいものです。 このシナリオが皆様にとって、楽しんで頂けるものでしたら幸いです。 またのご縁がございましたら、どうぞ宜しくお願いいたします(深々と
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準5 / 4〜6人

2022年04月22日 11時49分50秒 公開

大成功

相談掲示板

投稿はありません

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0